Backstory/Chronicles/Methods_of_Torture_The_Caldari

Last-modified: 2009-01-04 (日) 15:12:04

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Methods of Torture - The Caldari
拷問法 - Caldari

 

彼は黄金色の畑に寝そべっていた。太陽はまだ昇りきっておらず、優しく彼を暖めていた。収穫前の育ちきった畑は、寝そべった彼の目には、小麦の長い茎が空へ手を伸ばしているように見えた。

 

彼もまた片手を上げ、伸ばした。そして下ろした。その間中、視線は空の彼方へ向けられていた。

 

痛みに泣き叫んだことはなかった。全ては、本当に、眠っている間に起こったことだ - あるいはどこか別の場所で。話す相手もいなかった。この出来事を分かち合うことは"したくない"。

 

時折彼は、耳の後ろの傷に手をやっていた。あれが入ってきた場所へ。

 

 

これは自然の摂理というものだが、我々の注意を引く、最も強く反応するものというのは、我々にショックを与えるものだ。あるものはゆっくりとやってくるもので、考える時間を与えられる。だが、またあるものは急に飛びかかってくるもので、そのような時間はない。どんなフィルターもかける暇はない。本能的に対処するしかないのだ。しかしその脅威が、現れたときと同じように急に去ってしまったならば、その狂騒は無意味になるものだ。

 

これもまた自然の摂理というものだが、抽象的な思考と想像力をはたらかせる能力がある高等な生命体は、草むらをはい回る下等な生き物よりも、はるかに様々なことに脅威を感じるものだ。

 

 

思考が勝手に支離滅裂になっていくのは狂気の兆候です。より進行していくでしょう。

 

 

どうやってここにたどり着いたかはよく覚えていなかった。確か...随分歩いたことだけは確かだが、それはどちらかというと快いもので、広大な草地と畑をひたすらさまよい歩くような経験とは不釣り合いな感覚だった。ひょっとしたら今はただ夢の中にいて、目覚めの時を待っているだけなのかもしれない。

 

長い小麦の茎は、その穂が重すぎて互いにもたれ合っているような状態で、彼の身体が作った空間にも垂れ下がっていた。彼はそれをつかみ、親指と四指の間にしっかりと挟み込んで握りつぶし、口の中へ突っ込んで、力なく噛んだ。急ぐことはない。急ぐことなんか何もない。

 

数ヶ月前、彼は盗みをはたらいた。それは彼らしくもなく衝動的なもので、その時は大した事とは思っていなかった。ある夜遅くまで働いていた時に見つけた書類を、ジャケットの中へ滑り込ませたのだ。その書類をどうするつもりだったのか、彼には思い出せなかった。理由なんてなかったのだろう。はっきりとした理由もなく、欲しいと思ったから盗んだだけのことで、何か具体的な目的があったわけではなかった。脅迫に使うか、売り払ってしまうか、あるいは単に元の場所へ戻しておくかといったことをあてもなく考えていた。

 

彼らがやってきた時にも、彼はまだ決めかねていた。そのことが始終苦しみの種となった。彼はまだ何もやっていなかったのだ!書類は盗ったし、後悔しているが、根っからの悪人という訳ではなかった。裏切り者ではなかった。

 

彼らは信じてくれなかった。

 

 

思考が勝手に支離滅裂になっていくのは狂気の兆候です。より進行していくでしょう。

 

 

針と、何か鋭いぎらつくものがあったが、実際の痛みはほとんどなかった。全員が白衣を着込み、無表情な象牙色をした演劇用の仮面をかぶっていた。彼はしばしば眠らされた。何度も何度も同じ質問を投げかけられた。

 

しばらく後になって、あの光景が始まった。彼はそこに横たわり、縛られて、医者が - 彼らのことは「医者」だと思うことにした - ダイヤルをゆっくりと前後に回すのだ。ダイヤルには番号が付いておらず、ただ様々な太さの線が外周に沿って引かれているだけだった。その医者はダイヤルの横に立っていたので、ダイヤルが回される様子を見ることができた。

 

何度も何度も同じ質問を投げかけられた。彼らを失望させる答えを返すごとに、ダイヤルは回されているようだった。

 

 

レベルが低いうちは、大したことは何も起きなかった。彼は時折医者に話しかけたが、その仮面は、実のところ、仮面ではなく、本当の顔だった。象牙色の唇が動き、象牙色の声(8ivory voice。訳語がわからんので直訳))が彼の頭の中へ直接響いた。その医者は、ダイヤルを回す時にだけ現れた。

 

中程度のレベルで彼は、たくさんの足を持つ小さなものたちが、こちらへやってくるのを見た。

 

高いレベルでは、形も、はっきりした色も輪郭も消えて失せた。どんな具体的なものごとも認識することができなくなった。彼の精神は、制御不能の速度で回転する万華鏡のようになった。

 

 

何度も何度も同じ質問を投げかけられた。彼自身が、自分が完全に狂ってしまったと確信するまで。

 

 

蝶が近くの茎にとまった。なぜここへやってきたのだろうと思った。ここには花なんてないのに。

 

蝶は素早いが。彼の手はもっと素早かった。彼は蝶を握りつぶし、彼の隣の地面へ落とした。彼は微笑んだ。蝶を羨ましく思い、手を顔でぬぐいながら、この血は自分の血で、自分もまた死んでいくのだなどと想像していた。

