チャプター3前半

Last-modified: 2017-11-07 (火) 17:44:40

Chaper.3 Conspiracy Theory 陰謀理論前半 アッパー・イースト・サイド~ロングビーチメインクエスト

- 彼らのみの都市 -

彼らのみの都市

彼らのみの都市

彼らのみの都市

アッパーイースト・サイド

アッパーイースト・サイドはあの扉の向こうにある。
一息入れて緊張を緩めた。扉を開いた瞬間何が起こるか判らない。
準備が必要であった。

セントラルシティの全ての兵力はアッパーイースト・サイドに集約している。
此処だけは変異生命体の侵入は許されないだろうと期待したが、無駄であった。
安全と思われたシェルターは此処より安全で無ければならなかった。
だが、その期待が裏切られた以上アッパーイースト・サイドが無事と言う期待に
意味は無い。変異生命体では無いとしても、秘密の出入口がアッパーイースト・サイドに
露出した可能性もある。もしそれなら、重武装した軍隊が周辺を囲んで
銃を突きつけているかもしれない。
外の状況を感じる事は出来ない。ただ、セキュリティコンソールが照らす
CCTV画面は扉の前には何も無いと表示していた。

マガジンを確認してもう一度深呼吸をした。そして扉を押して足を踏み出す瞬間、
目の前の全ての物が白く変わった。強烈な日差しに
適応していない二つの目のせいだ。
閃光弾を撃たれた様な感じになり、私は
引き金を引く警備兵の指、あるいは歯を剥き出しにする変異生命体を想像した。
何処かからか聞こえる騒音が不安感を更に大きくする・・・・・・
だが・・・・・・視野が正常に戻ったとき、周辺には何も無かった。

足を踏み出した場所はビルの職員用出入口であった。四方には恐ろしく高いビルが
見える。まるで「摩天楼の森」だ。だが、動きのあるものは無い。
・・・・・・ただガランとしている。
騒音が聞こえる方向へ視線を移すと、空を突くように雄大荘厳なビルが
屏風のように並んでおり、その中心に広場があった。
騒音はその巨大な広場から聞こえている。

幾多の音が混じった騒音であった。何処かで聞いたことのあるような
おかしな感じの音だ。だが、其れは何なのかは判らない・・・・・・
広場に近づきながら私は悩み続けた。

・・・・・・騒音の正体は広場に到着した瞬間判った。そして二つの目を疑った。

広場には多くの人々が行き交っていた。若い男女、大人や子供・・・・・・
みなせわしく動いていた。慌しいながらも活気に満ちた姿だ。
避難民の区域を分ける鉄柵も、配給の列も、キャンプをする姿も無い。
・・・彼らの表情は明るく、動きには力が溢れた。今まで見てきた苦痛や悲しみ、
絶望は何処にも無い。
臨時避難所の姿とは比べられないとしても、ありのままを受け入れるには
あまりにもおかしな姿であった。

彼らの活気に満ちた動きの声が聞こえる。足音や襟が擦れる音、
子供達の叫び声と笑い声・・・・・・何処ででも聞こえた音だ・・・・・・
だが、今の私にとってその音は遠い記憶であった。
遥かな記憶を騒音と認識したのだ。
過去の記憶の日常の音が「騒音」の正体であった。

目の前の光景に何をどうすればいいか判らない。
情報が必要だが、道を行き交う人々に声を掛けることは難しい。
・・・・・・見知らぬ訪問者と判断されてよい事はなかった。疑われるだけだ。
人との接触より、周辺を落ち着いてみる事にした。重要な建物や兵力の配置、
統制地域に関する情報が優先だ。
そしてその為に目立たないように自然と行動する必要がある。

アッパーイースト・サイドは広場を中心に正面に市庁が、そしてその周辺を大企業の
本社など主要な建物が構成されている。建物の規模と
雄大荘厳さはセントラルシティの中心と言う名声そのものだ。
どの建物にも襲撃の後は無く、まるで此処だけは変わったことが無いと言う様に
過去の姿そのものであった。

都市の防衛ラインは中央広場からメインストリートを中心に
ビルの小さな路地まで隙間無く構成されている。アッパーイースト・サイドの封鎖面積は
決して狭い空間ではないが、兵力の数はあまりにも多く、過剰と思えるほどだ。
防衛ラインを通過しようとすれば足を入れる間も無く蜂の巣になるはずだ。
だが、兵力の規模に比べて内部の市民を統制する姿は無かった。
主要施設に見える幾つかの建物を除けば、都市内は自由に動く事が出来て
見張りの目つきも感じられなかった。外部に向けられた境界の水準に比べれば意外な事である。

