イベント/ストーリーイベント「みんなで紡ぐ音の物語」/ストーリー

Last-modified: 2016-07-02 (土) 21:50:35

ストーリー

1話目:ラバーさん DL

ストーリー

「さぁーて!!! 次郎文化祭がいよいよ開幕まであと3分となってまいりましたァー!!!」

ここは私立太鼓次郎学園高等部の中央体育館。
私立太鼓次郎学園高等部とは、いわゆる「異能の力」を行使する人を優先的に集めた高校だ。
ここにいる人はたいてい何かの異能の力を持っている、あるいは目覚める可能性の高い人だ。

しかしどんな人が集まろうが、ここは高校である。
毎日部活に勉強に遊びに全力を出す高校生の姿はほかの学校と全く変わらないだろう。
入ってくる人を除きごくありふれたこの高校も、やはり学校行事というものはある。

今日はそんな私立太鼓次郎学園の文化祭の初日である。
音楽に対する能力を持っている私こと1年D組「新島大祐」は
文化祭オープニングセレモニーの「演奏係」に選ばれてしまった。

「えー、もうすぐ開幕となりますのでー、電波及び念話の使用はご遠慮くださーい」

控室でスタンバイこそしているものの、去年文化祭に遊びに来た時と同じだったら
演奏係の出番はすぐにはやってこないはずだ。

「さァーーて! 私立太鼓次郎学園文化祭、ここに開幕ゥーーー!!」

ギャラリーが一斉に盛り上がる。ここまで期待高いと緊張が止まらない。
自分に【音】をぶつけて頭をすっきりさせる。そうだ。いつも通りにやればいい。

「まずは先日行われた、中央街主催地域ダンス大会無差別部門で見事二位を獲得した、
チーム『DEM』の登場だァーーー!!!」

・・・
その後マジックや演劇などとにかく幅広い得意分野を生かした催しが
あれやこれやと開かれた。
控室にいても伝わってくる熱気で極度の緊張をしたのか、自分の番を待っている人は
余り顔色がよくない人が多い。そのままだとかわいそうだから、小さく壁をノックし、
【音】を緩和させリラックス効果のある波形に変えておいた。これで少しは楽になるだろう。
そろそろ出番だと思うので私は機材を「中にしまい込んで」ステージ裏に出た。

「いよいよオープニングセレモニーも後半戦だがァー??
盛ぉり上がってますかァーーーーーーーーーーー!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「疲れてませんかーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「オォッケイじゃあ次行っちゃうよ!!  お次は新入生ながらも演奏の技術の高さで
軽音楽部から熱烈なアピールを受けている、新島大祐君だぁーーーー!!!」

周りの歓声に合わせてステージに出ていくと、一際歓声が大きくなったように感じられる。
気後れしないようにこちらからも挨拶をしよう。

「どう・・・」
キィィィィィィィン・・・
ここのマイクは音量が大きいらしく口にマイクを近づけすぎたせいでハウリングが起きてしまった。
観客にどっと笑いが起きる。   ここは気を取り直して。

「どうも、紹介にあずかりました新島大祐です。未熟ながらも精いっぱい演奏するのでよろしくお願いします。」

よし、あとは演奏するだけだ、何も恐れることはない。
目の前にキーボード3つを展開し、準備ができたことを手を上げて主催に伝える。

「えー、準備が整ったようなので発表させていただきます。
プログラム9番 ソロ演奏の部 一年D組 新島 大祐 
         曲名・・・

                  ___『The Lost』」

2話目:WIZARD1さん DL

ストーリー

演奏は何事もなかったかのように大きなミスもなく終わった。
終わった途端自分には観客の人たちからは
叫び声にも聞こえるほどの歓声が聞こえてきた。
正直自分はこういう「黄色い声」は嫌いだが、この歓声も
靴で地面を軽く叩く【音】で音の波形を変えればどうということもない。
「ありがとうございました!ありがとうございます…!」
自分は止まない大歓声に対して何度も何度もお辞儀をして
ステージを急いで去った。

終わって控室に戻ってみると、さっきとまるで待っている人の顔色が違う。
さっきの「The Lost」の演奏がそんなにも効いたのだろうか?
自分自身は演奏に必死で、とても「観客がリラックスできる【音】を出す」
なんてことは考える余裕も無かったが…。
とりあえず気にしても答えが出る訳じゃない。
控室に置きっぱなしにしていた荷物を急いで持っていき
さっさと控室を去った。

セレモニーの会場である体育館横の誰もいない廊下を
急いで歩いて帰ろうと道を急ぐ。
セレモニーは今はコピーバンドの演奏をやっているらしい。
ボーカルは明瞭に聞き取れないがギターのフレーズとかからして
「Supernova」とかいう曲だろう。
あの曲の演奏するなんて凄い実力のがいたものだ、なんて考えながら
家路を急いでいた時。

「君」
誰もいないはずの後ろから突然声がした。
思わず後ろを見ると、制服を着たやけに背の高い男がいた。
自分と同じ制服を着ている辺りこの学校の学生だ。先輩だろうか?
「ど、どうも…」
怪しい人だ、と思いつつも一応挨拶だけはしてさっさと去ろうとしたが
「さっきのライブを見て感じたよ、君には素晴らしい才能がある!
君に話したいことがあるんだ、僕についてきてくれないか?」
なんだそれ。
いきなりあった赤の他人なのになんなんだこの上から目線は。
「い、いや、そんなこと言われてもさっさとクラスに合流しないと…」
明らかに自分の顔はしかめっ面になっていたであろう、
そう思わざるを得ないくらいのトーンで言おうとしたが
「そんなカタいこと言わず!さあ、こっちだこっちだ」
「えっ」
腕を掴まれて引きずられていく。
何だこの人、男しか狙わない誘拐犯か何かか?
全力でやった演奏の直後で疲れ切っていた自分には
声を荒らげて怒ることもも腕を振りほどくことも面倒だ。
「なんだよ、この人…」
さっきから思っていたことが思わず口から漏れたが、聞こえてなかったらしい。
諦めの気持ちで、先輩?に引きずられていった。

「ここだよ」
「えっ…これって…?」
何分間かひきずられた後、辿り着いたのは西館の2階。
こっちは自分は授業で使わないのであまり部屋が
どこにあるかとかは知らないが、この扉は知っている。
「これって…アレですよね?『西館の開かずの扉』っていう…?」
「そう。『開かずの扉』。何故開かないかもわからない、
鍵も何故か存在しないっていうあの部屋さ」

「西館の開かずの扉」。
こういう胡散臭い大学には必ずと言っていいほどある
「学校の七不思議」の太鼓次郎学園版にある話だ。
この西館2階の扉は、その話によれば開校から一度も
あけられたことが無かった、むしろ「開けることができなかった」
とされている。
開かない原因は扉を作る時に裏側に荷物を置き忘れた、
鍵穴を誰かが溶接してしまったなどと現実性のあるものから
幽霊が開けられないようにしている、中から人の声がして
決まって怖くなって開けられなくなるといった
ファンタジーなものまで様々だ。
とにかく「この扉はどうやっても開かない」、それだけは
間違いないのである。

それなのに。
\カチャッ/
この先輩はいとも簡単に、その「開かずの扉」を開けてしまった。

「………」
「さあ、入りな。新しい君の『拠点』さ」
扉を開けられ、引きずられるように中に入る。
開かずの扉、その中に広がっていた光景は…。

「あれぇ?カイチョーまた新人連れてきちゃったわけ?」
「面倒くせぇ…zzz…」
「全く、困った会長だ。ただでさえこっちからすれば
メンバーの食費管理計算に困っているというのに」
中には小さい和室、そこには同じ制服とはいえ
明らかに雰囲気の違う3人がいた。
寝転がってスマホをいじるギャルっぽい女子。
壁に寄りかかって昼寝をしていた少年。
机に向かって謎の計算をしている眼鏡の男。
隣にいる強引な先輩を含め、そこにいる人たち全員が
明らかにこの学校のイメージとは異なる人々だった。

「ここが開かずの扉の『向こう側』…僕達
『クラウンズ』の秘密拠点さ」
「『クラウンズ』…?」
あまりに唐突過ぎて話が頭に入ってこない。
開かずの扉が開いた。4人の異質な学生。
そして『クラウンズ』。
この先輩が何を言いたいのか、自分にはサッパリ分からず
ただ茫然と立ち尽くすだけだった。

「おっと、引きずってきたは良いけど
僕の自己紹介をしていなかったね」
その声ででようやく我に返り、先輩の顔を見る。
「僕の名前は磐田 光喜。3年C組在籍。
僕こそがこの『クラウンズ』のリーダーさ」
やっぱり先輩だったか。この人がここに自分を連れてきたのも
『クラウンズ』のスカウトとかそういうことらしい。
「早速だけど、いくつか説明させてもらおうか。
ダイスケ、君の能力は【音】を使う能力で間違いないね?」
「え、はい。確かに【音】を使って人の気分を変えたり
することはできますが…?」
「それさ。僕は君のその能力に目を付けた」
「???」
「先に言ってしまうと、君のその能力は色々な能力者が
いるこの学校の中でもズバ抜けて素晴らしい。
特に今の1年生ではブッチギリと言ってもいい位に、ね」
「は、はあ…」
突然の話過ぎて飲み込めないのは変わらないが、
生まれときから持っているこの能力を評価してもらえるのは
少し嬉しくもあった。どう評価されているのかは知らないが…。
「この『クラウンズ』には君と同じく、飛び抜けた『能力』の
持ち主がそろってる」
「飛び抜けた…??」
こっちの質問を聞くことなく、磐田先輩の話が勝手に続く。

