500年後からの来訪者After Future10-7(163-39)

Last-modified: 2017-03-22 (水) 22:53:43

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-7163-39氏

作品

北高でのバレー指導を終え、早ければ次の日曜日には今度はOGが向かうことになった。青俺が影分身に取り組ませていたタイタニック号の修理も終わり、異世界支部では来月の社員旅行で船旅を満喫することになり、青ハルヒ自ら三食用意すると豪語。OG六人のウェディングドレス姿を載せた四月号もついに完成し、社員に確認してから製本作業に移ることになった。そして、ついに本社にもデザイン課を希望する社員が現れた。片方は来週末卒業予定の現役の中学校三年生。その子の描いたデザインを見て朝倉や有希はどんな反応を示すのやら。

 

 今回は零式習得間際の青OG一人でプレートや豪華客船ビュッフェディナーのお知らせを情報結合させて、影分身で配りに行くように伝えておいた。体育館からサイコメトリーした、男子日本代表の泊まっているホテルの詳細も渡してあるし、ホテルを利用している一般客と間違えることはあるまい。
「ところでみくる、青チームのSOS団も該当するが、ダンスの練習はいつやるつもりだ?リハーサルならバックバンドも必要になるだろうが、それ以外ならCDやスマホで十分だ。できれば夜練の時間帯で子供たちも一緒にダンスの練習をさせてもらえないか?」
「そうですね、楽団の練習もありますけど、午前と午後はビラ配りに出ていますし、その時間帯になると思います」
『キョンパパ!わたしもダンスの練習したい!!』
「ダンスの練習をする日は水泳ができなくなってしまうが、三人ともそれでもいいか?」
『問題ない!』
「じゃあ、ダンスを覚えるのもそうだが、歌詞もしっかり覚えて、間違えずに歌えるようにしないとな」
『フフン、あたしに任せなさい!』
「くっくっ、心強い味方が現れて嬉しいよ。僕もダンスを踊りながらだと歌詞を間違えてしまいそうだ」
「わたしも練習に入れてください!ライブと番組出演で、三週連続でダンスを踊ることになりますし、ステージで踊って場慣れしておきたいです!」
「いくら新しいダンスでも、今まで散々ライブステージに立ってきてるから、みくるなら大丈夫っさね!心配する必要はないにょろよ!」
「あたしも振り付けを覚えないといけないわね!黄みくるちゃん、いつやるの!?」
「今日の夕食後でもいいですか?キョン君たちも夜練の真っ最中ですし、少しでも踊り慣れておきたいんです!」
「有希、すまんが子供たちの面倒見を頼む。影分身で行けないわけじゃないが、おまえもダンスの練習があるだろ?」
「問題ない」
「ついでに青有希、今週の土曜あたりに子供たちを図書館に連れて行ってくれないか?今度はおまえが子供たちのカードを作ってやる番だ」
『キョンパパ、「図書館」ってなあに?』
「本がいっぱいあるところだ。好きな本を借りて、部屋で好きなだけ読むことができる。自分の読みたい絵本を探して来い。もう平仮名もカタカナも練習したから読めるはずだ」
『キョンパパ!保育園の絵本もある!?』
「探せば見つかるはずだ。そろそろ保育園に行く時間だし、読みたい絵本をちゃんと覚えておけよ?」
『問題ない!』
アラームは鳴っていないが、青有希が食事の済んだ子供たちを連れてどこ○もドアを潜っていった。
「どうしたのよ、急に。影分身を持て余しているからって、思いついたものを企画したわけじゃないでしょうね?」
「いや、最近はバレーと水泳ばっかりだったからな。面白いことなら他にも沢山あると教えたかったのと、学習面が少し心配になっていたんだ。ダンスも歌詞を覚えるための媒体みたいなもんだ。今度、三人と客室でカラオケでもやろうかと思ってる。曖昧な部分は歌詞を見て歌えるようにするのと、自分の歌いたい曲を自分で探せるようにする。有希たちのような文学少女とまではいかなくとも、文庫本を読むくらいにはなって欲しい。それだけだ」
「くっくっ、ダンスの方は僕たちが出られなくなったときの交代要員だとばかり思っていたよ。子供たちが親離れしても、キミの方が子離れできなくなりそうだ。側室でも僕の子供にもちゃんと愛情を注いでくれるんだろうね?」
「また『ママ』と言えるようになるところから始めることになりそうだ。ちなみに青俺、ドレスのピッキングの件で一つ提案がある。やるかどうかは任せるが、送り状の宛先を書く作業を時間短縮する方法だ。リストをサイコメトリーして、契約を結んでいる業者の『宛先が書かれている送り状を情報結合する』ってのはどうだ?」
「それは『会社設立当初に閃いて欲しかった』と言いたくなりましたよ。二枚目以降にも記載されているか注意する必要がありそうですが、確かにそれなら殴り書きをしなくても済みます。僕のような字の汚い人間でも可能です」
「俺も殴り書きをすることになりそうだと思っていたんだ。指定されたドレスも梱包された状態で情報結合する。手間が省けるならそれに越したことはない」
「他にないのならこれで解散にしましょ。あんた達、三部門全部取って来なかったら張り倒すわよ!」
「問題ない。あの映画なら確実」
「昼食の時間もズレてしまいそうですし、今夜はここで祝賀会というのはいかがです?料理は僕が準備します。明日の食べ放題ディナーの仕込みも終わりましたので」
「異世界支部の編集部やデザイン課の社員に冊子を見せるのは今回が初めてよね?黄涼子、社員がどんな反応をしていたか聞かせてくれない?」
「分かった」