他にもあった。防衛ラインには、正規軍の姿があった。
守備兵力は正規軍だけではない。警察や私設警備も一緒に警戒しているようだ。
都市内のすべての境界地域でそのような姿があった。一つの境界地域に正規軍、
警察、そして私設警備が混じっている。変異生命体の
襲撃前後にも、このような姿は見たことが無い。
お互いに無視するような彼らが一箇所にいる姿は不自然だが
彼らは慣れたかのように、自然に見えた。

・・・・・・方法は一つだ。
彼らが元々属していた命令体系を無視できるような
強力な命令体系が彼らを統制しているのだ。勿論、其れが可能なほど組織的で
強い影響力を持った指導層が存在するという前提が必要だ。
もしそのような指導層が存在しているなら、
彼らなら私の疑問に対する答えを持っていることだろう。

・・・・・・仕事を始める時間だ。今、この都市の全ての事について
真実を明かすときが来たのだ。
保護されずに死に・・・・・・そして今も死んでいく人々・・・・・・彼らを死地に向かわせたのは
まさに委員会の「優勢因子保存」政策だ。どうして必要であったのか?
・・・・・・真実を明かさない以上、この無残な悲劇は終わらないだろう。
それ程の情報を持った人のいるべき場所は、バイオスフィア以外此処しかない。

・・・・・・まずは市庁に向かう事にした。今すぐ全ての物を明らかにする権力者に
合う事はできないと思うが、最低限政府と関連する人は居るだろう。
小さな情報を集めれば、いつかは核心に近寄る事ができるだろう・・・・・・

新しいルール

死んだ死んだ死んだ!街に生命体キタ~!
チャプター1で見たことがある人がいっぱい!

新しいルール

群集の心理

群集の心理

メインストリート

メインストリート

群集の心理

群集の心理

善良なソマリア人の法

善良なソマリア人の法

善良なソマリア人の法 - 少女

善良なソマリア人の法 - 少女

善良なソマリア人の法 - イアン

善良なソマリア人の法 - イアン

仮面の中の顔

仮面の中の顔

「イアンさんのクエストはどうですか?」
ウリヒは相変わらず無表情だ。

「はい、事情があってサインしてもらえませんでしたが、任務は終わりました」

クエスト完了確認書を渡し、イアンの言葉を思い出した。
・・・・・・目をつぶり、口を閉じる。無言の同意と同時に、皆の為の事だ。・・・・・・

「現実を思わない」誰がそうしようと決めたからではなく
何時の間にか皆がそうしていた・・・・・・其れが彼ら自身、正しい道だと思ったのだろう。
・・・・・・彼は分かっていた。其れが間違っている事を・・・・・・だが自分一人では何も出来ず
行動する事はできなかった。
・・・もしかしたら此処の皆がそうなのかもしれない。
「何かが出来る」そう思っている筈なのに・・・・・・

内容を確認したウリヒは少し休みなさいと言った。
今後は強制でクエストを与えないとも・・・
だが、契約完了なのかと聞くと、そうではないと言う。

彼は減速を重要視する。融通する事は無いスタイルだろう。
理解できない事もあったが・・・・・・
兎に角これ以上のクエスト遂行は無意味だと思った所だ。
・・・・・・彼が再び口を開く。

「表情を見ると、かなり大変だったようですね。何かありましたか?」

ウリヒが業務以外で声を掛けたのは初めてであった。疲れている気配はあったが
個人的に話したことは無い。そういえば彼は何時もとは異なり、
業務の手も止めていた。普段とは違う姿である・・・・・・

「やはりイアンさんの依頼は特殊だったのでしょう?そうではないいですか?」

・・・・・・歩みを止めて振り返った。
相変わらず真っ直ぐな姿勢だが、仕事以外には何の関心の無い以前の姿とは
異なった。頭の中で何かが動く・・・・・・彼はイアンを知っており、
依頼の内容も知っていた・・・・・・
それなら、どうして私に任せたのか・・・・・・

・・・・・・彼の表情は真剣であった。

私は再びウリヒの机の前に立ち、彼を正面から見据えて言った。

「・・・・・・知っていたのですね?はい、普通な依頼ではありませんでした。
彼は自分が出来なかった事の為に罪悪感に苦しんでいて・・・・・・
他の誰かの手で解決したがっていました。
良い人でも、悪人でも・・・ですが、彼に罪悪感はありました。まるで催眠術に掛かったように
耳を塞いで生きるほかの人々より良いかもしれません。
そんな事を知っていながら仕事を回すなんて・・・・・・
貴方は彼らとは違うのですね・・・・・・?」