「まずは…そうだな、サヤカからいこう。
彼女は2年A組の生徒で、どういう経緯か知らんが図書委…」
「チィーッス!!サヤカこと十条紗香でーっす!
先輩とか言わないで、紗香さんとかでいいからっ!」
磐田先輩をグイッと押しのけて挨拶してくる。顔が近い。
さっきスマホをいじっていたこの十条先輩…じゃない、紗香さん。
その後はマシンガントーク過ぎて良く覚えていないが
部活がバレーボール部、好きな食べ物がハンバーグ、
能力は『周りの空気の流れを操る』こと…という、
(能力以外はどうでもいい)要点だけは掴むことはできた。

「次は…コウジ。計算中だろうけどダイスケに挨拶してくれ」
「仕方ない。丁度ひと段落ついたところだからさっさと済ましておこう」
次はさっきから計算?をしていた眼鏡の男。彼も先輩らしい。
「俺は倉見浩司。磐田と同じ3年C組在籍だ。
俺の能力は『30kg前後までの物体を念力的に動かすこと』だ。
大して役に立つ能力ではないかもしれないが、一応な。
趣味は勉強、特技は…勉強か?」
「まぁ見てわかるだろうけどコウスケはとにかくガリ勉なんだ。
彼に任せれば大学入試どころか院の入試だってイチコロ。
大学の模試では100点連発の全国トップさ、凄いだろう?」
何故か磐田先輩が倉見先輩の事を自分の事のように自慢してくる。
しかし倉見先輩はまったく動じず、むしろ磐田先輩を遮るように言った。

「ところで新人、君は『クオーク』について興味ないか?」
「えっ?クオーク…ですか?」
「そうだ。この世の物質は全て原子から成り立っているということは
お前も中学校で習ったはずだ。ところがその原子もじつは
『原子核』と『電子』に分かれていて、さらに原子核は
『陽子』『中性子』の2つから構成されているんだ。これこそが
物質の最小単位であり、これよりさらに細かく物を分解するという事は
不可能とされていた。ところが20世紀に入ってさらに
『クオーク』という粒子からこれらが構成されているという事が
判明し、そのクオークにもいくつかの種類が…」
「はいはいはい。コウジのクオーク愛はよく分かったけどちょっと
静かにしてくれないか?ダイスケが困り顔だぞ?」
磐田先輩、今回はナイス。
倉見先輩は「おっと、すまない」とだけ言い、すぐに机に戻って
また謎の計算を始めてしまった。

「そしてヒロト…おいヒロト。起きてくれよ。
折角の新人クンの前でそれではイメージも悪いだろう?」
最後の昼寝をしているフードを被った人を磐田先輩が起こす。
「…チッ。喧しい。他人のイメージとか気にしてどうするんだ…」
凄く不機嫌そうに起きてこっちを睨み付ける。
ぞわっと身の毛がよだつが、敵意のある目ではなかった。
「栃原…寛人だ…まァよろしく頼むぜ」
そう告げると、またすぐに昼寝に戻ってしまう。
磐田先輩が「オイ!まだ自己紹介の途中だろう!?」等と言っているが
完全に熟睡モードである。どうしようもない。
「…ハァ。とりあえず彼がヒロトだ。君と同じ1年のB組…だったかな?
彼の能力は『10mくらいの遮蔽物のない空間を瞬間移動できる』ことさ。
趣味は…見ての通り昼寝さ。困ったヤツさ」
「そ、そうですか…」
磐田先輩も彼には苦労しているのか、深いため息をついた。

「さて、と。まだ君には『クラウンズ』が何かを話していなかったね」
ようやくそこかい、と心の中でツッコんだ瞬間だった。
「カイチョー。それどころじゃなくなったっぽいよー」
「それどころとは何だい!?君は新人にこのチームが
どんなものかを理解させずでいいと思うのかい!?」
磐田先輩が言うが、気にもせず紗香さんは言う。

「いいのかなー?『アイツら』来ちゃったっぽいよー?」

「何ッ!?『クリーチャー』が!?」
磐田先輩が声を荒らげる。
クリーチャー?
これもさっきの七不思議で聞いたことがある。
次郎学園のある鍋ヶ崎駅の近くでは、昔から『クリーチャー』と
呼ばれる異形の怪物がしばしば目撃されているらしい。
そいつらは基本的には人間には手を出さないが、
自分に敵意を向けてくる者には容赦せず殺戮をするという伝説の怪物だ。
中には鳥尾線の電車の車窓から見た、という話もあるが
全て記録としてはのこっておらずはっきりしていない。

そのクリーチャーだが、次郎学園では何故か凶暴化し
敵意のない人間に襲い掛かるとされている。
一説には能力者がこの学校に集まっているのも
「クリーチャーに万が一の際対抗できるから」という噂があるが
理由は全く分からない。あくまで噂。
そのはずだったが、自分の頭の中にはある考えがよぎっている。

自分が「優秀な能力者」としてクラウンズに呼ばれたこと。
周りも強力な能力を持っていること。
次郎学園にクリーチャーが凶暴化して襲い掛かること。
まさか、『クラウンズ』の役割は…?

急いで窓の外を見つめると、そこにヤツは居た。
5m近い巨体。仮面のような顔。柔軟に曲がる体。甲高い鳴き声。
まさしく、鍋ヶ崎で目撃された際に言われている
『クリーチャー』が、そこにいた。

「クソッ!ここからじゃ距離がある!どうにかして倒せないか…!」
倉見先輩が叫ぶが、相変わらず紗香さんは呑気だった。
「ダイジョーブダイジョーブ。なんとかなるってー」
「なんとかなるってどういう事だ!?あのクリーチャーが
万が一生徒に襲い掛かったりでもしたら…!」
自分の【音】で何とかならないかと考えたが、
いくらなんでもクリーチャーへの【音】の使い方なんて自分には分からない。
「畜生…」
窓の外を見つめる自分は、自分の無力さを
今ここで認識することしかできなかった。
「でもさー」
紗香さんは変わらずの調子で続ける

「放っておいても片付くんじゃない?
『あの子』が近くにいるみたいだし」

磐田先輩・倉見先輩が二人揃って安堵のため息をつく。
「なんだ…メールが来てるなら先に言ってくれたまえ」
「要らぬ心配で良かったな、磐田」
二人が緩い雰囲気になる中、自分はただ一人未だに訳が分からなかった。
「えっ、ク、クリーチャーがいるのに大丈夫なんですか!?
さっきまであれだけ慌てていたのに…!」
「ん?ああそうか、ダイスケには紹介していなかったね」
紹介?チームの目的以外にまだ紹介があるのか?こんな時に?
だが、そんな自分の疑問は全てすぐに解決した。
「紹介するよ、僕ら『クラウンズ』のエースを」
磐田先輩が指をさす方向へと目をやる。

そこにはクリーチャーの目の前に立つ女子生徒がいた。
彼女はクリーチャーの叫び声にも動じず、その攻撃をも
軽い身のこなしで避けていく。
「紹介するよ、彼女がアカネ。白石明音だ」
磐田先輩が誇らしげな顔をしながら言う。
「そしてー」
窓の向こうの彼女の手から、光が出始めた。

「この世でただ一人、『自らの意思で剣をどこからともなく
呼び出せる能力』を持つ能力者だ」

直後、彼女の手には一振りの大剣が。
飛び上がった彼女はクリーチャーに対してその剣を
突きさし…いや、大きく振るって切り裂いた。
クリーチャーは断末魔の叫びを上げ、そして
静かに粉になるように消えた。

「イヨッ!流石うちのエース、瞬殺じゃないか!」
直ぐに西館前、明音さんがいる場所へとみんな(栃原先輩だけ
全く気にもせず昼寝したままだけど)で向かう。
「…何?」
明音さんが口を開く。思っている以上に威圧感がある。
「まさかクリーチャーの所に先回りしてくれるとは。
メールが来るのが多少遅かったが助かったよ」
「別に…近く散歩していただけですし」
「さすがアカネっち!クリーチャー相手じゃ敵なしだねっ☆」
「…うるさい」
「もーっ!まーた顔赤くして照れちゃって―」
「君は褒め言葉にはとことん弱いな。よし、もっと褒めてやる!」
明音さん、見た目とは違って意外と褒め言葉には弱いようだ。
とにかく紗香さんや磐田先輩が明音さんに野次を飛ばす中
倉見先輩が自分に言ってくる。

「すまないな、新人。唐突で色々困惑させたかと思う。
そういえばお前の名前を聞いてなかったな」
「あ、そうだった…。新島大祐です」
「大祐…か。『クラウンズ』の目的はもう解ったと思う。
入るにしてもそれ相応の覚悟は必要だ。
入るも入らないも君の意思で決めてくれ」
この言い方だとおそらく自分が入団するとは
考えてはいなさそうだ。だけど。

自分の中にはもう迷いは無い。
自分の能力であの敵に対して立ち向かえるっていうんだったら。
ヒーローでなくても、学校でみんなが「いつもの生活」を
送ることに貢献できるのなら。
やってやる。

「やります。『クラウンズ』に入団させてください」

思わず倉見先輩への声が大きくなった。。磐田先輩は横目でOKサインを出す。
迷いも一切無く、自分は選んだ。
自分の新しい道を『開放』することを。

3話目:佐衛門さん DL

ストーリー

執筆者からの伝言
「磐田先輩は結局悪い人ではなく、敵がダイスケと同じ能力を使って、
磐田先輩のふりをして絆を壊す作戦だったという設定を考えています。」

 

ジリリリリリリ―――
アラームが永遠と鳴り響く。
昨日の疲れもあり、ダイスケが起きたころには
1時限目がとっくに始まっていた。
ダイスケは慌てて食パンを口にくわえて家を飛び出し、
次郎学園へと向かう電車に
ほとんどタックルのような形で乗り込んだ…つもりでいた。
しかし、見慣れた景色は徐々に遠ざかり、
やがて電車はダイスケが入ったことのないトンネルへと連れ込んだ。
眠っていたダイスケは、何の抵抗もできなかっ

