2-77

Last-modified: 2007-06-15 (金) 22:28:07

みんなのマミー君

 

セリス  「ただいまー」
エリンシア「お帰りなさいセリスちゃん。お使いありがとう」
セリス  「うん。はい、どうぞ」
エリンシア「ありがとう……あら、それは?」
セリス  「ビグルのぬいぐるみだよ。ゲームセンターの近くを通ったとき、
      友達のユリウスに会ってね、くれるっていうから」
エリンシア(もらったと言うよりは……)
ミカヤ  (どう見ても、クレーンゲームか何かの外れを押し付けられた感じね……)
セリス  「? どうしたの、二人とも」
ミカヤ  「ううん……それにしても、凄いデザインね」
セリス  「うん、凄く可愛いよね」
ミカヤ  (いや、どっちかと言うと作った人の頭を疑いたくなるグロテスクな造形なんだけど……)
セリス  「はい、エリンシア姉さん。ぼくはこの子を部屋に置いてくるから」
エリンシア「ええ、お使いありがとうね、セリスちゃん」

ミカヤ  「……相変わらずあの子の少女趣味……と激しくズレた美的センスは治らないわね」
エリンシア「いいではありませんかお姉様……それに、少女趣味なのは私どもにも原因の一端がありますし……」
ミカヤ  「まあ、ちっちゃいセリスを女装させて遊んでたりしたもんね……」
エリンシア「大丈夫ですわ、学校では成績優秀スポーツ万能で通っているそうですし」
ミカヤ  「あの天然ぶりからすると、成績優秀ってのは微妙に信じられないんだけど……」
エリンシア「お友達も多くて、女の子からも男の子からも人気だそうですよ」
ミカヤ  「……男の子からもっていうのが引っかかるけど、友達が多いのはいいことね」
エリンシア「ええ。……確かに、お部屋にはちょっとぬいぐるみが多すぎますけど」
ミカヤ  「やっぱり心配だわ……あ、ぬいぐるみと言えば、マミー君覚えてる?」
エリンシア「マミー君……ええ、もちろん覚えておりますわ。ミカヤお姉様お手製のぬいぐるみですわね」
ミカヤ  「セリスがぬいぐるみ欲しがったんだけど、買ってあげるお金もなくて」
エリンシア「仕方がないから、ありあわせの布を継ぎはぎして作ったんでしたね」
ミカヤ  「……おかげで物凄く不気味なデザインになっちゃったけどね。ゾンビみたいな感じの」
エリンシア「あれ、本当は何をイメージなさってたんですか?」
ミカヤ  「妖精さんのはずだったんだけどね、一応……不器用なお姉ちゃんでごめんね」
エリンシア「ふふ……お姉様、お裁縫は不得意でしたのに、どうしても『わたしがやる』って」
ミカヤ  「だって、あのころはまだ巫女の修行が終わって家に戻ってきたばかりだったんだもの。
      どうにかして皆にお姉ちゃんらしいことしてあげようって、必死だったのよ」
エリンシア「気持ちは十分に伝わっていますわ……それに、マミー君もらって大喜びだったじゃないですか、セリスちゃん」
ミカヤ  「それが一番意外だったわね。すごく気に入っちゃって、どこに行くにも連れ回して」
エリンシア「でも、何故かいつもボロボロにして、『マミー君怪我しちゃったーっ!』って、
      泣き叫びながら帰ってくるんですよね」
ミカヤ  「そうそう。で、そのたびに余った布で直してあげてたもんだから、どんどん継ぎはぎが増えちゃって」
エリンシア「……今はどうなってるんでしょうね、マミー君」
ミカヤ  「うーん、他にちゃんとしたぬいぐるみ持ってるんだし……捨てちゃったんじゃない?」
エリンシア「そんな……セリスちゃんは物を大切にする子ですし」
ミカヤ  「じゃ、見にいってみましょうよ」

