概要
ジャンプの回転不足判定 - ネット上においてもいろいろな議論がなされ、かつ多くの誤解を生む議題の一つである。判定基準はテクニカルハンドブックにて規定されてはいるが、記述が難解で分かりにくく、これを読んで理解するのはかなりハードルが高い。
これに対して、日経新聞2011/11/11に掲載された記事「フィギュア、「回転不足」って何なのか」(魚拓)において、 ISU理事でジャッジでもある平松氏が明確かつ端的な一文で解説している:
「踏み切る足のブレード(スケートの刃)が氷から離れた瞬間から、着氷する足のブレードが氷に着くまで」をいう。ジャンプを見る際、ブレードが氷を離れた時点を覚えておき、どの角度でブレードが着氷したか、を基準に判断すればいい。」
以下、これに基づき図などを用いつつ説明を加えていく。
説明動画
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ジャンプの流れ
まず確認として、ジャンプは以下の様な流れで行われる:
- プレパレーション
- 踏み込み
- 離氷
- 空中姿勢(回転)
- 着氷
- チェック
プレパレーションと踏み込みは厳密に区別をすることは難しいが、ここではそれ以前のスケーティング動作から当該ジャンプ動作に入るための準備;フリップであれば右フォアインからモホークで左バックインへ乗り換え、などを「プレパレーション」とし、そこからダウンに入り膝を曲げエッジに乗り込んでいく動作を「踏み込み」とする。
(追記)
基準線
図上部から下部に向かって進行し、
- 踏切に応じてエッジが弧を描き、最終的にトゥに出て飛び上がる。この点を「離氷点」
- 空中で回転しトゥから着氷する。この点を「着氷点」(点O)
とした時、離氷点と着氷点を結ぶ直線が、当該ジャンプの回転が足りてるかを判定する基準となる直線で、ここでは「基準線」で呼ぶ。空中で方向が変わることはありえないので、体の軸はこの直線上に進む。
回転が足りてるかの判定は、
- 基準線の進行方向に置かれた任意の点A
- ブレードの踵、点B
としたときの角AOBの角度が許容範囲内かどうかで行う。ここでは当該角度を「着氷角度」と定義する。この着氷角度が90度以内であれば回転は充足してると認定され、それ以上であれば回転不足あるいはダウングレードとなる(下記参照)。
なお、離氷時のブレードの角度は関係ない(後述)。
離氷
まず、ジャンプの原理上、離氷前にエッジは弧を描くということを抑えておかねばならない。
- テイクオフの最後はトゥに出る(最後に氷から離れるのはトゥ)
- トゥが離れる瞬間には(原理上)ブレードの角度は90度近くなり、明らかにこれを超えるような前向きのテイクオフ(アクセルの場合は後ろ向き)でない限り問題とはならない(次項「稚拙な踏切」参照)
ごまかした踏切
ハンドブックでは、「ごまかした踏み切り」として以下のとおり記述されている:
明らかに前向き(アクセル型ジャンプの場合には後ろ向き)踏み切りのジャンプは、ダウングレード判定のジャンプとみなされる。トウ・ループが、最も一般的に踏み切り時にごまかしがあるジャンプである。テクニカル・パネルが、(しばしばコンビネーションやシークェンスにおいて)踏み切りでのごまかしでダウングレードかどうか決定をする際に再生で確認することができるのは通常速度のみである。
初級者のトゥループに見られるが、左足でトゥを突いた(置いた)後に、「よいしょ」と前を向いてから右足に乗り換えるようなものは「ごまかした踏み切り」となりえる。トップ選手ではこの類の稚拙なものはほとんどないが、コンビネーション・ジャンプのセカンド以降で陥るケースがある;ファーストジャンプの着氷で体を抑えられずに開いてしまい、そのまま無理やりトゥループを飛ぼうとした場合、トゥを突く時にすでに前向きに近くなり、離氷したときには明らかに前向きを超えてしまう、など。
以下の映像は、2012年ジュニア・グランプリ・ファイナルFSでのハン・ヤン選手の 2A+1T<<+1Loのスロー映像である(ただし、テクニカル・パネルは通常速度再生のみである):
&flash(http://www.youtube.com/v/n8oOmWMoV0o,425x355);
プロトコル:http://www.isuresults.com/results/wjc2012/wjc2012_JuniorMen_FS_Scores.pdf
コンビネーションの1Tに対してダウングレード認定されているが、これは「ごまかした踏切」によるもの。2A着氷後ステップアウト気味に体が開いてしまい、そのまま無理にトゥを突こうとして(ほぼエッジ全体が乗ってしまっているが)前向きに離氷しているのが分かると思う。
その他の例としては、http://openaxel.blog14.fc2.com/blog-entry-172.html にいくつか例示されているので参照してほしい。
なお、離氷時、着氷時は個別に判断される
着氷および回転不足判定
- ハンドブックの規定では:
- 90度以上180度未満:回転不足(UR)
- 180度以上:ダウングレード(DG)
- ここでいう角度は、上図における∠AOB
- これを元に:
- 着氷時のブレードの角度と体全体の方向
- 稚拙な踏切か否か
- を
- 前後のスケーでィング動作すべて
- 氷のしぶき
- トレース痕
- などを観察することにより総合的に判断する
判定の手続き
判定者
- テクニカルパネルが判定の権限を負う
- UR(<)判定の場合は基礎点が7割、DG(<<)の場合は一段階下のジャンプの基礎点となる
- TPの認定を受け、JPがGOEの調整
- TPは認定したがJPは回転不足と判定:GOE -1
- 回転不足(UR): GOE -1 to -2
- ダウングレード(DG):GOE -2 to -3 かつ最終的なGOEはマイナス
- テクニカル、ジャッジパネルの役割を参照
- 再生によるレビュー
- TP:レビューがかかったエレメンツに関してリプレイで確認。着氷のみスローが許可される
- JP:通常再生のみ
- 静止画は使用しない
大会、TPによる差異
- 大会や各ジャンプによって若干判定に幅がある:
- TPが異なる(だって人間だもの):厳し目なTPとそこまでではないTPが存在するのは確か
- ジャンプが実施される場所によってTPが見る角度が異なる
判定に関する事後会議
- 定期的なTP, オフィシャルのミーティング、ジャッジミーティング
- 競技前にTPが事前打ち合わせ
- 競技後にアフターミーティングを実施。レフリーやTCは報告書も作成
自身の目を養うために
- 競技会を録画
- 通常再生でジャンプの軌道を確認
- スロー再生、一時停止を繰り返す