トンネルに入ると、急に車内から「音」が消えた。
そのとき、ダイスケは異変に気付き、目を覚ました。
無音のように感じる車内だが、
ダイスケはいくつもの音の波形を感じ取っていた。
その中に、聞き覚えのある男の肉声の波形が混ざっていた。

「…昨日、音の波形を自在に操る能力者を発見。直ちにターゲットに指定。
その後、ターゲットらの隔離室への攻撃のため、研修生を投入。
戦力を調べることに成功。
新たなターゲットはまだ能力が伸びる余地があるため、
泳がせておくのが最善かと思われます。
研修生は後で処分いたしました―――」

「う、嘘だろ……?」
この波形を感じたダイスケから血の気が引いていくのが一目でわかる。
そう、この声の主は磐田光喜。
『クラウンズ』のリーダーであるはずの彼が、
裏で別の何かとつながっていたのである。
『クラウンズ』は、ただ単に学校を守るために作られたものではないのではないか。
そして、磐田光喜の真の目的は一体何なのか。
このような謎がダイスケの脳を取り巻き、
学校の授業のことなど一切考えられなかった。

やがてトンネルを抜け、再び音が響きだした。
呆然としていたダイスケだが、
音が聞こえてくると徐々に意識が戻ってきた。
完全に意識が戻ったとき、ダイスケは校門前にいた。
時計を見ると、もう終礼時間だった。
しかし『クラウンズ』の危機を感じたダイスケは学校の中へと駆け出した。

校舎内に入ると、途中で先生とばったり出くわして説教をうけたこと以外は
いつも通りの次郎学園だった。

『クラウンズ』の拠点の中にダイスケが入るなり
「おはよう、ねぼすけ能力者くん」
「アラームの波形が子守歌にでも似ていたのか?」
少しイラッときたダイスケだが、それよりも今朝の一件のほうが大事だ。
磐田先輩がまだ来ていないことを慎重に確認し、ダイスケは蚊の鳴くような声を絞り出した。

「あ、あの…」
その不安そうな声に、これまで和んでいた場の雰囲気は一気に冷めた。
ダイスケは続ける。
「『クラウンズ』は…  何かに利用されているようなのです…」

「え……?」
突然の言葉に、『クラウンズ』のメンバーたちは驚きを隠せない。
しばらく沈黙が続いた後、明音がダイスケに問いかける。
「ねぇ、それ…どこで知ったの?」
「今朝、磐田先輩の声の波形を感じたんです。
先輩は『クラウンズ』を『ターゲット』とみなして敵視していました…」
「ちょっと待って、あの人はリーダーよ。そ、そんなこと、あるはずがないじゃない!」
他の先輩も深くうなづいている。よほど周りから信頼されているのだろう。
しかし、ダイスケはもう磐田先輩を信じることはできない。
そんなダイスケの思いが伝わったのであろうか、
先輩たちは徐々に状況を理解していった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…カチャッ

「はぁ、今日の補習長かったなー。お、皆お揃いで―― 」
「磐田ァァァァァッ!どういうことか説明しろォォ!!」
倉見先輩が見たことがない勢いで怒鳴り散らし、
磐田先輩は困惑した。
「な、なんのことだ…?」
「とぼけないで。あんたが連れてきた新人クンから聞いたわよ。あなたの目的は何?」
明音も磐田先輩を追い詰めていく。
「何のことかがさっぱりわからんが、とりあえず僕は何もしていない!」

ドゴォォォォォォンッッ!!

天井が壊れ、空から『クリーチャー』が現れた。
「何ッ!?また『クリーチャー』…!?」
「この前のよりも殺気が強いわ。どうやら本気を出さないと勝てなさそうね…」
いつも冷静な明音だが、今は焦りが見える。今回の敵は強敵らしい。

「オリャァァァ――!」
明音が『クリーチャー』の方に突っ込んだ。
その次の瞬間――
「ダイスケ、危ない!!」
磐田先輩がダイスケの背後に迫っていた『クリーチャー』の攻撃を受けた。
「ウワァァァァァァァ!!!」

4話目:はまあきさん DL

ストーリー

「磐田先輩!?どうしてそんな…」
「いいから戦え!学校を守るんだろ!!」

訳がわからない。
先輩は『クラウンズ』を狙ってるんじゃないのか?
そんなことを考えているうちにまたクリーチャーが迫ってきていることに気が付いた。
ヤバい!どうすればいいんだろう…

ダイスケはとっさに磐田先輩を抱き上げ、保健室へと走った。
とりあえずこの場から早く立ち去りたかった。
「僕なんかいいからお前は…うっ…」
先輩は何か言いたげだったが、怪我をしているので上手く話せず、しまいには黙り込んでしまった。

「にしても先輩重いなぁ…」
自分より年上の人を持ち上げている訳だから当然だが、後ろから『クリーチャー』が追ってきているのでうかうかしてられない。
できるだけ急いで校舎に入り、保健室へと急いだ。

保健室に着くと、先輩をベッドに寝かせた。
文化祭でちょっとした怪我をする生徒も多く、保健室の先生は居なかった。
ダイスケはクリーチャーが入ってこないように扉を閉め、その場に座り込んだ。
「はぁ……はぁ…」
流石に疲れたが、今もクリーチャーと戦っている『クラウンズ』のメンバーも心配だ。
「先輩…あとで聞きたいことがあります…。僕はクリーチャーを倒しに行きますので、それまで休んでいてください。」
「お、おい、お前、大丈夫かよ!?」
ダイスケは保健室をあとにし、先輩たちが戦っているところへ走っていった。

今回はクリーチャーの数も多く、今までよりも苦戦しているようだ。
戦場に戻ってきてはっと気付いた。
自分はどのように戦えばいいんだ…?
【音】の力でどうこうなる相手なのかわからないし、武器ももってないし…
でも今回はクラウンズの皆に頼ってちゃ駄目だ…!

とりあえず武器になりそうなものを探してみることにした。
木の枝、石ころ、箒。
これじゃ心もとないが、とりあえず試してみることにした。
そっとクリーチャーに近寄り、石ころを投げてみる。そしてすぐに隠れる。
しかしクリーチャーに当たった瞬間、石ころは消えてしまった。
それどころか、ダイスケの存在に気付かれてしまったようだ。

「やっべぇ、こっち近付いてくる!!どうしよう…」
悩んだ末に、自分の【音】をぶつけてみることにした。

とりあえず今できることをやってみないと!
ダイスケはクリーチャーに向かって突っ走っていった。

5話目:チュイーーーーーンさん DL

ストーリー

「食らえっ! このデカブツ!」
ダイスケはキーボードを展開し、打撃を与える感覚で【音】を放ってみる。
「・・・って全然効いてないし」
その【音】は、確かにクリーチャーに命中はした。しかし、ダメージはまるで無い。
デカブツは、音の当たったであろう部分を少しさすった後、ダイスケの方に走り寄ってきた。
「くっそ・・・どうすりゃいいんだよ!!」
ダイスケは展開していたキーボードをしまうと、クリーチャーに背を向けて校舎裏へダッシュした。
このまま逃げながら考えるしかない。ダイスケは足と頭をフル回転させた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「へぇー、面白いじゃんアイツら」
ダイスケとクリーチャーのやり取りを映していた校舎の窓ガラス。
その中・・・建物の中ではなく、ガラスが映す世界の中に『彼女』の姿はあった。
「ガキの仲間意識ほど脆い物は無い・・・って思ってたけど、これはある意味良いものが見られたのかな?」
ガラスの中では、植木鉢を頭に乗せた若い女性がくすくすと笑っていた。
その女性は、窓ガラスの『外』には存在しない。故に、本来であれば映っている筈の無い姿である。
「しゃーない、私が直接出向くかなー。よっこらFiat Lux・・・っと」
アホみたいな掛け声を上げた瞬間、ガラスの中から彼女の姿が消えた。・・・と同時に、ガラスの『外』のあるべき場所に彼女の姿が現れた。
「新入りクンと部長クンは後に回しても問題なさそうね」
女が『クラウンズ』とクリーチャーが戦っている場所へ向かおうとしたその時・・・
「何やってるんですかお姉さん!」
背後から声をかけられた。
「今学内でクリーチャーが大量発生しているみたいなんです! 早く逃げましょう!」
女性が振り返ると、息を切らした制服姿の男性が立っていた。この学校の生徒だろう。
どうやら、今日のクリーチャー襲来の件は既に学校側も把握しているみたいで、先程から避難指示の校内放送とサイレンが響き渡っている。
この辺の対応力は、さすが能力者の学校といったところである。
「ちょっと西館の方に傘を忘れちゃったみたいで・・・私に構わないで先に逃げなよ」
女性は笑顔で男子生徒に言い放った。
「そんなもの、命とどっちが大切なんですか!? さあ早く!」
男子生徒は女性の手を掴もうとした・・・が、女性はそれを払いのけた。
「それはこっちのセリフだな」
女性は笑顔を崩さず、男子生徒に向き合う。
「自分が死ぬかもしれないって状況の中で見ず知らずの私を救って、君に何のメリットがあるの?」
「いえ・・・別にそういうわけじゃ」
2人の身体を、不自然に大きな影が覆う。
「君こそ、早く逃げないと」
男子生徒を覆う影が濃くなる。
「ぱーくぱーくされちゃうよー?」
がぶり。
男子生徒は上空から現れた鳥型のクリーチャーに頭を咥えられ、そのまま身体を啜られた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『クラウンズ』は、それぞれの能力を活かしてクリーチャーと戦っていた。

「この剣はもうダメ。新しいのを出さないと」
アカネは、全長7メートルはあるオークのような巨人型のクリーチャーと戦っていた。
オーク型のクリーチャーには多量の刀傷が付いているが、依然としてそのパワーは緩まない。
一方、アカネの方は無傷であるものの、少し息が上がっている。

