516 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 22:12:17.84 ID:eLBUbpqD0
寒中見舞い申し上げます。mdhmください。
まどかが、人間として生きた記録を奪っただけ。
…実を言うと、嘘だった。私が得たまどかの記録には、剥がしきれなかった円環の理の力がほんの少しだけ付着していた。
正直、私も美樹さやかのことを言えない程度には不器用な性質なのだ。初めて振るう悪魔の力で、しかもあのシチュエーション。とても細かい力加減なんてする余裕は無かった。
とは言え、付着していた力は本当に僅かだったのだ。裂けるチーズを裂いたときに付いてくる糸くずみたいなチーズ。あんな感じで。この程度、無視しても構わないと思った。
気付いた時には、手遅れだった。
「おかえりなさい、ほむらちゃん」
玄関で私を出迎えたまどかは、唇を突き出した。無感動に、唇を重ねる。感触も温かみも伝わってこない。唇が重なると同時に。初めからそこに居なかったようにまどかは消えた。
「ちゃんとうがいと手洗いしないとダメだよ」
洗面所にもまどかが居て、唇を突き出してくる。
「ひゃあ! ノックくらいしてよほむらちゃん!」
お手洗いにも居た。
何故あの時気付かなかったのだろう。私に御せない力だからこそ、裂ききれずに付いてきたのだ。
宇宙の改変の中で変質したまどかの力の残滓は、決して私から離れようとしない。様々な所に現れ、私を翻弄…いえ、私を心配している。
まどかはどんな姿になってもまどかのままで、その上私の願望を反映させているのか最後に私にキスを強請る。私は、その唇に触れられないのに。
泣きそうになりながら、トイレから出る。隣の洗面所のドアからまどかが同時に顔を出した。
「ちゃんと蛇口閉まってないから水が垂れてるよ」
まるで口うるさい母親のような事を言うあどけない笑顔の幻影に、虚しい口付けをしてから蛇口を捻った。自業自得とはいえ、神様が悪魔に課した罰は酷く苛烈だ。
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「…ん」
寝返りを打った先に、布団から金色の眼だけが覗いていて悲鳴が漏れかけた。
「もう11時だよ」
寝覚めは最悪で、ベッドに横たわるまどかにキスをする気持ちの余裕はなかった。
…放っておけば、いつまでもベッドに横たわったままなので、いつかは消さなければならないのだが。
洗面所のまどかは、ポストのチラシを回収した方が良いと言った。
私宛の郵便物なんて殆ど届かないが、ポスティングされたチラシは定期的に取り除かないと溜まっていってしまう。そういえば、ここ最近ポストを開けた記憶がなかった。
不快な目覚めでまだぼうっとしている頭を振っておざなりに身支度をして、アパートの玄関に据えてある集合ポストに向かうべく、玄関を開けた。
「わ! …あ、ほむらちゃん」
呼び鈴に手を伸ばしたような格好のまどかが居た。
「学校に忘れ物してたよ」
機械的に唇を重ねた。
柔らかい感触。優しい温もり。見開かれた瞳。
「……!」
「…え?」
真っ赤な顔をしたまどかは、いつまで経っても消えてくれなかった。
旧年中は大変お世話になりました。本年も変わらぬお付き合いの程を。mdhmください。
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