:シーサーのお尻の慈愛スポット

Last-modified: 2017-01-31 (火) 01:15:33

 雲がどんよりと空を覆う冬の日に、シーサーは震えていた。
「さ……さむ、さむい……」
(さむすぎて……いしきが……なんだか……もうろうと、してきた……)
 寒空の下、シーサーは凍え震えていた。
 すると、どこからともなく織姫が駆けつけて来る。
「私に任せて! さあ、シーサーこっちに」
「お、織姫……?」
 織姫は息せき切ってシーサーの腕を掴む。
「冷たっ」
 触れた腕が想像以上に冷たかったのか、織姫は真面目な顔でシーサーに言う。
「シーサーの腕、氷みたいに冷たいわよ」
 シーサーは青白い顔で震えながら頷く。
「さ、さむい、から……」
(織姫の、手、あたたかい)
 走ってきた織姫の熱が、触れられた腕からシーサーに伝わってきた。
「これはいけないわね……」
 織姫は真面目な顔のまま呟くと、そのままシーサーの腕を掴んでどこかへとどんどん引っ張っていく。
「ど、どこに……」
「とりあえず、ついてきて」
 シーサーは寒さでガタガタと震えながら、織姫に引かれるままに歩いていく。
「あ、あたたかい場所に、行く、のか……?」
 震える声でシーサーは聞いた。
「まずは慈愛の力で体を熱いくらいにしてあげるわよ」
 力強い声で織姫は答えた。
 ガタガタと震えながら、シーサーは安堵した。
(なんだかよくわからないけど……慈愛っていうなら、多分だいじょうぶだろう……)
 寒空の下、真っ白い雪景色の中を、織姫はずんずん歩いていく。
 シーサーは織姫に引かれて歩きながら、寒さで意識が段々と遠のいていく。
(どこにむかってるんだろう……おんせんとかだったら、いいなあ……)
 霞む意識の中で、温泉に浸かる自分を想像する。
(ああ……おんせん、あたたかい……おんせんは、いいなあ……)
 シーサーが頭の中の温泉に浸かり始めた時、織姫が立ち止まった。
「さて、着いたわね」
 織姫の呟く声でシーサーは我に返る。寒さで青白くなった顔できょろきょろと周囲を見回した。
「あ、れ……? おんせん、は、どこに……?」
 連れてこられたのはひと気のない林道の奥だった。
 温泉は見当たらない。
 目の前には、寂れ果てた古い御堂がぽつんと建っている。
(こんなとこに……お堂……? でも……ぼろぼろだな……うちすてられたものかな……)
 シーサーはもう一度あたりを見回す。
 林に囲まれた場所で、あるのはやはり古い御堂だけで、温泉はおろか温まれそうな場所や物は何もない。
 唯一目につく古い御堂も、ぼろぼろで隙間風がひどそうで、見ているだけで寒々としてくる。
(それでも……そとに、いるよりは……まし……なのかな……?)
「そう、だよな……おんせん、なんて……このへん、には……」
「温泉はまだよ」
「まだ……?」
(まだって、ことは……あるには、あるのか……?)
「そうね……とりあえず、この中に入りましょう」
 織姫はシーサーの腕を引っ張り、御堂の戸に手を掛ける。立て付けの悪そうなガタガタという音を立てながら、苦労して戸を開く。
 シーサーを中に押し込むと、後から自分も戸をくぐる。
「さむい、ぜんぜん、あたたかく、ない」
「冷え切ってるわね。なんだか外より寒いくらい……」
 御堂の中の空気は冷え切っていた。
 見た目よりは風を凌げているようだったが、ぼろぼろの壁や汚れた板張りの床がひんやりと冷気を放っている。
(ここに、なにが、あるんだ?)
 シーサーは御堂内の冷気で一層ガタガタ震えながら青白い顔で織姫を見つめる。
 織姫はおもむろに自分の羽衣をふわりと広げた。
 冷たい板張りの床に羽衣を敷いてシーサーに言う。
「さあ、ここに腰を下ろして」
(はごろも、に、すわって、いいのか?)
 シーサーは言われるままに腰を下ろす。
 羽衣越しの板張り床は冷気を放つほど冷たいはずなのに、シーサーには不思議とあまり気にならなかった。
 床の冷たさが分からないほど、シーサーの体からは体温が失われていた。
 しかし、シーサーは自分の体がそれほど冷え切ってしまっていることに気付いていない。
(すごいな、これも、はごろもの、じあいの、ちから、かな)
 そんな風に、羽衣に宿った慈愛の力的なもののおかげだと思い込んでいる。
「穿いてるものを脱がすから、少し足を上げてね」
 織姫の言うままに、シーサーは後ろに手を着き、足を上げた。
 穿いていたものが腰からするりと下げられていき、小ぶりな尻と敷かれた羽衣をたわませ、引き締まった腿をするすると滑り、足の指先からすっと抜き取られた。
(なぜ……ぬがす……? ひょっとして……おんせん……なのか? いまから……おんせんが……でてくるのか……?)
 冷えきった御堂内の空気に体温を奪われて、シーサーの意識はいよいよ朦朧としていく。
(おれが、さむさで、からだが、うまく、うごかないから……それを、きづかって、ぬがせて……)
 朦朧とした意識の中、シーサーはそんな風に理解しながら自分を脱がす織姫をぼんやりと見つめていた。
「じゃあいくわよ」
 穿いてたものをすっかり抜き取った織姫の手が、シーサーの膝を広げていく。大きく足を開かせて、それから、今度は目を閉じ何やら意識を集中し始めた。
(いく……? おんせんに……いく……のか……?)
 シーサーは青白い顔で後ろ手に姿勢を保ったまま、足を開き、織姫の顔の前に自らの股間を開けっ広げに晒して、小さく震えながら、意識を集中している織姫の次の行動をじいっと待っていた。
 カッっと、織姫が目を見開いた。
「慈愛堀り!!」
(じあ――?)
