フィギュアスケートのルールって難しい?

Last-modified: 2015-04-10 (金) 12:51:49
「フィギュアスケートってルールが難しくて分からないわぁ。」

これ、誰もが思うことではないでしょうか。
大好きな選手が一生懸命演技しても、思った通りの点数が出ない!なんで?と思った方も沢山いらっしゃるでしょう。
でも、ツボが分かってしまえば決して理解出来ないものでもありません。
ここでは「入門編」ということで、ルールの全体像を掴んでいただく、つまり、読んでいただく方々にルールの「世界地図」を頭に描いていただけることを目的としています。

ルールの概要

採点項目は

  • 技術要素点
  • 演技構成点

この2つから成り立っています。

このうち、まず「1.技術要素点」から説明します。
頑張って読んでみてください。

技術要素点

評価する人

「テクニカルパネル」と「ジャッジパネル」です。

テクニカルパネル
3人の合議制です。1人で決めている訳ではありません。
ジャッジパネル
国際大会では9人が採点します。この中で最高点と最低点、それぞれ一人ずつをカットして7人の平均値を点数に反映します。つまり、一人だけ飛び抜けて高い点数、あるいは低い点数が出されても、カットされて点数には反映されません。

何を評価しているのか

テクニカルパネル

男女シングルでは「ジャンプ」「スピン」「ステップ」の3つの要素を判定していて、彼らの役目は、例えばジャンプであれば「回転が足りているか」「エッジは正しく踏み分けられているか」等を見ています。
つまり、「要素を実行出来たかどうか」です。そして、ジャンプ、スピン、ステップに、それぞれ決められた評価項目があります。(※具体的な評価項目の詳細は××を読んでみてください。)

ジャッジパネル

男女シングルでは「ジャンプ」「スピン」「ステップ」に加えて「コレオグラフィックシークエンス」について採点していて、例えばジャンプであれば「高さ、距離が十分か」「流れがあるか」等を見ています。
つまり、ジャッジパネルは「質」を見ていて、これを「GOE(Grade of Execution)」と呼びます。
こちらも、ジャンプ、スピン、ステップ、コレオグラフィックシークエンスに、それぞれ決められた評価項目があります。

(※具体的な評価項目の詳細は××を読んでみてください。)

よくある誤解として、「姿勢が美しければ高得点」というものがありますが、姿勢の美しさは評価項目のごく一部に過ぎません。これは、各エレメンツの詳細な採点項目をご覧いただければご理解いただけるものと考えています。

演技構成点

次に「2.演技構成点」について説明します。

評価する人

技術要素点と違って「ジャッジパネル」のみが「それぞれが見たままを評価する」をコンセプトとして評価します。

何を評価しているのか

以下の5項目を評価しています。

  • スケーティング技術 (Skating Skills)
  • 要素のつなぎ (Transitions/Linking Footwork)
  • 演技力、実行・遂行力 (Performance/Execution)
  • 振付け (Choreography/Composition)
  • 曲の解釈 (Interpretation)

フィギュアスケートは、その名称(figure=図形)からも分かるように、そもそもは図形を描いて滑走する技術を競うものでした。つまり、氷上で如何に正確に図形を描くことが出来るかという「スケーティングスキル」がとても重要なのです。演技構成点は、このスケーティングスキルが全ての評価の基本になっています。単純な姿勢の美しさが評価項目のごく一部に過ぎないのも、これが理由です。

また、演技構成点を「芸術点」という、とても曖昧なイメージで考えておられる方もいらっしゃいますが、正確には「スケーティングスキルをベースとした表現『技術』点」なのです。

バンクーバー五輪の後、ファンの間で「演技構成点なんぞ廃止してしまえ!」という意見も見られましたが、演技構成点が無い競技を想像してみてください。スケーティングスキルは一切関係なく、音楽との同調性も無し、ただのジャンプ大会、スピン大会、ステップ大会になり、これほど人気が出ることはなかったでしょう。
派手なジャンプに比べて地味な存在ですが、演技構成点こそがフィギュアスケートをフィギュアスケートたらしめている最も重要な要素なのです。

