500年後からの来訪者After Future5-14(163-39)

Last-modified: 2016-10-20 (木) 20:41:11

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-14163-39氏

作品

報道陣の公開処刑から一転。すぐにでも試合をと特番が放送された日の二日後に試合をという連絡が特番の最後に知らされた。異世界での試合に向けた投球練習を続けていた青ハルヒのアンダースローでさえ、何度も出塁を許してしまうという状況の中、満塁というピンチを朝倉の超光速送球が見事に失点を防いだ。超サ○ヤ人での投球もパフォーマンスとして見せたことだし、『直接連絡をくれ』という思いを込めて渡された国民的アイドルの連絡先を貰って青ハルヒもご満悦。新川さんが戻って来るまでの間、祝賀会で時間を潰すことになった。俺の影分身はサハラ砂漠で原石の仕分け中。ようやくダイヤモンドの仕分けが終わり、二体がかりでプラチナの仕分けに入っていた。

 

「それにしても、次の試合にわたしは出られそうにないわね。朝比奈さんのところまで投げてサードゴロにできるようにならないと……」
「それを言われたら僕はどうなるんだい?僕も黄有希さんの超光速送球を受ける練習をしないといけない」
「わたしも、朝比奈さんのところまで届くかどうか自信がない」
「だからこそ出て欲しいんですよ。弱点を克服して、前回と同じ手は通用しないと相手に見せつけてください。肩の筋肉を鍛えるということは、バレーのスパイクの威力にも関わってきますから、練習して損はありませんよ?」
「涼子も有希も佐々木さんも今夜から練習開始よ!これで本人と直接交渉できるんだから!!ライブやコンサートがない日を指定すれば、合わせてくれるわよ!」
『私たちも練習に参加させてください!!』
「あっ!!監督に夜練休みって連絡するのすっかり忘れてた!」
「キョン、それなら私から伝えておいた。多分客席で試合を見ていたはず。選手のみんなも来られる人はみんな」
『客席で見てたぁ!?』
「やれやれ……ってことは、明日から朝倉も夜練に参加しないといけなくなってしまいそうだ」
「うん、それ、無理。おでん屋の商いをしていることになっているんだから、出たくても出られないわよ。同じ理由で有希さんも無理」
『あ~なるほど!』
「それでも黄俺の180km/h台投球は受けさせてくれなんてことになりかねんな。って、ハルヒ……おまえ、メール送るだけでいつまでかかっているんだ!?」
「うっさいわね!内容を今考えている最中なんだから、あんたは黙ってなさいよ!!」
「文面は朝倉さんに頼んだ方がよさそう。送る前に涼宮さんも確認すればいい」
「そういえば、ハルヒからの連絡は基本電話だったな。メールで一斉送信すればいいのにとか思っていたよ」
それで毎回必要事項だけ言って切っていたのか!?迷惑な話だよ、まったく。

 

 青有希のアドバイスを素直に受け入れ、青朝倉が手早くメールの文面を書いた。
「はい、これでどうかしら?」
「早っ!!どんな文章にしたのよ……『今日の試合に来てくれてどうもありがとうございました。とても充実した試合になりました。コンサートやライブが無い日を追って連絡します。ぜひまた対戦してください。 涼宮ハルヒ
Tel:……… Mail:……@………』むー…なんか、あたしっぽくないけど、まぁいいわ!送信っと!」
「いいや、その文面で満場一致の『問題ない』が出ると思うぞ?朝倉に任せて良かったよ」
「どういう意味よ!?」
「そのまんまの意味の間違いないな。同じ状況でハルヒがメールを打とうとしていたら俺が取り上げているはずだ」
『どういう意味よ!?』
「だから、そのまんまだと言っているだろうが!こういう系のものはハルヒ達や有希には任せられん。適材適所ってヤツだ」
『ぶー…分かったわよ』
『キョンパパ、わたしお風呂入って寝たい』
「ママ、わたしも」
「なら、三人まとめて99階だ。四人で入るぞ」
『キョン(伊織)パパ、それホント!?四人で入れるの!?』
「幸は自分の着替えは自分で持ってくるんだぞ?」
「問題ない!」
「黄キョン君いいの?この子まで任せちゃって」
「俺一人で十分だ。二人はパーティを楽しんでいてくれればいい。重要な話なら影分身を戻せばそれで済む」
「すまん、よろしく頼む」
「任せとけ」

