海の闇 月の影

Last-modified: 2013-02-05 (火) 22:08:58

海の闇 月の影/篠原 千絵

142 :海の闇、月の影 1 :04/05/25 23:19 ID:???
 双子の姉妹の流水と流風。同じ体と心をもち、同じ人に恋をした。
二人の想い人である県下随一のスプリンター・当麻克之は流風を選ぶが、流水は「月曜になったら好きって言いなよ」と流風を応援してくれた。
 日曜日。流水と流風を含む女子陸上部はハイキングに出かけた。克之に恋する朝子は、流風と克之の事を知り休んだ。
部員達は雨にあい、古墳の横穴に避難した。そこで岩が崩れた途端、妙な匂いにより気分が悪くなった彼女達は、そこから出て海辺まで歩くが、皆気を失ってしまった。空には満月。
目覚めると流風は病院にいた。ハイキングから三日経っており、双子以外の女子部員達は全員死んだという。

朝子は克之の事でまだ嫉妬しており、学校に戻った流風に嫌がらせをする。しかし、「違うわ、あたしは流水よ」と流水は朝子を強い力で押さえつけ、指で朝子の額を貫き殺害した。
朝子の死体を発見した流風は、逃げるように去っていった流水を犯人ではないかと疑うが、警察によると、朝子は外傷もないのに血を流し、脳を潰され死んでいたとのこと。そんな殺し方は流水に出来る筈がない…。

やがて年が明けた。
流水は「あたしだって当麻先輩がずっと好きだった。あんたにだって譲らない」と言い出した。元から「自分だけが」という負い目もあり、流風は克之を避けるようになるが、克之はそれでも流風が好きだと言う。
家に帰り陸上部の記録ノートを見ていた流風は、流水のタイムに以前に比べてばらつきがある事に気づく。
先月中旬がピーク、月末が最悪、最近また元に戻ってきている。
窓の外には満月。朝子が死んだ日、つまり先月中旬も満月だった。古墳に入った日もまた…。満月の時に事件が起きている!?
「ただいま」声に振り向くと、床から生え出るように流水が現れた。流風の悲鳴に家族がやって来るが、流水はいつもと変わらない態度をとる。「さっきの事言ったって誰も信じないわよ」流風の耳元では囁いた。
 流水の変化はあの古墳に関係するのでは?流風は事件の新聞を調べるが役に立たない。そこへ現れた克之は「あの事件は日本版ツタンカーメンの呪いみたいだ」と言う。確かにあの事件と状況が似ている。調べれば何か分かるかもしれない。
 流風は流水に呼び出され、指定された場所で待っていると、流水が天井を通り抜けて現れ、宙に浮かびながら言った。「あたしは当麻先輩が好きなの。あんたには死んでもらう」
流水は流風を非常階段まで追い詰め突き落とした。



143 :海の闇、月の影 2 :04/05/25 23:26 ID:???
5階から落ちた流風だが大した傷を負わず、一応入院した。
その夜中、流水は壁を通り抜け病院に侵入、放火し、逃げられないよう流風を押さえつける。「同じ物が二つあるから紛らわしいのよ。一つになったら当麻先輩の気持ちは変わるかしら?」火が目前に迫り、流水は壁を通り抜け逃げた。流風は窓から逃げようとするが、ここは三階。
そこへ火事を聞いて駆けつけた克之が来る。「飛び降りろ!受け止めてやる!」
しかし飛び降りた流風の体は宙に浮かんだ。「流水と…同じ?これで昨日も助かったの?」
翌日、家へやって来た克之に、流風は流水の異変の事を話す。夜、克之は流風に電話をするが、何時の間にか入ってきた流水に妨害される。
克之は直接話そうと流風を学校に呼び出すが、流水は流風を殺そうとする。「君は病気なんだ流水!」克之は叫んだ。
 ツタンカーメンの呪いについて書かれたある本には、発掘に関わった者が死んだのは、古墳に眠る古代のウイルスのためではないかとあった。古代には現代では考えられないような、不思議な力を持たせるウイルスがあり、そのために部員たちは死に、双子はそのウイルスに適応できたために生き残れたのではないかと言う。
「そんなのどうでもいいわよ!あたしは克之さんが欲しいだけ!」流水は走り去って行った。


 翌日流風は、流水が男子陸上部の石倉主将に、唇が切れるほどの激しいキスをしている所を目撃する。克之が好きだからこそ自分を殺そうとした流水が他の男と?流風は混乱する。
 自分の陸上のタイムも、流水と同じくばらつきがある事に流風は気づく。もしかして、月の満ち欠けに能力が影響されているのだろうか?
 新月期。力がほとんど無い流水は、流風を人気のない場所へ連れて行く。そこには石倉がいた。「あんたを殺したいけど殺せないから、彼に頼んだのよ」
石倉はわずかながら宙に浮いた。「唇を切ったらね、見事に感染したのよ。面白いのよ。彼、あたしの言う通りに動くの。石倉さん、流風を好きにして。そして、殺して」
石倉は流風を犯そうとする。克之が助けに来るが、正気を失った石倉は尚も流風を襲う。
助けを求めに走ろうとした流風に、流水は竹をしならせ、その勢いで殺そうとするが、克之にかばわれたために流風は助かり、喉に竹が突き刺さった石倉は死んだ。



144 :海の闇、月の影 3 :04/05/25 23:28 ID:???
 流水は姉の流依子にキスをして感染させる。それを知らない流風は、警察の事情聴取から帰り、これ以上流水に人を殺させてはいけないと、流依子にウイルスの事を話す。
しかし、すでに流水に命令されていた流依子は流風を殺そうとする。流依子ばかりか両親までもが既に感染していたのだ。家族に殺されそうになった流風を克之が助ける。
流風はウイルスについて一度調べてもらおうと病院へ。しかし医師も既に流水に感染しており、流風を殺そうとする。
再度克之に助けられた流風は泣いた。克之は自分の唇に傷をつけ流風にキスをした。「もし感染しても俺は君の自由に動くわけだ。敵にはならない。それに流水のように君のも感染するとは限らない」
そこへ現れた流水を追いかけ二人は学校に着く。もうとっくに学校は終わっているのに何故?
大会が近いために残っていた陸上部員達に、流水は次々と感染させ、流風を襲うよう命令する。今年陸上部に入ったばかりの真理子も流水にキスをされた。
真理子の脈が止まる。急激に体温が下がり、流水のウイルスで体が変化したのだろうか、
皮膚が深い海のようなマリンブルーに変わっていった。やがて色が戻り脈も戻った。
二人を見つけた流水は、部員たちに克之を押さえつけさせ、キスをする。克之が正気でいるうちにと、流風は克之を連れ校内へ逃げる。中で教師に会い事情を説明するが、現れた陸上部員が教師の首を捻じ曲げ殺してしまう。
克之も陸上部員のように無感動に人を殺すようになってしまうのだろうか…。しかし克之の脈は止まらなかった。校外へ逃げながら克之は仮説を立てる。
「この前の君とのキスのおかげで助かったんだ。流水はウイルスを広げる力が、君はウイルスに対する抗体があるのかもしれない」
克之は流風を自宅へ連れて行った。事情を説明するが、克之の両親は当然信じる事ができない。流風は彼らの目の前で宙に浮いてみせる。
「可哀相に心細かったでしょう」克之の母は流風を抱きしめる。作家をしている克之の父は、変な知り合いも多いから自分も調べてみようと、協力的な態度をとってくれた。
 匿ってくれている代わりにと、流風は克之と共にお使いに行く。その間に当麻家へ現れた流水は、克之の母の胸を右手で貫き殺した。「克之さん。家族を失った時、貴方はどんな顔をするかしら」流水は笑った。



148 :海の闇、月の影 キャラ紹介 :04/05/25 23:50 ID:???
小早川流風(こばやかわ・るか)
双子の妹。穏やかな性格をしている。
満月時には宙に浮いたり物体を通り抜けたりできる。
唾液や血液に流水のウイルスへの抗体を持っている。


小早川流水(こばやかわ・るみ)
双子の姉。元々は流風と同じような性格だったが、ウイルスにより嫉妬・憎しみなどの負の感情が前面に出て、人殺しさえ平気でやるようになった。
血液や唾液に含まれるウイスルを使い、他人を意のままに操る事ができる。


当麻克之(とうま・かつゆき)
双子より一つ年上。情熱的で少し強引。



152 :海の闇、月の影 4 :04/05/26 15:21 ID:???
 流水は克之の父も殺し、怯えて逃げる克之の弟・隆をも狙う。
流風達が帰って来たために隆は無事だったが、恐怖で錯乱しており、流水と瓜二つの流風を「化け物!人殺し!」と泣きながら罵った。
 克之の両親の葬式の日、流風は居たたまれなくなり、その場を離れる。
「貴方はルミ?ルカ?当麻夫妻を殺したのはどちらですか?」
克之の両親の葬式に来ていた金髪の白人男性が流風に話しかけた。彼はジーン・アルバート・ジョンソンと名乗る。国籍はイギリス。ジーンは流風を車に乗せ、海へと向かい走る。海へ落ちる寸前にジーンは車から素早く降り、流風は車ごと海へ。
水圧でドアが開かないため、流水がしたように車体をすり抜けて、流風は地上へ出た。
「古代のウイルスが貴方にどういう力を与えたのか知りたかったのです。私は貴方の敵では有りません」
そうジーンに言われ、流風は流水を呼び出す。古墳に入った者が死ぬのはウイルスのせいではないか…
その説を書いた本の著者は自分だとジーンは言う。自分は副産物として本も書いているが、電子工学・考古学・医学に精通しており、双子の役に立てるかも知れないと言う。ジーンは克之の父に相談され双子の能力を知ったのだ。
彼は双子を自分の部屋へ連れて行き、ウイルスを調べるために血を取った。二人はそのままジーンの家に泊まる。
夜中、幅広い知識をもつジーンを自分の物にしようと、流水はジーンの部屋に忍び込むが彼ははいない。
ジーンはその頃流風の部屋に忍び込んでおり、流水にいつ感染させられるか分からないと、抗体を得る為に流風にキスをした。
翌日、ジーンはウイルスを研究して、流水に操られている者の治療薬を開発すると約束した。家族が元に戻るかもしれないと流風は笑む。克之が迎えに来た後、流水はジーンにこの能力をどこまで広げられるか試したいと言い、ジーンは協力しようかと笑んだ。
流水はある病院を乗っ取り、自分の血液を薬に混ぜ患者に投与した。この病院を名実共に手に入れるには権利書と実印が必要。それを持つ院長は縛られていた。
「まだあんたを信用したわけじゃないわ。あんたのお手並みを見せて」
流水がそう言うと、ジーンは銃を院長に突きつけ、権利書の入った金庫の番号を聞き出し、聞き終わると院長の頭を撃ち抜いた。「いいわ。一応認めてあげる」



