Top > 寝つきのいい子じゃ

寝つきのいい子じゃ

Last-modified: 2017-09-21 (木) 21:17:25

 御萩の頃。
 縁側で、座布団を枕に昼寝をしていた時のこと。
 ちょっとだけ熱いくらいの日差しに、風は秋の匂いを感じさせる涼しさで。
 縁側で寝っ転がるのがこんなにも気持ちいい。
 ああ。昼寝にはもってこいの季節だなあ。
「おや? とこよ殿が昼寝をしておるのか……」
 仙狸ちゃんの声?
 ぱちり。
「仙狸ちゃん?」
 落ち着いた茶色の着物。柿色の長い肩掛け。
 まんまる大きな尻尾が二本、背後にふわふわはみ出て見える。
 着物姿の仙狸さんだ。
「おお、すまんすまん。起こしてしまったかの」
「あっ、いえ、まだ起きてましたから」
 でも、寝転がったままちょっとぼーっとしてたかも。
 起きよう。
 がばっ、と。
「仙狸ちゃんは……」
 ふむ。
 片手に座布団。
 片手にお盆。
 持ってるお盆には、湯呑みと急須が見えるね。
 おはぎは乗ってない。
 ふふふ、分かったぞ……!
「お茶ですね?」
「うむ。日向ぼっこしながらのんびりしようかと思っての」
 当たった!
 ふふっ。
「日向ぼっこ、いいですよね。最近は夏の暑さも過ぎてしまいましたから」
「そうそう。日向ぼっこが気持ちいい季節になってきてのう」
「はい。本当に」
「本当に。どれ、それじゃあ腹を冷やさないように気をつけるんじゃぞ」
 あれ?
 仙狸ちゃんどこか別の場所に行こうとしてる?
「仙狸ちゃん、日向ぼっこするんじゃないんですか」
 と思ったら、少し離れただけで座布団を置いた?
 腰を下ろした。
 お盆を下ろした。
「うむ。わっちもここで日向ぼっこをするよ」
「そ、そうですか」
 なんで少し離れたんだろう……。
 私が昼寝をしてたから、邪魔をしたらいけないと思ったのかな?
「離れて座ったのは、とこよ殿の昼寝を邪魔しては悪いかと思ったからじゃったが……」
「えっ? あ、や、やっぱりそうだったんですね」
 考えてることを読まれた!?
「そんなに寂しそうな顔をせんでもいいんじゃよ?」
 え? 顔?
「寂しそうな顔なんてしてましたか私?」
「なんとなくそんな風に見えての」
 仙狸ちゃんの笑ってる顔、とっても優しいなあ。
 でも、寂しそうな顔かあ……。
 それで仙狸ちゃん私が考えてることが分かったのかな。
 そんな寂しそうな顔をしてたのかな私。
「自分では全然そんな顔してるつもりはなかったんですけど」
「ふふっ、素直なことはいい事じゃよ」
「そうですかね?」
「どれ、それじゃあそっちへ行くとするかのう。どっこいしょ、どっこいしょ」
 わあぁ……!
 どっこいしょ、どっこいしょ、って片手を縁側に着きながらお尻を座布団ごと滑らせる仙狸さん、可愛らしい……!
「私もそっちに行きます! どっこいしょ、どっこいしょ」
「どっこいしょ、どっこいしょ」
 よし!
「これですぐ隣同士ですね!」
「ふふっ、そうじゃのう」
 すぐ隣に仙狸ちゃん。
 あっ、しまった。まくら……座布団をそのまま置いて来ちゃった。
 でも、ここから手を伸ばせば……体を倒せば……届き……「くぅぅ……」あとちょっとで、届き……届いた!
「よし、っと! ふふふ、逃がさないぞ私の枕ちゃん。座布団だけど」
「あははっ、とこよ殿とその座布団とは随分仲良しのようじゃのう」
 あ、仙狸ちゃんが笑ってる。
「はい! いっつも枕にさせてもらってますから!」
 優しい笑顔だなあ。えへへ。
「さて……むっ?」
 仙狸さん、何もない床に手を伸ばしてるけど……ひょっとして。
 あ、離れた所にお盆が置きっぱなしになってる。
 お茶も乗ったままになってる。
 仙狸ちゃん、離れた所に置きっぱなしになってるお茶を見てる。
「むぅ」
 あっ、手を伸ばした。体も倒した。体を思いっきり伸ばした。
「うむむ、あとちょっと……」
 尻尾までぴんと伸びてる。
 仙狸ちゃんの尻尾って、二本ともすごくもふもふだなあ。
 枕にさせてもらったら……いや、二本の尻尾に挟まれて寝るのも……。
「と、と、届い、たっ……!」
 おお、やった!
 ……あ、あれ?
 ……仙狸ちゃんが戻ってこない?
 むむ……? 指がお盆の縁に何とか触ってるけど、滑って引き寄せられないのかな……?
 おや。尻尾がふるふる震え出したぞ?
「む、むぅ……、も、戻れない……」
「わわっ。引っ張りますね」
 がしっ。
「おお! すまぬのう」
「それー」
 ぐいーん、と。
「おおー」
「よいしょっと。ふぅ……ってあれ?」
 お盆がさっきの所から動いてない。
 ……仙狸さん?
「……指が滑ってしまってのう」
 ……ぷっ。
「あははっ」
「あはは、すまんのう」
「いえいえ、私も何も考えずに引っ張ってしまって。ふふっ、お盆とってきますね!」
 ああ、楽しい。
「ああいや……っと、素早いのう」
 さて、お茶をこぼさないように……。
 よいしょ。
「はい、仙狸ちゃん」
「ありがとう」
 本当に優しい笑顔だなあ。
 えへへ。
 さて。
 よっこいしょ。
「いい天気ですねー」
「いい天気じゃのー」
 晴れた空。
 高い雲。
 ぽかぽかの陽気。
 そして隣から聞こえる、仙狸ちゃんがお茶をすする音。
 ああ。ほのぼのするなあ。
「……ほのぼのし過ぎてちょっと眠くなってきちゃったな」
「そうかそうか。じゃあ、ほれ」
 むむ?
 仙狸ちゃんが自分の腿をぽんぽんと叩いたぞ?
 この仕草はまさか……いやでもまさかね……まさかまさか……。
「ほれ、遠慮せんでいいんじゃぞ?」
「えっと、仙狸ちゃん。それはまさか」
 まさか、いやまさかねぇ。
「膝枕は嫌じゃったかの?」
 不思議そうな顔で首を傾げる仙狸ちゃんすごく可愛らしいなあ。
 じゃなくて。
「い、いいんですか?」
「うん。いいんじゃよ?」
「じゃ、じゃあ」
 ええっと。
 じゃあ、そーっと。
 頭を乗せていいんだよね……?
 ぽふ……。
「どうじゃ?」
「ええと……、暖かいです。とても」
「ふふっ」
 わわ。
 頭を撫でられている。
「えっと、仙狸ちゃん?」
「そんなに緊張せんで、ほれ、体の力を抜いて」
「は、はい」
 ……なんだろう、この気持ち。
 くすぐったいような……でも、とっても暖かい……。 
 …………。
「……おやおや。ふふっ、寝つきのいい子じゃ。いい子いい子……ゆっくりおやすみ」