軍事

Last-modified: 2016-08-23 (火) 23:19:43
このページこそ孫子の兵法学校

どの勝利条件を目指すのであれ、軍事は絶対に避けては通れない重要な課題である。
ここでは古今随一の兵法書として名高い、『孫子』を引用しつつ解説する。

『孫子』は古代中国の兵法書で、紀元前5世紀頃に孫武が著したと考えられている。
当時の中国は春秋戦国時代で、孫武は呉に仕えた軍師であった(「呉越同舟」の呉である)。
東の島国ではジャップとかいう土人が弥生土器をこしらえたり竪穴住居を建てたりしていたが、
大陸はまさに群雄割拠、大小合わせて100を超える国々が覇権を争っていた。

このような時代に生まれた『孫子』は全13篇から成る。
戦略および戦術についての深い考察は現代においてもその普遍性を失わず、兵法書の中の兵法書、古典の中の古典と評されている。



安易な戦争は慎む

『孫子』が説く大原則の一つが「戦わずして勝つ」というものである。
侵略戦争が国家財政に与える負担は極めて大きい。
本来であれば建物や不思議、キャラバンなどの生産に使えるはずだったリソースを割いて攻撃部隊を編成し、
作戦行動中は不幸市民の増加に対処するために予算を贅沢に振り分けざるをえなくなり、
そして場合によっては何の戦果も得られず全滅することすらある。
都市を陥落させたとしても、戦後の復興には更にリソースが必要となる。

そのため武力に訴えることは次善の策でしかなく、他の手段で敵を屈服させることが最も重要なのである。

孫子曰、兵者國之大事、死生之地、存亡之道、不可不察也。(始計篇)
孫子曰く、兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。
孫子は言う。戦争とは極めて重要な問題であり、国民の生死と国家の存亡がかかっている。したがって徹底的に研究する必要がある。

凡用兵之法、全國為上、破國次之。(謀攻篇)
およそ用兵の法は、国を全うするを上となし、国を破るはこれに次ぐ。
戦争においては敵国を無傷で手に入れるのが最もよいのであって、これを打ち破るのは次善の策にすぎない。

非利不動、非得不用、非危不戰。(火攻篇)
利にあらざれば動かず、得るにあらざれば用いず、危うきにあらざれば戦わず。
有利でなければ動かず、得るものがなければ軍を用いず、危険が迫っていないのなら戦わない。

是故百戰百勝、非善之善者也。不戰而屈人之兵、善之善者也。(謀攻篇)
故に百戦百勝は、善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり。
百回戦って百回勝つことが最善の策ではない。戦わずに敵を屈服させることこそが最善の策なのである。

故上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下攻城。(謀攻篇)
故に上兵は謀を伐つ、その次は交わりを伐つ、その次は兵を伐つ、その下は城を攻む。
最もよい戦い方は敵の謀略の阻止であり、次いで同盟関係を絶ち孤立化させること、その次に敵軍を撃破することである。そして城攻めは最低の策である。

『孫子』が想定しているのは、多くの国家がひしめき合う中での戦争である。
したがって第三国に漁夫の利を狙われる事態はいつでも起こりうる。
百戦百勝を誇ったとしても、国力が疲弊して百一回目の戦争に敗れたら何の意味もないのである。

攻めるより守る

『孫子』は戦いの基本を防御だと説いており、勝つことよりも負けないことを重視している。
「攻撃は最大の防御なり」という有名な言葉は、1対1の状況ならありうるものであろう。
1対多である以上、仮想敵国だけでなく第三国からの奇襲は常に起こりうる。
国家の命運が懸かっているため、最悪の場合でも引き分けに持ち込むためにまず不敗の態勢が必要なのである。

故善戰者、立於不敗之地、而不失敵之敗也。(軍形篇)
故に善く戦う者は、不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わざるなり。
名将は、まず自軍を負けない態勢にして、その上で敵軍の隙を見逃さない。