153 :海の闇、月の影 5 :04/05/26 15:25 ID:???
 政財界の子弟ばかりが集まる城惺(ジョウセイ)学園に流水が転校した。ジーンの家は既に引き払われている。
嫌なものを感じた流風は城惺へ侵入。理事長は流水により感染させられており、マリンブルーの肌をして倒れていた。
人の気配に振り向くと、以前流水に感染させられた陸上部員達がいた。彼らも全員流水により転校させられたのだ。
全員を転校させるのに一体どれだけの人を感染させたのかと流風は泣く。知らぬ間に感染者が増えていく。取り返しのつかない事になってしまう。
克之は陸上部を通して知り合った城惺の生徒・岡部に、流水が転校してきた時に金髪の男がエスコートしていたと聞く。流水とジーンが手を組んでいる!?
克之のもとへ流風から電話がかかってくるが、突然切れてしまう。一体何が…
気付くと流風は、流水の支配下の病院にいた。ジーンに眠らされていたのだ。
「城惺で明日ね、予防注射をするの。もちろんこの病院から、あたしのウイルス入りのがね。城惺には大手菓子メーカーのお嬢様がいるわ。その会社の食品にウイルスを混ぜたらどうなるかしら?市会議員や市長の息子もいるわ。その親達を感染させたら行政はどうなるかしら?あんたを生かすのはその為よ。あたしにそっくりなあんたは何かの役に立つかもしれないから」
流水はそう言って笑った。流水を止めてとジーンに懇願するが、ジーンは笑顔で断わると、体の自由を奪う薬を流風に投与し、キスをした後去って行く。満月なのに薬のせいで指が震えて壁を通り抜けられない。看護婦が入り、ドアを空けた隙に廊下へ逃げる。
やがて薬が切れ、流風は交番へ逃げて克之を呼ぶ。そこへジーンと数名の医者が現れ、「その子は精神病だ、病院から脱走したのだ」と言う。流水や両親まで来てしまい、警官は流風を引き渡そうとする。ウイルスの事を話しても信じてもらえない。しかしそこへ現れた克之がバイクで流風を連れ去った。
流水が城惺を狙っている事を知った克之と共に、流風はジーン達の行動を阻止すべく動き始めた。
双子は工事現場で戦い、大怪我を負う。ジーンは手術をすると双子を連れて行く。克之は止めようとするが、その間にも、感染者が薬を生徒に打とうと学園へ向かっている。やむなく一時的に流風を預けた。


双子は元は一つの卵だった。それが何故二つに分かれたのか。
二人がもし一人の人間として生まれていたら、誰も悲しまずに済んだのに―――



158 名前:海の闇、月の影 6[sage] 投稿日:04/05/27 01:09 ID:???
薬は校内へ運ばれてしまう。克之は自分の服に流風の血がついている事に気付き、生徒に抗体を与える為貯水タンクに服を放り込む。多くの人が水を飲む事を祈って。
肌がマリンブルーに変化して倒れる生徒たちの中、何人かの生徒は水を飲んだため正気だった。
感染した教師は、克之も含めた正気の者達を体育館に閉じ込める。何故かジーンの命令で。感染者を操れるのは流水だけのはずなのに。直後、体育館はジーンにより爆破された。
 双子が目覚めると窓の外には海があった。監禁する気かと流水は怒り、ジーンを窓から突き落とすが、彼は宙にふわりと浮いた。何故ジーンに力が?しかも今は新月だ。
流水は感染者を使えば逃げられると考えたが、感染者への命令はジーンの方が強力だった。
「私と貴方達が手を組めば、世界中が手に入る。私が欲しいのはこの青い惑星一つです」
ジーンは双子にそう語る。流水は利害が一致するのなら手を組んでもいいと言う。
夜中、力が無いため逃げられない流風は、外への扉を探して広い家を歩き回っている最中、地下へと続く階段を見つける。それは洞窟に繋がっており、妙な匂いがした。
全ての始まりの日、ハイキングの時に入った古墳と同じ匂い。流水も後から入ってきた。
中にはジーンがおり、ここは古墳と繋がった穴なのだと説明した。流風から抗体を手に入れ、死ぬ可能性をなくした後にここに入り力を得たのだ。ジーンは日本の古墳に関する薀蓄を語る。
日本に来てまだ日が浅く、日本の古代史はかじった程度だと言うにしては知識がある。同じ感染方法なのに双子より強い力、幅広い知識……この人は一体何者なんだ。
窓から逃げようとして落ちかけた流風を助けたジーンは、克之のもとへ戻りたがる流風に言う。
「トーマは亡くなりましたよ。五日前城惺が爆発して、その中に彼はいました」
52人死亡と書かれた新聞と、克之の履いていた焼けこげた靴を渡す。
他校生がいると面倒だと、新聞から克之の存在は消されていた。
爆発で死体はばらばらになり、どれが克之の体かも分からないとジーンは言う。悲しみのあまり流風は倒れる。 流水は怒りを露にし、「あたしが克之さんを愛している事知ってたでしょ?いつ寝首か気をつけなさい」
未だに信じられずにいる流風を、ジーンは城惺の燃え尽きた体育館へ連れて行く。



159 名前:海の闇、月の影 7[sage] 投稿日:04/05/27 01:15 ID:???
体育館に閉じ込められた時、克之、知り合いの岡部、内海は、改築した時に出来た隙間から逃げ延び、パニックになっている他の生徒は逃げ遅れた。
克之は夜中に隆のもとへ戻り、流風を取り戻すと誓う。
隆たちはジーンの事を調べ、克之は父のコレクションの短剣を持ち城惺へ。
克之は理事長室に侵入し、近づいてきた足音を聞き棚に隠れる。足音の主は流風。燃えた体育館を見て、改めて克之の死を実感して傷つき、一人になろうと来たのだ。
外からの物音で「どうしたの」と言いながら流風は走っていく。その声に、流風の無事を確認した克之はホッとする。
物音は、流水が人を突き落とす音だった。ジーンに命令され体育館を爆破し、克之を殺した憎い男だと流水は言う。
自分を口説いてくるジーンから流風は逃げ、その後近寄ってきた克之は、流水の後姿を流風と思って抱きしめたが、わずかな違いから流水だと気づき、ジーンにも見つかり逃亡する。流風が戻って来た時には克之はおらず、流風はジーンと流水の微妙な態度に違和感を感じる。
その晩、「克之さんが生きているなら協力するのもいい」と、全裸の流水はジーンを誘った。ベッドインしている2人を目撃した流風は、性格は変わっても克之を愛するという気持ちだけは変わっていなかったのに何故だ、と動揺する。


克之が調べてみると、ジーンに関する資料は山のようにあった。12歳でケンブリッジ大学に入学、15歳で最初の博士号を取得、以来九つの博士号を持ち、工学関係の特許を10以上持つ。
凄い経歴を持つジーンは、12歳の時からほぼ毎年写真付きの詳細な記事が雑誌に載っている。だが、それ以前の写真はどこにも載っていない。出身地や家族についても。意図的に隠しているようだ。
ジーンはイギリス女王によりサーの称号を与えられている。貴族年鑑なら家系図も載っているだろう。克之は英国大使館へ行く。


克之が大使館に行っている間、内海は病院を見張り、隆と岡部は城惺を見張る。
理事長を尾けていくと、そこには別荘が。隆は別荘の存在を知らせるため一旦帰り、岡部は流風に克之が生きている事を知らせようとするが、ジーンに殺害される。
「そうやって克之も殺したのね……」力の戻っている流風はジーンを殺そうとするが、軽く受け止められる。
一方克之は、大使館で双子が四組も写った写真を発見する。



160 名前:海の闇、月の影 8[sage] 投稿日:04/05/27 01:18 ID:???
ジーンは双子に語り始めた。
ジーンの本名はジーン・ヨハンセン。生まれ国はフィンランドの東の外れ、ソ連との国境地帯。そこはカレリアと呼ばれ、今はソ連に割譲され、行政上の空白地帯という。
カレリアは一卵性双生児の出生率が80%以上あり、ジーンの父も母も従兄弟も妹も双子。
突然変異でまた一つに戻ったが、ジーン自身も胎児の頃は双子だった。そのため内在する力は二人分ある。知識も、ウイルスにより得た力も。それが4歳の時連れて行かれたモスクワの研究所での結論だった。
当時からジーンのIQは270あった。その後12歳の時にイギリスに亡命した。
「ルカ、愛しています……大切にしますから」ジーンは跪きキスを求めるが流風は拒む。
「貴方は以前、流水と一人の人間として生まれたかったと言ってましたよね。私は二人で生まれたかったですよ。ちゃんと双子として…」


 父と叔父で一組、母と叔母で一組、妹達で一組、従兄弟達で一組、ジーンの家族に双子が四組も居る事に何か秘密があるんじゃないだろうか?
克之は隆に教えられ流風のいる別荘へ。流風は克之が生きていた事を知り喜ぶが、ジーンは双子を連れ船に乗りどこかへ逃げていった。別荘には岡部の死体が放置されていた。
目覚めると、流風は自分の家にいた。両親と流依子は既に起きている。どういう事?夢?
「どう満足?あんたこーゆーの望んでたんでしょ?」流水は、ジーンが設定したのだという。
流風は訳が分からず克之の家へ行こうとするが、電車もバスも流風を乗せない。電話も克之の自宅には通じない。「町中の人がウイルスに感染してるのよ」流水は笑う。
この町は私鉄の終点。私鉄と系列会社のバスさえ押さえれば隔離されたも同然の場所なのだ。
内海から伝言が入り、流風は指定された場所に向かうが、感染した人々が次々と妨害する。
克之は流風を救うために、短剣で二人殺してしまう。「流風のために…」嫉妬した流水は感染した警官から銃を奪い、流風に向かい発砲する。
まだ感染していない隣町の管轄の建物に克之は放火し、隣町の消防士を呼ぶ。サングラスをかけたジーンが現れ消防士たちを殺す。
動けない流風を抱えて去ろうとするジーンは、怪我で朦朧としていた流風によってサングラスをはたき落とされ、普段はアイスブルーのはずの瞳が白濁しているのを克之に目撃される。
ジーンは逃走、他の消防士に克之共々救出され、流風は手術を受ける。



