500年後からの来訪者After Future8-10(163-39)

Last-modified: 2017-01-11 (水) 09:43:47

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-10163-39氏

作品

ジョンの気まぐれで500年後の未来に連れて行かれ、フ○―ザと匹敵するほどにまでLVUPを遂げた、未来のジョンやその仲間たちとバトルをすることができた。そのジョンですら、閉鎖空間で固めたシェルターを破ることは叶わず、これが涼宮体に有効かそうでないかで作戦が決まってくる。その事実を受けて有希と朝倉が宇宙人に該当することを青チームのOG達にもカミングアウト。と言っても、半分以上は俺のせいなんだが……。変態ではなくなった変態セッターがすぐさま事実を受け入れ、一番に納得した様子だった。収録した番組も放送され、ジョンの世界で一大戦争に向けた修業が始まった。

 

 俺と青俺を除く戦闘員全員がダウンしている間、先ほどの番組の続きを巨大モニターに映していた。
「あんたね、そんな暇あると思ってるの!?」
「だったらさっさと立て!いつまでも寝ていたら修行にならんだろうが!」
「そうは言われても、立ちあがるだけで精一杯ではバトルになりません。映像を見ながら回復ということで、手を打ちませんか?明日の新聞記事の一面も、どっちに転ぶのか気になっていたんですよ」
『どっちって?』
「ディナーの撮影にやってきた報道陣も驚いたはずです。まさかカレーの食べ放題が、ディナーとして、しかも日本代表チームからのリクエストで成り立つとは思っていなかったでしょうし、この番組を受けて新聞社がどちらを一面に載せるか迷う気がしてなりません。可能性としては、僕は番組の方が高いと思っていますがね」
「酷いじゃないか。休憩しながら深夜の放送を見ているなんて。僕たちも参加させてくれたまえ」
佐々木の一言を皮切りに情報結合組のOG達も全員こちらに移動してきた。
「結局、古泉はセッターとしての役割を果たせそうなのか?」
「意識が朦朧としている中でセッターはまだ難しそうです。オープントスなら上げられますが、クイック技に合わせるにはまだまだ修錬が必要のようですね」
「一つ提案なんだが、一月三十一日くらいはバレーに専念しないか?初日からダイレクトドライブゾーンで日本代表に対抗したい。初日は二、三セットやったら俺は抜ける。ただ、三日目は俺一人だけで日本代表と戦わせて欲しい。例の三枚ブロックで相手をする。エースだけはブロックに跳んでもその上を叩かれそうだけどな」
「くっくっ、キミには内緒にしていたんだけどね。その話が出たのなら丁度いい。こちらにも、日本代表のブロックの上からスパイクを撃つ人材がいるんだ」

 

 番組の方はほとんどおまけのデュエルと言った方が良い。特に一回戦で敗退した者同士で決闘している様子が映り、最後にデュエルディスクを記念品として持ち帰りたいと全員が宣言したところで終わっていた。さて、佐々木の問いについて考えるまでもない。そんな逸材はジョンしかありえない。
「それで、ジョンは初日から出てくるのか?……何をそんなに驚いた顔をしているんだ。日本代表の上からスパイクを叩ける奴なんてジョンしか考えられないだろうが。孤島でのビーチバレーの撮影でジョンがスパイクを打ち慣れていることが頭の中で引っ掛かっていたんだ。それがようやく納得できたくらいで、俺からすればそんなもん問題にすらならん」
「あなたが告知で世界各国を回っている間、これまでずっと隠し通してきたことを、いとも簡単に見破ってしまうとは驚きました。しかも、サイコメトリー無しでとは……いやはやお見事です」
「お見事も何もない。前にも佐々木に話したことがあったと思うが、情報を与えすぎなんだよ、おまえは。問題と一緒にヒントを出しているようなもんだ。そんな簡単な問題に応えられないほど、俺はバカじゃない」
「あれ?あんたバカじゃなかったの!?」
『プッ!』
「おまえな!!それが実の夫に対して言うセリフか!?」
「問題ない。ジョンのジャンプ力では、あなたのダイレクトドライブゾーンのテンポに合わない。スパイクを撃つ前に守りを固められてしまう。ジョンが出るのなら四日目から」
「ったく、冗談が言えるほど回復したのなら、さっさと続きをやるぞ!」
「おや?妙ですね……冗談なんて誰か言いましたか?」
「おまえはスランプじゃなかったのか!?」
『俺もまだ続けたいところだが、新聞記事が出たぞ。古泉一樹の言っていた通りだ』

 

