500年後からの来訪者After Future7-3(163-39)

Last-modified: 2016-12-03 (土) 18:05:51

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-3163-39氏

作品

週末の怒涛の三泊四日を乗り切りながら、セカンドシーズンのドラマ撮影も順調に進んでいた。一話、二話を全員でチェックしたが、非の打ちどころがない完成度を見せた。ついでにみくるがつけたランジェリーも一時間の枠の中で頻繁に映り、そのほとんどがみくる専用の椅子がデザインしたものだった。すぐにでも見せに行きたいくらいだが、悠長に構えていられるほど時間が無い。それに最近になって眼にクマができるようになり、いくら眠気を取って生活をしてきたといえども、三ヶ月以上も続けていたせいでどうやら限度を超えてしまったらしい。

 

「ちょっと待ってください。今の鶴屋さんの声は一体……」
『このバカキョン!声帯を弄ってまで鶴ちゃんの真似をして何が楽しいのよ!?』
声がした方向から俺が真似をしたとハルヒ達にはすぐにバレてしまったようだ。
「折角はるにゃん達も解決方法を教えてあげたのにそれはないにょろよ。とにかく、間に合いそうになければあたしの影分身で撮影をするだけっさ!勿論本人には許可を取ってくるから心配いらないにょろ!」
「くっくっ、蝶ネクタイ型変声機でも発明したくなったよ。その方法なら本人の許可をもらうだけで撮影が可能だね。朝比奈さんが心配していた通り、まだ校舎やグラウンドのイメージが膨らまなくて困っているんだ」
「それならあたしが考えたわ!情報を渡すからすぐにでも建ててきて!!」
「問題ない。わたしが建設する」
「ハルヒさん、それは酷いよ。考えがまとまっているのならもっと早く教えて欲しかった。脚本ならできているし、校舎が建って小道具が揃えばいつでも撮影可能だよ」
「じゃあ、わたしから鶴屋さんに予定を確認してみます。家の用事なら青鶴屋さんも同じでしょうから」
「小道具で思い出した。こっちのキョンに頼みたい事があるんだけど、いいかい?」
「俺にか?出来る範囲でならやるが、一体何をすればいいんだ?」
「どちらの世界でもいいから、北高に行って二年生の英語の教科書をサイコメトリーしてきて欲しい。それをクラス分情報結合で用意してもらいたいんだ。キョンが英語の授業をするシーンで使うんだよ」
「それなら放課後行くことになりそうだな。夕食までには用意できるだろう」
「じゃあ、このあともじゃんじゃん撮影を進めるわよ!」
『問題ない』

 

 有希に情報を渡すと、どこ○もドアを通って異世界の81階のフロアへ。ここで料理を作ることは無いと思っていたが、こんなに早く機会が訪れるとは思わなかったよ。現実世界と同様アイランドキッチンを情報結合すると、異世界の食堂と99階のキッチンの四か所で仕込みに取り掛かった。ハルヒの方も影分身にホテルの調理場を任せて本体は撮影。若手政治家たちも大分慣れてきたようで、ハルヒの影分身一体分の労力が若手政治家と現地のスタッフでまかなえるようになった。これでハルヒがいなくてもいいようになるといいんだが、ブラックリスト入りの連中を入れてようやく運営可能な状態が続いている。俺が安比高原を選んだせいで、県知事が用意したという人材のほとんどはスキー場中腹の店の方で働いている。仕事に慣れて他の場所に回せる人間が出てくれるか、オフシーズンになって来月以降働き手が現れてくれるか、どちらにせよ県知事とも一度話しておく必要がありそうだ。
『キョン君、そろそろ来てもらえますか?』
『分かった。すぐに行く』
みくるの髪を洗うのはいいが、どういうシチュエーションなのか直前にならないと教えてもらえないというのはどうにかして欲しいもんだ。向こうで佐々木に聞けばいいか。そういえばアイツ、古泉と園生さんの結婚のことは知っているのか?……いや、指輪は見えなくとも未来のみくるや有希と一緒に大画面で見ているはず。名前を呼び捨てにしているから間違いなく知っている。しかし、それを見てどう思うかが問題だ。元居た時間平面上ならハルヒはとっくに死んでいる。元機関のメンバーも古泉が現れれば歓迎してくれるだろう。その時間平面上の森さんが結婚していなければまだチャンスはある。だが、それが叶わないとき、アイツは……
『あの時間平面上の古泉一樹ならあの時間平面に留まるだろう。対局しているから良く分かる。自分が元居た時間平面上に戻ってまで生活するつもりは毛頭ない。俺や朝倉涼子、青チームの古泉一樹と勝負して勝つことしか考えてないはずだ』