 

 子供たちが風呂から上がって、俺が出る頃には双子の部屋のベッドで三人で眠っていた。青俺たちに一言つたえておけばいいだろう。81階に戻ると青新川さんの料理はすべて平らげられ、俺を待っていたようだ。シャミセンも一緒になって食べていたらしい。アホの谷口ではないが、胃は大丈夫か?コイツ。
「準備万端のようだな。じゃあ、鉱石発掘に乗り出すとするか」
『問題ない』
まず最初に訪れたのはベトナムHamYen近郊。そこまで時差もなく鉱山も闇で包まれていた。しかし、ダイヤモンドやプラチナの鉱山と広さがほとんど変わらんな。催眠もかかったままだし超サ○ヤ人になっても驚くこともあるまい。山全体を閉鎖空間で覆ってから、ピンクサファイヤ原石の発掘に乗り出した。こういうときくらいは任せてみるか。
「えっ!?私一人でピンクサファイア原石を獲るの!?」
「磁場を作って少し離れて見ているだけだ。条件が違うだけでやることは一緒だよ」
不安そうにしていた嫁にアドバイスをしながら、様子を傍で見守っていた。磁場を作った直後、山全体が揺れ地中に埋まっていたピンクサファイア原石が姿を現した。全員を囲っていた閉鎖空間を移動させて磁場から離れた場所で発掘作業を見守っていた。
「凄いです!まだこんなにピンクサファイア原石が眠っていたんですか!?」
「くっくっ、これはまた大きな隕石ができそうだね」
「本来なら何百万という人間を雇用して発掘するわけですから、こんな獲られ方をされては発掘している側も大損害を受けるでしょうね。もう大きなものはほとんどありませんし」
「ちょっと悪い気がしてきたわね。これ以上はやめておいた方がいいわよ」
「あれ?そういえば有希は!?」
「あんたが作るって言ってた記事を持って差し替えに行っているわよ」
印刷所にデータが送られるのはもう少し後だと思っていたが……野球の試合をしながら記事の内容を考えていたとはいえ、相変わらずやることが早い。

 

 ピンクサファイア原石……もとい、隕石をキューブにおさめ、続いてやってきたのはタンザニアのメレラニ鉱山。 こちらの方も嫁に磁場を作らせてタンザナイト原石を吸い寄せた。
「しかし、ダイヤモンドやプラチナと違って、ピンクサファイアもタンザナイトも時間がかかりそうだ」
「えっ!?黄キョン君、それってどういう……」
「不純物を取り除いた後、色の濃度で分ける必要があるんだよ。あのネックレスもピンクサファイアのグラデーションがポイントになっているんだ。どの程度でどの部類になるのかちゃんと調べてから仕分けないとな」
「ところで、ダイヤモンドやプラチナの方はどうなんです?」
「ダイヤモンドの方は不純物をすべて取り払った。今はプラチナの仕分けに入っているところだ。閉鎖空間をつけているわけじゃないから、影分身が毒サソリに何か所も刺されていたよ。それより、何かいいデザインでも思いついたのか?」
「それもありますが、あの巨大さですからね。あなた一人に重労働を押し付けるわけにもいきませんし、仕分けや研磨のお手伝いをと思いまして」
「それは助かるが、それなら人事部で電話対応にあたってもらった方がいい。古泉の影分身二体なら社員に怪しまれることはないが、美容院は別としても俺が毎日のように人事部に行くわけにはいかない。それに、俺たちの場合は研磨じゃなくて変形だ。欠片一つ無駄にすることなくあの形を作って見せてやるよ」
「了解しました。しかし研磨ではなく変形とは、確かに我々以外では不可能だと言えそうです」
しかし、「いいデザインでも思いついたか?」と聞いてYesで返ってきたか。古泉たちの結婚指輪もそう遠くはなさそうだ。

 

