500年後からの来訪者After Future5-17(163-39)

Last-modified: 2016-10-24 (月) 03:54:46

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-17163-39氏

作品

妻との時間も大事にしながら、ようやく迎えた十月末のコンサート当日。以前から頼まれていた結婚していない残り四人のOG達のネックレス、妻の指輪やネックレスに合ったピアス、みくるが来シーズンのドラマで使うダイヤモンドとガーネットの大型ハートシェイプのイヤリング、青みくるのキーピアスをプレゼントし、他のメンバーも羨ましがって注文してくる始末。まぁ予想通りだ。青OGたちもいくら情報結合で作ったものではないとはいえ、まったく同じ代物じゃ面白くないだろうし、たまには自分同士で互いに交換して付け変えてみるなんていうのもいいだろう。北高の文芸部室のみくる専用のイスが提案したものを実際につけて見せに行くんだ。これでダメ出ししやがったらどんな罰を下してやろうか………

 

 膜を張る必要のないお茶を持って文芸部室前へとテレポート。当然鍵はかかっているがそんなもの俺たちには関係ない。すでに中の連中からのテレパシーが届いているんだが、まずはお茶をみんなに堪能してもらうところからだな。二人で部室に入ってドアを閉めた。
『みくるちゃん大胆!』『それで次のドラマに出るの!?』『やはりみくるはこうでなくては』『ドラマ全部見たよ!』
「さて、おまえの注文通りみくるのピアスを作ってきた。何か文句あるか?」
『フ……やはりキミとは気が合いそうだ。それよりみくるの耳の負担は大丈夫なのか?』
「ああ、それも含めてオールクリアだ。じゃあ、来シーズンのドラマはこれで文句ないな?」
『問題ない』
『でも、あのドラマ何か変じゃなかった?』『そうそう、何か変だった!』『みくるが変なわけがないだろう!?』
『みくるちゃんじゃないよ!』『古泉君と涼宮さん!』『二人だけ違和感があったよね』『うんうん、何かおかしい』
「凄いです。異世界の涼宮さんと古泉君のことにみんな気付いています!」
『異世界!?』
「みくるが卒業して、俺たちが高三になった頃に、ハルヒと異世界のハルヒが入れ替わるなんてイベントがあったんだが、流石に覚えていないか」
『涼宮さんの髪の毛がいきなり長くなったあれのこと?』『そうそう。服も急に変わったよね!』『変わってた!』
「ドラマに映っていたハルヒはすべて異世界のハルヒ、古泉の方も一部を除いてほとんどが異世界の古泉だ」
『ということは、異世界のみくるもいるということになりそうだ。今度は二人とも連れて来てくれないか?』
「おまえ、そういうところにだけは頭が働くな。ちなみに、おまえの妄想を現実化してみくるに試したが、『これくらいじゃ満足できそうにない』とさ」
『キミは一体みくるにどんなことをしているというんだね?あれ以上があるとはとても思えないのだが……』
「上があるんだから仕方がないだろう?……って北高で試合をやったときに青チームもここで弁当を食べていたはずだぞ?みくるが二人いる状態なら、おまえも見たことあるだろう?」
『ぐっ……そんなバカな。みくるが二人いるチャンスを見逃したというのか?いくら記憶を探っても出てこない』
収穫は十分だ。セカンドシーズンは一話ごとに来るのも悪くないかもしれんな。
「みくる、お茶だけここにおいてエスカレーターのメンテナンスをしたい。手伝ってくれるか?」
「はいっ!」

 

