500年後からの来訪者After Future7-5(163-39)

Last-modified: 2016-12-07 (水) 07:04:45

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-5163-39氏

作品

いよいよ今年もあとわずかとなり、一月スタートのドラマのセカンドシーズンも第六話まで撮り終えることができた。第七話の撮影も始まったのだが、女子高のエキストラ役として出演するOG達の事情により、わざと間違えたNG集や最終回を先に撮影することになった。俺たちが北高時代に出かけた孤島に行ってみたいというOG達の強い希望により、密室殺人の現場検証も含めて急遽、孤島にテレポート。天候がどうなっているか気になっていたが心配する必要はなかったようだ。

 

「絶景かな、絶景かな。いくら22世紀の道具でも潮の香りまでは再現できないってことですね!水着で泳いできたいくらいですよ!!キョン先輩!正月休みに入ったら撮影の合間に泳ぎに来ませんか!?」
「あのな、ハワイに行ったときと違ってここはれっきとした日本国内だ。移動型閉鎖空間の空調管理機能で暖かいと感じているだけで、ちょっとでも海水に触れれば冬だというのが良く分かる。それでも泳ぐつもりか?」
『うん、それ、無理』
「やれやれ、またつまらんものを……なんてな」
「おや、あなたが石川五右衛門の名言をご存じとは思いませんでしたよ。老朽化していたであろう建物も、ビーチバレー用の支柱やネットも、どうやらジョンが直してくれたようですね。仕事が早いとは正にこのことです」
「ちょっとキョン!一階に窓があるんじゃ玄関から出なくても簡単に脱出できちゃうじゃない!」
「第九話の脚本渡しただろ?試しに窓ガラスを殴ってみろ」
こういうところは素直に従ってくれるのはこっちも嬉しい限りなんだが、できれば殴る方ではなく脚本を見る方にして欲しかった。
「ちょっとあんた!これどういうことか説明しなさいよ!」
「両方の世界のアホの谷口がしようとしたことを思い出してみろ」
『あ……なるほど』
「みんなで何が『なるほど』なのよ!あたしにも説明しなさい!!」
「おまえ、みくるの事をとやかく言えそうにないな。鈍感過ぎるぞ、まったく」
「もういいわ!それで、例の密室に案内しなさいよ!ジョンがもう作って待ってるんでしょ!?」
「へいへい」

 

 有希やジョンに鍵なんてものは無いに等しく、ここの鍵を持っていそうなのは……園生さんくらいか。玄関の扉を開けて中に入る。外装だけでなく内部も俺のイメージ通りに改装してくれたらしい。
「これは……『多少改装』どころでは収まりそうにありませんよ。脚本通り、凶器は選り取り見取りのようですね。玄関ホールが広いのも、あなたとジョンのバトルのためということになりそうです。それで、例の部屋というのは?」
「俺のイメージ通りに作り替えてくれているのなら……こっちだ」
玄関ホール左側の廊下を歩いて角を曲がると、建物の内装には似つかわしくない扉が俺たちの前に現れた。
「このドアを開けたら、首なし死体がパイプ椅子に腰かけて待っているはずだ。覚悟はいいか?」
『も……問題ない』
それは本当に大丈夫だというサインなのか?まったく。俺が扉を開ける以上、開けた瞬間ジョンが俺たちを脅かしてくるなんてことはありえない。重い扉を開けると、殺風景な部屋の中には俺たちに背を向けたパイプ椅子と、その背もたれに寄りかかる形で首なし死体の姿があった。右手には今にも落ちてしまいそうな状態でこの部屋の鍵が握られていた。上を見上げると小窓が半分開いていた。
『密室殺人のトリックを解くんだろ?さっさと中に入ったらどうだ?時間が無くなる』
「あんた、いつの間にあたし達の後ろにテレポートしてたのよ!吃驚したじゃない!!」
『生憎と、俺はテレポートは使ってない。この扉の鍵をかけなかっただけで、キョンの考えた密室トリックを使って堂々と玄関から入ってきた』
『玄関から入ってきたぁ!?』
「本来ならもう少し時間のかかるトリックなんだが、今回はショートカットしてもらった。じっくり中を調べてみてくれ。死体を動かしてくれても構わない。情報結合したただの人形だからな」
「たっ、ただの人形って言われても、リアリティがあり過ぎですよ!」