 ジョンがモニターを切り替えると……これはテレビ朝日か。『日本代表からのリクエスト第一位!!キョン社長の特製カレーがディナーで食べ放題!?』、『前人未到のデュエルタクティクス!武○遊戯見参!!』、『ケン○バ無念!!ア○ムを冥界に送れず!!』どちらかというと昨日放映された番組を一面にした方が多いな。この局だけだろうがVTRが流れている。トーナメントの決勝戦で間違いない。
「以前は頼りがいがあり過ぎるくらいだと報道させていただきましたが、キョン社長が入っただけでここまで番組が白熱したものになるとは想定外です。遊戯○芸人だけでなくMC二人もデュエルディスクを持ち帰りたいと言い出す程ですから、この番組だけで大会の参加者が莫大な人数になってしまいそうです」
「確か、世界的にも遊戯○カードが話題になっていましたよね?」
「子供たちのお年玉の使い道がほとんどカードになってしまったほどですから、驚きを隠せません。キョン社長の提言した原作に準拠したカードでというルールにより、原作カードのパックが近日中に再び販売されるということです。僕もVTRで見るよりは、生で見たかったですね~」
例の戦争にとっととケリをつけて三月上旬にもう一回ってところだな。圭一さんにもそう伝えておこう。
「それで、どうするのよ?あんた」
「日テレで約束したアフレコとこの一大イベントの大会申し込み前にもう一回出る。それ以外は断るつもりだ。ただ、面白そうだと思ったものに関しては出るかもしれん。第二人事部は圭一さんと俺の影分身だな。第一人事部にもW古泉の催眠をかけて出る」
「となると、僕の方はあなたの仕込みを引き継ぐことになりそうです。野菜スイーツの方も進めておきましょう」
朝食時に圭一さんにもその旨を伝えて、例のイベントの担当者には大会申し込みの締め切り前にもう一回演出をしに行くから芸人を集めてデッキを考えさせておいて欲しいと連絡。デュエルディスクを持ってくるようにとも伝えておいた。向こうもあの一回きりで二度とできないと思っていたらしい。すぐに芸人をかき集めるそうだ。と言っても収録はバレーのオンシーズンが終わってからになると伝えておいたが、あれがもう一回撮影できるのならいつでも構わないらしい。残りの番組出演の電話についてはカレーを作ってくれだの、パフォーマンスを見せてくれだのそんなものばかり。ジョンが面白そうだと思えるものについては受けてもよかったが、フジテレビからの電話でそのようなものは無かった。まぁ、ほとんど何でもありだから、パフォーマンス内容は俺に任せるってことなんだろうが、どうしたものかと考えなくてはならないものよりは、昨日の番組のように『こんなことをやりたいから演出して欲しい』と言ってきてくれた方が分かりやすくていいし、年末に勝手にパフォーマンスで見せた分もあったからな。その埋め合わせのようなもんだ。

 

 みくるのCM撮影にも同行し、その週のスキー場の運営の方もチェックイン、チェックアウトについては、スプリングバレーのホテルに二人付くだけで、残りは首相と県知事任せ。厨房も夕方のみ青有希とハルヒが入るくらいで、指南役もほとんど役目を終えておススメ料理の仕込みをやっているくらいだ。来週からはおススメ料理の仕込みと調理に向かうだけで良いだろう。しかし、カレーに関しては誰もふれなくなってしまったな。いくら現状維持の閉鎖空間があるとはいえ……戦争が終わったら出してやるか。条件付きでな。有希とENOZに確認したところ、今度のライブでのカバー曲はまた違ったものをやるらしい。著作権のことも解決済みだし前回のも入れて、動画サイトにUPしようと提案。天空スタジアムで前回演奏したカバー曲を撮影し、今回のカバー曲も一緒に収録。どの曲もギターアレンジが半端じゃない。ENOZはト○ロック、F○7バトルBGMに勝利のファ○ファーレ、ボス戦BGM、ビッ○ブリッジの戦いの四曲。SOS団はムー○ライト伝説、My ○irst Kiss、コ○ンテーマソングの三曲。歌詞が無いものもあるが、客の層を考えるとこれでも問題ないかもしれん。79階ではル○ン三世のテーマをジャズセッションで楽団員がやっていたらしい。俺も聞いてみたかったな。
『キョン、今日の新聞が出たんだが、ちょっと困ったことになった』
『困ったこと?』
ジョンが『困った』と言う程のニュースって一体何のことだ?モニターに表示されたニュースに掲載されている新聞記事の一面は、すべて遊戯○カードに関する内容について。『遊戯○原作カードパックを大人買い!!各店で売り切れ続出!!』、『中古屋ゲームショップ等で原作レアカードが高騰!!一大イベントに向けた紛争勃発!』等々。要するに、俺が原作カードのみの編成を指定したせいで、子供のためのイベントのはずが、原作が連載していた当時子供だった世代まで動いてしまったらしい。まぁ、子供の頃、夢に見ていたことが現実のものになると言われ、実際に番組放映されれば当然か。遊戯○芸人があれだけ興奮するくらいだからな。
「これは困りましたね。我々は必要なカードを情報結合すれば済みますが、もう一度カードを集めなおすには確かにこうする他ありません。肝心の子供たちも、現遊戯○カードの方にお年玉を使い果たしてしまった後でしょうし、カードを製造する側にとっては嬉しい悲鳴と呼べそうですが、これでは……」
「くっくっ、原作のカードパックが売り出したばかりなんだ。報道陣が大袈裟に一面を飾っているだけに過ぎない。大会の予選開始まで、あと二ヶ月以上あるんだろう?その頃には落ち着いているはずだよ。何より、たった一枚のカードで勝敗を分けると証明してみせたのは、他ならぬキミじゃないか。この前放送された番組の芸人たちもキミとジョンのVTRを見て驚いてはいたけれど、その事実に納得していただろう?『これがあるから面白い』というコメントもあったことだし、限られたカードの中でも、それぞれが構築したデッキで大会に挑むってことでいいんじゃないのかい?」
『それは、ある程度強さが均衡している場合の話だ。例の番組内で、一回戦で負けた芸人達でも相応のカードを持っていた。キョンが決勝戦に進んだのも、作戦的なものもあっただろうが、運がこちらに向いた要素が高かった』
「当然よ!そうでもなきゃ、キョンが決勝に進むなんてありえないわよ!」
「まぁ、何にせよ、今すぐ俺たちが何か対策を練るほどのことでもないことは確かだ。佐々木の言う通り、大会までの期間はたっぷりある。しばらくは様子を見た方が良い。俺たちもそれだけを議論していられる程、暇なわけじゃない。体力が回復したのなら、さっさと修行を続けるぞ」

