9th SLEEP

Last-modified: 2008-09-27 (土) 11:30:58

9th SLEEP/立野 真琴

30 名前:9th SLEEP 第1話(1) 投稿日:04/06/13 22:06 ID:???
「9th SLEEP」 著:立野 真琴   ビブロス


その惑星には一つの神話があった。
『全てが崩壊し、惑星そのものが死んだ時、神が現れ世界を救った。
神は今も天に居り、緑少ない地上に大気を与えているという――』
人々は、それを信じて生きている。


バースという町の少年・ルーグは、精神に異常を来たした母・ミリアンと二人で暮らしている。
ルーグは処女懐妊(マリア憑きと呼ばれている)で生まれた子供だった。
ある日、いつものように仕事に出かけたルーグは、兄と名乗る青年に切り付けられ殺されそうになる。
ルーグは理由もわからず逃げるが、兄・メルガにたちまち追いつめられてしまう。
メルガは天空に浮遊している都市を治める王の話をし、
その『王の魂』(王の証、持ち主に9つの命を与える)がルーグの内にあると説明した。
メルガは自分が王となるためルーグを襲い、『王の魂』を手に入れようとしていたのだ。
剣をかざして襲いかかるメルガ。
だが、刃を受けたのはルーグを庇ったミリアンだった。
母の死のショックからルーグは前世の記憶を甦らせ、天上都市の人間へと変化する。
細い瞳孔や鋭い牙を持つ獣人、それがルーグの本来の姿だったのだ。



32 名前:9th SLEEP 第1話(2) 投稿日:04/06/13 23:19 ID:???
メルガは激昂するルーグを天上の城へ誘った。
記憶の定まらないルーグは、メルガの言葉から次々に過去を思い出していく。
天上都市の王――それは白と黒、二人の獅子王による王位争奪の儀式で決まるものだった。
勝者は王となり、神として惑星を治め、一族の娘と結婚して子をもうける。
敗者は眠らされ、次の儀式に再び目覚めて闘うことになる。
(王位継承の儀式はほぼ殺し合いです。 死ぬ一歩手前まで相手を追い込むらしいです。
また、これには役割分担があります。 王の子である継承者は、父王の死の間際に『王の魂』と代々の王の記憶
を与えられて守り手・白の獅子王となり、一方の前回敗者である継承者は奪い手・黒の獅子王となります。
※このシステムだとなぜ兄弟対決になったのか不思議に思えるでしょうが、ここは軽くスルーして下さい。)
ルーグは白の獅子王として、16年前にも黒の獅子王・メルガと闘っていたのだ。
けれどその時、下界の娘・ミリアンを愛していたルーグは、勝者となることも敗者となることも拒んだ。
いずれを選んでもミリアンとの別れを余儀なくされるからだ。
ルーグは自害することで『王の魂』の持つ9つの命のうち1つを捨て、ミリアンの胎内へ転生し逃れた。
そして今、ルーグとメルガは再び剣を交える。
ルーグのために命をかけたミリアンの想いに応えるべく、何としても生きようとするルーグ。
メルガの腕に捕われ窮地に陥ったルーグは、またしても命を1つ捨て、下界の女の中へ逃げてしまう。
機を逃したメルガは眠りにつき、ルーグが再び白の獅子王として覚醒する時を待つ。    第1話 完



33 名前:9th SLEEP 第2話 投稿日:04/06/14 00:30 ID:???
マリア憑きのアリスンから生まれたルーグは、優しい母や祖父母に囲まれ幸せに暮らしていた。
だが、今回のルーグには過去の記憶がすでにあり、それが彼の心を重くしている。
兄と闘わねばならないことが、今のルーグには辛く、恐ろしくてならないのだ。
前世ではミリアンのために闘いもしたが、元々ルーグはメルガと闘うこと、
つまりは誰かの犠牲の上に王が誕生することに、疑念を抱いていたのだった。
それでも時は巡り来る。
噴水の縁に腰掛け、飲み物を手にいつもと変わらぬ空を見上げるルーグ。
その顔が悲しみに沈む。
ついにメルガが現れたのだ。
ルーグの前に立ったメルガは、彼に剣を取れと言う。
しかしルーグはそれを拒み、「闘えなくてごめんなさい」とメルガに許しを乞い、泣きながら絶命する。
飲み物の中には毒が入っていたのである。
再び待つことを余儀なくされたメルガ。
そしてルーグは新たな『マリア』の中へ…。
(2話は1話の補足も兼ねており、ルーグの回想として、ミリアンとの出会いなどが描かれています。)
                                   第2話 完     



