500年後からの来訪者After Future7-6(163-39)

Last-modified: 2016-12-07 (水) 17:38:25

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-6163-39氏

作品

密室殺人の真相を暴くべく、最終回の撮影が前倒しで行われることとなった。こんな時期に芸能プロダクションにドラマ撮影の依頼をしたところですぐに来れるはずもなく、青古泉たち以外の登場人物は全員俺の影分身で演じることになった。だが、ジョンも含めて、影分身では新川さんの料理が無駄になると説明。総監督、脚本家、カメラマンまで催眠をかけて出演することに。報道陣の悪行を公開したことで金曜日も電話はあまり来ないだろうということになり、圭一さんや古泉も撮影に参加することになった。日本代表の今年最後のディナーもあとは厨房で火入れをするのみ。天空スタジアムでのスーパーライブもいよいよ幕が上がった。

 

「今回のディナーが今年最後になります。存分にお楽しみください」
古泉のその一言で一品目が運ばれ、その豪華な品にOGがスマホで撮影。他の選手も持ってくれば良かったと後悔していた。豪華さと『今年最後のディナー』ということもあり、日本代表チームもゆっくりと食べ進めていた。その間も異世界の本社を使って、コンサートライブの打ち上げと忘年会の料理の準備。どちらも俺は催眠状態で参加し、会の進行や乾杯の音頭は副社長の古泉が取ることになる。心配しているのは、他のメンバーなら口止めしておけばそれでいいのだが、鈴木四郎の催眠をかけた俺に対して、子供たちが『キョン』と呼んだり、『パパ』と呼んだりしないようにさせること。なるべく子供たちとは離れた位置で会を見守るつもりではいるが、三人……特に双子の方から俺のところに寄って来そうだからな。三品目を運んだところでようやく生放送が始まった。SOS団やENOZは終盤に差し掛かった頃に出番が回ってくる。スタッフがどういうやり方でアーティスト達の順番を決めているのかは謎だが、観客や視聴者が飽きさせないように組んでいることに違いない。今も三回のホールスタッフはENOZ四人が担当し、ハルヒ達はスキー場のレストランで切り盛りしている最中。休日とはいえ料理長のおススメは無いし、青有希がいなくとも青OG達と俺の影分身でどうにでもなる。リハーサルに出ていたのが俺だからこそ、スカ○ターで様子を見ながらハルヒ達に合図を送ることができる。もっとも、スーパーライブ終盤ならレストランもそこまで忙しいことは無いはず。ディナーの方もラストのデザートが出ている頃だ。厨房の冷蔵庫の中にはチョコソースでMerry Christmas&Happy New Yearと書かれた皿が人数分用意されていた。
『そろそろ出番だ。SOS団とENOZは他のメンバーと交代して天空スタジアムへ急げ』
『問題ない』

 

 しかし、毎年思ってはいたことだが、よくもまぁ演奏しながらスタジアムを回っていられるもんだ。口パクでダンスを踊っているアイドルグループは今に始まったことじゃないが、演奏の方ももしかすると指だけ動かしてギターは弾いてないのかもな。
「続いてはSOS団です」
『よろしくお願いします!』
「今年一年を振り返ってどうだった?」
「そうですね……バレ―は勿論、あたし達だけでドラマを撮影したりなんてこともあったんですけど、スキー場の運営で始まってスキー場の運営で終わりそうです」
「今も撮影している真っ最中だと思うけど、みくるちゃん撮影の方はどんな感じ?」
「ほとんど撮り終えてはいるんですけど、編集して出来上がったのを見るのが楽しみで仕方がありません。ドラマの中で流れる曲もENOZが作ってくれて、古泉君のテーマ曲もあるくらいです。それに、『飛行機に乗っている最中は暇だから』ってキョン君が最後の二つの事件のストーリーやトリックを細かいところまで考えてくれました。最後の密室トリックは解決編がまだ白紙の状態で、有希さんしか解けてないんです」
「どんな密室トリックなのか俺も見てみたくなってきた。前回のように下着の宣伝もするの?」
「大分慣れはしたんですけど、一話毎に何回もランジェリーが見えてしまうシーンがあって……正直まだ恥ずかしいです。宣伝するためなのは分かっているんですけど、あんまりまじまじと見ないでくださいね」
「それじゃあ、スタンバイお願いします」
『古泉君のテーマ曲もある』という一言に女性ファンが黄色い歓声を上げ、みくるが初めて自分で発言したときと同様、『あんまりまじまじと見ないでくださいね』の一言で男性ファンが興奮している。
「それにしても、飛行機の中でストーリーやトリックを考えていたなんて意外だったね~」
「はい、キョン社長が考えた事件を私も解いてみたくなりました。それでは、SOS団で今年大ブレイクした初のバラード曲です。どうぞ」

