500年後からの来訪者After Future8-14(163-39)

Last-modified: 2017-01-10 (火) 07:16:28

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-14163-39氏

作品

冬のオンシーズンもようやく四日目。ドラマのオープニング&エンディング曲をいつもの生放送番組でという依頼が届き、急遽三日目と四日目を変更する羽目に。今頃、リハーサルを行っているところだろうが、最初から最後まで俺一人でやるなんて言わなきゃ良かった。三枚ブロックで相手の攻撃を封じる戦略を立て、ブロックアウト封じで攻め手を無くしたかに思えたが、エースを主体としたバックアタックに切り替え、こちらも三枚ブロックからダイレクトドライブゾーンでの攻撃、全体攻撃にシフトした。そして、迎えた三セット目。技名通り理不尽に四点もぎ取ったところで日本代表チームのタイムアウトが宣告された。

 

 こっちは全員俺だし、タイムアウトの30秒なんていうのはほとんど暇に近いんだが、まぁ、相手がどういう策で来るか見物ってところか。子供たちと一緒に青俺や青有希が入って来ないかなどと、弱音に近い空想を思い描いていたのだが、まだ三セット目の序盤で零式改(アラタメ)を駆使して点をもぎ取っている状態。どう考えても五セット目くらいまでにならんと、子供たちが帰ってきそうにないな。副審の笛が鳴ってコートの中へと戻ると、サーブ権はこっちだというのに前衛三人がネットに張りつき、後衛三人が前寄りに構えた。青チーム相手に零式改(アラタメ)を放ったときとほぼ同じ構図になったな。青俺のようにゾーン状態に入れる選手はいない。クロスなら腕から逸れていくだろうが、ここはストレートから落とすべき。青ハルヒのときのように『変態サーブ』とか言われなきゃいいんだが、ネットに引っかけるかそうでないかに関わらず、ストレートを放てばそうならざるを得ない。順番は勿論、ネットに引っかける方。前に詰めても、ゾーン状態の青俺でさえ、浮かせる事すらできずに腕を蔦っていたんだ。精神的ダメージの大きい方から受けてもらう。意識の%の移動が無くなった分、集中力を回復できたらしい。あの暇だと思っていた30秒もどうやら無駄ではなかったようだ。淀みの一切ない高速回転のトスとジャンプサーブで五度目の零式改(アラタメ)が炸裂する。まったく浮き上がることなくネットを蔦って行ったボールを、真正面から腕を大きく振ってレシーブするも、零式改(アラタメ)の回転の餌食となり、浮き上がることなく腕を蔦って胸に収まる。何と言うか、去年の八月、青OG達と初めて出会って、本社69階がOG達のフロアになったときのことが頭に浮かんだ。仕事とバレーに夢中だった当時のOGを見ている気分だ。胸に収まっても、それを刺激として捉えることなく、主審の笛が鳴りホールディングになってしまったことに対する悔しさが表に出ていた。変態セッターは異世界の店舗の店長として、店舗の切り盛りをしている真っ最中なんだ。二人で温泉旅行に行くことが確定した妻から「出た。変態サーブ」などと聞こえてくるかと思ったが、他の選手同様、この状況に呆れて口がぽっかり空いていた。鶴屋さん達の書き初めの審査基準ではいないが、呆れてはいても、何としても零式改(アラタメ)を習得してやろうという思いが、どこかしらから伝わってくる。微妙に上がった口角と、おそらく全身に鳥肌が立っているところから情報が流れてくるんだろう。第六球、「次こそは上げてやる」とやる気が漲っていた前衛を嘲笑い、ネットをスルーして今度は後衛の真正面。攻略難易度からすればネットを蔦うよりは上げやすかったかもしれんが、それでも高速回転の餌食となった。胸に収まっても反応は先ほどと変わらずか。この二球から得られる考察は、相手が俺ってこともあったんだろうが、この四か月ほぼ毎日のように抱き合っていただけあり、『変態サーブ』と呼ばれてしまったのも、要するに『青ハルヒの方が変態になっただけだった』ってことだ。この場にいる全員が証人だ。再び、ホールディングの笛が鳴った。

 