 

 水曜朝のパンも準備はできているし、午前中は木曜のディナーの仕込み。起きてすぐに作業を始めさせた。昼食を食べ終わるまでには終わるだろう。本社や異世界支部、北高の敷地外にたむろしている報道陣の防寒対策に思わず吹き出しそうになってしまった。女性アナウンサーに取材させるような真似だけはしないことをおススメするよ。アナウンサーとしての仕事ができなくなってしまいそうだからな。時間も頃合い、ドルビー・シアター付近の死角にリムジンを拡大してジョンと二人で乗り込んだ。ドルビー・シアター前にはこっちの取材陣は勿論だが、いくらなんでも日本の報道陣の割合が高すぎるだろう。告知後の記者会見のように、英語が喋られない奴がほとんどの気がする。日本語で話しかけてきたら英語で捨て台詞を吐くことにしよう。しかし、前の会場とは違ってシアターだからな。内装は俺もよく分かってないし、映画監督と会えるといいんだが。しばらくもしないうちに、見覚えのある後頭部を見つけて横から覗きこみ、監督を見つけることができた。
「ゴールデングローブ賞以来だね。二人とも元気だったかい?」
「ええ、仕事の方が忙しいせいで、映画関連のことは仲間から又聞きをした程度なんです。それでも、告知で訪れた各国で人気になっているから取材をさせて欲しいという電話が鳴り響いて、一時は本社の人事部がてんやわんやになっていましたよ。対応できるのが俺とハルヒくらいしかいない言語での問い合わせもありました。しかし、肝心の日本ではまだ公開前なので、正直このような式典に呼ばれても実感が湧かないんですよ」
「彼女も自分自身のアフレコに参加したと聞いていたけれど、まだ公開していなかったのかい!?世界各国の評判を聞いてから上映するかどうかを決める国だとは聞いていたが、まさかそこまでとは驚いた。僕も文句を言いに行きたくなったよ」
「パフォーマンスを除いて映画の告知すらまだ流れていませんが、明日の新聞でこの式典のことが取り上げられそうですし、ようやく映画のCMが放送される時期が来たといった状態です」
「キミの言ったセリフがよく分かった。そんな状態で実感が湧くわけもない。僕も呆れてしまったよ」
ジョンも交えて監督と三人で話しているうちに式典の開始時刻となり、今年の司会者が俺たちの前に姿を現した。影分身に意識を割いた今の状態でも司会者の緊張が伝わってくる。今夜は祝賀会になるのか参加賞で終わりになるのかは俺も分からんが、俺ですらコメントを求められても何を話したものか困るというのに、ジョンが受賞してしまったら何と話すつもりなのやら。
 俺の映画がノミネーションしたのは三部門。そのうち一つが一番に発表されるというんだから、どんな心持ちで臨んだらいいのかわかりゃしない。司会が封筒を開け中身を読み上げる。
「作品賞……『Nothing Impossible』」
隣で喜びに満ち溢れ、自分で自分の作品に拍手を送っている監督から握手を求められたが、俺はただそれに応じただけで、表情はおそらく『間抜け面』だと言われてしまうだろうな。やれやれ、今頃気づいた俺もどうかと思うが、間違いなく夕食時にこの式典の様子が映し出されてしまう。今頃、楽団の練習をしながら、有希がカメラを操作して撮影しているに違いない。在校生の立場で卒業式の式典に出ている気分でいるのが一番良さそうだ。