161 名前:海の闇、月の影 9[sage] 投稿日:04/05/27 01:20 ID:???
流風の銃痕に気づいた医者と刑事に克之はウイルスの事を言うが信じてもらえない。
「少しでも僕を信用してくれるなら舐めてください」克之は流風の血のついた服を医者に渡す。
医者は馬鹿らしいと思いながらも克之が真剣なので舐めた。
刑事は流水により感染させられ、流風を連れ出そうとする。刑事は医者に流水のウイルスを注射するが、抗体を舐めたので効かない。医者は流風をかばい刑事の銃に倒れる。
用意周到なジーンが、周りに人がいるにも関わらず銃を使わせた。ジーンは切羽詰っている。あの白濁した目が関係するのだろうか?
怪我であまり動けない流風のため、二人はやむなくラブホテルに泊まる。テレビを見ると、流風と克之が病原菌を持った患者で、病院側の捜索に協力するよう報道されていた。こんな大掛かりな事までして、ジーンは流風を捕まえる気だ。消防士や医者が殺された事は隠蔽されていた。


まとめも兼ねてキャラ紹介

ジーン・アルバート・ジョンソン(ジーン・ヨハンセン)
カレリア出身。12でイギリスに亡命。
流風から抗体を得て、後に双子と同じ古墳で感染。
力は月齢に比例しない。自分には抗体も感染作用もないが、
感染者を操る力は流水以上。



170 名前:海の闇、月の影 10[sage] 投稿日:04/05/27 18:34 ID:???
克之は変装してホテルを出るが感染者に捕まる。
流風は後を追って流水の支配下の病院に着く。意識を失った克之を流水が抱きかかえている。流水なら克之に危害を加えないだろうと、白濁した目の事を調べにジーンの元へ。
ジーンは暗い部屋の中サングラスをかけて座っていた。流水のふりをする流風を、ジーンはベッドに連れて行く。
キスの反応で流風と気づいたジーンは薬を出す。「感染者を治す、治療薬です」以前流風とした約束をジーンは守っていた。
ジーンは流風の血を薬に混ぜ、真理子を呼ぶ。薬を打たれた真理子は、感染した時のように肌をマリンブルーに変えた後、正気に戻った。
安静が必要だからと真理子はすぐに連れて行かれるが、流風はこれで家族を元に戻せるとホッとする。
「サンプルとして三人分つくりました。あと二本あります。欲しいのなら、もう一度私のベッドに戻りなさい」
流風は泣きながらそれに従うが、ジーンは怪我の手当てだけを行う。「心がついてこないなら自分のものにしても意味がない」
だが、流水との関係はとても愛し合った末の仲とは思えない。
「私の中の悪の部分が彼女に惹かれ、彼女とのあの関係を楽しんでいる。そして多分、私の善の部分は貴方を欲している。わがままだと思いますか?そうでしょう、私もそう思います。でも、私は貴方達二人にカレリアを見せたい」
カレリアは今共産国の向こう側。そこを亡命したジーンは二度と帰れない。でも世界中が手に入れば…流風の言葉にジーンは冷たい目をした。
流水から逃げてきた克之が来る。感染者は克之を殺そうとし、流風はそれを止める。
ジーンは薬の入ったアンプルを手から離す。アンプルは床に落ちたら割れてしまう。
だがそれを受け止めればその間に銃が克之を…。床から流水の手が伸び、アンプルを掴む。治療薬なんて余計な物を作るなと流水は怒るが、
「ルカの血を混ぜると治療薬になりますが、ルミの血を混ぜた場合、抗体を持つ者にもウイルスを感染させる事ができます」
ジーンの言葉に、流水は克之で試そうとする。
流風は滅茶苦茶に暴れ、克之の拘束を解き二人で逃げる。克之がジーン達を引き付けている間に、流風は残り一個のアンプルと処方箋を取りに行く。そこへジーンがやって来る。ジーンは疲れた様子で、目が白濁している。



171 名前:海の闇、月の影 11[sage] 投稿日:04/05/27 18:37 ID:???
流風はジーンの目の前に現れ浮いて見せるが、ジーンの反応はない。目が見えていないのだ。
流風の気配に気づき、ジーンは流風の首をしめる。
「私の望みの妨げになるのなら、例え貴方でも殺す」
しかし、ジーンは首にかけた手を解いた。


内在する力は二人分でも体は一つ。そのためか、力を使いすぎると体が力を受容できないのか、体の弱い部分…目にに一時的に障害が出ると、ジーンは語った。
殺すべきだった、目の事は話すべきではなかった。行かせてはいけない。
そう思いながらもジーンは流風を逃がしてしまう。流風を殺す事はジーンに出来なかった。
当麻家は感染者に見張られているため、流風・克之・内海・隆は内海家の別荘へ。
そこへ流水は現れ、克之の代わりに、流風の抗体を得ている隆に薬を注射する。隆の肌がマリンブルーに変わっていく。「なるほど、ジーンの言う事は本当だったのね」
こんな事をして満足なのか、ジーンは二人の血を利用しているだけだと訴える流風に、流水は言う。
「流風、手を組まない?ジーンを殺すのよ。薬があればあの男に用はないわ。あんただってジーンは邪魔でしょ?あたし達が協力すれば必ずあの男を殺せるわ」
今まで流水は何人も殺し、今も隆を感染させた。だが、今一番重要なのは薬だ。アンプルを手に入れて成分を分析すれば治療薬が大量生産できる。そうすれば皆元に戻る。
二人は手を組む。ただし、ジーンが死ぬまでだ。次の満月期が決戦の時。


流水はごみ処理場へ流風を連れて行く。高温の熱でゴミを焼却しているのだという。
この処理場へ、ワゴンが毎日ジーンのところから往復している。流風は流水のふりをして近づく。ワゴンからは押さえつけられた真理子が出てきた。
「何万人かの確率で、感染してもジョンソン博士の命令に従わない者が出ます。また、流風の抗体を持つ者もいます。そういった者が毎日何人かずつここへ送られてきます」
男は真理子を引っ張る。「何をするの!」「安心してください。高熱処理で骨も残りませんから」
真理子は焼却所の扉の向こうへ押し込められていった。燃え盛る炎の音と悲鳴が聞こえた。
泣く流風に、これで本気で協力する気になっただろうと流水は笑いながら言った。



172 名前:海の闇、月の影 12[sage] 投稿日:04/05/27 19:16 ID:???
ジーンが六万トン級の豪華客船を買った。薬を大量に作るための研究所兼工場にするらしい。双子の住む県で望み通りの結果が得られたため、外国でもウイルスをばらまく気だ。
満月。様子を見るための短い航海らしいが、研究設備を見るために船に乗ろうとしたジーンの前に、双子は立った。「いいでしょう、双子たち。お望みなら相手になりますよ」
船の上で、ジーンの命令を受けた感染者達と戦う。双子であるためか、息があう。「ちょっといい気分だった」と語った流水に、元に戻れるかもしれないと思う流風。
ジーンは一緒に行かないかと最後に聞くが、双子は嫌だと答える。空中でジーンは流水の胸を手で貫き、流水は海へ落ちていった。
「許さない!貴方が流水を殺した!」ジーンは何かを言おうとするが流風は聞かずに攻撃する。
「流風!薬か処方箋を探すのが先だ!」流風は克之の胸で泣いた。人殺しでも流水は自分の姉なのだ。
 目が霞むので撤退していたジーンは、ソファに座って自分の双子の妹達を思い出す。
天才的な頭脳を持つため家族と引き離されていた12歳の頃のジーン。
「こっきょうを超えたら、お兄ちゃまとくらせるのね」
両親と、妹のアイノとエーダと共にジーンは国境まで行くが、そこで家族たちは国境警備兵に撃ち殺された。父は、自分達にかまわず国境を越えろと言い残し死んだ。
ジーンは処方箋を五つに破り、意味深な表情を浮かべた。
どこかから爆発音が聞こえる。克之が船中を爆破させているのだ。
流風が壁をすり抜け現れる。霞んだ目に流風が妹のアイノに見え、油断した隙に腹を流風の腕が貫く。流風は腕を突き刺したまま、ジーンの腹から流れ落ちる血に違和感を感じる。
空中で胸を貫かれた流水。あの時流水からは血が出ていなかった。
「気がつきましたか。私はルミを殺していない。あの時私はルミを殺すつもりでした。しかし、一瞬躊躇しました。そこへ流水が自分から飛び込んできた。私たちは物体を通り抜けられるでしょう。つまり…その逆も可能なのです。何故ルミがあんな事をしたかが不思議でしたが、貴方の攻撃を受けてわかりました。なるほど…流石双子だ。あなたの性格を把握している……」
「だから あんたは甘いというのよ」床から流水が現れアンプルを手に取った。



189 名前:海の闇、月の影 13[sage] 投稿日:04/05/28 15:01 ID:???
血を吐きながらも、まだ歩けるジーンは壁をすり抜ける。
流水が見てみると、アンプルの中は空だった。スピーカーからジーンの声が聞こえる。
「アンプルの中身は海に捨てました。どうしても薬が欲しいのなら処方箋を探しなさい。フロア6の屋内プールにケースに入れて置きました。起爆装置をセットしました。船は30分で沈みます」
流風はケースを手に入れ克之と共に緊急用のボートに乗る。流水もそれに飛び乗る。背後で船が爆発する。感染者と、既に命を無くしたジーンは海へ沈んでいく。
赤く染まったあの日の雪原。白いカレリア。帰りたかったわけじゃない。
ただ、ルミ ルカ。あなたたちに見せたかっただけだ――――


ジーンを殺した事に罪悪感を感じつつ、流風と流水は空中でケースの取り合いをする。
争いでケースが開き、中から白い伝書鳩が飛び出した。ケースの中のテープが再生される。
「双子たちへ最後のメッセージです。5羽の鳩の足には1/5ずつ処方箋がつけられています。5枚そろえば処方箋は完成します。…愛していましたよ二人とも」鳩は既に飛び去っていた。


鳩の行く先を知りに、流風達はジーンがプライベートで使っていたマンションへ行く。
そこには流水によって荒らされた跡がある。克之は部屋にあったワープロを調べる。
流水はワープロを使えないので探った後はない。中には鳩の行き先が書かれており、白い伝書鳩は7匹いる。ここから3時間ほど行った所にあるY高原のペンション「スオミ」へ向かう。
そこには鳩舎があり、中に白い伝書鳩が1匹いた。処方箋の入った通信筒は外されている。
ペンションにはオーナーとその妻、子供、客の大学生たちがいた。流風と克之はペンションに泊まる。
オーナーの娘の真琴は兎の人形にコットンテールと名づけ可愛がっていた。
「ペンションが始まる前まではね、パパはフィンランド行ってたの。ペンションの名前のスオミって、フィンランドって意味なんだって」フィンランド…ジーンと何か関係が?
翌日二人は処方箋を探し中、何者かが床をすり抜けるのを目撃。感染者?いや、感染者に物体をすり抜ける能力はない。
地下には物置がある。何かあるのかもしれない。地下室に入ると、コンクリートの天井に、泊まっていた大学生の一人が埋め込まれていた。手足と顔だけがはみ出ている。
コンクリートは、最近塗ったばかりのものではないように見える。一体何故だ?