 しかし妙だ。いくら集中していると時間が立つのが早いとはいえ、覚醒状態であったとしてもサーブの8秒ルールは遵守しているはず。にも関わらず、時刻は既に午後四時をまわっていた。さっきは弱音を吐いてしまいそうになったが、これはこれで逆にまずい。零式を放っているところを伊織に見せるわけにはいかなくなった。妻より先に零式改(アラタメ)を撃ってしまいかねん。あと二ヶ月を切ったとはいえ、まだ保育園児なんだ。万が一、そんなことになれば、日本代表入りが確定してしまう。このサーブの正式名称通りで行くとサーブ権が切れる前に子供たちが来てしまう。ボールの戻りが早くなってきたところで第七球。次は自分のところに来ると、半ば確信をもっていたライトプレイヤーめがけて零式改(アラタメ)のクロス。飛んでくるボールに対して真正面に構えてないが、これはまずい!
「レフトと一緒に跳べ!!ツーで撃ってくるぞ!!」
敵に「ツーで撃て!」と指示を出しているかのようなタイミングだったが、腕を蔦って落ちることなくこれは上げられると確信して、前衛の影分身に指示を出した。流石に三枚壁とまではいかず、相手のレフトプレイヤーに対してブロックは二枚。撃ったサーブがサーブなだけに「ブロックに跳べ!」と叫んでから後悔した。視線はボールに向いたまま、垂直跳びでこちらのコートへ何とか入れようと試みている。腕の角度で読めたとしても、これは俺自身がかけた高速回転でどこにズレるか分かったもんじゃない!ブロックアウトも十分あり得ると勘繰っていたが、結局零式改(アラタメ)の高速回転の餌食となり、スパイクは撃てず仕舞い。だが、今のはもう一度検証する必要がありそうだ。高速落下する分、ネットにあたる位置がサイドラインに近くてもコート内に落ちるものの、その分横方向の力が弱くなって攻略しやすくなったとなれば改良版とは言えなくなってしまう。第八球、零式改(アラタメ)のクロスをネットに当てて、先ほどと同じコースを狙った。クロスと判断した瞬間、今度はステップを踏もうとレフトプレイヤーが下がり、ほぼ同様のプレーでサーブ権を切りに来たが、今度はセンター付近でネットに絡まりレフトには繋がらず仕舞い。しかし困ったな。高速回転に強い選手だったかどうかなど、相手国が零式並の高速回転を撃ってくるわけではないから、耐性がどの程度あるかなんて知るわけもないんだが……予想に反した対応に動揺していることは事実。これ以上同じコースを狙うわけにもいかん。次は絶対に上げてやると言わんばかりに、すかさずボールが返ってきてしまった。どうしたものか……

 

 主審のサービス許可の笛が鳴ろうかとしていたそのとき、拡大した子供たちを連れた青有希とジョンが体育館に現れた。丁度いい、伊織の前で零式を見せるわけにはいかん。トスは高速回転をかけたが、通常サーブをクロスに放ちコーナーを狙ったが、そう上手くはいかないか。サーブ権を切るチャンスだと言わんばかりにセッターが隠し手でサインを出した。
「ブロードのC!」
通常サーブに変わってもこちらの三枚壁は変わらずだが、ブロックを越えた球でこちらのダイレクトドライブゾーンでの攻撃を防ぎに来た。しかし、その対応策ももう見飽きた!ボールが落ちてくるのを待たずに、三枚壁の後ろからタイミングをズラしたバックアタックが炸裂!周りを確認しながら防御に転じようとしたところに日本代表の虚を突いたスパイクがすんなり通り、サーブ権を継続中の本体を除く影分身五体のメンバーチェンジを申請した。交代してコートから影分身が出ると、原作の漫画通りの演出で煙を上げて影分身が消えていく。配置はサーブ順に俺、美姫、ジョン、伊織、幸、青有希。何も言わずとも、美姫がジョンを主体にトスを上げていくはずだ。もはや高速回転の必要もない。三枚ブロックから一転、ブロックは無いが、相手のすべての手を読み尽くした上でのダイレクトドライブゾーンと、ジョンの跳躍力を駆使して残りすべてのセットを奪取。流石にジョンも出てきてくれて今日は助かったよ。
『前日までとは別人のような動揺ぶりでこっちが驚いた。どの道、あの三人を拡大するには俺が出ざるを得なかったからついでに俺も入ってみたが、どうやら正解だったようだな』
全セットと豪語していたが、俺もまだまだ修行が足らんらしい。それにあのクロスは後で確認する必要がありそうだ。眠っている間と同じようにはいかんらしい。とりあえずインタビューに応えてすぐにレストランに行ってくる。

 

