概要
作品名 | 作者 | 発表日 | 保管日 |
「苦悩」 | 33-175氏 | 06/12/16 | 07/01/14 |
作品
総合病院の個室って看病する人用の施設もあるんだ。想像もしてなかった。
シャワールームから髪を拭きながらベッドサイドに歩みつつ、そんなことを考えた。
とりあえず助かる。キョンが目を覚ましたとき汗臭いままで迎えたくないもの。
キョンが階段から落ちてここにかつぎ込まれたのは・・・おとといの夕方。
それから丸二日以上目を覚ましてない。
先生は「命に別状はない」といってたけど、安心なんて出来ないわよ。
キョンのお母さんと妹ちゃんにはかなり無理を言って帰ってもらった。
お母さんなんかどう見ても寝てないもの。妹ちゃんなんか泣きっぱなし。
あの二人もすごく心配してるのに、なにのんきに寝てるのよ・・・。
もうじき日付が変わる。
なのにあいつはいっかな目を覚まそうとしない。
・・・ねぇキョン、早く起きてよ。
あたしがみくるちゃんにいたずらしたら怒ってよ。
あたしが馬鹿なことやったら叱ってよ。
そして・・・ずっとあたしのそばにいて。
あんたがあたしにとってかけがえのない人だって・・・やっと気づいた。
あたしの思い付きをいつも聞いてくれたキョン。
あたしがわがままいってもいつもついてきてくれたキョン。
ちょっと外れたことを言ったりやったりしたときにいつも叱ってくれたキョン。
いつもあんたはあたしのそばにいてくれた。
・・・だんだんいやな思いが頭を支配していく。
あんたがこのまま目を覚まさないのでは、とか・・・
いやよ、そんなの!
あんたに死刑とか殺すわよなんて、簡単に言ってたあたしって・・・。
自己嫌悪になりそう。あんたがこんなことになるなんて、思っても見なかったもの。
物心ついたときにはおじいちゃんもおばあちゃんもいなくて、肉親といったら親父と母さんしかいなかった。
だからこういう経験自体がない。
でも・・・そのはじめがあんたなんて、あんまりじゃないの!!
あんたにもしものことがあったら・・・あたし、生きていけないかもしれない。
思いつく神様仏様にかたっぱしからお願いする。
お願い、あたしの大切な人を連れて行かないで!!
お願い・・・独りにしないで!!!
あんたがいない世界なんて・・・何の意味もない。
太陽が昇る。夜が明ける。
結局一睡も出来なかった。
看護婦さんが渡してくれたサンドイッチを食べる。
味なんてわからない。とにかく言われるままに食べてるだけ。
はじめはいらないといったら、看護婦さんが「だめよ、彼氏を笑顔で迎えてあげたかったら食べないと」なんて笑顔で言ってきた。
「大丈夫よ、あなたのために目を覚ましてくれるから」
・・・あたし、どんな顔して聞いてたんだろ。
すごく顔が熱かったのを覚えてる。
・・・もうしばらくしたら、みんなが来る。
みんなが来て我慢し切れなくなったら、少しだけ眠ろう。
キョンが目を覚ましたときに、寝不足の冴えない顔で迎えたくなんかない。
いざとなれば、みくるちゃんでも古泉君でも、見ていてくれる人に起こしてほしい。
キョンに起こされたら・・・ダメ。きっと恥ずかしさのあまりまともに話せなくなる。
言いたいことの半分も言えない気がする。
だから、団長権限でわがままいわせてもらおう。
頼むわよ、みんな。
初めに来たのはみくるちゃんだった。
「みくるちゃん、いい?有希と古泉君にも伝えておいて。アホキョンが目を覚ましたら、なんかする前に絶対あたしを起こすこと!」
「え?は、はい。わかりました・・・」
昼前。もう限界。少しだけ眠ろう。
「ごめん、みくるちゃん。ちょっと休むね。さっきの伝言、しっかり伝えておいてよ」
「は~い」
ほんとに頼むわね。
そう胸のうちでつぶやきながらあたしは用意していた寝袋にもぐりこみ・・・。
すぐに寝入ってしまったらしい。
・・・誰かが頬をつっついている。
誰よ?みくるちゃん?古泉君?
アホキョンが目でも覚ましたの?
半分寝ぼけながら、目線におぼろげに映った顔。
頬をつついている男の変にさわやかなマヌケ面。
・・・なんであんたがあたしを起こすのよ?ずっと寝てたくせに。
これじゃあべこべじゃない!?
驚きのあまりあたしは大きな声を上げてしまった。
「・・・をが?」
おわり