 タンザナイト隕石をキューブにしまって本社へと戻ってきた。プラチナの仕分け作業はシャンプーから全身マッサージまで終わってからになりそうだな。
「ところで、どんなピアスにするか決まっているのか?」
「えっ!?キョン、それってどういう……」
「さっきも古泉が言っていただろ?いいデザインが思いついたのなら、少しでも早く身につけたいと思うのが普通だ。プラチナやピンクサファイアも必要な分だけ先に取り除いてピアスを作ることだってできる。タンザナイトも一緒だ」
「えっ!?ってことは古泉先輩もアクセサリーを身につけるってことですか!?」
「あの話の流れから察するとそうなりそうだな。圭一さんにも言われたよ。朝倉だけじゃなくて、古泉も区別する必要があるんじゃないかってな。まぁ、どの部位につけるものかはまだ謎だけどな。それに、古泉の区別が必要になったのは青古泉がWハルヒから視線をそらしたからだ。お盆の前まではそれで区別がついていたのに、たった一週間の刑罰でそれが無くなってしまった。何でもっと早くやっておかなかったんだと全員が思っているよ。圭一さんの人参と同じく、ボードゲームの強さと変態度だけは未だに両極端だけどな」
「そうだ、青私も後で脱いでもいいから、今日からベビードール着けて!私まで恥ずかしくなっちゃうじゃない!」
ははは……青古泉の変態度からそっちの方向へ話が発展するとは思わなかった。
「え―――っ、今ここにいるメンバーだけなんだから別にいいじゃない」
「私の裸を見られているのと同じなんだから少しくらい隠してよ!」
「ぶー…分かったわよ」
「しかし、ハルヒの口癖も随分浸透してしまったもんだな。佐々木たちくらい特徴的な口調とまではいかないだろうが、何か良く使う言葉みたいなものはないのか?幸もそうだが、来年度からは双子も小学生だ。『はい!』と返事しないといけないところを『問題ない!』と言いそうで困っているんだ。何かいい解決方法があったら教えてくれ」
『うん、それ、無理』
解決方法になっていないどころか、朝倉の真似で返ってきやがった。まったく……結局、解決策無しかよ。

 

 場合によってはドレスチェンジで強引にとおもったが、今日からは12人全員ベビードール。まぁ、一応な。青OGの背中とお尻を隠しているのはブラの紐とTバックのみ。パッと見裸エプロンってところか。まぁ、最初はこれで妥協するしかないだろう。ドレスチェンジですぐにでも脱げると教えておくことにして、あとは100階だな。
「しかしハルヒ、どうせ他のメンバーには聞こえないんだし、そろそろ100階で一緒に寝ないか?ハルヒが99階に戻ると青有希たちまで98階に戻ってしまって、このフロアが寂しくなってしまった。鏡部屋の鏡を無くしてもいいし、どうだ?」
「声は聞こえなくても何をしているのかバレちゃうじゃない!個室ならまだいいけど……」
「周りがどんなことしているのか見るのもたまにはいいんじゃないか?もっとも、誰がどんなことしているのか青有希を除いて全部俺が知っているけどな。それにな、みくるや佐々木たちも、このまま寝たいってときはベビードールを着て寝るようになった。ランジェリーはこのフロアとOG達のフロアにしか置いていないし、青有希も一緒にどうだ?」
「あっ、それいいかも。何を選んでもいいの?」
「洗濯して戻せば何を着ても構わない。選んだら青俺に着せてもらえばいい。ドレスチェンジじゃなくて、ブラもショーツも一つずつ着替えさせてもらえ。みくる達はブラのサイズが合わないなんて言っているが、サイズ変更なら情報結合で十分だ。青有希が選ぶ、好きなデザインの好きな色のランジェリーを着ればいい」
「じゃあ、わたし達も個室に入ってもいい?」
「ああ、それでいい。ハルヒもこれからはそうしようぜ?」
「全部あんたが着替えさせてくれるんでしょうね?」
「勿論だ」

 

 全身マッサージを終えたハルヒと青有希を連れて、それぞれ今日のランジェリーを選び個室へと移動。ハルヒの母乳は昨日飲んだし、すぐに抱いて欲しいと言うのであればそこまで汚すこともあるまい。頬を赤く染めながら一着ずつ俺に着替えさせられていくハルヒを見るのも可愛いもんだ。
「このくらいで照れてどうする。みくるなんてもう全然恥ずかしくないみたいだぞ?」
「あたしだってこのくらいじゃ照れたりなんてしないわよ!それよりあんた、影分身出しなさいよ!」
「そうか、この後それがしたくて照れていたのか。くくっ、可愛い奴だな。だが、それも影分身無しで対応できるようになった。ハルヒは今日が初体験になるだろうが、有希や青ハルヒたちも含めてちょっと現実離れしたことをやっていたんだよ」
「どういう意味よ!」
「サ○ヤ人に必ずあるものって何だか知ってるか?もっとも、あの漫画の後半からはそれも無くなったけどな」
「ジョンじゃあるまいし、知らないわよ、そんなの!」
「大猿になるために必要なヤツだよ」
「尻尾のこと!?」
「そう、その尻尾。それで前後いっぺんに体験させてやる。影分身じゃ入り込めないところまで入り込むから止めて欲しいときは早めに言えよ?」
「いいから、さっさとやって見せなさいよ!」
「それじゃ、遠慮なく」