190 名前:海の闇、月の影 14[sage] 投稿日:04/05/28 15:09 ID:???
 残った大学生は犯人探しに躍起になる。オーナーがその場にはいない。
もしかしてオーナーが殺した?次々と大学生たちは奇怪な死に方をする。
流風はオーナーが石に塗り込められるように死んでいるのを発見する。着ている厚手のシャツがぐっしょり濡れている。昨日から放置されているようだ。感染者はオーナーじゃない?
犯人はオーナーじゃないと知らせようとペンションに戻るが人がいない。外に行ったのかと扉を開けると、残りの大学生たちが木に塗りこめられたような姿で死んでいた。
木の陰からオーナーの妻が現れた。お前がやったのかと克之が叫ぶと、「違う…わたしじゃない!恐ろしいわ…あの子…どうして…」
その場にいない者がもう一人いる。真琴だ。宙に浮きながら真琴が現われる。
「おねーちゃんたち、これが欲しくて来たんでしょ」
コットンテールの中から処方箋を取り出して言う。
「面白かったよお。皆たすけてって泣くの。おかしいね、大人なのに。逃げようとしたけど、ほら、マコの方が強かったの」真琴は処方箋をしまい、逃げていく。


怯えながら真琴の母は言う。半月ほど前に金髪の長い髪の客が来て、その頃から真琴の様子が変わり始めたと。
流風は真琴を追う。何故人を殺したのかと訊く流風に、真琴は言う。
「だってつまんなかったんだもん。ママはいそがしいって遊んでくれないし」
幼いために人を殺す事への罪悪感がないのだ。
「おねえちゃんきらい。パパみたいに怒ってばっか」
真琴は岩に埋め込まれたようなオーナーの死体を引っ張る。すると流風が引っ張った時は抜けなかったオーナーの死体がするりと抜ける。真琴はオーナーの死体を投げて、その隙に逃げていった。


夜、感染者に乗っ取られた町の様子を見ていた内海が流水に捕らえられ、流風の居場所が流水にばれる。ジーンの研究室にあった情報を流水は言う。
ジーンは双子のウイルスを変化させた。ウイルスはちょっとした条件の違いで性質が変わる。
資料によると、ジーンは5種類のウイルスを作り出し5人に投与していた。どんな能力かは書かれていなかった。処方箋を持つ5人は未知の能力を持っているのだ。



191 名前:海の闇、月の影 15[sage] 投稿日:04/05/28 15:15 ID:???
本質は子供である真琴は、お腹がすいたと泣きながら帰ってきた。
「近づかないで人殺し!」母は真琴を恐れて地下の物置へ逃げ鍵をかける。真琴と双子も追う。
「マコが嫌いなんだ…」真琴により母は壁に頭を塗りこめられ死んだ。真琴は泣きながら逃げていく。追おうとする流風を流水は止める。
「あの子を追ってどうしようっての。欲しいと願った時、助けてくれる手があんたにはあったじゃない」
克之に拒絶された流水と、母親に拒絶された真琴を、流風は重ねて見る。


真琴を探して歩く中、流風は現れた真琴に殺されそうになる。
本気を出せば真琴を殺す事など簡単だ。しかし、一つ違えば自分は真琴と同じような立場にあったのだ。殺せない。克之によって流風は救われた。
一方流水は、木に兎の人形が埋め込まれているのを見つける。何故こんな所に?
双子は一時的に協力して真琴を探す。処方箋は兎のバッグに入っている事も告げた。流風は真琴の泣き声を追って、母の死体のある地下倉庫へ行く。
真琴は壁の向こうから手だけを伸ばし、流風の頭を壁に埋め込もうとする。
「処方箋なんか…もういい。ねえ、真琴ちゃん、お姉ちゃんね、真琴ちゃんの事…本当に大好きだよ」息も絶え絶えに言う。流した涙が真琴の手に零れる。
真琴は壁の向こうから現れ、流風に抱きついて泣いた。泣き終わると、処方箋をあげると言い、池の向こう側に連れて行く。しかし、向こう側にある事は覚えている物の、どこかを忘れてしまっている。
真琴のお腹が鳴る。流風は真琴にオムライスを作ってあげることにし、その間に死体を埋めようと、克之は真琴に木から大学生を取り出すよう頼む。
流水はオムライスを完成させた流風に近づき、流風を気絶させる。
死体を取り出し、戻ってもいいと言われた真琴はオムライスを食べにくる。
「お姉ちゃん処方箋の入ったぬいぐるみ見つけたの」
真琴は一口だけ食べたオムライスを残し、流風のふりをした流水に連れて行かれる。



192 名前:海の闇、月の影 16[sage] 投稿日:04/05/28 15:24 ID:???
流水は処方箋を手に入れると、真琴を池に押し込め殺した。
気絶していた流風が克之に介抱されている間に、内海が真琴の亡骸を見つけ運んでくる。流風は泣きながら流水を責める。
「あの子が何人殺したのかわかってんの?自分の両親を合わせて9人もよ?子供はいつまでも子供じゃない。いつか自分のした事の意味がわかる。自分の母親に疎まれ嫌われ殺した。そんな事理解する前に殺したのはあたしの温情だと思わない?」
流水はナイフで流風を人質にとり、次の処方箋の持ち主を訊く。「あたしは本気よ。あのチビとは違う。自分のやってる事はちゃんとわかってる。誰を殺したって傷ついたりしない」
やむなく克之は次の処方箋の持ち主を語り始める。


その時、玄関にペンションの取引先の者が来る。連絡を取れないので不審がったのだろう。真琴の死体を残し、流風達はその場を去る。
流風は真琴が生きていた証として、コットンテールを持っていった。
次の処方箋の持ち主は、東京都南区に住む水凪薫だ。住所と名前しか書かれておらず、歳も性別もわからない。


*まとめとかキャラ紹介とか。
真琴(まこと)
能力者が物体を通り抜ける事が出来るのとは反対に、
能力を持たない他人を物体に埋め込む事が出来る。
埋め込まれた物を引き出す事が出来るのは真琴のみ。
能力を面白がり、両親、大学生五人、流水の部下の感染者二人、
計九人を殺害。流水によって溺死させられる。


・ジーンはウイルスを変化させ、未知の能力を持つウイルスをつくった。
・ウイルスの種類は五つあり、五人に感染させた。
・処方箋の持ち主の五人=五人の能力者。



201 名前:海の闇、月の影 17[sage] 投稿日:04/05/29 00:04 ID:???
流風達が水凪家へ行くと、そこに家は無く、酷く焼け焦げたような跡があった。
近所の人によれば、水凪薫は大学生の男で、1ヶ月ほど前に両親、祖母、妹、婚約者を火事で亡くし、一人だけ生き残りどこかに移り住んだという。


夜。ホテルに泊まり流風が克之と眠っていると、コットンテールが流風の口に覆い被さった。
そして、流風の体が宙に浮いた。今は新月期。宙に浮かぶ力は無いのに。何かに引っ張られるように流風の体が飛行する。壁に叩きつけられそうになった所で克之が目覚めて止めた。ドアをすり抜け、片耳にピアスをした男が入ってきた。
「驚きなさんな。ただの挨拶代わりさ」水凪薫だ。薫は双子の片割れを出せと言う。
流水の居場所は自分も知らないと答えると、薫は部屋中を得体の知れない力で荒らした後、そのうちメッセージを送ると言い残し去って行った。薫には自分以外の物も宙に浮かせたり、自在に動かす力があるようだ。
数日経ち、満月が近くなり双子の力が戻る頃になっても薫は何も仕掛けてこない。
内海は薫を探しに、薫のよく行ってるという店を幾つか渡り歩く。収穫は無く帰ろうとした時、虫のような物が内海にまとわりついてきた。
それは薫のつけているルビーのピアスだった。ピアスは内海の額に張り付き、食い込み、内海の脳を貫通した。
物陰に隠れピアスを操っていた薫は、命を失った内海の服を引き裂き、背中にナイフを突き刺した。「あとひとり…当麻克之だったかな」薫は笑う。


流風はニュースで内海が殺された事を知る。内海の死体には『双子へ。麻布ツインビルで待つ』と刃物で刻まれていたという。
 出入口は警官に囲まれている。流風は宙に浮き、屋上へ直接行く。
そこにはニュースを見た流水も居た。隣のビルに薫の姿が。
「これを見てもらおう」薫は傷だらけの姿で意識を失った克之を見せる。
「こいつはまだ生きている。だが俺が力を抜けば50階下の地べたに叩き落される。どうしようと俺の気分次第だ。こいつが大事ならどんな風に嬲り殺されようと俺の機嫌を損ねない事だな」笑いながら薫は言った。