なお、スケーティングスキルといっても各人各様でそれぞれに特徴があります。新書館発行の「フィギュスケート美のテクニック」から引用してみましょう。

浅田真央選手
男子顔負けのパワフルかつ多彩なエッジワークでストレートラインステップを披露できるエッジワークの女王
キムヨナ選手
女子としては類をみないスピード感で演技をこなしジャッジをうならせた
パトリックチャン選手
エッジの一番良い部分に乗る器用さが光った。スピードを殺す場面が全く無い
高橋大輔選手
重心移動が上手い。身体が浮いているかのように思わせるやさしい氷へのタッチでスケーティングしたり、上半身で踊りながら複雑なステップをこなせる
 

この演技構成点においてよくある誤解として、「クロスの多い選手がPCSで高い評価をされることは無い」という話を良く見かけますが、それほど単純なものではありません。クロスそのものの質も大事ですし、漕ぐ回数が少なくてスピードが出ないより、漕ぐ回数が多少多くてもスピードがあった方が見栄えが良いうえに、高いスピードで正確なエッジワークをこなせる技術力が高く評価されるからです。

 

ここのPCS解説映像/スケート技術のスピードだと
7ストロークでリンクを広く使っています。
3ストロークでリンク全体をほぼカバーしています。
同じく3ストロークで加速しながらリンクの約1/3をカバーしています。
この3つ素晴らしいとか書いてなくて差が不明ですね。

 

フィギュア用語解説ってサイトにある力に頼ってスピードを出す滑りでは最高評価は難しそうです。
ここのPCS解説映像/スケート技術の流れ (Flow)に載っている内容だと
ストロークの数が多くて質が悪い例が載っている。
スピードを上げるのが少し大変そう。
ルールのスケート技術の流れと楽な滑りの訳が載っているサイトだと
体重をうまく乗せることで、無理な力を使わずに加速しているように見えるか。
とか書いてある。
クロスが多くて無理な力が多いがスピード自体は出ている
クロスが多いが無理な力は大して使ってなくてスピードが出る
クロスが多くてスピードが出ない
クロスが少なくて無理な力を使わずスピードが出る
クロスが少なくてスピードが出ない
流れと楽な滑りだけで評価が決まるわけではないがこんな感じと予想
3歩でトップスピードに乗れるのが理想的なスケーティングとか、一蹴りの伸びとかそんな話もあるので、
クロスが少ない方が無駄な力を使っていない加速と判断されやすそうな側面もあるでしょう。

 

以上のように評価項目はとても複雑です。この演技構成点については慣れないと見分けるのは難しいですが、見分けることが出来るようになればフィギュアスケートの奥の深さが実感できることでしょう。
(詳細は××を読んでみてください。)

プロトコルの見方

テクニカルパネルとジャッジパネルによって評価されたデータは「プロトコル」として記録され、ファンなら誰でも見ることが出来ます。でもなんだか数字がずらずらと並べられていて「うーん、良く分からない・・・。」という方も多いのではないでしょうか。
実はそれほど難しいものでもありません。

ここではプロトコルの見方を説明しますが、プロトコルと文章を対比しつつ見ていただくことになります。
それでは、例として2012世界選手権女子、村上佳菜子選手のプロトコルをご覧ください。

20140211プロトコルの見方3(60).jpg

まずは技術要素点から点数の出し方を見ていきましょう。

左端の1~12の番号で並んでいるものが、この時村上さんが実行したエレメンツの全てです。上から順番通りに実行しています。(

まずはテクニカルパネルのお仕事です。

エレメンツの一番上、「1 3Lz」の1行目)の右横を見てください。 “e”マークがついています。(
これは3Lzに挑みましたが、残念ながらテクニカルパネルにエッジエラー判定されてしまったので、このマークがついてしまいました。(“e”マークの他にも種類があります。詳細は××を見てください。)