 そう叫ぶやいなや、織姫は片手の中指をシーサーの菊門へと根元まで一気に突き入れた。
「いぃ゛っっっ――――」
 シーサーの尻に、経験したことのないすさまじい衝撃が走った。
 丸々と目を見開き、大きく首を仰け反らせ、絶叫する。
「――――っだぁぁあああ~~~~~!!!!」 
 ただでさえ古い御堂の屋根が、震え崩れ落ちてしまいそうなほどの大きな悲鳴が上がった。
 息の全てを叫び声として放ったあと、今度は、息も絶え絶えに悶絶する。
「は、うぁ、あぁ……? ぐう、んぅぅ、……はっ あぁ、はっ、ぐぅぅ……?」
 御堂の天井を仰ぎながら、尻を襲う痛みで口をぱくぱくさせる。
「つぅ……あ、ぐぅ……あ……?」
(な、なにが……?)
 息も絶え絶えのまま、シーサーはなんとか仰け反らせていた首を元に戻す。
 瞳には涙が浮かんでいたが、同時に戸惑いの色も浮かぶ。
「おぉ、り、ひめ……?」
 救いを求めるように見た織姫の顔は、あくまでも真剣なものだった。
 真剣な面持ちで、シーサーの股ぐらを見つめている。
 シーサーも、織姫の顔から視線を落とし、自分の股ぐらを覗き込んでいく。
 織姫の手が、シーサーの尻にぴったりとくっついている。くっついているその手が、その手の中指が、尻の穴に入っている。中指が、その付け根まで深く、シーサーの尻穴の中に埋没していた。
 シーサーは目の前で何が起きているのかすぐには理解できなかった。
「え……ぅ、えぇ、ぇ……?」
 戸惑い、息を苦しそうに吐き出しながら、混乱する。
(え? え、え? なんだ、これ? これ、えぇ?)
 涙の滲んだ目を何度も強くしばたたかせてから、開けっ広げにした足の股ぐらをもう一度見直してみた。痛みを感じる尻穴を、もう一度よく確かめてみた。
 尻の穴に、織姫の中指が、根元まですっぽり嵌っている。
(おれのしりに……ゆびが、はいってる……?)
 嘘みたいな光景だった。
(うそ、だろ……、ゆ、ゆびが、織姫のゆびが、はいって……俺のしりに、ほんとうに入って……!)
「な、な、なにを、なにを」
 シーサーの頭の中は訳が分からなくなった。
(おんせんは!? おんせんはどうなったんだ!?)
 混乱しているシーサーの様子を見た織姫が、冷静な声で説明をする。
「体の内側から慈愛の力を注入して、体を内側から活性化させるのよ」
 シーサーの頭は、織姫の言ったことを意味のある言葉として認識してくれなかった。
「お、おんせん、は?」
「そうね。言ってみれば、そう……これからあなたの温泉を掘るのよ」
「いみ、が、わからねえ!」
 苦しみに息を喘がせながら、シーサーは叫んだ。
 その時、織姫がシーサーの尻の中にいれた中指を、くいっ、と曲げた。
 尻の中で織姫の指が動いたのが、シーサーには嘘みたいにはっきり分かった。
「ひぃぃっ……う、動かすなぁ」
(なんで、尻の中で、織姫の指が動くのが分かるんだよお)
 シーサーは困惑しきったように眉を寄せて、小さく震えながら、苦しそうに白い息を吐く。
 尻穴の中にはっきりと分かる指の異物感に全身が硬直してしまう。
 シーサーの体は寒さで震えていた。下半身は裸になっていた。尻の穴が痛かった。息が白かった。織姫の指が尻の中に入っていた。何一つ理解できなかった。
 自分の目の前で、自分の尻の穴に、他人の指が突き入れられている。
 現実離れした光景なのに、尻穴の奥で、また、指が動く。
「い゛ぃっ、やめっ」
 指が止まった。
 指が動くのも、指が動かないのも、尻の中でいやにはっきりと感じられた。
 尻穴の入り口が痛む。
「う、ぐぅ……、ぁ、はっ」
 肛門が、痛い。
「はっ、は……、う、ぅ……ぐぅ……」
 痛みで、息を喘がせ呻く。額に脂汗がにじむ。
 しばらくそうやって苦しみ喘いでから、やがて、息が落ち着きを取り戻していく。肛門の痛みが少し治まってくる。
「……抜いて、抜いてくれ、うぅ……頼むから、抜いてくれよ……」
 肛門が突き入れられた指に軽く馴染んでしまうくらいになって、ようやく、指を抜いてくれと頼むことができた。
「大丈夫よ、任せて。すぐに慈愛スポットを掘り当ててみせるから」
 織姫からの力強い返答だった。
「何を言ってるんだよぉ」
 シーサーは泣きそうな声を上げる。
 痛みが治まってきて、頭の中も少し落ち着いてきたところだったから、なおさら訳が分からなかった。
 瞳に涙を浮かべるシーサーをそのままに、織姫は集中を始める。
「慈愛の力を、指先に……」
 瞳に涙を浮かべながら、何を言えばいいのか分からず、シーサーは泣きそうな気分で織姫を見つめることしかできなかった。
 織姫は真剣な眼差しで、自らの指が埋まったシーサーの肛門を見つめている。まるで見えない尻穴の奥を透かして見るかのように、穴の開くほど肛門に視線を注いでいる。
 シーサーは今更になって少し恥ずかしくなってきた。
「見てないで、抜いてくれってば……。なぁ、織姫……?」
 もう一度懇願するも、織姫は何も答えず、シーサーの肛門を見つめ続けている。
 シーサは自分の顔が熱くなるのが分かった。
「うぅ……」
 顔が熱くなって、にわかに思考も熱を上げるほど働きだす。
(これが織姫の言ってた『熱いくらいになる』ってことなのか? だとしたらやっぱり織姫には織姫なりの考えがあるってことなのか? いや、確かに尻が熱いけど、これはどっちかと言うと痛みのせいだぞ? というか尻だけ熱くなってどうするんだよ。やっぱり訳が分からな――)
 ふいに、尻穴の中で指が動いた。
「いぃっ!?」
 不意打ちのように、それまで止まっていた指が尻の奥で前触れも無く動いて、その動かされた感触にシーサーは背筋を震わせた。
「ひぇ、ぃ、えぇ!?」  
 織姫の指が、止まらない。
 尻穴の奥で動き続けている。
 肛門に根元まで突き入れた指を尻の奥でわずかに動かしながら、指先で何かを探るようにして、少しずつその位置をずらしている。
「ひ、ぃ……やめ、やめ、ぇ……」
(うごいてるうごいてるうごいてるっっ!?)