 

 作品賞はその映画のタイトルなんだからそれでいい。ジョン・スミスも山田太郎や鈴木四郎を欧米化したものだと思えばそれでいい。だが、どうして俺だけあだ名でコールされるんだ?まぁ、映画のエンドロールもあだ名だったし、その方がこの会場にいる全員が誰のことかはっきりと分かるだろう。というより、この中に俺の……もとい、俺とジョンの本名を知っている奴がどれだけいるのかを考えれば、俺とジョンしかいないことくらい認知してはいたが、もうちょいどうにかならなかったのか?ハルヒから張り倒されるのを免れたというのも失礼極まりないが、ノミネートした三部門で見事三冠を獲得した。映画監督と話した内容がほぼそっくりそのままコメントになってしまった。
「告知を終えた後も仕事で忙しい日々が続いていたこともあり、映画関連のことは仲間から又聞きをした程度でした。それでも、告知で訪れた各国で人気になっているから取材をさせて欲しいという電話が世界中から鳴り響き、対応可能な人間が俺とハルヒくらいしかいない言語での問い合わせもありました。ですが、肝心の日本では映画も公開前で、この式典に参加させていただき、ここにこうして立っていても正直まだ実感が湧きません。日本では映画の告知すら流れていませんが、このことが取り上げられてようやく映画のCMが放送される時期になるところです。そんな状態でありながらも、日本国外の多くの皆様方に何度も見ていただいて、今このような賞をいただけることをたいへん嬉しく感じています。ありがとうございました」
『俺がカメラに映っていたのは精々20分程度だったと思いますが、あの映画のラスト数分、キョンとのバトルを繰り広げただけで助演男優の枠に入れていただけるとは考えてもいませんでした。どんなラストバトルにするか、キョンや監督、他のスタッフと話し合い、いくつか実際にバトルを撮影して、最終的には監督の判断でこの映画のファイナルを飾ることになりました。たったそれだけでこのような名誉ある賞をいただけたことを光栄に思っています。ありがとうございました』
ジョンが受賞したあとの式典は俺にとっては淡々としたものだった。他にノミネートした作品を見ることも無かったし、バトルに誘われなければリクライニングルームを使って見てみることにしよう。こういう人物ほどアカデミー賞を受賞するにふさわしいという人間がいるかもしれん。
 式典後は記念撮影をする程度。ジョンと二人で撮影したり、監督を交えて三人で撮影してドルビー・シアターをあとにした。ジョンも早く着替えたかったようだし、あまり長居すると料理やパフォーマンスをせがまれてしまう。しかし、開始からキッチリ三時間で終わったな。俺もタイタニックで昼食にしよう。

 

『おかえり~』
「は?もう午後の仕事にまわっていたんじゃないのか!?」
「あんたが言ったんじゃない!この会社の社則を忘れたの!?」
「やれやれ、それでOG達を除いて俺たちの帰ってくる時間に合わせてくれたってことか。もう知っていそうだが、とりあえず報告が先か。無事に三冠取ることができました!」
「何はともあれおめでとうございます!今夜は祝賀会で決定ですね。あなたのコメント通り、この国ではまだ放送しないのかと呆れ果ててしまいますよ」
「やはり撮影して見られていたか。最初に作品賞の発表だったからな。どういう反応していいのか分からずに、これじゃハルヒに『間抜け面』だと言われてもおかしくないとおもっていたよ」
「安心しなさい!あの式典の最中でなくとも、あんたが間抜け面をしているのはいつものことだから!」
『ぶふっ!』
「しかし、あの場で本名で発表されても、俺とジョンを除いた人間が分かるはずもないし、本名で発表されて俺が出て行ったら日本で青俺との関係が疑われる。だが、あだ名でアカデミー賞受賞なんてどうかと思うぞ?かといって、クレイジーゴッドで受賞するわけにもいかんしな」
「とにかく、キョン君は早く昼食を食べて休んでください!式典の話は祝賀会のときでもできます!」
「そうだな。そうさせてもらうよ。式典の間に木曜のディナーも終わらせたし、ジョンの世界であの場にいた他の映画作品でも見てくる。俺なんかよりよっぽど受賞するのに適したハリウッドスターがいるだろうしな」
「ところで黄涼子、あたし達の世界の本社の社員の反応はどうだったの?」
「『もう冊子ができたんですか!?』って返ってきたのが一番。デザイン課の方は自分のデザインが採用されたページを見て喜んでいたわね。特に問題点も見つからなかったし、今夜から製本作業をお願いしてもいいかしら?できれば、男性誌の方も頼みたいのよ。その方が修行になるでしょ?」
『両方とも絶対に間に合わせてみせます!!』
みくる達の宣誓を受けて青OG達もそれぞれの仕事へと戻っていった。俺も久しぶりに99階のベッドで休むことにした。掃除しないといかんと思っていたが、ハルヒがまめに掃除をしてくれていたらしい。フロアを一周してもほとんど埃が吸着しなかった。相変わらず、ハルヒの『安心しなさい』は安心できることの方が少ないが、こういう気づかいを目の当たりにするとホッとする。ジョンに時間になったら教えてくれと頼み、作品賞としてノミネートしていた映画の観賞でしばしの休息を堪能することができた。