 

 あの報道がされて二、三日は各地でカードパックの争奪戦が起こっているなどという記事を一面にする新聞社も多かったが、それだけで一面を飾り続けることができるはずもなく、俺たちは俺たちのなすべきことに専念しながら、日々精進を繰り返していた。
『キョン、俺はもう御免被りたいところだったんだが、またノミネーションしてしまった。今度はアカデミー賞だそうだ』
「アカデミー賞でノミネーション?ジョンがそういうってことは、助演男優賞も入っていることになりそうだな。今度は何部門なんだ?」
『アカデミー賞!?』
「くっくっ、確かに、ゴールデングローブ賞はアカデミー賞の言わば前哨戦のようなものだと言われているけれど、そっちまでノミネーションしたってことかい?」
「しかも、その様子ですと、ジョンはノミネーション決定。あなたも出ることになりそうですね。我々にもジョンの声が聞こえるようにしていただけませんか?」
「俺が中継しなくとも、ジョンが全体に向かってテレパシーするだけだ。それで、どの部門でノミネーションしたんだ?俺も入っているのか?」
『今度は主演男優賞、助演男優賞、作品賞の三部門だ。この前のパーティで「監督も脚本家もキョンに振り回されたようなもの」だとコメントしていなければ、五部門そのままノミネーションしてもおかしくなかったとニュースで報道されている。授賞式は向こうの時間で三月の第一日曜日。今度はハリウッドのドルビーシアターだそうだ』
『ハリウッドのドルビーシアター!?』
「いいなぁ……誰もが人生に一度は行ってみたいと思う場所でパーティだなんて……黄キョン先輩、羨ましすぎます!でも、また料理を振る舞ってくれなんて言われそうですね。この前のカレーみたいに」
「それも悪くないな。沢山用意してあることだし、またカレーでも振る舞うか」
「あんた、少しは前回の反省を活かしなさいよ!!あんたがカレーを出したせいで、ビバリーヒルズでのパーティの進行が遅れたのを忘れたの!?」
「心配いりませんよ。ビバリーヒルズと違って、その名の通り今度は劇場です。確か式典後のパーティも無かったかと。式典自体も三時間程度のもので、発言する時間も細かく制限されているくらいですからね」
「でも、ノミネーションしただけでも十分大ニュース。明日の新聞記事も、黄キョン君とジョンの話題で一面を飾ってもおかしくない。今日はカレーでパーティがしたい」
「おまえが食べたいだけだろうが!大体な、みんな夕食を食べ終わっているっていうのに、これからカレーでパーティなんてやったところで、胃の中に収まるのはおまえと黄有希、ハルヒ達くらいだ。あまりしつこいとまた食べられるチャンスを逃しかねん。カレーに関する内容でおまえはもう発言をするな!」
「問題ない。明日の朝でも十分可能」
その発言を聞いたハルヒが有希の頭をド突く。『カレーに関する内容でおまえは発言するな!』は有希にも当てはまる。その一言でまた延長と思ったが、ハルヒが制裁を加えたのならそれでいいか。
「だったら、受賞が確定したところでカレーを出してやるよ。現地時間で日曜なら、式典が終わった火曜の夕食でということになりそうだ。少し早いが、新川さんにも入ってもらって皆で食べることにしよう。次は、料理は作らないことにする。ハルヒの言う通り、確かに進行の妨げになっていたことに変わりはない」
『え――――っ!!カレーは!?』
「だから、おまえ等はカレーに関して一切発言をするなと言ってるだろうが!!」
「そういうことだ。また一ヶ月延長されたくなかったら、青俺の言う通り、言動には十分気をつけるんだな。折角少し早まったんだ。少しは喜んだらどうだ?」
などと話しても、有希たちからすれば喜べるようなことでないのは明らか。また一つ、イベント事が増えたが、祝賞会とは別にカレーを作れと言われても面倒だ。青俺やハルヒだけでなく、周りも有希たちの発言に対してピリピリしているからな。余程カレーにありつきたいらしい。まぁ、この二人を抑えつけるにはいい傾向と言えるだろ。

 

