SOV, LoV, GOEガイドラインの改訂 (ISU Communications 1861)
2014年4月、ISU Communications 1861: Scale of Values, Levels of Difficulty and Guidelines for marking Grade of Execution が発表された。以下、変更点について解説するが、誤認の可能性もあるため原文を確認するか、いずれ発行されるであろう公式の和訳を参照してほしい:
ISU Communications 1861: http://static.isu.org/media/143595/1861-sandp_sov_levels-of-difficulty_goe_2014-15.pdf
ジャンプ
エッジエラーの厳格化
軽度のエッジエラーに対するサイン "!"が再導入され、重度のエラー("e")に対する基礎点の引き下げも導入された。
2) Take-off edge in F/Lz: signs “e” and “!” indicate an error. The base value of the jump with a sign “e” is approximately 70% of the original base value. If both signs < and “e” are applied for the same jump, the base value is approximately 50% of the original base value. Exact reduced values are indicated in the respective columns.
表にまとめると、以下のようになる:
程度 | 記号 | 基礎点の減点 | GOEの引き下げ | 最終的なGOE |
重度のエラー | "e" | 70%に減点(同時にURの場合は50%) | -2から-3の引き下げ(以前と同様) | マイナスとなる |
軽度のエラー | "!" | 減点なし | -1から-2の引き下げ | マイナスに制約されず |
従前はGOEの引き下げのみだったのが、重度の場合はそれに加え基礎点が70%と引き下げられることとなり、かなりの厳格化と言える。テクニカルが付与する"e"に対しジャッジパネルが"SEVERE(重大な)"であるか(GOE-2to-3/最終的にマイナス)、"UNCLEAR(不明瞭な)"(GOE-1to-2)であるか判定していたが、この改訂によりテクニカルが両者を判定するように変更された。
また、実行されたジャンプが Flip か Lutz かの判定は、「(ジャンプへのプレパレーションなどの)企図に準じて( according to the intent (preparation to the jump).」行う、と記載されている。この規定は2015-16までの2シーズン導入され、継続して議論していくとのこと。
必要回転数
ジュニア/シニアに関して、1.5回転未満のジャンプは無価値となる。つまりアクセル以外のシングルジャンプは点数が0となるが、[コンビネーションジャンプに用いた場合、コンビネーションとして認定されるかどうかは不明だが、あくまで no value であり not counted ではないので、認定されると推定される]。
Jumps with less than 1.5 revs in both Short and Free programs of Seniors/Juniors will have no value.
また、SPに関して、規定された回転数を満たさないジャンプを実行した場合、無価値となる。
In Short Program jumps which do not satisfy the requirements (wrong number of revolutions) will have no value; if a combination of two double jumps is not allowed (senior men and ladies, junior men), jump with a lesser value will not be counted.
例えば、シニア男子SPではステップからのソロジャンプとしてトリプルを飛ぶことが要求されているが、空中でバランスを崩すなどしてダブルで降りてきた場合、得点がつかなくなる(以前はGOEは強制的に-3になるもののダブルジャンプ相当の得点が得られていた)。コンビネーションジャンプにおいて、トリプル・ダブルが要求されているのにも関わらずダブル・ダブルのコンビネーションを実行した場合、基礎点が低い方のジャンプは得点がつかなくなる(2Lz2Tとすると、基礎点の低い2Tがキックアウトされ、2Lzのみの点数となる)。
スピン
要件の導入と基礎点の減額("s"、"ss")
5つの必須要件(Elements Requirements)が新設され、これを満たさない場合は基礎点が減点されるように改訂された:
- フライングスピンに関して、
- 1)明確で目に見えるジャンプ("a clear visible jump")
- 2)フライングスピンに関して、最初の2回転のうちに基本的な着氷姿勢に達する("basic landing position reached within the first 2 revs")
- 3)フライングスピンに関して、着氷後2回転保持する ("held for 2 revs after the landing")
- 足換えスピンに関して、
- 4)それぞれの足で少なくとも一つの基本姿勢を取る ("at least one basic position on each foot")
- 足換えコンビネーションスピンに関して、
- 5)3つの基本姿勢をすべて取る
これらの5つの要件のうち、
- 1つのみ満たさなければ "s"が付与され、基礎点が約70%に減点される
- 2つ以上満たさなければ "ss"が付与され、基礎点が約50%に減点される
速やかにポジションを取り、それを最低限保持すること、また基本姿勢をしっかり取ることが要求され、これを満たさない低品質なスピンに対しては、GOEのみならず基礎点も減点されるようになった。
レベル要件の変更
- バックエントランスの廃止
- 通常のバックエントランスはレベル上げ要件から除外された("regular backward entry is no longer considered a difficult entry. ")
- 同じ足での難しい姿勢変更(Difficult change of position on the same foot)
- ただし、何を持って「難しい」姿勢変更となるかは現時点では明確なアナウンスがなされていない。
- 難しいスピンへの入り(Difficult entrance into a spin)
- ただし、何を持って「難しい」入りとなるかは現時点では明確なアナウンスがなされていない。
- 2つ目の足(足換え後の足)で、3基本姿勢すべてを含む(All 3 basic positions on the second foot)
- 以前は、「左右の足とも3 基本姿勢すべてを含む」だったのが、足換え後の3基本姿勢の保持でよいことに(緩和)
- フライングエントランスの要件変更
- (詳細追記予定)
姿勢要件の変更
- キャメル・アップワード姿勢の要件緩和
- (CS) キャメル・サイドウェイズ:肩のラインがねじれていて垂直な姿勢になっている
(CU) キャメル・アップワード:肩のラインがさらにねじれていて、水平もしくはほぼ水平な姿勢になっている
↓
(CU) 肩のラインが垂直な姿勢よりも更にねじれている。(with the shoulder line twisted more than vertical position.)