 

 人形に触れるどころか近づきもしないOG達に対して、人形を細部まで念入りに調べているW古泉やW佐々木、Wハルヒ。有希や朝倉は……もう解けているのかもしれないな。死体はもう十分調べたと言わんばかりにハルヒが人形を蹴り飛ばし、古泉がパイプ椅子に乗って小窓までの高さを確かめていた。
「パイプ椅子ではジャンプしたとしても無理がありそうですし、何よりも座面に靴跡が残ってしまいますね」
「屋根からロープを降ろして入ってくればいいのよ!窓の鍵は脚立に登って開けておけば、後は簡単に出入りできるじゃない!!こんなの簡単に解決できるわよ!」
「涼宮さん、天井を透視してみてください。ロープを結ぶことのできる場所がどこにもありません」
「じゃあどうしろっていうのよ!」
「それを考えるためにここに来たんです。第五話の黄朝比奈さんのセリフにもありましたよ。『不可能なものを取り除いて、残ったものがどんなに信じられなくてもそれが真実』まさに、我々にも信じがたい発想から生まれたトリックで間違いありません」
「キョン先輩、わたし達そろそろ着替えて練習に行かないと……」
「だったら、俺も一緒に戻る。子供たちも拡大しないと練習に出られないしな」
『キョンパパ!早くバレーしたい!!』
「じゃあ、先に戻っているから後よろしくな」
『問題ない』
81階でドレスチェンジしたOG六人は体育館に赴き、その後を追うように子供たちが降りていった。圭一さん達も戻ってくるもんだとばかり思っていたが、それに有希や朝倉も。どういうつもりなんだ?まぁいい、明後日の打ち上げの仕込みを続けよう。

 

異世界の81階でも仕込み作業を続けていたのだが、戻ってきたのはSPを頼んだ青俺、電話対応をお願いした圭一さん、昼食担当の青新川さんの三人だけ。他のメンバーはまだ密室トリックに悩んでいるのか?気付いた頃にはもう昼食時。どこ○もドアの向こう側から青新川さんの美味そうな料理の匂いが漂ってくる。ホテルの厨房に向かっていた青OG達が昼食に戻り、こちらのOG達や子供たちも練習を終えて戻ってきた。ジョン、他の奴らが向こうで何しているのか分かるか?
『まだ例の部屋で悩んでいる最中だ。青チームのキョンがビラ配りに行くと伝えたんだが、涼宮ハルヒを中心にまるで動こうとしない』
やれやれ……どうせそんなことだろうと思ったよ。
『おまえら、仕事もしないで何をやっているんだ!もうとっくに昼食だ。早く戻ってこい!!』
Wハルヒが最後まで抵抗したようだが、青俺が全員まとめてフロアに連れてきた。
「ちょっとあんた!第九話が終わった段階で犯人の使ったトリックとその証拠が分かるようになっているんでしょうね!?最終話になってから新しい手がかりが見つかるなんて承知しないわよ!!」
「そんなことをしたら、誰も古泉にシャンプー&カットを体験できなくなるだろうが。午後は仕事に集中してもらうぞ?ビラ配りは異世界の方にまわってくれ。それより、有希や朝倉はもうとっくに解決しているんじゃないのか?」
「証拠なら分かった。でも、犯人が使ったトリックが不明」
「わたしもよ」
「この二人ですら分からないトリックなんてありえるんですか?」
「破天荒なトリックということだけは確かだ。それと第九話を明日から撮り始めるとなると、芸能プロダクションから俳優に来てもらうのが難しくなってしまう。今日依頼して、明日来てもらうなんて年末年始じゃなくても無茶だ。監督が最終回の撮影をすると言っている以上、最終回の登場人物は全員催眠で対応する」