 それから更に数日、今度はまったく別の件で朗報が入ってきた。だが、こちらの方は予定調和と言えそうだ。
「大ニュースだ!」
今月のライブやコンサートもすべて終了し、明日からいよいよバレーのオンシーズンだというのに、こんなときに一体何だ!?昼食時に81階に戻ってきた青圭一さんが大ニュースの内容を告げた。
「二月号の追加の連絡が来た!四社とも10万部ずつだそうだ!来月以降も40万部ずつに増やして欲しいらしい!」
『やっったぁ――――――――――――――――――――――――――っ!!!』
おいおい、ちょっとは年齢を考えろ。いくら情報結合の練習の一環としてみんなで作ったからとはいえ、「やったぁ―――っ!」なんて叫ぶのは女子高生くらいまでにしてもらいたいもんだ。40万部なら既に作り終えているし、あとは青古泉が渡しにいけばいい。二月号の商品も有り余るほど情報結合してある。三月号が出来上がるまで何を作ってもらおうか迷っていたくらいだ。OGには段ボールの情報結合、青OG達はしばらくの間はバレーの練習でいいだろう。青チームの有希、みくる、朝倉は影分身の修行中。変態セッターあたりは影分身ができそうな気がするが……まぁいい。
「黄キョン先輩!今夜はカレーで祝賀会しませんか!?」
「いいわね、それ!あたしも乗った!」
「駄目だね。まだ半月しか経っていない。アカデミー賞の授賞式後だと言ったはずだ」
「もういいじゃない!有希たちだって十分我慢したわよ!」
「今日出すと、例の戦争後にまたカレーだと言い出すことになる。誰が何と言おうと出さない」
「打開策なら以前話していたではありませんか。それでは駄目なのですか?」
『打開策!?』
「黄キョン君、どんな策かだけでもいいから教えて!」
「やれやれ……明日から毎日ディナーの仕込みがあるっていうのに……」
「そんなのあたしと黄古泉君でやるわ!あんたは試合に出るんでしょうが!!」
「有希たち以外のメンバーは普通に食べられる。だが、有希たちはカレーと同じ分量のおでんを半分ずつに分けてそれを全て平らげたらカレーに手を出してもいい。ただ……」
「それでいい!今夜はカレーにして!!」
「話は最後まで聞いてからにしろ。ただし、どちらか一方が先に食べ終わったとしても、カレーにてをつけることはできず、もう一方が食べ終わるのを待たなければならない。当然手伝うことも不可能。その間に他のメンバーが食べ尽くしてしまえば、カレーにありつくことはできない。これが条件だ」
「そんな……それじゃ、有希さんがほとんど食べられないじゃない!」
「だから打開策なんだ。それが嫌なら三月まで待てばいい。それに、コイツをおでん嫌いにしたのは一体誰だったかな?」
青朝倉が黙り込んでしまい、しばしの沈黙が訪れた。

 

「やはり駄目だな。三月まで待ってろ」
「食べる。わたしもおでんを食べる。その条件でいいからカレーを出して!お願い!!」
「………やれやれ、こうなったら仕方がない。出してやるよ。だが、どうしてこの状況に陥ったのか忘れてもらっちゃ困る。それをしっかり頭の中に叩きこんでおけ!同じ思いをさせるようなら、残りは社員たちに配って俺は二度と作らん!」
満場一致の『問題ない』は返って来なかったが、昼食を終えてどこ○もドアをくぐりおでんの下準備を開始した。念のため、ナンも焼いて300枚に戻しておこう。換気機能を両方とも切っておでんの匂いが本社の81階に充満するよう仕向けておいた。いくら罰とはいえ、わざと不味いおでんを作るのは食材に申し訳が立たん。切り方や食材の旨味を最大限にまで引き立てる出汁にもこだわり、俺のオリジナルのおでんが完成した。半熟卵のおでんも有希とは違う方法で作り、頃合いになったところで現状維持の閉鎖空間で囲っておいた。有希たちの席には寸胴鍋が一つずつ並び、カレールーの入った寸胴鍋が二つとナン、ターメリックライスがキッチンに並んだ。ようやくカレーが食べられるからと、匂いにつられるようにメンバーが集まり、練習試合中のOGと子供たちを待つことになった。それぞれでライスかナンのどちらかを選び、食べる準備は万端。残りの九人にもどっちがいいか自分で選ばせることにしよう。
「遅いわね……まだ試合が終わらないの!?」
「練習試合終了の時刻にもなっていません。我々が早く来過ぎたせいですよ」
「それにしても、有希さん一人でこの量を食べきれるの!?」
「カレーはそれ以上の量を苦しい顔一つ見せることなく食べていたんだ。何も問題はないだろう?」
「それにしてもおでんのいい匂いがこっちにまで漂ってくる。カレーも待ちかねたが、おでんの方も食べてみたくなったよ。少し分けてもらえないかね?」
「これと同じもので良ければ明日にでも作ります。今日は有希たちの打開策のためだけに作ったもの。他のメンバーは手出し無用だ」
「青チームの朝倉涼子が作るおでんとはまったく別もの。食べがいがありそう」
「当たり前だ。わざと不味いおでんを作っては食材に申し訳が立たん。テレパシーとサイコメトリーでコイツ等と相談しながら一番美味いおでんを作ったんだ。出汁にも当然こだわった。不味いわけがない」
「黄キョン君のオリジナルおでんってこと?それなら食べきれるかも」
「あら~?有希さん、それは一体どういう意味かしら?黄キョン君に作ってもらわずに、わたしのおでんで寸胴鍋をいっぱいにした方が良かったかしら?それなら黄キョン君だって明日のディナーの仕込みに専念できたはずよ!」
「け、決して不味いわけでは……でも、その………飽きた」

 

 ようやくエレベーターが動きだし、子供たちとOG六人が出揃った。子供たちはナンを選択し、OG六人はターメリックライス。ナンはこの前散々食べたしな。『いただきます!』の声がかかっても俺はしばらく周りの様子を伺っていた。有希たちは多少急ぐ必要はあるから仕方がないとして、今まで何度注意してもまったく効果が無かったハルヒ達が味わって食べてやがる。やれやれ、それができるならもっと前からにしてもらいたかった。みくる達をはじめ青OG達も一口頬張るごとに感激している。これなら、文句はない。しばらくしておでんを食べ進めていた青有希が異変に気が付いた。
「えっ!?これ餅巾着じゃない!?……半熟卵?」
『はぁ!?』
「ロールキャベツじゃなくて、餅の代わりに半熟卵を巾着に入れたってこと!?」
「正確には、『生卵』を巾着袋に入れた」
「そんなことしたら白身が巾着袋から漏れるはずよ!でも、どうして?漏れた白身が一つも浮かんでないなんて!」
「ロールキャベツに入れた半熟卵なら作り方はすぐに想像できましたが、こんなものに生卵を入れては青朝倉さんの仰る通り、黄身や白身が漏れてしまいます!!一体どうやって?」
「ヒントはコイツだ」
右の掌に螺旋○を作ってみせた。流石の古泉でも答えに辿り着くのは難しいか?
「なるほど、それなら黄身も白身も漏らさずに半熟にできますね」
「一体何がなるほどなのよ!?」

