500年後からの来訪者After Future10-17(163-39)

Last-modified: 2017-04-10 (月) 18:19:32

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-17163-39氏

作品

セカンドシーズン最終回まであと数日。恒例のドラマ対抗生放送クイズ番組で大御所MCが見事に真実に辿り着くことができ、映画の宣伝、古泉のシャンプー&カットに向けたヒント、NG集でのみくるのバストサイズ等々、青古泉も、俺が暗号文や数列を作った時点で、既に答えが分かっているジョンを『ジョンと涼宮さんは数列を解いた』とコメントした。収録前の撮影でウィスキーを飲んで酔い潰れた古泉も復活し、全員の眠気を取って撮影の続きが始まった。

 

「まったく、いくら地図まで送って来たからって、こんなに沢山バスがあるんじゃ、どれに乗ればいいのか分からないじゃない!」
「そうでもないわ。ミステリーツアーと称してこんな時間に呼ぶくらいだもの。バスの窓のカーテンがすべて閉まっているはずよ!」
「……あれじゃないのかい?僕たちの持っている招待状と似たようなものをバスガイドに渡しているみたいだよ?」
『運転手とバスガイドはあのジジイと森とかいう女だと思っていたが、どうやら違ったようだな』
「現地で待ち構えているかもな」
「とにかく、あたし達も行きましょ!」
上村、難波は既にバスの中に乗り込み、アホの谷口がバスガイドに声をかけていた。
「俺、谷口って言います!ガイドさんのお名前を教えてくれませんか?」
「えぇっと……それはちょっと………お次の方もいらっしゃいますのでご乗車いただけませんか?」
渋々バスへと乗り込む谷口。運転手とバスガイドの名前なら普通は入ってすぐのところにプレートが挟んであるはず。まぁ、あのアホがそれに気付くわけもない。
「古泉一樹様ですね。では、こちらのアイマスクをお持ちください。席はご自由に座っていただいて構いませんが、席に着き次第アイマスクの着用をお願い致します」
「カーテンが閉まっているだけならまだ分かるけど、アイマスクまで着けろって言うの!?」
「ミステリーツアーですから。ほんの演出だと思っていただいて構いません」
「(ちょっと!今回は鶴屋さんには連絡しているんでしょうね!?)」
「(心配いらないわ!鶴屋さんなら、もうバスの後ろについてる。バスを尾行して行き先を突き止めることになっているから安心して)」
孤島での経験からか、ペンションがすべて焼き払われてしまったときのことを考えていたらしい。鶴屋さんの存在を聞いてようやく安心した青ハルヒ達が乗車していった。当然青古泉の隣は青ハルヒだ。
「皆様お揃いのようですので、これより発車致します。ペンションには明日の朝到着します。先ほども申し上げましたが、アイマスクは外さないようにご注意願います」
バスの動き出しと共に、鶴屋さんの車が一番に後を追い、それ以外の車も一斉に動き出した。首都高に乗ってしばらく、黒い車がウインカーを出して鶴屋さんの車の前に入り、もう一台の黒い車が真横についた。それを確認したかのようにバスがスピードを上げ、鶴屋さんの車から次第に離れていく。
「このっ!邪魔にょろよ!!道を空けるっさ!!」
パッシングやウィンカーを出しても二台の車が道を譲ろうとする気配もなく、とうとうバスが見えなくなってしまった。後ろに続いていた一般車からのパッシングを受けて、ようやく横についていた車がスピードを上げて道を空ける。それに乗じて路線変更したものの、一般車六台に道を譲ったところで再度車に阻まれた。SAに入って駐車場に車を止めた鶴屋さんが急いでスマホを取り出した。
「これも、みくるが言ってた組織の仕業に間違いないにょろよ!でも、向かった方角で大体の見当がつくにょろ!圏外になる前にみくるに連絡しておくっさ!」
『カット。これで首都高を走るシーンは問題ない。すぐに現地に移動する』
『有希先輩、この車はどうするんですか?』
『情報結合を解除して。一般車があったところで使う機会はほとんどない』
『じゃあ、ラスベガスに行きましょ!バスを降りてキョンと青古泉君が会うシーンを撮るわよ!』
『問題ない』

 