 

「それじゃ、キョンとジョンのアカデミー賞受賞を祝して、乾杯!」
『かんぱ~い!』
「ところで有希、今どこにいるんだ?インド洋では無くなったようだが……」
「今は日本の南。例のシーンも全員撮影した。パーティのムードには合わない」
「忘れないうちに連絡してしまおう。先ほど北高から連絡があった。他の部活の顧問と交渉して日曜に変更したから、次の週末も来て欲しいそうだ。時間も一昨日と同じ時間で開始すると言ってきた。それと、話には無かったがサイコメトリーで伝わってきたよ。練習風景を見に今度もギャラリーに生徒が集まるそうだが、撮影していた場合は機器を没収すると全校朝礼で話があったらしい。あのメンバーで来られてはバレー部以外の生徒を押さえつけるのは難しいと判断したらしい。次回はギャラリーの生徒が増えることになるだろう」
「だそうだが、六人とも大丈夫なんだろうな?」
『フフン、あたしに任せなさい!』
「ちなみに誰が誰の催眠をかけるのか決まったのかい?」
「問題ない。もう決まった」
「SOS団団長はこのあたしに決まっているじゃない!」
「あら?どうするか揉めていたのを忘れたとは言わせないわよ?」
「くっくっ、有希さんは無理でも、次の機会があれば交代すればいいじゃないか。来週も来てくれなんて言われそうだ。現北高バレー部がクイック技を習得するまでは付き合ってくれたまえ」
「この役だけは誰にも譲れないにょろよ!あたしはこれで決まりっさ!」
「わたしも、キョン君の力になれるといいんですけど……」
OG六人が声帯を弄ってハルヒ達になりきっている。って、そうか。六人じゃ人数が足らないのか。古泉役がなんでいないのか不思議で仕方がなかったが、至って単純な理由だった。
「あっははははははは!これは傑作っさ。六人とも本人にそっくりにょろよ!ちなみに、どうして黄古泉君が入ってないのか聞いてもいいっさ?」
「簡単、古泉一樹になりきるには荷が重すぎると判断した。それに本人が練習に向かえば平気」
「あたしもゾーンに入れるけど、球出しは古泉君に任せた方がいいわよ!」
「わたし、夜練前にお酒を飲んじゃってますけど、ちゃんとボールを受け止められるかどうか……」
「あら、今日くらい影分身でごまかしてもいいんじゃないかしら?」
「くっくっ、僕は反対しないけれど、ジョンの世界で古泉君たちや青チームのキョンの投げた球を受けた方がいいんじゃないのかい?」
「それはいいっさが、みんな製本作業のこと忘れてないにょろ?」
「問題ない。青チームのOG達も同じメニューをこなす必要がある。後ろで見ていないで製本作業をすればいい。彼にも投げてもらう。投手が四人いれば練習も短時間で済む」
「眼を瞑ったままだと本人と間違えてしまいそうだが、おまえら、夜練には影分身で出て、ジョンの世界では青俺たちと一緒に俺にも球を投げろっていうのか?」
「このバカキョン!あんた、涼子やジョンとバトルしていないときは暇そうにしているでしょうが!」
「ジョンの世界にいる間しかくつろぐ時間が無いんでな。しかし、あんまり調子に乗ってると、本人たちが怒りだしても俺は知らんぞ?」
『あっ、あははははは……ごめんなさい』
「僕になりきるには荷が重すぎるというのは、どう返していいものやら分からなくなってしまいましたが、またコーチとして北高に向かえるのであれば僕は構いません。ただ、今回は青僕に行ってもらった方がいいかと」
「なるほど。クイック技の練習を黄キョン先輩と黄私の二人でやると、セッターの練習に付き添う人間がいなくなるってことですね。だからこっちの古泉先輩を推薦した。でも、トスを上げるだけなら黄古泉先輩でも大丈夫じゃないですか?その間に黄私がトスの上げ方をレクチャーすればいいだけです」
「僕が話そうとしていた内容をすべて彼女に言われてしまいましたよ。ですが、ゾーンもありますし、黄僕のトスを見ていてもぎこちなさはまったく感じられません。彼女の提案通り、北高に向かってみてもいいのではありませんか?僕の方はホテルフロアの予約の件で電話対応に追われそうですので」
「なら、こっちの電話対応は黄古泉の代わりに俺が入る。だが、日曜ならそこまで電話もかかってきそうにないな。それより、金曜の音楽鑑賞教室のときはどうするつもりだ?敷地外の報道陣が邪魔になりそうだが……」
「そんなの、中学生が来る前にまた刑務所行きにすればいいわよ!」
「策としてはそれでいいだろうが、今回は逃げてもいいことにする。いい牽制になるだろうし、そのままパトカーが止まっていれば近づこうとはするまい。中学生にも他校生との乱闘騒ぎが起こるようなら即警察行きだと思わせることも可能だ。ところで、今日面接した例の二人は結局どうすることになったんだ?」
「両方とも採用することにしたわ。二人とも明日からくる予定よ。あの子には圭一さんからお金の話と機密事項について、それに無料コーディネートでもらった服やアクセサリーを友達に渡すようなことは無いようにと厳重注意があったわ。ファーストシーズン最終回の新川さんほどでもないけど、似たようなものだと思ってくれていいわ。近日中に有希さんがピアス穴を空ける予定よ」
「えっ!?涼子先輩、その子、まだ現役の中学生ですよね!?卒業式も終わってないんじゃ……」
「これはいけない。すぐにでも連絡をしてくる。卒業式なら十七日頃には終わっているだろうから、二十一日の火曜日からでもいいかね?月曜は祝日だからね」
『問題ない』