 

 フロアの照明も消え、全員が寝静まってからスカ○ターでジョンの世界の、徳に零式改のサーブ練習の様子を伺っていた。場所はサハラ砂漠。プラチナの隕石の仕分け作業に追われていた。明日の昼食の準備は朝食が終わってからで十分。昼の仕込み作業もその時間にやってしまえばいい。零式改を撃つのにOGが引っ掛かっているところは、トスでかけた回転に通常の零式の回転をすべて上乗せすることができずにいること。未完成の零式はトスで回転をかけ、撃つときにスパイクと同じ要領で前回転をさせる。要は二回、回転をかけるってことだ。完成版零式は撃つ瞬間の一回だけでその二回分の回転をかけてしまうというもの。零式改はトスを上げるときから回転をかけて完成版の零式を放つもの。トスのときにかけた一回と完成版の二回分の回転で、合計三回分の回転をかける。俺の目算では、理不尽サーブ二式、三式のようにただ落ちるより早くネットを蔦って落ちてしまうはず。より対策が取れなくなってしまうってわけだ。OGが苦戦しているのが、三回分の回転をかけようとして失敗するか、上手く飛んだとしても2.5回分の回転しかかかっていないかのどちらか。三回分の回転がかからないのであれば、通常の零式を放った方がよっぽど安定するし、完封することだってできる。不完全な零式改では自ら相手に得点を与え、サーブ権を失ってしまうからな。毎日の練習で失敗を繰り返していても監督やコーチは何をしようとしているのか分かっているはず。何か言われたとしても『彼から何か提案でもあったのか?』と聞かれるくらいだ。俺もさっさと告知を終えて零式改の練習をしたいよ、まったく。
 翌朝、異世界の方は相変わらず何の予兆も感じられず、こっちの世界は日テレだけ確認すればいい。確認したい事は二つ。昨日の映像がどの程度VTRで流れるのかってことと、有希が差し替えた新聞のこと。本社前にいた報道陣は嘘のようにいなくなり、偽記事を掲載した会社の前や社長の家の前に集まっていた。社長は一体何時頃会社に現れるのやら。ちゃんと誰が書いたかもすべて記してあるからな。本来トップを飾る記事を書いた奴と同じ名前にしてもらったんだ。その新聞社を崩壊させるような真似は一切していない。可能性があるとすれば、その後の対応によって…ということになる。あとは報道陣が他の新聞社に行くまでにどのくらい時間がかかるかだな。アホの谷口と同レベルでは何時間というわけにもいかんだろう。精々、二、三日ってところか。VTRの方は、観客も透けて絶景が見られるようになっていたところだけを報道していた。これで今週末のコンサートやそれ以降のライブやコンサートも盛り上がるに違いない。残りの映像は前回と同じく例の番組で……ということになりそうだ。

 