 カーテンで遮られてはいるが、隙間から入ってきた光で夜が開けたことが分かる。山道を走っている最中に全員起きただろうが、ようやくバスが停車してバスガイドがマイクを持った。
「皆様、おはようございます。今回のツアーの目的地に到着致しました。アイマスクは外していただいて構いません。ご乗車ありがとうございました。皆様のご武運を心よりお祈り致します」
カーテンを開けるとペンションからバスへとやってくる星野朱里と辻村が見える。最後にバスを降りた俺に、青古泉たちの視線が集中する。
「よぅ、ここは久しぶりと言うべきかな?」
「おまえ、やはり来ていたか」
「……妙だな。俺はおまえがバスに足を踏み入れた瞬間に気付いたが、おまえは違ったか?古泉一樹。今頃になってそんな顔をするのはおかしいんじゃないのか?」
「あんた、またあたし達の邪魔をしようっていうわけ!?」
「今回は私用だ。あの連中からサイコメトリーの邪魔をするようにと依頼されたわけじゃない。このペンションの前オーナーの遺産を奪い取りに来ただけだ。暗号文とやらを解いてな。もっとも、そんな暗号文が俺たちに通用するとは思えない。おまえもそうなんじゃないのか?例の数列も簡単に解けたはずだ。まぁ、財宝を巡って敵対していることに変わりはない。だが、それを言うとここにいる全員敵ってことになりそうだ」
『コイツに付いてきて正解だったようだ。今度は制限抜きであんたと闘れる』
「ジョン……だったか。まぁ、機会があれば、いずれそうなるだろう。まずは財宝を捜し当ててからだ」
「皆さん!!ようこそ我がペンションへおいで下さいました。現オーナーの星野朱里です。よろしくお願いします」
俺たちの会話を遮るように星野朱里が現オーナーだと名乗り出ると、その横から長身の男が口を開く。
「弁護士の辻村京介と申します。オーナーと共に遺産相続の見届け役として参加させていただくことになりました。どうぞ宜しくお願い致します」
「えっと……このあとのこともありますので、皆様のお名前と……出来ればご職業も教えていただけないでしょうか?この中のどなたかに正式に遺産を相続することになりますので……」
「他のツアー客に興味は無いんだけれど……仕方が無いわね。真野瑠璃よ。宝石店を経営しているわ」
「俺は難波剛三郎。数年前まで職についてはいたが、今は無職だ」
「私は島村幸雄。一流企業の幹部を務めている」
「谷口明保です。今は就職浪人です」
「佐々木貴洋、ルポライターだ」
「あたしは涼宮ハルヒ!至って普通のOLよ!」
『ジョン・スミス、ただのフリーターだ』
「僕は多丸裕。アルバイトで食い扶持を繋いでいるだけで、ジョンと似たようなものさ」
「上村伸次、大学三年です。今回は暗号文に興味があってこのツアーに」
「え~~私は押す、引くの引くに大地の地、それに英雄と書いて引地英雄です。今は定年を迎えていますが、都内で中学校の校長をしていました。教科は数学です」
「古泉一樹、美容院のトップスタイリストだ」
「朝比奈みくる。雑誌編集者よ」
「(朝比奈さん!佐々木貴洋って、女子高のときの……)」
「(ええ、相続の件も含めて、彼の本名である可能性が高くなったわ!ここでは職は偽ることができても、偽名は使えないもの)」
「(職を偽るって、ルポライターや雑誌編集者のこと?)」
「(それもあるけど、あの島村って男。こんな場面で一流企業の幹部なんて言えるはずがないし、そんな人間がこのツアーに参加するわけがないわ!)」
「(要するに、プライドが高いだけってことね)」
星野朱里の案内でペンションに向かっていくのを見届けて、バスが発車した。死角に入ったところで運転手とバスガイドがマスクを破り、組織のトップとNo.2の二人が素顔をさらけ出す。
「橋を落とす準備はできたか?」
「はい。このバスが橋を渡ったところで爆破させます。あの者たちに音が聞こえることはありません」
中腹まで下ったところで鉄筋の橋をバスが通り過ぎ、数秒後に橋の中央が爆発して破片が谷底へと落ちていった。

 