 

 ジョンの一言で一安心できたが、『すぐ行く』と言っておいて随分時間が経ってしまっていた。
「遅いわよ!このバカキョン!!みくるちゃんに『すぐ行く』って言ってたんじゃないの!?」
「それについてはすまん。ただ、みくるの髪を洗うのはいいんだが、どんなシチュエーションになるのか考えていたらつい時間を忘れてしまっていた。サイコメトリーすればそれでいいとはいえ、頼むから今度から撮影をする前に脚本を見せてくれ。みくるが予約して美容院の営業中にシャンプーするのか、それとも営業時間を過ぎてからやるのか、いきなり入ってきてシャンプーだけやるのか、それくらい教えてくれたっていいだろう?」
「これまではキミの出番はほとんどなかったからね。それについては僕の責任だ。そうだね、今後はキミにも予め脚本を渡しておくことにする。今回は、営業時間後に現れた朝比奈さんのストレス解消に嫌々シャンプーさせられる設定だよ」
営業時間後の設定なだけあって、美容院内には古泉に見える催眠をかけた俺とみくるの二人だけ。みくるが一方的に喋るだけのシーンだったが、シャンプーを始めた瞬間にリラックス状態になってしまったみくるに、ハルヒから何度もNG。「サイコメトリー無しでシャンプーしなさいよ!」とか言われたが、どういう洗い方がみくるにとって一番心地いいのか知ってしまった以上、サイコメトリー無しでも、ほぼ同等のことができてしまう。しかし、このシーンだけで時間を費やすわけにもいかん。ストレスのかかるやり方から始めて徐々にリラックスできる洗い方に切り替えてようやくOKが出た。もしかすると、このシーンは古泉がやった方が良かったかもしれん。いくらサイコメトリーでも、古泉に髪を触られれば、みくるも気を張り巡らせていただろう。
「キョン君ごめんなさい!仕込みで忙しいのにこんなに時間がかかっちゃって……」
「気にするな。その分他のシーンでNGを出さなければいいだけの話だ。あんまりテンションが下がっていると、次のシーンに影響する。今度は脚本を用意してくれるそうだし、俺の出番が少しでも早く回ってくるようにしてくれると助かる」
「はいっ!キョン君ありがとうございます!!」

 

 みくるにはああいう言い方をしておいたが、さすがに時間を喰ったな。そろそろ片付け始めるか。みんなが寝静まってから再開すればいい。
「できた」
夕食の一発目は有希の三文字。有希の名言集の一つとして子供たちも真似しそうだな。しかし、もう公開処刑用のDVDができたのか。撮影しながらでも流石だな。やることが早い……って、ん!?
「ちょっと有希!何よこの衣装!?」
佐々木を除く黄チームSOS団四人+青佐々木の前にそれぞれ色の違った衣装が情報結合された。
「ひょっとして、これでダンスを踊るってことかい?」
「そう。明日の午前中に今度は歌のレコーディング。それが終わり次第、ダンスの振り付けを依頼する。ダンスの練習をするのは二月のバレーシーズン以降だから安心して。それに、着替えさせて」
「やれやれ、何度注意しても『ドレスチェンジ』とは言わずに『着替えさせて』のままとは……とりあえず、みくるがセンターだったな。どういう順番かは知らんが五人で並んで立ってみろ」
有希に誘導され朝倉、有希、みくる、ハルヒ、青佐々木の順で横一列に並んだ。指を鳴らして五人の服が入れ替わるって、ちょっと待て!
「おまえな!こんな深Uネックの衣装になるのなら最初から教えろ!下着の紐が全員見えているだろうが!」
「あら?このくらいなら真夏なら当たり前よ?でも、この衣装を着るときは下着を選ぶ必要がありそうね」
「そうかい?僕は予め言って欲しかったな。紐だけだったとしても恥ずかしいよ」
ミニスカートではあるが、深いUネックのワンピース。胸に大きなリボンをつけて、みくるはピンク、有希が薄紫、ハルヒは黄色、青佐々木が黄緑で、朝倉が水色。ミニスカートでダンスを踊る分、アンスコを履くのかと思ったが、各色のスパッツを履いていた。そして白のフィンガーレスグローブと白の靴。グローブも長さがバラバラで靴の方もそれに合わせて種類が違っている。グローブも靴もそれぞれの色のついた細いリボンがアクセントになっている。
『キョンパパ!みんなプリ○ュアみたい!!』
「だそうだが、有希、今回の衣装のコンセプトは?」
「………プリ○ュア」
「くくく……これは失礼を。ですが、子供たちが真っ先にそう言うくらいですから、これでダンスを踊れば『ファンクラブ限定商品として売ってくれ』と要望が多数集まりそうです。子供用サイズも用意されるおつもりですか?」
「くっくっ、用意しないと幼児用の衣装を作ってくれと人事部に電話が殺到してしまうよ。でもね、この衣装を着てダンスをいつ披露するのか教えてもらえないかい?」