 尻の中の奥を探られる得も言われぬ感触に、シーサーは何度も背筋を震わせる。 
「やめっ、おりひ、めっ……なあ、おりひめっ? やめて、ひぃぃ……」
(うわっ、うわっ、尻の中を触られてるのが、探られてるのが……なんで分かっちまうんだよぉ……!)
 指の位置がずれるたび、深々と入れられた指が肛門から少しずつ外に出ていく。
 指を咥える肛門が、わずかに擦られた。
「ういぃぃ……うぅ……ひっ、ひぇぇ……ひぅぅっ……」
(うううぅ、指が少しづつ尻から引き抜かれてるぅ……! 尻の内側が、指と一緒に引きずり出されてくみたいな感じがするぅ……!)
 肛門の内側を擦られるむずがゆさにも似た刺激に、シーサーは思わず尻穴をすぼめてしまう。
 すると当然、織姫の指を肛門でぎゅぅと締め付けることになる。
(あっ、しまっ、織姫の指を、締め付けて……)
 シーサーは恥ずかしさで顔が熱くなった。
「うぅぅ……」
(尻の、穴で……こんな風に……誰かの指を、締め付けちまうなんて……うぅ……)
 しかし、指が出ていくにしたがって肛門も外へと引っ張られていく。
「っや、やめ……」
 肛門の内側を擦られるほどにむずがゆさが募り、どうしても尻穴をすぼめてしまいたくなる。
「んぅぅ、ん……ふっ……、うぅぅっ」
(我慢! 我慢だ……なんとか、がまん、をお……うぅ……! だめ、だぁ……!)
 織姫の指をきつく締め付けるのは恥ずかしいのに、肛門を内側から引きずられるような感触はどんどん強くなっていく。
 とうとうむずがゆさに抗いきれず、織姫の指を肛門でぎゅっと締め付けてしまう。
「ん、っっ…………うぅぅぅ……」
(恥ずかしい……なんだよこれぇ、すっげえ恥ずかしい……!)
 シーサーはしばらくの間、尻穴から指がずずと引き抜かれていく感覚に強いむずがゆさを覚えながら、息を震わせ、顔を熱くして、耐え続けた。
 数度ほどシーサーが肛門をすぼませた頃、指の動きが止まった。
 シーサーはすっかり熱くなった顔に安堵の表情を浮かべて、小さく息を吐いた。
「終わった……のか?」
 指はまだ三分の二以上の長さを尻穴の中に残しているのだが、シーサーは期待の眼差しを織姫に向けた。
 織姫は何も言わずシーサーの肛門を一心に見つめ続けていた。
「終わって……ない、のか?」
 シーサーの声が聞こえているのかいないのか、織姫の指がまた動き始めた。
 さっきまでの指を引き抜いていく動きとは逆に、今度は尻穴の奥へと指を少しずつ進入させていく。
「うぁ」
(は、入って……!!)
 今までとは違う動きに驚いて、シーサーは反射的に尻穴を思い切りすぼめてしまった。
 シーサーの肛門が、織姫の指を今まで以上にぎゅっと締め付ける。
 シーサーの顔がまた熱くなる。
「うぅぅ……」
(うぅ……思い切り、力を込めてしまった……)
 顔を熱くしながらすぐに気を取り直し、意識して肛門の力を緩める。
「ふぅぅ……ふぅぅぅぅ……」
 ゆっくりと静かに息を吐いて、肛門から力を抜いていく。
(恥ずかしくない恥ずかしくないこれは織姫の何か考えあっての行いだから恥ずかしいことじゃない俺には全く分からないけどきっとこれは恥ずかしいことじゃない恥ずかしいことじゃないんだ……)
 目を閉じて、頭の中でこれは恥ずかしいことではないと繰り返し念じて、顔の熱さに耐える。
「すぅぅ……」
 目を閉じたまま、今度はゆっくりと静かに息を吸った。
 それからシーサーは、目を閉じたままゆっくりと静かな呼吸をしていく。
「ふぅぅぅ……すぅぅ……ふぅぅぅ……」
 織姫の指は相変わらず何かを探るように尻穴の中を少しずつ動いている。
 尻を、尻穴を、自分でも見たことの無い内側から、そもそも自分では見ることのできない膜壁を、指先で探られている、体の中で指が蠢いている。
 尻穴の中で、織姫の指が膜壁をまさぐりながら少しずつ少しずつ肛門を侵入してくるのが感じられる。
 そんな得も言われぬ感触を、静かに目を閉じて、静かに呼吸を続けて、シーサーはひたすら遣り過ごす。
(うぅ……尻が、背筋が、ぞわぞわして仕方無い……一体なにを探ってるんだか知らないけど、頼むから早く見つけて終わらせてくれ……)
「すぅぅ……ふぅぅぅ……」
 目を閉じたまま、静かな呼吸を続ける。
 意識して力を緩めている肛門は、指が尻穴の中へと進んでいくのにともなって内側へと柔らかく沈み込んでいく。内側へ内側へと、菊門が柔らかに沈みこんでいく。
(今度はさっきまでとは逆に、内側に引きずられてる……)
「すぅぅぅ……ふ、ぅぅ……」
 菊門はある程度沈み込んだところで、それ以上は沈み込まなくなってしまう。沈み込まない菊門を残して、織姫の指だけが肛門をずぷずぷと通過していく。
(これ、尻の入り口が、指で擦れて……変な、感じが……)
「すぅぅ……ふ、ぅ……ふぅぅ、ぅ……」
(なんだ、これ……、指が簡単に入っていく……、ゆっくりだけど、するする、指が……、尻の入り口、擦れて……なんか……変、だ……)
「す、ぅ……ふ、ふぅぅ、ぅ……す、っ……ふぅ、ぅぅぅぅ……」
 シーサーはまた尻穴にむずむずとした疼きのようなものを覚える。
(出て行く場所、なのに……入ってくるから……変な感じが、するのか……? ……うぅ、むずむずする……だめだ、力を抜かないと……)
「すぅぅ……ふぅ、ぅぅぅ……すぅぅぅ……ふぅぅぅぅ……」
 尻穴にふつふつと疼きが湧きあがり、思いきり尻穴をすぼめてしまいたくなる。だが、織姫の指を肛門で締め付けるのは恥ずかしい。シーサーはゆっくりと息をするように強く意識して、尻穴から力を抜き続ける。
「すぅぅ……ふぅぅぅ……」
 まだ、織姫の指はシーサーの尻穴の中を突き進む。膜壁を触りながら、何かを探っている。
 シーサーの肛門をゆっくりと、織姫の指が擦り進んでいく。
(……変な、感じ……変な……なんだろうな……これ……痛くはない……けど、変だ……)
 織姫の指がまた根元までシーサーの肛門に埋まってしまった。
 進入が止まる。
「すぅぅ……ふぅ……はぁぁ」
 緊張を楽にするように息を吐いて、シーサーはそっと目を開く。
 織姫の手が視界に映り、それを静かに見つめる。
(止まってくれたけど、またここから、抜いていくんだよな……) 
 進入は止まったが、尻の中、深いところで、指先はまだ膜壁を探っているのがシーサーには感じられていた。
(なんだか……奥のほうは……尻の中を触られてる感じが、途中より、分かるな……)
 膜壁の奥を指でまさぐられるたび、何か妙な感覚がした。
 指先が尻の奥で位置を変えるたび、その感覚の強くする場所に近づいたり、遠くなったりする。
(奥のところに……なにか、あるのか……? 織姫はそれを、探しているのか……?)