さらに右を見てください。「6.00」と書かれていますね。(
これは3Lzの「基礎点」と呼ばれるものです。
もし、この3Lzの回転が「1/4の基準」に足りなければ70%の点数になり、「1/2の基準」に足りなければ2Lzの点数になってしまいます。
今回の判定では、回り切ったので3Lzの「基礎点」はしっかりもらえました。

で、次はジャッジパネルのお仕事です。

さらに右。「-0.70」の表記()があり、続いて「0  -1  -1  -1  -1  -1  -1  -2  -1」というように9つの数字が並んでいます。(

ここで9人のジャッジパネル各人が村上さんの3Lzの質を評価した数値が並んでいます。
その中から最高点(0)と最低点(-2)をカットしたうえで、残り7つの数値(-1のみ)を足して7で割った平均値が「-0.70」)です。

ちなみに。
実際に自分で足し算と割り算をやってみて「あれ?」って思う人もいることでしょう。

誰が計算しても「-0.70」などという数値は出てきません。「-1.0」になってしまいます。
これはそれぞれのエレメンツに係数(価値尺度)が設定されているためです。
この係数は現在最新の数値が「国際スケート連盟コミュニケーション1790号」に記載されています。(リンクを張る。ただし、リンク切れも考慮してダウンロードしたものにリンクを張るのがいいかも)

1790号の2ページに実際に3Lzの価値尺度が書かれています。

価値尺度_0.jpg

今回の3Lzで採用される数値は最高点(0)と最低点(-2)を除いた「-1」のみですが、この「-1」が「-0.7」に換算されるのです。-0.7×7で-4.9、それを7で割ると-0.70になります。

そして、この「-0.70」と基礎点の「6.00」)を足した数値が、右端に記載されている「5.30」)です。フリーはエレメンツが全部で12項目ありますが、全てこのような形で計算され、その合計数値が「55.53」)になるのです。

20140211プロトコルの見方3(60)_0.jpg

次は演技構成点の点数の出し方を見ていきます。

左下にPCS5項目が並んでいます。(

  • スケーティング技術 (Skating Skills)
  • 要素のつなぎ (Transitions/Linking Footwork)
  • 演技力、実行・遂行力 (Performance/Execution)
  • 振付け (Choreography/Composition)
  • 曲の解釈 (Interpretation)

そして、その右側に「1.6」という数値が縦に5個並んでいます。(
これは、男子ショートプログラム、女子ショートプログラム、男子フリープログラム、女子フリープログラムの4種類全ての技術要素点と演技構成点を同じ比率にするための数値です。

これが女子ショートプログラムでは「0.8」という数値が並んでいます。

なぜ半分になるかというと、ショートプログラムはフリープログラムに比べてエレメンツが半分しかないからです。
半分しか無いということは、総得点の中で演技構成点の比率が異様に高まるということを意味します。
それを係数をかけて同じ比率にしているのです。
(男子フリープログラムは2.0、男子ショートプログラムは1.0です。)

それでは早速村上さんの「スケーティング技術 (Skating Skills)」の点数を見てみましょう。

20140211プロトコルの見方3(60)_1.jpg

「8.00 7.00 7.00 8.00 7.25 7.00 8.00 7.25 7.25」という数字が並んでいます。(
こちらも技術要素点と同じく、9人のジャッジパネル各人が村上さんのスケーティング技術を評価した数値です。
この中から最高点8.00と最低点7.00を一つずつカットされた平均値が右端の「7.39」です。(
こちらは技術要素点のような面倒な価値尺度はありません。そのまま計算します。

「スケーティング技術 (Skating Skills)」以外の残り4項目も計算方法は同じです。
その結果が上から「7.39」「6.96」「7.18」「7.11」「7.11」となります。
この5項目を合算した数値は「35.75」で、これに係数「1.6」)を掛けた数値が右下の数値「57.21」)になります。