 北高全体が閉鎖空間に収まっているから大丈夫だろう。みくるにエスカレーターに不必要なものと条件づけた磁場を作らせ、エスカレーター内を一往復してくるよう頼み、俺はその間にサイコメトリーをして不具合のある箇所を元通りにしておいた。次はこんなことにならないよう閉鎖空間を解除するだけで一発で治るようにすればいい…ってエスカレーターを作ったときも閉鎖空間を展開しておいたはずだが……壊せる奴なんて俺たち以外にいるか?または誰かが解除して再度展開するのを忘れたかだな。そっちの可能性の方が高そうだ。
「キョン君、終わりました。こんなにいっぱい不要物があるなんて思いませんでした。キョン君の方はどうですか?」
「ああ、サイコメトリーして、破損した箇所を全部なおしておいたんだが、誰かが閉鎖空間を解除したらしい。空調完備のものも無くなっていたから今年の夏は暑かっただろうに、本社に一本でも電話をくれればいくらでもこっちに来たんだが……とりあえず、冬は暖かく過ごせるようにしたから問題はないだろう。収穫も得たことだし、あいつらに挨拶して戻ろう。ハルヒのピアスも作らないとな」
「あ、キョン君、わたしのネックレスも作ってもらえませんか?キョン君がデザインしたものをつけたいです!」
「それなら青みくるのペンダントとは逆のものを考えている。ピアスと同じピンクゴールドのチェーンに、デザインと埋める宝石をどうしようか考えているところだ。まぁ、近日中に渡せると思う。ドラマのことも考えてなるべくカメラに映るネックレスになるだろう」
「キョン君!!」
「みくる、抱きついて来るのは俺も嬉しいが、いくら軽くなっているとはいえダイヤモンドが顔面に直撃するのは勘弁してくれ。しかし、ピアスは外す必要がありそうだが、ネックレスと指輪をしているみくるを抱くのが俺も待ちきれそうにない。みくるにあったデザインを閃いたら、すぐにでも渡しに行くからな?」
「はぁい、待ってま~す!」

 

 昼食を作るのに練習を早めに切り上げて81階に来ていたハルヒと有希。異世界でのビラ配りを終えた青俺たちも戻ってきていた。青古泉はいないが話すには丁度いいか。
「青俺と青有希に頼みがある。宝石を入れたせいで金庫が圧迫されてしまってな。青俺の情報結合でもう少し大きなものに作り替えて欲しいんだがいいか?仕分けた宝石は全部あの金庫の中に入っているから、デザインが決まったら青有希のピアスを作ってやってくれ」
「分かった。じゃあついでに黄キョン君の言っていた1000円札も出してくるね」
「ああ、頼む」
「それで、あの子たちの反応はどうだったのよ?」
「満場一致で『問題ない』が飛び出た。例のイスも『フ……やはりキミとは気が合いそうだ。それよりみくるの耳の負担は大丈夫なのか?』だとさ。アイツと気が合うなんてことは絶対に避けたいところだが、ちゃんとみくるの心配もしてくれていた。それに、あいつらにファーストシーズンのドラマ全部見せたんだけどな、ハルヒと古泉がおかしいって気付いていた。ハルヒ達が入れ替わったときのこともちゃんと覚えていたよ。『いきなり髪が長くなったよね』ってな。ドラマに出演していたのは異世界のハルヒと古泉だと伝えておいた」
「フフン、やっぱり見る人が見ると違いが分かるってわけね!今度はあたしが直々に乗り込んでやろうかしら?」
「『見る人』っておまえ、あそこに人間は一人もおらんぞ。エスカレーターのメンテナンスもしてきたし、次はセカンドシーズンの撮影が一話終わるごとに見せに行くってのもありだ。それから、ハルヒ。今日のコンサートでこれ付けてくれないか?」
「えっ!?キョン君、もうできたんですか!?」
「できたって一体何のことよ!?」
「おまえが欲しがっていたものだよ」
「あたしが?」
「いいからさっさと開けてみろ」
小箱の中身はコンサート用のハルヒのピアス。ラウンド型のブラックダイヤモンドにブリリアンカットのイエローサファイアを埋め込んだもの。ネックレスや指輪と合わせるなら残りはプラチナだが、ここはイエローゴールドで作ってみた。小箱を開けてフリーズしているハルヒに対して、どうやら説明をする必要がありそうだ。

 