「…………んっ……」
(……………あ、そこだ……多分……)
 織姫の指先がそこをかすめた時、ぴりりと痺れのような感じが広がった気がして、シーサーは織姫が探しているのは多分これだなと思った。
 また、織姫の指先がそこに触れる。
「……んんっ」
 触れられた場所からまた、痺れのような感触が小さく広がって、シーサーは少し身じろぎしていた。
 唐突に、織姫が叫ぶ。
「ここよ!!!!!」
 指を、シーサーの尻穴の中でツルハシのように曲げ、慈愛の力を指先から解放し、尻奥のそこに思い切り叩きつけた。
 瞬間、シーサーの全身に痺れのような感覚が駆け巡った。
「っあ――――」
 シーサーの呼吸が止まる。
 その感覚が全身を駆け巡るのは一瞬だった。
 小さな痺れでしかなかった感覚がその一点からびりびりと体中に走り指先まで足先まで駆け巡り脊髄に響いて脳髄を震わせ眼球の裏をチカチカと明滅させ快楽の天頂へとシーサーを浮き上がらせた。
「っ、ぁ、はっ――――!!」
 びりびりと走り抜ける痺れにも似た激しい感覚に全身を襲われて、シーサーは目を見開いたまま呼吸すらままならず息を詰まらせる。
 いつの間にか肛門が織姫の指を、ぎゅぅぅっ、と強く締め付けていた。
 織姫は満足気な顔をする。
「どうやら当たりね」
 そう織姫が言った時、ようやくシーサーの体を駆けぬけていた激しい感覚が収まった。
「ぁ、はぁ……、ぁ、ん……は、ぁ、はぁ」
 シーサーは訳が分からず、肛門で織姫の指をきつく締め付けたまま、息を喘がせながら織姫を見る。
「ぁ、今、なに、が」
(尻、勝手に、ぎゅうって、なって……体中が、びりびりして、ふわふわ浮いたみたいになって)
 尻穴の中が熱かった。熱くて、とろけているみたいだった。
「今ね、私はシーサーの慈愛スポットを堀り当てたのよ」
 そう言って織姫は、指先でシーサーの尻穴の奥を叩き始める。
 歪曲させた指で、トン、トンとその一点をリズミカルに叩く。
「あっ、あっ、あっ、えっ? えっ? なんっ、これっ、声がっ、あっ、あっ、うぁ、うぁっ??」
 そこを叩かれるたびに、シーサーの口から艶のある声が出た。
(口から、変な声が、勝手に、出てくる!? 体中、びりびり、広がって、ふわふわ、して、なんだ、これ、なにが!?)
 あられもない声に戸惑いの色を混ぜながら、シーサーは自分の口から出てくる声を止められない。
 尻の奥のそこを叩かれるたびに、びりびりとした何かが全身を走り抜け、上ずった声が勝手に口から出てしまう。
「なにがっ、あっあっ、なにっ、がっ? う、ぁ、あっあっあっ、うぁっ!?」
 シーサーはなんで自分の口から上ずった声が勝手に出てくるのか分からず、尻奥をトントンと叩く織姫の指の動きに艶めいた声を上げながら翻弄され続ける。
 尻奥を叩く小さな動きで、そこからびりびりとしたもが湧き上がり、全身がふわふわとして、勝手に声が出る。肛門がすぼまる。膝が震える。尻肉がびくびくと引き攣る。
 両の手の平でしがみつくように敷かれた羽衣を強く握りしめて、体を宙に浮かせるような感覚に耐えていた。
「なっ、あっあっあっ、なんっ、だっ? なんなんっだっ、あっ、あっ、これっ?、うぁ、うぁっ、ちょっ、あっあっあっ、まってっ、これっ、うぁ、なにっがぁっ!?」
 次第に、全身がびくん、びくんと跳ね出してしまいそうになる。跳ね出しそうな体に、敷かれた羽衣を握り締めることで必死に耐えながら、どうしようもなく身を悶えさせた。
(なんだこれぇ! なにがっ、なにっ、もうっ、わかんねえっ! なにもっ、わかんねえ、よぉ!)