 

 

あるグループが、一度だけ彼を見に来た。全員が医者と同じような仮面をかぶっていたが、体格からしていつもいる人々より若いようだった。医者はスイッチを切ってあるダイヤルに手を置いたが、それ以上は何もしなかった。医者はそのグループの方へ向き、話し始めた。

 

思考が勝手に支離滅裂になっていくのは狂気の兆候です。より進行していくでしょう。

 

そして医者はダイヤルを回し始めた。

 

 

しばらくして、彼は解放された。解放され、とまどいながらさまよい歩いた。誰も彼のやったことは知らなかったが、同時に、それが恥ずべきことであることは誰もが承知していた。当然ながら、新しい仕事は見つからなかった。最下層の路上清掃者ですら、このような恥ずべき男とは話そうとはしなかった。家族は彼を見捨てた。友人は音信不通になった。路上ですれ違う赤の他人にすら、彼の立場を感づいたかのような目で見られた。

 

預金に手は付けられていなかったが、それを切り崩す必要はなかった。年金が支給されていたからだ。これが、どういうわけか、状況をより悪化させた。

 

いくらか正気が戻った時には、思索を巡らすこともあった。自分があんなことをされたのは、自分が重大な犯罪を犯したせいではないのだろう。犯した罪が重大でなく、計画的な考え抜かれた犯罪行為ではなく、普通の従業員がついやってしまうようなことだからなのだろう。彼らは手を焼いていたのだ。だから見せしめにされたのだ、と。

 

彼らは、何かを彼の目の裏側に仕掛けた。何か、としか説明できなかった。まるで、かつて聞いたことのある宣伝技術で、映像の出現があまりに一瞬のことなので、意識上で捉えることができない、といったものに似ていた。Quafe社がこの技術を使って、初期の積極的なマーケティング・キャンペーンの助けにしていたと噂されていた。

 

とても単純な仕掛けだった。瞬きをすると、映像が彼の視神経に乗せられる。毎回ではなく、時には数時間も間が空くこともあり、一旦動き出してもそのはたらきは不規則だった。彼にはいつそれが起こるのか知る術はなかった。

 

そのイメージは犯罪シーンのものだった。あるいは事故なのかもしれないが、どんな災難が起きたらこのようなバラバラ死体ができあがるのか、彼には想像がつかなかった。目を閉じたままの状態では映像は投影されないので、はっきりと映像をとらえることはできなかった。何らかの仕掛けが、本当のまばたきかどうかを判別して映像をしかるべき時にだけ送っているのではないかと、彼は思った。

 

辺り一面が血の海だった。そして他のものも転がっていた。

 

最初にそれが起きたときには、彼は持っていたテイクアウト料理入りの鞄を落としてしまった。彼は数回瞬きをし、頭を振って、鞄を拾い上げるためかがみ込んだ。鞄を掴んだ瞬間にまたそれが起こり、衝撃と恐怖で膝からくずおれてしまった。

 

それは彼の油断した瞬間を突いてきた。毎回ごとに突いてきた。

 

映像のシーンは大体同じであったが、細部は異なっていた。ある時彼は大虐殺のただなかにいる、大きな、漆黒の口と数列に並んだ歯を持つ何物かを見た。またある時は、縁に白っぽい斑点のように並んだライトがあり、医者と、とても不幸な患者を見ているのではないかとも思えた。

 

 

ある日、食料品店の中で、彼はかつて知り合いだった男と行き会った。評判のよい男で、変わり者ではあったが、それでもやはり好かれていた。男は当然、彼を無視した。彼はもの思いにふけっていたので、その男の手が断続的に震えているのを見つけなかったら、通り過ぎてしまうところだった。彼は立ち止まり、割引の品に注目しているふりをしながら、古い友人に視線を送った。彼は、男が時々、まばたきをした時に、その身体を小さな震えが走り抜けていくことに気付いた。

 

彼は困惑して立ちつくし、今見たことに間違いがないか、どうすれば確かに知ることができるか - 誰も彼とは話そうとすらしないのだから - を考えた。そして、今回ばかりはこの孤立した立場を利用できるだろうと悟った。彼は友へ近づき、言った。「すみません、ちょっと」そして、二本の指で、彼の耳の後ろの髪を素早くかき分けた。

 

傷があった。

 

男は身体をこわばらせ、まっすぐに歩き去っていった。まるで背後に怪物の足音を聞き、振り返ってはいけないと思いこんでいるかのように。

 

 

その夜、彼はいつもより泣いた。友の運命のためだけでなく、同じハンデを背負って、それを乗り越えられないでいる自分のふがいなさに。

 

 

思考が勝手に支離滅裂になっていくのは狂気の兆候です。より進行していくでしょう。

 

認知症もまた兆候のひとつです。首尾一貫した判断力が大幅に低下すると、感覚や精神を通して作り上げられた現実感が、客観的なそれから離れていくのです。

 

 

彼は片手を上げ、伸ばした。そして下ろした。その間中、視線は空の彼方へ向けられていた。

 

 

思考が勝手に支離滅裂になっていくのは狂気の兆候です。より進行していくでしょう。

 

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