「ハルヒは指揮者だから、そこまで派手なピアスはつけられん。こいつはコンサート用のピアスだと思ってくれればいい。それ以外ではめるピアスはこれから考える。おまえのカチューシャの色と、俺たち黄チームの黄色と黒で構成したものだ。次のコンサートのビラ配るときはこのピアスを付けた状態で撮影してくれるか?」
「これ、あたしのために?」
「そうだ。青みくるのピアスと一緒で条件が縛られていたから、どうするかはほとんど決まっていたんだ。黄色と黒の構成で、コンサート仕様の目立ちすぎないもの、あとはデザインだけだったんだが、やっぱりコンサートのためのピアスってところがネックでな。そんな形になってしまったが、どうだ?」
「今すぐつけるに決まっているじゃない!午後の練習試合もこのまま出るわよ!」
「俺は警備の方に出向かないといけない。コンサート前にシャワーくらい浴びておけよ?」
「あたしに任せなさい!」
 昼食時、青古泉や青チームの森さん、裕さんも食事時に現れ、社員やアルバイトに任せてきたようだ。OG達も他の選手から何か言われたらしい。嬉しそうな顔をしていた。唯一問題があるとすれば、宝石がでかすぎて世界大会では認められないなんて大会委員会から言われないかどうかってことだ。まぁ、その場合は監督やコーチから予めアプローチがあるだろうし、直前に言われて本人のテンションが下がらないことを祈るだけだ。監督やコーチが試合直前に選手のテンションを下げるなんてありえないけどな。
「打ち上げもありますので、夕食は軽めに作らせていただきます」
青新川さんのその一言くらいで、あとは特に議題はない。打ち上げ用の仕込みが終わったところで青新川さんとバトンタッチをした。

 

 影分身を使うようになってからというもの、調理にかかる時間の短縮にはなってはいるが、楽団員全員と、過去ハルヒ達六人を含むメンバー分の仕込みとなると年越しパーティに集まる人数とほぼ同数だからな。前々から用意していたというのに時刻は既に四時を回っていた。しかしまぁ、漫画とは違いダメージや疲れが本体には全く影響しないっていうのが良いところだ。報道陣を抑えるためにSPをもう一体増やして入場させてしまおうと影分身の印を結ぼうとしたところで過去ハルヒ達が現れた。
「キョン、来たわよ!」
「やれやれ、既に並んでいる観客と同じく、おまえら来るのが早すぎだ。明日から十一月とはいえ、まだ日は沈んでいないし、天空スタジアムからの景色を拝むこともできん。何でこんな時間になったんだ?」
こっちに本体を残して案内とSPを動かして入場させてしまおう。他に店からクレームが来ない様にな。
「単純にキリが良かったというだけです。我々も、彼らもね」
「くっくっ、ハルヒさん達はこのビルが完成すればこっちに移動してくるだろうけど、彼女たちの会社と僕の研究施設は眼と鼻の先の関係にあるんだ」
「まさかとは思うが、その会社の場所が喫茶店の隣なんて言わんだろうな?」
「あんたにしては冴えているわね。他のみんなっていうかこの時間平面上のあたしたちはどうしたのよ?」
「こっちの世界のハルヒや有希たちは日本代表と戦っている。異世界のハルヒ達は午後はこっちの世界でビラ配りしている最中だ。異世界にもこれと似たビルを建てることになってな。来年四月にお披露目になる。もっとも異世界の古泉が既に完成させているけどな」
「やはり情報結合ですと完成が早いですね。羨ましい限りです。しかし、どうしてこんな時期に日本代表が来ているんです?確か、夏と冬の二シーズンのみとお聞きしましたが……」
「この会社はバレーボール日本代表の一番のスポンサーだ。他の合宿所よりこっちの方がいいと監督も選手たちも言っていたらしくてな。ディナーを作る必要がないのならオフシーズンでも構わないと今月の最初から本社に引き入れた。大会に出向く以外はここで過ごすことになるだろう。日本代表選手たちのシャンプー&カットも古泉が夜練後にやっているよ。とにかく六人とも座ったらどうだ?その間に他のメンバーにもテレパシーで呼ぶから」

 