 

 照明があたる頃には、青みくるを隠すように翼が情報結合されており、羽を開いて青みくるが宙に浮いているところから演奏がスタート。午前中に情報結合で用意した通路も使わず、天空スタジアム内を自由に羽ばたきながら青みくるが歌っている。視線は青みくるに集中していたが、両耳では美声に酔いしれている姿が伺えた。ディナーを終え、皿の片付けはOG達の担当。一旦81階に戻った俺たちの目の前に、青新川さんの料理が用意されていた。
『みんな、青新川さんが料理を用意してくれた。81階に集まってくれ。軽く打ち上げにしよう』
『問題ない』
「天空スタジアムの方は大丈夫なの?」
「心配いりません。スタッフが片付けを終えて本社を出た段階で、明日のコンサートライブ仕様に切り替えます。僕の影分身がついていますのでお気になさらず」
「それにしても、向こうからもいい匂いしているわね。あんたあっちの本社で何作ってるのよ?」
「ああ、今は野菜スイーツだ。何せ300人だからな。食べ放題のときのざっと倍の量ってところだ」
『食べ放題のときの倍!?』
「ただでさえ種類が豊富だというのに、いくら影分身でも間に合うんですか!?」
「量が増える分には大した労力は必要ないんだが、オーブンが足りずに何台も情報結合する羽目になってしまった」
「仕込みのことで思い出しました。例のクリスマスツリーに見立てたケーキの情報をいただいてもよろしいですか?忘年会の方も手伝わせてください」
「なら、これを頼む」
野菜スイーツや鉄板料理、カレー、クラブハウスサンドは俺が作ることにして、それ以外のビュッフェ用料理を古泉に頼んだ。エレベーターが空いて青有希と子供たちが降りてきた。アニメが一区切りついたところで降りてきたらしいな。

 

『キョンパパ!ケーキ?ケーキ?』
こいつらも匂いに敏感な奴等だな。どこ○もドアの向こうで作っているケーキの匂いに気付いたらしい。
「ケーキが食べられるのは何日だったっけ?」
『25日!!』
「もうちょっとの辛抱だ。それまで待てるか?」
『あたしに任せなさい!』
「おい、有希!おまえもか!?どこからカレーの匂いを嗅ぎつけたんだ!?」
「もはや超能力と言ってもおかしくなさそうだ。遮臭膜を三重に張っても破られそうでならん。カレーを煮込んでいるのは異世界支部の三階だぞ!?」
『異世界支部の三階!?』
「どこ○もドアが無かったら、わたし達の世界とつながってすらいないのに……有希さん、一体どういう嗅覚しているのかしら?」
「あんないい匂い、一度覚えたら二度と忘れられない。黄キョン君、一皿だけでいいから食べさせて」
「青有希が食べたら有希も黙っちゃいないだろうし、おまえらの一皿は米が一升あっても足りん。忘年会まで我慢してろ!カレーだけは先に食べておくように、古泉に諸注意として言ってもらわんとな」
子供たちも青有希も自席を通りすぎ、どこ○もドアに頭を潜らせて匂いだけでカレーとケーキを味わっている。
「どうやら、そうせざるを得ないようですね」
「待たせたわね!!」
「おう、五人ともライブお疲れ様」
「ちょっと!あんたでしょ!?青みくるちゃんにコメントの内容吹き込んだの!!」
「ああ、俺で間違いない。とりあえずその話は後だ。さっさと乾杯しようぜ」

 