朝食の時間になっても現れないハルヒと青OGを周りが心配しつつも、同期した情報をもとに二人の朝食を69階と100階にテレポート。残りのメンバーで朝食を食べ始めた。
「ちょっと、あんた!黄あたしとOGに一体何したのよ!?」
「ん…温泉旅行後のおまえと似たような状態だ。悪いが今日の楽団の練習はハルヒをサイコメトリーしておまえが指揮者として出てくれないか?」
「あたしと似たような状態ってどういうことよ!?」
「そのときのおまえのことをハルヒは『みくるちゃんがお酒に酔ってダウン寸前の状態』と表現したし、青朝倉は『涼宮さん、なんか思いっきり空回りしていたわね』と言っていた。そんな状態だってことだ」
「ちょっと涼子、あたしそんな感じだったわけ!?」
「黄キョン君に身体を預けていないとロクに歩けもしなかったし、あのときの涼宮さんの発言も全然噛み合ってなかったわね」
「『あたしにまかしぇなしゃ~い!』とか言ってたぞ」
青朝倉と青俺から突き付けられた事実に赤面していた青ハルヒだったが、ハッとして再度俺に文句を言い始めた。
「ちょっと待ちなさいよ。……ってことはキョン!あんたOGの子にまで手を出したって言うわけ!?」
『涼宮先輩、それは違います!!私たちの方からキョン(先輩)にお願いしたんです!!キョン(先輩)は何も悪くありません!!』
「これはこれは。朝比奈さんのときと同じセリフが飛び出るとは思いませんでした。昨日も話題にあがりましたが、彼女たち全員を妻として迎え入れるおつもりですか?」
「これ以上は俺が潰れると前に話さなかったか?いい機会だから話してもいいだろう。北高の文芸部室のみくる専用の椅子と同様、OGの中にも青古泉と同じ思考回路を持った奴がいるんだよ」
「じゃあ、もしかしてそれが……」
「そう。今いないOGだ」
「私まで恥ずかしくなっちゃいますよ……昨日もキョン先輩にマッサージしてもらった後、12人の中で一人だけ裸のまま寝ようとしていて、私が何度も言ってようやく……渋々ですけど、納得してくれました」
「とりあえず、服についてはドレスチェンジでいくらでも着脱できるから、そこまで面倒臭がるなとは言っておいた。今夜からは何も着ないで寝ようとすれば俺が服をテレポートで着させる。大胆とはほど遠いものをな」

 

「しかし驚いたな。古泉と思考回路が同じOGなんて……」
「良いではありませんか。良き理解者が増えたということで折半しませんか?」
「折半できるか!ただでさえこっち世界のOGが迷惑してるっていうのに……黄古泉だって顔には出していないがおまえに恨みを持っていてもおかしくないんだぞ!?」
青俺の一言に俺、有希、みくるの顔色が曇った。矛先は違えども恨みを持っていたことだけは確かだからな。
「まぁ、僕も後から彼に理由を聞かされて納得しましたが、初めてお会いしたときの青OG達から僕に対する視線があまり良いものとは言えませんでしたからね。まったくのゼロというわけではありませんが、昨日、彼が言っていた通り、ようやくいい方向にベクトルが変わったんです。今後の行動によりけりといったところでしょう」
「ところで、今この場にいないOGは誰に対して好意を抱いているんです?」
「おまえ、古泉の今の発言を台無しにするようなことを聞くな!とにかくだ、これ以上は深く追求しないでくれ。一番精神的ダメージを負うのはこっちのOGなんだ。セッターが崩れたら六人で完封なんて真似、二度とできん!」
「くっくっ、じゃあ僕が話題を変えようじゃないか。ハルヒさんの代わりに涼宮さんが指揮をしてもらうとして、他のメンバーの今日のスケジュールはどうなっているんだい?」
「青ハルヒはさっき言った通りだ。ハルヒをサイコメトリーして指揮者としてどう振る舞えばいいか情報を引き出してくれ。それ以外のことについては有希がやってくれる。佐々木は練習後楽団員で髪を切りたい団員がいるか聞いて欲しい。自宅から通っている団員を優先させて、マンションに住んでいる団員は後回しだ。今日のランチの仕込みと昼食の支度は俺がこれから始める。四時頃を目途にみくると一緒に北高に行ってくる。古泉は撮影、こちらのOGは練習だが、それ以外のメンバーは休みの日だ。ビラ配りも休んでくれて構わないし、古泉もわざわざ影分身を作ってまで電話対応する必要はない。ただ、異世界の店舗のことと、もしビラ配りをする場合は青ハルヒを待って昼以降異世界に出向いてくれ。冊子の売れ行きがまだ低迷している状態だ。本社のシートが外せるようになって、店舗も任せられるようになれば、次第に伸びてくるだろうが、今は少しでも全国に広めて欲しい。こちらの方は今朝のVTRが流れて例の番組で昨日の試合が放映されれば、告知として十分だ。それから、昨日取りに行った原石も合わせて、ジュエリーや時計を身につけたいと言う場合は俺に連絡をくれ。今ダイヤモンドの仕分けが終わってプラチナを仕分けているところだ。財宝発掘ツアーで手に入れた金塊も含めて、どんなものを作りたいのかイメージをくれれば、先にその分を仕分けて俺が作る。特に、朝倉、古泉、圭一さん、森さん、裕さん、新川さんは周りが区別できるようにしてもらいたい。他のメンバーも欲しいものがあれば連絡をくれ。ところで古泉、今週末のコンサートだが、チケットの方はどうだ?」
「今度は開始10分で完売だそうですよ?今朝のVTRを見た客と今週末来訪した客が噂を広めてくれるでしょうし、来月のコンサートはもっと短くなるかもしれません」
『開始10分!?』
「チケット屋が紛れているだろうが、報道陣はほぼいないはずだ。チケット屋には販売しているところを確認したらチケットをタダで売るように催眠をかける。有希は今の件を楽団に伝えてくれ。さらに士気が高まるはずだ」
「分かった」
「くっくっ、チケット屋がタダで売るようにするとは面白いじゃないか。彼らの終焉がどうなるのか見てみたくなったよ」
「他になければこれで行くが……」
「ちょっと待ってくれないかね?」
「こちらの圭一さんが止めるということは異世界の方で何か進展でもあったということですか!?」
「もしかして、野球の試合!?」
「いや、以前にも話していた内容だ。涼宮さんに一件、朝比奈さんに一件CMの依頼が入っていたのは話したはずだ。その撮影が今日行われる。涼宮さんは三時、朝比奈さんは四時に来て欲しいとのことだ。詳しくはこの後個別で場所などの打ち合わせをする。それで頼む」
「じゃあ、今日も一日よろしく頼む」
『問題ない』