『みんな、過去のハルヒ達がもうやってきた。来れそうなやつは81階まで来てくれ』
『問題ない』
「………えぇっ!シャミセンの仏像!?シャミセン死んじゃったんですか!?」
「三週間ほど前だったかな。新川さんの料理が長寿の秘訣だったらしい。料理を完食してから最後の晩餐だとか言って逝っちまいやがった。それより、みくる達の時間平面上でももう死んだんじゃないのか?……って、朝比奈さんと呼んだ方がいいですか?」
「キョン君、この時間平面上のわたしのこと呼び捨てで呼んでくれているんですか!?わたしも呼び捨てで呼ばれたいです!敬語も必要ありません!」
「そうして貰えると助かるよ。ただでさえSOS団が三グループもできるんだからな。ついでに紹介しておこう。俺たちの新しい仲間だ。そこで今眠っている黒猫、シャミセンの孫だ」
『シャミセンの孫!?』
「どういう遺伝子操作がされて黒猫になったのかは知らんが、シャミセンが死んでから有希のマンションの裏に行ってみたらこいつがいた。両親は既に死んでいるそうだ。シャミセンが長生きしていただけの話で、猫の寿命ならとっくに死んでいてもおかしくない年齢になっていた」
「俺たちの時間平面上じゃ、とっくの昔に死んでたっていうのに……高校一年のときに捕まえてつい最近まで生きていたっていうのか?新川さんの料理で」
「くっくっ、面白いじゃないか?人間で言うとどのくらいの年齢になるんだい?」
「軽く100歳を超えている。オスで100歳越えはほとんどいないらしい。稀少価値が高すぎるくらいだ。孫の方は声変わり前の小学六年生ってところだ。テレパシーでの声も口調も国木田そっくりでな。あとで起きたら声を聞かせてやるよ」
『軽く100歳を超えている!?』
「有希、戻ったらあの猫探すわよ!シャミセンの孫だって判断できる?」
「問題ない」
「野良猫だったから名前もついてなかったらしくてな。自分もシャミセンで良いそうだ」
「ところで、キミの付けているピアスとネックレスは一体どうしたんだい?前に来たときはそんなものつけてなかったはずだ。ネックレスの方は全て指輪みたいだし、どういうことか説明してくれたまえ」
「えっ!?おまえ、これが見えるのか!?」
「あたしも気になっていたのよ!あんたまさか、不倫して指輪を隠していたんじゃないでしょうね!?」
「不倫とは違う。この時間平面上のあなたがわたしや朝比奈みくるの提示した一夫多妻制をOKした。異世界のあなたや朝比奈みくるも彼の妻になっている」
『一夫多妻制!?』
「ちょっと待ちたまえ。それにしては数が足りない。他に誰と結婚したんだい?」
「おまえに決まっているだろ。親友から俺の妻にランクが上がった。片耳についている二つのピアスも親友の証としてW佐々木と同じものをつけた。もう片方は有希と買ったものだ。二つ合わせるとハートができるようにデザインされている」
「そう。わたしもあなたと結婚指輪を買いに行ってあなたの妻にして欲しい」
「これ以上は許容範囲を超えていて俺が潰れるから無理だ。未来の有希とみくるにも同じアプローチをされたが断った。残り二つは六人ともまったく面識のないメンバーのものだ」
「確か、我々の一つ下の学年にいた北高のバレー部……でしたか?」
「ああ。六人とも日本代表入りして体育館で練習試合をしている最中だ」
「………しかし、妙ですね。どうしてあなたがここにいるんです?」
「何言っているのよ!古泉君、この会社の社長なんだからここに居て当然じゃない!」
「我々も一緒にハリウッド映画を見たではありませんか。その告知に向かっているのではなかったのですか?」
「やってみせた方が早そうだな。……多重影分身の術!!」

 