 

 佐々木の一言で少しの間、静寂が訪れた。だが、その答えは既に出ている。
「来年の七月の生放送で踊って、中旬にシングルの発売、八月のお盆前にアルバムと一緒にダンスフルバージョンを出せばいいわよ。この前話していたじゃない!」
「それに加えて本社の大画面で半分だけダンスのPVを流すんだろう?でもね、この曲は別の時期に出した方がいいと思うんだ。もしかすると再来年まで待つことになるかもしれない」
『再来年まで待つ!?』
「どういうことか説明して欲しいわね」
「どうして八月のお盆前にダンスのフルバージョンを出すのかが問題なんだ」
「なるほど、そういうことですか。佐々木さんの意図していることがようやく分かりましたよ。確かにこの曲では効果が半減してしまいます」
「あ――!!もう!じれったいわね!二人だけで理解していないで、あたし達にも分かるように説明しなさいよ!」
「七月に出す理由とこの曲のタイトルが問題なんだ。ダンスのフルバージョンを発売してから練習を始めて、秋の運動会や文化祭で踊りたいなんて中高生も出てくるだろうが、たとえ演技だったとしても運動会で『止マレ!』というのは縁起が悪いというか、運動会に合わないというか、とにかくそういう目で見られてしまうってことだ。折角ハルヒ達がダンスの曲としてふさわしいタイトルを考えてくれたし、有希がデザインしたその衣装に合った曲を作るってのはどうだ?俺はこれまでの流れから行くと、『シレ知レセカイ』が先だと思ってる」
「僕も同意見です。ドラマが終わった四月頃にとも考えましたが、セカンドシーズンのオープニング曲がSuper Driverでは、それと真逆の曲を出すというのもどうかと。お蔵入りするわけではありませんしハルヒさんや有希さんであれば、その衣装に合った『シレ知レセカイ』というタイトルの曲を、すぐに作詞作曲できるのではありませんか?今は忙しい時期ですが、動きだすのが七月からであれば、時間は気にする必要も無いかと」

 