 

 朝食を終えて片付け作業をしているW佐々木の横でランチの仕込みと昼食の支度をしていた。
「キョン先輩、さっきはありがとうございました!先輩にあんな風に言ってもらってなかったら私……」
「こっちだって『青古泉と思考回路が一緒』なんてOG達から言えないだろうと思ってみんなに話した。いずれ話さないとならない事だったからな。11人に確認も取らずに話してしまってすまん。ハルヒもアイツも『止めて欲しいときは早めに言えよ』と警告しておいたのに限界を超えるまでやったからこうなってしまっただけだ。特にハルヒの方は楽団の練習のことを考えずに自分のことだけで頭がいっぱいになっていた。今後、同じような失敗を繰り返すことはないだろう。色々と複雑な気持ちはあるだろうが、誰にだって調子の良し悪しはある。ミスを気にせず練習に励んで来い」
「はいっ!ありがとうございます!いってきます!!」
『くっくっ、頼もしい先輩じゃないか。ところでキョン、キミに一つ聞きたい事があるんだが、いいかい?』
「二人揃ってなんだっていうんだ?」
『今度のコンサートのことさ。披露試写会と同様、過去のハルヒさんたちを誘ったと聞いたんだけどね、過去のキミや僕は誘ってくれないのかい?』
「おまえら、自分の研究が滞っているからって、過去のおまえにヒントをもらうつもりだろ?」
『何を言い出すんだキミは。僕がそんなことをするわけがないじゃないか!とにかく、二人にも連絡を取ってくれたまえ』
「二人揃って図星だと顔に書いてあるぞ?それにな、過去のおまえは正式に俺の苗字になっているんだ。俺も正直名前で呼ぶのは恥ずかしい。二人にだってエネルギーを分けているんだから自分で誘ったらどうだ?」
『キョン……これ以上僕を苛めないでくれたまえ』
「自分でできることは自分でやれ!大体な、向こうはサイコメトリー無しで研究に励んでいるんだ。向こうの方がこっちより遅いなんてことだって十分ありえるだろうが!」
『そう言われてみればそうだね。同じ本の同じ個所を読みなおしていても不思議じゃない。楽団の練習が終わったらもう少し考えてみることにするよ』

 