「良い空気ね……あたしが普段いる職場は煙草臭くて。星野さん、あたし達が泊まるのがあのコテージになるのかしら?」
「はい。お食事の際はペンションに来て頂くことになってしまいますが、何か申し付けがあれば私がコテージにお持ちすることになっています」
「おい、譲ちゃん。お宝はこの辺りに隠されているってことでいいのか?」
「すみません、それはまだ私にも……でも、暗号にはその隠し場所もすべて分かるようになっていると……」
「だったら、その暗号を早く見せて欲しいものね」
財宝に眼が眩んだ連中を見据えながらみくる達もペンションへと入って行く。ペンションの中と外に同じような長いテーブルが二つ。現オーナーからペンション内の席に掛けるよう指示を受けていた。昼と同じ席にそれぞれついたところで有希のカットが入る。
『今の段階で撮影可能な部分は第一の殺人が起きるシーンのみ。でも、朝食を準備する必要がある。あとのシーンは脚本に書かれていない』
『撮影をしたければ、暗号文を解き明かせってことかい?』
『そうなるな。朝食後に解散したところで青古泉たちはコテージに出揃うことになるし、話の流れで暗号のヒントが出てきてしまう。片付けは星野朱里とアホの谷口だが、昼食後からはみくるも参加して星野朱里から色々と事情を聞き出すシーンを加える。ヒント無しで解きたいならそれで構わんが、あまりに遅いと俺とジョンだけで撮影を終わらせる。暗号文の前に数列を解かないといけない奴もいることだしな』
『明日の昼食までには必ず解いてみせますよ!』
『上等じゃない!暗号文もまとめて解き明かしてやるわ!!今日はこれにて解散!!』
『問題ない』
催眠で十分だったんだが、結局組織のトップとNo.2は青新川さんと園生さんがやってしまったな。大型バスの運転もペーパードライバーだと言っていたはずだが、サイコメトリーすることなく見事に運転してしまった。映画のラストは……考え直した方がいいかもしれん。全員を先に送って財宝とその在り処、仕掛けを施してタイタニックへと戻った。
「ちょっとあんた!見たわよ!!有希と青あたしにアンスコなんか履かせて、一体何してんのよ!!」
いつかは気付かれると思っていたが、スパで全身マッサージまで終えて、客室に入ってからの一言だったからまだいい方か。ちゃんと説明をすれば納得してくれるようになったしな。
「二人から『昼の間も繋がっていたい』と要望があっただけだ。尻尾が刺さったまま、部分テレポートの上から大胆下着とアンスコを履いている。何ならハルヒもやってみるか?バレーの試合の最中に恥ずかしい思いをしたくなければの話だけどな。有希はバレーに出てもセッターとして動く以上、そこまで支障がないし、青ハルヒも今は異世界支部の運営のことと撮影に関することでバレーにはほとんど参加していない。ハルヒの場合はレシーブもするし、毎回全員攻撃だ。子供たちと一緒に出てくれるのはありがたいが、プレーに集中できなくなる。どうする?」
「……あんた、有希と青あたしにそんなことしてたわけ!?」
「だから言っただろ?二人から頼まれただけだ。バレーもミスを誘発しそうだし、数列や暗号文も解かないといかん。ハルヒは止めておいた方がよさそうだな」
「正妻を差し置いて、側室とそんなことしているなんて認められないわ!明日からあたしにも同じようにしなさい!いいわね!?」
「なら、どんな下着にアンスコをつけるか考えるとするか。服まで濡らすわけにはいかんだろう?」
「……………バカ」

 