 

 圭一さんが慌てて人事部へ向かい、既に採用されたと伝えていたであろう中学生宅に電話をかけに行った。
『キョンパパ!ダンスの練習は!?』
「んー…、みくるのあの様子だと今日はできそうにないな。ところで三人とも、久しぶりにコレ食べてみないか?」
『コレってなあに?』
テーブルの上に現れたのは夕食前から作らせていたドーナツ。最近は子供たちからの要望も無かったからすっかり忘れていた。みくるはダンスの練習のことも忘れてダウン寸前。製本作業でジョンの世界に来てもらわないと困るし、先に客室で寝かせてこよう。テーブルの前に姿を現した大量のドーナツに歓声が上がった。
『おぉ――――――――――――――――――っ!!』
『キョン(伊織)パパ!ドーナツ食べていいの!?』
「いらないなら俺が食べてしまうぞ?」
『わたしも食べたい!!』
「凄い。キョン先輩、こんなのいつの間に」
「器具さえあれば、あとはパンとさほど変わらん。起きてすぐに取り掛かっただけだ。みんなも欲しいものがあればつまんで食べてくれ」
女性陣がドーナツに夢中になっているが、OG六人は夜練の方に影分身を向かわせたんだろうな?みくるも食べたいだろうし、明日の朝の分も作っておこう。
「みくる、今日はパーティになってしまったし、ダンスの練習も中止だ。どうする?このままジョンの世界に行くか?」
「キョン君、わらし、キョン君にシャンプーとマッサージをしてもらっれからがいいれすぅ~」
「じゃあ、その間に少しでも酔いを覚ましておけよ?このあと製本作業なんだからな」
「フフン、あらしに任せなしゃい!」
毎日少量ずつでも少しは酒に対する耐性がついてきたようだ。ダウン寸前でもこうして会話が成立しているし、記憶から消えることも無くなってきた。これでジョンの世界に行くことができればそれでいい。夜練が始まってドーナツ作りもここまで。本体は面接の様子をモニターでみていた。
「ん?この制服、前に見た覚えがあるな。どこで見たんだったか……」
「大方、パンフレットを中学校に配ってまわっているときに見たんじゃないの?」
「いや、そんな最近じゃない。もっと前だったはずだ」
「彼女は職場体験を受け入れた中学校の三年生。でも、事前の打ち合わせも体験期間中もあなたが私服でと指定した。おそらくサイコメトリーで得た情報の中に制服姿が含まれていただけ」
「それだ。職場体験をOKして受験に失敗した生徒を社員として受け入れたとなると、来年は朝倉のお眼鏡に叶った生徒が社員希望の電話をしてくるかもな」
「あの子なら即採用でいいわよ。わたしもあまりこういう言い方はしたくないんだけれど、二十一日からくる子もデザイン課に新しい風を入れてくれそうな子よ」
朝倉と有希なら流行の最先端をデザインで表現することができるだろうが、社員たちの年齢を考えるとジェネレーションギャップは否めない……か。給与が振り込まれる通帳や印鑑、カードは保護者が預かり、小遣い以上の額は持たせないようにと圭一さんから説明を受けていたが、本人は昼食を社員食堂で食べたいと告げている。まぁ、ここ数日のことを考えればそうなるか。昼食代と小遣い程度のお金しか貰えないのなら無料コーディネートで受け取った服を友達にあげるなどということもあるまい。そういう生徒でないことは本社入り口を通った時点で俺のサイコメトリーにかかって判明している。ピアス穴を開けて……古泉に髪でも染めてもらうか?いやいや、視聴者プレゼントが終わってからでないとマズい。まぁ、周りの様子を見ながら一月もしないうちに自分で染めてくるだろう。