 半ば強引に青有希と子供たちを席に戻してドアを閉めた。異世界と繋がってはいるから、誰が開けても何ら支障は無い。全員に飲み物が渡ったところでハルヒが乾杯の音頭を取る。
「それじゃ、今日一日の撮影、ライブ、ディナーお疲れ様でした!乾杯!!」
『かんぱ~い!』
「ああ、そうだ。忘れないうちに伝えておく。青有希、双子は明日まで保育園に行くことにして、来週以降、小学校の冬休みが終わるまで休みにしたい。連絡を頼めるか?」
「分かった」
「それと、青俺がフロント対応する分、明日のコンサートライブの警備と案内は俺が付く。撮影の方に影分身を使う必要が無くなったし、忘年会の料理は古泉にもある程度頼んだからな」
「それはそうとあんた、さっきの件答えなさいよ!」
「言われてみれば、スカ○ターでスーパーライブを見ていたのはあなただけでしたね。青朝比奈さんにどんなコメントを頼んだんです?」
「頼んだという程のものでも……いや、後半は頼んだようなものか。撮影の進捗状況は青みくるは知らないからその情報を伝えておいたのと、ENOZが古泉のテーマを作ったこと、俺が秘密裏に戻っているんじゃないかという報道陣の疑惑を払拭するために、飛行機に乗っている最中に二つの事件のストーリーとトリックを考えたとコメントしてもらった。解決編がまだ白紙とも伝えたし宣伝には充分だろう。あとは一話毎にランジェリーが見えることを伝えて、みくるのときと同様『あんまりまじまじと見ないでくださいね』と言ってもらっただけだ」
「えええぇぇ―――――――っ!!キョン君、青わたしにそんなことお願いしていたんですか!?」
「問題ない、ランジェリーの告知もドラマの告知も十分すぎるくらい。PVについては次回依頼が来たときでいい」
「古泉のテーマ曲があるとコメントしたときは女性ファンが黄色い歓声を上げていたくらいだ。ところで有希、それにENOZの四人にも関係してくるかもしれないんですが、ドラマの中で使う曲にバイオリンで演奏するものを作曲してみたらどうかと思っているですけど、どうです?第四話までは披露試写会として全員で見ましたけど、まだ編集で加えたり削ったりできます。アニメの話をしていたときに思い出したんですよ。愚妹と一緒にセー○ームーンを見せられていた頃に、ウ○ヌスとネ○チューンの変身シーンや登場シーンで聞いたバイオリンの曲が凄くカッコ良かったのを」

 

 セー○ームーンと聞いて、俺の話を聞いていたらしきOG達が話に割り込んできた。
「あ――――――っ!私も黄キョン先輩と一緒です!あの曲もウ○ヌスも超カッコ良かったです!!」
「そうね。あの曲は私もいいと思った。耳コピでギターで弾いてたこともあったな」
「どうやら、女の兄弟がいるとそういう面にも詳しくなるようですね。どんな曲なのか聞かせていただけませんか?有希さんもおそらく知らないでしょうから」
「動画サイトで検索すればすぐにでも出てきそうなもんだが……まぁ、いいだろう。ジョンのかめ○め波同様、俺もいつかウ○ヌスのあの技を放ってみたいと思っていたんだ」
『そいつは面白そうだ。どんな技なのか俺も見てみたい』
「くっくっ、まさかとは思うけれど、例のカレンダーにSOSと刻む日にあの技を使うつもりじゃないだろうね?」
「あのイベントと関連する内容なんですか?」
「まぁ、見れば分かるだろ」
巨大スクリーンに映し出されたのは二人がスティックを構えたシーン。曲が流れだし、二人が変身するシーンと決め台詞を吐くシーン、必殺技を放つシーンの映像が流れた」
『なるほど、エネルギーを掌に一点集中させて放つのか。確かに合理的だし、俺もカッコイイと感じる』
そうだろう、そうだろう。
「技の名前がそのまま例のイベントにつながりますね。それにあなたが推薦した理由も良く分かりましたよ」
「やっぱりこっちのセー○ームーンの方がいいな。今放送している方はキャラクターに個性がないっていうか…」
「そうそう、セー○ームーン以外みんな似たような声にしか聞こえないんだよね!」
『キョンパパ!わたしも変身してみたい!』
「じゃあ、変身してどんな感じになりたいのか考えておけよ?」
『問題ない!』

 