話を聞くウリヒの表情は微動だにしない。彼は質問に答えなかった。
代わりに彼は別の話を取り出した。

「・・・・・・今から話をしましょう。貴方の立場では納得も理解も出来ないかもしれません。
この都市の人々が生きて行く方法です。最後まで聞いてください。」

彼は私の表情を見つめた。そして、冷静な声で話し始めた。

「アッパーイースト・サイドが今のように安定するまでは本当に夥しい犠牲が
必要でした。貴方も知っているとおりです。此処を作るために多くの
人々が死にました。我々も例外ではありません。
生存を約束された人々の中の半分がシェルターと共に消えていったのです・・・・・・
此処の住民はその全てを黙殺して来ました。幾多の人々の死を見てきましたが、
彼らに出来る事は無かったのです。ただ、その想像出来ないほどの犠牲の代わりに
最後のシェルターを壊してはいけないと言う恐怖・・・・・・
そして自分達だけが生き残ったと言う罪悪感だけが骨の中深くに刻まれたのです・・・・・・
貴方は、此処の人々は目も耳も口も塞いで生きていると言いましたね。
その通りです。しかし、彼らがそのような行動をしていたのは
苦痛と罪悪感から隠れて自由になる為ではありません。
寧ろ、この都市を維持するために、その苦痛と罪悪感を表現できず
ただただ耐えているのです。」

「皆分かっています。堪える事が出来なくなったその時は
彼ら皆が責任を負わなければならないと言う事を・・・・・・
だからその為、誰も前に出られない・・・・・・」
此処の避難所が危険にさらされれば、数え切れないほど多くの死も無駄になる・・・
彼らは其れを耐えている・・・・・・だが・・・・・・

「・・・・・・住民を理解して欲しいという意味ですか?
彼らがどんな気持ちで生きて行こうが私は知りません。
住民一人一人がどんな苦痛を受けて生きているのかも分かりません。
ですが、あなた達が目の前で死んでいく人々の姿を唯眺めていたという
事実は変わりません。どんな言い訳をしたとしても・・・・・・」

何かを感じた。何かデジャヴの様な・・・・・・記憶がある。
これは初めて言った事でも、初耳でもない。
この話は繰り返されている。

「理解を求めている訳ではありません。其れが現実なのです。
唯この都市の現状を話しただけです。
価値が有ろうが無かろうが関係ありません。
・・・・・・正義とは言いません。しかし、其れで我々皆が天罰を受けて
都市が消えて、何が残りますか?我々は我々の生存の為に
今まで戦ってきて、其れが生き残る為の唯一の道だったと思います。
・・・・・・その考えは今も変わりません。」

彼の言葉に同意できない訳ではない。
だが、私を説得して彼らの立場を納得させるとしても、それに何の意味があるのか・・・
ウリヒが言いたい事はこれでは無いだろう。本当に言いたい事は別にある。
ただ、その言葉を取り出す道が見つかっていないのだ。

「わかりました。私にその様な話をするのは理由があるのでしょう・・・
私のせいで人々が動揺するという事でしょうか・・・・・・
貴方達が生きる意味は放っておいて欲しいと・・・・・・」

ウリヒは答えようとして止めた。何かが彼の中で衝突している・・・
躊躇っている・・・今までのウリヒには全くにつかわない姿だ。
暫く経って、彼が再び口を開いた。

「最初の貴方の質問に戻りましょう。私に此処の人々は異なる考えを持って
いると聞きましたね。答えは・・・いえ・・・そうではありません。私もここの人々と
考えは違いません。行動もそうです。此処で生きる為にはそのように考えても仕方ないのです。
更に正確に言えば、貴方がしている行動・・・彼らを刺激して彼らの罪を
思い起こさせるような行動には同意できません。貴方によって人々が
動揺して、この都市が危険になる姿を見たくありません。
貴方の行動が理解できないわけではありませんが、
私は貴方がここの人では無い事を判っています・・・・・・」

私が外部から来た事をウリヒは判っている・・・脅迫に近い言葉であった。
だが、攻撃的な言い方ではない。彼の表情はやはりそんな意図ではない事を見せてくれていた。

「最初はあなたの様な人々が沢山居ました。
我々の方法が正しく無いと主張し、人々の意識を変えようとしていました。
ですが、そういう人々は居なくなりました。
貴方に初めて会った時、彼らにあった何かを感じました。
そして、ある考えが浮かびました。」

ウリヒは一息吐き出して顔を拭った。疲れている様子だ。

「人々、それぞれが持った罪悪感が自分を貶めています。
このままでは、都市は生き残ったとしても人々は潰れてしまいます。
しかし・・・我々には自らの問題を解決する機会さえ残っていないのです。
もし我々が今までの全てのものを否定して、人々の考えが行動されたら
この都市は秩序を失って崩壊してしまいます。
我々が今まで堪えられたのは、お互いにお互いを縛り・・・
動けなくしている「見えない紐」がありました。その紐が解けてしまったら
ローイースト・サイドや他の都市と同じ状況になってしまいます。
そして考えました。もし誰かがこの都市に渦巻く強迫の悪循環を絶ってくれたら・・・・・・
そしてその人が我々ではなく、外部の人なら・・・・・・
最悪の場合でも全ての責任はその人が被り、紐は解けない・・・・・・
・・・・・・そう思いました。
卑怯だといわれても仕方ありません。しかし其れが
この都市を守って来た我々の方式と同時に私の方式です。
その役目を貴方に引き受けて欲しい・・・・・・其れが貴方に本当にしたかった話です。」