88 名前:9th SLEEP 第3話(1) 投稿日:04/06/16 19:33 ID:???
三度目の母・セシルはルーグを疎んじ、彼は虐待を受けながら育つ。
そして雪の降る夜、4歳のルーグはついに家を追い出されてしまう。
そこに現れたメルガは、ルーグを天上都市へ連れて行った。
今生での記憶しかないルーグを自らの手で育て、今度こそ儀式を全うさせるためである。
月日は流れ、ルーグは健やかに成長し、間もなく覚醒の時を迎えようとしていた。
だが、剣の稽古では熱心さに欠け、冗談だとは言いながらも闘いを拒むような言葉を口にするルーグに、
メルガはかすかな不安をいだく。
更にルーグは人間や愛などにこだわりを見せ、少なからずメルガを戸惑わせるのだった。
実はこの時、ルーグは既に前世の記憶を取り戻していたのだが、メルガには知る由もない事だった。
ある日メルガは下界へ降りた。
ルーグの母・セシルを殺すためだ。
セシルは幼いルーグに辛く当ったことを後悔し、ルーグを探して街を彷徨っていた。
ルーグがこれを知れば、彼はまた人間に執着し自分から逃げるかもしれない、メルガはそう思ったのだ。
セシルに向けて振り下ろされるメルガの剣。
しかしそれはルーグによって阻止された。
ルーグは既にセシルが自分を探していることを知っており、疾うに彼女を許していた。
それでも彼が下界へ戻らなかったのは、再び母を不幸にしてしまうかもしれないという不安と、
兄を慕う気持ちがあったからだった。



89 名前:9th SLEEP 第3話(2) 投稿日:04/06/16 20:36 ID:???
「生まれる前から、あなたとは闘わないと決めていた」
メルガにそう告げたルーグは、白の獅子王へと変化する。
それは同時に代々の王の記憶も蘇らせ、ある『真実』をルーグに伝えた。
残酷な『真実』に顔を曇らせるルーグ。
ちょうどその時、上空から警報と共に「修正」の言葉が響き渡り、
ルーグとメルガは強制的に天上都市へと連れ戻されてしまう。
修正勧告を受けたのはメルガだった。
『冷酷非情な黒の王』の役を果たしていないため、というのがその理由である。
そしてメルガは、自分が白の獅子王のための『贄』だと言われ愕然とする。
それこそは、ルーグがメルガに最も知らせたくなかった『真実』だった。
天上都市が惑星上空に配置された時から、都市の人間にはそれぞれに役が与えられていたのだ。
王の子を産む女の役、王を見守る臣下の役…。
そして黒の獅子王とは、白の獅子王に試練を与え、
相手をより強き支配者と成す為のみに存在する役だったのである。
(天上都市最初の王位継承の儀式は、兄弟対決だったと思われます。
初っ端から負けっぱなしのメルガは、闘っては眠ることを延々と繰り返してきました。
白の王は世代交代していますが、その度に記憶も引き継ぐので、心理的には同一の人間ととれます。
多分、遺伝子的にも同一、もしくはほぼ同一に近い個体として生まれるんだと思いますけど…。
だから結局いつの儀式も『兄弟対決』になるんですね。
…何で気付かねーんだ、メルガは。と思ってはいけません。きっと修正され、マインドコントロールされているのでしょう。)



90 名前:9th SLEEP 第3話(3) 投稿日:04/06/16 21:29 ID:???
話を聞き逆上したメルガは、剣を手にしてルーグに襲いかかった。
今度こそ、シナリオ通りではない本当の決闘をするために。
ルーグはその意を汲んで闘うが、力及ばず追いつめられてしまう。
覚悟を決めたルーグは、自分の望みをメルガに伝える。
「神はもう人を過保護に扱うべきではない。 時には厳しく、時には優しく、人が自立できるよう育ててほしい」と。
ルーグは目を閉じ最後の時を待った。
しかしメルガの剣は震え、ルーグに止めを刺すことができない。
ところがその時、ルーグの言葉を天上都市の否定と受け取った一族の者の手により、
ルーグは背後から刺されてしまう。
「死ぬな! 私の前でもう死ぬな…!」
そう叫び、メルガは瀕死のルーグを抱きしめて泣いた。
メルガはルーグに死なれる度、そうとは気づかず喪失の悲しみを募らせていたのだ。
ましてや今、腕の中で死にかけているのは、メルガが自ら育てた弟なのである。
人の情というものを、彼はようやく理解した。
自分の気持ちに気づいたメルガは黒いライオンに変身し、その背にルーグを乗せて下界へ消える。
その後、王のいない天上都市の機能はゆっくりと失われていった。
けれどそれを補うように、地上は人の手によって少しづつ緑を増やしていく。
神は神を捨て、人は神の手を離れ、惑星は再び時を刻み始めた。



91 名前:9th SLEEP 第3話(4) 投稿日:04/06/16 22:17 ID:???
その惑星には一つの神話があった。
『全てが崩壊し、惑星そのものが死んだ時、神が現れ世界を救った。
神は今も天に居り、緑少ない地上に大気を与えているという――』
だが、真実を知る者は一人もいない。


ある町の近くに、大きく立派な森があった。
そこには、傷の癒える湖や薬となる木の実など、不思議な物が多くある。
人はその森を『神の森』と呼んだ。
そしてその森の奥には、二人の神が住んでいる――。


 END


題名は「9th~」ですが、話は3話でおしまいです。(あと描き下ろしの「EVER GREEN」)