 

それにしても、水泳もダンスの練習も出来なくなったせいか、ドーナツに満足してもなお体力があり余っていると言いたげだな。
「よし、じゃあ三人とも客室でカラオケでもしよう。ドーナツなら明日の朝も食べられる」
『キョン(伊織)パパ、カラオケってなあに?』
「自分の好きな歌を歌うんだ。ハルヒのようにマイクを持ってな」
「わたしの好きな歌!?キョンパパ、わたしプ○キュア歌いたい!」
「伊織パパ、わたしはド○えもんがいい!」
「キョンパパ!わたしワ○ピースの歌うたいたい!いくぜしゃいいんらんいんふぉえわー♪」
「おっと、歌うときは英語もちゃんと発音できないとな。ちょっと練習しよう。三人とも俺の真似をしろよ?」
『あたしに任せなさい!』
「Shining」『シャイニング!』、「Shining」『シャイニング!』
「Running」『ランニング!』、「Running」『ランニング!』
「Forever」『フォーエバー!』、「Forever」『フォーエバー!』
「いくぜ Shining!Running!Forever 前へ突き進むのさ~♪」
『いくぜ シャイニンランニンフォーエバー 前へ突き進むのさ~♪』
「大丈夫そうだな。じゃあ、客室で歌ってみよう。歌いたい曲がかぶったらみんなで歌えばいい」
『問題ない!』
席を立った三人を追うように影分身に三人の面倒を任せると、その様子を見届けていた佐々木が一言。
「くっくっ、まさかこんなに早く機会が訪れるなんてね。音楽と国語、英語の三教科を同時にやってのけるとはおそれいったよ。でも、パフォーマンスで技を見せていたとはいえ、キミがあのアニメの主題歌を知っているとは思わなかった。どうやら、漫画を読んでいただけじゃなかったようだね」
「あのな、アニメを見なきゃ誰がどのキャラクターの声を担当しているのか分からんだろうが。それにSOS団のカバー曲として候補に入れていいんじゃないかと考えていた曲だっただけだ。ノリの良い曲だし、五人で誰がどこを歌うか決めておけばそれぞれのソロパートもできるし、ギターメインの曲だからな。間奏のラップだけ古泉に歌わせるのも一つの手だ。有希のギターソロの傍で二人のパフォーマンスを見せればいい。三人が選んだ曲の中にたまたま英語の入った曲があっただけに過ぎん」
「分かった。次のライブから演奏する。著作権の方は任せて」
「困りましたね。次のライブからとなると、夜練以外の意識でラップというのはあまり自信が持てません」
「アンコールのダンスもあるのに更に曲が増えるのかい?いくらサイコメトリーしたとしても、自分のソロパートを忘れてしまいそうだよ」
「キョン君、そろそろわたしもシャンプーやマッサージをお願いしてもいいですか?結局ダンスの練習もできませんでしたし、早く製本作業に取り掛かりたいんです!」
青みくるの一言を気に、OG12人の本体もスパへと移動。夜練のある古泉は飲む量を抑えていたし、みくるの方も既にジョンの世界で製本作業を始めているようだ。子供たちの寝泊まりしている客室にカラオケセットを用意すると、三人とも小型機で自分の歌いたい曲を探すのに夢中になっている。無論、初めて手に取った小型機の操作方法が分かるはずもなく、タッチペンを持たせて自分の知っている曲を探させているうちにス○イルプリキュアの音楽が流れだした。すかさず伊織にマイクを持たせてやったが、前奏が短い曲のせいもあり、最初からちゃんと歌えなかったことに不満顔。選曲を終えた美姫と幸も途中からマイクを持って歌っていたし、もう一回入れても三人で歌うだろう。選曲する以外マイクを手放すことも無く、カラオケに満足した三人を風呂に入れて部屋をあとにした。
明日の新聞の一面がどうなるのかは知らんが、アカデミー賞受賞祝賀会は終わりを告げた。

