500年後からの来訪者After Future4-8(163-39)

Last-modified: 2016-09-20 (火) 20:06:07

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-8163-39氏

作品

ヒロインに家族の時間を取らせてくれと伝えて夕食はまたもや回転寿司。職場体験中の生徒も三日目辺りから厳しくなってくるだろう。寿司を堪能させて最終日にもう一度フルコーディネートすれば満足して帰って行くに違いない。デザインの方も有希も朝倉も採用していいものばかりだと言っていた。ようやく家族との時間が取れ、双子や幸もみんなで一緒に入ったお風呂に満足し、ハルヒ達も大人の時間がとれた。そして、ついにハルヒから一夫多妻制OKの言葉が飛び出した。次に戻って来る頃にはまた本社の大浴場を貸し切って青ハルヒやW佐々木と一緒に入るなんてことにならんだろうな?二人前のお寿司を平らげたヒロインを連れてスウェーデンでの告知が始まった。

 

 ホテルに戻るリムジンの中で、ヒロインと二人で生徒の様子をスカ○ターで見ていた。デザイン課には四人、本店の方に二人という話だったな。80階では12時前にして金券を握りしめた社員の列が出来ていた。お茶を振る舞いに来たみくると、キューブを拡大しに来た佐々木。
「今はいないけど、昨日キョンが内緒で戻ってきて作っていったものだから味は同じはずだよ」
と社員に説明。社員の後ろには中学生六人の姿があった。ここで配り終えてから店舗に向かうらしいな。バレー合宿のときのVTRをニュースで見ていたんだろう。六人とも赤身から手をつけて口の中で暴れている赤身に驚いていた。店舗の方も同様、店の奥で赤身を最初に食べた生徒が両手で口を押さえた。大声は出さない様にと言われていたようだ。声を出しそうになったんだろう。ひとまずここまで確認できれば問題はない。ところでジョン、ハルヒ達の様子はどうだった?
『死体を一体も残さず塵にしろというのは伝えた。それに今夜も暴れたいから新しい組織を開拓しておけだそうだ。まぁ、その代わり、暴れた組織でサイコメトリーした情報は全部俺に集約してキョンに渡すよう言っていたから、後で渡すことにする。ニュースでは特に取り上げられていないが、今後出てきてもおかしくない。特に中国やアメリカと密輸入しているような組織なら注意した方がいい』
注意すると言ってもな。放っておくわけにはいかないだろう。イタリア支部の人事部については聞いているか?
『それについてはまだ何も聞いてないが、夕食後もイタリア支部へ向かうそうだ』
アメリカは敵に回してはならない相手を敵に回したと思っているだろうから攻撃したくともできまい。問題は中国だな。マフィアの数が多すぎる。事前に対策を打っておいた方がよさそうだ。
『有希、俺だ。今後のことをジョンと相談していたんだが、本社の社員と都内にいる店舗の店員だけでいいから移動型閉鎖空間をつけてもらえないか?一人で無理そうなら他の連中にも頼んでもいい』
『問題ない。都内だけならわたし一人で十分。明日の夕方までには終わらせる』
『すまんな。よろしく頼む』

 