~セリスの部屋~

エリンシア「(コンコン)セリスちゃん、ちょっと入ってもいい?」
セリス  「うん、どうぞ、入って」
ミカヤ  「お邪魔しま……うわ」
エリンシア(これは……前見たより、ぬいぐるみの数が増えていますわね……)
ミカヤ  (ついでに、何かバールとかスケルトンとか、恐ろしげなデザインのぬいぐるみが多いんだけど)
エリンシア(確かに……あ、お姉様、あれ)
ミカヤ  (……マミー君だわ!)
セリス  「? どうしたの、二人とも」
エリンシア「ああ、いえ……セリスちゃん、まだ持ってたのね、マミー君」
ミカヤ  「それに、他のぬいぐるみの真ん中に置いてあげてるし……」
セリス  「もちろんだよ。だって、マミー君は僕の一番最初の友達だもの」
ミカヤ  「いい子だわ……とってもいい子だわセリス! お姉ちゃん感動で涙が出そう!」
セリス  「そんな……大袈裟だよ姉さん」
エリンシア「……あ、でもマミー君、ちょっと端の糸がほつれているみたい」
セリス  「えっ……あ、本当だ! 気がつかなかったなあ、いつも隣にいるのに」
エリンシア「隣って……ひょっとして、毎晩抱いて寝てるの、セリスちゃん?」
セリス  「そうだよ?」
エリンシア(……やっぱり……)
ミカヤ  (……ちょっと心配ね)

 ~一階、居間~

セリス  「……よし、直った」
エリンシア「セリスちゃん、お裁縫上手になったわね」
セリス  「うん、学校で習ってるし、いつもマミー君を直してあげてるし」
ミカヤ  「そんなに大事にしてくれてたんだ……」
エリンシア「よかったですわね、お姉様」
ミカヤ  「うん……あれ、でも、ちょっとおかしくない?」
エリンシア「何がですか?」
ミカヤ  「いや、そんなに大事にしてるのに、どうして子供の頃、いつもマミー君をボロボロにして帰ってきたのかしら」
エリンシア「……そう言えば、おかしいですわね……」
ヘクトル 「ただいまーっ」
エフラム 「ただいま」
リン   「ただいまっ」
エリンシア「ああ、お帰りなさい。三人揃ってなんて、珍しいのね」
ヘクトル 「おう。そこでバッタリ会ってよ……うおーっ!」
エフラム 「おお!」
リン   「ああっ!」
三人   「マミー君だっ!」
エリンシア「……え?」
ミカヤ  「……皆、覚えてるの、マミー君?」
ヘクトル 「そりゃそうだ、よくマミー君相手に魔物退治ごっこしたからな」
エリンシア「……魔物退治、ごっこ?」
エフラム 「ああ、こいつをこうやって(マミー君をつかむ)」
セリス  「あ、ちょっと!」
エフラム 「投げ飛ばしたり!(ブゥン!)」
ヘクトル 「叩き落したり!(バシッ!)」
リン   「そんでもって踏んづけたり!(ゲシッ!)」
ミカヤ  「ちょ、何やってんのみんなーっ!?」
セリス  「ひどいよ!」
リン   「ハッ……しまった、つい昔を思い出して……! ご、ごめんねセリス」
セリス  「もう……! ひどいよ、どうしてみんな、いつもマミー君をいじめるのさ!」
ヘクトル 「いや、だってよ……マミー君見てるとなんつーかこう、疼いてくるんだよな、体が」
エフラム 「そう。何というか、そいつがセリスに引き摺られているのを見るだけで、こう」
リン   「経験値稼ぎの好機! っていう気分になって……ああ、駄目!
      じっと見てたらまたタコ殴りにしたくなってきちゃった!」
ヘクトル 「クソッ、マミー君をこっちによこせ、セリス!」
セリス  「や、やめてよーっ! マミー君をいじめないでーっ!」
エリンシア「……マミー君がいつもボロボロなのは、そういう理由があったんですね……」
ミカヤ  「……あなたたち、人がセリスのために作ってあげたぬいぐるみでそんなことを……」
エフラム 「ほら、いいから貸せ、セリス!」
リン   「ちょっとだけだから、ね!?」
セリス  「駄目だってばーっ! ああ、そんなに引っ張らないで」

 スポーン!

セリス  「ああ、マミー君が飛んでっちゃう……!」
アルム  「それでねセリカ」
セリカ  「まあそうなのアルム」

 ポトッ(二人の目の前にマミー君が落ちた音)