 

 ったく、『変態セッター』から別の名前に改名しないといけなくなりそうだ。『なるほどセッター』はイマイチだな。いい名前が閃くまでとりあえず変態セッターでいいか。
「螺旋○と同じように殻の皿に内側に超能力で膜を張って、生卵のまま、ゆで卵のように殻をむいた。そのまま巾着袋に入れて半熟になったところで超能力の膜を消す代わりに現状維持の閉鎖空間をつけて、それ以上卵が固まるのを防いだってことです」
「どうやら追加説明の必要はないらしい。強いてあげるとすれば時間を計らずにサイコメトリーでタイミングを見計らったところくらいか。このくらい、有希や青朝倉だって可能な技だ。作っている最中に閃いたに過ぎん」
「でも、現状維持の条件をつけた閉鎖空間のことは何度も聞いていたのに、半熟卵に利用するなんて発想はなかったわよ!これなら半熟卵のおでんを大量に作って保存できるわ!画期的なアイディアに間違いはないわよ!!」
「私も食べてみたくなったよ。明日の夕食はおでんにしてくれないかね?」
「わたしもこのおでんなら問題ない」
「なら、ディナーの仕込みは古泉と青ハルヒに任せて、俺は昼食と夕食の支度だな」
『問題ない』
「キョンパパ、やっぱりわたしカレーライス!キョンパパのご飯美味しい!」
伊織の一言に青古泉が反応した。
「まずい!!!」
その刹那、負傷したジョン達がこのフロア、いやこの時間平面上に時間跳躍。だが、情報結合ではどうやら入れないようだな。嬉しい情報だが、馬鹿に説明している程暇じゃないんだ。閉鎖空間を開くと同時に伝えてしまおう。
「有希、四人を今日の修行前の状態に戻してくれ。一日分の修行が無駄になるが、全力で闘えないまま負けるよりはマシだ。青俺、外の連中の排除を頼む。アイツ等が入り込めない理由は閉鎖空間の展開と同時に伝えておいた。周りの建物を破壊しても無駄なことも含めてな」
「問題ない」「了解!」

 

「あんた、状況が把握できているのなら説明しなさいよ!!これ、一体どういうことよ!?」
「それが知りたい奴は机に手をおけ。俺は先にあの時間平面上に向かう。シェルターに逃げ込む前に人類を滅亡に追い込むわけにはいかん!」
ジョン、全員に情報を伝えたら俺だけ先に送ってくれ!
『分かった、俺も出る』
全員がテーブルに手をおいたところで情報を共有。すかさずジョンが時間跳躍をしてくれた。一瞬にして金色の閉鎖空間が広がり、俺と涼宮体だけが閉鎖空間内に残った。この短時間で随分と破壊してくれたもんだなぁ……おい。タイタニック号の修繕もしなくちゃならないってのに、本当に面倒な奴らだ。これだけ目立つ閉鎖空間を展開したというのに、それを無視するかのように街の破壊を繰り返してやがる。俺たちの時間平面上に現れた涼宮体を含めて、全部で20体。前回は11体+有希や朝倉の同位体だったからキャパシティとしてはそんなに変わっていないらしい。青古泉が『過去ハルヒを入れた三人と15人で記念撮影をして欲しい』なんて言っていたから良く覚えている。しかし、ジョンから預かった本物のスカ○ターで確認すると、一体の戦闘力が1500000。前回の俺と同じ戦闘力ってことになる。この時間平面上のジョン達を含めた修行の成果ってヤツを見せてもらいたいもんだが、何に時間を喰っているんだ?あいつらは。まぁいい、俺も戦闘服に着替えるか。
「そんなところで呆けて、何やってんのよあんた!……って、キョン?」
「服を着替えただけで自分の夫を見間違えるな、阿呆。もっとも、これだけ目立つ閉鎖空間を張って人の気配がまるで無い建物を破壊し続けているあいつらは……何て言えばいいか教えてくれ。先に暴れて文句を言われるよりは……と思っていたが、無能っぷりに呆れかえってしまったぞ」
「やれやれと言いたくなりましたよ。その格好、これから超サ○ヤ人2にでもなるおつもりですか?」
「今の俺に適した戦闘服を考えたらこうなった。亀○流の胴着を着るわけにもいかんしな。それより、青古泉は来て良かったのか?」
「これでも一応修行はしましたので。前回のような弾よけにはなるかと……」
「問題ない。今度はわたしがあなたを守る」
「残念ね。あんたにはその役目すら与えられずに死ぬわよ?」
突如として青古泉の背後に現れた涼宮体が、すかさず手刀を繰り出してきた。
「古泉君!!」

 