 リムジンがホテルに近づくにつれてヒロインの鼻歌が聞こえてくる。そういえばアレを渡すのをすっかり忘れていた。
「すまない、寿司のことばっかりで今思い出した。12月に日本でアテレコするんだがそれの台本をもう送ってきたんだ。おそらく『ヒロインが日本語でアテレコするなんて出来るわけがない』とでも思われているんだろう。その練習の期間を確保するために今送ってきたらしい。だが、ニュアンスが違うところばかりでな。赤で修正を入れて送り返して他の声優陣にも伝えておけと言っておいた。試しに今夜練習してみないか?」
俺の分も含めて二部情報結合すると、自分の分の台本をパラパラとめくり始めた。
「こんなにいっぱい修正されているの!?あ、でもそうね。ニュアンスが違っているわ。主演のあなたに直されたんじゃ向こうも文句は言えないでしょうね」
 ホテルに着いて、ヒロインの自宅をテレポートすると早速俺に触れて服のイメージを伝えてきた。今日はこれに着替えさせてといっているようなもんだな。指を鳴らしてドレスチェンジすると後ろから抱きついてきた。
「ねぇ、キョン。あなたも早く着替えて!さっきの台本でアテレコの練習しましょ!」
「それはいいが、夕食はどうするんだ?」
「あなたの料理を毎食食べて、今朝なんてお寿司を二人前も食べちゃったから太ったみたいなのよ。私の分はいいからあなたの分だけ作って食べて」
「やっぱりな。告知してリムジンに乗って俺に抱きついていただけだったから、何か運動しているんじゃないのかと不思議に思っていたんだ。普段はどうやって体型を維持してるんだ?」
「あなたの料理を食べてからは何を食べても美味しいって思えなくって……それで食が細くなっていただけなの。でも、あなただってその体型を維持するのに何かトレーニングしているんじゃないの?」
「ああ、今もトレーニングを続けている最中だ」
「………それってどういうこと?」
「女性にはあまりお勧めはしたくないトレーニングなんだが、ジョンが俺に教えてくれたんだよ」
「ジョンがあなたに?それに女性にあまりお勧めしたくないってどういうこと?」
「通販で腹部や太ももに巻いて微弱な電波を送ってトレーニングするなんて言うのを見たことあるか?」
「いくつか実際に購入して試したこともあったけど、あんなハードスケジュールの中で毎日続けるなんていくらなんでも出来ないわよ!それに、そういうのは一人でやりたいし」
「そのトレーニングを、何もつけないで全身にさせている真っ最中なんだ」
「……意味良くがわからないわ」
「実際に試してみた方がいいだろう。ベッドに横になって眼を瞑ってくれ」
「私だけじゃ嫌!あなたも一緒に来て!」

 

やれやれ、二人っきりだとやりたい放題だな。決して嬉しくないわけじゃないが、家族がいる身でありながらこうやっているのもどうかと……有希にはもうバレているかもしれん。とりあえず二人でベッドに横になると、俺の両親と似たようなものをヒロインにも取り付けて、低周波を少し強くしてみた。
「どうだ、全身に何か電波みたいなものを感じないか?」
「そうね、なんだかピリッとくるような気がするわね」
「もう少し強くしてみよう。それなら体感できるはずだ」
「痛たたたた……何よこれ!?」
ようやく実感できたらしい。これでスムーズに説明が進められそうだ。低周波をまた弱めて話を続ける。
「今のをもう少し弱くしたものをジョンも俺も身に纏っているんだ。でも、そんなの何も見えないだろ?」
「そうね、ジョンに会ったときもそんなトレーニングをしているようには見えなかったけど…」
「誰にも見られずにこうやってトレーニングをし続けているんだ。今取り付けたのと同じもので。24時間365日な」
「24時間!?でも、ジョンもあなたもこんな状態でどうやって寝ているの!?私、こんな状態じゃ寝られないわよ!」
「寝ようとしてもトレーニングしていると気付かないくらいにまで低周波を弱めているんだ。これから少しずつ弱くする。何も気にならなくなったところでストップをかけてくれ」
「………ストップ」
「これで俺が解除するまで永遠に続けられる。毎食ちゃんと食べていても、まったく運動をしなくても、微弱な電波を浴び続けているから太ることは一切ない。ただし、あんまり長期間やりすぎると俺やジョンみたいに女性でも腹筋が割れてアスリートみたいになってしまう。だから女性にはあまりお勧めしないってわけ。ある程度続けたら一旦止めて、太ってきたかな?と思ったらまた取り付ければいいだけだ。自分一人しか食べないのに、夕食を作れなんて寂しいこと言わないでくれ」
「ジョンとあなたばっかりずるいわよ!こんなトレーニング法があったなんてもっと早く聞いておくべきだったわ!今まで疲れと眠気に耐えながら体型を維持してきたのに!今度のパーティで集まるみんなにも話してあげたいくらいよ!」
納得したら怒りだした。まぁ、それだけ厳しいスケジュールで生活してきたからこそだろうな。
「みんなに話すのはいいが、カメラの前でだけはやめてくれよ?」
「当たり前よ!こんなの全世界に広まったらあなたが大変になるじゃない!……でも、これなら夕食を食べてもいいってことよね?キョン、私の分も作ってくれない?」
「なら、またキッチンに戻ろう」
「今日はどんな料理を作るの?」
「できてからのお楽しみだ」