先為不可勝、以待敵之可勝。(軍形篇)
先ず勝つべからざるを為して、以って敵の勝つべきを待つ。
まず自らは不敗の態勢を整えて、それから敵を難なく打ち負かすことができるようになるのを待つ。

不可勝在己、可勝在敵。(軍形篇)
勝つべからざるは己に在るも、勝つべきは敵に在り。
不敗の態勢をなせるか否かは自軍の問題であるが、難なく打ち負かすことができるようになるか否かは敵軍の問題である。

故善攻者、敵不知其所守。善守者、敵不知其所攻。(虚実篇)
故に善く攻むる者は、敵、其の守る所を知らず。善く守る者は、敵、其の攻むる所を知らず。
攻撃が巧みな者に対して、敵はどこを守るべきか分からない。防御が巧みな者に対して、敵はどこを攻めるべきか分からない。

故用兵之法、無恃其不來、恃吾有以待之。(九変篇)
用兵の法は、その来たらざるを恃むことなく、吾が以って待つ有るを恃むなり。
戦争においては、敵が攻めてこないことを頼りにするのではなく、自らの万全の備えを頼りにすべきである。

どうせ攻めてこないだろうという楽観論、希望的観測は誰しもがつい行いがちである。
そして敵が名将であれば、決してその隙を見逃さずに攻撃してくるのである。
取り返しの付かない事態になる前に、何よりもまず防御を固めることを重視すべきである。

戦争準備と情報収集

戦わずに敵を屈服させることが最善といえども、場合によっては攻めに打って出る必要がある。
『孫子』は戦争準備と情報収集の重要性を説いているが、これは財政負担の大きさを軽減すべく、効率的な戦争を行うために他ならない。
原則は「戦う前に勝つ」である。

知可以戰與不可以戰者勝。(謀攻篇)
以って戦うべきと以って戦うべからざるを知る者は勝つ。
戦うべきかどうかの判断を正しく行える者が勝つ。

多算勝、少算不勝、而況於無算乎。(始計篇)
算多きは勝ち、算少なきは勝たず、しかるをいわんや算なきにおいてをや。
勝算の多い者が勝ち、少ない者は敗れる。まして勝算が全くないのに戦うのは論外である。

以虞待不虞者勝。(謀攻篇)
虞を以って不虞を待つ者は勝つ。
自らは抜かり無く態勢を整え、敵の油断を待つ者が勝つ。

古之所謂善戰者、勝於易勝者也。(軍形篇)
古のいわゆる善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。
昔の戦上手と言われた人は、勝って当然という状況で勝つのである。

是故勝兵先勝而後求戰、敗兵先戰而後求勝。(軍形篇)
是の故に勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵はまず戦いて而る後に勝ちを求む。
戦う前からすでに相手より優位にあるものが勝ち、戦を始めてから勝機を掴もうとするものが敗れる。

Freecivでも事前の情報収集は重要で、これを怠るのはいわば目隠しをして戦場に赴くようなものである。
都市の位置や地形、政治体制、国庫金、技術水準など、知っておくべきものは多岐にわたる。

知彼知己、百戰不殆。(謀攻篇)
彼を知り己を知れば、百戦殆うからず。
敵味方双方の情報を的確に把握すれば、何度戦っても危機に陥ることなどない。

故明君賢將、所以動而勝人、成功出於衆者、先知也。(用間篇)
故に名君賢将の、動きて人に勝ち、成功の衆に出ずる所以の者は、先知なり。
名君や賢将が戦いで勝利し、華々しい成功を収めることができるのは、あらかじめ敵の情報を知るからである。

戦場での心得

戦場において『孫子』が重視しているのは「主導権を握ること」、そして「敵の弱点を突くこと」である。
またそのための手段として「自らの意図を隠すこと」「迅速に動くこと」「敵を騙すこと」などが挙げられている。