「監督、今日の練習試合を終えていかがでしたか?」
「これまでとプレースタイルが異なるというのはニュースで見ていましたが、こちらの采配をすべて読まれた上での三枚ブロックとは驚きました。しかも、ブロックアウトまで封じられてしまうとは……三枚ブロックを越えたフェイント球すら、今後は彼に通用しないでしょう。まさに、難攻不落の要塞そのものでしたよ。また一つ世界大会に向けた良い勉強になりました。それに、オフシーズンの間は不完全な零式すら成功しない彼女を見ていて、次の世界大会の出場は難しいだろうと半ば諦めていましたが、不調などではなく、更に進化を遂げた零式のための練習をしていたんだと今頃になって気付いた自分に正直呆れています。完全版だったはずの零式に、更に改良を加えた彼にもね」
「監督、ありがとうございました」
「キョン社長、今日の練習試合を終えていかがでしたか?キョン社長が六人に増えたときは『これは反則ではないのか?』と疑ってしまうくらいでしたが……」
「ええ、前々からパフォーマンスとして何度か見せているとはいえ、正直、これはレッドカードを出されてしまうんじゃないかヒヤヒヤしていました。主審に『試合を始めて、プレーを見てもらえれば理由が分かる』と説明して、ようやくサービス許可の笛が鳴ったときはホッとしましたよ。ですが、世界大会を見据えた練習試合と考えると、こうでもしないと、三枚ブロックを相手にした練習試合なんてほとんど不可能ですからね。メンバーにも『今日は俺一人でやる』と伝えてはいたんですが、実際にプレーしてみて、流石にこれは最後まで集中力が持ちそうにないと感じていましたが、それぞれで仕事を済ませた仲間が駆け付けてくれたおかげで助かりました」
「ですが、その中でも新たな零式を放っていたようですが……零式の改良版ということでよろしいのでしょうか?日本代表チームもこれまでになかった守備形態を取っていたようですが」
「仲間にしか明かしていない、零式の対応策すら使わせないための改良版で間違いありません。『零式改』と書いて『理不尽サーブ零式改(アラタメ)』と呼んでいます」
「と言うと、これまで日本代表チームや世界各国がやってきたものは、あれは零式の対応策ではないと?」
「バレーもカードゲームと同じですよ。素人目で見れば、さも攻撃しているかのように見えるかも知れませんが、我々だけでなくバレーを知る人間からすれば、あれは自分のターンの攻撃を一回諦めて、相手にただ返しているだけです。二段トスからのスパイクなど、どんなに威力があろうともブロックされますし、コースも読まれてしまいます。それすら捕れないようでは、受ける方が悪いと判断されてもおかしくはありません」
「その対応策すら未だに講じられていないにも関わらず、その対応策をも使わせないのが零式改(アラタメ)ということでよろしいでしょうか?ちなみに、零式の対応策というのは一体どういったものなんですか?」
「それをこの場で答えるわけにはいきませんよ。それと、これを見て『アラタメ』ではなく『出鱈目』の間違いだろうと思った奴、文句ばかり言ってないでさっさと解決策を見せに来い!零式の対処法すら分からない奴に俺たちや日本代表を批判する資格は無い!」
「キョン社長、ありがとうございました」

 

 俺がインタビューを途中で抜け出すことなく最後までコメントをしたのは、一体いつ以来になるのやら。まぁ、それだけ明日の新聞記事の一面を飾るには充分の試合内容だったと見て間違いはないだろう。
『リハーサル中だったらすまん。今、練習試合が終わった。これからおススメ料理の方に向かうが、立札の注意書きを変えておいた。「強引過ぎる取材をしている場合は撮影許可の時期を延長する」ってな。この件に関しては「一般常識だから変える必要はない」という話だったが、これまでの報道陣のことを考えれば、その一般常識すら持ち合わせていない連中がほとんどの可能性が高い上に、ようやく許可が出たばかりということもある。少しでも多い人数でその様子を確かめたい。来られそうなメンバーはレストランの接客の方に催眠をかけた状態で来てくれ』
『問題ない』
『それと古泉、火入れをしながら考えておいて欲しいことがある。今の日本代表の采配を読むのは難しいかもしれんが、ゾーン状態に入れるようになったのなら、相手に采配を読まれない様にトスを上げることはできないか?今日の三枚ブロックを出来れば影分身抜きでやりたいと思っている。青ハルヒや青有希、ジョンも加えてな。そこは青古泉でも問題ないだろうとは思っているんだが、ゾーン状態に入れる今の古泉なら、多少修練するだけで生放送のときも古泉がスイッチ要因としてトスを上げられる。その分、朝倉が攻撃にまわれるだろ?』
『なるほど、日本代表に青僕だと勘違いさせるわけですか。こればっかりはやってみないことには何とも言い難いですが、挑戦してみる価値は十分にありそうです!有希さんにセッターを変わってもらえないかどうか、後ほど聞いてみることにします』
古泉とテレパシーをしていた間にもレストランには着々とメンバーが揃い始めていた。SOS団とENOZが二組同時に呼ばれるときはいつも同じ楽屋だからな。ENOZのうちの誰かを残してきたんだろう。安比高原のレストランにはハルヒ、みくる、佐々木、中西さんが催眠をかけた状態で現れた。既に客席は満席、夕食開始の時間が刻々と近づいてくるにつれて、レストラン内が報道陣で埋め尽くされていく。本当に三ヶ所にバラけているんだろうな?おい。死傷者、逮捕された人間、悪事を暴露され辞職させられていった人間がこれまでに数多く出ているはずだが、どうしてこんなに集まってしまうんだ?バレーの取材で本社を訪れていた人間だっているだろうに……。