ヨーゼフ

ヨーゼフ

セントラルメディアライン

セントラルメディアライン

マーティンのメモ

マーティンのメモ

セントラルメディアライン

セントラルメディアライン

到着した場所はビルの事務室であった。予想より綺麗な姿だ。
言論社らしく文書やファイルが山のように積まれ、
奥には「セントラルメディアライン」と言う大きな看板まで掛かっている。
襲撃の後は無かったが、人気は感じられなかった。
生活の後はあったが、時間が経過しているようだ。
取材の写真やメモがホワイトボードに貼り付けられたままになっていると言うことは
隠れたわけでは無いだろう。恐らく長期間の外出・・・・・・
あるいは、何処かで死亡した可能性もある・・・・・・

ホワイトボードの資料の大部分は分からなかった。
何を調査していたのか・・・・・・唯、彼らが知りたかった事は、芸能人のゴシップではない・・・・・・
大部分の飼料は企業に関する事であり、その他は変異生命体の事であった。
・・・・・・ある資料が目に入った。


不良品(ジョウロ)に関する中間結果-
ジョウロに水を汲む過程で内容物が腐ったと予想
ジョウロの不良が原因か?製品の問題はあったのか?
souji & hikari の調査結果が正しいのなら、製品の問題の可能性もある。
だが、皆退社した為これ以上の調査は不可能。
腐った製品を確認するなら病院か・・・・・・
エミリオの連絡先は何処だったか・・・・・・


・・・走り書きされたメモだ。何かの比喩と考えられるが
其れが何かは分からない。
ヨーゼフの行方に役立つかは分からないが、
・・・「エミリオ」と言う単語がそこには在った。

機体はしていなかったが、ウリヒにメモを渡すと意外に進行があった。

「souji & hikari は掃除代行業者です。家庭のソファークリーニングや
ビルの外壁掃除の様な企業を相手の清掃をしています。特に廃棄物処理や
汚染施設浄化の様な分野にとても特化された業者です。
どんな汚いものでも輝かせる、と言うのがその会社のキャッチフレーズでした。
ですが、今は存在しません。
その会社がシェルターの清掃業務に単独で入札したのです」

メモにある「退社」と言う文は死んだと言う事か・・・ヨーゼフはこの清掃業者から
どんな手がかりを見つけたのか・・・これ以上確認は不可能だ。
それなら不良品のジョウロ、そして病院とエミリオの謎を見つけたほうが早い。
・・・だが、其れは思ったより簡単だった。

「病院に出入りが制限された場所がありました。
偽造カードや身分証が必要かもしれません。」

ウリヒの返事は明快だ。

「アッパーイースト・サイドの病院は1箇所だけです。ですが汚染物質の流出によって
病院全体が封鎖されました。現在は研究班や変異生命体処理班以外は出入り不可能です。
病院はその場所だけです。その他の場所には無い筈です」

グロリアの記録によるとウォータータンクで病院から流出した汚水を取り替えるとあった。
それなら製品を確認する為に、ヨーゼフは直接病院に行った。
その為にエミリオを通じて、身分偽装が必要なのだ。

シェルターの下水処理施設では多くの人々が働いており、souji & hikari もその場所に
投入された筈だ。この全ての情報が souji & hikari からヨーゼフに流出したとしたら・・・
全ての線が繋がる。

結局ヨーゼフはシェルター崩壊の原因を探していた可能性が高い。
市議会或いはルーベルと同じ財閥を調査して、シェルターに関する情報を入手したのだろう。
彼が追跡していた内容をもう一度確認すれば、ルーベル以外の高位関連者の情報、そして
疑惑の情報を見つけられる可能性もある。

「その病院に行きたいのですが、方法はありませんか?」

不可能ならエミリオを待つしかない。彼はデイビッドとの仕事が終れば
此処に来ると言っていた。だが、其れが何時か分からない。
他の偽造専門家を見つけなければならないかもしれない・・・
・・・だが、ウリヒは予想していたかのように書類を一つ取り出した。