兵者詭道也。(始計篇)
兵は詭道なり。
軍事の基本は敵を騙すことにある。

故善戰者、致人而不致於人。(虚実篇)
故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。
名将は、敵軍を思うがままに動かし、自らは決して敵の思い通りにはさせない。

敵を騙し、こちらの意図を悟らせないことで主導権を握ることができる。
また意図が分からなければ敵は必然的に広く薄く守るほかない。

故形人而我無形、則我專而敵分。(虚実篇)
故に人を形せしめて我に形なければ、即ち我は専にして敵は分かる。
敵軍の態勢を露わにする一方で自軍の態勢を覆い隠せば、こちらは戦力を集中でき、敵は分散することになる。

よってこちらの戦力を集中させれば、これを打ち破ることができる。

故兵之情主速。(九地篇)
故に兵の情は速やかなるを主とす。
作戦行動は何よりもまず迅速であること。

故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、難知如陰、動如雷霆。(軍争篇)
故にその疾きこと風の如く、その徐かなること林のごとく、侵掠すること火のごとく、動かざること山のごとく、知り難きこと陰のごとく、動くこと雷霆のごとし。
軍は行動するときは風のように敏速に、ゆっくりと前進するときは林のように堂々と、襲撃するときは燃え盛る火のように激しく、
留まるときは山のように揺らぐことなく、自らの意図は曇り空のように隠し、動き出せば稲妻のようにあれ。

武田信玄の軍旗で有名な「風林火山」はここから引用されている。

攻其無備、出其不意。(始計篇)
その無備を攻め、その不意に出ず。
守りの薄いところを攻め、また敵の意表を突く。

兵之形、避實而撃虚。(虚実篇)
兵の形は実を避けて虚を撃つ。
敵戦力の充実したところではなく、手薄なところを攻撃する。

無邀正正之旗,勿撃堂堂之陣。(軍争篇)
正正の旗をむかうることなく、堂堂の陣を撃つことなし。
旗印を立て隊列を整えた敵を迎え撃ってはならない。強大な陣を構えた敵を攻撃してはならない。

「正々堂々」の出典となった一節である。
隙のない相手と正面から戦うのは下策でしかない。
的確に敵の弱点を突き、そして稲妻のように攻め立てるという戦術は、電撃戦に通ずるものがある。

長期戦を避ける

『孫子』には、戦争は多大な財政負担をもたらすという前提がある。
ゆえに安易な開戦を戒め、戦わずに敵を屈服させることを理想とし、やむを得ず戦う場合は短期決戦を目指すべきだとしている。
そして戦争の長期化による国力の疲弊を最も危惧すべき事態だと警告している。

故兵聞拙速、未睹巧之久也。(作戦篇)
故に兵は拙速を聞くも未だ巧の久しきを睹ざるなり。
戦果が不十分であっても戦争を短期終結させて成功した例はあるが、長期化させたことで成功した例は聞いたことがない。

故兵貴勝、不貴久。(作戦篇)
兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。
戦争の目的は勝つことであるが、長期化させるべきではない。

夫鈍兵挫鋭、屈力殫貨、則諸侯乘其弊而起。雖有智者、不能善其後矣。(作戦篇)
それ兵を鈍らし鋭を挫き、力を屈し貨を殫くさば、則ち諸侯その弊に乗じて起こらん。智者有りといえども、其の後を善くすること能わず。
長期戦になると軍は疲弊して士気は衰え、戦力を消耗し財政が傾く。すると周辺諸国もこの機に乗じて攻め込んでくることだろう。
こうなればどれほど優秀な軍師がいようとも、収拾をつけることなどできない。

何のために戦うのか

戦争はあくまでも(次善の)手段であって、必ず目的が存在するし、そうあるべきである。
『孫子』は勝つためではなく、国益のために戦うべきだと説いている。

夫戰勝攻取、而不修其功者凶。(火攻篇)
それ戦勝攻取してその功を修めざるは凶なり。
敵を攻め破り、城を陥落させたとしても、戦争目的を達しないならば失敗である。