 

『キョン、そっちの方はどんな感じ?』
『青ハルヒか。俺にテレパシーを送ってきたってことはおそらく、どちらも似たような状況と判断して間違いないらしいな。今年は三ヶ所に増えているにも関わらず、去年と同様レストラン内を占拠するかのように報道陣が集まってる。違うか?』
『やっぱり……黄古泉君の方も、同じだと思ってよさそうね』
『キョン君、これ、大丈夫なんですか?』
『僕も同感だよ。客が迷惑することが目に見えているじゃないか。僕たちの邪魔にもなりそうだ』
『とりあえず、全体に伝える。どうやら、三ヶ所とも似たようなものらしい。さっきの打ち合わせ通り、強引過ぎる取材を試みる場合は、今日はOKにしても、明日以降規制をかければいい。どこのメディアを規制するか足でサイコメトリーしておいてくれ。どの道、明日はどのメディアもこれが一面になることはない。状況によっては俺や古泉がレストラン内に出てテレポートさせてしまえばいい。青ハルヒのところにも俺が行く。古泉はそうはいかないだろうが、俺の場合は殺気を浴びせてから追い出す。相応のことをやっているんだから、客も「強制退去させられて当然だ」と感じるはずだ。生放送まで時間もないし始めてしまおう』
『僕も殺気を放ちたいところですが仕方がありませんね。事情をはっきりと伝えて追い出すことにしましょう』
『くっくっ、随分と自信あり気じゃないか。どこもキミの戦略とサーブで一面を飾るってことかい?』
『俺がインタビューを途中で抜け出すことなく、最後までコメントしていたからな。一体いつ以来になるのやら記憶を辿っていた程だ。今日くらい、多少の好き勝手はやらせてやるよ。だが、その撮影した分もほとんど無駄になって、明日からまた出禁を強いられる奴が何人出てくるのか、馬鹿面でも拝見させてもらおう』
『面白いじゃない!さっさと始めましょ!あんたはその馬鹿面をしっかり映像に抑えておきなさい!』
『今の鶴屋さん達でも大爆笑するものに編集しておいてやるよ。じゃ、頼んだぞ』
『問題ない』

 