 

 昼食も密室殺人のトリックや犯人たる証拠を考えているメンバーばかり。
「くっくっ、すっかり忘れていたよ。登場人物たちはどんな風貌なんだい?最終回の登場人物の内、三人は分かりやすいようにアニメやゲームのキャラクターの名前を使っているようだからね」
『三人!?』
「黄佐々木がシド・ハ○ウィンドを知っていたとは驚いたな。あと二つはどちらもアニメの主人公だからまだいいが……いや、片方は古泉たちには無理かもしれん。少女漫画だからな」
「でも、オープニング曲もかなり有名でしたし、放送された時間帯もゴールデンタイムでしたから知っててもおかしくないんじゃ?」
『フフン、あたしも知ってるわよ!異世界に迷い込んだ三人が魔法騎士として戦うなんて、あたしの追い求めていた世界観そのものだったわ!』
「女性三人のうちのいずれかということになりそうですが、どれも主人公の名前として出てきてもおかしくありません。一体誰が魔法騎士なんです?」
「獅○光がそうだ。魔法騎士レ○アースの主人公。終盤はエヴァ○ゲリオンのような巨大ロボットを操る……いや、ガ○ダムの方が近いか」
「どんなオープニング曲だったのか聞いてみたくなりましたね。残念ながら漫画のタイトルを言われても、何も思い浮かびませんよ」
「とりあえず、風貌だけでも見せるのなら影分身に催眠をかけてしまおう。古泉たちが知らなくて俺や青俺が知っている理由は愚妹がいたからだ。ダンス衣装のコンセプトの話じゃないが、セー○ームーンと同時期にやっていたからな」

 

 そこまで話しても、どちらの古泉も思い浮かばないとは……まぁ、古泉の方は仕方が無いか。青古泉たちや新川さん達を除く最終回に登場するメンバー七人が俺の後ろに情報結合して現れた。
「みくるも犯人の目星をつける良いヒントになるはずだから聞いておくといい。まず一人目は獅○光、少女漫画のキャラクターで原作では14歳と言う設定だが、21歳の大学生。髪型は原作と変わらずだ。水をかぶると女になる格闘家と同じ髪型だよ。二人目、一色沙弥華、眼鏡をかけているから一見高学歴に見えそうだが、中学でバスケ部、高校では剣道部に所属していたという経歴の持ち主だ。高校で剣道部に入った理由は中学でバスケをやっていたせいか身長が伸びすぎたから。要は頭を叩けば身長が縮むんじゃないかと言われて入部したが、更に伸びてしまった。大体俺と同じくらいの身長だ。三人目、齊藤平八、骨董屋を経営しながら裏では偽の絵画や骨董品を高額で売買している。見てのとおりメタボと判断されてもおかしくない体格だ。四人目、園部葉月、名前の通り八月生まれで葉月と名付けられた。フラワーショップで働いている小柄で手足の細い女の子だ。五人目、桜○花道、某バスケ漫画の主人公と同姓同名だが、身長を170cmとサバを読むくらい漫画とかけ離れている。本来の身長は168cm。六人目、服部三四郎、あの孤島の主人で齊藤平八同様、二年前のとある事件がきっかけで一気に大金持ちになった。脚本にも書いてある通りだ。こっちが桜○花道なんじゃないかと言う程身長も高くガタイもいい。今回のツアーの企画者がコイツにあたる。最後が、シド・ハ○ウィンド、ゲーム内では飛空挺の整備士だが、中古車の修理工場を営んでいる。外人で仕事のせいもあり、こちらも服部と似たような体格だ。以上七人が最終回の登場人物になる」
「分かった」
『えぇ――――――――――――――――っ!?』
「おそらく、最後に火を放つのもこのトリックをバレないようにするため」
「あんた、あの殺風景な部屋と登場人物の体格だけで分かったって言うの?」
「そう。ストーリーや設定のすべてにちゃんとした理由が存在する」
「ちょっと待った、これ以上ヒントを言われちゃ困る。今後、この件に関して有希は話さないでくれ」
「分かった」