『生放送の司会を途中放棄!?真相究明第一号はタモ○!!』、『議論スレッド大荒れ!三つの証拠究明に全国が動いた!!』、『証拠を掴むヒント!?「最後までランジェリーの宣伝」の意味とは!?』等々、要は昨日の生放送の一件で全社一面を飾っていたってことだ。明日の新聞の一面は、昨日と同じく今夜生放送の卒業ソングで間違いない。大画面にも投影するし、日本武道館に繋がる道からでも撮影することができるはずだ。おススメ料理一回分を無駄にしてしまうのは悔しいが仕方がない。
「キョン、あの数字の意味がようやく分かったんだけどね。あれだけ分かっても、財宝の在り処には辿り着けないんじゃないのかい?」
「どうやら、暗号の半分は解読できたらしいな。暗号の残り半分と今回の舞台が財宝の隠し場所とそこに行きつく方法を教えてくれる」
『半分!?』
「川柳じゃあるまいし、あの暗号だけで二つの意味があるっていうのかい?」
「では、その前段階の答案を提出させてください。僕も黄佐々木さんが昨日言っていた『数字』については解読ができましたので」
朝食時、佐々木の一言から始まって全員が揃い、食べ始めてすぐに青古泉が答案を提出しにきた。佐々木と違って『数字』の意味までは分かってないらしい。
「数列については正解だ。暗号の方は30点ってところだな」
「それが確認できただけで十分です。残り70点分を埋めてみせますよ!」
「それより、仕事の話が先じゃないのか?今夜のライブのSPは黄古泉がついて、今日から三店舗同時オープンする。だが、夜練の間だけしか影分身を割くことができないのかどうか聞きたい。可能ならOPENの時間帯から居てもらった方が修行になるだろうし、俺も電車に催眠をかけてまわれる。有希も黄佐々木と支給に行くんだろ?双子の送り迎えも、支給も影分身に任せたらどうだ?」
「あっ、わたし、キョンに言われるまでそんなこと考えもしなかった。でも二人を送り迎えするのも残り少ないし、支給の方は影分身に任せる」
「私もOPENの時間帯から三体でやってみます!少ない意識でどれだけのことができるか分かりませんけど、やらせてください!」
「キミに一つ聞いてみたいんだけどね。どうして今日未来に行くことが分かったんだい?」
「二日に一回のペースで安定していたからな。前回が水曜だったから、次は今日じゃないかと話を振っただけだ」
「今夜のライブの件をこのあと楽団員に伝える。大画面には生放送の番組をそのまま放映する。撮影については以前にも行なっている。もし、確認の電話があれば教えて。第三チェックポイントのアルゼンチンには明日到着予定。それに、来週のコンサート前にレット・イット・ゴーのリハーサルがしたい。楽団員も演出に慣れる必要がある」
「それなら今夜のことを連絡してからすぐやりましょ。みくるちゃん達も影分身できるようになったし、サインくらいなら心配いらないわ!」
「分かった。明日の夕食は、俺がパーティ用の料理を用意しておく」
「しかし悔しいですね。おススメ料理の火入れもあなたに任せっきり、数列の規則性も見出せないでいるとは……」
「どうやら議題はもう無いようだね。暗号文やトリックは自分で考えるとして、財宝の目の前で真相を明らかにした後、キミは一体どんな脚本を書くつもりだい?」
「青ハルヒが孤島での経験を活かして電話線を持ってくる話は前にしたはずだ。手に入れた財宝を元手にあのペンションやコテージにも電波が届くようにする。橋の方は爆発によるものだからジョンが負担することじゃない。後はペンションの仮オーナーや従業員、清掃業者を雇って冬場はスキーに来る客の宿泊施設として利用する。要するに、ジョンが何もしなくても金が入ってくるようにする。最後に鶴屋さんを入れた六人でパーティをするんだが、そこは古泉に出てもらって、サイコメトリーで料理を作る。みくるの『孤島の事件のときと同じ味』というコメントから新川さんもサイコメトラーだと発覚したところでブラックアウト。エンドロールの後、Continue in the next seasonのテロップでサードシーズンに繋げる。ペーパードライバーだと言っていたのに、ものの見事に大型バスまで運転してしまったからな。それをサイコメトリーだと言ってしまうのは本人に申し訳が立たないんだが……終わり方としては、この案がいい。まぁ、あくまで個人的な意見だ」
「移動型閉鎖空間があったとはいえ、言われてみれば確かにそうです。僕も青新川さんの運転するバスに乗っていて何のストレスも感じませんでした」
「やれやれ、興味本位で聞くんじゃ無かったよ。そんな終わり方をされたら、サードシーズンを最初から考え直す必要があるじゃないか。フォースシーズンでちゃんと決着をつけてくれるんだろうね?」
「俺が情報を書き換えても、青古泉に元通りにされるようになっていくのがサードシーズンだ。いくら新川さんがサイコメトラーだと判明しても、戦闘ではジョンや青古泉に敵うはずないだろ?特に、ジョンに至っては思考を停止して闘うことができると今度の月曜で明らかになる。サードシーズンを最初から考え直すことでもない。フォース……いや、ラストシーズンで組織全員との最終決戦だ。決着は俺がつける。どんな犠牲が出たとしてもな」
「『どんな犠牲が出たとしても』ってあんた一体何をするつもりよ!?」
「それまでの事件で関わった人間が次々に殺されたとしてもおかしくありません。ソフトボール部員や獅○、○木、鶴屋さんや圭一さん、裕さん、それに涼宮さんや朝比奈さんも殺害対象になるということです」
「うん、それ、無理!危険に晒されることはあっても、最後はハッピーエンドがいいわよ!」
「キョン君、たとえラストシーズンでも、そんな終わり方、わたしは嫌です!それ以降も組織の計画した事件を解決していくエンディングの方がいいです!でないとわたし、もう撮影に参加したくありません!」
「分かった。じゃあ止めにする」
『切り替え早っ!!』
「組織のボスとNo.2が自ら出てるのに、組織と真っ向勝負を仕掛けようなんて戦争を始めるようなもんだ。あくまで案の一つであって、これにこだわるつもりは更々無い」
「しかし、映画のラストは黄俺の案でいいんじゃないか?他のドラマと違ってそのあとも続いていくんだし、サードシーズンを楽しみにする人間が増えると思うんだが……」
「ちょっとあんた達!!総監督のあたしを除け者にして、何熱弁しているのよ!最終決定権はこのあたしにあるんだからね!あたし抜きで勝手に決めるんじゃないわよ!!」
「なら聞こう、総監督。映画のラストはどうするんだ?」
「…………あんたの案でいいわよ」
笑いが飛び出たところで朝の会議は終了。『双子を連れて行くのは本体でも、影分身で皿洗いもできるだろう』と青俺から半ば強引に皿洗いを任され、もう一体は支給する料理を持って未来へ届けに行った。