 影分身を三体情報結合して見せたが、反応はいわずもがな。
「なるほど、この技で一体を告知に向かわせているということでしたか。ようやく理由が分かりましたよ」
説明を終えてしまえば影分身を出す必要も無い。しかし、試合に出ている連中はいいとして、W佐々木や青ハルヒ達はまだ来ないのか?あまり暴露してもらっても困るしW佐々木の方は遅くてもいいんだが……
「ただいまぁ」
「テレパシーを送ってから今まで一体何をしていたんだおまえらは」
「この前の放送でこっちの世界でもハルヒに『ミスサブマリン』の二つ名がついたから、ハルヒがサインを終えるのに時間がかかっていたんだ。まぁ、まだ確定じゃないけどな。今度の試合で渡辺投手が出てくれば俺たちの世界のようになるだろう」
「ちょっと待ちなさいよ、みくるちゃん達、そのペンダントとイヤリング一体どうしたの!?」
「って、みくる、そのピアスまだ外していなかったのか!?」
「あっ、この前キョン君に買ってもらったピアスに変えるのをすっかり忘れていました。この後つけ直してきますね」
「わたしの方はペンダントはキョン君と一緒にお店で買ったもの。ピアスはキョン君がこのペンダントに合わせたものをデザインしてくれました。黄わたしのピアスもキョン君のデザインです」
「キミがデザインしたって、そんな大きな宝石をつけていて負担にならないのかい?」
「問題ない。宝石に取り付けた彼の閉鎖空間で質量が十分の一になっている」
「まぁ、デザインしたといっても、これがいいと意見を出したのは北高の文芸部室にあるみくる専用の椅子だ。思考回路が青古泉とそっくりの……って青チームの古泉のこと知ってたっけ?とにかく、そっちの時間平面上でも北高の文芸部室に行って有希にテレパシーを中継してもらえば、それが分かる筈だ。もし行くならみくるはお茶を煎れてもって行ってやってくれ。幼稚園児のような奴等ばっかりだが、みくるのお茶の匂いが好きだったらしくてな」
「ずっとあたしの方ばっかり見てきた古泉君のことでしょ?」
「まぁ、その視線もようやく無くなったんだが……今までのレッテルをはがすのに何年かかるのやらわからん」
「試しに行ってみたくなったわね。有希、今、キョンが言ってたことって可能?」
「問題ない」
「さて、俺はそろそろ警備と案内に集中する。案の定、報道陣が紛れていたようなんでな」
『警備と案内!?』
「外にいるSPも建物の側で案内しているのも全て俺の影分身だ」
過去有希以外透視能力抜きで敷地外を見ることができるのかは謎だが、六人とも窓際に寄ると、全員揃って一言。
『あれ全部!?』

 

 日本代表選手たちじゃあるまいし、ただのコンサートにそんなでかいバックを持って入ろうとする奴なんて報道陣しかおらんということに気付かないのかねぇ、まったく。思考回路がアホの谷口と一緒だから無理か。半券を切ったところで閉鎖空間の壁に顔面をぶつけていた。
「痛った!くそ!どうなっているんだ!!」
「報道陣は入れない条件にしてある。仲間を連れてさっさと帰れ。チケット代は返してやる」
「俺が報道陣だという証拠でもあるのか!?」
「そんな大きなバッグにカメラを隠してコンサートを見に来る人間が他にいるとでも思っているのか?どれだけ自分が馬鹿な発言をしているのかまだ気付かないのか?前回と同じように今度はおまえたちの失態を大画面で放映してもいいんだぞ?その後の処分はおまえたちが一番よく知っているだろう?他の観客の邪魔だ。場所を開けてもらう」
背後に配置したSPが力ずくで報道陣の一人を引きずり、次の観客に声をかけていた。
「くそ、離せ!!」
「諦めろ。どうあがこうがおまえらは敷地内へは入れない」
「うるさい!社長さえいなければ、このくらいのガード……くそ!離しやがれ!!」
「なら、おまえも檻の中に入っていろ」
他の報道陣たちのいる閉鎖空間内に引きずり込んだ。しかし『社長さえいなければ』というセリフが引っ掛かる。前に撮影した連中も同じことを言っていた。ハルヒ達でも同じパフォーマンスができると散々植え付けてきたはずだが……明日にでも提示してみることにしよう。その後の報道陣も閉鎖空間の壁にぶつかったにも関わらず、強行突破を試みて結局檻の中へ。相手にしていられん。過去ハルヒたちとの会話に集中することにしよう。チケット屋も催眠にかけておいたしな。
「チケットいい席あるよ~!アリーナ席は0円だ!どうだい、どうだ~い!?」
ジョン、この場合、チケット屋本人の意識はジョンみたいな立ち位置になるのか?
『いや、自分で言っていることがまるで分かっていないだけだ。このまま催眠をかけた状態を維持しておけば、コイツは今と同じことを繰り返し、どうして利益が無いのか不思議に思うことになる』
なるほどね。俺も佐々木の言っていた末路が楽しみになったよ。

 