 

「決めた!午後から第九話を撮るわよ!青新川さん達にも撮影に入ってもらうことにするわ!」
「では、夕食の支度は僕ですね。明日も同様になりそうです」
「古泉、すまないが、このあと天空スタジアムに影分身を一体目立つところに置いて欲しい。いくら昼でもリハーサルもある。閉鎖空間の条件を変えて天空スタジアムを透明にすることもあるだろう。1%あればそれで済むはずだ」
「了解しました」
「俺じゃ駄目なのか?黄古泉には電話対応や夕食の支度、クリスマスケーキ作りまであるんだろ?」
「青俺よりも古泉の方はスタッフも分かりやすいというだけだ。古泉が厳しいと言えば、青俺に催眠をかけて一体置いてもらうつもりだった」
「その程度のことでしたら、問題はありません。声をかけられたときに反応すればいいだけですからね」
「おっと、テレビ朝日のスタッフが入ってきたようだ。俺たちも早くビラ配りに向かおう。ハルヒには俺が化ける」
「それで、一体どのシーンから撮影を始めるというんです?」
「クルーザーに乗る前、青新川さんと園生さんが待ち構えているところから撮影するわ!キョン、エキストラを大量に用意して!」
「やれやれ、そのシーンが終わるまでは仕込み作業はできそうにないな。SOS団のリハには俺が五人に化けて出る。待っているだけ時間の無駄だ。影分身でいい」
「では、これにて解散!」
『問題ない』
フェリーに乗っている最中のシーンは無し。それ以外で時間を使いすぎるからな。最終話だけ一時間半なんてことも十分あり得る。閉鎖空間でその他大勢の人間を除外して撮影が始まった。

 

「いくら交通費を出してくれたとはいえ、こんなへき地まであたし達を呼び付けるなんて一体どういう神経してんのよ!フェリーで六時間なんてありえないわ!それに、これからどっちに行ったらいいのか分からないじゃない!」
『そうでもないようだ。クソジジイ自らお出迎えにきたようだぞ?』
「クソジジイって……あれか!あの女と一緒に立ってやがる!」
「よほど今回の犯罪計画に自信があるようね」
「ああ、あの女が言っていたことに注意しろよ?」
『アイツ等の素性は他の客にはバラさない、だったか?今頃向こうで裕が監視されていてもおかしくなさそうだ』
「当然、あたしたちの命も狙われることになるわね。気を引き締めていきましょ!」
青古泉達が青新川さん達の元へと近づいていく。それにしても妙だ。エンドレスに続いたあの二週間じゃあるまいし、一回しか見ていないのに古泉が「やあ、新川さん、お久しぶりです」なんて言っていたシーンがイメージとして浮かんできた。まぁ、圭一さんの死は芝居だと決定づけた古泉の失態でもあったからな。
「古泉一樹様ご一行でございますね。わたくしは執事兼料理長を務めております、新川と申します」
『料理長!?』
「このあと、皆様がお帰りになられるまでの食事はすべてわたくしがご用意させていただきます」
「(ちょっとあんた、こんな奴が料理を作るなんて、いつ毒を盛られるか分かったもんじゃないわよ!)」
「(それは心配ないわ。一樹君に挑戦状を叩きつけてまであたし達を呼んでいる。組織が作り上げた完全犯罪で勝負を仕掛けてくるはずよ。そうでもなきゃ、あたしたちはとっくに殺されているわ!)」
「(そのようだな。だとすれば、行った先にアイツも待っているはずだ)」
「君たちもツアーに参加するのかね?」
齊藤平八が青古泉たちの後ろから声をかけてきた。
「ええ、まぁ、あの……あなたは?」
「私は齊藤平八と申す者。骨董屋の経営をしております。あなた方は?」
「古泉一樹、美容院のトップスタイリストです」
「涼宮ハルヒ、ただのOLよ」
「朝比奈みくる、雑誌編集者をしているわ」
『俺はジョン、ただのフリーターだ』