 まったく、スランプの奴が多すぎる。とりあえず、今気になることと言えば、一面を差し替えた新聞の会社と社長の自宅の様子だ。カメラも送ってあるしTV画面に二つ同時に出すことにしよう。映した瞬間怒号が聞こえてきた。
「まったく、どうなっているんだ!!儂は土下座なんてした覚えは一度もないぞ!!」
「印刷会社にもデータはちゃんと届いているそうです。印刷の段階で差し替えられたとしか考えられません!」
「もしそうだとしても、あの写真が一面に載っている理由になっとらんだろう!!」
「社長、記者会見を開いて欲しいという電話が鳴り止みません!」
「どうせ同じ電話しか来ないのなら、すべての電話線を切ってしまえ!!明日の一面で偽記事を載せられたと大々的に発表する!!」
「社長、それでは逆効果です!!謝罪していたのに翌日になってそれを撤回してしまっては、今以上の報道陣で溢れ返ってしまいます!!」
「ならば、儂のこの怒りの矛先をどこに向けていいのか説明しろ!!」
社長は既に会社にいるものの、報道陣には怒り狂ったところしか見せていないようだな。記者会見で謝罪をして他の報道陣を責めるという考えに至るには、まだまだ時間がかかりそうだ。あまりその状態を続けると他の報道陣から叩かれる一方だぞ?

 

 昼食を先に済ませて楽団用のマンションへとテレポート。影分身に古泉に見える催眠をかけて準備OK。ハルヒも青OGもまだ眼を覚まさないか。青ハルヒのときと同様、目を覚ましても会話が成立しないんじゃ意味がない。練習の終了と共に、楽器を持ったまま美容室に団員が入ってきた。自宅に戻る団員ばかりのようで、すかさず影分身の方もカットに入った。その分、プラチナの仕分けは一時休止、ナイフで一突きにされた毒サソリの死骸が影分身の周りを囲んでいた。団員の方はこれで半分近くカットしたことになるのか。明日には佐々木を連れてチャペルまでドライブに出かけることにしよう。先ほどの件ではないが、何かしらヒントになるものを掴めればいいのだが。
 シャンプー&カットを終えて81階に戻る頃になっても、例の新聞社は何の解決策も思いつかないままの状態。どこもかしこもアホの谷口ばっかりだ。折角こっちがサポートしてやったのに、あの新聞社の社長も器は小さくプライドは大きいだけのアホだったか。着替えて降りてきたみくるにメイクをしてお茶が入るのを待っていた。
「みくる。今日はバイクで行く。前回と同様、こぼれない様に膜を張って、今日はキューブ化するつもりだ。それを持って俺にしがみついていてくれ。一つ注意して欲しいのは、上下逆さにしないこと。できるか?」
「えっ!?でもキョン君、スカート姿じゃバイクにまたがれないです。片手だけだと途中で落ちちゃいそうで……」
「なら、部室前で着替えればいい。さっきまできていた服にドレスチェンジすれば乗れるだろ?」
「そうですね。そうさせてください」
「それに、北高に行く用事がまた一つ増えそうなんだ」
「用事って今度は何をするんですか?」
「もう、岡部もバレー部の顧問もいないだろうが、あのハイキングコースに設置したエレベーターの点検作業だよ。清掃業者には依頼してあるが、壊れているところは修復する必要があるし、メンテナンスも含めてな。そのとき、またあいつらにお茶を届けに行こうぜ」
「はぁい」

 

 有希のマンションから北高まで、バイクだとこんなに短時間で行けるのか。高校生時代の俺たちの苦労は一体なんだったのやら。時間も丁度下校時刻で部活の準備をしている生徒、正面玄関から出てくる生徒とタイミングとしてはあまりよくなかったな。
『みくる、催眠をかけるのも面倒だ。タイミングを見計らって部室前にテレポートする。ヘルメットは脱がずにいてくれるか?』
『でも、文芸部の部員さんもいるんじゃないですか?』
いけね、そのことを考えていなかった。やっぱり閉鎖空間になりそうだな。
『なら、下校する生徒が途切れたところで閉鎖空間を展開する。それからテレポートしよう』
『分かりました』
部室前に着きドアに触れると鍵がかかってない。みくるが止めてくれて助かった。既にテレパシーがいくつも届いているがまずは扉を開けてみくるのお茶を堪能させてからだな。
「すまん、今の部員に俺たちの姿を見られるわけにはいかないんでな。閉鎖空間を展開した状態で来た。その代わりと言っては何だが、みくるにお茶を煎れてもらってきたから、じっくり堪能してくれ」
『また来てくれたの?』『嬉しい!』『嬉しいよ』『また、みくるちゃんのお茶が楽しめるね!』『扉閉めて!』
相変わらずの幼稚園児っぷりだな。みくるにもそろそろキューブの縮小や展開を覚えてもらおうか迷ってしまう。覚えておいて損はないからな。拡大して膜を外すと二人で椅子に腰掛ける。当然俺がみくる専用の椅子に座った。
『こ、この椅子はみくる専用のものだ。キミのはあっちにあるだろう?』
「まぁ、そういうなって。今日はみんなに……いや、特におまえに相談があって来た」
『相談?』『相談ってなあに!?』『みくるのこと以外の相談ならお断りだぞ?』『どんな相談か教えてよ!』
「今、みくるが着ている格好にこのメイクでドラマ撮影をしてな。好評だったらしくて第二シーズンもやってくれって話が来た。そこでだ。みくるがもっと大人っぽく見えるピアスをみんなに考えてもらいたい。この前、来たときのピアスじゃ可愛いって印象だったようだかな。特におまえ、『みくるにはもっと大胆な』とか言っていただろ?その大胆なピアスがどんなものか教えて欲しいんだよ。これならおまえにも関係あるだろ?因みに、女刑事役だ」