 

夕食を終え、風呂に入るのかと思いきやまたベッドに逆戻り。だが、さっきと違うところはヒロインが台本を持ってラストの重要なシーンのセリフを小声で練習しているようだ。
「アテレコするなんて初めてだし、声だけで感情をしないといけないんでしょう?私にそれが務まるかしら?」
「ならこの台本に触って聞いてみればいい。『セリフをどんな風に言ったらいいか教えてくれ』ってな」
彼女にエネルギーをあたえたわけじゃないが、台本を経由して俺がその情報を引き出せばいいだけの話だ。日本語のときと同様、台本をサイコメトリーしたヒロインに入ってきた情報をどうしていいのかよく分からないらしい。
「今ならどんなに大声を出しても外にいるSP達には聞こえないから平気だ。寝ながらだと声が出ないし、立ち稽古してみないか?俺が科学者役をやる」
「面白そうね。いいわ、どこのセリフからにする?」
「じゃあ、『いいえ、まだよ!』の前の科学者のセリフから俺が言おう」
ジョン、バトンタッチするか聞く方に回るかどっちがいい?
『俺は聞く方がいい。もし、また練習することになってもバトンタッチをするつもりはない。始めてくれ』
それはいいが、聞いていて間に別のセリフ入れてくるなよ?
『もももん問題ななな無ないいいいい。なんてな』
結局どっちなんだかよく分からん。
「キョン?どうかしたの?」
「いや、俺たちとジョン以外の声優も決まったみたいだからその声優の声で科学者役を演じようかと思ってな。その方が本番って感じがするだろ?」
「そんなこともできるの!?」
「声帯をちょっと弄るだけだ。それにこの声優日本では悪役声優として結構有名なんだ。もしかしたら知っているかもしれん」
「どんな声なのか楽しみね。いつでもいいわ、始めて頂戴」

 

『くくくくく…最初は身体能力が極めて高いだけの馬鹿だと思っていたが、どうやら頭の方も切れるようだ。キミの言う通りだよ。換気するだけでは不十分だと思って撒いた中和剤が、まさかキミ達を治療することになるとはね。でも、それもここまでだ。あとは毒に冒されていくのをジッと待っていればいい。キミ達がどういう死に方をするのか楽しみで仕方がないよ。くくくくく、ふはははは…は――っはっはっは!』
『いいえ、まだよ!』
『ほう、これは驚いた。中和剤が効いたとはいえ、二度も立ち上がってくるなんてね。この毒もまだまだ改良の余地がありそうだ。くっくっく、まさかこういう展開になるとは僕も想定外だよ。僕の下で働かせていた科学者たちを実験台にしなければよかったと後悔している。それで、僕に向けて銃を構えてどうするつもりだね?』
『あなたの持っている血清を出しなさい。用心深いあなたなら、少なくとも二つ以上は持っているはずよ』
『断ると言ったらどうする?』
『決まっているわ。あなたを撃つだけよ』
『なら撃つといい。撃てるものならね。キミが撃てば僕は死ぬかも知れないが、キミはガードマンに抑え込まれる。もはやキミ達に逆転のチャンスはない』
『勝手に決めつけないで欲しいわね。あなたの言い分が正しいかどうか、その眼に焼き付けておきなさい!』
『ふははははは、現状を見たまえ!僕が言った通りじゃないか。キミはこの映像を目に焼き付けてほしかったのかね?くっくっく、実に愉快だ。これだけの傷を負いながらここまで嬉しいと感じることは僕の生涯でこれがはじめてだろうね。キミ達の末路はこの僕に委ねられたも同然だ。くくく…どんな死に方がお望みか一応希望を聞いておこうか。僕はこう見えて優しい人間なんだ。出来る限りの要望に応えようじゃないか』
『悪いけど、これで終わりじゃないわ!』
『何?』
『これが何だかあなたに分かるかしら?』
『馬鹿な!この状況を想定した上で、予め弾を抜いておいたとでも言うのか!?』
『ええ、そうよ。あなたのような実験と失敗ばかり繰り返している科学者に、先を読むなんてできるわけないわ。そして…銃を構えなくても弾丸さえあれば狙撃できる人間が一人……。あとはあなたに任せるわね』