「アカネ、その折れた剣を少し借りるぞ」
コウジは中型のクリーチャー・・・昨日現れたのと同サイズのものを相手に戦っていた。
ブロックにボール、ライン引きに使い捨てられたアカネの剣など、その辺にある凶器を念力で操ってクリーチャーを確実に仕留めている。

「食らえ!!!」
ヒロトも中型のクリーチャーを相手に戦っていた。
瞬間移動と体術を織り交ぜながら、次々とクリーチャーをノックアウトしている。

「こっち! こっちだよー!!!」
サヤカは、能力で頑張って作った真空エリアに小型のクリーチャーをおびき寄せては窒息させていた。
能力使用による疲労はあるものの、元気に走り回っては少しずつクリーチャーの数を減らしている。

ふと、サヤカは顔を上げた。すると、鳥型のクリーチャーが逃げ惑う女生徒に狙いを定めて降下してくるのが見えた。
「危ない!」
サヤカは女生徒の元へと走り、上空の気流を操作した。
鳥型のクリーチャーはバランスを崩し、その身体を地面に叩きつけた。
「ひゃっ!?」
女生徒は突然目の前に現れた怪鳥に驚き、転んでしまった。
「今のうちに早く逃げなよ!」
「は・・・はひぃ!」
しかし、女生徒は腰を抜かしていて動けない様子だった
「早く!!」
サヤカが女生徒に手を差し伸べたその時、這いつくばっていた鳥型のクリーチャーがサヤカの身体目掛けてくちばしを近づけてきた。
「危ねえのはお前だ!!」
サヤカが振り返ると、鳥型のクリーチャーの顔面にドロップキックをかますヒロトの姿があった。
鳥型のクリーチャーは10メートルほど吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。
「サヤカ! 大丈夫か!!」
コウジも駆け寄ってきた。
「2人ともさんきゅ! おかげでめっちゃ無事っす!」
サヤカは笑顔で、いつも通り元気に応える。
「無茶しやがって・・・」
ヒロトはぶっきらぼうながらも、どこか安堵した表情でサヤカと女生徒を見る。
「ヒロト、この子を外へ頼む」
コウジはヒロトに指示を出す。ヒロトは雑に返事をすると、女生徒をおぶって姿を消した。

「・・・君の能力は近接戦闘には向いていない。クリーチャーにここまで接近するなんて無茶だ」
コウジは咎めるような口調でサヤカに語りかけた。
わかってるよ。彼女はそう呟くと、
「それでも、ウチや『弟』のような苦しみは誰にも味わって欲しくないんだよね・・・」
と静かに言った。
サヤカ、お前自身がそうなってしまっては元も子も無いだろう?
コウジは喉まで出かけていた言葉を呑んだ。それを言っても・・・いや、過去に言ったのだが、
『それで1人の命でも救えんなら良くね?』
と言われてしまったことがあるのだ。
「・・・そうか」
数秒言葉を詰まらせたコウジは、それしか言えなかった。
ふと、コウジの頭にダイスケの顔が浮かぶ。
あの新人、ダイスケならどうする?
この自己犠牲馬鹿になんて言葉をかける?
ダイスケならサヤカを呪縛から解放してくれるかもしれない。
何故かは分からないが、そんな気がしていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「わっかんねーよ・・・」
ダイスケは走りながらそう呟いた。
彼とクリーチャーの楽しい鬼ごっこは依然として続いている。先程と変わったことといえば、彼を追うクリーチャーの数が1体から3体に増えたことだろう。
現状を打破する方法が全く見出せない。むしろどんどん状況は悪化している。ダイスケは吐き気を覚えていた。
「グゥゥゥゥゥ・・・・ グアアアアアアア!!!!」
クリーチャーは獰猛な叫び声を放った。
なんつーシャウトだ。何があってこんなに興奮しているのだろう。一周回って半分ぐらい冷静さを取り戻しつつあったダイスケは、そんなことを考えていた。
「ん、興奮?」
クリーチャーはなんか知らないけどめちゃくちゃ興奮している。そして、恐らくそれが凶暴化の一因なんじゃないか?
そして、興奮している相手に有効な手段として、リラックスさせてやることが挙げられる。
それは昨日、俺がライブでオーディエンスに向けてやったことじゃないか。ならば、試してみる価値はある。いや、この状況を打破するにはこれしかない!
ダイスケは気合でダッシュして鬼との距離を開くと、身体を翻して急停止した。
・・・と同時にキーボードを展開し、クリーチャー達に【音】を放った。
この音は先程と違い、ダイスケがいつも出している、いつも披露している【音】である。
クリーチャーたちはその音を受けると、幾分か落ち着いたような表情を見せた。
「良い子だから俺の演奏を聴いてくれ!!!」
ダイスケはひたすらに演奏を続けた。クリーチャーたちをリラックスさせることだけを考え、目を瞑りながら演奏を続けた。
・・・しばらくして目を開けると、自分を追っていたクリーチャーたちの姿は無くなっていた。
「これが・・・俺の能力?」
ダイスケは自分の両掌をしばらく見つめ続けた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「・・・あ、新入り君」
西館の方へ駆け戻るダイスケを呼び止めたのは、アカネだった。
「良かった、無事だったんだね」
「明音さんこそ無事で何よりです」
明音さんはかなりの疲労が見えるものの、怪我をしている様子は無かった。
ふと明音さんの背後を見ると、そこには少し前までこの人と戦っていたであろうクリーチャーだったものがあった。
「・・・本当にお強いんですね」
「そうでもない」
明音さんは少し照れたような表情でそう言った。
しかし、周辺には剣が散らばっていた。折れたものも含め、ざっと十数本はある。
その光景は、あの肉片がかなりの強敵だったことを意味している。
・・・ん?肉片?
「昨日のクリーチャーって、粉になってすーっと消えていきませんでしたっけ」
ふと浮かんだ疑問を明音さんにぶつけてみる。
「さあ?クリーチャーにも色々あるんじゃない?」
気にしたら負け、と言い放ち、アカネはダイスケの横に立つ。
「他の先輩たちは?」
「私も今から探そうと思ってたところ。とりあえず西館に戻ろう」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「新入り君!アカネ!」
「2人ともおかえり!」
「そこの1年はともかく、アカネがくたばるわけねーだろ」
西館に戻ると、3人の先輩は思い思いの言葉でダイスケたちを出迎えた。
「はい、何とか生きてます」
「磐田を担いで部屋を出た後どうしてたんだ?」
コウジはダイスケに聞く。
ダイスケは、磐田を保健室に避難させたこと、クリーチャーに【音】をぶつけたこと、そしてクリーチャーが『消えた』ことを話した。
「驚いたな・・・奴が君を連れてきたのも頷ける」
倉見先輩はpi*2/3見直した、と言う。今までどういう見方をされていたのだろうか。
「すごい・・・! 今度見せて!」
明音さんは目を輝かせながら言う。なんかめっちゃ興味持たれてる!?
「うわー、スゴいね! でも随分無茶したっしょ?」
紗香さんは感心しながら言う。トーンは軽いが一応気遣ってくれている・・・?
「お前が言うか」
栃原先輩がそこにすかさずツッコミを入れる。何があったのかは分からないが、何かあったのだろう。
「う”っ・・・まあ皆無事みたいだし、結果オーライじゃない?」
さあ!カイチョーの元へ急ごー!と続け、紗香さんはてくてくと保健室へ歩き出した。
「あ、逃げた」
「まちやがれ」
明音さんと栃原先輩もすかさず後に続く。
「まあ、間違ってはいないな。さあ新入り君・・・いや、ダイスケ。疲れている中悪いが、磐田も交えて先程の話の続きをしよう」
倉見先輩はそう言うと、3人の後を追った。
「はい!」
正直、今も磐田先輩が敵なのか味方なのか分からない。話をするのは正直不安だ。
でも、今はそれ以上に、先輩達が無事でいてくれたことが何より嬉しい。

そう、皆無事なんだ。本当に良かった。

ダイスケの顔からやっと安堵の表情が漏れかけた瞬間・・・

サヤカの

首が

首だけが、地面に落ちたのだ。

言うまでも無く、ダイスケの表情は固まった。
ダイスケだけじゃない。メンバー全員が絶句していた。
サヤカの背後には誰もいない。端から見ると、勝手に首が落ちたように見える。
しかし、校舎1階の窓ガラスに映りこんだ世界を見ると・・・

そこには確かに、サヤカの首・・・があった位置にククリナイフを振り切っている女性の姿が映っていた。

6話目:くるやのぶさん DL

「「「「なっ!?」」」」
一瞬の出来事であった。
さっきまで一緒に行動を共にしていたはずのサヤカ先輩の首が
一瞬にして
僕たちの目の前で落ちた。

「ふぅ、いっちょあがリスドンヴァルナ」
同時にアホみたいなセリフと共に謎の女性が現れる。

一体なにが起こったんだ?
いまの今まで僕たちは4人で・・・いやこれから磐田先輩を交えての5人で話し合いをするという事だったはず。
全員無事で、集合して
しかし、いきなり現れたこの女性に
サヤカ先輩の・・・首を・・・
「っ・・・!てめェ・・・!一体・・・何を!!!」
栃原先輩が思わず叫んだ。
「あぁ?助けてやったってのになんだよ?」
女性が答える、助けてやった・・・?
「なにが助けただ!俺たちの・・・『クラウンズ』の一員のサヤカをお前は・・・殺したんだぞ・・・!!!」
倉見先輩も続いて叫ぶ。
「チッ、お前ら一回落ち着けよ、私ははこいつを殺しちゃいねぇ、私はな」
女性が言う、殺していない?
「どこが殺していないと言うんだっ!どこを見てそう言う!?」
思わず僕も叫んだ。
落ち着いていられるわけもない
目の前でまだ少しの付き合いとは言え先輩である人が首を落とされたのだ。

