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澄姫が遊びに来た

Last-modified: 2017-07-06 (木) 22:13:13

 冬のある日のこと。
 居間で炬燵に入り、蜜柑のお尻に指を入れ、橙色の皮を剥こうとしていた時のこと。
――ごめんくださーい。
 家の入り口の方から澄姫の声が聞こえてきた。
「えっ!? 今の声って……」
 幻聴じゃないよね?
「澄姫さんの声でしたかね?」
 急いで確かめないと!
「とこよさん急ぐのはいいですけど――」
 開け襖! スパーン!
「――開けた襖はちゃんと閉めてから」
 っとと、襖の先に誰かが。
「ひゃっ」
「おっとっと、小烏丸ちゃん大丈夫? ごめんね急に飛び出して」
 危ない危ない。
「いえ、大丈夫です。それよりご主人様、来客の応対でしたら私が」
「あ、いいよいいよ。私が出るから大丈夫だよ!」
 本当に澄姫の声だったのか、私の目で確かめないとね!
 急がねば!
「えっ、あっ、ご主人様」
――あっ小烏丸さん、ついでに襖を。
――はい。閉めておきますね。
「小烏丸ちゃんありがとー!」
 急げ急げー! っと、着いた!
 ふぅ。
 ……さあ、襖は小烏丸ちゃんに任せて駆け抜けてきたのはいいけど……、果たしてこの戸の向こうに澄姫は本当にいるのか……。
 ごくり。
 澄姫じゃなかったらどうしよう。
 戸に手を掛けただけなのにちょっとドキドキしちゃうな。まあ走ってきたせいなのもあるけど。
 さあ、開けるぞ……!
 ふぅ。すぅ、ふぅ……。
 よし。
 開け戸! ……スス、ススススー。
 わあ。
 本当に澄姫がいる。
「澄姫がいる」
「なによそれ。こんにちは、とこよ」
「あっ、こんにちは澄姫」
「……」
「……」
 会話が途切れた。
 何この間!?
「ええっと、今日はどうしたの澄姫?」
「あっ、ああ! そうね! ……こほん。今日はちょっと遊びにきたのよ」
「澄姫が私の家に遊びに!?」
「何よ。そんなに驚くことかしら」
「だって。あの澄姫が私の家に遊びに来てくれるなんて」
 なんだろう……このすごい感動!
「迷惑だったかしら」
「ううん、すごく嬉しいよ!」
「そ、そう。ならまあいいわ」
 あっ。澄姫、今ちょっとほっとした表情なった。
 ふふ〜ん?
「で、あがってもいいかしら?」
「あっ。そうだね。どうぞどうぞあがってあがって」
「えっと、じゃあお邪魔します」
 友人の家を訪ね慣れてないその感じ、すごく澄姫っぽくていいよ澄姫!
「初めまして。私はとこよ様に使役されている小烏丸です」
 あっ。小烏丸ちゃんが上がり口にいつの間にか正座してる。
 ……気付かなかった。
 ……いつから見られてたのかな?
「澄姫様ですね。お話はご主人様からかねがね伺っております。澄姫様が寛げるよう、本日は私になんなりとお申し付けください」
「丁寧にありがとうございます。今日はお世話になります」
 私の目の前で澄姫と小烏丸ちゃんがお辞儀し合っている……。
 こんな光景が見られる日がくるなんて……!
「感動だなあ……!」
「ご主人様。嬉しそうですね」
「うん。えっとね、えっと」
 どう伝えればいいんだろう。この感動。
「大方、私が家に遊びに来たのがよっぽど珍しかったんでしょう」
 いや、間違ってはいないけど、うう〜ん。
「ええっと、まあ、珍しいというか、遊びに来てくれるなんて思いもしなかったから、すっごく嬉しかったというか……」
 ううう〜ん。
「……うん。この喜びはとても一言では言い表せないね」
「よかったですねご主人様」
 小烏丸ちゃんが小さく微笑んだ顔で嬉しそうにしてくれてる……!
「うん!」
 一緒になって喜んでくれて、本当にいい子だなあ……。
「まったく、大げさね」
 そう言いながらも少し口元が緩んだのを、私は見逃さなかったぞ澄姫。