 

「有希、青みくるちゃんのヘアアレンジをお願い!」
「分かった」
いきなり何を言い出したかと思ったら、どうやら髪型も雪の女王と同じにするつもりらしいな。マントや片手のみの手袋、緑色のドレスを見に纏った青みくるがステージ袖の椅子に腰掛けていた。コスプレとは違った本物の衣装に楽団員たちも興味を示している。
「ところで有希、一つ提案がある」
「何?言って」
「今度のライブでやろうと話していた英語版God knows…とLost my musicを今日やらないか?オーケストラで。最後の旅立ちの日にだけの為に、後ろでずっと待機しているのもどうかと思ってな」
「わたしは平気。でも、楽団員たちは練習をしていないはず。それに、指揮をしながら歌っても映えない」
あ……オーケストラだとハルヒが指揮者になることを失念していた。榎本さんに出てもらうのも一つの手だが……やはりハルヒの方がいいか。
「分かった。今の件は忘れてくれ」
「いい。楽団員も番組の後半まで待機している必要がある。でも、一緒に盛り上がることは可能。それに、今日はわたしだけバイオリンに変える。音響は任せて」
『えぇ~~~~~~~~~~~~~~っ!?』
どうやら、ハルヒから今夜の生放送の件が伝えられたらしい。当日に、しかもM○テ生出演と言われればな。自分が全国放送している番組に映るかもしれないとなれば慌てざるを得ない。
「じゃあ、今日はこの前連絡しておいたレット・イット・ゴーをみくるちゃんの歌とキョンの演出を入れて演奏するわ!コンサートでキョンの演出に驚いて間違えたり、音を外したりしないための練習だと思ってちょうだい!」
「お~い、ハルヒ!いくらそのための練習とはいえ、どんな演出になるのか楽団員たちだって気になるだろ。おまえのピアノだけで一度見せたらどうだ?」
『楽団の練習にあんたが口を挟むんじゃないわよ!』と言いそうになったところで、楽団員の歓声と拍手にかき消された。渋々ピアノを前にしたハルヒがメロディを奏で始める。
「降り始めた雪は足跡消して……」
ステージの端から青みくるが歌い始める。ハープ担当のみくるには月夜野くるみの催眠がかけてある。脱ぎ捨てた手袋が天井まで飛んで行き、風に吹かれたマントはステージ袖まで吹き飛んで情報結合を解除。あとはあのシーンと同様、氷の魔法を出しているように見せるだけだ。大画面には、氷で作った階段を踏み付ける映像が映っていた。天空スタジアム中央まで階段が続き、空中に浮き上がっている島に城を建てていく。内部の様子は大画面に投影され、ドレスが情報結合で変わったところで青みくるが城の外へと現れる。それを追うように扉が近づき、歌い終わって後ろを振り向くと同時に扉が閉まる。妥協案だが、これでも十分いけそうだ。楽団員たちからは歓声や指笛、拍手が送られた。一度見せたんだ、このあとはミスなく演奏してもらわんとな。