 

「(ちょっと!雑誌編集者ってどういうことよ!?)」
「(刑事がツアー参加者の中に混じっているなんて知ったら、犯人の方が組織に殺されてしまうわ!組織の仕事はあくまで完全犯罪計画の立案。依頼人はあたしたちがこれから会う人の中の誰かってことになるわ。そして命を狙われる人間には相応の理由がある。とにかく今は流して頂戴)」
「なんだ、あんたも抽選で当たったのか」
「おお、これはシドさん。お久しぶりですな」
「この連中もツアー参加者ってことでいいのか?」
「お話し中のところ、恐れ入ります。すでに館の方で待っておられる方もいらっしゃいますので、自己紹介はそのときにされてはいかがでしょうか?あと、お二人いらっしゃったところで出発致します」
「ちなみに、その二人と言うのは……?」
「お二方とも女性で、獅○様と一色様と申されます」
『獅○!?』
「獅○って、もしかして短髪で後ろだけおさげの女のことじゃないだろうな?」
「わ――――――――――っ!!二人とも久しぶりだねっ!わたしの名前を呼ぶ声が聞こえたからこっちに来てみたけど、まさか二人がいるなんて吃驚だよっ!」
「あ、あぁ、久しぶりだね。相変わらず、明るいところは変わらんな」
「では、一色様が御到着次第出発致します」
「わたしならもうここにいるわよ?」
サングラスを外した直毛長髪の女が青古泉達に近づいていく。というより全部俺なんだけどな。
「一色沙弥華よ。宜しくね」
「では、皆様クルーザーの方にお乗りください。館のある無人島までご案内いたします」
青新川さんが運転席につき、ツアー客八人と園生さんが乗り込んだところでクルーザーが発進した。しばらくしてハルヒから『カット!OKよ!』というテレパシーが届く。これでようやくエキストラもお役御免。仕込みに戻るとしよう。

 

『じゃあ次はクルーザーに乗っている最中のシーンね!すぐそっちにテレポートするわ!』
『ハルヒ、舞空術でクルーザーを追うよりも、ステルスの条件をつけた閉鎖空間の方がいい。でないとカメラに俺たちが映りかねない。俺がみんなを連れて行く』
『しかし、少女漫画の主人公とは聞いていましたが、ここまで明るいキャラクターなんですか?鶴屋さんを見ているようですよ』
『ジョンのリクライニングルームにもDVDを置いた覚えがある。それで確認してみるといい』
『声までそのままだとは思わなかったわよ!さすがにまずいんじゃないの!?』
『まさかとは思いますが、桜○花道もアニメと同じ声なんてことはありませんよね?』
『第九話が放送される頃には、年越しパーティや日本での披露試写会で俺が声帯を弄れることを見せた後だから心配いらん。ジョンにもフ○ーザの現実化した姿の催眠をかけることになるからな』
『その桜○花道って奴の声はどんな声なんだ?』
『え――――――――――――――――――っ!?あんた知らないの!?』
『どうやら俺の良く知る声優ってことらしいな。あとで聞いてみて確かめよう』
『いや、俺も最初はまったくの別人だと思っていたくらいだからな。多分気付かんだろう』
『フ○ーザの声優は知ってたのに?』
『あれは、ジョンがアフレコを拒否しようとしたのを俺が止めたんだ。科学者役がフ○ーザの声優だって言ってな』
『そういうことだったんですね。わたしもようやく納得できました』
『みくるちゃん!そんなことより、犯人が誰か分かったの!?』
『それをみくるに言う前に、おまえが窓ガラスが割れなかった理由を述べてみろ!』
『ぐっ……考えておくわ!』