アルム  「……」
セリカ  「……」
アルム  「ラブラブファルシオン!」
セリカ  「ラブラブライナロック!」
セリス  「ああ、二人の必殺の一撃でマミー君がまた吹っ飛ばされて……!」
ミカヤ  「それでも原型留めてるところが凄いわね、マミー君……」
リーフ  「痛っ……!」
ロイ   「うわぁ、どこからか飛んできたぬいぐるみが通りすがりのリーフ兄さんを直撃したぁっ!」
リーフ  「この人でなしーっ……って言うほど痛くはないけど」
ロイ   「ああ、これマミー君だよリーフ兄さん!」
リーフ  「ほ、本当だ! 逃がすなよロイ、軟弱な僕らが経験を積むためには、なんとしてでもマミー君を……!」
ロイ   「分かってるよリーフ兄さん!」
マルス  「そうはいかない、マミー君は僕が頂く!」
リーフ  「クソッ、マルス兄さんはいつもそうやっていいとこ取りで……!」
エイリーク「皆さん、何をそんなに騒いで……これは……こ、このぬいぐるみは……!」
ミカヤ  「うわ、あの大人しいエイリークが力いっぱいマミー君の首を絞めてる!」
セリス  「や、止めてよエイリーク姉さん!」
エイリーク「ハッ……ご、ごめんなさいセリス! で、でも、このぬいぐるみは……ああ……っ!」
エリンシア「あのエイリークちゃんに抑えがたい暴力衝動を感じさせるなんて……!」
ミカヤ  「凄すぎるわ、マミー君……!」
シグルド 「やあただいま皆、今日は珍しく早く……ムッ、こ、これは……!」
ミカヤ  「ちょ、シグルド、なにティルフィング抜いてるの!?」
シグルド 「し、失礼姉上……しかし、このぬいぐるみをこのままにしておく訳には……!」
ミカヤ  「何でそうなるの!?」
ヘクトル 「クソッ、シグルド兄貴、マミー君を渡せ!」
エフラム 「引っ込んでろヘクトル、あれは俺の経験値だ」
ヘクトル 「なんだとテメエ」
リン   「今の内に私が……!」
ロイ   「そうはさせないよリン姉さん!」
リーフ  「たまには僕にも経験値分けてよ!」
マルス  「いやいや、リーフなんかにマミー君はもったいないよ」
エイリーク「ああ、わたしの胸に汚れた衝動が……!」
シグルド 「このぬいぐるみを倒せば、スピード昇進も夢ではない気がしてきた……!」
 E ・ X ・ P ! !   E ・ X ・ P ! !

エリンシア「どこからかEXPコールが……!」
ミカヤ  「侮り難し、マミー君……!」
セリス  「うわーん、マミーくーんっ!! 死んじゃやだーっ!」

エリウッド「……という騒ぎがあって、皆ぐったりしてるんだね……」
ミカヤ  「ええ……」
セリス  「ぐすん……またマミー君がボロボロになっちゃった……」
エリウッド「ははは、災難だったねセリス(ボコッボコッ!)」
セリス  「爽やかに笑いながらマミー君殴らないでよエリウッド兄さん!」
エリウッド「はっ……ご、ごめん、つい……」
セリス  「……やっぱり、マミー君を部屋の外に出すのはもう止める……」
エリンシア「その方が……」
ミカヤ  「いいでしょうね……」
セリス  「ごめんねマミー君、部屋で直してあげるからね……」
ミカヤ  「……行っちゃった……」
エリンシア「かわいそうなセリスちゃん……」
エリウッド「……しかし、凄いぬいぐるみだ……ミカヤ姉さん、あれ、何か呪術でも施してあるの?」
ミカヤ  「いや……そんなはずは……」
アイク  「ただいま……なんだ、何で全員ぐったりしてるんだ?」
ミカヤ  「ああ、お帰りアイク。実は……もごっ!?」
エリンシア「いえ、何でもありませんわ!」
エリウッド「そうそう、何でもないよアイク兄さん!」
アイク  「……? そうか、ならいいんだが……風呂、入らせてもらうぞ」
エリウッド「……行ったか」
ミカヤ  「ぶはっ……ちょっと、何するの!」
エリンシア「駄目ですよお姉様、アイクにマミー君のことを話しては」
ミカヤ  「? どうして?」
エリウッド「考えてもみなよ、あの自分を鍛えるのが大好きなアイク兄さんが、マミー君を見つけたら……」
ミカヤ  「……ああ、なんかラグネルの衝撃波で我が家が倒壊してる絵が浮かぶわ……」
エリンシア「そういうことです……マミー君の存在は、アイクには絶対に秘密ですからね!」

セリス  「(チクチク)うう……皆ひどいよ、どうしてこんなにマミー君をいじめるのかな……」
マミー君 「……」
セリス  (……あ、でも確かに、なんだかちょっといじめたくなるかも……)
マミー君 「……」
セリス  「(キョロキョロ)……えいっ(ポコッ)」

 ポロッ

セリス  「うわぁ、マミー君の首が取れちゃった! ご、ごめんねマミー君、つい……!」

<おしまい>