「やれやれ、各社の社長に謝罪させるよう有希に一面記事をすり替えてもらったというのに、アホの谷口と同レベルの奴が増えてしまったようだ」
「このバカキョン!いきなり話を変えるんじゃないわよ!」
「おっと、そいつは失礼した。敷地外での様子のアホらしさに呆れただけだ。一度閉鎖空間の壁にぶつかっておいてそれでも中に入ろうとSPのガードを強行突破しようとしているんだからな。朝倉のナイフでも突き破れなかった閉鎖空間に対抗しようとしているバカばっかりだよ」
「アホの谷口と同レベルって意味がよく分かったよ。しかし、異世界のあいつも店舗に乗用車で突っ込もうと企画してたって話だったが、長門たちの会社の方は大丈夫なのか?」
「問題ない。すでに駆除してある。彼のかけた催眠と一緒」
「ですが、あの人数を全てあなた一人で操っているとは信じられません。前回来たときは先ほどのような影分身は一度も……」
「何事も経験らしい。SPには観客にはチケットの半券を返して通し、報道陣は一度閉鎖空間の壁にぶつけてから帰せとだけ命令してある。古泉もドラマの撮影に行きながら影分身二体を残して人事部で電話対応しているし、青チームの俺も影分身を一体用意してヘリの運転と通販用倉庫でピッキング作業の二つに分かれている。そうだな、青俺、敷地外のSPをやってみないか?楽団や社員に取材しようとする報道陣を抑え込むだけだから最初は5%くらいは必要かもしれんが、慣れれば1%あれば可能だ」
「分かった。俺も修錬を積みたかったんだ。やらせてくれ」
「くっくっ、その影分身を使って妻全員にサイコメトリーを利用したシャンプー&マッサージをしているんだってね。僕にも体験させてもらえないかい?」
「やめておけ。麻薬と変わらん。一回体験しただけで二度と離れられなくなる」
「一回くらい良いじゃない!あたしも混ぜなさいよ!」
『二人とも止めておいた方がいいです!二日間、キョン君がいなかっただけでみんな禁断症状になったくらいなんです!これからここに来るみんなも同じことを言うはずです!』

 

 タイミングがいいんだか悪いんだか、こちらもようやく二人揃ってW佐々木が戻ってきた。
『何の話をしていたんだい?僕も混ぜてくれたまえ』
「俺がみくるや佐々木たち、OG達にやっているシャンプー&マッサージを体験したいんだと。おまえが口を滑らせるからこうなったんだ。責任を取れ!」
「くっくっ、この時間平面上のキョンが一夫多妻制にしたのがようやく実感できた気がするよ。本当に二人とも指輪とピアスをはめているなんてね」
「勘違いされるような言い方をするな。俺が一夫多妻制にしたわけじゃない。ハルヒがOKしただけだ」
「ところで、僕も指輪を購入してから気が付いたんだけどね。二人の指輪にはどんな刻印が入っているんだい?」
うまい具合に話がそれた。この調子でシャンプー&マッサージをしないまま、帰ってもらうことにしよう。
「すまん、おまえとの結婚指輪を買って、二人で大学に合格することしか考えてなかったから、刻印なんてまったく頭に無かった」
「くっくっ、僕もそうだったから気にしないでくれたまえ。そうだね、次のキミの誕生日にでも刻印の入った指輪を交換しようじゃないか。お互いそれまではどんなメッセージを入れたのか秘密ってことでどうだい?」
「それだと一緒に指輪を買いに行けないだろうが」
「紙に書いたものを店員に渡せばいいだけだよ。ところで、結婚して指輪も交換したのに、まだキミはここにいる僕のことを佐々木と呼ぶのかい?」
「くっくっ、それについては僕が説明しようじゃないか。こっちのキョンも含めて合わせて10人の妻がいるんだ。子供たちも入れると13人。みんな苗字が同じになってしまったら、僕たちは良くても周りの人間は呼びづらくなるというわけさ。キョンが僕のことを名前で呼ぶのを躊躇っている部分もあるんだけどね。そうだね、例えばそこにいる古泉君が僕のことを名前で呼ばないといけないとしたらどうだい?」
「そうですね、確かに呼びづらくなってしまいます。それで結婚されていても苗字が変わっていないというわけですか。僕もようやく納得ができましたよ」

 