「それで……どうです?案としては」
「作曲は可能。取り入れるのも悪くない。でもどのシーンで使うかが問題。古泉一樹のテーマも既に出来上がっている以上、使いどころがほとんどない。彼のテーマ曲が引き立たなくなってしまう」
「うーん……有希さんの言う通りになるかな。作ってみたくはなったけど、使いどころに困りそう」
「作曲家が揃ってこう言っている以上、総監督として認められそうにないわね。それよりあんた、自分で自分の催眠をかけなさい!」
「はぁ?自分で自分の催眠ってどういうことだ?おまえ、こんなに早い段階で酔っ払う奴だったか?」
「みくるちゃんが言っていたでしょうが!あんたのその眼のクマを隠しなさいって言ってるの!」
手鏡で自分の顔を確認する。酷くなっているわけではないが、ハルヒの言う通りこのまま撮影に参加するわけにはいかないか。みくるや古泉はダウンしているが、周りのメンバーも俺のクマのことで心配してくれているようだ。
「分かった。俺自身の催眠をかけて撮影に参加するよ」
「あっ、んー…でも駄目か」
「どうかしたの?貴子」
「明日や明後日のライブじゃ著作権が絡んでくるだろうから無理だけど、有希さんがプリ○ュアをコンセプトに作った衣装を貸してもらえないかなぁって。スマイルプリ○ュアのオープニング曲をライブでやってみたいんだ。ギターアレンジもいいし、ノリの良い曲だから一度やってみたいなぁって」
さすがにそこまでは俺も分からんな。どんな曲なんだ?
「とにかく、それも聞いてみた方が早そうだ。中西さん、俺にその曲をイメージして触れてもらえますか?」

 

 関を立った中西さんが俺に触れる。なるほど、アニメのオープニングではショートバージョンだからカットされてそうだが間奏のギターはかなりのものだ。疾走感もあるし悪くない。すかさず巨大スクリーンに映し出した。
「Super Driverと一緒で皆で歌う必要があるから、わたし達四人にできればハルヒさんにも入って欲しい」
「面白そうね!著作権の問題が解決したらやりましょ!こんな爽快感のある曲だとは思わなかったわよ!」
「問題ない。著作権についてはわたしが申請しておく。念のため、ドラマの方も含めて。ライブではENOZとあなたが着て、TVに出演するときはわたし達五人で踊る。ライブに来た人にしか聞けないし見ることができない」
アニメの放映ばかりしていたから、酔い潰れたのもみくると古泉のみ。話の区切りがついたところで解散となった。
 翌朝、新聞記事の一面は天空スタジアムで行ったスーパーライブのことばかり。今日から三日間はどうするつもりなんだか。ホテルの方にはハルヒと俺の影分身と青OG三人が向かっている。青俺がフロントに立つのは午後からだし、忘れないうちに午前中からSPを配置しておけばいい。
「それで、誰がどの役を演じるか決まったのか?」
「まだ、希望すら誰も出していないのですが、メンバーを考慮すると、僕がシド・ハ○ウィンドになりそうです」
「くっくっ、面白そうだ。こっちの古泉君の野球のスターティングメンバーじゃないけれど、キミの采配を教えてくれないかい?誰がどの役をやるのか聞かせてくれたまえ」
「そうですね……獅○光役をハルヒさん、一色沙弥華役を青朝倉さん、齊藤平八役を青朝比奈さん、園部葉月役を有希さん、桜○花道役を青佐々木さん、服部三四郎役を圭一さん、シド・ハ○ウィンド役が僕、最後にジョン役を佐々木さん。これでいかがです?」
「また私が館の主人役か。初めてハルヒさんと玄関先で対面したのを思い出したよ」
「演技慣れしている朝比奈さんを中年男役にってことになるな。黄ハルヒは明るさの面ではそのまんまだ」
「くっくっ、面白いじゃないか。僕がジョンの役をやるのかい?以前にも僕の真似をされたことがあったからね。存分に真似させてもらうことにするよ」
「午後から撮影する以上、SOS団はリハーサルをしている暇は無いが大丈夫なんだろうな?」
『問題ない』

 