「んっ、うぅん、んぅっ! あっあっあっ、んんっ! ああっ、うっ、ん~っ……、ふぅっ、んうぅぅ! はっ、あっ、んんっんっ、あっ、あっ、あっ、あっ!!」
 それでも必死に声を抑えようとして、できなくて、呼吸を熱く乱しながら、甘い声を喘がせる。 
 顎を引いて目をぎゅっと閉じて息を止め、かと思えば顎を仰け反らして、大きく息を吐いて喘ぐ。
 ますます声が、高く、熱を帯びて、嬌声めいていく。
 シーサーの額にはいつしか汗が浮かんでいた。火照った小尻の肌が、冷たい床の上で敷かれた羽衣に汗の跡をじっとりと作っていた。
 そんなシーサーを見て織姫が、指で慈愛スポットをトントン叩きながら、微笑む。
「熱いくらいになってきたでしょう?」
 聞かれても、シーサーのほうは熱くなってるかどうかとかそれどころではなかった。
「そんなっ、わかっ、分かんなっ、いぃっ!」
「そう? とても気持ちいいんじゃないかって思ったんだけど」
「これっ、あっ、あっ、きもちっ、いっっ! あっ、ん、うっぅぅ、っ……いいっ、のか!??」
 聞きながら、織姫が指の動きを緩めることはなかった。
「気持ちよくないかしら?」
 気持よくないかと聞かれて、シーサーはふいに理解した。
 尻奥を叩かれるたび湧き上がる痺れのような感覚が何であるのかを。
 脊髄をぴりぴりと駆け昇っていく感覚が、全身を跳ね上がらせようとする感覚が、一体何であったのかを。
「これっ、きもちっ、きもちいいっ、のかっ!? 俺、きもち、ぃっ、よくぅ、うぅっ!! あっ、あっ、なってっ、るぅっ、のかっ!?」
 尻穴の奥を指先で叩かれるたびに駆け巡るこの感覚が何であるのかを。
 トンットンッ、と、尻穴の奥を小突かれるたびに体の芯がふわふわと浮き上がるような感覚。
 声が、体が、止まらない。尻の入り口で、ぎゅぅっ、ぎゅぅっ、と幾度も指を締め付けてしまう。
(気持ちいい、気持ちいい! こんな……! これ、すごすぎて……! わけが、分からないぃ……!!)
 気持ちいい、と。それが快感であるとようやく気付いて、しかし、シーサーはもはやそれ以上何も考えることができなかった。
「あっ、うあっ、あっあっあっ、きもちいいっ、きもちっ、いいっ、いいっ、あっ、なんで、こんなっ、うぁっ、気持ちっ、よすぎてっ、わけっ、わから、ないっ!!」
 そんなシーサーを見て織姫が、慈愛スポットについて説明を始める。
「――――」
 しかし、シーサーの耳には織姫の声が全く届かなかった。
「あっあっあっ、だめっだっ、あっ、まってっ、ちょっと、まっ、んんっ! まっ、ああっ! まってっ!」
 何かが、織姫の指に叩かれる尻奥から。びりびりと広がるその源泉から、どろどろに溶けた熱源のような何かがふつふつと沸き上がってきていた。
「あっ、あっ、あっ、ぅっあ、つっ、あっ!! だ、だめだ、とめっ、だめっ、んんぅっ、これ、なんか、あっ、あっ、だめっ、だっ、あっあっあっ、もうっ、だめっ、だめだってっ!!」
 織姫の指で叩かれるたびに強くなっていた痺れが、今はもう爆発しそうなほどに熱く滾っていた。
 トントンと叩く指、びりびりとした痺れ、どろどろのマグマのように、何かが、叩かれる尻奥からふつふつと沸き上がってくる。目の奥でちかちかと白い光が瞬いた気がした。
「もうっもうっ! なんかくるっ! くるっ! あっあっあっ、きてるっ! もうっ、もうもうもうっ、きてっきてっ――――!!」
 シーサーの息が一瞬、止まった。
 菊門が、くわえ込んだ指を、ぎゅぅぅっと一際強烈に締め付けた。
 小ぶりな尻の、柔肌の内側で、引き締まった筋が、ひくひくとわなないた。
 尻奥を叩かれるほどに抑えようとして抑えきれず耐えようとしてどうしようもなく悶えに悶えてきた感覚の全てが、一気に膨らんで、シーサーの喉を出鱈目に震わせた。
「――――っぁぁあああーーーーーーーーーー!!!!」
 体内の熱が噴き出したように、叫びが、冷えた御堂の空気を震わせる。
 引き攣ったように足を浮かし、足指を丸め、火照る尻を冷たい床についたまま、腕をつっぱり、背を反らし、敷かれた羽衣を手に強く握り込み、頭を跳ね上げ、喉を仰け反らせ、目を見開き、声をあげ、喉を震わせる。
 シーサーの花園から飛沫が噴き出した。
 勢いよく噴き出した飛沫は織姫の手をしとどに濡らして、敷かれた羽衣にぽたぽたと雫をこぼす。
 ぽたり、と雫が途切れて、シーサーの体から力が抜けていく。
 シーサーは背中からくたりと倒れ伏した。
 力の抜けた体を、腕を、広げた足を、羽衣の上に投げ出す。
 運動をした後のように乱れた呼吸をして、ぼやけた瞳に古ぼけた天井を映す。
 シーサーの意識はどこか遠くに浮いていて、ただ呼吸だけを繰り返していた。
 熱く湿った息を冷たい空気の中に白く吐き出して、また、白く吐き出す。
 織姫はシーサーの尻穴に指を突っ込んだままじっと動かないでいた。
 今しがた自分の手の平をしとどに濡らした飛沫の噴出口を、シーサーの股の間でひくりひくりと動いていたその花園を、じっと見つめていた。
「……温泉が噴き出した?」
 シーサーは倒れたまま、熱い息を繰り返すばかりで、御堂の冷たい天井を虚ろな瞳で見上げていた。

 
 

「ぁ、はぁ……、ん……ぁ……」
 シーサーは敷かれた羽衣の上でぐったりとしている。