 

 俺たちがクルーザーに追いつくと、青新川さんがクルーザーを再度動かし始めて撮影が再開。
『しかしあのジジイ、料理もクルーザーの運転もできるとは意外だな。そんな奴がどうしてこんな組織のボ…』
『あ――――――――――――――――っ!!』
「カ――――ット!いきなり何よあんた!影分身全員で叫ぶんじゃないわよ!!」
「すまん!だが、これはさすがにNG集には入れられん。新川さんがクルーザーの運転をしているところは何度も見たが、青新川さんまで運転できるとは予想外だった!」
「そんなの、サイコメトリーに決まっているじゃない!」
「いえ、我々の差異を確かめているときに青チームの新川も免許を持っているとのことです。サイコメトリーは使ってはいません」
『免許を持ってる!?』
「本社の社員たちも吃驚するでしょうね。僕もサイコメトリーで運転しているものとしか思いませんでしたよ」
「とにかく、撮り直しよ、撮り直し!そこまで進んでないし、ここからのスタートでいいわ!」
再び海の上を走り出したクルーザーでtake2スタート。
『しかしあのジジイ、料理もクルーザーの運転もできるとは意外だな。そんな奴がどうしてこんな組織のボスに成り下がったんだ?』
「馬鹿!声が大きいわよ!」
『心配はいらない。聞こえても精々あんたくらいだ。普通に話すくらいなら風で声が届かない』
「それより姉ちゃん!先に館についているツアー客ってのはどんな奴なんだ?」
『ほれみろ、あれだけでかい声を出して、ようやく俺たちにも聞こえるレベルだ。あの女には聞こえていない』
「………、……………」
「え―――――――――――葉月ちゃんにも会えるのっ!?楽しみだな~♪桜○君も、身長が伸びてるといいんだけどっ。ふふっ」
「おい君、まさかとは思うが館の主というのは……」
「………………」
天真爛漫の少女は「これで全員揃うんだね!!」と喜び、あとの二人は表情を曇らせるどころか、顔色が悪いくらいだ。下を向いて何も喋らなくなった。
「朝比奈さん、『全員揃う』って……」
「ええ、この前の事件と同じようね。何かはまだ分からないけど、館の主も含めてミッシング・リンクで繋がっていることに違いないわ。久しぶりというのがどのくらいかまでは分からないけど、多丸警部に連絡をって……圏外!?一樹君、あなたの携帯借りてもいいかしら?」
「駄目だ、俺のも圏外だよ。おそらく、ハルヒやジョンの携帯もそうだろう」
「これから行く館の電話線も切られているでしょうね。クローズドサークル……このクルーザーが壊されでもしたら孤島から出られない」
「じゃあ、あいつらの目的もそれか!?」
「いいえ、そうとは限らないわ!あの孤島でしか出来ない計画だってことも考えられる。とにかく、今あたし達のやるべきことはこれから起こるであろう事件を未然に防ぎ、早急に解決することよ!」
「上等だ!あのジジイの鼻っ柱をへし折ってやる!」

 