 生放送出演組は放送開始前に楽屋で夕食を摂り、おススメ料理を出しつくした段階で、古泉、青ハルヒと三人で遅い夕食を摂っていた。影分身は夜練の真っ最中。今泉和樹の催眠をかけてストレートのみだが、早くレストランを始めたこともあってか夜練開始までにはおススメ料理を出しつくしていた。今日は間に合ったが、基本的に金曜日は俺は出られないと印象付けておいた方が良い。今後どうなるか分からんしな。
「結局、三ヶ所とも報道陣を追い出すことになってしまいましたね。立札の内容を変えた意味もほとんどなかったのではありませんか?」
「あれだけやっていれば追い出されて当然よ!キョンの放った殺気に客も納得してたみたいだし」
「明日以降になってようやく、あの内容の本当の意味を知ることになる。追い出された奴は身を持って体感しているだろうが、それでも電話をかけてくるだろう。この土日は電話対応するかどうかで悩んでいたんだ。どうする?」
「例のイベントに関連した連絡も来るでしょうし、社員の負担も減らしておくべきです。僕はおススメ料理の残りの仕込みもありますのでそこまで影分身は割けないでしょうが、第三人事部まで使えば、午前中のうちに沈静化できるのではありませんか?あとは圭一さん達に任せておけばいいでしょう」
「ん……俺もこれで練習試合には当分出る予定はないが、こっちも色々とやりたいこともあってな」
「と、言いますと?」
「明日のニュースやレストラン外での報道陣の様子を確認してから動くことになるだろうが、まずは零式改(アラタメ)を青俺と古泉に受けてもらうところからだな」
「ああ、それなら僕も仕込みをしながら練習試合の様子を見ていましたよ。初見でクロスを上げられるとは僕も驚きました。あの選手が高速回転に強いせいなのか、それとも改良したのが逆にまずかったのか確かめたい。違いますか?」
「はぁ!?初見であの変態サーブを上げられた!?」
「半年前まではこっちのOG達もそうだっただろうな。しかし、今日実際に日本代表相手に使ってみたが、おまえのように『変態サーブ』と捉える選手は一人もいなかったぞ。青OGのセッターも最近は随分まともになってきたし、変態なのはおまえの方じゃないのか!?」
「言われてみれば、確かにここ最近の彼女の頭の切れ具合には、僕も驚きを隠せそうにありません。有希さんと朝倉さんを宇宙人だと告げて早々に納得したのもそうですが、あなたの考え出した例の密室トリックを解いたのはあの六人の中では彼女だけでした。もっとも、一色の犯行時のランジェリーをかなり大胆なものにしてあなたに答案を提出していたようですけどね。そうでもなければ、満点を貰っているにも関わらず、あなたがあんな反応をするわけがありません」
「俺を含め、69階に集まるOG全員がアイツの変態ぶりに呆れ果てていたんだが、最近は頭の回転の速さの方に呆れ果てているくらいだ。あのときは、『返り血をなるべく浴びないようにするため』だとか理由をつけていたが、布地のほとんどないテディドールで犯行の様子の情報を渡してきやがった。当然の反論だ」

 

 古泉と俺が変態という程でもなくなってきた変態セッターのことを話している間、青ハルヒはずっと納得がいかないという表情を浮かべていた。あまり深く追求させないためか、話を逸らすようで本題に戻してきた。
「それで、こっちのキョンと黄古泉君に何を確認させるつもりよ!?初見で上げられたなんてあたしも納得できないわ!あたしにも捕らせなさいよ!」
「おまえまで入ったら、また変態サーブだと言い出すだろうが!それを周りに広めさせないために古泉と青俺に頼もうとしているんだ。おまえは入ってくるな!」
「ぶー…分かったわよ。『変態サーブ』って言わなきゃいいんでしょ!」
「それだけじゃ足りん。おまえが妙な声を出した時点で、俺の方が変な眼で見られるんだ。おまえは青古泉相手にバトルしていればいいだろ!?」
「あんただって黄涼子とジョンを待たせることになるでしょうが!」
「あのな、俺がジョンの世界に行くのが一番遅くなるのは、一体誰のせいだと思ってるんだ!?あの二人なら検証が終わるまで二人で闘っているはずだ。この件だって練習試合の時点でジョンに伝わっている」
「とりあえず、受けてみないことには何とも言い難いですね。あの映像を頭の中でもう一度再生してみましたが、ボールに真正面に入らず、ネットに垂直に構えていた方が対応しやすいということなんでしょうか?」
「それも含めて全部だ。俺もてっきり手首だけ蔦って落ちるものだとばかり思っていた」
「今日の場合は、流れで次はどこに行くかが分かっていましたからね。零式よりもクロスが対応しやすくなったことが判明してしまったとしても、あなたのコメント通り、攻撃にまで発展できるとは正直思えません。攪乱してしまえば気付かれないのではありませんか?」
「だとしても、修得難易度が高いだけの欠陥品をOGに練習させるわけにはいかんからな」
古泉の言う通り、やってみないことには始まらない。青ハルヒも参加の意思を表明していたが、ジョンや朝倉とのバトルの時間も確保したいし、今日のところは引き下がってもらった。

 