 

「今夜のライブで提案がある」
昼食時、一番に声を上げたのは有希。俺が提案した例の二曲のことも入っているはずだ。
「午前の練習で楽団員にレット・イット・ゴーの演出を見せて通した後、旅立ちの日にを徹底的に練習した。今夜のライブでは楽団員は最後まで後ろに待機していることになる。わたしが提案したいのは、生放送でわたし達の出番になるまでの間、何を演奏するのか曲を絞ること。彼からは『英語版God knows…とLost my musicを今日やらないか?』と提案を受けた。ドラマも最終話直前。Driver`s ○ighとバイクパフォーマンスは入れたい。ENOZも曲を減らして」
「分かった。どの曲をやるか相談しておくわね」
「面白いじゃない!有希、大画面の英語の歌詞を入れるのを忘れないでよ!?」
「問題ない」
「私からも一件報告だ。電話がかかってきたときは、私も何を言っていいのやら分からなかったくらいだったんだが、いつもの四社から四月号の追加発注十万部の依頼が届いた。発売して二日でここまでとは驚いたよ」
『もう!?』
「昨日の生放送のせいだ。NG集の鶴屋さんの一言で、みくるの胸のサイズを確かめたくなったと見て間違いない。そのついでかどうかは知らんが、どちらの体育館も昨日までの1.5倍に膨れ上がっていたしな。午後もどうなるか分からん」
「追加分については僕が届けてきましたが、数列に関してはもうお手上げです。答えを教えてもらえませんか?」
「古泉は白旗を振ったが、答案を提出する奴は?」
「……悔しいけど、答えが分からないんじゃ仕方がないわね。みくるちゃん達にどんなヒントを出したのか教えなさいよ!」
「あれは数字を右から読むんだよ」
『数字を右から読む!?』
「なるほど、四則演算ができないだけでなく、一般常識すら分からない上で考える必要があったということですね!とすると……13123110の次ですから、23124110でどうでしょう?」
「ああ、それで正解だ。あとは暗号文を解いたメンバーが増えてきたところで撮影再開ってことになりそうだな」
「ちょっ、ちょっと待ってくれないかね!?どうしてその数字が答えなのか私にはさっぱりだ。説明してもらえないかね?」
「小学校のときに二桁の数を習ったのと一緒さ。47は10が4つと1が7つ。それと同じように、一つ上の数字の説明をしているんだ。二段目は0が1つで10。三段目は0が1つと1が1つで1110、四段目は0が1つと1が3つで3110。この規則に則って、どの数字がいくつあるのか右から書いていけば、23124110に辿り着く」
『なるほど!』
「暗号が解決したところで、俺からも二件報告だ。一つ目は熊本のツインタワーのことなんだが、スムーズに作業ができると言うにはまだまだ時間がかかりそうだ。しかし、ツインタワーの住民だけでまわせるようになった。どちらの世界でもドレスの注文が来るようになってきたから、四か所に影分身を向かわせる。いい修行になりそうなんでな」
「しかし、暗号文の方はさっぱりだよ。一番進んでいる黄僕ですらまだ50%なんだろう?暗号文の数字とやらも、どこにそんなものが隠れているのかわけが分からないよ。『死』という漢字がやけに多いくらいしか僕には読みとれない。今夜にでも解決の糸口を教えてもらえないかい?」
「なるほど、あの暗号文の半分はそういうことだったんですね。道理で『し』と読める漢字が多いと思いました。ですが、これはローマ数字としてはおかしいんじゃないんですか?」
『ローマ数字!?』
「くっくっ、僕も最初はおかしいとキョンに言っていたんだけれど、あれには特例があるんだよ」
古泉と佐々木のヒントを受けて全員が暗号文をテレポート。情報結合したシャーペンやペンで『し』と読める漢字を塗り潰している。これで半分だというのに、油性ペンで塗り潰している奴は大丈夫なのか?
「ホントだ。傾いていますけど四の数字が出てきました。でも、ローマ数字の四って『V』の左側に『I』が付くんじゃ……?黄佐々木先輩、特例って何のことですか?」
「時計だよ。時計だけはこっちの四が使われるんだ」
「閃いた!!あのペンションにあった大きな時計を四時にすればいいのよ!!」
青ハルヒが閃いたせいで横にいた青俺の襟が掴まれ、椅子ごとデッキに倒れてしまった。誰かを犠牲にしないと閃くことができんのか?コイツ等は……
「涼宮さん、その程度の暗号で財宝の在り処が分かるのなら、星野朱里がとっくに見つけていますよ。残り半分を解かない限り、財宝は手に入れられません」
「じゃあどうしろっていうのよ……」
「フン!そんなの決まっているじゃない!!このあと撮影を再開するわよ!!」
『え~~~~~~~~~っ!!私たちも撮影を見ていたいです!!』
「本体はバレーに出て影分身で見に来るというなら構わない。見た情報は後で同期すればいい。青俺、各店舗二体ずつ出せるか?」
「心配いらん。だが、こっちの世界のビラ配りの方が大騒ぎになりそうだな」
『ぶー…分かったわよ』