 

『そ、そういうことなら手伝わんでもない。しかし、今の状態でも十分大人っぽいんじゃないのか?』
『うん、みくるちゃんカッコイイ!』『このままじゃ駄目なの?』『女刑事役か……どんなものがいいんだろうね』
「お願いします!次のシーズンを迎えるために、もうちょっと大人びた格好がしたいんです!」
『う~ん……』『この前のピアスみたいに目立つものじゃないと意味がないよね?』『この前のは可愛かった!!』
『ハート型のどでかいダイヤモンドじゃ駄目なのか?そういうものこそ、みくるにふさわしいだろう?』
『ハート型のダイヤモンドぉ!?』
文芸部室の連中だけでなく俺やみくるまで驚いた。確かに発想が大胆だな。ただ……
『そんなのつけたら、みくるちゃんの耳が痛くなっちゃうよ!』『そうそう』『もっとみくるちゃんのこと考えて!』
「いや、そうでもない。軽くするだけならなんとかできる」
『本当!?』『じゃあ試しにつけてみてよ!』『そんなピアスどこから持ってくるのさ!』『また来てもらう?』
『賛成!』『また来てもらおうよ!』『俺の納得するものじゃないと認めないぞ?ああ、左右の色は変えてくれ』
『色を変える!?』『それじゃ、ダイヤモンドじゃなくなっちゃうじゃないの?』『どんな色にするのさ!?』
「片方がダイヤモンドなら、もう片方はルビーかガーネットのような赤になるだろう。でないと目立たない」
『キミ、結構分かっているじゃないか。お互い気が合いそうだ』
「おまえと気が合いたいとは思わないが、等価交換をしようじゃないか。おまえのみくるに対する妄想をおしえてくれ。その代わり、おまえが知らない今のみくるのことを教えてやる」

 

「おまえが知らないハルヒのことを教えてやる」と言えば青古泉なら即OKするはずだが………何を迷っているんだコイツは。自分の妄想癖を知られたくないとでも言うのか?
「おまえが嫌なら別に俺は構わないんだぞ?ここに来る以外、おまえがみくるのことを知る術はないだろう?」
『わ……分かった。しかし、等価交換と言えるんだろうね?』
「そいつは保障してやるよ」
ジョンやみくるが止めようとしていたが、もう遅い。コイツの妄想癖をすべていただいた代わりに、みくるのファッション、ライブのときの衣装、最近着けているベビードールまで全部渡してやった。
「どうだ?俺には等価交換以上だと思うんだが?」
『どうやら、そのようだ。みくるのピアスの件は頼んだぞ?』
「ああ、お茶と一緒にまた来る。随分参考になったよ。お礼にみくるのドラマ一話から最終話まで見せてやるから、ピアスの件で何かあったら覚えておいてくれ」
『みくるちゃんのドラマが見られるの!?』『見せて見せて!』『本当にまた来てよ!?』『次回が楽しみだ』
六面に巨大モニターを設置して長机にも側面から見られるように画面を出してやった。
「どうだ?見られない奴はいるか?」
『問題ない』
なんだ、ちゃっかり有希のセリフまでインプットしているじゃねぇか。まぁいいだろう。
「じゃあ、また来るな」「また、お茶を煎れて来ますね!」
『バイバ~イ!』

 
 

…To be continued