「二人に説明されてようやく納得できたわよ。そうね、運動会で『止マレ!』はあまり相応しくないかもしれないわね。効果が半減することが分かっていて無理に出す必要もないんじゃないかしら?」
「分かった。来年七月に出すのは『シレ知レセカイ』わたしが先に作曲する。あなたがそれに歌詞をつけて。でも、明日のレコーディングだけは終えておきたい」
「しょうがないわね、レコーディングを終えたらドラマの撮影を優先しなくちゃいけないから作詞をするのはそのあとになりそうね。でも、だったらあの曲いつ出すのよ!?」
「再来年の話になりますが、九月上旬からのスタートになるでしょう。文化祭で踊るとなれば、十月の頭にダンスのフルバージョンを発売することになりそうです。もし人事部に運動会で踊りたいという電話が来ればダンスのフルバージョンを早めればいいかと。あとはコンサートや年末のライブで毎回踊っていけば、例のスーパーライブでもダンスを披露できるはずですよ」
「ぶー…分かったわよ」
「キョン、すまないが着替えさせてもらえないかい?紐だけでもやっぱり恥ずかしくてね」
「おまえな!さっき言ったばかりだってのに、どうしてまた『着替えさせて』になるんだ!!この場で服を脱がせるぞ!まったく……」
ドレスチェンジすると、さっきまで着ていた衣装を有希がキューブに入れて保管。五人がようやく座席についた。
「それで、英語の教科書はサイコメトリーできたのかい?」
「サイコメトリーはできたが、この場で作るのか?」
「僕たちとハルヒさん、それにキョンの分だけ先に貰えないかい?授業で扱う単元を決めておきたいんだ」
高校二年生でどんな内容をやっていたのかすっかり忘れてしまった。俺が授業をやるとしても範読してみくるたちに訳を言わせるくらい。黒板に何を書けばいいんだ?青俺が情報結合した教科書を手に取った。未だにこの業者の教科書を使っているのかというのが率直な感想だ。あとでサイコメトリーして授業で扱うページを調べてみるか。

 

「それで、鶴屋さんには連絡はついたのか?」
「はい。でも年が明けてしばらくするまで来られそうにないそうです。でも、キョン君が代わりに演じてくれるのならそれでいいって言ってました。どんな内容になっているのか見せて欲しいそうです」
「それなら、忘年会が終わってから撮影しましょ。エキストラも大勢必要になるし、こっちのOGも自主練になるのなら一日位練習を休んだって心配いらないわよ!ただのクラスメイトなら催眠なしで出演しても問題なさそうだしね」
『ハルヒ先輩、それ本当ですか!?私も参加させてください!!』
「どの道TVの前で『おまえ殺されたんじゃなかったのか!?』なんてツッコミが入る程度だろうな」
「くっくっ、エキストラが必要のないシーンは近日中に撮影することになるから準備をしておいてくれたまえ」
「すみません、話も一段落したようですので、僕の方から一つご報告したいことがあるんですが、よろしいですか?」
『報告?』
「ええ、例のチャペルの予約が取れました。来年の十一月二十二日(水)に式典を執り行いますのでよろしくお願いします」
「くっくっ、いくら平日とはいえ、よくその日の予約が取れたね」
「結婚記念日に相応しい日で間違いなさそうね!」
「ところで青キョン、どうして十一月二十二日なのか、あんた分かっているんでしょうね?」
「車のナンバーもよく1122が使われているからな。良(1)い(1)夫(2)婦(2)だろ?」
「来年は婚約記念日を忘れないようにしないと……キョンの誕生日でもあるから…」
「パパの誕生日!?伊織パパ!わたしケーキ食べたい!!」
「ケーキなら25日に食べられるぞ。クリスマスケーキだ。来週は幸の誕生日もあるから、そのときはバースデーケーキだな」
『キョンパパ、今日は何日!?』
「今日は20日。20日のことを『はつか』って言うんだ。いい機会だから覚えておくといい。さて、あと何回寝たらケーキが食べられるでしょうか?これに答えられなかったらケーキ取り上げだからな」

 