 

「何か、青私の着けてる下着がまた大胆になってきた気がするけど……私の気のせい?」
「ローライズのショーツを履くようになっただけ。みんなと違って『はみ出ない』から。それに世界大会中はショーツのラインが出ないものを選んだ方がいいよ。レシーブで構えたらどうしても出ちゃうし」
「それを言うなら世界大会より今の方がよっぽど危ないんじゃないのか?短パンで練習試合に出ているときは客席から見られているってことだ。以前の青古泉や部室の椅子と同程度の変態も混じっているし、注意した方がよさそうだ。四月号には全員のスリーサイズも掲載されるしな」
「え~~~~っ!ってことは私たちもTバック系のランジェリーをつけた方がいいってこと!?」
「黄キョン先輩にアレ対策もしてもらったんだし、気にする必要ないでしょ?」
「それはそうだけど……また下着が濡れちゃいそう。今度はアンスコを履くわけにもいかないし」
「下着が濡れるようなことを考えなければいい」
「も~~~~っ!今までずっとそんなところを見られてたなんて……最悪!」
「キョン、マッサージが終わったら69階に連れて行って!あそこにある下着の中から選んでくる!」
「そんなことをしなくても、あそこにあるものと同じランジェリーを情報結合するだけだ。種類さえ豊富にあれば、色は自分で変えられるだろ?」
『問題ない』
全身マッサージを終えたOG六人が大胆下着の中から明日着けるものを選び、色とサイズを指定してサイコメトリーで俺に渡してきた。「これくらい自分で作れるだろう」とは言ったんだが、『忘れないよう念のため』だそうだ。欲求不満がなくなってから普通のランジェリーに戻っていたのだが、理由が理由だけに、こっちのOG達に大胆下着ブームが急浮上してしまった。短パンでなくともあの体勢になれば、ハーフパンツだろうが、長ズボンだろうがラインが出てしまう。
 俺がジョンの世界に行く頃にはOG達12人の防御力を鍛える練習も終えたらしく、変態セッターと青有希の調理手伝いをしている青OGは既に影分身四体を操り、青圭一さんやみくる達、ENOZも含めて、二人以外のメンバーは影分身を使わずにまずは一部ずつから始めていた。しかし、センスと修練の度合いで差が開き始め、青圭一さんとOG12人は全員影分身を出して製本作業。みくる達は最終的に一回の情報結合につき五部ずつ、ENOZもこれまでドレスチェンジを担当していた榎本さんが一歩リード。変態セッターに至っては、影分身の分も合わせると一回の情報結合につき5000部情報結合できるようになっていた。一晩だけで50万部はできたんじゃないか?このままでは男性誌の完成を待っていることにになりかねん。試しに、変態セッターに声をかけ影分身無しで情報結合させてみたところ、一回で一万部以上作れるようになっていた。俺もサイコメトリーしてみたが、乱丁も白紙のページも一切なく、周りから呆れられていた。やれやれ、商品の方も任せてしまってもいいくらいだ。

 