 ジョンの世界に足を踏み入れてすぐ、青俺にも事情を説明して、ゾーン二人を相手に零式改(アラタメ)のクロスを受けてもらったのだが、何とも言えない結果が返ってきた。
「本当に二回とも上げられたのか!?その選手の対応がたまたま良かったとしか思えない。二回目は上がってもネットに引っ掛かったんだろ?俺たちでさえ、手首を蔦って落ちる事の方が多いってのに」
「となると、やはり前の二セットの間に集中力が落ちていたと考えるのが妥当でしょう。ただでさえ、影分身を入れた六人の意識の高速移動などという高等技をやった直後なんです。今放ったものと、あの試合中に放ったものが同じだったとは到底思えません」
『モニターで確認した方が早そうだな』
俺の思考がどストレートに伝わっていただけあって、どうやらジョンも気になっていたらしい。練習試合中に撃ったものと、二人を相手に放ったものが二つ並んで超スロー再生された。
「やはり集中力の違いが出ていたようですね。ネットを蔦っていく角度は同じですが、回転数がまるで違います。同じ零式改(アラタメ)でもここまで違いが出るものだとは思いませんでしたよ。あなた一人で三枚ブロック、ダイレクトドライブゾーン、それに加えて零式改(アラタメ)では流石に無理があったようです」
「なら、さっき古泉に話していた方で撃つことになりそうだ。青ハルヒ、オフシーズンに入ってからでもいいから、一緒に練習試合に出てもらえないか?」
「嫌よ!オンシーズンだって生放送しか出ないって言ったじゃない!異世界支部の社長としてやらなきゃいけないことがこれから山ほど出てくるんだから!結局、あたしには受けさせてもらえなかったし、虫が良すぎるわよ!」
「そうか。だったら、そっちに集中してくれ。他をあたることにする」
「では、僕もそちらの練習に入ることにしましょう」
「二人で一体何の話だ?こっちのハルヒを入れて何をするつもりだったのか、教えてもらえないか?」
「なぁに、今度は俺一人でなく、俺たちで三枚ブロックの壁を作って練習試合をしようとしていただけだ。ジョンも参戦するのなら、俺、青俺、ジョン、青古泉、青ハルヒ、青有希の六人で可能だと踏んだまで。少しでも多く経験を積んでおいた方が世界大会に向けた練習になるからな。古泉も折角ゾーン状態に成れるようになったのに、現状ではゾーンだけでは何もできないとぼやいていたから、セッターとしてトスを上げてみたらどうだと提案していたんだ。生放送でも、黄チームで戦う最後のセット、有希のスイッチ要因として古泉が入れば、青古泉と誤認させることもできるし、朝倉が攻撃に加わることができるだろ?今から十三日までの間なら、十分間に合うはずだ」
「カメラの前に立つ以上、黄僕との差をなるべく無くそうと努力してきましたが、これまで僕が積み上げてきたものが一気に差を縮められるとなると、流石に嫉妬してしまいましたよ。ですが、黄僕がゾーン状態に入れることを加味すれば、あなたのおっしゃる通り、本当に生放送までに間に合ってしまいそうですね。それに三枚ブロックの件も面白そうです。黄僕の都合が合わないときは、僕も参加させてください」

 

 ハルヒとバトルしていたんじゃないかと聞きたくなったが、青ハルヒや他の連中と同様、俺たちの様子が気になって仕方がなかったらしい。
「そういうことなら俺も入れてくれ。有希、折角の誘いなんだから、おまえも入れ」
「えっ!?でも、わたしじゃ足手まといになっちゃう。黄キョン君達の攻撃に合わせられるかどうか……」
「心配いりませんよ。三枚ブロックで勝負を仕掛けるのなら、ダイレクトドライブゾーンでの攻撃は使えませんからね。精々、ブロックの上から落としてくる球に対してバックアタックを仕掛けるくらいでしょうね」
「いや、三枚ブロックの他にもブロックアウト封じもやっていたんだが、二セット目の途中からエースのバックアタック主体の攻撃に切り替わってな。それで全員攻撃かダイレクトドライブゾーンでの攻撃にシフトしていたんだ。どの道生放送で子供たちと一緒に出る以上、ダイレクトドライブゾーンに合わせないといかん。今回は全セット25点マッチで行くつもりだし、練習する時間ならたっぷりあるだろ?青ハルヒの代わりなら、古泉が影分身したと見せかけて青古泉をテレポートさせるだけでいい。双子疑惑が出てきてしまったときの理由づけにはもってこいだし、ブロックアウト封じもするから古泉もゾーンを生かす場が増えるはずだ」
「あ―――――――――――――っ!もう!!分かったわよ!!あたしが出るから枠一つ空けておきなさいよ!」
「は?おまえは、異世界支部の社長としての仕事で忙しいんだろ?」
「うるっさいわね!あんたが最後まで説明しないから悪いんじゃない!!そんな面白そうな話、あたしが断るわけがないでしょうが!!いいから、あたしも出しなさい!!」
「虫が良すぎるとか言ってなかったか?さっき」
「前言を撤回するわ!いつやるのか早く教えなさいよ!!」
「とりあえず来週以降だ。土日は子供たちがいるし、ディナーやおススメ料理の仕込みもあるからな」

 