 『ケーキ取り上げ』を阻止すべく、三人が自分の指で数えている。互いにアイコンタクトを交わしてようやく答えに結びついたようだ。
『五回!!』
「正解。これでケーキが食べられそうだな」
『ケーキ!ケーキ!!』
時間もそろそろ夜練の頃合いとなり、俺たち三人が練習用体育館に降りた。影分身で片付けをと思っていたのだが、今日のNGのことを気にしてか、みくるが名乗りを上げた。ハルヒや青有希はホテルの厨房に戻っていったが、そこまでやることもなく帰って来られるだろう。あまりやり過ぎると他のスタッフや若手政治家に作業を覚えてもらえない。夜練を終えてシャンプー&全身マッサージをしている最中に青OGに声をかけた。
「こっちのOGは大丈夫だが、そろそろ青OG達もテレポートの第二段階に入ろう。圭一さんが話していたように、ここからホテルの厨房まで一回のテレポートで移動する訓練だ。最初は途中までしかテレポートできないだろうから、舞空術をした状態でテレポートすることになる。あれを極めると、81階にあるようなどこ○もドアのようなものに応用できるし、漫画のキャラクターの技を実現することも可能だ」
「テレポートの訓練は私もやってみたいですけど、漫画のキャラクターの技って何のことですか?」
「見せた方が早そうだ。ギア2!」
声帯を変えて全身が紅く染まった俺に思わず頭を上げてこちらをみている。まだシャンプーの途中だってのに。まぁ、全員裸だから問題ないか。
「ゴム○ムの~~~~~~!JETピ○トル!!」
『えぇ―――――――――――――――!?』
玩具の置いてあったテーブルを破壊したあと、閉鎖空間を解除して元に戻した。
「嘘……腕が伸びたようにしか見えなかった。キョン先輩、これ本当にテレポートの応用なんですか?」
「ああ、テレポートと催眠の複合技だ。部分テレポートって言ってな。俺の拳だけあそこにテレポートして、腕から拳までの間を催眠を使ってさも腕が伸びたかのように見せた。他にも頭だけ取り換えるなんて技も可能だ。
「ぜひ見せてください!」
「とりあえず今日着る服を選んでドレスチェンジしてからにしよう。そっちの方が面白そうだ」
『問題ない』

 

 少し前まではベビードールや制服姿だったが、最近は例のパイプ椅子がデザインした下着をつけるようになってきた。全員着替え終えたところで、あのキャラクターの特徴的な帽子をかぶり、刀を情報結合した。
「今からおまえら全員の首をはねる。覚悟はいいか?」
『首をはねる―――――――――――――――!?』
「そんなことしたら私たち死んじゃいますよ!!」
「なるほど、そういうことですか。それでその帽子と刀なんですね」
「帽子と刀がどうしたっていうのよ!!」
「あっ!キョン、私も分かった!みんな、斬られても大丈夫だよ!!」
「首をはねられてどうして大丈夫なのか説明してよ!」
「よし、それならこれからやる内容が理解できた二人だけ首をはねる。どうなるか見ていろ。しかし、あれだけ人気の漫画を知らないわけがないはずなんだが……まぁ、いいか」
指を鳴らして半球状の立体をフロア全体に広げた。これはただの演出だ。
「“room”」
刀を鞘から抜き、一瞬にして二人の首をはねる。フロアの床に頭部が転がった。コーティングしているから落ちても痛くも痒くもないだろう。
『ひっ!』
周りのOG達が床に転がった首に恐怖を隠しきれないでいた。
「う~ら~め~し~や~~~~」
転がっていた頭部が喋り出し、胴体が頭部を拾う。首だけ他のメンバーに近づけて脅かしていた。
「首を斬られたのになんでそんなに平気な顔をしていられるのよ!」
「ここからが本番だ。二人とも、首を元の位置に戻してくれるか?」
「これでいいですか?」
「ああ、今から二人の首が一瞬にして入れ替わる。そろそろ残りの連中も気付いて欲しいもんだが……まだ誰も思い浮かばないか?」
「そんなこと言われても……」
「『元』王下七武海だよ!賞金は……五億だったかな?」
「あっ、あっ、えーと……なんて言ったっけ!?」
「じゃあこれが最後のヒントだ。“シャン○ルズ!”」

 