 織姫が指を尻穴からぬるりと引き抜くと、口から可愛らしい声が「うぁん」と出たが、それきりぼんやりと熱のこもった息を吐き出している。
 織姫は引き抜いた自分の指を見て、次に床の上に敷いた羽衣を見た。
 羽衣はシーサーから噴出した飛沫で濡れている。
「まあ洗濯すればいいわね」
 そう言って、羽衣の端で自分の指や手を拭った。
「さて。せっかく温まった体が冷えたらいけないし、温泉の方に行きましょうか」
 そんな織姫の声は、シーサーの耳には届いていなかった。
 相変わらず虚ろな目で冷たい天井を見上げている。
 それでも吐く息は確かに熱を帯びていて、織姫の言う通り、シーサーの体は熱いくらいになっていた。
 青白かったシーサーの顔色も、今は完全にその血色は取り戻していた。
 織姫が、おもむろにシーサーの傍らに屈み込み、横たわるシーサーの背中と膝裏に自らの腕を差し入れた。
 そのままシーサーの体を抱え上げる。
 抱え上げながら、床に敷いていた羽衣もシーサーの穿いていた物も器用に手で取り回収している。
 シーサーの体の重みを苦にした様子も無く、足取りも軽く、御堂の戸に手を掛ける。
 御堂から出て、今度は御堂の横手に周り込んでいく。
 そのまま御堂の横を通り抜け、裏手の方へと抜け出ると、そこに温泉があった。
 御堂の裏手に、温泉が掘られていた。
 地面に手頃な大きさの穴が掘られ、穴の中では湯が上気を立ち上らせている。
 湯は少し土の色に濁っていて、まだ掘られてそう経っていない温泉だということが窺えた。
 織姫は温泉の傍らに立つと、地面にシーサーをゆっくりと丁寧に横たえる。
 それから、自分の衣服をぱぱっと全て脱いでしまった。
 全て脱いで裸になると、今度はシーサーがまだ身につけている衣服も全て脱がしていく。
 手早くシーサーを裸に剥くと、シーサーの体をまた腕に抱え上げた。
 温泉の傍らに立ち、湯気を立ち上らせる穴をキリっと見つめる。
 さあっと風が吹いた。
 湯気がふわりと流れていく。
 織姫がぶるりと身震いする。
「寒っ……」
 身を縮こまらせ、シーサーの体を抱え込む。
「早く湯に浸からないと、私もシーサーの二の舞ね」
 穴のふちにしゃがみ込むように尻をつけて、それから足を湯の中に下ろし、湯の底に足の裏をつけ、形のよい尻をふちから滑らせ湯の中にゆっくりと腰を下ろしていく。
「はぁ……温かい」
 シーサーの尻を自らの腿の横に下ろして、膝裏を抱えていた腕を引き抜く。シーサーのしなやかな足が湯の中でゆったりと伸ばされていった。
 シーサーの背中側に回している腕はそのまま、逆の腕をお腹側から回してその脱力した体を引き寄せる。そうやって自分の胸に抱き寄せるようにして、意識の遠いシーサーの体を湯の中で支えていた。
 それから、穴の土壁に背を預け、気持ち良さそうに目を細める。
「極楽ね、極楽」
 その時、シーサーの口から声が洩れてきた。
「うぅ……う……」
「意識が戻ってきたかしら」
 口から呻き声のようなものを洩らしながら、シーサーの意識がぼんやりと戻ってきていた。
(……あたたかい)
 シーサーはぼんやりとした意識の中で、自分が心地よい温かさに包まれているのを感じていた。
 温かさに包まれながら、全身に軽い気怠さのようなものある。
(……なんだか……からだが……少し、おもい……けど、いい心地だ……)
 軽い運動をした後のちょっとした疲労感にも似た気怠さが、体を包む温かさの中にじわじわ溶け出していく。
(ああ……ここは……温かくて、気持ちいい……)
 ただ、尻の穴だけが妙にじんじんとして熱を帯びていた。
(なんだろう……俺……なにをしてたんだっけ……)
 気付けば目の前には、雲に覆われた冬空が広がっている。
(なんで俺……空を見上げてるんだ……)
「シーサー、シーサー?」
 すぐ近くで誰かの声がして、真っ直ぐに空を見上げていた顔を起こす。すぐ近くに、織姫の顔があった。
「おり、ひめ……?」
「大丈夫?」
 織姫の気遣わしげな声が、シーサーのぼんやりとした頭に届いた。
 ぼんやりした頭のままで、シーサーは周りの状況をゆっくりと確かめる。
 湯気を立てるお湯、湯は少し土の色で濁ってる、冬の露天、雲に覆われた空、雪の中の寂しげな林、古い御堂の裏、湯気が風で流れていく、織姫の落ち着いた顔、穴の中の温泉、むき出しの土、織姫の腕の中に抱きかかえられている。
 分かったことは、どうやらここは温泉で、自分は温泉に浸かっているということだった。
(織姫と一緒に……温泉に入ってるのか……)
 シーサーは、湯気が風に流れていくのをぼんやりと見つめる。
 温かい温泉だった。
 ぼんやりとした頭に冬の風がひんやりと気持ちいい。
 全身の疲労感が温かい湯の中に溶け出していく。
 尻穴が少しじんじんとする。尻の奥に何か熱さの残照のようなものを感じる。
(なんで……織姫と温泉に入ってるんだっけ……?)
 シーサーはぼんやりと何があったかを考える。
 織姫が、シーサーの頭がはっきりしてくるのを待つように落ち着いた表情でシーサーを見つめている。
(確か……寒さで震えてて……もうだめだと思ってたら織姫が来て……熱いくらい、に……って……)
 シーサーの脳裏に閃く光景があった。
 裸の下半身、股を大きく開いて、尻の穴に指が根元まで深々と挿し込まれている。その光景が、脳裏にさあっと甦った。
 シーサーは硬直する。
(……ん? あれ? ……んん?)