 

 さすがサイコメトリーしているだけのことはある。声だけでも十分感情が伝わるだろう。他の声優がNGを出さなければの話だがな。
「どうだった?なんて聞く必要もなさそうだな」
「自分でも信じられないわ!さっきはあんなに不安だったのに、サイコメトリーだけでここまで演じることができるなんて!それに………その科学者の声、どこかで聞いたような気がするんだけど、どこだったかしら?思い出せないのよね」
「名作アニメの凶悪なキャラクターから三歳児向けの教育番組のマスコットキャラクターまで演じている人だからな。多分一つずつ挙げていっても分からないかもしれない」
「この台本、貰ってもいいかしら?また別の日に、今度はあなたとの会話のシーンを練習してみたいわ」
「元々、ヒロインに渡してくれと頼まれてもってきたんだ。いいに決まっているだろ」
俺のセリフを聞いてにっこり笑うと、俺の台本も取り上げて夕食を食べていたテーブルの上へ。戻ってきたと思ったら俺の腕を掴んでベッドに倒れ込んだ。
「ふふっ、これであなたとの時間が楽しめるわね。今朝から………ううん、昨日からずっとこの瞬間を待っていたんだから!」
自分の腕をからませると、二の腕に胸の弾力が伝わってくる。足もしっかり固定されてテレポートでもしない限り逃げられそうにないな。俺も体制を横にしてヒロインを抱き寄せて髪を撫でる。
「幸せ………こんな生活が毎日続けばいいのに……」
「毎日とまではいかないだろうが、告知が終わるまではできるだけ一緒にいてやるよ」
「キョンとなら、もう一周してもいいくらいだわ!」
おいおい、記憶操作はしているがもう一回イタリアに行くつもりかよ。
「公開してから告知に行ってどうするんだ?」
「だって、試写会を見た人たちも何度も繰り返してみたいくらいだなんて話してたんでしょ?今度はちゃんとカメラに写るようにしてアメリカのTV局まわってもいいくらいだわ」
「それなら、次の映画撮影で行けばいいんじゃないか?」
「絶対嫌!あなたと一緒じゃないと、どんなに依頼が来ても受けたくないわよ!」
「俺は本来の仕事に戻る。たとえこの映画の続編があったとしても受けるつもりはないよ」
「お願い、キョン!私、あなたの会社で働きたい!あなたの傍にいたい!もうこんな生活は嫌なのよ……」
「そこまで本気なら、告知が終わって戻ってきてみんなを説得しないとな」
「あなたと一緒にいられるなら何でもやるわ!だからお願い!」
「気持ちは十分伝わってる。今日はずっとこうしていてやるからゆっくり休もうぜ」
「絶対に離さないでよ?」
「こんな状態でどうやって抜け出せっていうんだ。途中でトイレに行きたくなったらどうしようか考えていたところだ。そっちが絶対離さないのなら、俺はどうやって離れたらいいんだ?」
「私もついてく」
「冗談に聞こえないんだが?」
「だって、音なら遮音膜で聞こえない様にできるじゃない!それにあなたの力ならわたしを運ぶくらいは簡単なはずよ?」
「途中で起きるようなことになっても文句言うなよ?」
「言わないわよ」
「じゃあ、今日はこれでゆっくり休もう。絶対に離してやらんからな?」
「おやすみなさい」
もう何度目か忘れたが、お休みのキスを受けて眼を瞑った。少しの間髪を撫でてヒロインの意識を無くした。

 