 一瞬にして入れ替わった生首に驚きはしたものの、表情が明るくなっている。ようやく答えに辿り着いたらしい。
「あ――――――――っ!トラ○ァルガー・ロー!!オペ○ぺの実!」
「でも、キョン先輩。どうやったらこんなことができるんですか?」
「最後の首の入れ替えはただのテレポートだが、刀で首をはねる直前に頭だけ部分テレポートしたんだ。だから頭と胴体が離れているように見えても、本人の身体はずっと繋がっているというわけだ」
『なるほど!』
発案したのは俺だが、超能力の修行を一通り終えてパフォーマンスを見せてからは12人全員の首を部分テレポートさせて遊んでいた。睡眠時間は十分確保できるんだろうな?ジョンの世界には他のメンバーが既に集まっていた。
 OG達が眠ってからは朝まで仕込みを続けていた。平日のニュースは至って平穏。何かあるとすれば明日の朝だな。昨日の部分テレポートを使ったトリックを一つ思いつき、セカンドシーズンの最終話に困っているようだったらと佐々木に情報を手渡した。
「くっくっ、今からでも十分間に合う。最終回のトリックをこれに切り替えようじゃないか。こっちの方が最終回に相応しい惨殺事件になりそうだからね」
「やれやれ、またキミは監督や脚本家を振りまわすつもりかい?一体どんなトリックを思いついたのか僕たちにも教えてくれたまえ」
「殺害したあと、そいつの首をはねるという殺人事件だ。入るのは簡単だが、絶対に脱出不可能な密室トリックを用意した。最後の事件には女子高潜入捜査事件のときの俺や朝倉のように、新川さんや森さんにも犯人が完全犯罪計画を実行する見届け人として、青古泉たちの前に堂々と現れてもらう」
「そこまで計画されてしまっては青佐々木さんの仰る通りになりそうです。ファーストシーズンに引き続き、今度はあなたとジョンのバトルを繰り広げることになりそうですね」
「とにかく、時間が無いんだから早く食べるわよ!」
『いただきます!』

 

「ところで、昨日話した例の曲のレコーディングは一応やっておくとして、どんなシーンを撮影する予定なんです?」
「第五話と第六話の続きと、時間が余れば第七話を断片的に撮影することになる。第六話でもキョンに出てもらうことになるし、第七話の最初のシーンは圭一さんと朝比奈さんの会話から始まるから、二人とも準備をしておいて欲しい。脚本は午前中のうちに渡すよ」
「レコーディングだけなら僕でもできそうだ。青僕ばかりに負担をかけるわけにはいかないし、そのくらいはやらせて欲しい。その代わりPVの撮影は青僕に任せることになりそうだけどね。PVの方はいつ撮影するんだい?」
「明日の午後。半分はこれまで撮影したセカンドシーズンのドラマの映像の中から編集する。でも、朝比奈みくるがポルシェを動かしているシーンも撮影したい。それについては今日行う予定」
「CD発売まで時間がありませんからね。スキー場の宣伝とは別のCMを流す必要がありそうです」
「そうだ、CMで思い出したよ。年明けに朝比奈さんにCMの依頼が二件入ってきた。日程は年末年始の番組収録が終わってからになるそうだから未定だそうだが、一応連絡だけということで昨日かかってきた。例のネックレスとイヤリングをつけて出て欲しいそうだが、どうするかね?」
「そんなの、CMに託けてみくるちゃんのネックレスとイヤリングの取材をしたいっていうのと変わらないじゃない!みくるちゃんに気付かれないようにアップで撮影するに決まっているわよ!!」
「だが、依頼主はこれまで何度も朝比奈さんをモデルにと言ってきたところだ。ドラマの合間にも無料でCMを入れる約束もしている。十分信頼に足るとは思うが、どうだね?」
「年明けであれば俺が催眠をかけずに同行することができる。もし青ハルヒの言う通りならネックレスを撮影したデータをすべて消しておく。もし、まだ告知中であれば俺に見える催眠をかけて誰かが一緒に出向いてくれ。いるだけで十分脅しになるはずだ」
「だったら、あたしが行くわ!ズームで撮影した瞬間にカメラを壊してやるんだから!新しいカメラを用意すれば文句ないわよね?」
『問題ない』

 