202 名前:海の闇、月の影 18[sage] 投稿日:04/05/29 00:07 ID:???
六本木の『ZZIY』という店で待つと言い薫は去る。双子が着くと中は真っ暗で、明かりのある一室に克之が吊るされているのを見つける。
双子が中に入ると薫が現れ、部屋の鍵を閉めた。ここは冷凍庫で、内側からも外側からも鍵が無くては開かないと薫は笑いながら言う。
双子や薫は容易に抜け出せる。しかし、克之にはそんな力など無い。鍵を取らねばと、克之を下ろし、流水にまかせて流風は外へ出る。
「あたしと克之さんを二人きりにしていいの?」「あたしを殺せても克之は殺せないでしょう」
流風が出て行った後の部屋で、流水は克之を抱きしめた。


 屋上に薫はいた。
流風はばれないように薫が脱ぎ捨てた上着を探る。中には女性の写真が入っていた。薫は気付くと写真を返せと迫る。
何故こんな事をすると泣く流風に薫は、双子を狙う理由を話す。
写真の女の名は笑子。薫の婚約者だった。薫は数ヶ月前事故で病院へ運ばれ手術を受けた。そこにはジーンがいた。
ジーンは薫の体をウイルスの実験台に使い、薫はその力の存在を知らないまま退院し、笑子が泊まったある晩に力を目覚めさせた。物が宙を飛び、キッチンから火が出て、眠っていた家族の体はシーツに包まれ拘束された。火事の中家族と笑子は逃げる事さえ出来ず、火に包まれた。薫は初めての力に驚くだけでコントロールが出来なかった。
実験に気付いた時には既にジーンは死んでいて、ウイルスの母体である双子を憎むしかなかった。


「お前達さえいなければ、俺は家族を笑子を殺さずに済んだ!」
薫は復讐のためだけに流風を押し倒し強姦しようとする。
克之が目覚め、冷凍庫内のある壁だけが叩いた時の音が違うと言った。向こう側は駐車場となっており、流水は運転手を感染させ車で壁を突き破らせた。
克之は流風を襲う薫を殴る。騒ぎを聞きつけ警官がやって来て、4人は逃げる。
流風から薫が双子を恨む理由を聞いた流水は、薫の後を追い、「あんたのやってる事は八つ当たり、逆恨み、妬み嫉みだ、そんな事はどうでもいいから処方箋を出せ」と言う。
三人の争いを知っている薫は、妬み嫉みはそちらだろうと言い返す。



203 名前:海の闇、月の影 19[sage] 投稿日:04/05/29 00:11 ID:???
「妬み、嫉み、そんなものが力になるなら あたしに勝てる奴なんていやしないわ!!」
そう言う流水を、薫は可愛い女だと言う。馬鹿にするなと流水は攻撃するが、薫は流水の腕を掴み、避け、その場を去った。
内海は爆発した時に死んだ事にされているので死体の引き取り手が居ない。その事を思い悲しんでいる流風達は、陸上部を通して知り合った牧瀬に会う。
牧瀬は克之と1、2位を争っていたスプリンターだ。ぼろぼろの服の克之に服をやると牧瀬は家へ誘う。牧瀬家では牧瀬の所属する高校の陸上部員達が酒盛り中だった。一時の平和な雑談を過ごす中、薫が現れ牧瀬以外の部員を全員ピアスで殺した。
薫は、まだ家にいる流水に、流風の知り合いを殺した、楽しかったと言う。
「本気で楽しんでるならあんたおかしいわよ。本当はやった分だけ自分が傷ついてるんだ」
流水は自分が克之の家族を殺した事を思い出す。薫は突然流水にキスをする。流水は去って行く。影で見ていた流風は、後を追う。苛立っている流水は流風を噴水に押し込める。心の奥深くで流風を愛していた頃の気持ちがある。
しかし、それよりも何よりも、克之を愛するという気持ちが強い。理性さえ無くすほど。
何をしても、他のものを手に入れても気分が晴れない。この思いを誰かが受け止めてくれないだろうか…。一瞬薫の顔が浮かんだ。


流水は手を止め、噴水で濡れた服を替えるためコインロッカーを開く。中から瓶が零れ落ちる。
睡眠薬というラベルが張られている。そんな物を飲まなければ眠れないのか? 流風は訊き、流水は逃げる。流風が追おうとした所で薫がやって来る。
「流水、しばらく俺と暮らしてみないか。口説くつもりは無いが、あんたとなら結構面白く暮らせそうな気がしてね」流風を流水と間違えているようだ。
流水がその場に現れるが、薫には区別がつかない。流水は流風の気を失わせる。
「克之さんはあたしと流風を間違えたりしないわ!あの人は正気でいる限り間違えやしない!まず流風を見分ける。そして残ったほうがあたし!それでもあの人は間違えたりしない…」
流水は薫から克之の居場所を聞き出す。会っても、流風と間違えて抱きしめられる事さえ望めないのに。――正気じゃなかったら?
流水はポケットから睡眠薬を取り出し、笑んだ。



225 名前:海の闇、月の影 20[sage] 投稿日:04/05/29 11:48 ID:???
流風は目覚めると薫のマンションにいた。薫は耳につけたルビーのピアスを見せる。
ルビーは笑子の誕生石。元々は婚約指輪として買った物だった。
もう双子をいじめ飽きたので、さっぱりしたい、双子のどちらに渡しても不公平だからと、間を取って克之に処方箋を渡すと言った。
流水は、薫に友人達を殺された事で怯えている牧瀬にウイルスを感染させる。牧瀬は流水の命令に従い睡眠薬の入った薬を克之に使った。
朧な意識の中、誰かが囁き掛ける。抱いて、と。流風の声…?
夢か現かもわからぬまま、克之は流水を抱いた。行為の後の眠りから目覚め、全裸の自分の体を見て夢ではないと悟る。傍には着衣の乱れた流水が。
「ステキな時間が過ごせたわ」克之は流水を叩こうとするが、仕掛けられたとはいえ間違えたのは自分だと手を止める。「ぶってもいいよ。克之さんなら許しちゃう。過去に何があっても構わない。あたし達の前に誰と付き合ってようと。あたしが初めてってわけじゃなさそうだもの」
流風が扉を叩く音がして流水は逃げた。
感染している牧瀬は流風を殺そうとする。逃げる流風を追い牧瀬は轢死。二人は逃げる。牧瀬の事で泣く流風を、今の克之は抱きしめてあげられなかった。


克之の態度の変化に不安を感じつつ、二人は薫のもとへ。
処方箋の入った封筒を受取るが、流水に奪われてしまう。それを追って路地に入った所で流水は消える。下水道へ地面をすり抜け逃げたのだ。
薫は後を追い、俺と一緒にアメリカに行かないかと誘うが拒まれる。
地上に戻り、またも流水は逃げ、地下へ行く。薫はそれを追いかける。流風も行こうとするが克之が止める。「この下は地下鉄だ!」
地下へ降りた薫は電車に轢かれて死んだ。
流水を愛し始めたのかは薫にもわからなかった。ただ流水が破滅するのは見たくなかった。
流水は崖に向かい突進する野生馬のようだ。行く先には血まみれの谷底があるだけだ――


天井に張り付き無事だった流水は、地上に戻り処方箋を見る。しかし、封筒の中にはどこかの寺のおみくじが入っているだけだった。
騙されたのだ。薫はもういない。処方箋の在り処はわからない。



226 名前:海の闇、月の影 21[sage] 投稿日:04/05/29 11:56 ID:???
手がかりがあるかもしれないと、薫のおみくじの寺へ行く。もう見つからないと諦めている流水は、克之に行為の事で脅しを掛け、次の伝書鳩の持ち主を聞き出し去って行く。流風は克之を不審がる。
寺にいる鳩の内、一匹だけ白いのがいた。その鳩には通信筒がついている。流風は餌をやっている女性に鳩を捕まえてもらう。処方箋を手に入れ喜ぶ流風。
一方、克之は固まっていた。「あら、克之!」鳩を捕まえてくれた女性は克之を見て驚きの声を上げた。女性は椎名今日子と名乗った。
今日子は克之に親しい態度を見せ、克之は動揺していた。


リストに載っていた三人目の鳩の持ち主、桐原卓也のもとへ向かう。
侵入すると、部屋の中はバイク関連の写真や道具がでいっぱいで、
棚などには既に誰かが探したような跡があった。流水だ。
しばらく待つと卓也が帰ってきたが流水が既に接触していて
流水と間違えられ邪険に扱われる。その夜、ホテルで流風のもとへ
バイク用の皮手袋をつけた肘から先の手と、眼球が襲い掛かってきた。
胴体も足も顔も無い。手と眼球だけが、いつの間にか現れた。
流風は手に首を締められ意識を失った。


*キャラ紹介。
水凪薫(みずなぎ・かおる)
自分以外の物も宙に浮かせ、自由自在に動かす力を持つ。
知らぬ間にジーンに力を与えられ、制御できない力のせいで
最愛の人を失い、ウイルスの母体である双子を憎むようになる。
自分と同じように行き場の無い思いを晴らすため人殺しを
繰り返す流水に近づくが、罠に落とされ轢死する。



235 名前:海の闇、月の影 22[sage] 投稿日:04/05/29 19:04 ID:???
 医学生で、医者の父を持つ今日子により流風は救われた。克之が呼んだのだ。
克之が一年生の時、今日子が三年生の時、二人は付き合っていた。
今日子の卒業と引越しで二人は別れ、流風と付き合うようになってからは一度も会っていない。
今日子の事で不安がる流風にそう言ってをキスするが、流水の顔を浮かべてしまう。
 夜、戸締りはしているのに誰かに見られている気がすると今日子から電話が来る。
電話は途中で切れ、見に行くと、体中を切られ血だらけで倒れる今日子がいた。
幸い浅い傷だった。流風は今日子をベッドに寝かせ、克之は部屋の中を調べに行った。
そこへ、ナイフを持った手と、眼球が現れる。襲ってくる手を捕まえるが、それは消えてしまう。
体の一部を切り離し自在に動かす力を持つのだろうか?手の主は卓也?
今日子が襲われたのは自分が関わったせい。流風は能力やジーンについて話す。
「私…いまでも克之が好きよ。私と会えなくなった頃に克之が貴方と出会って、
貴方を好きになった事を知って彼を諦めたわ。でも……譲るんじゃなかった!
貴方達双子に巻込まれて克之のご両親が…こんな事になるなら譲るんじゃなかった!!」
自分と関わった事で克之が多くの物を失った事を実感し、流風は泣いた。