「簡単です。その場所のクエストを遂行すれば良いんです」

事がこんなに早く進むとは・・・
ウリヒは分厚い書類に何かを書いては消す事を繰り返している。

「病院の汚染はかなり昔の事です。アッパーイースト・サイドを封鎖してから
すぐでした。汚染理由は分かりませんが、恐らくその場所で
開発が進行していたワクチン研究と関係しているのでしょう。
汚染度は深刻で・・・もし一般の建物であればそのまま封鎖線を病院内に下げ、諦めた筈です。
と言うことは、その研究に価値があると言う事です。その為、病院の変異生命体を退治しながら
復旧を試みているのです。

ウリヒは作成が完了した書類を渡した。クエストカードに似ている。

「最初にも言いましたが、内部クエストは人気が高く新入りには与えられません。
その為、このクエストは初めてなのです・・・
今、強制クエスト形式として病院の支援兵力に貴方を登録しました。
これで病院への出入りは自由な筈です。
詳しいクエストは、病院近隣の事務所の研究班から説明を受けられるでしょう。
彼らのクエストを処理しながら調査していけばいいでしょう。
通常、特定区域の変異生命体の掃討や重要書類、薬品の回収を要求されます」

ウリヒはちょっと待てと身振りをして、どこかに電話し始めた。
丁寧な言葉遣いを見ると、ある程度の地位の人物なのだろう。
・・・ウリヒは満足げに言った。

「はい、話をしました。研究班の中の、常任研究員担当に話をしておきました。
常任研究員担当なら厄介なクエストも無いだろうし、
権限も確保する事が出来ます。活動の幅も広げることができるでしょう。
唯、その常任研究員は・・・その分野で有名な人物です。
その為、変異生命体乱入後にも他の都市まで行って
救出をしていたらしいです。有名なほど、自尊心や自負心もあるでしょう。
神経を逆撫でしないよう気をつけてください。」

彼らの任務を遂行しながら病院内部を調査すれば情報があるだろう。
・・・ヨーゼフに会えれば其れが最善だが、身分を偽装した彼に
気付く事は難しいかもしれない。

ウリヒのお陰で活動の制約は消えた。後は動くだけだ。

ライラ

ライラ

ライラ

ライラ

- セントラルホスピタル -

セントラルホスピタル

セントラルホスピタル

セントラルホスピタル

セントラルホスピタル

ライラの言葉によって尋ねた病院長は、以外にふくよかでリラックスした印象の中年男性だった。
彼に会うまでは何だか鋭い目つきに卑劣に見える顔を想像していた。
多分其れは病院で秘密裏に排出した汚染水源によってシェルターさえ感染されたという
グロリアの日記帳を見たからだろう。
しかし病院長は穏やかな口調で話し始めた。

「私達は生存者の救出に最善の努力をしています。今回の事件は全面的に私達の責任であり、その責任を負うために一人でも多くの命を救い出すのが私達の義務だからです。
しかし、状況は余り良くないのです。」

病院長は暫く黙ってから溜息をついた。

「不幸にも病院と外部を連結する非常通信網が全て寸断され、研究施設は
セキュリティ問題で電波がさえぎられていて、内部の情報を知る術がありません。
しかし、幸いにも研究施設には危機的状況に備えた多くの退避区域が用意されています。
もし生存者が訓練どおりその施設を活用していたら、まだ多くの人々が生き残っていると
思われます。私達は彼らを救助する為に出来る事は全て試みるつもりです。
生存者の救出と同様に重要な事は、汚染が外部に拡散しないようにする事です。
私達の無知の為に汚染した水源が流出し、それが状況を更に悪化させたという
事も分かっています。そんな間違いを繰り返してはなりません。それで私達は救助作業に
幾つかの手順を決めているのです。」

病院長は汚染した水源が流出した事を素直に認めた。
このように認めた以上、ジョセフが病院を訪ねようとしていた事は病院から流出した汚染物質の
真偽が無くなる。もしそうなら、ジョセフが病院を尋ねようとしていた事は何だったのだろうか?

「此処セントラルホスピタルの1階は一般病棟で、地下は研究施設になっています。
現在感染は前の区域で広がっているが、その始まりは地下の研究施設だと思っています」

大部分の市民は病院の地下に研究施設があるかさえ知らなかった。
しかし実際セントラルホスピタルが築いた名声の多くは、地下の研究室で行っている
ウイルス突然変異によるワクチンの研究に拠るものであった。
問題は、ワクチンの研究には変異ウイルスが必要不可欠であるという点だった。
その危険性からワクチンの研究施設には、必ずウイルス対策施設が備えられており
その内の一つが局地的汚染にも考慮した避難区域だった。