 クルーザーのシーンはここで終了。音声の方も「問題ない」と有希から返ってきた。時間ももうそろそろか。次のシーンを撮影して終了だな。疲れているシーンを取るにはタイミングがいい。
「え――――――っ!こんな山道を登るの!?もう疲れたわよ……一樹、あたしの荷物持ってくれない?」
「ったく、しょうがねぇな。一つだけだぞ」
普段の青古泉なら青ハルヒの荷物全部背負った上に、それすら嬉しいと感じるだろうな。
「しっかし、抽選に当たったのはいいけどよ、こんな冬の時期に孤島に来たって泳げもしないぜ。せいぜいあそこにあるネットを使ってビーチバレーってところか?」
「ビーチバレー!?面白そうだねっ!後でみんなでやろうよっ!」
「私は館でゆっくりさせてくれ。若者同士で楽しんできたまえ」
「悪いが、俺もそんな気分になれそうにねえんだ。そこの五人を誘ってみたらどうだ?」
「わたし、獅○光っ!正式な自己紹介はみんなが揃ってからにするとして、バレー経験のある人いるかなっ?」
「あたしは中学も高校もソフトボール部よ」
「俺は帰宅部、こっちのジョンもそうだ。そういや、朝比奈さんは?」
「あたしも似たようなものよ。ミステリー小説に興味があったくらいかしら?」
「えぇっ!?じゃあ、この前のあのバッティングの説明がつかないわよ!ほとんど打ち返していたじゃない!」
「ストレスが溜まったときはバッティングセンターで憂さ晴らしをしていただけよ」
「わたしは中学まではバスケ部。でも、身長が伸びすぎちゃって、高校では剣道部に入部したわ。頭を叩かれていれば縮むかと思っていたんだけど、縮むどころか更に伸びてしまったわよ」
「わたしも中学から剣道やってるんだっ!桜○君もバスケ部だし、全員初心者ってことで皆でバレーしないっ!?」
『普段はバイクにばかり乗ってるんでね。荷物を置いて一休みしてからだな』
「じゃあ、それで決まりっ!葉月ちゃんも呼んで四人対四人の勝負だねっ!」
移動中の会話はここまで。しばらく歩いているところでハルヒから「カット!」と声がかかった。俺の影分身はいいとして、他のメンバーは疲労困憊。「カット!」の声と同時に荷物を降ろしていた。

 

「そろそろ夕食だ。今日はここまでにしよう」
『ちょっと待った。キョン、例の奴の声を聞かせてくれ』
「それなら夕食のときにアニメを流して見せてやるよ。獅○光の方も見せる必要がありそうだからな」
影分身を解除して本社へと戻ると、青俺が観客を敷地内に入れ始めていた。リハーサルでの内容を五人に手渡して全員が出揃った。
「じゃあ、さっきジョンや古泉たちが気にしていたアニメを見せる。短時間だが、ほぼそのまま再現しているのが良く分かるはずだ」
まずは魔法騎士レイ○ースの方から。青みくるが言っていた通りオープニング曲はかなり有名だからな。W古泉がこれで気付くかどうかだ。子供たちも自分の知らないアニメを眼にして箸が止まっていた。
「あっ!イントロで分かりました。確かにこの曲には聞き覚えがあります。しかし、このキャラクターをよくあそこまで再現できましたね。アニメの世界観がそのまま現実化したようなものです」
「くっくっ、そんなの、今に始まったことでもないじゃないか」
「でも、技は使ったことはあっても、催眠をかけてそのキャラクターになりきることは無かったような気がするけれど……キョン、キミは身に覚えがあるかい?」
「声だけなら声帯を変えて真似たことがあるが、姿まで変えたことは無かったと思うぞ」
「どうやら口調や性格まで忠実に再現したようですね。鶴屋さんのようだと思っていましたが、こういうことでしたか。明日には涼宮さんが『ハルヒちゃん』と呼ばれかねません」
「撮影の方はどこまで進んだのか聞かせてもらえないかね?」
「フェリーを降りた直後から屋敷に着く前までってところね。明日には事件が起こるシーンも撮影したいんだけど、園生さんがフロントでチェックインの応対をしないといけないし……」
「それなら俺の影分身で応対する。黄俺の分も俺がやる。チェックインを終えてからライブの観客を入れれば済む」
「あんたも随分頼りがいがあるようになったわね。どうしちゃったのよ?」
「黄俺が言っていただろう?何事も修練だよ。大分数を増やせるようになっただけだ」

 