 さて、また1%だけ残しておけばいいだろう。ジョン、ハルヒ達から受け取った情報をくれ。
『これだ』
末端組織がまだこんなにいるのか?アホの谷口があと何匹いるのやら。おっと、忘れるところだった。マネージャーに知らせておかないとな。彼女の携帯を借りてマネージャーらしき番号に電話をかけた。念のため遮音膜も張っておこう。
「今度はどうしたの?」
「キョンです。すいません、彼女の携帯を借りて電話をかけさせてもらいました」
「その節はすみませんでした。あなたじゃなかったらあんなトラブルを回避することなんて出来ません!本当にありがとうございました!」
「それで、本題に入らせていただきたいのですが、イタリアを出国した後、彼女の精神的ダメージが酷くて、一時はこれ以上告知には行きたくないとまで言っておりまして、今もようやく眠ることができたばかりなんです。それで、少しでも精神的ダメージを和らげるために、ちょっとした記憶操作をしました。信じられないかもしれませんが、今の彼女にはイタリアで告知した記憶はあっても、VTRにあったような襲われた記憶は一切なくなっています。それでもこれで引退したいと何度も口にしている状態でして……」
「あなたがそう仰るなら、本人にVTRを見せたとしても自分のことだと分からないでしょう。今後、イタリアには寄らずに告知に行ったとしても、あなた以外に彼女のメンタル面のケアはできそうにありません。私達の方も覚悟を決めなければいけなくなりそうです」
「残りの国でどんなトラブルがあろうとも、絶対に彼女は死なせません。必ず無事に帰還しますので、どうか宜しくお願い致します」
「分かりました。あなたも無事に戻れるよう祈っています。宜しくお願い致します」
マネージャーとの電話をそこで打ち切り、あとはSP達に知らせてくれるだろう。監督にも連絡してくれるはずだ。説明してから張るつもりだったが、頭を撃ち抜かれてからじゃ遅い。閉鎖空間とコーティングを彼女にもつけておこう。

 

 やってきたのは当然イタリア上空。まずは末端組織の壊滅をしないことには始まらん。上空に前回と同様の空間を張り、組織のど真ん中へとテレポート。
「来やがったな!」
「『遊びに来てやったぞ』と先に言うつもりだったが、どうやら既に情報がまわっているらしいな。なら、俺が来た後どうなるかも知っているはずだ。死にたい奴からさっさとかかってこい」
「奴を囲んで射殺しろ!全方位からなら捉えきれないはずだ」
「ちょっとはマシになったか、だが、その作戦を実行した結果がどうなるか、これからよーく見せてやる。おまえらが弾を使いきるまで俺は一切動かん。さっさと撃って来い」
リーダー格は疑念を抱いているようだが、脳内筋肉バカが考えるより先に行動に出てしまった。
「このっ!後悔しやがれ――――――――――――――――!!」
そのセリフをきっかけに全方位からの銃弾の嵐。閉鎖空間で反射して時間が経つ毎に組織の奴等が倒れていく。正面にいたリーダー格とその後ろにいた奴数名が恐怖に脅えていた。
「さて、後悔したのはどっちの方かな?」
「こちらにはもう手は残されてはいない。警察を呼んで自首をする。今回は見逃してくれ。頼む、この通りだ」
「リーダー格が土下座で命ごいをしてきたか。優秀なリーダーがいても部下が部下じゃあな。とりあえず、一旦保留だ。倒れている奴と一緒に待っていろ」
「何をすっ……」
容赦なく全員テレポートさせて、金品を強奪。俺たちに関わる書類等をすべて焼きつくして、次のアジトへと向かう。金品はイタリア支部には置かずに本社の金庫でひとまとめにしておいた方がよさそうだな。組織を一つ潰すたびにあのアホと同レベルの奴等が増えていく。つくづく俺を苛立たせてくれる奴だよ、まったく。

 

 時間的にもそろそろ戻らないとまずい。貯まったストレス分発散したかったんだが、約束は約束だ。キューブと共に上空にテレポートした。ジョン、交代だ。
『キョンが得た情報は他のメンバーに伝えておく。金品も集約して俺が持つ。全組織を壊滅したらキョンに渡すよ』
ああ、それで構わん。さっさと殺って戻るぞ。
『ちょっとは俺にも遊ばせろよ。まぁいい、声だけ変えてやってみるか』
遊ぶんならパフォーマンスとして誰かに見せるときじゃないとな。何をするのか大体の見当はついているが、それはハリウッドスターに対して見せるためのものだ。重症を負わせたマフィア相手にすることじゃない。
『か~め~○~め~波――――――――――――――――――――――――!!』
そこまで違いは無いとはいえ、1%の意識の方を本体にするべきだった。残った1%がいる場所にテレポートしてヒロインの眠気を取った。少しキツめに抱き締めるとようやく眼が醒めたらしい。
「おはよう」
「キョン、おはよう。嬉しい、ずっとこのままでいてくれたんだ」
「高校生くらいまでは寝相が悪くてな。叩いたり蹴ったりしてないか少し心配だったんだが、大丈夫そうだな。よし、朝食作ってくるから、シャワーでも浴びてこい」
髪を撫でるとキスで返ってきた。しかし、時計をはめているとはいえ、時差の計算がめんどくさくて仕方がない。颯爽とシャワーを浴びに行ったヒロインを見て俺も起き上がると、朝食と昼食の弁当の準備を始めた。