 卓也には歳の離れた弟の柾巳がいる。生まれつき心臓が悪く入院している。
流水は、いい脅迫材料になると柾巳を拉致した。卓也は双子を見分けられず、
弟を帰せと流風に叫ぶ。卓也から聞いた流水の指定場所に流風と克之は向かう。
そこでバイクを運転する手と足だけが現れ、手が克之の肩を貫いた。
内臓にまで届いているかもしれない。弟を拉致された事で卓也が怒ったのだろうか。
克之はすぐに今日子の父の病院で手術を受ける。流風は柾巳を助けに行く。


 流風は柾巳を助けるが、克之を傷つけた者の弟である柾巳に殺意を抱いた。
流水に乱暴に扱われ発作を出しながら柾巳は言う。自分の手術には金がかかる、
兄はそのために長い金髪の外国人から何かの仕事を請け金を貰ったと。
もしかして弟のために双子に危害を?殺意は消え、流風は不安がる柾巳を抱きしめた。



236 名前:海の闇、月の影 23[sage] 投稿日:04/05/29 19:07 ID:???
 やって来た卓也に政巳を渡す。「柾巳!戻っておいで!」流水の声に柾巳は従う。
柾巳は感染させられていたのだ。命令をされる時以外は普通なのでわからなかった。
命令により柾巳は海辺に立たされる。「あたしの命令一つで柾巳は海に飛び込むわ。
この子の心臓がダイブに耐えられるかしら?弟が可愛かったら処方箋を渡すのね」
命令するより先に、心臓を痛めバランスを崩して柾巳は落ちていく。
寸前で流風が助け、卓也に渡した。卓也は柾巳を連れバイクで去っていく。
怒る流水に、克之が重症を受けた事を知らせる。流水は動揺する。


 病院へ戻ると、克之は何とか助かったと知らされた。
これ以上双子に関わると克之はもっと酷い怪我を負い、やがては死んでしまうだろう。
自分よりも昔から克之を愛している今日子になら任せられる。
流風は眠る克之に別れのキスをしてその場を去って行った。
 処方箋を手に入れるため流水は卓也の家へ。
柾巳の手術には大金がいる。だから自分はジーンの要求を受けたと卓也は言う。
薫のように恨む理由は無いのに、何故殺そうとした?
そう訊く流風に卓也は言う。自分は流風を襲ってなんかいない、
流風の言う超能力や処方箋の事も知らない。ただ白い鳩を預かっただけだと。
そういえば、白い鳩は7匹いた。しかし処方箋を持つ鳩は5匹。
卓也は能力者じゃない。ならば流風を襲った能力者は誰だ?


 流水は感染者を連れ、克之を奪い返しに病院へ来た。
流水の支配下には幾つも病院がある。克之の治療はここでなくともいいのだ。
突然。二つの腕が現れ感染者の体を貫き、流水を押さえつけた。
「貴方達双子に巻込まれてどれだけ克之が迷惑したかわかる?これ以上克之を
巻込む気なら貴方も殺すわ!」今日子の腕はなかった。今日子が三人目の能力者だ。
 今日子の家で手と目が現れた時。今日子は目を瞑り布団の中にいて、目も手も見せていなかった。
克之が襲われた時。手は流風を襲うつもりだった。目がいなかったので誤って克之を攻撃したのだ。
流風は病院へ向かう。辺りには激しい雨が降っていた。



237 名前:海の闇、月の影 24[sage] 投稿日:04/05/29 19:10 ID:???
 ジーンは今日子の大学の医学部の研究室を使っていた。
今日子は助手をするうちにウイルスの一連の出来事を知り、
ジーンの作った能力を欲しいと頼んだ。
腕を流水から放し、正面から今日子は流水を貫こうとする。
流水は他人を盾にして身を守る。逃げながら流水は
病院中の者にキスをして感染者を増やしていく。
 病院へ流風がつくと、首だけの今日子が現れ、じょじょに胴体も現れ、
流水と間違えて流風を殺そうとした。突然明かりが消える。停電だ。
堤防で事故がおき、その事故で電線が切れ、堤防も崩れて浸水の恐れがあるという。
患者を、克之を避難させなければいけない。二人は克之を運ぶ。
 今日子の名がリストに載っていないのは、親戚の結城彬彦に鳩を
預けているからだという。もちろん処方箋は外している。
今日子は克之を車に乗せ避難する。流風は後を追ってくる感染者を足止めした。
流風を諦めろと言う今日子に、克之は命を賭けても辛くないほど流風が愛しいといい、
感染者に襲われている流風を助けに行った。助けられた流風と克之へ、
火花を散らした電線が倒れてくる。今日子は克之をかばって感電。
流水は処方箋の場所を吐かす為、今日子の手の平に石を突き刺す。
「まだ言う気にならない?じゃ、次は目玉だな」目に石を刺そうとした所で、
今日子は処方箋の場所を言う。流水が取りに行った隙に流風は
倒れている今日子を救おうとするが、今日子は冷たくなっていく。
「ずるいわね…憎み切らせてもくれない。克之は、いつか貴方の為に死ぬわ。
うらやましいわ…」今日子はロケットを流風に渡す。中には克之の写真が。
今日子の父を呼び行った克之が戻ってくるが、流風は隠れるように逃げた。
流風の涙がロケットの中の克之の写真に落ちる。それを拭き、
感触がおかしい事に気付く。写真の下には処方箋が入っていた。


*キャラ紹介。
椎名今日子(しいな・きょうこ)
手だけ、足だけ、目だけなど、体の一部分を切り離し
自在に動かす能力を持つ。自分から能力をジーンに求めた。
克之の最初の女。感電と流水に石で刺された事により死亡。



238 名前:海の闇、月の影 25[sage] 投稿日:04/05/29 19:13 ID:???
 流風は何者かに薬品を嗅がされ意識を失い、気付くと広い旧家にいた。
そこには中学生ぐらいの車椅子に座った少女が。少女の隣には大きな犬。
真由夏は処方箋を渡すと言う。やがて、流水も連れられて来た。
双子に真由夏は言う。処方箋は屋敷のどこかに隠した、
先に見つけた方に渡すと。真由夏は足が悪くて歩けない。
ある日定期検診でジーンに会い、処方箋をもらった。
他の子のように遊べないから、こんなゲームでもしないと面白くないという。
流水は力づくで処方箋を奪おうとするが、真由夏の隣にいる
シンと呼ばれる犬が流水に噛み付き妨害した。双子は犬が嫌いで近寄れない。


 流風はその家に泊まり、風呂に入っていると何十匹ものヤモリが現れた。
流水も大量のムカデに遭遇したらしい。流風は不思議に思う。
 家には真由夏と使用人が三人と、沢山の動物が飼われている。
「動物はわたしの足を笑わないもん…特にシンは弟…ううん親友だもん」
シンはよく真由夏に懐いていた。満月期。流水はまたも力づくで
処方箋を奪おうとする。すると飼われている羊が凶暴化して突進し、
驚いて宙に浮くと烏が襲い、地上に降りると猫が大量に迫ってきた。
真由夏は動物を操る能力があるのだ。真由夏は嬉しそうに笑う。
「双子さんたち、処方箋の隠し場所を教えてあげる。昨日シンの首輪に移し変えたの。
貴方達の苦手な犬に持たせとくのって、面白いでしょう?さあ、シン。
捕まらないように一生懸命逃げるのよ」流水は怒るが、
周りには動物が無数にいて手出しが出来ない。動物がいなければ…


 流水は使用人三人を感染させ、動物達に毒を盛らせた。
翌日、使用人がいないため、流風に車椅子を押されながら外を出ると、
犬や猫、羊や鳥はことごとく口から何かを吐き出し死んでいた。
動物はもう手出しできない。シンを呼び出し、処方箋を渡せと
流水は迫るが真由夏は拒む。流水は真由夏の胸を貫いた。
足が悪くとも真由夏は能力者。宙に浮かぶのは可能だったのに。
流水も本気でやる気ではなかった。真由夏は地面に倒れる。
真由夏の悲鳴を聞きつけ、唸りながら現れたシンは宙に浮かんだ。
「シン!殺し…て……双子を殺して!!」真由夏は息絶えた。



269 名前:海の闇、月の影 26[sage] 投稿日:04/05/31 14:23 ID:???
 4人目の能力者はシンだった。動物を操っていたのも。
襲い掛かるシン。流水は感染した使用人に退治させるが、
使用人はシンの牙により死亡。双子は屋敷の中の一室へ逃げる。
シンは壁を通り抜ける事も出切る筈なのに入ってこない。
不思議に思っていると、無数の鼠が現れた。鼠は双子を噛み千切る。
流水は流風を生贄にして自分だけ逃げるがシンに見つかり噛み付かれる。
そこに猟にきていた者たちが来て、シンが真由夏達を殺したのだと思い、
シンを銃で撃とうとする。シンは真由夏の死体を恋しそうに振り返りながら、逃げていった。
人殺しの犬を捕まえるため、町の青年団で山狩りをするという。


 双子は病院で手当てを受けそこに泊まった。夜遅くまで山に逃げたシンは吠えている。
流風は犬が好きではない。それでも、長く尾を引く切ない遠吠えの意味は理解できた。
翌日、双子を襲いに来たシンは猟師たち撃たれる。シンは逃げていく。
うずくまるシンは、流風を見つけると血を大量に流しながら迫ってきた。
自分の命さえ投げ出せるほどに、シンにとって真由夏は大切な相手なのだ。
そこへ流水が現れ、手負いのシンを蹴って処方箋を奪った。
処方箋を手に入れれば用はないと、流水は去っていくが、
流風はシンを放っておけない。シンを捕まえようとしている青年団が
森尾家の戸締りをしたが、壁を通り抜ける事の出来るシンには関係ない。
流風は森尾家へ入る。シンの怪我の手当てをし、エサを与えるがシンは食べない。
「シン、貴方達の嗅覚はあたしの何倍もあるんでしょう。この部屋は真由夏ちゃんの
匂いでいっぱいなんでしょうね。匂いに包まれていればその人と一緒にいる
気になれるのかしら。写真があれば寂しくないのかしら。…あたしは、そうは思えない。」
流風は克之の写真の入ったロケットを出して見る。シンも自分も一人ぼっちになった。


