終わったら、飲め!
国際学会の開催地
最近、よく中国から学会招待の電子メールがくるんですが・・・
実績が欲しいポスドクの皆さん、お金で業績が買えるチャンスカードです。参加費さえ払えば、「招待講演」として業績リストに掲載できます。
ただし参加費は安くないし、招待講演のくせに旅費などの支給はありません。そういうビジネスだと思うべし。
ノーベル賞クラスの他の特別講演者は全部キャンセルになったりすることは珍しくありません。会場でパワポの写真を全部取られて不快な思いをするとか、「特許はどうなっているか?」とか下らない質問ばかりされるので、我慢強い心が必要。「産業振興発表会」だと思うと多少気分も落ち着く。他の発表もどうせくだらないので、発表日以外は会場にいないほうが吉。観光のつもりで、既に学会・論文発表して陳腐化したデータを持って行くほうが良いよ。
以上を承知で、金と時間の無駄であることを理解してから行くんだったら、一度ぐらいは体験してもよい。バンケットに出れば、酒はまずいが料理だけは間違いなく美味しいし、うまくすれば日本人の知り合いができます。
(もちろん、IUPAC conferenceとかは全く別です)
それはともかくとして、招待公演をやってみたいとき
マイナー学会の演題募集が来たら、ダメ元で「招待講演にしてくれませんか?」とメールを出してみよう。結構な確率でinviteしてくれる。場合によっては旅費が出たりもする。
口頭発表
原稿棒読み絶対禁止
いかなる理由があろうと、原稿の棒読み禁止。
しゃべることを書き下すのはもちろん構わないが、壇上では絶対に読んではいけない。
これは英語での講演でも例外ではない、というか、英語こそ読んではいけない。Presentationとreadingの差は、日本語の発表と朗読の差とは比較にならないぐらい大きい。
どんなクソ英語でも、自分の言葉で話せ。"The method is shown here, the results are shown here"だけでも十分だ。
余計なことを言うな
発表の冒頭で「それでは始めさせて頂きます」、終了時に「私からは以上です」とかいうどうでもいいことは言わんでよろしい。
「私からは以上です」はなぜか某味噌大学在学中の学生が多用する。学会は報告会ではなく議論する場なのだから、自分が喋り終わったからといって勝手にやめるな。始まりと終わりを決めるのは、発表者ではなく座長だ。
パワーポイントの作り方
スライドの作り方
- 原則1枚1分
日本語の発表では原則1枚1分。国際学会で英語で話す場合は、これより2割から5割増しのスライドを用意して速いテンポで進行させたほうがアラが目立たない。発音に自信がなければ、説明をなるべくたくさん書き込んでおくのが親切(ただし、説明は現場では絶対に読まない)。
また素人や分野外の人を相手にする場合はイントロと結論の説明を詳しくして、枚数を減らす。 - タイトルページを作ろう
短時間の講演でもいきなり演題に入ることをせず、1枚目のスライドにはタイトルと発表者・所属などの書誌事項を書いたタイトルページを必ず作っておく。ここに学会名と日時・講演番号を入れておくと後で便利だし、発表の証明にもなる。 - イントロ(研究の背景)の説明は控えめに
長い講演(20分以上)をやりなれないと、研究の背景や過去の研究例の紹介をたくさん入れたくなるが、意識的に控えめにする。練習の時には「丁寧な説明をした!」って自己満足をするが、いざ学会で壇上に上がった時には早く本題に入りたくなる。 - フォントはデカく、ゴシック体かサンセリフ
日本語だったらゴシック体、英語だったらHelveticaやArialなどの「サンセリフ」体を使うこと。Times・明朝などの書体を使うと、遠くから見たり映写機器の状態によっては細くなっている横線が飛ぶことがある。ゴシックやHelveticaは、もし映写機器の互換性が悪くてビットマップ化しても最低限の視認性は確保できる。
フォントは「ちょっと大きすぎるかな」と思ったサイズよりも、更に1段階大きくせよ。22pt程度は確保したい。
スライドの下の方に書くと演台や観客の頭などで見えないことがあるから、大事な事ほど上に書く。 - アニメーションは必要最小限
やり過ぎると印象が薄れるしバカっぽくなる。本当にアニメーションが必要かよく考えること。
むしろ演台から、身振り手振りで説明したほうが好感を持たれる。 - なるべくカラフルに
バックグラウンドは、白一色は避ける。薄いブルーのグラデュエーションが背景を簡単に華やかにするコツだ。
文字そのものに色を付けると馬鹿っぽくなるが、テキストボックスにパステルカラーのグラデュエーションで色を付けると上品になる。
また各スライドのタイトルにバナーを貼り付けるとよい。
海外での発表では「派手すぎるかな?」とためらうぐらいでちょうどよいぞ。 - 生データ直貼りは避ける
機器分析の生データやDNA配列をスライドにそのまま掲載するのはなるべく避ける。そんなものは発表者の自己満足に過ぎないし、説明しきれない事がほとんどだ。またデジカメで写真を取られたりすると、後でトラブルの原因になりかねない。
重要なことをセレクトして、それだけを説明することに注力したほうが良い。 - (新規・オリジナル)化合物名の長ったらしい略称は避ける