『キョンパパ、ただいま!』
「三人ともタオルで汗を拭けって言ってるだろ?コートに落ちた汗が原因でハルヒや有希が怪我することだってあるんだ。三人とも痛い思いはしたくないだろう?」
『でも、試合楽しい!』
「いくら楽しくても、自分が怪我したら楽しくなくなるぞ。自分のタオルで汗をちゃんと拭く!」
ようやく短パンの後ろに挟んでおいたタオルを取り出した。
「ちょっと待て、どういう成長の仕方をしたらそんな身長になるんだ!?」
『え?あ――――――――――――っ!ちょっと前パパ!ちょっと前ママも!!』
「そろそろ過去や未来なんて言葉も覚えてもいいと思うんだが……ハルヒの遺伝子を継いでいても流石に無理か。超能力で子供たちを拡大しただけだ。もう試合も終わったし、三人とも元に戻すぞ」
『問題ない!』
いつもの如く原寸大に戻っていく。過去俺たちからは見えないかもしれんな。
「これが三人の本当の身長だ。それより、六人とも席を移動してもらうことになりそうだ。新メンバーはシャミセンだけじゃないんだよ」
『シャミセンだけじゃない!?』
ハルヒや有希、OG達も席につき、再度エレベーターが動きだして圭一さん、父親、森さん、朝倉、そして青OGが姿を現した。タイミングを見計らったかのように青古泉が現れ、青チームの圭一さん、森さん、裕さん、青OG三人が戻ってきた。最後に異世界移動で現れたメイクありの青OG二人と撮影を終えた古泉。
「ちょっと待ってください、異世界の森さんや圭一さんまでいらっしゃるということは……」
「多分想像通りだろう。こっちの世界の新川さんならディナーの仕込み中だ。そして、今ここにいる新川さんは異世界の新川さんだ」
そのあと、母親とエージェントたちも揃い、空いている席に六人……座れないこともないがちょっとキツそうだな。

 

 メンバーが食べ始めても、この状況に呆れて過去ハルヒ達が食事に手がつけられないでいた。
「一体どういう経緯で異世界の圭一さん達まで一緒に生活するようになったのか、お聞きしてもよろしいですか?」
「異世界でも支部を作ろうって話になってな。佐々木のラボがある場所に俺たちの店の店舗を建てたんだ。そしたら、その店舗のアルバイト希望第一号が、なんと裕さんだったんだ。それで、圭一さんも異世界の裕さんに会いたいって話になって……あとはこっちと同じく異世界でも圭一さん達四人も同じ会社で働いていて、こっちに合流した。OG達も似たようなもんだ。髪型も違うしメイクもしているが、二人ともこっちのOGの異世界人。他の四人と違って今の会社をまだ退職できずにいて、休日でもこうやって仕事に行かないといけない状態が続いている。因みにこの後は戻るのか?」
『私もコンサートが見たくて無理矢理終わらせて来ました!』
「そんな偶然がありえるんですか!?いやはや、もはや何と言ってよいやら分かりませんよ」
「俺たちだって吃驚したさ。あまりのビッグニュースにWハルヒが揃ってクイズ形式にしていたくらいだ」
『あんたが答えを先にバラしたけどね』
「青裕さんからの電話を受けたのは俺だ。にも関わらず、おまえらがいつまでも時間をかけていたからだろうが。とにかく六人ともそろそろ食べ始めないとコンサートに間に合わないぞ?」
過去ハルヒくらいは気にせず食べ始めているかと思ったが、流石に知人の異世界人が新メンバーなんて、いくらハルヒでも何と言っていいのか分からんか。
「おまえらの会社が今どんな状態で、ここにビルが建つのにあとどれくらいかかるのかは知らんが、俺たちはこの短期間でここまで発展した。そんなんじゃ、いつまで経っても見に行けそうにないな。今のうちにどんな事をやっているか話した方がいいんじゃないのか?」
「うるさいわね!必ずあんたたちを超えてみせるわよ!」
「それがいつになるのか聞いているんだ。こっちが発展しきってから俺たちを超えたところで意味がないだろう?」
「……いくらあんたでも、言っていいことと、そうでない事が………」
「問題ない。三年以内にあなた達を超える」
「やれやれと言いたくなりましたよ。いくらあなた流の涼宮さんに対する士気の上げ方だったとしても、そう言われてしまっては僕も黙ってはいられません。長門さんのいう三年でこの時間平面上を超えて見せましょう」
「わたしたちの時間平面上の未来はわたしが安定させてみせます!!」

 