これは肩のラインをほぼ水平になるまで(約180度)ねじるというのは相当難しく、旧ルールを厳密に適用したときにレベルが認定されないケースが多かったことに対応したと思われる。90度よりもねじれていればCU姿勢と認定されるようになった。キャメルスピンの難しいバリエーションについて、もしフリーレッグの高さが(ヒップの位置より)長い間落ちているときには、依然レベル獲得要件としては認められるが、ジャッジはGOEでこれを減点する。
(If the free leg drops down for a long time while preparing for a difficult camel variation, the corresponding Level feature is still awarded, but the Judges will apply the GOE reduction for “poor/awkward/unaesthetic position(s)”.)
ステップ
体の動き
体の動きに関して、「上体("upper body")」であったのが、"upper"が削除され、動かすべき部位として「お尻」、「両足」が加えられた。より広範囲な部位を動かすことが要求されている。
総括
基本的な技術をより的確に実行されることが要求され、それが適切に実行できないことに対するペナルティが厳しくなった印象。(追記予定)
ISU Communicatinos 1863: AGENDA OF THE 55th ORDINARY CONGRESS DUBLIN - 2014
2014年6月にダブリンで開催されるISU総会で討論される議題集(アジェンダ)。各項目はいまだ議論中であり、決定事項ではない。フィギュアスケートに関する議題は186-287の約100項目にわたる。そのうち影響の大きいと思われる議題(主にシングルに関して)をいくつか取り上げる:
ISU Communications 1863: http://static.isu.org/media/143870/1863-agenda-isu-congress-2014.pdf
(参考サイト:http://sthmytkh.blog108.fc2.com/blog-entry-2148.html)
ジャッジ・採点システム
ランダムオーダー制の廃止(#208:ロシア). 、およびジャッジ名のヒモ付(#209:アメリカ)
現在はISU主催大会(オリンピック、GPシリーズ、ワールドなど)では、スコアシート上のジャッジの並び順が選手ごとに異なる(ランダムオーダー制)が、それを廃止する提案。
提案理由:匿名性の廃止により採点システムの透明性が高まり、ジャッジの信頼性も上がる。
これに加え #209(アメリカ)では、ジャッジが出した採点とジャッジ名を紐付けて公開するよう求めている。
PCSの掛け値(Factor)の変更 (#200, #204:テクニカルコミッティー)
現在は、男子シングル SP: 1.0、FS: 2.0 / 女子シングルおよびペア SP: 0.8、FS: 1.6となっているのを、一律 SP: 1.0, FS: 1.8 に変更する。
提案理由:すべての競技領域(シングル、ペア、ダンス)で同じ条件にするため
演技実施・プログラム
演技時間の変更(#257:テクニカルコミッティー)
以下の通り競技時間を変更、統一:
シニア/ジュニア | 種別 | 現在 | 変更案 |
シニア | 男子 | 4.5min | 4.0min |
女子 | 4.0min | ||
ペア | 4.5min | ||
ジュニア | 男子 | 4.0min | 3.5min |
女子 | 3.5min | ||
ペア | 4.0min |
つまり、シニアは一律4分、ジュニアは一律3分30秒。
もしこれが採択された場合、男子シニアのジャンプの実施可能回数は8回から7回に低減される(#265/6)
ダブルジャンプの制限(#267:テクニカルコミッティー)
いずれのダブルジャンプ(2A含む)も、フリープログラムで2回までしか実施できない。
Any double jump (including double Axel) cannot be included more than twice in total in a Single’s Free Program (as a Solo Jump or a part of Combination / Sequence).
(追記予定)
スタート時の持ち時間の短縮(#193:オランダ)
現在は選手がアナウンスされてから開始ポジションの保持まで1分間が認められているが、滑走順が2番目以降の選手に対して、これを30秒に短縮する提案。
理由:競技時間短縮のため。第ニ滑走以降の選手は、前選手の採点時間も準備にあてることができる。