 翌朝のニュースは全社アカデミー賞受賞の件で一面を飾り『「Nothing Impossible」アカデミー賞三部門で受賞!!』、『キョン社長&ジョン アカデミー賞受賞!!「まだ実感が湧かない」』、『アカデミー賞受賞も、日本映画界に各国から非難の声!?』等の見出しと監督を含めた三人で記念撮影をした写真が載っていた。特出しているような新聞も特に無いし、ネタが無くなればまた売れ行き悪化の一途を辿っていくだろう。異世界の方は俺たちに関わる記事も無く至って平穏。北高で授業と部活に出向いた件とアカデミー賞受賞の件でバレーのインタビュー後に聞かれるだろうが、いつもの調子で無視すればいい。
「今日も通常業務といきたいところだが、いくつかやって欲しいことがある」
『やって欲しいこと?』
「イベントがあるごとに取材の電話が鳴り響くのはいつものことだが、人事部の社員達には今週末の土日を使って、熊本のツインタワービルに引っ越す旨を伝える役にまわしてください。以前古泉が主張していたタダで土地を明け渡してくれた世帯が上層階になるようにお願いします。電話の内容は土日に引っ越すからその準備をしておいて欲しいこと、どの時間帯に俺たちが引っ越しに向かえばいいか聞いて欲しいことの二つです。来週末まで待っていたんじゃ動き出しが遅れる。それと、古泉の方も例の交渉した家に十一日に引っ越しをするから準備をするよう伝えておいてくれ。引っ越しが終わり次第俺たちの本社の別館の建築をスタートする。有希は今週土曜日から食材や日用品がツインタワーに届くように業者に連絡を頼む。それと、これまでと同様、ツインタワー付近の店舗を潰してツインタワーに引っ越しをする。青OGで手が空いているメンバーは手伝って欲しい。それから、今夜は男子日本代表の鉄板料理食べ放題だ。全員客室の扉に挟んであるプレートを外して、客室に必要のないものは情報結合を解除してくれ。清掃とシーツの取り換えについては有希とOGの影分身に頼んでもいいか?」
「問題ない」
「分かった、社員にはそちらを優先させることにする。その頃には男性誌もできあがっているだろうし、園生や森も面談に向かうことができるだろう」
「こちらも了解しました。相変わらず動き出しが早いですね」
「なぁに、さっさと別館を建築して男子日本代表の宿泊フロアを確保するだけの話だ。OG達12人は余裕があれば影分身で製本作業をしていても構わないが、みくる達はダンスの練習が最優先。カバー曲も昨日増えたところだし、まずはライブとコンサートを成功させること。明日の昼からシンガポールを出発して七大海制覇に出かけるが、折角だからシンガポールの夜景を見てから出港しようと思っている。船が港を出るのは明日の夜か明後日の朝ということになりそうだ。涼宮社長、異世界支部の件で何か伝えることはあるか?」
「こっちも通常業務よ!も~~~~っ!なんであんたばっかりアイディア豊富に浮かんでくるわけ?」
「今までやりたくてもできなかったことが、ようやくできるようになっただけだ。今週の土日はこれまで通り、ツインタワーの復興支援に回ることになる手の空いているメンバーはツインタワー地下一階に集まってくれ」
『問題ない』
「ところで、別館は確か、芝生や車道抜きで70階のビルにするんだったね。どんな内装になるのか教えてくれないかい?」
「一階が店舗、二階に洗濯乾燥機を並べて、練習用体育館の倉庫に繋がるどこでもドアを設置する。三階に購買部を設置してそれより上は男子日本代表のホテルフロア。10階、11階に大浴場だ。四月に入ったところで、今宿泊しているホテルから別館に移ってもらう。その間も徐々にシートを外していって三月下旬には別館店の店舗をオープンさせる。青OGに店員として入ってもらうことになるだろうが、またアルバイトを募集して経験を積ませるところからだな。各フロアの構成は暫定的なもので、別館が完成次第フロアの改装をする。こっちも使う目的が見つからないフロアはホテルフロアになりそうだが、社員食堂がパンクする。何か使い道があったら教えてくれ。勿論、別館店の前に報道陣が蔓延ることのないよう閉鎖空間を取り付けるつもりだ。折角店内の品物を見やすくしたのに邪魔になるだけだからな。それとみくる、今朝はドラマの件で一面を飾ることはなかったが、アイツ等に第七話を見せに行く。お茶の準備を頼む」
「はぁい」

 
 

…To be continued