青古泉に突き刺さる筈だった涼宮体の腕がテレポート膜を通して自分の頭部を貫いた。
「バ、カな……」
「馬鹿はおまえだ。どうやら、戦闘力たったの5のゴミマフィア共が相手でも、一応経験値はもらえたらしい。ス○イム一匹倒すのとどっちが上か誰か教えてくれ」
「教えて欲しいのはこっちの方です!完全に虚を突かれたはずが、なぜ僕は無傷なんです?」
「青古泉の心臓にあたる部分にテレポート膜を張って、そのテレポート先を涼宮体の顔面にしただけだ。急進派が卑怯な手を使うのはいつものこと。混乱に乗じて俺たちを一気に叩き潰そうって腹だったんだろうが、もうその手は見飽きた。対策くらい、いくらでも用意できる。おっと、ようやくお芝居をしていた連中の御到着のようだ」
「あんた達また来たのね」
『そいつはこっちのセリフだ。相変わらず姑息な手を使うところだけは一人前らしいな?ようやくシェルターが完成してこれから量産しようとしたときを狙ってやってきた。相手の隙を窺い、弱点を狙うのは勝手だが、未だに元親玉の風習に倣って女子高生気取りしている変態オタク相手に時間を割いているほど、俺たちは暇じゃないんだよ。俺たちの時間平面上にやってきた連中なら全員スクラップにしてやった。今日で急進派も無くなる。おまえら全員死に絶えるんだからな。俺から一つだけアドバイスをしておいてやる。「逃げる勇気も必要」ってやつだ』
「死に絶えるのはお前たちの方だ!!!」
全部で………15体に間違いなさそうだ。この時間平面上の統合思念体のキャパシティがこれで測ることができた。
「こんなもの、あたしが蹴り飛ばして……」
「いい、コイツ等には無駄にエネルギーを消耗してもらう」
眼の前に張った透明の膜にエネルギー弾が当たる度に消し飛んでいく。
『いい加減同期したらどうだ?次の同位体を作っている最中に味方に攻撃されたんじゃ作りたくても作れないだろう?もっとも思念体にエネルギー弾が効くのかどうかは俺も知らんが、いくら涼宮体でも同位体には限界ってもんがあるだろう?同じ強さの涼宮体に攻撃されていれば尚更な』

 

「ちょっと!一体どういうことよ!?」
「イタリア支部に張った閉鎖空間と同様、支部に銃撃したり、爆弾を投げ込んだりすれば、その者のアジトに行くようなテレポート膜を張ったんです。彼のセリフ通り思念体に効果があるのかは分かりませんが、レベルの低さには呆れかえりますね。未だにエネルギー弾を放っているとは。また、背後から串刺しにでもするつもりでしょう。今度は彼に頼ることの無いようにしないといけませっ……と言っているそばから仕掛けてきたようです。同じ手が二度通用すると思われているところが癪に障りますよ」
「そんな……馬鹿な…」
「馬鹿はあなた方のほうだと説明を受けたはず。これではっきり証明されたようですね」
古泉の背後にまわった一体が同じ手で頭部を貫かれた。先ほどスクラップ化した一体を含めて、古泉がエネルギー弾で粉砕。これでまた作れるようになったな。
『さっさと涼宮体を完成させてこっちに向かわせろ!!急進派にどれだけ下っ端連中が存在するのか知らんが、涼宮体に乗れる機会なんて今日くらいだぞ?さっさと乗り込んで来たらどうだ?若手政治家が名乗りを上げるチャンスをみすみす逃すつもりか?』
「フン、どうせ全員ブラックリスト入りで乗れるわけないわよ!!」
『それ以上はエネルギーの浪費だ!すべてこっちに被害が及んでいる!一人残らず串刺しにしろ!』
『指示を出すのが遅すぎるんだよ。それに俺たちにとっては朗報だ。今のエネルギー弾で相当被害が出たらしいな?今度は俺たちが撃ちこんでやろうか?一発で消し飛ばしてやってもいいんだぞ?』
『何!?盗聴していただと!?』
『おまえらにできて俺たちにできないわけがない。今指示を出している奴が、前回はどのくらい偉かったのかは知ったことではないが、こんなのが司令塔じゃ、即崩壊してもおかしくない。誰か代わってやったらどうだ?さて、今度は俺たちを串刺しにやって来るそうだ。後で文句を言われたくないし、暴れたい奴は前に出ろ!ジョンのスカ○ターじゃ前回の1.5倍の戦闘力だそうだ。それでも勝てないと魅せしめてやれ』
『問題ない』

 

 しかし、この時間平面上のジョン達を除いて、超サ○ヤ人状態での閉鎖空間を張ってある。さっきの古泉たちの件にしろ、テレポート膜を張らずに攻撃されていたらどうなっていただろうな。青俺を残してきている分、数ではこちらの方が不利。しかも青古泉はまともに闘えるのかどうかも良く分からん。四人が深手を負って逃げてきた理由がようやく判明した。閉鎖空間に条件を追加しておこう。『内部の閉鎖空間は絶対に破壊できない』とな。あの四人にも閉鎖空間をつけたし、これ以上サポートすると文句を言われそうだ。だとしても、戦闘力でも数でも不利では、連携攻撃に持ちこむチャンスがほとんどない。情報結合で閉鎖空間内に入るのを諦めた涼宮体六体が猛スピードでこちらに向かってくる。
『キョン!』
「馬鹿!こっちを見ている場合か!!」
一瞬の隙を突いて涼宮体が青ハルヒの背中から心臓を貫いた。エネルギー弾ならまだしも一点集中された攻撃には閉鎖空間一枚じゃ耐えられなかったらしい。
「涼宮さん!!」
青古泉が落ちていく青ハルヒを追うように地面に近づいていく。その後ろから涼宮体三体が後を追っていた。
「悪いが選手交代だ」
「フン、三人まとめて粉々にしてくれるわ!」
涼宮体三体によるエネルギー波が放出。拡散する波動も半分以上は膜に吸い込まれていく。
「痛いじゃない!揺さぶらないでよ。あ、たしなら自分で、治療……できるから、あん…たは戻りなっ………」
「ハルヒ!おい、しっかりしろ!!自分で回復するんだろうが!!」
やれやれ、ドラマの影響か?佐々木たちにあとでこのシーンを大画面で見せてやることにしよう。