すると女性がスゥッと息を吸い込み
『だから落ち着けっつってんだろうがァ!!!!」』

突如叫んだ女性の言葉
何故かその一言で
僕たちは不思議にも落ち着きを取り戻していた。

「「「「なっ・・・!?」」」」

一体なんなんだこの人は
まるで心を操られたかのような一喝だった。
続けて女性が言う。
「よく聞けお前ら、まずひとつ、私はこの・・・アカネだったか?この子を殺してはいない
ふたーつ次にお前らの首を斬るわけでもないし殺すつもりもない。オーケー?」
「殺していないって・・・どうみても殺しているだろうがっ・・・!」
倉見先輩が言う。
当たり前だ、首を斬って死なないなどもはや人間ではない。
アカネ先輩は人間ではないとでも言うつもりかこの女性は?
「おっ?ちょっと惜しいな、たしかに『コイツ』は人間じゃないわ」
まるで僕の心中を読んだかのように言う。
人間ではない?いままで『クラウンズ』として一緒に居てくれた先輩を人間ではないというのか?
「どういうことだ・・・説明しろ!!」
紗香さんが言う。
そうだ、まずは説明を・・・
「ええ、してあげますとももちろんもちろん」
女性は持っていたククリナイフをしまいながら言う。
「さてと、まずはまぁ・・・そろそろかな?」
女性は指を刺す──サヤカ先輩がいた場所──

「「「「えっ!?」」」」

僕たちは再び声を揃えた。
そこにあったはずのサヤカ先輩の体──首が斬られていた体が
「なにも・・・ない・・・!?」
僕が呟いた、そう
そこにあったはずの首切りの体─サヤカ先輩がいた場所には
体だけでなく飛び散ったはずの血まで
綺麗さっぱりなにも残さず消えていた。
「一体・・・起こっている・・・!?」
思わず栃原さんが言う。
「な?分かっただろ?人間じゃないしまずここにいた奴は『サヤカ』ってやつでもない」
女性が答える、
「サヤカ先輩じゃない・・・?」
倉見先輩が戸惑いを隠さず呟く。
一体どういうことだ?
さっきここで合流した人がサヤカ先輩じゃなかった・・・?
「まず説明をするとさっきまでここでお前たちといた『サヤカ』はサヤカじゃなくて恐らく【変身能力】かなんかを持ったクリーチャーだろう、最近ではあまり見なくなっていたがこの『時期』だからな、この辺りに現れても不思議じゃない」
続けて女性が答える。
【変身能力】を持ったクリーチャー・・・だと?
「サヤカ先輩は・・・先輩はどうなったんだ!」
栃原先輩が聞く。
そうだ、サカネ先輩は・・・!?
「だから落ち着けってフード少年、分かりきってはいないがさっきの私が斬ったクリーチャーやら他のヤツらに食われたか、【変身能力】を使う時に利用し連れ去られたっていう可能性がある」
女性が着々と答える。
「食われたかもしれない・・・!?」
まさか、本当に死んでしまったのか・・・サヤカ先輩・・・。
「嘘でしょ・・・」
アカネ先輩にとっては僕たち以上につらいことだろう。
『クラウンズ』内で女子同士ということもあって仲が良かったのだから。
「いや、まだ食われたと決まったわけじゃないし恐らく連れ去られた可能性のほうが高い。私のいままでの経験上な」
続けて女性が答える。
「アカネ先輩が生きている可能性があるってことですね!?」
僕が言った、そうならこのまま待っている場合ではない。
早く助け出さないと・・・!
「あぁ、そうだ。だが今は状況が悪い。お前らはいいから慌てるな分かったな?」
女性は手を広げなら答える。
「一体どうすればいいの!?」
アカネ先輩が思わず言う。
サヤカ先輩をいったいどうしたら救出できるんだ。
「だから落ち着けって、とりあえずサヤカを連れ去ったクリーチャーを探さないといけない。だが・・・」
女性がひとつ間を置き言う。
「お前らはこんな【変身能力】みたいな【能力】を持ったクリーチャーと戦ったことがあるか?」
そういえばそうだ。
こんな特殊な【能力】持ちのクリーチャーなど僕が入団して以来の『クラウンズ』には恐らく見たことはない。
「思い出したくないが・・・一度だけ・・・いたな」
「いたわね・・・」
倉見先輩とアカネ先輩が思い出したように言う。
やはり思い出したくないほど強力なクリーチャーだったのだろうか?
「なら話が早い、つまりはそんな強敵なクリーチャーがこれから沸く可能性が高いということだ」
「「・・・」」
その一言に二人は黙り込んだ
「何度も言うがあわてるな、単独行動なんて特に絶対に禁止だせめてペアを組んで乗り込むなどにしないとな」
女性が落ち着いた様子で淡々と話す。
「乗り込む・・・てどこにだよ?」
栃原先輩が聞く。
たしかにどこに行くというんだ?
「それはもちろん、『クリーチャー』共がいるところさ」
女性は当たり前だろと言わんばかりに答えた。
『クリーチャー』共がいるところ?
次郎学園版「学校の七不思議」の1つと言ってもいいクリーチャー共のいるところ──つまり発生源
「そう、ヤツらの発生源をサヤカを連れ戻すと共に完全に叩き潰す。それが私の目的だ」
女性が淡々と続ける。
「そ・・・そんなことが・・・できるんですか!?」
アカネ先輩が聞く。まったくその通りだ。
いつもどこから現れるのかも分からず、生態系も不明。そしてさらに【特殊能力】を持つ『クリーチャー』だって現れるのだ。謎が多すぎる。
「まぁ発生源の場所は抑えてある、敵も【特殊能力】持ちでもぶっ飛んで強力なヤツはほんの一部だけだ。ほとんど関わらずに発生源だけ抑えられればなんとかなる」
女性は淡々と続ける──発生源の場所を抑えた・・・?
「ちょ・・・ちょっとまってください。その・・・発生源ってどこなんです!?」
僕が思わず聞いた。
「あぁ、それは・・・ここだ」
女性がスマホらしき物を出しながら答える。
次郎学園を中心に地図が描かれている、割と近いようだ
「これってまさか・・・」
アカネ先輩が呟く。僕はまだ学園に一年もいないからよく分からないけれど二人の先輩にはアテがあるようだ。
「時間も押しているし移動しながら作戦なり立てながら行くぞ」
女性が背を向け歩き出す。
一体どこへ行こうというのか。先輩達には分かっているようにも見えるが・・・
「さーてここからは逆転劇を見せるゼクトバッハ!」
再びアホな掛け声をどこか楽しそうな口調で言う。
どこかこの雰囲気を楽しんでいるようにも見える。
そして特に拒否するわけでもなく、僕らは彼女について行く。
ここで僕らは磐田先輩と合流することなどまったく覚えていなかった。
この謎の女性と同行することを選んだ──というよりはその選択肢しかなかったかのように。
そして僕らが向かった場所は・・・。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その頃サヤカは・・・
両手両足を鎖に繋がれてまさしく拘束されて、ある場所にいた。
サヤカはあのクリーチャーとの戦闘に負けていた──正しくは勝っていたのかもしれない。
クリーチャーが倒れたときに完全に油断していたサヤカは後方からの【変身能力】を持つクリーチャー達に襲われた。
【変身能力】を持ったクリーチャーは気絶したサヤカを元にし【変身】した。
そして内部から『クラウンズ』を崩壊させようと狙っていたのだろう。
結果として失敗には終わったが、もう一つの任務である人質に確保には成功していた。
「なるほどねぇ、おもしろいことするなアイツらも」
同時刻、とある場所
「ただヤツが動き出したからちょっとやだなぁクソ、いっつも邪魔しやがって」
まるでクリーチャー達を操っているかのように"彼"は言う。
「次は逃がさないぜ、残りの4人・・・」
邪悪な笑みを浮かべて"彼"もどこかへと向かう・・・。

7話目:主催 DL

「ここが、その場所ですか…?」
そこは、コンクリートでできた無機質な建物で、
たとえるなら、刑務所などに似ている外観だった。
「そうだ」
謎の女性がそう答える。
しかし、こんなところにあったとは思えなかった。
ここは、次郎学園に近いが、森林であり、手入れもされていない。
なので通ることはあっても入ろうという生徒はいない。
まあ、だからこそ、ここに隠れているのだとは思うのだが。

「入る前に、注意をしておく」
謎の女性が、注意事項について話し始めた。
「このクリーチャーは、特殊能力を持ったクリーチャーだ。
 このクリーチャーの能力は、変身能力だ。
 変身能力自体は力がないが、その分厄介な能力だ。
 またこの能力の周りには、強いクリーチャーがつきやすい。
 無理をせず、襲われそうになったら逃げるように」
長いが、あくびをせずに済んだ。
「ではいくぞ」
謎の女性の声に合わせて建物の中に入っていく。

入ってみると、そこは意外に静かだった。
周りをよく見まわしてみると、縛られたサヤカがいた。
「サヤカ!!!」
全員で大声で叫んだ。
「み、みんな…。と、とにかくこれを外して…」
サヤカ先輩が苦しそうにしてるので、鎖を外すことにした。
「…よいしょっと、これで外れましたよ」
サヤカ先輩に言う。
「ありがと!。苦しかったよ…」

よく見ると、両手両足にあざが出来ていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌ててそう答える。
「大丈夫、大丈夫。それより聞いてくれない?情報をゲットしたから」
…ん? 全員がそうなった。
「実は、クリーチャーについて分かったの」
え!? 思わず驚いてしまった。
「クリーチャーは、人に指示を聞くらしいの」