「バイバイ、シン。元気でね」流風は次の処方箋を探し森尾家を出る。
シンなら青年団からも逃れられるだろう。流風はしばらく行った所の町で
食べ物を買い食べていた。追いかけてきていたのか、シンが現れる。
シンは牙をむく。殺されるかと流風は覚悟するが、シンは食べ物に噛み付いただけだった。
昨日自分の手からエサを食べなかったシンが…。流風はシンを抱きしめた。



270 名前:海の闇、月の影 27[sage] 投稿日:04/05/31 14:28 ID:???
 双子のウイルスの事を克之は今日子の父に言う。かなり苦労したが、
感染した病院の職員から未知のウイルスが発見されたという。
椎名父はK大学病院の乃木教授と、甥の野々村士郎を紹介した。


 鳩の持ち主、西村夕子は84歳で、数ヶ月前に死んでいた。
家人は鳩を飼えないからと放してしまったという。残りは一人、
C県白浜町の鏑木明。流風は道行く人に住所を聞く。
住所の場所には水族館があるという。水族館の職員だろうか?
しかし、調べてみると鏑木明という職員はいなかった。
歩いていると、壁から手が現れ流風の首を締めた。男の手だった。
コロンの残り香をシンに嗅がせ、後を追い夜の館内に入るが、
シンは二つに別れた道で両方に匂いを感じる。単に間違ったのか、
5人目の能力に関係があるのか…そこへ警備員がやってくる。
警備員から逃げていると、後から悲鳴が聞こえ、足音がやんだ。
見に行くと、警備員が水槽の中に体をめり込ませ死んでいた。
これは真琴の力だ。人の気配に振り向くと、長い金髪の男が
走ってゆくのが見えた。紛れも無くジーンだ。
そういえば、あのコロンの残り香は、ジーンが生前つけていた物と同じだ。


 水族館には克之と、それを追った流水が来ていた。
置かれていた物が宙を飛び、二人に襲い掛かる。薫の能力だ。
二人は金髪の男が逃げていくのを目撃する。
 克之の存在に気付き隠れた流風は、肘から先の手に襲われる。
これは今日子の能力だ。起き上がると、そこにジーンがいた。
「海の底から戻ってきましたよ。貴方方を殺す為に」何故ジーンが生きている?
ジーンの遺体を誰も見ていないが、生きているはずが無い…
怪我の痛みで集中も出来ない。流風は逃げるが、行く先々にジーンがいる。
イルカが流風を襲う。シンの能力だ。苦しむ流風をシンは力を使い救うが、
自らも動物であるシンは、ジーンに操られてしまう。



271 名前:海の闇、月の影 28[sage] 投稿日:04/05/31 14:32 ID:???
 克之はジーンが使っていると思われる私室を発見。洋書や丈の高いズボンがある。
隣の部屋には、ズボン、コロン、本、靴などがもう一対あった。


 ジーンから逃げていた流水は流風に遭遇する。
後ろにジーンがいるのに、流風の傍にもジーンがいる。ジーンが二人…
二人のジーンは髪を触る。すると、金色の髪がするりと落ちる。かつらだったのだ。
イアン・ヨハンセン、クリスチャン・ヨハンセンと二人は名乗り、
自分はジーンの従兄弟だと言う。以前ジーンは双子の従兄弟がいると言っていた。
髪の色こそ違うものの、顔はそっくりだ。ジーンとは両親が双子同士なためだ。
「ジーンとはずっと一緒に育ってきた。あいつの金髪と頭脳は僕らの自慢だった。
そのジーンをお前達が殺した!!ジーンはお前達を欲しがってたな。
死の国の黒い川の岸にいるあいつの所へ、お前達を送り届けてやるんだ!」
イアンは流風を捕らえ、ジーンがあれほど執着した女はどんな物かと犯そうとする。
克之は短剣でイアンの額に傷をつけ連れ去る。逃げてきた流水とも合流する。


 双子の匂いを覚えているシンを利用し、イアン達はやって来る。
ジーンにより全ての能力を与えられイアン達はシンを操ろうとし、流風は戻ってくれと叫ぶ。
二人の間でシンは悩む。何かきっかけさえあれば。克之はシンを蹴り、
シンはその衝撃で流風の元に戻る。気が緩み眠った双子を克之は椎名父の
病院へ運ぶ。椎名父は、検出されたウイルスを使い治療薬を作ってみると言った。



278 名前:海の闇、月の影 29[sage] 投稿日:04/06/01 03:38 ID:???
 イアンは額につけられた傷を見る。もうジーンの替え玉をやる事も無くなった。
ジーンを追って亡命し、それからジーンの傍で暮らしていたイアンとクリス。
ある日ジーンは面白い手紙が届いたからと意気揚揚と日本へ行った。
それまで学問ばかりで人間に興味を持たなかったジーンが執着する双子。
双子を見たくて日本を行き、四つの能力を作るのを手伝ったのも、
それを全て自分に身に付けたのも面白半分だった。
まさかジーンが海の底に沈んでいくのを見る事になるとは思わなかった。
イアンは水槽からアコヤ貝を取り出す。中には真珠でコーティングされた甲虫が。
「もっと大きな生物を核にする事が成功すれば…ルミとルカ、
美しい一対の双生真珠を海に還してやろう」


 イアン達を倒すため、流水は流風と手を組む。傷が治り始めた頃、
月は膨らみ力も戻りかけていた。そこへイアン達が現れ2人をさらう。
気を失わされた双子が目覚めると、傍には真珠のような光沢のリアルな猫の置物があった。
そこへイアン達が。リアルなのも当然だ、それは猫を核とした真珠なのだと言う。
驚きで地面に落すと割れ、中から猫の死骸が。
促されるまま扉の外へ出ると、大きな生物を入れるため、
巨大なシャコ貝とアコヤ貝を遺伝子操作したという無数の貝が水の中に沈んでいた。
特殊な防腐液を注入された生き物を中に入れると、さきほどの猫の置物のようになると言う。
イアンは貝を開く。中には真珠の光沢をした人間が。
「最終実験も成功だな。これで失敗無くお前達を真珠にしてやれる」
双子は建物の外へ逃げる。この建物は大学のようだ。


「流水、流風。どこにいるの?出てらっしゃい」隠れていると、懐かしい声がした。
双子達の姉の流依子だ。イアンは叫ぶ。出てこないのなら代わりにお前の姉を真珠にすると。
流依子は連れて行かれ、防腐剤を注射され、貝の中に入れられ沈められる。
まだ息はあるはずだ。双子は飛び出し、流依子を救う。しかし、流依子は既に死んでいた。
「貝に入れる前に打つ防腐液には安楽死の役割があるのさ」流風は泣く。
隣では、人を幾人も操り、殺し、無情となったはずの流水も泣いていた。



279 名前:海の闇、月の影 30[sage] 投稿日:04/06/01 03:42 ID:???
 4つ年上で少し潔癖な姉。甘い母に代わって双子達を叱るのは流依子の役目だった。
その流依子が目の前で死んでいる。双子はイアン達に飛び掛るが、
倉庫の中に閉じ込められてしまう。冷静に考えて2人を殺す作戦を考えねば。


 流風はイアンに、流水はクリスに連れて行かれる。クリスは流水とシンを一室に閉じ込める。
真由夏を殺した事を恨んでいるシンに襲わせようとしているのだ。
一方、イアンは流風を強姦しようとしていた。暴れていた流風はしだいに大人しくなり、
イアンに気付かれないように笑った。「あたしたちの見分けもつかないのね」


 双子は倉庫にいる間に入れ替わっていた。コトの済んだ後、流水はニヤリと笑う。
「やってらんないわ。あんたキス下手なんだもん。ジーンはもっとテクニシャンだし、
克之さんはずーっと熱っぽい。あんたが一番ヘタだよイアン」
イアンは2人が入れ替わっていた事に気付く。そこへ助けに来た流風が。
流風は落ちていた拳銃を拾い流水と逃げる。弾から火薬をほぐし、
それを靴下に入れインスタント爆弾をつくり、二箇所に仕掛ける。
イアンとクリスが分かれる事を狙ってだ。案の定、クリスと離れたイアンを、
残りの弾で流風は撃つ。それを助けようとしたクリスは倒れる。
「何で飛び出したんだ!クリス!クリス!目を開けろ!」クリスは死んだ。


 県外では騒ぎが起きていた。双子達がいる県の県庁や
行政が動きを止め、道路や新幹線、鉄道機関もその機能を止めたのだ。
感染者だらけの県の為、そんな事をするのは容易い。
しかし、極秘のうちに進めていた事をこんな派手に公に晒すとは…
士郎に乗せられ、克之は封鎖された県へ。


 イアンが幼い頃。アイノとエーダは母と叔母のつけている真珠の指輪を羨ましがっていた。
「波の静かな満月の夜、真珠貝はぽっかり水面に浮かんでくるの。
そしてお月様のミルク色の光をくるくる巻き取って真珠ができるのよ」
真珠は6月の誕生石。双子座の宝物。真珠を欲しがるアイノとエーダ。
ジーンは大人になってからイアンとクリスに買って貰えと言った。
懐かしい思い出。皆逝ってしまった。誰もいない。失うものなど何も無い。



280 名前:海の闇、月の影 31[sage] 投稿日:04/06/01 03:46 ID:???
乃木教授と椎名医師は、警視庁にウイルスの事を知らせた。警視庁はすぐに双子の身柄を押さえろと全都道府県に連絡した。
5枚目の処方箋を手に入れれば全てが終わる。流水は言う。
「あたし達が元のように暮らせる…そんな事出来るかしら……無理だ!今も頭の中に憎しみと欲望が渦巻いている!抑えようとしても湧き上がってくるのよ!元になんか戻れない!」苦しそうに頭を抱え、泣き出す流水を抱きしめた。


シンににおいをかがせ、イアンの居る部屋を見つける。もしこの扉の向こうに入ったまま、
自分が帰らなければ、真由夏の住んでいた家に帰れと流風は言った。
イアンは水槽の中から真珠を取り出す。クリスと初めてつくった真珠を握り締める。そこへ双子が襲撃する。イアンは双子を撃とうとするが、シンに腕を噛みつかれ妨害される。イアンはシンの頭を撃ち抜く。それでも僅かに意識の残るシンはイアンを噛み続ける。そこへ無数のヘリコプターが。封鎖された県を調べに来たマスコミの物だ。克之もいる。
腕にシンをぶら下げ宙に浮くイアン、それを追う双子。流水はイアンを押さえつけ、涙を流した流風はイアンの胸を手で貫いた。