発表者としては多少長くなっても置換基などを明示してる分だけ分かりやすい、理解して貰えると思えるかも知れないが、普通の聴衆は長ったらしい名前が出てきただけでウンザリするし、次のスライドに行ったらその名前がどんな構造だったかなんて覚えちゃいない。質問する時に手間なのも嫌だ。簡単な名前にした方が自分としても言いやすいし、質問者にとっても親切。 - 日本語で講演する場合でもスライドは英語で作って構わないが、結論だけは日本語にしておくことを勧める。わかりやすさが全く異なるし、質問で的はずれなことを聞かれる危険性がなくなる。
環境依存の問題
- パソコンを自分で持ち込む場合を除いて、スライドをmacで作った場合は必ずwindowsで試写すること。
- デジカメで撮った写真をスライドに貼り込む場合は、必ずパワーポイント以外のソフトを使って解像度を下げたりサイズを小さくしてから、ドラッグ&ドロップで貼り込むこと。写真のサイズが大きいと、最悪の場合パワーポイントが開かなくなる。
またmacで作成した場合に「範囲を指定してコピー&ペースト」で画像を貼り込むと、映写先のPC(win)にQuickTimeがインストールされていないと画像自体が表示されないことがある。
特に中国や旧共産圏で行われる学会では、映写するPCには思ったような環境がインストールされていないことがあることに十分注意すること。できればPDFでも持って行くとよい。
レーザーポインターの使い方
- 原則として、必要なときに必要な場所だけ点灯せよ。動かすのは最小限に。
文字を読み上げながらポインターでなぞったり、つけっぱなしにしてグルグル回すと、見ている人はまるで目の前をハエが飛んでいるかのようにイラッとする。更にはどこに注目していいのか分りにくい。 - なお、飛行機に乗るときはレーザーポインターを機内持ち込みしてはいけません(武器とみなされる)。
写真撮影されることに警戒せよ
- デジカメやスマホの普及で簡単にスライドを撮影することが可能になった。詳しすぎるデータを掲載して、アイディアを盗まれないように注意。
特に実験条件やスペクトルデータを、論文発表前に無防備に晒さないこと。場合によっては、口頭でだけ説明するなどの工夫が必要だ。
言葉遣い
- 専門用語
参照→この用語・言い方は使用禁止だ! - 日本語
研究室では、使わないほうが良い言葉遣い
化合物の命名法に気をつけろ
α位・β位はどこから数え始めていますか?
置換基が紙面の裏側だったらいつでも「α配置」だと思ったら大間違いですよ。
5員環と6員環のスピロ環はspiro[5,6]ではなく、spiro[4.5]だぞ(すごくよくあるミス!)。
その物質は「塩化」ですか「クロロ」ですか?「オキサ」ですか「オキソ」ですか?
初歩的なミスは発表者以上に、ボスが恥をかきます。
ポスター発表
ポスターの作り方
- 誰がなんと言おうと、目立ってナンボの世界だ。少しやり過ぎかと思うくらいに装飾を施す。特に国際学会では「ワルノリ」しすぎるぐらいで丁度よい。
- 光沢紙にポスタープリンターで出力するのが原則。もし身近にない場合は業者に依頼する。
それもできない場合は、A4を切り貼りするよりA3ぐらいの用紙2枚ぐらいに拡大コピーでまとめたほうがインパクトがあってよろしい。 - 簡単に豪華に見せるには、背景全面に淡いグラデーションをかけるとよい。この時に作図の関係で白く抜けちゃうところを、薄い色になるようにするのがコツだ。
またホームページ作成用の素材の壁紙が簡単で便利。「和紙模様」や「砂地」などの淡い色の素材を貼り付けると、リッチな感じが簡単に演出できる。世の中には2chの背景に使われているブロック模様をポスターの背面に使った猛者もいる。 - 国内の学会ではポスターは縦長、海外では横長が多い。作成要領をよく確認すること。
学会で飛行機に乗る時には
- ポスターを持って飛行機に乗る場合、機内持込みはできない。専用のポスターケースで運搬してもいいが、帰路が虚しい。
紙製の筒に入れて持って行き、帰りはポスターごと捨ててくるといいぞ。紙製の筒を買うのが面倒な場合は、ポスター巻紙の心棒や空箱を使うと便利。
なお、ポスターのような大型手荷物は飛行機で預けるとカルーセル(ターンテーブル)に出てこないことがある。サーフボードなどの大型荷物の窓口で返してくれることがあるので、十分注意せよ。それに気づかずに乗り継ぎ失敗すると目も当てらんない。 - ポスターの外装には宿泊先のホテル名と名前、"paper poster inside"と書いておく。また念のため、A4の用紙に分割して印刷したものを機内持ち込みで運んでおくこと(PDFを分割して印刷するアプリはいろいろあります)。
- このような諸問題を解決する策としては、布製のポスターを作るという手段がある。布のポスターは、折りたたんで機内持込することができる。もしポスター印刷を外注する場合は、光沢紙ではなく布製一択。
- 航空会社がLCCの場合、預け手荷物にポスターケース(紙筒)をガムテープで縛り付けておけ。そうすれば一個の荷物としてカウントされ、料金を節約できる。
- パソコンは手荷物として機内に持ち込まなければならないことは常識だが、出発前にパソコン全体をアルコール(プラスチックを侵さないイソプロパノール推奨)を染み込ませたキムワイプ(固く絞ること!)でよく拭いておく。特にキーボード。
持ち込み荷物検査でパソコンの表面に付着した麻薬・ドラッグを検査されることがあるのだが、化学物質を扱うケミストの場合、指から芳香族性化学物質がパソコンに付着してあらぬ疑いを受ける危険性を回避するため。 - レーザーポインターは機内持ち込み禁止。電池を抜いて、必ず預け荷物に入れること。なおレーザーポインターは電池の消費が早く、特に海外では電池の調達に困ることがあるので、予備を持っていくこと。