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澄姫が遊びに来た

Last-modified: 2016-12-25 (日) 07:33:27

 冬のある日のこと。
 居間で炬燵に入り、蜜柑のお尻に指を入れ、橙色の皮を剥こうとしていた時のこと。
「ごめんくださーい」
 家の入り口の方から澄姫の声が聞こえてきた。
「えっ!?」
 幻聴じゃないよね?
「今のは澄姫さんの声でしたかね」
 急いで確かめないと!
「とこよさん急ぐのはいいですけど」
 開け襖! スパーン!
「開けた襖はちゃんと閉めてから」
「あれ? 小烏丸ちゃん?」
「あ、ご主人様。私が出ますので」
「あ、いいよいいよ。私が出るから」
 本当に澄姫の声だったのか私の目で確かめないとね!
「――あっ小烏丸さん、行く前に」
「――はい。閉めておきますね」
 小烏丸ちゃんありがとう!
 さあ、襖は小烏丸ちゃんに任せて土間までひとっ飛びで駆け抜けてきたのはいいけど……、果たして本当にこの戸の向こうに澄姫はいるのかな。
 ごくり。
 澄姫じゃなかったらどうしよう。なんだか戸に手を掛けるだけでもちょっとドキドキしちゃうな。走ってきたせいもあるけど。
 ふぅ。すぅ、ふぅ……。
 開け戸! ……スス、ススススー……。
 わあ。
 本当に澄姫がいる。
「澄姫がいる」
「なによそれ。こんにちは、とこよ」
「あっ、こんにちは澄姫」
「……」
「……」
 会話が途切れた。
 何この間!?
「ええっと、今日はどうしたの澄姫?」
「あっ、ああ! そうね! ……こほん。今日はちょっと遊びにきたのよ」
「澄姫が私の家に遊びに!?」
「何よ。そんなに驚くことかしら」
「だって。あの澄姫が私の家に遊びに来てくれるなんて」
 なんだろう……このすごい感動!
「迷惑だったかしら」
「ううん、すごく嬉しいよ!」
「そう。よかった」
 あっ。澄姫、今ちょっとほっとした表情なった。ふふ〜ん?
「で、あがってもいいかしら?」
「あっ。そうだね。どうぞどうぞあがってあがって」
「えっと、お邪魔します」
 その友人の家を訪ね慣れてない感じ、すごく澄姫っぽくていいよ澄姫!
「初めまして。私はとこよ様に使役されている小烏丸です」
 あっ、小烏丸ちゃんが上がり口にいつの間にか座ってる。……気付かなかった。……いつから見られてたのかな?
「澄姫様ですね。お話はご主人様からかねがね伺っております。澄姫様が寛げるよう、私になんなりとお申し付けください」
「丁寧にありがとうございます。今日はお世話になります」
 私の目の前で澄姫と小烏丸ちゃんがお辞儀し合っている……。
 こんな光景が見られる日がくるなんて……!
「感動だなあ……!」
「ご主人様。何をそんなに感動しているのですか?」
「えっとね、えっと」
 どう伝えればいいんだろう。この感動。
「大方、私が家に遊びに来たのがよっぽど珍しかったんでしょう」
 いや、間違ってはいないけど、うう〜ん。
「そうなんですか?」
「ええっと、まあ、珍しいというか、遊びに来てくれるなんて思いもしなかったから、嬉しくて。あはは」
 この喜びはとても一言では言い表せないね。うん。
「まったく、大げさね」
 そう言いながらも少し嬉しそうに口元が緩んだのを、私は見逃さなかったぞ澄姫。