 

 今後の予定は、午前中に残りのTV局をまわって空港からフランスへ。フランスで一泊したら次は韓国か。もうちょっとハリウッドスター達のことを考えたスケジュールにしろと言いたいところだが、今回は逆に功を奏した。飛行機の中にいる間に野球の試合になる。ヒロインも呼んで見せるには絶好のチャンスだ。どの道数時間しか機内にいないんだ。少しくらい俺たちのことについて話してみるのも悪くない。機内からいつものようにテレポート&ドレスチェンジを終えてベッドで横になると俺から話を振った。
「一つ聞いてみたかったんだが、自分がハリウッドスターになっても、俺と会う事がなかったとしたら、どうしていたと思う?」
「私も彼もキョンの料理を食べて変わったようなものだったわ。彼が100階のビルからの景色を見てみたいなんて言い出さなかったらあなたと会うこともなく、こうやって自宅に帰ってくることもできずに辛い人生を歩んでいたと思う。でも、何かしらのきっかけで引退していたと思うわ。こんなにハードスケジュールなんだもの。体調を崩しても告知でTV局内にいるときは平然としてなきゃいけない。とてもじゃないけど、耐えていけそうにないわね」
「自分がハリウッドスターにならなかったとしたら何になっていたと思う?」
「ありえないわよそんなの。だって、小さい頃からの夢だったんだもの!でも、最初の頃は全世界に告知なんて楽しみでしょうがなかったけれど、今じゃもう……」
「ところで、ドラ○もんって知ってるか?」
「勿論よ!知らない国の方が少ないんじゃないかしら。日本の漫画やアニメ、ゲームはこっちでも有名だもの。あなたとジョンが披露試写会で見せたバトルも漫画の世界を再現したものだったんでしょ?日本の漫画を読んでいる人たちがあの披露試写会の映像を見てどうだったか、大勢インタビューされていたもの」
「日本でも同じようなニュースやってたよ。試写会を一緒に見た人たちが、ジョンのかめ○め波を自分も撃ってみたいなんて真似していた。ちなみに、もう何度も宙に浮いて見せているからタケ○プターはいらないが、どこ○もドアも実際に使うことができるって言ったらどうする?勿論四次元ポケットから出してな」
「ホントに!?見せて見せて!」

 