 しかし、トリックは伝えたが、それを実行に移すための配役やストーリーは全て佐々木任せにしてしまったな。まぁ、十分間に合うとは言っていたし、そこまで心配する必要もないか。とにかく今は仕込みと若手政治家の料理指南に専念するのみだ。昼食時、古泉から23日のスーパーライブの図面はまだ届かないのかという意見が飛び出し、圭一さんがすぐに電話をかけて確認する手筈になった。まぁ、セットはこちらで用意してもアーティストたちの控え室なり食べ物・飲み物の用意をすることに変わりは無い。
『キョン君、そろそろ来てもらえませんか?』
昨日とほぼ同じテレパシーに仕込み作業を中断してテレポート。もう第七話の撮影に入るのか。圭一さんも撮影現場に来ていた。俺の方は青古泉たちを挑発するシーンと、犯人が捕まった後去り際に負け犬のセリフを言い残していくシーンの撮影のみ。
「圭一さん、さっき古泉が言っていた件はどうなりましたか?」
「ああ、それならFAXで図面を送ってもらったよ。明日の午後に古泉が建てるそうだ」
「当日はスタッフは何時頃から入ることになったんです?」
「昼食を終えたらすぐこちらに向かうそうだ。楽屋の準備をすると言っていた」
まぁ、大方予想通りか。当日は午後からSPだな。
「カ――――――ット!!これで第六話まで撮影できたわね!すぐ第七話の撮影に入るわ!キョン!エキストラの刑事を何人か用意して頂戴!」
「ああ、分かった」
やはり脚本を貰って正解だったな。脚本をサイコメトリーしていなかったら『エキストラの刑事』と言われても何のことだかさっぱり分からなかったはず。芸能プロダクションから呼んだ俳優を除いて全員サイコメトリーだから昨日の一件以外はNGなんてありえない。スキー場の運営で撮影の進度が遅くなると思っていたが、この調子なら問題はなさそ……待てよ、確か青古泉のクイズバラエティに……っ!!
「佐々木、ドラマの撮影を始めてから今までにNGはいくつあったか教えてくれ!」
「僕が覚えている限り、昨日キミが朝比奈さんにシャンプーをする一回きりだったとおもうけれど、どうかしたのかい?」
「青古泉の生放送のクイズバラエティのことは話したはずだ。ドラマのNG集をVTRで流すなんて事になりかねん。撮影が終了次第、わざとNGを出すシーンに目星をつけておいてくれないか?NGが昨日のアレだけじゃいくらなんでも不自然過ぎる」
「それもそうだね。分かった、誰がどんなNGを出すかも含めて青僕と二人で考えておくよ」

 

 みくるが務めている刑事課のセットに移動して統括をするところには圭一さんが座り、みくる以外は俺の影分身がエキストラとして入っている。電話をしていたり、資料を調べていたり、容疑者を取り調べ室に連れていったりと様々だ。細かなタイミングの打ち合わせをして撮影が始まった。
「朝比奈!ちょっと来てくれ!」
「はい!多丸警部、何かありましたか?」
「別の課の者からこちらにも要請があったんだが、女子高で妙な事件が起こっているらしい。すでに捜査を進めながら事故を未然に防ぐという役割で潜入している人間がいるんだが、いつ殺人事件に発展してもおかしくないとの報告が入った。そこで、君にも女子高に潜入捜査をしてもらいたい。学園の上層部もいつ死人が出るか分からないから早急に解決して欲しいそうだ。手続きはこちらで済ませる。制服も学園が用意してくれるそうだ」
「あたしが女子高に潜入捜査ですかぁ!?」
みくるの大声に周りの刑事達の注目が集まる。鋭い目つきをした男の刑事じゃいくら女装しても無理だろうな。
「とりあえず、これが資料だ」
「……被害に遭ったのは女子生徒二名。どちらも火の気がまるで無いところから突然衣服に火がついた……っ!!」
「多丸警部、先に潜入捜査をしているという方は、部活はどうしたのかご存じですか?」
「それなら確か資料が……あった。ソフトボール部に仮入部中だそうだ。潜入捜査だと言うのに部活動に参加しているなど、まったくけしからん奴だと思っ………どうかしたのか?」
「多丸警部、部活に仮入部したというのも、どうやら遊び半分でやっているわけではなさそうです」
「どういう意味だね?」
「すみません、もう一人潜入捜査に加えたい人物がいます。制服は二着用意してもらうよう学園に連絡をしていただけませんか?」
「それは構わんが、一体誰を連れていくつもりかね?まさか、外部の人間を……」
「とりあえず可能かどうか確認をしないといけません。すみませんがあたしはこれで失礼します」
「おい、朝比奈!………まったく、何をするつもりなんだ」
「カ――――――――ット!!みくるちゃん、名演技よ!これで女子高潜入捜査事件につながるわね!出だしとしては完璧な仕上がり具合だわ!次、青あたしのOKを貰ってみくるちゃんが圭一さんと捜査会議するシーンね!!」

 