「避難区域は汚染警報発令直後に直接開放され、一度避難に成功すれば
この状況が終了するまでの間、生存出来るよう設備が設置されています。
私達の一番の目標は、この退避施設に避難した人々を救うことです。
ただ、此処で守らなければならない規則があります。決まっている退避施設の
生存者以外は救助してはならないという点です。明らかに
何の異常もなく、本人が幾ら大丈夫だと言ったとしてもです。
この病院で研究していたのは突然変異ウイルスに対抗するワクチンです。その為、感染しても
見た目でかなりの期間の間保菌するかどうか区別出来ない場合があります。
彼らは別の検疫過程を通じて保菌の有無を精密に確認する必要があります。なので
彼らの位置、状態を把握しておきたいが助ける事はできません。」

病院側では動作中の待避所の位置を全て確認していた。つまり、変異生命体の
射殺だけ成功できれば感染していないと把握された待避所の生存者は無事救助できる可能性が高い。
しかし、待避所に入れず隠れていた人々は今は救助してはならない。彼らの救助は感染の有無を確認した後の段階になるだろう。それが病院長の言葉だった。

「余りにも残酷な事だが仕方がありません。出来る事なら私も
彼らを助けたいと思っています。待避所に入れなかった人々の多くは掃除人や雑夫など、まともな教育を受ける事ができなかった人々に見えます。
彼らに十分な安全対策を講じられなかった事に大きな責任を感じています。
しかし、今となっては私達がすべき事をしなければなりません。
待避所に居る人の多くは著名な科学者です。私達の運命を変える能力を持つ人達です。
必ず助け出さなければなりません。
私達は余りにも多くの時間を浪費しました。彼らが1分、1秒でも早く研究に
復帰すれば、ワクチンで救い出せる人の数も増えるのです」

作戦は病院内に残った変異生命体を掃討し、生存者の安全を確保した後
建物内部の状況を正確に把握する事。地上の自治軍が侵入作戦を実行するのに
役立つだろう。
そして、その時に得られる情報は可能な限り収集する事だ。

感染区域

感染区域

生存者の証言

生存者の証言

研究員の証言

研究員の証言

ワクチン開発プロジェクト

ワクチン開発プロジェクト

プリテは研究所で起こったことが偶然起こった事では無いと話した。
其れは、この事件が誰かによって計画されて起こった事だと話した警備兵控室
の研究員の話と一致する事だった。

「君。其れは単に仮定であるだけではないのか?唯状況を見るときその様な
可能性も無くは無いが、そのような話を相談無しに言ってしまえばどうなる?
あの方が誤解したら如何するのか?」

プリテの話に他の研究員は慌てたように見えた。だが、彼らの動揺は
プリテの意見に対してではない。彼の突発的意見に対してだった。それは
彼らの考えの一部がプリテの意見と一致する事を意味した。

「いえ、気楽に意見をおっしゃっても構いません。今すぐ善し悪しを問い詰め
ようとか、公式的な捜査をしようと言うのでは無いですから。単に、此処で
起きた事に対する正確な内容を把握したいだけです。事実、こちらに来る途中
他の研究員からも彼と似た話を聞いたことがありました。その人も皆さんと
同じ地下4階に勤める研究員でした。」

研究員はお互いの顔を見渡した。そのような話をしたのが自分達だけでは無かった
と言うことに安堵するように見えもした。迷うなら先に話をした方が良いのかもしれない。

ミスベイリン

ミスベイリン

コードオレンジ

コードオレンジ

久しぶりに見た太陽の光は眩しかった。何時間ぶりかだったが、あたかも
何週間も地下に閉じ込められていた感じだった。
病院の入口には自治軍の幾つかの小隊が病院突入の為に待機していた。
ライラに作戦結果を報告すれば、自治軍が研究員らの救出と残った変異生命体射殺の為に
投入されるだろう。
だが、病院施設に残っている他の生存者の救出も対象に含まれているかは
断言できなかった。これに対するライラの返事は意外なものだった。

「退避施設に避難出来なかった生存者は、決まった権益手続きによって
隔離されます。時間をかけて観察後、症状が現れなければ帰宅が許され、
症状が現れたら規約により処理されるでしょう」

ライラは当たり前の事を尋ねていると言う表情で答えた。
変異ウイルスを日常のように扱ってきた彼女にとって、こういう状況は
別にたいした事ではない。だが、病院の封鎖による民間人の虐殺も同じ事だろうか。
そのような納得できない処理過程さえも状況によっては起こりえる事と
考えるのだろうか。

「病院内を捜索中、退避施設に避難出来なかった生存者に会うことが
出来ました。彼らは酷く怯えていました。当然の状況だと思いました。
だが、私の考えとは違い、彼らが恐れているのは変異生命体だけではありません」