それとプロトコルの一番下にDeductions:ということで「0.00」という数値があります。(
こちらは

  • 1回転倒した
  • 衣装の一部を落とした
  • タイムオーバーしてしまった

場合にそれぞれ-1がカウントされて総合計から引かれます。

技術要素点の合計値「55.53」)と、演技構成点の合計値「57.21」)を足した総合計が真ん中上やや右にあるTotal Segment Scoreの「112.74」)で、これが村上さんの合計点数です。
転倒は無かったので、Deductionsは0点で、点数に影響はありません。

・・・・・以上がプロトコルの見方です。

なお、これもよくある誤解で、ネットでは「特定の選手だけ失敗ジャンプでも加点されている」という話を見かけることがありますが、各大会のプロトコルを丹念に見ていけば結構存在していて、今回例に挙げた村上さんのプロトコルにもあります。

それがエレメンツの9番目に記載されている「9 1A」の9行目)です。
これは9番目に実行したエレメンツである2Aが失敗して1Aになってしまったものです。
それでも+1をつけたジャッジパネルが2人。結局GOEはプラス評価となっています。

なぜなら、ジャッジパネルは1Aであれば、あくまで「1Aがどうだったか」を見ているだけで、2Aかどうかは一切関係無いからです。

以上がルールの概要とプロトコルの見方です。
この見方さえ分かれば、特定の選手が転倒ジャンプで加点されている、という話も誤解であることが分かります。

まとめ

村上佳菜子さんのプロトコル(2012世界選手権 フリープログラム)を元に、当テキストで記載したことを図とPoint!に纏めました。
これが現在の「採点ルールの全体像」です。

表改.jpg

★Point!

  1. 新採点方式は「技術要素点」「演技構成点」の2つの要素から成り立っている。
  2. 技術要素点
    • テクニカルパネルとジャッジパネル両方が判断しており、それぞれの役割は異なっている。
    • テクニカルパネルは各エレメンツにおいて「要素を実行できたかどうか」を判断する。彼らは一人で判断するのではなく、3人の合議制である。一人が独断で判断することは無い。
    • ジャッジパネルは「質」を判断する。国際大会では9人がそれぞれ独立して採点し、最高点と最低点をカットして7人の平均値を算出する。
    • ジャッジパネル、テクニカルパネル共に採点が不透明と思われがちだが、実は「評価項目」が存在し、彼らはその基準に従って判断している。(具体的な評価項目は、当サイト××参照。)
  3. 演技構成点
    • ジャッジパネルのみが判断する。国際大会では9人がそれぞれ独立して採点し、最高点と最低点をカットして7人の平均値を算出する。
    • 演技構成点を「芸術点」という、曖昧なものと解釈する向きがあるが、正確にはスケーティングスキルをベースとした「表現『技術』点」である。その判断要素は5項目から構成されており、それぞれに「評価項目」が存在し、彼らはその基準に従って判断している。(具体的な評価項目は、当サイト××参照。)

・・・いかがでしょうか。

誰しもが競技結果を見て

「あれ?あの選手はミスしてないのに、ジャンプを転倒したこの選手が勝ったよ?なんで?」

と思ったことは一度や二度はあると思うのですが、その理由は現在の採点ルールが「各要素を一つ一つ集計していって、その合計点数を競うもの」だから、なのです。

ですので、例えばジャンプが一つ失敗したとしても、

  • 実は基礎点が低いジャンプだった。
  • スケーティングスキルがとても優れていて、一つぐらいジャンプを失敗したって「ヘ」でもない。

など、色々な理由が有り得ます。これが現在の採点ルールなのです。

さて、ここまで説明させていただいた「採点ルールの全体像」を把握していただいた後は、個別の詳細ルールの理解が待っています。これも丹念に追っていけば、ルールが分からない事によるストレスから解放されて、大好きな選手が何に努力していたのかも分かります。

ぜひ当サイトで勉強してみてください!