「え…?」
思わず疑問に思ってしまった。
「まあ、機械を付けていたからだけどね」
な、なんだ…。ややこしい。
しかし、その機械はどんなものなのか気になる。
「その機械はどんなものだったんですか…?」
僕は、そう聞いてみる。
「ううん、詳しくはわからなかった。けど、
 機械があるということは人が関わっているっていうことだと思うの。」
なるほど…。意外に頭が働くらしい。

「確かに、そうだな…」
ヒロト先輩がそう答える。
しかし、ここからどうするかは、分からない。
すると、謎の女性がこういった。
「あいつかもしれん…」
「あれ、誰なのか知っているんですか?」
「いや、あくまでも予測だ」
意外なところで情報が出てきた。
詳しく話を聞いてみることにした。

「実は昔、私は数人で「スカーレット」というチームを組んでいた。
 あのチームは、まとまりがなくて、いつも喧嘩ばっかりしていたんだ。
 あの彼ともよく喧嘩したな。…おっと話がずれてしまったな。
 あの彼は、チームの中で一番頭が良くて、チームの頭脳だったんだ。
 クリーチャーについても一番わかっていた。しかし」
謎の女性は、顔を曇らせて言う。
「あの彼は、探索中、突然いなくなったんだ。
 位置特定もできるはずもなく…。そして次々メンバーがいなくなったんだ。
 私は1人になって、こうやっているわけなのさ」

意外な過去があった。
そしてさらに続けてこう言う。
「なぜ、この話をするかというと、彼は、天才だった。
 いつもテストで1位を取り続けて、嫌われていたんだろう。
 だからか、どんどんいじめられるようになってな。
 それから人間が嫌いになって、私たちとも交流をしなくなった。
 そしてとある日突然いなくなった。復讐するためなんだろうと思う」
謎の女性の言う彼は、相当人間が嫌いらしい。
クリーチャーと交流を持つのも不思議ではないだろう。

「そういえば、電話番号交換してたな。電話してみよう」
え!? 思わず驚いてしまった。
プルルルル…
「お、水谷か? 私だが」
「ん、なんだ。久しぶりだな」
え…? 確か人間が嫌いじゃなかったはずじゃ…。
「何か企んでたりしないか?」
「そんなわけないだろw」
らしい。当てが外れたのだろうか…。

「というより、お前、どこから連絡してるの…?」
「いや、次郎学園から…」
…? あれ次郎学園の生徒じゃ…。
「…? それどこだ…?」
「え、知らないのか…? 一緒に行動したはずじゃ」
「いや、高校で突然いなくなったからどうしたのかと」
「…!」
謎の女性は気づいたように、電話をきってそうつぶやいた。

「私があったのは、あの彼ではなく、あの彼に変身したクリーチャーだったんだ…」
「え!?」
思わず声をあげてしまう。
「実は私、小・中の記憶がなくてな。てっきり彼が本物だと思ってしまったんだ…。
 そう、つまり、これを行っているのは、人間ではなく、クリーチャーだ。
 高度な知能をもったクリーチャーが、クリーチャーを操っているんだ。
 人間に復讐するために。人間を混乱させるために。人間を苦しませるために」
これは、人間が行っているわけではないという。

「でも、なぜ人間をそこまで…?」
そこまでクリーチャーがそこまでするのだろうか。
すると、声が聞こえた。
「それは、人間は我々をクリーチャーにしたからだよ」
え!? ふと振り向くと、気色悪い生物がいた。
「そう、動物を、こんな姿にした人間に復讐するためにな!」
刹那、刃物が飛んできた、

「さあ、始めようか。血の戦いを!」

8話目:アリオさん DL

「フフフッこの程度か」
「クソ!なんて奴だ」
「こんな大人数なのに歯が立たない…」
「クッ…これじゃ埒があかない。二手に別れよう」
と言って二手に分かれた。
「よし!いくぞ!!」
「そんなことしても無駄だ!!」
「まず奴の弱点を…あそこか」
「ダイスケ!!コウジ!!ヒロト!!援護を頼む!!」
「「「了解!!」」」
そう言って先輩の援護をした。
「小癪な真似を」
「フッ!!このっ!!…」
「うわっ」
「これで終わりだ!!死ねーーーー!!!!!」
「ギャ━━━━!!」

「やった…倒したぞ…」
「少し手強かったな…」
「…でもあのクリーチャー『人間は我々をクリーチャーにしたからだよ』とか言ってましたけどどういう意味なんでしょうか?」
「判らない…でもこれではっきりした黒幕は…」
ゴゴゴッ…
「うわっ!!」
「何っ!?」
急に地鳴りが起こった。
「学園の方だ」
そう言うと急いで学園の方に向かった。

「何よ…コレ…」
学園は無残な姿になっていた。
「これは酷いですね…」
(今日は何て日だ…
色々な事が一気に起こって頭が…頭が痛くなる…
コレは全部夢なのか!?いや夢であって欲しい…)
今の現状を全く飲み込めない。
その時。
「こんな事してる場合じゃない!」
と先輩は皆に聞こえるように言った。
「落ち込んでどうした!ここで落ち込んで学園が直るのか?
 直るわけないだろ!こんな事してるうちにも敵は動いてくる。それを食い止める為に俺達がいる。さあ行こう!!」
心にグッときた。どこかで聞いたような言葉なのは置いといて,先輩の言う通りだと思う。
「そうですね」
「そうだよ,落ち込んでもしょうがない」
「皆で倒しましょう」
「よしそうと決まれば出発だ!!」
先輩はやっぱり先輩だ。
「フフ…」
「おい、何笑ってんだ?」
「いや、別にw」
然して,敵の本拠地の場所を探った。

「フッ…全く情けないねぇ」
「ま、マスター」
「液状化してどんな感じかね?」
「お、お願いです!!ふ、再び元の姿に…」
「なってどうするんだね?
 再びやられに行くのか?」
「そ…それは…」
「弱い奴などいらん!!」
「や、やだ、死にたくない…!!
 ア━━━━!!」
「チッ…全く使えなかったな…
 まっ次は頑張ってくれるだろ…
 フフフ…」


「解ったぞ!!敵の本拠地が!!」
「おぉ!!そうか場所は…」

9話目:夜桜ヨッシーさん DL

「こんなところに扉が…」
元は学園だった瓦礫の山の近くに、赤く分厚い扉があった。
その扉は地下へと続いており、中は広くなっている。
「まさか地下に潜んでいたとは…」
全員が固唾を飲む。
「本当に入るのか…」
「でも賭けてみるしかないんじゃない?」
周辺を見渡すが
「準備はできたかい?」
「「「「「はい!!」」」」」
そういって1人ずつ中へと入っていった。


両端に蝋燭が灯されており道中はあまり暗くなかった。
「やはりここに敵が潜んでいそうね…」
とその時、
「グォォォッ!!」
「ここにもクリーチャーが…!」
様々な姿形をしたクリーチャー達がダイスケ達目がけて襲ってきた。
「えいっ!」
「とぉっ!」
「せいっ!」
数え切れないほどのクリーチャーを薙ぎ倒していく。
「「「「うおおおおおおおおおっ!!!!」」」」

「どうやら全部倒したようね」
周囲に大勢いたクリーチャーも今では完全に消滅している。
「さあ先に行きましょう」
辺りを警戒しながらダイスケ達は前に進んでいく。
「それにしても長いな…」
「いつになったら出てくるんですかね?」
「でも出てきたら嫌なんでしょ?」
「確かに」
「さっさと終わらせて帰りたいー」
「こら、無駄口を叩かない」
ひたすら同じ光景を目にしながら6人は地下道を進んでいった。
そうこうしているうちに1つの扉を発見した。
扉には4文字のパスワードを入力する部分がある。
「うげ、マジかよ」
「しかしここにいるという事で間違いなさそうですね」
「でもパスワードが分からないと…」
ここで女性が前に出た。
「まさかね…」
ピッピッピッ…
パスワードとなる数字をゆっくりと入力していく。

ピンポーン!

扉がゆっくりと開いていく。
「すげぇ…」
「あの、何でパスワードが分かったんですか?」
「とりあえず自分の名前を入力しただけよ。まさか本当に当たるなんてね」
名前?そう言えばこの女性の名前をまだ聞いていなかった。
「私の名前は音羽紅(おとばこう)。9071と押したわけ」
でも名前で開いたってことは…
そう考えているうちに扉が完全に開いた。
その先に1つの人影があった。
人というよりはむしろ…

「え?なんでここにクリーチャーが…」
「ボスじゃないのかよ!」

そこにいたのは人型のクリーチャーであった。
頭部には機械らしきものが見え、手には鞭のようなものを持っていた。

そして先ほど開いたはずの扉が閉まってしまった。

「クソッ!この扉はフェイクだったか!」
「ひとまず前にいる奴を倒さないと!」

全員が武器を構えた。

ビーッビーッ
突如サイレンが鳴り響き、クリーチャーの機械が作動した。
「…目ノ前 ニ イル 侵入者 ヲ 排除 シマス」

クリーチャーが襲い掛かってきた。


「…さて、この"クリムゾン"というクリーチャーがどこまでやれるか楽しみにするか、ハッハッハッ!」
"彼"は別の部屋でこの様子を見ている。
その顔には余裕の表情さえ伺える。