 打ち合わせ通り、SPは午前中から俺の影分身で対応し、古泉は青新川さんの横で撮影メンバーの軽食作りと夕食の支度、ENOZは最後の音合わせをレコーディング用のフロアでやるそうだ。午前中のうちに明日の打ち上げ用の料理もできた。あとは古泉の作ってくるケーキを待てばいい。もう始めてはいるが、明日からは忘年会の仕込みになりそうだな。軽食&昼食を食べ終えると、撮影メンバーを連れて孤島へとテレポート。総監督によると、館に到着する前から撮影を開始するらしい。まぁ、どの場面でもほとんど全員参加だからな。
「はぁ、はぁ……もう歩けそうにないわよ」
「個室に入ったらしばらく休んでいればいいわ。あたしと一樹君は建物内をチェックしてまわるから」
「おいおい、勘弁してくれよ。俺はハルヒの荷物も持っていたんだぞ!?少しは休ませてくれよ……」
「あなたのサイコメトリーで屋敷内のものに触れてまわるのよ!先に館の内部にいる人間が何か仕掛けているかもしれないわ!」
『たとえそうだとしても、アイツがとっくに情報を書き換えているはずだ。やるだけ徒労に終わる。精々、この館の見取り図と誰がどの客室で寝泊まりするかをチェックする程度に留めておいた方がいい』
「あんた、いつの間にそんなに頭が切れるようになったのよ?」
『なぁに、俺もあのクソジジイ達との勝負に挑みたくなっただけだ』
「それでは、館の主を呼んでまいります。こちらで少々お待ちくださいませ」
「えっと、獅○さんだったかしら?あなた達も抽選でこのツアーに参加したの?抽選で当たったにしては随分と知り合いが多いみたいだけど、どんな関係なのか、もしよかったら聞かせてもらえないかしら?」
「光でいいよっ!さっき、朝比奈さんって呼ばれていたよねっ!?下の名前はなんて言うのっ!?」
「みくるよ。朝比奈みくる」
「じゃあ、みくるちゃんって呼んでもいいっ!?」
「ええ、いいわよ」
ようやく玄関の扉が開き、青新川さんと服部三四郎に化けた圭一さんが現れた。みくるの表情が曇っている。一番情報が引き出せそうな奴から色々と聞こうとしたところで遮られてしまったからな。しかし、事情を聞くのならクルーザーから降りてすぐに話しかければ良かったはず。……なんて解説したところですべて俺のシナリオ通りだ。

 

「これはこれは、お揃いでようこそ。この館の主の服部三四郎と申します。長旅でお疲れでしょうから、どうぞ中に入っておくつろぎください。部屋はどこを使っても構いません。ちなみに、入って右奥の和室は私の部屋になっておりますので予めご了承ください。部屋が決まり次第、ここにいる新川と森にお申し付けください。部屋の鍵をお渡し致します。もう一名、メイドがおりますので、その者に声をかけていただいても構いません」
「こんな館に和室があるなんて驚きだぜ。服部さん、あんたの趣味か何かか?」
「例の事件以来、高所恐怖症になってしまいましてね。私の部屋だけは他とは別になっております」
「他とは別ってどういうことっ!?この建物にテーマのようなものがあるのっ!?」
「入っていただければ、おわかりになるかと思います。ささ、皆様もどうぞ中へ」
館の主に促されて中へと入っていく。青ハルヒも青古泉に渡していた荷物を自分で持った。
『なっ!?』
「何よこれ!?エントランスだけで、何でこんなに武器がたくさんあるのよ!?」
「凶器は選び放題ってわけね」
『ここまで堂々と置かれているとはな。逆に清々しいくらいだ』
「ねぇねぇ!もしかしてさっ!服部さんの和室にも武器が置いてあったりするっ!?」
「なるほど、西洋の剣だけでなく日本刀も置いてあるということですかな?」
「これは驚きましたな。お二人の仰られた通りでございます。確かに、私の部屋には日本刀が飾られております」
「だが、どうしてこんなに武器だらけなんだ!?説明しろ!!」
「まぁまぁ、シドさんもおさえて。光さんの言う通り、この館には何かテーマのようなものがあるようですから、それを聞いてみようではありませんか。服部さん、それでよろしいですかな?」

 