 脳裏に甦った光景に体を硬直させながら、シーサーは織姫の腕の中から体をゆっくり起き上がらせる。
 シーサーの体が起き上がるのに任せて、織姫の腕もシーサーの体から離れていった。
(織姫が、俺の尻の、いや、そんなまさか、変な夢を、いや、でも)
 尻の穴がじんじんとする。尻穴の奥に妙な感覚が残っている。織姫に背中を向けたまま、思わず自分の尻を手でそっと押さえていた。
 織姫は、起き上がったまま何やら様子のおかしいシーサーをうしろから少し不思議そうに見つめていた。
(夢じゃ……ない? いや、そんな、まさか)
 シーサーはおそるおそる織姫の顔を振り返る。
 織姫は普段通りの落ち着いた顔だった。落ち着いた顔で、穴のふちに背を預けたままシーサーの顔を少し不思議そうに見つめ返した。
「どうしたの?」
「いや、あ、あはは……ちょっと、変な夢を見ちまってたみたいで……」
「変な夢?」
 織姫に聞き返されてシーサーは何故か慌ててしまう。体をくるりと織姫の方を向き、穴のふちに背中がつくまでばっと身を離し、捲くし立てる。
「ああ、いや、変ていうかな、織姫が、夢の中でだけどな、俺の、その、俺に変なことをしてるんだよ熱いくらいになるって言ってさ、あははいや多分温泉に浸かりながら寝てたせいで変な夢を見ちまったんだな気にしないでくれ」
 一気に言って、シーサーは誤魔化すようにあははと笑う。
(いや、言える訳ないよな。俺の尻に織姫が指を――)
「シーサーのお尻に私が指を入れたことを言ってるのなら、それは夢じゃないわよ?」
 誤魔化すように笑っていたシーサーの表情が固まる。
「――入れた?」
「シーサーのお尻に指を入れたわね」
「夢じゃ、ない……?」
「夢じゃないわね」
「そっか、夢じゃなかったか、あは、あはははは……」
 シーサーは力が抜けたようにふらふらと湯の中に体を沈めていき、そのままずるずると頭のてっぺんまで沈んでいく。
 少し泥で濁った湯の中から、ぶくぶく泡が浮いてくる。
「ちょっ! ちょっとシーサー!?」
 織姫が慌てて立ち上がり、沈んだシーサーをひっぱり上げた。
「ちょっと!? どうしたの!? 大丈夫!?」
「ああ、ちょっと……現実に頭がついてこなくて……ごめんな、もう、大丈夫だ……」
 シーサーは自分の力で体を起こす。
「そう……? 大丈夫ならいいけど……」
 織姫は、ゆっくりとシーサーの体を離す。ちゃんと沈まずにいられるか確認するようにゆっくりと手を離したあと、また、自分も湯の中に腰を落ち着けた。今度は背を土壁に預ていない。
 心なし、まだ安心していないようにシーサーには感じられた。
(……頭がついてこないのはともかく、織姫に心配かけてちゃみっともないな……)
 シーサーは濡れた頭から水気を払うゆうにぶんぶんと振り、顔を両手の平でぴしゃりと叩いた。
(そう。今、こうして温かい温泉に全身を沈められてるのだって、織姫のおかげなんだ。尻に指つっこまれたことはともかく、こうして温泉に浸かれていることはちゃんと感謝しなくちゃだ)
「よしっ。うん、もう大丈夫だ。心配かけてごめんな織姫」
 シーサーは織姫が安心できるよう、もう大丈夫だと笑顔を作って見せる。
「そう。もう大丈夫そうね。良かった」
「なあ、織姫。よく覚えてないんだけどさ……」
「なにかしら」
「俺を温泉に入れてくれたのは織姫なんだよな?」
「ええ。私よ」
「そっか。じゃあお礼を言わなきゃな」
「あら」
「あのままだったら俺、寒さで死んでたかもしれない。ありがとうな織姫」
 今度こそシーサーは、心からの笑顔を見せた。
「……えっと、そんな死んでたかもなんて大げさね。どういたしまして」
 織姫は平静な顔のまま言って、湯の中で膝を曲げて腕を伸ばし、背を穴の土壁に預ける。
「大げさじゃないさ。……いや、うん」
 笑顔から一転、急に遠い目になるシーサー。
「あのままだと本当に死んでた気がするな」
 そんなシーサーを見て、織姫はちょっとだけ可笑しそうに、微笑むようにして少しだけ笑う。
 そんな風に織姫が笑ったのを見て、シーサーもまた可笑しそうに笑った。
 織姫はまた湯の中で足を伸ばす。
「でも、そうね。シーサーの体、本当に氷の様に冷たかったから、実際危なかったかもしれないわね」
 シーサーは湯の中に肩まで浸かりながら、しみじみと頷く。
「ああ。軽く意識が朦朧としてたよ」
「温泉に入る前に、これはまず慈愛の力で温めないとって、私も思ったもの」
「慈愛の力?」
「そう、慈愛の力」
「そうか、慈愛の力か」
「ええ、慈愛の力よ」
 織姫が分かりきったことを言っている顔で頷いているの見ながら、シーサーは頭の中で考える。
(慈愛の力って、あれ……のことだよな多分?)
 尻の穴に指が根元まで収まった光景が脳裏に浮かんでくる。
(結局あれはどういうあれだったんだ……気になるけど、あまりあれの事には触れたくないような……でも、何がどうなってあれをああすることになったのか、すごく気にもなるし……)
 シーサーは少し迷ってから。
(どうせ聞かないまま済ませるなんて、俺の性格じゃできないだろうからな)
 そう決意して、ちょっと恥ずかしそうに尋ねた。
「なあ、織姫。その慈愛の力って、その、俺の尻に、あの、指を入れた、あれ? のことだよな?」
「ええ。慈愛掘りよ」
「じあいほり……ちゃんと技名がついてるんだな」
「勿論」
「ああ。そういえば織姫がそういうこと言ってたのを聞いたような……聞いてなかったような……」
 シーサーは曖昧な顔で首を捻る。
(全くそれどころじゃなかったから全然覚えてないな)
「慈愛掘りは、慈愛の力によって体を内側から活性化させる技よ。だからシーサーの体も熱くなったでしょう? それは体内の気や慈愛が活性化されたからなのよ。それに慈愛の力を体内に直接注入されるから、普通に慈愛の力で癒されるよりとても気持ちよかったはずよ」
「ああ、確かにな。いや意識が朦朧としててよく覚えてないけどな」
(いや、体が熱くなったかどうかはともかく、すっげー気持ちよかった気がするのは、まあ、なんとなく、覚えてるな、うん……)