「変異生命体で無ければ一体、何に怯えていたのですか?」

望んでいた返事では無いので、彼女に病院で見た事、聞いた事を話した。
はじめは大きな関心を持たないように見えた彼女も、話が続くと険しい表情に
変わっていった。

「最初に話して起きますが、其れは私が指示したものとは違います。私が汚染管理チームを
管理しているのは事実ですが、自治軍の動員権限までは持っていません。私は単に
状況を分析し、意見を伝えるだけです。最終決定は病院側にあります。」

はじめからライラが命令したとは考えなかった。単に当時の状況から出来る選択が
其れしか無かったのかが気になったのだ。
その疑問にライラは眼鏡を正して話した。

「『コードオレンジ』なら感染の有無が確認されなかった民間人の射殺も可能です。
汚染地域の機能が完全に喪失したと判断された時、発令されます。それが
発令されれば該当地域の全ての生命体は感染者で、全ての物は汚染されたと見なします。
それで私達はその事を『腐ったオレンジ』と呼びます。
『コードオレンジ』は該当地域の放棄を意味します。それで生存者の救出や資源の回収など
念頭に置かず、その地域の全ての物と生物全てを服一切れも残さず完全に消滅させる事を目的とします。
当時が『コードオレンジ』状況なら何の問題も無い対応だった筈ですね」

コンソーシアム

コンソーシアム

再会した病院長は、忙しそうだった。両手には受話器を持っていて、ずっと大変だったと言う話と共に、理解できないジェスチャーを取っていた。
詳しくは聞こえなかったが、内容からして研究員らの救出と関係した電話だと考えられる。

「本当に幸運だね。それでは、直ちに実行するように」

通話を終えた病院長は、既に報告を受けていて変異生命体の射殺と研究員の救助の為
本格的な作戦が間も無く開始されると話した。
病院長は大変だと言う話を何度も繰り返し、内部の正確な情報を収集したお陰で研究員の安全を確保し
作戦を行う事ができるようになったと喜んだ。

生存者には、あらかじめ伝えられた通りの作戦予定時間と進行内容を確認した。
大きな問題が無ければ、彼らは無事救助されるだろう。
生存者の安全が確認されたので残った事は幾つかの疑問に対しての回答を得る事だ。

病院の封鎖と共に脱出しようとしていた民間人に向けた無差別射撃、『コードオレンジ』
そして研究施設の研究員が提起した情況的な疑問について病院長に全部話した。
険しい表情で話を聞いた病院長は、何の話を聞きたいのか分かるという感じに頷いた。

「私が今からお伝えする事は産業機密に属する事です。機密取り扱い権限を持たない貴方に
この話をするのは機密漏えいに違いありません。しかし、私の権限でそして私の判断を信じて貴方に全部話します」

短い話ではない様だ。病院長はソファーに座る事を勧めた。

ワクチン開発の議論が本格的に始まった事は数年前に遡る。
勿論その前にもワクチン開発は数え切れないほど行われた。だが、目に見える成果を挙げた事は多くなく
そういう試みさえもワクチン完成品を期待したと言うよりは、変異ウイルスに対する分析を試みる水準に留まった。
研究の進展が振るわなかった理由は、変異ウイルスに対する多くの機密条項の為
自由に研究出来なかった環境にあったし、2番目は変異ウイルスの研究施設と人材運用に必要な天文学的単位の資金にあった。
長い間停滞していたワクチン研究は、時間が経ちミレニアが軍事・政治・経済の全ての面で安定してから転機を迎える。
経済規模が急速に拡大する過程で多くの財閥企業が誕生し、資金を持て余す事が出来ない新興財閥は新しい領域を開拓する事を望んだ。
それが抗ウイルスワクチンの研究であった。

「委員会の視線も次第に変わっていきました。永遠に不可能と思われたウイルスの
民間取り扱いにも少しずつ道が開かれていきました。
委員会の主張は一貫して強固なものでした。"完璧に統制されない状況で
民間企業にウイルスを取り扱わせるのならば、ワクチンなど作らない"と言うのです。
変異ウイルスに対する委員会の認識は殆どヒステリーに近い程でした。
"感染した皮膚切れ一つたりともミレニアには入れない"
其れが委員会の意思だったのです。
ですが、其れが変わりました。詳しい理由は分かりません、時期が来たと思ったのか
そうで無ければ、このままではならないと考えたのかもしれません。
兎に角委員会は機密情報を公開しました。変わりに自分達が直接ワクチン開発に
参加する側にまわりました。日常的な統制の役割だけではなく、
ワクチン開発業全般に深く介入すると言う意図でした。
もしかしたら委員会が突然、民間企業に機密を航海して資金を支援したのは、三社会議が
縺れる事を念頭に置いての事かもしれません。でなければ委員会が大株主である
一種の公企業の私達の病院を調整者の役割として中間に組み込み、ワクチン開発の成果を
民間業者が独占できないようにしたのかもしれません。
結果的にワクチンの開発は委員会の直接統制を受ける私達の病院
即ちセントラルホスピタルが研究全般の管理を行うと共に設備を提供する条件で
『フェニックステクノロジー社』、『S-バイオケミカル社』、『バイオフロンティア社』3事業者が
連合したコンソーシアムが共同研究を担当する事で合意して開始されました」