「コホン、では、お疲れの方もいらっしゃるようですので手短に。この館はヨーロッパで起きた事件の舞台となった館をほぼそのまま再現したものです」
「面白そうね。ジャーナリストとしては是非聞いてみたい事件だわ」
「(あの一色さんって人、ジャーナリストだったの?)」
「(そうらしいな。とりあえず、その話はあとだ)」
「今からおよそ40年前、この館と同じ建物で政財界の著名人を集めたパーティが催されたのです。ですが、その実態はこの館の本当の主が盗んできた財宝のオークション会場になっておりました。オークションが順調に進んでいた頃、寒い雪の中を歩いて館に辿り着いたという二人の男が現れました。支配人もオークションのことは知っておりました故、二人の男を招き入れることを拒もうとしていました。そこへ男の一人が支配人に一本の葉巻を渡したそうです。それを吸ってしばらくすると、支配人の表情が一変して明るい笑顔で二人の男を迎え入れました。男たちはオークション会場にいた著名人達にもその葉巻を渡し、会場全体に煙が充満していった。それからしばらくの間、客たちは陽気なバカ騒ぎをしておりましたが、そのあと様子が変わっていったのです。ある男は周りの人間を見て悲鳴をあげ、『来るな、近寄るな』と騒ぎだし、ある女は何かに許しを請うようにさめざめと泣き始めました。そしてまたある男は自分の手をペンで突き刺した。やがて、盗品や財宝の奪い合いが始まり、オークションの品として出品されていた武器を手に取り殺し合いを始めました。オークション会場は地獄と化したのです。そして翌朝、オークションに出品されていた武器や財宝と一緒に、二人の男は姿を消してしまったという逸話です」
「ということは、ここにあるものはそのオークションとやらで出品された武器のレプリカってことか?ハッ、笑わせてくれるぜ!!そんな事実かどうかも分からないような昔話に付き合っているほど俺は暇じゃないんだ。部屋が決まり次第、そこにいる執事やメイドに言えばいいんだったな。俺はこっちにするぜ」
館の主とは関わり合いたくないとばかりに入って左の廊下へ歩き出したシド(古泉)を服部(圭一さん)が止めた。
「シドさんの仰る通り、ここにある武器はすべて、あの逸話をにして私の想像で作ったもの。だが、レプリカとはいえひとつ残らず本物です。私の部屋にある日本刀を含めてね」
『本物!?』
「馬鹿な!一つ残らずだと!?あんた一体何をおっぱじめようって言うんだ!!その逸話とやらの再現を俺たちにやらせるつもりか!?」
「その逸話を元にこの館を作ったってだけでしょ?折角こんなところまで来たんだから楽しまなきゃ!それとも、その逸話の再現が本当に起こるかもしれないとでも思っているのかしら?大の大人が聞いて呆れるわね。部屋は好きに決めてもいいんでしょ?わたしは二階にさせてもらうわ」
「クソッ!!」

 

 窓を本気で叩いたシドに青古泉たちの視線が集まる。
『あれだけガタイの良い男が本気で殴ってもヒビ一つ入らないってのはどういうことだ?』
「私も年中ここにいるわけではありません。この孤島を見つけて、ここで寝泊まりしようとする連中がいるので、窓はすべて超硬化ガラスを使用しております。ここに武器が飾ってあるのは、そんな輩を撃退するためでもあるのです」
「へ~っ!そうだっ!服部さん、葉月ちゃんや桜○君はどの部屋にいるのっ!?」
「彼らなら二階の部屋のどこかだったはずです。ここにいる森に調べさせましょう。長旅で疲れているようでしたから、休んでいるはずです。夕食の時間には食堂に現れるでしょう」
「それは残念っ!折角三階まであるんだから、みんな三階にすればいいのにさっ。みくるちゃん達はどうするの?」
『俺はどこでも構わない』
「一樹と同じ部屋だったら、あたしはどこだっていいわよ!」
「おまえ、何もこんなところに来てまで一緒にいなくてもいいだろう?」
「こういうところだからこそ一緒にいたいって言ってるの!」
「だったら、わたし達も三階でどうかしら?光さんとさっきの話の続きもしたいし」
「じゃあ決まりだねっ!みんなで一緒に行こうっ!!」
青古泉達がエントランスホールの階段を昇っているところで、服部が口を開いた。
「ほっ、本当にこれで命だけは助けてくれるんだろうな!?」
「ええ、指示に従っていただければ、『我々は』一切あなたに危害を加えることはありません」

 