 

 暗号解読の関係上、結局昨日と同じ服に着替える羽目になってしまった。朝食を終えて星野朱里が皿を下げ、それを手伝うみくるとアホの谷口。テーブルが片付いたところで壁に掛けてあったペンションと周辺のコテージの地図、各コテージの鍵を持った星野朱里と辻村が全体を見渡して話始める。
「お食事の際は、このペンションに来て頂くことになりますが、各コテージにもお酒やおつまみ、飲み物をご用意させていただきました。それでも足りない場合は、内線電話でお申しつけくだされば、私がコテージまでお持ち致します。私はこのペンションで寝泊まりしていますので、午前零時頃まででしたら、対応可能です」
「食事をする度にこのペンションまで来なくちゃいけないの?面倒ねぇ、一番近いコテージにさせてもらえない?」
「注文した酒が早く届くようにしてくれれば、俺はそれでいい」
「あたしは一樹と同じコテージならどこでもいいわよ!」
「暗号の解読に集中したいし、あまりうるさくない場所がいいな。僕はここにするよ」
「俺はここにする」
「朝比奈さんはどのコテージにするんですか!?」
「貴様等!!少しは年功序列というものを考えろ!!」
「やれやれ、さっき言ったばかりのことをもう忘れたか?こんな寝ボケたジジイが暗号を解読できるとは到底思えん。俺たちは財宝の相続に来たんだ。優先席を譲るために来たんじゃないんだよ。一流企業の幹部がこの程度の距離も歩けないとはな。プライドだけ一人前で、本当は三流企業の雑用係なんじゃないのか?」
「何ぃ!?もう一度言ってみろ!!」
「なら、ご要望に応えてやる。『弱い奴ほどよく吠える』今度はちゃんと覚えておけ」
「貴様あぁ――――っ!!」
殴りかかってきた島村を蹴り倒し、顔面を踏みつけた。
「少しは己の無力さを考えて行動しろ。おまえのようなチビの拳が俺に届くはずがないだろう?もっとも、考える頭すら無いようだがな。というわけで一人脱落だ。さっさとコテージを決めたらどうだ?」
自業自得と言わんばかりに残りのメンバーがコテージを決めていく。谷口がみくるのコテージの近くを陣取ることをみこして、青古泉たち五人はペンションからやや遠い位置で固まり、谷口はペンションから二番目に遠いコテージで確定。一番遠いコテージには、今俺が踏みつけている狸ジジイで決まりだ。
「あんたのコテージの鍵だ。地図を確認して荷物を置いてくるんだな。帰りたかったらそこの弁護士にでも頼むといい。じゃあな、三流企業の雑用係さん?」
俺がペンションを出た後、起き上がって唾を吐き捨てた島村が鍵と荷物を持ってペンションから出ていった。その様子を星野朱里と辻村がしばらくの間見つめていたが、片付け作業をしていたみくると谷口に気付いて皿洗いに加わった。
「すみません、手伝っていただいて……」
「気にすることないッスよ!あんな奴等放っておけばいいだけです」
「あたしも星野さんに話を聞きたかったの。あなたのお父さんのことについて……どんなことが趣味だったのか教えてもらいたいのよ。暗号を解く鍵になるかもしれないでしょ?」
「………父はギャンブル好きで、賭け事ばかりしていました。いつ借金を背負わされるか分からないような状態で、母と一緒に何度も何度も説得したんです。それで、ようやく父が折れて、そのときのお金を元手にこの土地を購入してペンションを建てたんです。ペンションのオーナーとして経営をしているうちに、次第にギャンブルから足を洗うようになったんです」
「でも、あの暗号が解けたら、その場所に財宝が埋まっているんですよね?」
「私も遺言状と暗号文を渡されただけなので、そこまでは分かりません。あのっ、後はわたしが片付けをしますので、コテージでお休みになってください」
「昼前にまた来ます!昼食の準備を俺にも手伝わせてください!」
「あの暗号文の何かヒントでもと思って聞いたんだけれど、不快な思いをさせてしまってごめんなさい。食事の準備や片付けならあたしにも手伝わせて頂戴!」
「はい、ありがとうございます」