意欲を持って始まった研究はとんとん拍子に進んだ。委員会もそれ以前には
見られなかった程積極的に協力したし、研究コンソーシアムの意欲もとても高かった。
初期研究は予定より遥かに早く完了した。
初期研究はコンソーシアムの共同プロジェクトであった。この研究資料を置いて3社が
実質的なワクチン開発を競争して、妥当性が最も高い業者を主導事業者として選定し、
他の業者の研究陣は主導事業者の研究に吸収される形態であった。
コンソーシアムとは、当初競争を前提とした事業であった。又、民間企業等が主軸になった為
多少の紛争は避けられなかった。各企業は研究成果が見え始め、ワクチン事業に死活をかけた。
ワクチン開発に成功したならば、想像を絶する代価を手にする事が出来ると知っていた為だった。
企業は過激な競争を行い、競争は熾烈を極めた。だが、その競争が破局に突き進む事はなかった。
研究は病院を通じて委員会が直接的に統制する事でも違いなかった為だった。
問題はその後に起こった。
最終段階を迎えた研究、確信解明をするまさにその時、変異生命体がミレニアに侵入するという
異常事態が発生し、何と委員会との連絡が途絶えてしまったのだ。

「研究の統制は私達病院を通じて成り立っていました。ワクチン開発と関連した
全ての研究進行過程と結果、財務や保安関連支援、或いは機密情報の公開要請など
すべてのものは私達を通じて委員会に報告されたし、
委員会のワクチン開発に対する支援は全幅的で、私達は研究企業等を十分に
統制できるほどの強力な力を有していました。笑い話で"サンプルの常時輸送の為の
ルートが必要だが、その近隣に村があって保安上危険だ"と報告すれば委員会は
その村全体を他の場所に移してくれると言うほどでした。
委員会から与えられた権限はそれだけ強大で、その程度の力でなければ
企業などを制御できませんでした。
ですが、委員会との連絡が一瞬にして全て途絶え、私達はカカシになってしまいました。
委員会で無ければ介入できないというのを分かった以上、彼らには私達の存在など
取るに足らないものになってしまいました。
統制から抜け出した企業等は研究内容を独占すべくあらゆる手段を用いました。
共同進行した研究資料すら共有されず、他業者の研究機密を確保する為に血眼になっていました。
更に他業者の情報へのアクセスを防ぐ為と思われますが、共用データベース上の資料の廃棄までしてしまったのです。
意図的にデータを廃棄したのは明らかでしたが、私達はその全ての状況を
唯指をくわえて見ているしかありませんでした」

病院長は立った今委員会とのすべての連絡が途絶えたと話した。
それならアッパーイースト・サイドさえも委員会との接触は全く無いということなのか?

「あ、少し待っていただけますか。話を遮って申し訳ありませんが。
それなら変異生命体の乱入後、今まで委員会との連絡は全く無かったのですか?
つまり、変異生命体の乱入以後、今まで委員会とは唯一度も通信連絡が
出来なかったと言うのですか?」

病院長が経った今話したように、ワクチン開発は委員会が何よりも管理に気を遣っている
分野だろう。一般通信は勿論、ホットラインでも何でもセキュリティの適用された
緊急通信があり、委員会の人間との連絡も密であっただろう。更にこの病院では
ライラを救出する為に傭兵までも送った。其れにも拘らず委員会とは
全く連絡を取れずに居ると言うのか?
其れに対する病院長の返事は、困惑と疑問に満ちたものだった。

「はい。納得できないかもしれませんが、其れが事実です。
稼動可能な遠距離通信網は全部途絶えました。有線も無線もすべてが、です。
バイオスフィアに人を送ってみたが、誰も帰ってこない。初めには実務者を、
次には武装した軍人を、その次は中隊規模の部隊を送りました。
ですが、誰一人帰ってきませんでした。
正直な所、こんな話は公には絶対に出来ませんが、もしかしたらバイオスフィアが陥落
してしまったのではないか。そのような可能性も念頭に置いていることが事実です。」

ベイリンの提案

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ロングビーチ

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コメント

  • 余りに長い奴は区切って出すしかない・・SSから文字取り出す奴あればいいんだが・・・長くてメモ帳に打ち直すのが大変で・・。 -- 2017-10-02 (月) 10:13:00
  • GT Textを使うんだ。個人的には修正する手間で1から文字打ちしたほうが早いと判断したが。 -- 2017-10-12 (木) 23:44:04