締め付けるように俺の腕に抱きついていた状態から一転、ガバッと起き上がって、正座……じゃないな。女の子座りってところだろう。何かの本だか番組だかで、女だと関節が柔らかいためあの姿勢が一番楽だとかなんとか……まぁ、いいや。ベッドから立ち上がってポケットから情報結合した四次元ポケットをお腹に張りつけると、アメリカではどんな声でやっているのか知らんが、日本の現ドラ○もんの声で叫んだ。
「どこ○もドア~」
「おぉ~」という声と共に拍手が鳴った。双子と反応がほとんど変わらん。
「三メートル後ろへ」
どこ○もドアがもう一つ情報結合され、ドアを同時にオープン。ドアに入ると三メートル後ろから足が出ている。
「私にも通らせて!」
ドアを何度も通ったり、手や足だけドアの先に入れたりして後ろを確かめたり。22世紀の科学の結晶ではなく、超能力の応用だけどな。
「キョンのテレポートが無くても、これならどこの国でもすぐに行けるわよ!」
「残念ながら、これも俺のパフォーマンスの一つだから貸し出すことはできないんだ」
「も――――結局あなたじゃなきゃダメってことじゃない!」
「まぁ、そう言うな。他にもできないかと思って色々と試してみたんだよ。スモールライト、タイムふろしき、通り抜けフープは現実化できた。でも、一番現実化したかったものがどうしてもできなくてな」
「一番現実化したかったもの?」
「もし○ボックスだよ。『もしも~~だったら』で現実とは違うパラレルワールドを作る道具だ。知っているかどうかは分からんが、ドラ○もんの映画での○太の魔界大冒険っていうのがあってな。『もしも魔法の世界になったら』って言って本当に魔法の世界ができてしまった。そこからが面白くてな。魔界に乗り込んで大魔王を倒すなんてストーリーで初めて見たときはドキドキワクワクしながら見ていた」
「その話は知らないわね……でも、今の私なら日本のアニメがそのまま見られるってことでしょう?日本にアテレコに行ったときに見せてもらえないかしら?」
「そんなことでいいなら、日本じゃなくてもここでだって見られるぞ。今度時間があるときに一緒に見ようぜ。シアタールームのような大画面で見せてやるよ」
「本当!?じゃあ、明日の夜!そうよ、そうだわ!キョンに日本語を習ったのに、日本のアニメや映画がそのまま見られるってことにどうして気付かなかったのかしら!?」
「じゃあ、決まりだな。他にもみたいものがあれば考えておいてくれ」
「そうね……ん~今はまだ思いつかないわ。何か閃いたらキョンに言うわね。そういえば、もし○ボックスは現実化できなかったって一体どういう事?」
「試しに『もしも俺の頭が良かったら』でやってみたんだが、俺の頭が良くなることは無くパラレルワールドだけできてしまったんだ。これ以上使ったらいろんな世界が出てきてめちゃくちゃになりそうだと思って断念したよ」
「パラレルワールドだけできたって一体どういうこと?」
「要するに、この世界と似た世界がもう一つできて、そっちの世界はそっちの世界で同じように時を刻んでいる。まぁ、異世界ってところだな。俺も異世界の自分に会ったときは吃驚したぞ」
「えっ!?ってことは、その世界に私もいるってこと?」
「さっきの話の流れからすると、ハリウッドスターになっているだろうな。今みたいに告知でまわっているとしたら見つけるのに苦労しそうだ」
「キョンはその世界に行くことができるの?」
「勿論だ。すでに異世界のハルヒや他の仲間たちも見つけたよ。互いに気が合ってしまって、今は日本のあのビルで一緒に生活しているんだが、瓜二つでどこで区別していいのか分からないメンバーばっかりでな。人参が好きか嫌いかで判断しなくちゃいけなかったり、ボードゲームに強いか弱いかで判断しなくちゃならなかったりで見た目で判断できないくらいだ。ああ、そうそう。異世界のジョンだけはどこを探しても手がかり一つ見つからなくてな。他に心当たりは無いのかと散々聞いて探し回ったんだが未だに見つからん」
「あのビルで異世界のハルヒさん達と一緒に生活してる!?」
「そうだ。去年の年越しパーティに参加したのは俺と結婚したハルヒじゃなくて異世界のハルヒの方。この前アメリカ支部で調理場で立っていたのも異世界のハル……ゲッ!!まずい、すぐに機内に戻るぞ!降りる時間だ」

 