 

「カ――――――ット!!OKよ!でも……脚本には書いてあったけど、青みくるちゃんの顔を踏みつけるなんてどういうつもりよ!!影分身で十分対応できるでしょうが!!」
「あ’’っ!!そのことをすっかり忘れて、容赦なく蹴り倒してしまった。青みくる、すまん!許してくれ!!」
「私のようなプライドが高いだけの人間にはあのような形が丁度いい。それに、おまえが施したコーティングのおかげで私は無傷だ。靴跡も残っていない。それに、コイツから見下されたときの私の表情がどうなっているか見せて欲しい。この男の設定に合った形になっているか確認させてくれないか?」
「見るまでもない。このまま続けて」
「じゃあ次、青古泉君のコテージに全員集まってくるシーンを撮影するわ!」
全員でコテージの前に集まったところで撮影が再開。俺が島村に渡した鍵以外にもいくつもコテージがあったが、藤原のバカや急進派の親玉と似て、コテージを変えるという選択肢はありえない。コテージの鍵を開けようとしている青古泉の後ろで青ハルヒが上機嫌。
「なんだ、ここにも消化器や懐中電灯が備え付けられているのか。前回の事件の反省を活かすつもりが……必要がなくなってしまった。って、どうしてそんなに楽しそうにしているんだ?」
「アイツが島村って狸ジジイを蹴り倒したのを見て、あたしもスカッとした気分になれたわ!あんな奴には一番遠いコテージがお似合いよ!」
「まぁ、それをやったのがアイツじゃなかったら、ハルヒと似たような気分になれただろうが、俺にはそこまで嬉しいとは思えない」
二人の会話を切るように呼び鈴が鳴り、『俺だ』とジョンがコテージへと入り、裕さんがそれに続いた。しばらく四人で暗号と睨み合いをしていたところでみくるが合流した。
「どう?暗号の方は。何か掴めた?」
「僕には解読できそうにないよ。何かヒントになるようなものがあるといいんだけどね」
「この暗号を書いた星野さんのお父さんはギャンブルにのめり込んでいたそうよ。このコテージやペンション周辺の土地もギャンブルで稼いだお金を元手にしたもののようね」
『少しは小声で話せ。奴等に聞かれる』
「奴等って誰のことよ!」
「まずは上村。抽選で選ばれたメンバーにも関わらず、俺たち……最低でも、俺とハルヒ、朝比奈さんは繋がりがあると思っている。このコテージの付近で隠れて見ていたのならジョンや裕も仲間だとバレる。それに、今頃窓の傍で張り付いているんじゃないか?ハルヒと朝比奈さんを目当てに……」
「も~~~~っ!!料理さえ無かったら引地ってハゲもまとめて噴射しておけばよかったわ!!」
『ついでに、星野朱里と辻村だ。盗聴器や監視カメラで各コテージの様子を見ている可能性が十分にある』
「それに、まだ誰がそうなのかは分からないけれど、あたし達以外にもミッシングリンクがあるはず。組織が絡んでいるなら間違いなく殺人事件が起こるわ!その前に何としてもこの暗号を解く必要がありそうね」

 
 

…To be continued