出番のない有希から小さく『カット』とテレパシーが聞こえた。エントランスホールで立ったままの状態だったメンバーの力が抜けてしまったかのように床に座り込み、それぞれの部屋に向かっていった古泉たちも戻ってきた。
「も~~~脚本を見たときから知ってはいたけど、どうしてあたし達が初めてきたときにこんな逸話用意しておいてくれなかったのよ!!有希、映像は!?」
「問題ない。このまま継続可能。でも、食事のシーンを先に撮影した方がいい。わたしもお腹が空いた」
「昼食を食べてから二時間も経っていないのに、黄有希さんもうお腹が空いたの?」
「まぁ、俺たちが初めてここに来たときの経験を元に、ハルヒが飛び付きそうな逸話を作っただけだ。あの当時は、古泉ももう少しハルヒのことを知っていれば、これくらいの簡単に作れるだろ?」
「どうやらそのようです。しかし、声帯を弄ったまま我々がこうして喋っているのもどうかと思いますし、有希さんの案でいくと、次は食事のシーンですから少しは休めるでしょう」
「一樹、あなたが一番ギャップが激しいわよ?」
『ブフッ!!』
「コイツは手厳しいぜ。声帯が元に戻るまでこの役に成りきることにさせてもらおう」
部屋決めのシーンは後にして全員で夕食を食べるシーンの撮影。青新川さんは料理中ということでこのシーンから外れ、朝倉がメイドとして入る。園部と桜○は遅れて入ってくる設定だ。
「キョン、席順は決めてあるの!?」
「さっきのシーンで分かったと思うが、服部から一番離れた位置にシドを座らせる。青古泉たちは四人で並んで、その対面に獅○と園部、それに桜○、俺は四人の斜め前だ。一色はターゲット全員を見据えるようにジョンの隣に座ってくれ」

 

「君、私はどこに座ったらいいのか教えてくれないかね?」
「えっと……齊藤は桜○と俺の間だ。……って、え!?誰が齊藤に化けているんだっけ?」
「青朝比奈さんだ」
「流石にこの声と身体でいつも通り喋るわけにはいかないんでね。さっきの彼のようにギャップがあり過ぎると言われてしまうよ」
「まさに、急進派の親玉の真逆のようですね。僕も誰が化けているのか分かりませんでしたよ」
「じゃあ、園部と桜木がディナーに遅れて入ってくるところからだ」
青古泉達が三階に上がった時点で俺と出くわしている。四人の視線が俺に向いている。
「すみません、すっかり眠ってしまっていて……」
「あ―――っ!葉月ちゃん!!久しぶり――――-っ!二年ぶりになるかなっ!?元気してたっ!?」
「ふふっ、光さんも前と変わらずお元気そうでなによりです」
「光って呼び捨てでいいって言ったじゃない!」
「それはまだちょっと抵抗が……でも、苗字で呼ぶとシドさんと間違えられてしまいそうで」
「そんなこと気にする必要ねえよ!このツアーが終わったら、金輪際誰とも会うことはないだろうからな!」
「君からすればそうかもしれないが、彼女たちならこのツアーをきっかけに仲良くなれるだろう。君ももう少し楽しんでみてはどうかね?色々と館の中を歩きまわったが、地下には遊技室もある。ビリヤードで私と勝負しないか?」
「仕方ねえな。暇つぶしに付き合ってやるよ」

 

「しかし、桜○君はまだ起きてこないようですね。森、すまないが彼の様子を見てきてくれないかね。新川の料理は彼女に運ばせてくれたまえ」
「かしこまりました」
「(ちょっと、彼女って誰のことよ?)」
「(あの男まで出てきたんだ。残りはアイツしかいないだろう?料理と一緒に現れるだろうぜ)」
台車に料理が盛られた皿を乗せ、朝倉が青古泉たちの前に姿を現した。青ハルヒとみくるが思わず口を塞ぐ。
「(一樹君、あたしが自分で絶対にありえないって言ってたんだけど、本当に毒が盛られていないかどうか不安になってきちゃったわよ。念のためサイコメトリーしてくれない?)」
「(分かった)」
「すっ、すみませ―――――――――ん!!熟睡してしまって、メイドさんに起こされるまで全然気がつきませんでした!皆さん、ごめんなさい!!」
「もうっ!桜○君、遅いっ!!次に遅れたら、その逆立てた髪型をバリカンで丸坊主にしちゃうよっ!?」
「えっ!?光?どうして光がここにいるんだよ!おまえも抽選に……って、他のみんなも!?」
「私も君や園部さんがいると聞いて驚いたよ。それにしても、君も変わらないね」
「ちょっと待て!あんたの今のセリフ、俺の身長が変わってないって言いたいんだろ!?あんただってメタボリックな身体はそのまんまじゃねぇか!この中年オヤジ!!」
「君もそのことについてはすぐそうやって反応してしまうようだ。早く席にかけたらどうだね?」