 ヒロインも自分が下着姿だったことにようやく気付いてあたふたしていたが、ドレスチェンジとテレポートで機内へ戻り、空港を出た。狙撃手はいないな、リムジンも問題ない。時間ギリギリまでベッドで話していたが、これでようやくヒロインに異世界人がいることをインプットすることができた。目の前にハルヒが二人現れても大丈夫だろう。もし引退して本当に俺たちの会社で働くなんてことになれば、宇宙人、未来人は説明しなくても済むし、俺のことを超能力者と受け取っている。だが、異世界人だけは耐性をつけてからでないと、目の前に突き付けられた事実に対してどう理解していいのか分からなくなってしまう。フランスのTV局を回る間のリムジンでの会話は異世界のことや俺たちのことについてヒロインが色々と聞いてきた。ハルヒは身長で区別がつくと話すと、「二人揃ったところが見てみたい」などとはなしていた。これで俺たちの会社に来ることになっても当面は問題ないんだが……ジョンの世界のことを、どう話していいものかと悩んでいる。
『現実世界と消失世界の間にある世界とでも言えばいいだろう。俺のことも異世界人が見つからなかったんじゃなくて未来から来たと真実を話せばいい』
だが、そうすると、ジョンが常に実体化していないといかん。食事時に現れなければ、「ジョンの食事は?」と聞かれてしまう。
『青チームのキョンの方に来たことにすればいい。記憶操作をする前の行動を鑑みれば、キョンの意識の中に俺がいたと話すのはまずいだろう』
どうやら、そうなりそうだ。夕食を終えて互いに風呂に入ったあと、約束していた映画を見ることにした。ベッドに二人で横になって見やすい位置に巨大スクリーンを作って上映開始。正直、日本に帰ってないしマフィアも潰さないといけない。何度もみた映画を見ていられるほどの余裕はないんだが、日本は今、丁度お昼時で俺にできることがあまりない。こちらの意識を三割、残り七割の影分身でマフィアを襲いに行くか。あれだけ壊滅に追い込んだっていうのにまだ半分以上残っているからな。あとは一夫多妻制をハルヒがOKしたのはいいが、俺の両親にどう説明したものか……W佐々木の存在意義もそうだ。研究に没頭してしまえばだんだん大きくなっていくお腹を見られずに済むが……
『ああ、それならキョンがみんなで風呂に入った翌朝に朝比奈みくるが全部事情説明していたぞ。青チームの涼宮ハルヒや朝比奈みくるまで喜んでいた。青チームの朝比奈みくるも呼び捨てで敬語は無しで良いそうだ』
何!?なんでそれを早く言わないんだおまえは!俺が日本に戻ったらやりにくいだろうが!!
『眼の前の巨大スクリーンで自分のキスシーンを見られるよりマシだろう。もっとも、それがもう一回あるのを忘れていないだろうな?』
十二月のアテレコのあと、一月に日本でまた披露試写会があるんだった。しかしあそこでまたバトルを見せるとすると……どうするかな。科学者役の声優のことも考えると……
『その声優にマイクを持たせて俺が相手役になればいいだろう。ついでに催眠をかけておけばいい』
やっぱりそれしか方法がないか。しかし……あの役を誰にやらせるかが問題だ。
『あそこから始める必要はないだろう。途中から開始してキーになるセリフを入れればいい』

 

 ジョンと打ち合わせをしているうちにエンディング曲が流れだしていた。大魔王を倒すまでの過程は元祖の方がいいんだが、リメイクした方はラストが感動的なんだよな。エンドロールが終わり、ヒロインもその余韻に浸っていた。
「最後のシーンは涙が溢れてきそうなくらいだったわ。でもこうして最初のシーンから振り返ってみると、パラレルワールドに行った二人が現実世界に戻ってきたってことよね?あなた達もこれと一緒なの?」
「タイムマシンでの移動はないが、異世界の俺たちがこっちの世界に来て双子同然の状況になっているのは確かだ。前に一度一緒に食事しただろ?あのときはジョンがガードマンに見えたのと一緒で一方に催眠をかけていたんだ。双子が何組も出来ている状態をいきなり見せるわけにはいかなかったんだ。目の前に突き付けられた事実に耐えられなくなりそうだったからな。あのときのハルヒは催眠がかかった状態で、野球でアンダースローを投げたのは異世界のハルヒの方。それで、日本時間で今度の土曜日にプロ野球選手たちを相手に俺たちが闘うんだが、見に来ないか?韓国からモスクワへ向かって、つまらない移動をしている真っ最中だ」
「是非見に行かせて!異世界のハルヒさんのアンダースローが見てみたいし、あなたも投げるんでしょ?118マイルの剛速球を」
「あれはパフォーマンスの一部で、本来なら使っちゃいけない反則技なんだ。だから、一日に三球しか投げられないと条件をつけてある。異世界のハルヒのアンダースローと俺のナックルボールで相手バッターを食い止めることになるだろう」
「楽しみね…どんな試合になるのかしら」
「例のモニターで、ベンチにいてもキャッチャーの後ろから撮影しているような映像をジョンが流してくれる。アナウンサーや実況の声も聞こえてくるから、それも含めて見ていてくれ」
「ところでこれ、どこかで見たことある気がするんだけど……なんて名前の機械なの?」
「スカ○ターって言ってな。ジョンが大好きな漫画で出てくるものを改造したのがそれだ。今度はそっちの映画も一緒に見よう。聞かせたいものもあるんだ」
「聞かせたいもの?」
「まぁ、次のお楽しみにってことで」

 
 

…To be continued