『くっくっ、この間の有希さんにしろ、今日の涼宮さんにしろ、尻に敷かれているようで、キミの掌の上を転がされているようだね。僕もその中の一人にすぎないような気がするよ。僕には、あまり酷いことを言わないでくれよ?』などと、佐々木からテレパシーが飛んできたが、今のように青有希が断ることも想定していたんだ。しかしまぁ、子供たちと一緒に闘うのなら俺の指示がなくとも、ダイレクトドライブゾーンでの攻撃を仕掛けざるを得まい。あの攻撃を面白いと感じてしまったからな。今度は青有希が子供たちに合わせることになる。鶴屋さんやOG達でさえ、二日目でスピードに慣れて入って来たくらいだからな。生放送までには間に合うだろう。俺はジョン&朝倉を相手にバトル。青古泉もハルヒ達を相手に隣のフィールドで闘いを繰り広げ、古泉はバレーの練習に参加。セッターを務めていた。
『新聞記事の一面が出た。集中力は切れていても、どこもキョンの記事で決まりだ』
「レストランの記事はどうなったか分かるか?」
『全社、三面以降だ。レストランより、日本代表のディナーの方が優先されたらしい』
「くくく……新川さんのディナーに変わっただけでそんな結果になるとは予想外ですよ。選手たちがどのような反応を示していたのかは僕にも分かりませんが、彼らもさぞ、精神的ダメージが大きいことでしょうね」
「レストランを追い出された上に、撮影許可期日が更に一ヶ月延長されたら間違いなくそうなるだろうね。通夜の参列者のようになっていたのは何度か見たけれど、宿泊客がレストラン内に入りづらくなるような雰囲気を醸しださないといいんだけどね。ところで、『選手たちが』というのはどういうことだい?監督やコーチ達には、キミが感想を聞いてきたかのような口ぶりじゃないか」
「ええ、昨日は園生に事情を話して、久方ぶりに大浴場の方に行ってきました。僕もディナーの方が気になっていましたからね。ですが、『君たちの師匠だというのが良く分かった』と監督に言っていただけましたよ」
『久方ぶりに』か。あれだけ大浴場を気に入っていた奴がそんなセリフを吐くほどとは……有希に園生さんとの自室の入れ替え話を持ち出して良かったな。鶴屋さん達の檜風呂の件ではないが、ワンフロアで二人なら97階の浴室もより広い範囲で浴槽が確保できたはず。昨日は、スカ○ターでディナーの様子を探るどころでは無かったからな。週末のディナーも日本代表チームが80階へと滞りなく集まり、新川さんのオリジナル料理に舌鼓を打っていたのなら、それでいい。明日は、俺も選手たちの様子を見ながら、おススメ料理の調理へと向かうことができる。

 

 新聞記事の一面の見出しは『驚愕の影分身!日本代表VSキョン社長六人!!難攻不落の三枚壁!!』、『監督も呆れた!進化を遂げた零式「理不尽サーブ零式改(アラタメ)」現る!!』等々。VTRの方はその見出しに沿った俺の三枚ブロックと零式改(アラタメ)を放つシーンが放映され、レストラン内の様子を映したものなど、どこも取り扱っていない。あとはいつも通り、監督と俺のコメントか。今回も最後までカットされることなく放送されていた。今日はどのTV局も専門家に聞いてくるのではなく、元日本代表をコメンテーターとして呼んだようだ。どんな解説をしてくるのやら。
「日本代表チームの相手として相応しい戦略、オリジナルサーブの昇華、さらにこのコメント、どれも圧巻という他にありません。今朝はコメンテーターとして元日本代表選手お二人に来て頂いています。よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
「率直に、ご覧になっていかがでしたでしょうか?」
「正直、耳が痛い思いでいっぱいですね。ただ相手にボールを返すよりは、二段トスからのスパイクの方が少しはマシというだけです。中学校の部活動でも、上位大会ではそれすら許されない状態で、私も何度も監督に叱られた覚えがあります。『ブロックもついてコースも分かっているのに、どうしてボールを拾えないんだ!』と言われていた当時の記憶が今頃になって甦ってきました。本当にコメント通りとしか説明のしようがありません。世界大会では、どの国もこれまで零式の対応策にすら値しない状態だったにも関わらず、更に技を精練させた今回の零式改(アラタメ)には本当に驚かされました。零式の対応策というのも、おそらくこの二つのサーブの性質の違いに関係しているんだとは思いますが、解決の糸口すら思いつきません」
「私たちがその解決の糸口をこのような場でうっかり喋ってしまって、敵に塩を送るような形になってしまうことを考えると、迂闊に話すことができそうにありません。ですが、男女問わず、どの世代でも課題とされる点をこの二日間で体感させてもらえたので、是非攻略して欲しいと思っています。VTRを見る限り、これは攻略難易度が高すぎる気もしますが、それに打ち勝つ方法を探してもらいたいです。今も行われている、非公開練習で培われた驚異的な防御力は、これまでの日本代表には無かった力だと思います。私たちが現役の頃は、前のシーズンのように、たった15点の五セットであれだけの時間を使うなんて未だに信じられません。今シーズンでは、その防御力を攻撃に活かす戦術も見せてもらうことができましたし、その二つを武器に世界大会に挑んでいってほしいと願っています」
「お二方とも、本日は貴重なご意見を誠にありがとうございました。番組の最後までお付き合いいただければ幸いです。さて、次のニュースですが………」