「多丸警部、学園の方は何と……?」
「今日の夕方、生徒に見つからない様に学園長室に二人で来て欲しいそうだ。それで、潜入捜査に加えたい人物というのは誰のことなんだね?」
「昨日見せていただいた女子生徒の資料の中に二人ともソフトボール部であるという共通項が見つかりました。先に潜入捜査しているという人物もおそらくそこに眼をつけてソフトボール部に仮入部している可能性があります。まだ被害者が二名ですから、これがこの事件のミッシング・リンクなのかは分かりませんが、昨日は署内のソフトボール経験者に捜査協力の依頼をしてきました。将来有望な新戦力が入るとすれば部員の輪の中にも入りやすいかと。それから、すでに潜入されている方というのは、どういった人物なんでしょうか?」
「なるほど、そういうことだったとは。しかし、その人物に関しては私にもよく分からんのだ。とにかく彼女と同じクラスに編入という形になるそうだ。『クラス内で一番明るい生徒を探せばすぐに分かる』と私も訳が分からない説明を受けたよ」
「それだけ分かれば十分です。後は現地で探すことにします」
「たったそれだけの情報でどうやって見つけるというのかね?」
「転入してきたばかりで、周りの生徒から注目を集めるような存在なら、その中心にいるのが我々と同様、捜査をする側の人間ということです。彼女が目立っている分、こちらが動きやすくなるはずです」
「分かった。だが、これがもし事故ではなく事件だったとしたら、犯人がすぐ近くにいるということになる。捜査はくれぐれも慎重にな」
「心得ております。では、行って参ります」
みくるがその場を立ち去ってようやくハルヒの「カット!」の声が聞こえてきた。
「凄い。黄みくるちゃん、園生さんみたい。あんな専門用語ばかり入ったセリフで一回もNGが無いなんて驚いたわよ!」
「サイコメトリーのおかげです!わたしも今までミッシング・リンクなんて言葉は全然知りませんでした」
「次、みくるちゃんと青あたしは青古泉君の部屋でのシーン撮るわよ!ジョン、あんたも出てきなさい!」
場所を移して、青古泉、青ハルヒ、みくるの三人が部屋の中で座っている。ジョンは出番が来るまで外で待機らしい。準備が整ったところで撮影スタート。

 

「え――――――――――っ!?いきなりあたしにそんなこと言われても、仕事休めないわよ!」
「それについては心配いらないわ。あなたがOKしてくれれば、すぐにでも連絡が行くようになっているから。仕事の引き継ぎさえしてもらえれば、早ければ二、三日、遅くとも一週間はかからないはずよ」
「警察から連絡が来るなんて言われたら、仕事先の同僚にどう思われるか分かったもんじゃないわよ!女子高に潜入捜査だかなんだか知らないけど、朝比奈さん一人で行けばいいじゃない!」
「まだ承諾を得ていない状態で詳しい事情は話せないんだけど、あなた以外に適任がいないの!お願い!」
「朝比奈さんがまた警察に内緒で押収品を持って来た品をサイコメトリーしてみたんだが、どうもまた『アイツ』が絡んでそうなんだ」
「『アイツ』って、アンチサイコメトラーとか言ってた奴のこと?」
「ああ、サイコメトリーはできたが、どうも違和感がある。これまでの事件と同じ違和感がな」
「あんな奴等とは関わらなきゃいいじゃない!あんた、あいつらに殺されかけていたの忘れたわけじゃないでしょうね!」
『今のコイツに何を言っても無駄だ。喧嘩を売られて尻尾を巻いて逃げるような奴じゃない』
「ジョン!いつの間に来てたのよ!?」
『あんたの叫び声が聞こえた辺りからだ。数年ぶりに高校の制服で身を包んでみたらどうだ?似合うかどうかは別として、あんたのそれを見てみたいようだからな?』
「はぁ!?どんな制服かは知らないけど、いつからそんな趣味になったのよ!?」
「しょうがねえだろ。アイツが絡んでくるんじゃ、俺が女装して潜入してもすぐにバレるし、他の女子生徒が目の前で着替えている姿を見てもいいっていうのか?とりあえず、アイツが情報を弄らなさそうなものを持ってきてくれ」
「ったく、しょうがないわね……分かったわよ」

 
 

…To be continued