「今の言葉、全員耳に入っただろうな?今から三年で俺たちを超えるそうだ」
『面白いじゃない!圧倒的な差ってもんを見せてやるわよ!!』
「異世界支部の運営はスタートすらしていないんです!こちらの世界以上に発展させて見せましょう」
「鼻っ柱を折ってみたくなったわね」
『くっくっ、キョンの超能力がある分、ハンデがついてしまうけれど、研究の方も勝負してみるのも悪くなさそうだ。そこにいるキョンも僕たちと同程度の知性をもっているんだろう?二対二の勝負といこうじゃないか』
「ハンデがあり過ぎるだろう。第一、研究しているものが違っていたらどう判定するんだ?」
「心配はいらないよ。朝比奈さんのいる未来にどれだけ近づくことができるかで勝負することになりそうだ。そうだね、キミの言う未来の朝比奈さんに判定をしてもらうと言うのはどうだい?キョンと結婚指輪まで買いに行きたいほどキミの能力について知り尽くしているんだ。彼女なら公平なジャッジをしてくれるはずだよ」
「なら、これが最後のメンバー紹介だ。SOS交響楽団の団員たちをまとめる団長の姿ってヤツを見せてやれ!」
「フフン!あたしに任せなさい!」
負け犬の遠吠えすら聞こえなくなった敷地外にSPと報道陣以外の人の姿は無くなり、チケット屋も赤字になっていることを気にも留めずに意気揚揚と帰っていった。天空スタジアムの客席も埋まり、団員たちもステージ上で最後の音合わせをしていた。スマホで撮影しようとしている一般客は居ても堂々とカメラを構えたアホ共はすべて駆除した。過去有希の発言にもあったが、害虫と同じ扱いでいいだろう。前回の反省を活かしたステージが今始まる。

 

 天空スタジアムの照明が消え、俺たちからは天空スタジアムと観客全員が透けて見えている。告知とSP五人分の意識だけ影分身に向けさせて残りはこちらに集中できそうだ。照明がステージを照らし、ピアスをつけ直したみくるがステージ上に現れた。それだけでこの盛り上がり方をするとはな。やはりまだSOS団を見にきた客が多そうだ。年末年始はライブで終われることになる。そのときにたっぷりと見せてやるさ。セカンドシーズンの主題歌をアンコールにしてな。シャワーを浴びてコンサート仕様に気持ちを切り替えたハルヒがステージに現れた。過去ハルヒ達もDVDで見ているのと実際に見て聞くのとではわけが違う。ハルヒのピアスだけのために、明日から配るビラを変える必要があるものの、青俺なら3秒で一万部のビラを用意することが可能だ。ノイズや音ズレも一切聞こえない。今回新たに入れた二曲も『Bravo!』の声が上がり、次のコンサートからカットする予定のGod knows…とLost my musicのオーケストラバージョンも有希のバイオリンテクニックで圧倒。ペンダントとピアスを表に出した青みくるのパフォーマンスも完璧な仕上がりを見せた。青OG二人も少しはリラクゼーションタイムになっていると良いんだが……
 案内とSPを再起動して客が天空スタジアムから出てきた。終わった後の取材に関しては告知になるので閉鎖空間を解除したが、会場に入れなかったアホ共がSPに向かって殴りかかってきた。しかし、それもSPに取り付けておいた移動型閉鎖空間でダメージを受けたのはアホ共の方。ようやく敵わないと悟って渋々帰っていった。スタジアムでは、ハルヒの合図でアリーナ席の椅子が全て折りたたまれ、打ち上げ用の料理とテーブル、椅子が用意された。W佐々木がチェンジして俺たちは81階へ。
「それじゃあ、コンサートのせいこ……「ちょっと待ちたまえ。……なんてな」
「何よ、あんた!折角打ち上げを始めようって言うのに何か文句でもあるわけ!?」
「このメンバーで乾杯の音頭を取るなら、青ハルヒじゃなくて佐々木の方だ」
「どうして僕になるのか教えてくれたまえ」
「この中で、ステージ上で演奏していた奴はおまえ以外におらん。それだけだ」
「やれやれ、随分と大役を押し付けられたものだね。じゃあ、今回のコンサートの告知や打ち上げの用意、警備・案内に至るまで、ここにいるみんなの協力が得られたからこそだと僕は思っている。今回のコンサートの成功を祝して……乾杯!」
『かんぱ~い!』

 
 

…To be continued