 

「おい、いつまでやっているつもりだ。そんなに自分たちのアジトを吹き飛ばしたいのか?おまえらは」
「ちぃっ!」
『おっと、俺がここを通すと思うか?まぁいい、ついでに宣言しておいてやる。俺の戦闘力は5300000だ。たった三匹の蟻が恐竜に勝てるとでも思っているのか?』
「『あぁ―――――!!俺のセリフが取られた!!』」
ジョンが二人揃って声を上げていやがる。しかしまぁ、この時間平面上の四人はすでに700000を突破していたし、ジョンも朝倉と対等の戦闘力になった。戦闘経験豊富な分ジョンの方が上ってところか。さっさと始末して青ハルヒの回復に向かおうとしたそのとき、道を塞いでいた俺の背中から叫び声が聞こえてくる。
「うおおおおおおああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」
涼宮体十数体を含めた全員が青古泉から発せられた風圧に驚き、そちらを向いていた。エージェントや古泉と同じ赤い球体に身を包んだ青古泉の周りを静電気のようなものがバチバチと音を立てている。超サ○ヤ人2になったのはどうやら青古泉の方らしい。合計九層の球体を纏った青古泉が涼宮体を見据えている。
『よし、青古泉、選手交代だ。俺が回復にまわる。その球体をコーティングと同じように身体に纏ってみろ!』
返事は無かったが、ものの見事に身体に吸着させると、俺が引き止めていたうちの一体の首を一瞬にして刎ねた。新しく来た六体も全部任せてしまおう。その間に青ハルヒを回復する。貫かれた部分の情報を得て復元させると、超能力で心臓を動かし始めた。古泉のような後遺症が残らなければいいんだが、そのときは有希に頼んで特効薬でも作ってもらえばいい。ようやく青ハルヒが意識を取り戻した。状況が状況だっていうのに口角が上がって笑顔を見せていた。
「……キョン」
「よう、動けるか?早く戻らないと、青古泉に全部倒されてしまうぞ」
「古泉君に倒される!?」
「上を見てみろ!俺がアドバイスしておいたから今は違うが、古泉と同様、超能力者として覚醒したらしい。最近の不調もそのせいだったんだろう。今のアイツには同位体が束になっても敵わん。おっと、念のため閉鎖空間をつけ直しておく」

 

「何よあれ、たった一撃で倒していくなんて……ちょっと!あたしの出番残しておきなさいよ!!」
「……っ!!涼宮さん、ご無事でしたか!?」
「ちょっと!よそ見してたら、あたしの二の舞になるわよ!!」
一応、自覚はしていたらしい。しかし、その攻撃も通用するまい。空気の流れを読んだのか手刀を命中する寸前で腕を掴まれた。
「やれやれ、戦闘力は上がっても身体は前回と変化なしですか。500年も前の人間を観察するくらい、あなた方のような暇人にとっては充分すぎるほどの余裕があるはずです。今回の戦闘で得た情報を基に作り替えておいてください。もっとも、急進派は僕が今日で破滅させますけどね」
「腑抜けが戯言を抜かすな!!」
もう片方の腕で手刀を繰り出すも青古泉にいとも簡単に切り捨てられ、首を掴まれた。今にも引きちぎらせそうな勢いだ。
「僕が腑抜けなら、あなたはなめくじのようなもの。戯言かどうかこれからはっきりと見せてやりたいところですが、生憎とあなたがこの身体でいる限り、新しい同位体は作ることができません。では、さようなら。二度と会うことはないでしょう」
「待て、止め……」
首と胴体が別れ、すかさず放ったエネルギー波で塵と化してしまった。その光景を見て残った同位体がその場から逃げかえろうとしていた。『逃げる勇気も必要』とは言ったが、隙を見てちまちまと小細工をされては面倒だ。俺が一体を捕まえて手足をそぎ落とすと、残りの同位体は青古泉が始末していた。

 

