【そらにくせしありきしか】

Last-modified: 2023-03-15 (水) 08:40:01

DQ5

DQ5の冒頭でプレイヤーに提示される謎の文。
【サンタローズ】に帰還した際、【パパス】の私物の本を当時8歳の【ビアンカ】が読もうとしたときの台詞。
 
正確には、以下のようなメッセージになっている。

「えーと……。
 そ…ら…に…。 えーと……。
 く…せし……ありきしか……。

全くもって意味不明だが、それもそのはずで、まだ子供のビアンカには書かれている言葉が難しすぎて正しく読めていない。
主人公も幼年時代にはビアンカよりさらに年少であるため、やはり読めない。
大抵の看板や書付は同行者やシステムメッセージが代読する形でプレイヤーにその内容を伝えてくれるが、これはそれを外れているためやはり内容はわからないまま。
シナリオの核心に迫る記述だけに早期のネタバレを防ぐ意味合いがあるのかもしれないが、一方で何の変哲もないラインハットの看板なんかも読めないので「読める・読めない」の基準はイマイチわからない。
 
青年時代になると字が読めるようになっているのだが、この時点でサンタローズの実家は焼失しているためやはり内容の確認はできない。
最終的に読めるようになるのは物語も終盤に差し掛かった青年時代後半。
過去のサンタローズを訪れた時である。
 
正しい内容は以下の通り。

"空に 高 存在せし 城ありき
 しかし その城 オーブを失い
 地に 落ちる……。
"オーブ とりもどす時
 その城 再び 天空に帰らん……"

なんと書物は漢字仮名交じり文で書かれていた。
【アストルティア文字】が登場する前のドラクエ世界の文章は、日本語で書かれているのだろうか…?
洋風にファンタジーを織り交ぜ、人物名にも西洋のものが多い世界で使われる文字が漢字仮名交じりというのに、違和感を持った人もいただろう。
もっとも、ビアンカが「書物の一部しか読めない」ことを表現するには、こうする他なかったのかもしれないが…。
 
なお、ビアンカの読めた漢字は「空」だけであったようだ。
その「空」は我々の世界(というか日本)では小学校1年生で習うので、8歳のビアンカが読めるのは妥当だろう。
ただ彼女は同時期に【レヌール城】において「私たちのお墓をかえして……」という文章を読めるシーンがある。
現実世界であれば「墓」や「私」が読めるなら先述の文章も普通に読めるはずだが、作中世界ではどのように漢字を教えているのかがわからない以上、ビアンカの「読める/読めない」も推測しようがない。
 
読み書きといえば、ずっと奴隷生活だった主人公がいきなりそれらを可能にしているのも謎と言えば謎だが、王族として英才教育を受けていたであろうヘンリーから学んだと考えるのが自然だろう。
実際小説版ではヘンリーから教えてもらったという設定になっている。
 
いずれにしても内容の判明が遅すぎるので、「空に高く存在せし城」も、失ったオーブが何であるかもとっくに把握している。
つまり、書かれている内容自体はプレイヤーにとってなんの役にも立たない。
完全に主人公の成長やパパスが調べていたことなどを示すためだけに存在する本である。
しかしながら長年の謎が時を越えて判明するという心憎い演出や、最初の意味不明文のインパクトも相まって、プレイヤーにとって非常に印象に残るイベントになるのは間違いない。
また、完全に「漢字の存在ありき」で成立しているネタなので、つい一作前までは使えるカタカナすら事欠く有様から大きく飛躍しており、その点でも感慨深いと言えるか。
実際DQ5発売から20年以上の歳月が経過した今でも、ネット上で「ドラクエの名言(迷言)」みたいな話題になると必ずと言っていい程に挙げられる。
当然ネタ的な意味で、だが。
四コマクラブの7巻でも、成人した主人公がビアンカと再会したときに「そらにくせしありきしか」の意味について問い詰めるネタがあった。
なお、【グランバニア】にはパパスの命令で長年、天空の勇者にまつわる伝説を調べている学者がおり、青年時代後半の時点で「天空の城も竜の神もすでに空にはいない」という結論にたどり着いている。
サンタローズに居を構えていたパパスと彼が何らかの情報のやり取りをしていたかどうかについては不明だが、パパスの死後20年ほどが経過しているにも関わらず把握している情報のレベルが大して変わらないのは、パパスの情報収集能力の高さおよび思いの強さ故だろうか。
 
ちなみに【エンディング】でサンタローズが復興した際は実家の建屋も元通りに修復している。
ここには見知らぬ学者が住んでいるが、なぜか本棚で同じものが読める。たまたま同じ本を持っていたのか?
 
余談だが、少年時代に【ベビーパンサー】を仲間にしてから、ベビーパンサーを先頭にして件の本棚を調べると、

○○○○(ベビーパンサーの名前)は 本だなの本を
読もうとした…が
まだ字が 読めなかった!

と出る。「まだ」……?
 
なお、DQ5発売と同じ年ダイの大冒険【ダイ】【アバンの書】を読もうとするも漢字部分が読めず、【レオナ】に代読してもらうというこれに酷似した場面がある。
このエピソードは第112話「それぞれの使命」の中のシーンであり、週刊少年ジャンプ1992年の第8号(発売日は1992年2月)で、DQ5の発売日の約半年前。
一方、一般的に週刊連載漫画の原稿は雑誌発売日の約2週間前には完成しているのに対し、DQ5の製作期間は約3年におよび、発売日の半年前にはすでに大筋のシナリオは完成していたことが予想される(事実、1992年1月時点で、同年5月31日発売の予定が公表されていた)ことから、制作期間も含めた時系列がどちらが先というのは難しい。
また、当初は1991年中の発売を目指していたこともあり、同年初頭からジャンプ誌上でも設定資料などがしばしば発表されていたため、主人公の幼年時代からシナリオが始まることなどはこの時点ですでに広く知られていた。
ダイ側がある程度、開発中の情報を知ったうえで「子供の主人公が字を読めない」ネタを拝借したのか、はたまた単なる偶然か…真相は不明である。
 
ちなみに英語版ではビアンカが読めたのは「one」「up」の2つの単語だけである。
しかし正しい内容にはどちらの単語も含まれておらず、ビアンカが読もうとした本の内容は分からないままになってしまった。