10話目:こんぺいとうさん DL

クリーチャ―は脇目も振らずダイスケへ飛びかかってきた。
ダイスケはクリーチャ―の攻撃をかわすことはできたものの、バランスを崩して倒れてしまった。
「危ないっ」
紅が思いきりダイスケを押し、少し遠くに飛ばしてくれたおかげで少しの擦り傷で済んだものの、
このままではダイスケはあのクリーチャ―を倒すどころか、近づくことすらままならない。
見渡すと、ほかの仲間も、鞭とその頭部の機械、また人型のクリーチャ―という慣れない敵に対して、攻めあぐねているようであった。
クリーチャ―は頭部の機械で敵の動きを認識し、それに対して鞭を振るっているようだ。
認識から攻撃の間に2,3秒の隙はあるものの、振り回されている鞭をかわしつつ、3秒以内に攻撃することなど人間にはまず不可能である。
しかし、このクリーチャ―はいまダイスケと紅しか見えていないようで、他の仲間たちは下手に触れない限りは安全そうである。
だが、銃もないのに触れずに攻撃できるわけがない。
サヤカがなんとか空気の流れを変えて鞭を多少は遅らせているも、効果は微々たるもので、効いていないも同然である。
なんとか背後に回ることができれば…とダイスケと紅を除いた4人は考える。
と、ここで磐田先輩が言う。
「ヒロトの能力でなんとか背後に回れないか…?」
たしかに彼の能力は10m先まではいけるが、それは「遮蔽物がなかった場合」の話である。
背後に回るためには、少なくとも右か左→後ろ、というように動かなければいけないし、攻撃をよけるダイスケたちを狙うためにクリーチャ―が向きを変える可能性もある。
しかし、そんなことを考えている暇はなかった。
なぜなら、今まさに壁際へ追いつめられた2人に、クリーチャ―が鞭を打とうとしているからだ。
「まずい、うまいこと捕まえられてしまったぞ…」
紅がつぶやく。
だが、この状況をヒロトはチャンスととらえた。
なぜなら、2人は動けないのだから、クリーチャ―も動かないのである。
そして鞭も、今は2人にしか向けられておらず、後ろはがら空きだ。
「うわっ」
「ふぁっ」
ヒロトは磐田先輩などの仲間を力任せに押しのけると、足元にあった謎の機械を蹴りあげてその蹴り上げた機械を手に持った。
そしてその特殊能力を生かして目測…2.5mほど先のクリーチャ―に飛び掛かり、
グチャッ!ゴギュ!バギッ!
そのままクリーチャ―をその機械で思いっきり叩いた。
「ギャァァァァ!」
「ウーーーウーーー!」
耳をつんざくような悲鳴とうるさいサイレンが鳴り響いた。
全員の鼓膜が破れるような音だったが、ダイスケがとっさに音を操って鎮め、6人の耳は事なきを得た。

そしてそのクリーチャ―はそのまま横に倒れた。
「はぁ…はぁ…」
「なんとか倒しましたね…。ありがとうございます。」
「隅に逃げちゃって捕まるなんて不甲斐ないね…」
ヒロトは全力で敵に向かっていったため、少し息切れしている。
瞬間移動にはそれなりの体力を使うらしい。
「大丈夫か?」
磐田先輩・倉見先輩、サヤカ(十条先輩)、紅がヒロトのもとに駆け寄る。
「ああ…」
遅れはしたがダイスケも近づくと、ヒロトの手元の機械を指さして尋ねた。
「それ、なんですか?」
「わからない。足元に落ちていたものだけれども…」
「なんかゲームボーイのような形をしていますね。」
よく見ると電源ボタンがあったので押してみると、真っ青な画面が現れた。
あんなに思いっきり叩いたのに、奇跡的に壊れていないらしい。
だが、奇跡的だとしてもとても丈夫なものだろう。
「これは…すごいね」
紅が驚いたような表情をしている。
それはそうだろう。衝撃はかなり大きかっただろうから。
「あれ、なんか出ましたよ」
ダイスケの言葉に、全員が画面を覗き込む。
そこには、何者かからのメッセージが書かれていた。

  • これが表示されたということは、おそらくここのクリーチャ―を倒したのだろう-
  • それがわかるのは、ここのクリーチャ―を作ったのが私だからだ-
  • 自己紹介が遅れた。私は吉田竜人、次郎学園初代卒業者の一人だだ。-
  • このクリーチャ―の名前をクリムゾンという。-
  • ちなみにこの機械はクリムゾンに5.6回思い切り叩かれても大丈夫なようにかなり強い衝撃に耐えられるようになっているぞ(笑)-

「踏まれてもいいように…か。それでこんなに丈夫だったんですねぇ」
ダイスケがつぶやいた。

  • まあ挨拶とこの機械の話はいいだろう。ここからは…クリムゾンを倒した君たちへの頼みだ-
  • 単刀直入に言おう。学園に出現するクリムゾンが凶暴化するのは、この更に下にいる男がクリーチャ―が暴走するように仕向けているからだ。-
  • だからその男を倒し、次郎学園を凶暴化したクリーチャ―の魔の手から救ってほしいのだ。-
  • 次郎学園に入ってきたらクリーチャ―達は彼に操られて凶暴化してしまう-
  • つまり彼を倒せばクリーチャ―達も操られず、触れなければ何でもないだけのただの異形の生物、というだけの存在になるということだ-
  • これを見て分かっただろうか。つまり彼を倒し、クリーチャ―と次郎学園を救ってほしいということだ-
  • 部屋のクリムゾンがいたあたりに隠し階段があるはずだ。それが更なる地下へと続いている-
  • この下には迷宮のような空間があり、クリムゾンのような強さのクリーチャ―がひしめいているし、彼に至ってはクリムゾンの力を吸収している。注意してほしい。-
  • やってくれるかはわからないが-
  • 頼む-

これを最後に機械はブツッと切れた。
もう1度電源ボタンを押しても何もつかない。
「……」
全員が少し黙り。
「行くしか、ないかな」
「行こうぜ!」
紅がつぶやき、盤田先輩も力強く言った。
「そうだな」
「ですね」
「ああ」
「行こうか」
誰からも異論は出なかった。
その後に最初にクリムゾンがいたあたりを調べると、あっさりと階段は見つかった。
「じゃあ…最後の戦いに行きましょう…。あっそうだ。子供っぽいですけど」
そういってダイスケは5人を誘導して全員で円陣を組み、

「えい、えい」とダイスケ。
「「「おー!!!」」」
全員が一気に叫んだ。

そして彼らは、最後の戦いに向け、階段を下りて行った。

11話目:ダージリンさん DL

「・・・そこまでよ。あんた達には死んでもらう・・・あの男からの命令よ。」
階段を下っていた途中、後ろからそんな声が聞こえた。
「「「なっ・・・!?」」」
全員が後ろを振り向くと銃を構えた音羽が数段上からダイスケ達を見下ろしていた。皆は態度が変わってしまった音羽に対して驚愕し、怒声が上がった。
「貴様!やっぱりあいつらのツレだったのかよ!」磐田が叫び、
「どうりであそこのパスワードを知っていた訳だ。」倉見が呆れ、
「私たちのこと裏切るわけ?サイッテー!」十条が睨み、
「お前が死ねよ・・・」栃原が罵り、
「ちょっと意味分からないんだけど、どういうこと?」白石が惑い、
「音羽、どうしてそうなったんだ?なにか隠してるだろ、言ってみろ。」
ダイスケが怒りを抑えながら問うと、音羽は声を震わせながら言った。
「私・・・今まで黙ってたけど・・・最後の部屋にいる男の・・・クリーチャーを全て支配している"音羽響(おとばひびき)"の娘なの・・・だから・・・父の言うことには逆らえないの!」
「「「な・・・なにぃぃ!?」」」
6人とも衝撃なる事実を聞いてさらに驚愕した。どういうことなのだろうか。
「そ・・・それって・・・」
ダイスケが口を開こうとしたとき音羽はその後も続けて話した。
「あの人は・・・私が小さいときから命令ばっかり・・・今回も仲間になったと見せかけて全員を殺せという命令を聞かされた・・・生か死かの選択を選ばせられてね・・・だからここで死んでもらわないと私が殺されるの!」
「「「!!」」」
全員が驚きで声も出ない中、音羽はさらに続けた。
「しかも・・・ここ、お父さんからモニタリングされてるわ・・・いや、ここだけじゃない。今までずっとね!だから、行動を完全に把握されてるの・・・最初っからね・・・」
もう音羽の表情には焦りが見えはじめていて、今にも泣きそうな声であった。
「なぁ音羽・・・もう少し良い方法は無かったのかよ。今ここで俺達を殺しても何も変わらないだろ。」
ダイスケの一言で音羽はゆっくり銃を下ろした。全員から安堵のため息がつかれた。・・・と思わせて銃の弾を変えて再び銃口を向けた。
「大丈夫、この銃の弾は遅いからゆっくり殺ってあげる・・・」
「「「そういう問題じゃねー!!」」」
全員の総突っ込みを無視して引き金を引いた。
「さようなら・・・」
そう言って「パァン」と乾いた音を鳴らして銃を6発連射した。弾のスピードは音羽が言っていた通り遅い。
「皆!避けるんだ!」
ダイスケは皆に叫んだ。そして皆はその弾から避けるように離れた。しかし弾はあらぬ方向に曲がり、栃原、白石に当たった。
「うぐっ・・・」
「きゃあ!」
二人はその場で倒れてしまった。しかも目を開いていない。
「「「!!」」」
他の4人は倒れた2人を見た。しかしその一瞬の隙に、
「なっ・・・」
「っ・・・!!」
十条、倉見も弾に追いつかれてしまう。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
そして磐田にも当たってしまった。
ダイスケは逃げ切れないと悟り、とっさに持っていたキーボードで追ってきた弾を叩いた。すると弾はキーボードを貫通し頭上を通りすぎた。
「な・・・俺のキーボードがぁぁ!!」
キーボードには大きな穴が開いており、電源をつけようにも点かなかった。そして音羽の方にに振り向いたとき、皆は倒れていてピクリも動かないでいた。
「お、俺の仲間が!おい音羽、なんなんだ今の!?」
ダイスケはキーボードを捨て、音羽に聞いた。
「私の能力は時速50kmまでの動く物質の軌道を変えること。つまり【鈍速性軌道変換】なの・・・だからこの弾は遅いのよ。さらに、軌道を変えて曲がった後は急加速するわ。」
すると、音羽はダイスケの耳に近づき、
「あと、これは麻酔銃よ・・・ただ眠ってるだけ。貴方には特別に当てないようにした・・・」
そして最後に
「貴方に当てなかったのは理由がある・・・。私の実の父、音羽響を倒してほしい・・・もちろん私も協力する・・・」
と耳打ちした。その声はとても弱々しくまるで涙声だった。今度はダイスケから音羽の耳に近づき、
「・・・分かった。」
と短い返事で返した。
「あともう一つだけ。お父さんは怒っている時に・・・」