 それを意識した途端、急に尻奥のじんじんとする感覚が強く感じられて、シーサーは思わず肛門をきゅっとすぼめてしまった。
 恥ずかしさが込み上げて、顔を口元まで湯の中に沈めた。
「あれは、炭鉱で休憩しながら慈愛の力を使った新しい技や術が何かないかと考えていた時のことだったわ……。炭鉱夫の人たちが、釜がどうの掘られるのがどうのって話をしていのるが聞こえてきたの。そうしたら急にこの技が閃いたのよね」
「……釜? 掘る? それでなんで、あんな……」
(うう、顔が熱い……、ちょっと赤くなってる気がするけど、ばれてませんように……)
「私にも分からないけど……、天啓ってやつね。言ってみれば慈愛の天啓」
「……慈愛の天啓ってなんだ?」
「慈愛の思し召しと言ったほうがよかったかしら……」
「あんまり変わってねえかな……じゃなくて。まずな、慈愛ってのがなんなのかよく分からないというか……」
「慈愛は慈愛よ。ただ、色んな慈愛があるというだけ」
「そうかあ……つまりあれも、正真正銘ちゃんとした慈愛の技ってことかあ……」
「その通りよ」
「慈愛ってすごいんだな……」
「そう。慈愛はすごいの」
(慈愛がなんなのかは、もっと分からなくなった気がするな……)
 そこでふと、シーサーはあることに気付く。
「なあ、温泉があるならさ。俺を最初から普通に温泉に放り込めばよかったんじゃないのか? わざわざ慈愛の力で温めなくても」
 温泉で体を温められるなら、慈愛掘りをする必要はなかったのではないか。そう思い至ったのだ。
「あら。だって冷えきった体のままいきなり熱い温泉に入ったら危ないじゃない。シーサーの体、本当に氷みたいだったんだから」
「ええっ。それは……いや、そうかあ……?」
「まあ、新しく閃いた技を試してみるチャンスを窺っていたから、絶好の機会ではあったわよね」
「……新技を試してみたかっただけなんだな?」
「シーサーの体を温めるためにね」
「そうか……」
 シーサーは体からへにゃへにゃと力が抜ける気がした。
「……でも、そっか」
 脱力しながら、思う。
(どっちにしろ、俺の体の為を思ってあれを……慈愛掘りをしてくれたことには変わらないんだよな)
 そう思うと、なんだか気分がスッキリしてきた。
(そうだな。織姫は自分が変なことをしたなんてこれっぽっちも思ってないんだ。やっぱり恥ずかしいことじゃなかったんだ。そう、恥ずかしいことじゃ……少なくとも、織姫にとっては恥ずかしいことじゃなかったんだ。まっすぐに、慈愛の力を役立てただけだったんだ)
 尻の穴はまだじんじんとしているが、それももう気にならなくなってきた。
(むしろ、織姫は俺のために、他人の尻の穴なんかに指を突っ込むことになったんだ。汚いし、気持ち悪かっただろうに。なのに、そんな素振り一つも見せてない。だったら俺が恥ずかしがってちゃだめだよな)
 織姫が嬉しそうに言う。
「でも、これだけ効果があるなら実戦でも」
「いや! それはだめだ!」
 織姫はぽかんとする。
「え、なんで?」
「え、いや、それは、なんというか、その……」
「きっと大活躍よ?」
「それは、……その、やっぱ、恥ずかしかったです……」
 シーサーは赤い顔で、少し気まずそうに言った。
 いくら自分で自分に、あれは恥ずかしいことではないと言い聞かせても、やはり恥ずかしいものは恥ずかしかったのだった。
 織姫が首を傾げる。
「恥ずかしかった?」
「いや、一生懸命に慈愛の力を活躍させようとしている織姫の気持ちは分かるんだけどさ、お尻に指を突っ込まれるのは、やっぱ……恥ずかしいというか、その……恥ずかしいことだと思うんだ、多分、他の人もそうなんじゃないかなって、……だから、あまり使って欲しくないというか……」
(新技を開発して喜んでる織姫には申し訳ないが、ここで俺が止めなきゃ大変なことになる気もするんだ、許してくれ。……そもそも戦いの時に穿いてるものを脱がすのは無理じゃないか?)
「ああ」
 織姫がやっと分かったという顔をした。
「確かに、お尻に指を入れられるのはちょっと恥ずかしいかもね」
「そう! そうなんだよ! 恥ずかしいんだよ! ……あ、いや。うん、分かってもらえて嬉しい」
「だとしたら、ごめんなさいシーサー。恥ずかしい思いをさせちゃったわね」
「え、あっ、大丈夫! 気にしないでくれ! 織姫が俺の体を温めるためにやってくれたってのは分かってるから!」
「そう。でも」
「謝らないでくれよ。織姫だってさ、他人の尻に指を突っ込むの、あんまりいい気分じゃなかったろ?」
 織姫はきょとんとする。
「え? いや、別に……?」
「そ、そうなのか?」
「だって、慈愛行為だし」
「慈愛行為かあ」
 シーサーはがっくりとうな垂れた。
(汚かったろうとか気持ち悪かったろうとか、色々と気にしてたのは本当に俺だけか……、まあ織姫らしいっちゃらしいかな。慈愛行為ってなんだろうな。まったく)
 うな垂れたまま苦笑する。
「それに、シーサーは他人じゃなくて仲間じゃない。気にしないわよ」
 苦笑していたら、そんな織姫の声が聞こえてきた。
「……そっか」
 シーサーは顔を上げて、織姫にニカっと笑みを見せる。自然と笑顔を見せたくなったのだ。
 それから、温泉のふちに背中を預けた。
(本当に、俺が色々と気にしすぎてたのかもなあ……)
 穴のふちに頭を乗せて湯の中に体を伸ばし、雲に覆われた冬空を見上げる。
(いや、そんなことないような気もするんだけどなあ……)
 厚い雲で覆われている空は見るからに寒さそうだ。
 肌身に、温泉の温かさが染み渡る。
(まあ、どっちでもいいか)
 感じる温かさに身を委ねた。
 うーんと伸びをする。
(織姫が気にしてないなら、それが一番だよな)
 雲に覆われた冬空に笑顔を向けるシーサーの耳に、織姫の呟きが聞こえてくる。
「慈愛掘りは封印、か……。う~ん……でも、封印するにはちょっと惜しい技な気もするわね……」
「頼むから封印してくれ」
「そう……技を試させてもらったシーサーがそう言うなら仕方ないわね」
 シーサーはゆったりと冬空を見上げて、呟く。
「……あまり気にしないのも、それはそれでダメなのかもしれないな」
「ちゃんと封印するから安心しなさいな」