初めてイアンの瞳を見た気がした。ジーンの瞳は北の冷たい氷の蒼だった。イアンの瞳は違う。南の海の深い深い底の碧。激しい熱を秘めた碧。


「……アイノ…エーダ…」イアンは地上へ落ちていき、手から二つの真珠を零した。双子はそれを追う。
克之は双子をヘリコプターに乗せようとする。急がなければ、マスコミのヘリも降りてくる。シンは乗ろうとせず、去って行く。
追おうとする流風に流水は言う。シンは自分の死体を流風に見せたくないのだと。
シンは昇っていくヘリコプターに向かい、長く尾を引き鳴いた。
「シンは死にに行ったんじゃないわ。真由夏ちゃんの所へ帰ったのよ。シンは北へ向かった…真由夏ちゃんの家の方角へ。真由夏ちゃんの傍で暮らすのよ」


 しばらく走り、シンはある店の傍の路地にうずくまった。体に雪が降り積もる。
「シン、むかえにきたわ。いっしょにゆこう。ね…シン」真由夏の姿が見えたような気がした。



281 名前:海の闇、月の影 32[sage] 投稿日:04/06/01 03:51 ID:???
警視庁の者は、すぐに双子を連れて来いと言う。
克之は士郎を人質に取り、ヘリコプターの運転手に、乃木教授の元へ連れて行けと命令した。
流風はともかく、流水は公の場でいつ力を爆発させるかわからない。
乃木教授の作った薬で力を、ウイルスにより現れた流水の中の憎悪を消し去らねば…


乃木教授は古墳から発見されたウイルスに『LUNA・1』と名づけ、双子の体内に入り変化したウイルスを『LUNA・2』と呼び、更に流水から他の人間に感染したウイルスを『LUNA・3』と名づけた。
LUNAナンバーのウイルスは熱に弱い。LUNA・1は冷たい古墳の中から温かい外気に触れ無害化した。直後に吸った双子は感染し、部員は死んだが、後に調査に訪れた者達が無事だったのがその照明だ。
熱処理すればウイルスは消えるが、LUNA・2は更に変化したウイルス。100℃は必要だ。しかしそれでは双子を焼き殺す事になる。
熱の代用として、研究の結果作られた治療薬を出す。まだ研究段階で効果は五分五分。副作用はないだろう。二人は薬を注射する。


克之は大事な話があると流風を人気の無い部屋に連れて行く。
流水はそれを影で見る。「元に戻った時に君達にしこりが残らないために、言う。俺は流水を抱いた」
双子が仲のいい姉妹に戻るためなら、自分は身を引くと克之はいう。流風は涙を流し、克之を殴る。しかし、それでも克之が好きだと抱きついた。克之も抱き返す。流水はその場を去る。


克之を困らせたくて流風に言うぞと脅してみた事もある。
でもこうなる事はわかっていた。あんな光景を見たくないからずっと黙っていた。
苦しみと憎悪が、丸くなっていく月のように増殖する。
この苦しさとおぞましさが消えるなら、力なんかいらない!誰か助けて!
流水は一人、頭を抱えうずくまり、涙を流した。



284 名前:海の闇、月の影 33[sage] 投稿日:04/06/01 16:03 ID:???
薬が効き始める時間。しかし、双子の能力は消えなかった。
治療薬はあくまでも研究段階なのだ。外からは、大人しく出て来いと警察の声。
イアンの零した双生真珠をお守りとして手に持ち、双子は取調べを受ける。
「もしウイルスが行動を左右するとしても、抑えられないのは意思が弱いせいだ」
ウイルスの効果など信じない刑事の言葉に流水は激昂する。
「あんたに何がわかるの!欲望と憎しみが自分の意志と関係なく膨れ上がってゆく、苦しさとおぞましさがあんたにわかる!?頭のどこかでそれが醜いものだとわかってるジレンマがわかる!?あたしだって多くを望んだわけじゃない!望んだものは一つだけよ!」克之の姿が浮かぶ。
悲鳴のように叫び、流水は刑事を4人殺して去る。
流風は後を追い、真珠などお守りにならなかったと地面に投げ捨てる。割れた真珠の中に何かが入っている。アイノとエーダの写真だ。 流水も真珠を割る。最後の処方箋が入っていた。
「あんたが2枚、あたしが3枚。処方箋は全部出揃った。流風、最後の決着つけようじゃないの!」
泣き笑いながらそう言い、双子はしばらく見つめ合う。「またね」流水はやがて去っていった。
『最後の決着』。それは流水か流風、もしくは二人ともの死を意味している。


 警察病院で治療という名目のもと監禁されていた流風に退院許可が出た。
士郎の保護下で乃木教授の治療を受けられる。そこで流風は、非公開ではあるが、流水に射殺許可が出ている事を知る。いまだ双子の住んでいた県は封鎖されている。
そして感染者は増え続けている。流水の姿勢が変わらない限り、殺すしか道はない。
流水にはもう行き場がない。一方で流風は克之や乃木教授に、抗体があるからと手厚く保護されている。それもすぐ終わる。次の満月の日、流水に再び会ったら……
最後にと、流風は克之に抱いてと言うが、克之は途中でやめる。
「続きは帰ってからだ」克之は気づいている。流風にもう帰る気が無い事に。
人を支配し殺す事以外に流水は生きていけない。それは許されない事だ。だから片割れである自分の手で終止符を打つ。
その代わり一人では逝かせない。もう一人にさせない。自分も一緒に逝く。



285 名前:海の闇、月の影 34[sage] 投稿日:04/06/01 16:07 ID:???
流風は感染者に花を渡される。白木蓮だ。小早川家にもある花。…流水が家へと呼んでいる?今日は満月。力が最高の日。
流風は自宅のある県へと向かう。止めたが、克之もついてくる。県の封鎖は解かれていた。流水が呼んでいるのだ。


 自らも県へ向かおうとする士郎に乃木教授は言う。今日は満月、そして今年一番の大潮。
双子の力は最大となる。それからもう一つ、今世紀最後の皆既月食が見られる。これが双子の力にどう影響するのかはわからない。


感染者に襲われ、流風は克之と分かれる。
流風は自宅へ向かう。流水はいない。虚ろな目をした両親がいる。懐かしい家、懐かしい空気。
だけど流依子はもういない。二度と昔には戻れない。流水がどこへ行ったかは見当がつく。双子が決着をつける場所は、あそこしかない。流風は汚れた服をかえようとし、ある事に気づいた。
克之と士郎は合流する。双子は一体どこへ行ったのか。
「双子が最初にウイルスに感染したあの海だ!」克之は叫んだ。
双子は制服姿で向き合う。流水の制服が家にない事に気づき、流風も制服を着て現れた。制服は、双子がまだ普通の少女で、幸せな日々を過ごした頃の象徴。
双子は互いの体を貫こうとする。流水の方が強い。速い。差のない双子なのに何故?
「流風、あんたは全ての美徳を手に入れた。優しさ素直さ愛情。だからせめて世界くらいあたしが手に入れる!」
流水の強さと速さに、ジーンを思い出す。ジーンと戦った時とまるで同じ感触。
その事に気づいた流風に勝ち誇ったように言う。流水は、ヨハンセン兄弟が保管していたジーンの血をジーンの研究室から手に入れ、自分に注射したのだという。
一時的な効果だが、流風に勝つには十分だ。乱闘を繰り広げる双子のもとへ、克之や他県の警官達が来る。警官は双子の区別もつかないのに発砲しようとするが、この体で止めても撃たせはしないと克之は前に立ちはだかった。
月食が始まる。宙に浮いていられなくなる。力が少しでも残っているうちに…
双子は突進し、流水の腕が流風を、流風の腕が流水を貫いた。


それは不思議な感触だった。
相手を貫いた自分の腕も――貫かれた胸も――
指を染めた血さえ、違和感がない。
―――これは確かに自分と同じものだ!



286 名前:海の闇、月の影 35[sage] 投稿日:04/06/01 16:11 ID:???
二人は同時に倒れるが、克之に起こされる。流風は無事だ。
貫かれた瞬間、まだ力の残っていた流風は、壁を通り抜ける応用で腕をすり抜けさせた。隣にいる流水は、内臓に傷をつくり血を吐いている。すり抜けられなかったのだ。恐らく、力を増加させた分だけ月食の影響も多く受けていたのだろう。だから力が消える早さも流風より早かったのだ。
流水はもう助からない。流水を殺そう、そのつもりでここへ来た。しかし、いざ苦しむ流水を見ると…
「あんたの勝ちだよ。処方箋はあんたのもんだ。これを始めたのはあたしよ。だから…幕を下ろすのはあんたの役目だ。あたしがやった事の幕引きはあんたの義務だ」
流風は周りにいた警官から銃を取り、まだ意識の残る流水のこめかみに当てた。
「…あんたと双子で、けっこう楽しめたよ」「うん…」
二人は涙を流す。幼い頃から一緒に育った、大切な双子の姉。自分の半身。
引き金は引かれ、辺りに銃声が響く。頭から血を流す流水。
月が姿を戻したように、時はこの出来事を人々の頭から消し去り浄化するだろう。
5枚そろった処方箋により、治療薬も作られる。全て元に戻る。
心の痛みもいつかは消えるのだろうか。泣く流風を克之は抱きしめる。


ウイルスが残っている可能性があるからと、流水の家も私物も焼却処分される事になった。
全てを燃やせば流水が生きていたという証が消える。それさえも奪うのか、一つぐらい流水の形見をくれと泣く流風に克之は言う。
「流水の形見ならあるさ。君だよ、流風。その髪も瞳も手足も、みんな流水と半分ずつにしたものだろう。君自身が流水の形見だ」
流風は、流水の形見である自身を抱きしめた。


体の奥にもう一人の自分を感じる。流水、一緒に行こう。
異質な夜を終えて正常な朝に向かって―――
今――――海の闇が明け、月の影が消えてゆく。

<完>