 

「流石は元日本代表選手たちっさ!コメントの中にもあったにょろが、相手国に塩を送るような真似はせず、今の日本代表チームを応援してくれる良い先輩だったっさ!こんなメッセージを貰ったら、攻略のヒントも掴まずに世界大会に行くわけにはいかなくなったにょろよ!」
「バレー関連のニュースでこれだけの尺を取るなんて、僕も意外だったよ。僕たちもそろそろ身支度をしないといけない時間になってしまった。それに、僕たちはこのチャンネルを集中して見てしまったけれど、他のTV局のコメンテーター達は大丈夫なのかい?」
『どこも似たようなものだ。キョンの最後の一喝が効いたらしい』
「それを聞いて俺も安心したよ。しかし、監督がこう言っている以上、互いの世界大会に向けたゲン担ぎに温泉旅行でもと思っていたが、月曜のディナーの仕込みが終わった段階で出かけた方がよさそうだ。どの道、影分身を置いていくなら、トスの段階から高速回転をかけてサーブ練習をしている今の方が良い。それと有希、例のアニメの再アフレコを今日の午後からやりたい。影分身でいいから付き合ってくれないか?」
「分かった」
『キミって奴は、一度に二か所も突っ込まないといけないようなセリフを言わないでくれたまえ。どうしてそうなるのか、僕たちにも分かりやすく説明してくれないかい?』
「『身支度をしないといけない時間』だと言ったのはこちらの佐々木さんで間違いありませんが、黄有希さんに手伝いを頼んだ方は僕も意味が分かりません。その件については、例の声優が揉めていたのではないのですか?」
「連絡を待つよりも、次○大介を除くル○ン側四人と、毛利○五郎役のアフレコをして日テレに送りつけた方が早いと判断したまでだ。有希なら、その五人だけ音声を抜いて、他の役や効果音はそのままにすることも可能なはず。もう一度あの映画を見直したんだが、オープニングを終えて、互いのキャラクターを紹介しているところが特に酷かったんでな。TV局の人間に聞き比べてもらった方が良いと思っただけだ。バレーの方は、世界大会直前になって安定しない零式の練習をしている風景を監督に見せるわけにはいかないだろ?これ以上、監督を不安にさせるような真似をしたら、こっちのOG六人での出場が危なくなってしまう。青OGとの入れ替えも加味して、失敗するなら今のうちってことだ」
『あぁ、なるほど!』
「どちらにせよ、全員の前で改めて説明する必要がありそうですね。園生からテレパシーが飛んできたので、僕は先に抜けさせていただきます。では、後ほど……」
「とにかく、あたし達もさっさと準備して、午後は練習試合に出るわよ!キョンがいなくても、あの戦法ができるところを見せつけてやらなくちゃ!OG達には三月号を全部作らせてから叩きこめばいいわ!」
「早めに三月号を仕上げようとは考えていたけど、わたしにも試合に出させて欲しいわね。月曜には確認するだけの状態まで仕上げておくわ。男性誌の方はまだ分からないけど、それならその日の夜から作り始められるでしょ?」
「問題ない。彼の提示した音声だけ抜き取っておく。あとは一人でアフレコ可能。わたしも試合に出る。でも、今日と明日の正セッターは美姫。OG達とは平日の練習試合で一緒に出るだけ」
「その方がより多くの選手に戦術を叩きこめると、監督たちにも思わせることができそうだな。さっきも言ったが、今シーズンの生放送は25点でいくと伝える。ジョンが入るセットは大丈夫だろうが、五セットを二時間で収めるつもりだ。交代するなら早めに言えよ?」
『フフン、あたしに任せなさい!』
子供たちとOG達が口を揃えてハルヒの真似をしたのを聞いたところで、ジョンの世界を後にした。

 
 

…To be continued