 古泉たちが納得したところで放映を止め、某バスケ漫画に切り替えようとしたところで子供たちに止められた。
『あ――――――――――――っ!わたしが見てたのに!!キョン(伊織)パパ、続き見せて!』
「じゃあ、今日は幸のママと一緒にお風呂に入ってから見せてやる。青有希、99階を使って構わないから見せてやってくれるか?DVDは用意しておく」
「問題ない」
「それと、明日以降の撮影で必要になってくる小道具を用意しなくちゃならん」
『小道具!?』
「建物はジョンが改装してくれましたし、凶器も有り余るほど用意されています。これ以上、何を用意するというんです?」
「新川さんの料理だよ」
『なるほど!』
「もしかしたら今日必要になるかもしれないと思って、日本代表に出すディナーとほぼ同じものを作っておいたんだが、その前で時間がきてしまった。ただ、登場人物のうち七人は俺の影分身、それに加えてジョンもいるから、八人分の食事が無駄になる。誰か代わりに催眠をかけた状態で演じてくれないか?」
「だったらあたしも役者になるわよ!」
「問題ない。わたしも入る。カメラワークは任せて」
『僕も入れてくれたまえ』
「明日は報道陣からの電話も少ないだろう。私も入れてくれないかね?」
「そうなると、僕が人事部に向かわなくても済みそうです。僕も行くことにしましょう」
「その後のビーチバレーのシーンはこっちの朝比奈さんになりそうだし、明日の午後はビラ配りができそうにないわね。わたしと朝比奈さんも入れてもらえないかしら?」
「えっ!?でもジョンはそのまま撮影に入るんですよね?わたしは何をしたらいいんですか?」
『食事時だけ俺に見える催眠をかけてくれればいい。それより、バスケ漫画をアニメ化したものを見せてくれ』

 

 俺たちにとっては懐かしのメロディだな。この漫画一つからどれだけの名言が生まれたことか……
「オープニング曲が流れている間に確認をしておく。今立候補した八人には撮影時に出された料理を完食しないといかん。Wハルヒや有希なら大丈夫だろうが、それ以外のメンバーは昼食を食べてから撮影に向かうと、満腹で苦しいと表情にどうしても出てしまう。昼食を抜くか、軽食で済ませるか決めて欲しい。どうする?」
『あたしは二食分でもいけるわよ!』
「問題ない」
「僕は軽食を……と思っていますが、圭一さんはどうします?」
「私もそうさせてくれないかね?」
「なら、僕たち五人分の軽食を用意してもらうってことでいいかい?」
「では、軽食と夕食は明日の午前中のうちに僕が作っておきましょう。昼食は五人分抜くということでよろしいですか?」
『問題ない』
「それで?ジョンは誰の声か分かったのかい?もう十分この声を聞いただろう?」
『駄目だ、さっぱり分からない』
「おいおい、ジョンまで明日の夕食時までの課題にするつもりか?」
「これ以上は俺の思考が伝わってしまいかねん。答えを言ってしまうがいいか?」
『ドラ○ンボールのキャラクターのうちの誰かで間違いないはずなんだが……降参だ。誰のことなのか教えてくれ』
「超サ○ヤ人は孫○空さん一人じゃない。ここにもいたってことだ」
このキャラの名ゼリフと言えばこれしかないだろう。声帯を変えて答えを提示したからさぞ悔しいだろうな。
『あ―――――――――――――――――――――――っ!!未来の方を忘れていた!』
「小さい方も同じ声優さんだぞ」
『何!?すぐに確認してくる!!』

 

「くっくっ、ジョンでもああやって叫ぶことがあるとは知らなかったよ。子供たちと同様、アニメを見ることになりそうだ。自由気ままに過ごしているのが羨ましくなったよ」
「俺たちは俺たちで、この後は楽しみが待っている。料理人冥利に尽きるってヤツだ。スーパーライブもディナーもより優雅にいくとしよう」
『問題ない』

 
 

…To be continued