 

ようやく椅子に腰かけた桜○を入れて、これで全員が揃った。朝倉たちは執事やメイドとして料理を一緒に食べるようなことはない。座席の配置は服部が館の主として、いつも81階で食事をしているときの俺の席。初めて孤島に来たときも、圭一さんがこの席に座っていたっけ。その左隣に青ハルヒ、青古泉、みくる、ジョン、一色。右隣に獅○、園部、桜○、齊藤、俺、シドの順で座っている。
「では、全員揃ったようだし、改めて自己紹介をさせてください。私がこの館の主、服部三四郎です。どうぞ宜しくお願い致します。次は……光さんからでいいかね?」
「わたし、獅○光っ。剣道一筋華の女子大生ですっ!!」
「園部葉月です。誕生日が八月なので葉月って名前をつけてもらいました。今はフラワーショップで働いています」
「俺は桜○。まだアルバイトで食い扶持を稼いでいる就職浪人だ」
「桜○君っ!名前もちゃんと言わなくちゃだめだよっ!あの漫画の主人公と同姓同名だって宣言しちゃいなよっ!」
「うるせえな!おまえだってそうだろ!!……桜○花道だ。中学高校じゃバスケ部には入ってみたがずっとベンチウォーマーのままだったよ。身長が伸びなかったせいもあったんだけどな」
「今は金髪を逆立てて身長稼いでま~っす!」
「うるせぇ!余計な御世話だ!!」
「じゃあ今何センチか言ってみなよっ!齊藤さんは変わってないっていってたけどっ、少しくらいはのびたんじゃないっ!?勿論、髪を逆立てている分は身長に入らないからね!」
「17……168cmだよ」
「うんうんっ!素直でよろしいっ!」
「齊藤平八と申す者です。骨董屋をやっております」
「鈴木四郎だ。ルポライターをやってる」
「(朝比奈さん、鈴木四郎って……)」
「(ええ、偽名の可能性が高いってことになるわね。でも、逆に言えば、新川、森園生、朝倉涼子の三人は本名を名乗っている可能性も高いということになるわ。森はまだしも、新川や朝倉なんて滅多にないはずよ。でも、あの男は組織から依頼を受けた人間。他の三人とは別と考えた方がいいかもしれないわね)」

 

「シド・ハ○ウィンド。中古車の修理屋だ」
「一色沙弥華よ。まだ駆け出しのジャーナリスト。ジャーナリストの卵と言ってもいいかもしれないわね」
「へぇ~っ!ちなみに、ルポライターとジャーナリストってどう違うんですかっ!?」
「ルポライターは真実のみを書くんだ。ジャーナリストはその事実に基づいて自分の考え、価値観を加える。批判する場合も当然あるけどな」
『ジョン・スミス。ただのフリーターだ』
「朝比奈みくる。雑誌編集者よ」
「古泉一樹。美容院のトップスタイリストだ」
「美容院のトップスタイリスト!?葉月ちゃん、一樹君に髪切ってもらったら!?」
自己紹介をしてすぐに名前で呼ばれた青古泉が引きつっている。
「光さん。私は平気だよ。それにカット用のはさみなんてこんな場所にあるわけないし……」
「でも、ポニーテールですら腰までくるくらいの長さなのに、しゃがんでばっかりの仕事じゃ邪魔でしょ?」
「そうでもない。もう慣れたから大丈夫」
「じゃあ、最後はあたしね!涼宮ハルヒ!職業はOL!宜しく!!」
「天真爛漫は光さんだけかと思いましたが、もう一人いらっしゃったとは……若者が多いのは嬉しい限りですな。楽しいツアーを満喫していってください。君、一品目を皆様に」
「かしこまりました」

 
 

…To be continued