『ようやく、俺のアドバイスを受け止めた連中が出てきたようだ。残りの奴はどうするつもりだ?さっさと攻めてこないと急進派のアジトごと滅ぼすぞ!?さっきから指示を出していた奴はそろそろ自分で攻めてきたらどうだ?周りに示しがつかんだろうが。一緒に消し飛ばされたくないのならそう言え。今をもって急進派から主流派になりますってな。さっき説明した通りだ。急進派は今日で無くなる』
テレパシー役として一体をその場に投げ捨て、しばらく様子を見ていたが、反応が返って来なければ、涼宮体が来襲する気配もない。ジョン達のかめ○め波でとどめを刺してしまうか?そう考えているうちに他のメンバーが青古泉に集まっている。
「ちょっと!あんた、どうしちゃったわけ!?そんな力が出せるのなら最初から出しなさいよ!」
「いや、その、僕も無我夢中でどうやってこんな力が湧いて出たのかさっぱり……あとは彼のアドバイスに従ったまでですよ」
「それにしても驚きました。この時間平面上のプレコグよりもあなたの見たビジョンの方が正しかったとは」
「いいや、あの映像におでんの入った寸胴鍋は無かった。おそらく、俺とジョンが未来に出向いたせいでまた変わったんだ」
『また未来が変わった!?』
「超サ○ヤ人状態で張った閉鎖空間でシェルターを守れると察知した研究員が、これ以上強力なものは作れないと判断した時点で量産して、俺に閉鎖空間をつけさせるつもりだったんだろう。それに民間人を避難させてそのときを待つつもりだった。ここにいる四人もそのつもりで修業を積み重ねていたはずだ。それを観察していた急進派が今がチャンスだと四人の体力が一番消耗しているときを狙って攻めてきたんだ。この時間平面上で緊急信号が出ていたわけではなかったからジョンも気付くのが遅れた。そしてプレコグの映像とほとんど同じ光景を見た青古泉が『まずい!』と叫び、それに呼応するように四人が俺たちの時間平面まで避難してきた」
「この時間平面での様子をずっと見ていたような口ぶりだな。そうだ、俺たちも今日の修行はここまでにしようと四人で話していたところにあの連中が攻めてきた。戦闘力でも数でも不利な上に他の民間人は避難するどころか、それにすら気付いてなかった。俺たちも深手を負い、そっちの時間平面にまで迷惑をかけるのを承知で逃げてきた。多少の戦力は分断できるとも考えていたが、まさか、『今日の修行前の状態にまで戻す』なんて方法で回復して戻って来られるとは思わなかったよ」

 

「……ふむ。帰ったら、あたし達の受験した大学の入試問題を解かせてみたくなったわね」
『はぁ!?』
「解かせてみたくなったって、俺が解くのか!?」
「ここまで頭が切れるようになったんだから、そのくらい簡単でしょうが!」
「単純に考えられるケースに対してどう対応するか考えていただけだ。俺が見た映像通りなら、エネルギー弾を撃った瞬間にテレポート膜で顔面にぶつければいい。さっき青古泉が背後から刺されそうになったときと一緒だよ。例のテレポート膜も思念体に通用するのか不明だったが、テレパシーを盗聴していたら慌て出したから、あとはテレポート先を急進派のアジトに設定して、全力のエネルギー弾を送りこむまでだ」
「この四人を修行前の状態まで戻すよう有希に言ったのは?」
「あれは俺の経験則に基づいたものだ。以前、俺の身体でジョンが暴れたときにタッチして元に戻ったら全身筋肉痛状態だった。それを瞬時に治してくれたのが有希だっただけだ。そのときは『情報結合を少し前に戻した』とか言っていたのを思い出したんだよ」
「では、青僕が我々と同じく超能力者として覚醒したのはなぜです?」
「……ずっと気になっていたことが一つあってな。それが今日になって、ようやく理解できた」
『ずっと気になっていたこと!?』
「さっき、半熟卵のおでんの説明をするのに螺旋○を出しただろ?最近の青古泉の不調は、アカデミー卒業前のうず○きナルトと同じ状態なんじゃないかと考えていたんだよ」
「あの漫画なら僕も読みましたが、それが今の青僕と一体何の関係があるというんです!?
「子供たちが小学校や保育園に行かずにバレーの試合に出たいと泣き喚き、美姫が眠っていた力が覚醒して情報爆発を起こしそうになったときのことだ。いつ三度目の情報爆発が起きてもおかしくなかったあの状況で、咄嗟に青俺が美姫の力を自分に預けてくれと言い出した。そのおかげで、一度目の情報爆発のときのように、古泉やエージェント達のような閉鎖空間を破壊するための任務を命じられた超能力者は生まれなかった。だが、あの時点で誰を超能力者にするのか既に選ばれていたんだ。無論、ジョンの世界で起こったことだから、選択肢は限られ、超能力者として力を分け与えられる人間が青古泉以外にいなかったんだ。それ以降、これまでと同様に俺の渡したエネルギーで超能力を使っているだけだったから、青古泉の中に眠っていた超能力者としての力に気付くことなく日々を過ごすことができていた。だが、最近になって影分身の修行を始めてから、意識がはっきりせず、美姫が与えた超能力者としての力とごちゃ混ぜ状態になって、青古泉が超能力を使うことに対して不調をうったえるようになった。俺が渡したエネルギーとは別のものまで入ってきたせいでコントロールしきなくなってしまったんだ。自分の推論が本当かどうか確かめるため、青古泉が球体を纏った段階で真っ先に球体が何層あるのか数えたよ。案の定、古泉+エージェント八人分の層が出来上がっていた。今日の一件で、青古泉はこの力と俺が渡すエネルギーの区別ができるようになったはず。それさえ上手く使いこなせれば、不調も解消されるはずだ」
「すみませんが、球体に戻して本当に九層あるのか見せていただけませんか?」
古泉の発言に素直に従った青古泉が球体に戻した。俺ももう一度と思って確認したが、やはり九層で間違いない。
「なるほど、僕とエージェント、合わせて九人分の戦闘力が上乗せされた状態が今の青僕というわけなんですね。通りで同位体を一撃で破壊することができたはずです。因みに、今の青僕の戦闘力はどの程度なのですか?」
「ん~~古泉やエージェントのように、まだこの力を使いこなしているわけじゃないから、使い慣れれば、もっとあがるはずだ。とりあえず、最低でもざっと3000000だ」
『3000000!?』

 
 

…To be continued