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そして二人は階段を下り切り、指令室の扉の前へとたどり着いた。
「ここが・・・お前のお父さんがいる指令室なのか?」
「ええ・・・間違いなくここが最下部よ。」
「・・・なぁ音羽。」
するとダイスケはさっきから気になっていることを聞いてみることにした。
「お前の能力って、動いているものの軌道を変えるだけなのか・・・?」
「ええ、そうよ。言ってなかったっけ?、"私が使える能力はこれしかない"わ。それがどうかしたの?」
「え、それじゃあ【変身能力】っていうのはどういうことなんだよ。」
そう、ダイスケはその【変身能力】について気になっていた。一体誰が使っているのか、どういう仕組みだったのかを。
「・・・行きましょ。」
「・・・。」
音羽はその質問に関しては答えてくれず、、ダイスケは深追いすることもなく目の前の扉をあけた。

その瞬間━━━━━

「あ゛あ゛!!」
音羽が悲鳴を上げて蹴り飛ばされた。
ダイスケは確信した。蹴り飛ばした犯人は一人しかいない・・・。
「よぉ・・・」
「やっぱり、最後に闘わないといけないやつは、お前だったのか・・・クリーチャーの支配人・・・」
低く濁った声を発し、釣り上がった目を細め、不気味に笑う男。この男の名がまさに・・・
「音羽、響!」
・・・であった。
「ああ、そうさ。俺は音羽響。あの馬鹿の父親さ。」
そして、後ろで苦しみながらも立ち上がる音羽紅も殺意の目を向けてこちらに向かってきた。
「響さん!いきなり蹴ることないでしょ?」
「あ?何言ってんだ。俺はずっと"お前らの後ろにいた"ぜぇ?」
すると後ろからも響の声が聞こえたのでダイスケは振り向いた。そこには・・・
「なっ・・・!?」
ダイスケは絶句した。
何故ここにも響がいるんだろう・・・と思ってハッと気づいた。その顔を見ていた正面の響はニヤリと笑い、
「ダイスケく~ん、分かったか?俺の能力が!はっはぁ!!」
と右から来た響が言う。
「も、もしかして・・・音羽が言ってた【変身能力】って・・・」
「そうさ!俺なんだよねぇー!!俺はなぁ、自由自在にクリーチャーをいくらでも変身できるんだよぉ?そう、人にだって動物にだってなぁ!」
左から来た響がそう言った。そして4人の響は二人の前で横一列に並んだ。
「さぁお二人さぁん?」
「これでどれが本物かわからないだろぉ?」
「ははぁ!」
「当ててみなぁ!」
4人の響がリレーで喋る。超難問のクイズにダイスケは「わ・・・わからねぇ・・・」とつぶやく中、紅は無表情のまま奥で後ろを向いたデスクワーク中である響に指を指した。
「お父さん、いつまでも私が答えられないとでも思ってた?声も少し高かったし、表情も機械的だった。相変わらず細かいところまでは変身できない能力だけあるわ・・・」
「ッチ」
紅は奥の場所にいる響にまで聞こえるように声をだした。響は後ろを向いたまま舌打ちをした。
「音羽、変身能力にも欠点はあるんだな・・・」
「当たり前よ。ダイスケの能力の場合、音を操れるけど音に耐性を持つクリーチャーがいるように、この能力にだって変身はできるけど変身が苦手なクリーチャーだっているのよ。クリーチャーが全部同じだとは限らない。」
ダイスケが尋ねると紅はスラスラと答えた。どうやら【変身能力】に関しては詳しいようだ。すると奥で作業中だった響が勢いよく立ち上がった。振り返ってずんずんと歩き、二人の目の前で止まった。紅が当てた本物の響であろう。
「この馬鹿娘め・・・俺を散々言いやがって・・・クリーチャー!二人に総攻撃だぁぁぁああぁ!!」
そして怒り心頭。偽物の響はクリーチャーに戻り、クリーチャーをさらに増やし10体で襲った。
「なっいきなりかよおい!」
突然の猛攻に反応が遅れたダイスケは危うくクリーチャーにぶつかりそうになる。
「くそ、この狭い部屋に10体かよ・・・」
丸腰状態のダイスケにはクリーチャーの攻撃から避けるのが精一杯であった。
「・・・任せて。」
すると紅はあちらこちらに飛び交うクリーチャーを【鈍速性軌道変換】で軌道を変え、クリーチャー同士でぶつけてクリーチャーを消滅させた。
「ここにいるクリーチャーの飛ぶ速度は精々時速40km。つまりこの能力が多いに発揮できる。」
次々にクリーチャー同士が衝突し、ついに残りのクリーチャーを2とした。ところが響は残りのクリーチャーにある指示を出した。
「クリーチャー!お前らダイスケに向かって攻撃しろ!」
なんと完全に手ぶらであるダイスケにクリーチャーを突進させたのだ。
ダイスケは挟み撃ちに遭い、逃げる術もなく攻撃を受けた。そのままクリーチャーは消滅し、ダイスケは派手に飛ばされた。
「ダイスケ・・・っ」
紅は響を睨みつけた。
「お父さん・・・よくもダイスケを・・・覚悟しなさい!」
紅は発狂した。右手には先ほどの銃が構えられている。
「やってみろぉ!」
響がそう言うと紅は躊躇なく銃を撃ち、軌道を大きく変えて弾を加速させた。そして見事響に当てた・・・かのように思われた。
「残念だったな・・・」
「!?」
紅の背後に"それ"はいた。紅が気づいた時には右足の向こう脛を思い切り蹴り上げていた。
「あ・・・あぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!」
紅は蹴られた右足を押さえて叫んだ。あまりの痛みに倒れてしまう。
「お、音羽!」
ダイスケは叫び声で意識を取り戻し、紅の方に目をやった。なんと響がなんの抵抗もなく紅の背中を踏み付けていた。
「音羽ぁ・・・。くそ!響の野郎クリーチャー1つ隠し持っていやがったか。絶対に許さねぇ!・・・ん?」
ダイスケはなんとか起き上がり、なにか良い方法が無いか身の周りを探した。すると机上に先ほどまで響が使っていたタブレット端末に目をつけた。幸い電源がつけっぱなしだったのでそのまま操作することができた。
「あっこれは・・・ピアノアプリ・・・!」
するとたまたまたくさんあったアプリの中にピアノのアイコンをしたアプリを見つけて起動させた。もうこれしかないと踏み込んだダイスケは・・・
「すぅぅぅ・・・」
ダイスケは大きく息を吸い込みながらゆっくり立ち上がり、
「音羽響!」
「・・・あぁ?」
響が振り向いた瞬間、部屋に響き渡るほどの大声で叫んだ。
「俺の音色を聞きやがれぇぇぇぇええぇぇぇ!!!!」
そして音量をMAXにし、なめらかで、しなやかに演奏した。

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「はあぁぁぁぁあぁああぁぁぁ!!!」
響は音色を聞くと呻くように発狂した。脳内に直接伝わるような旋律と、誰もが引き寄せられる音色がダイスケから響き渡ってくる。それはまるで学園祭のライブの時のように・・・。
「ぎゃぁぁ!!やめろぉ!俺に・・・この俺様に・・・音楽を聴かせるんじゃねぇぇぇええぇぇぇ!!!」
響は必死にもがいていた。それはさっきの耳打ちで・・・
「あともう一つだけ。お父さんは怒っている時に音楽を聴くとのたうちまわる・・・特にピアノ曲がの方が効果ある。だから、最後の手段よ。」
確かに効果は絶大だった。
「うるせぇ黙って聞いてろこの馬鹿親があぁぁ!!!」
響が叫び苦しんでいると、その叫び声と今まさに引いている演奏よりも大きなダイスケの声が響へと刺さっていく。この言葉で火が付いたか、響は更に怒りを爆発させた。
「ば・・・馬鹿親だとぉぉ!!良い度胸じゃねーか!そのタブレットごと消え散れぇぇ!!」
腕をまくり、華麗な旋律を耐えながらも走りかけてきた。するとダイスケが演奏する曲は一番の盛り上がりに入った。その瞬間、
「あああぁぁぁぁぁあぁぁぁあああぁぁあぁぁぁぁ!!!!」
耳をふさぎ、情けない声で叫んだ。
・・・そして、演奏は静かに奏でられて、終わった・・・。
「お父さーーん!」
後ろから猛ダッシュで紅が駆け寄って来て、呆然としている響にダイブ。そして響にしがみついた。ダイスケは初めて、紅が涙を流しているところを見た・・・。
「お父さんの馬鹿ぁ!もう終わったって良いでしょ?どうして!ねぇどうして続けようとするの!?命令ばかりするお父さんより、長い時間悪い手に染めてなにもかもを突き落とすお父さんの方が大っ嫌いだ!」
やがて響は力無く倒れた。

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響は仰向けになり、無表情のまま天井を見つめていた。二人も口を開かないまま座っていた。支配人である響をたたきのめしたら、この先どうなるのだろうか・・・ダイスケはそんなことを考えていると、響が静寂を破った。
「全く・・・支配人である俺を倒すとはなぁ・・・お前らは本当に関心するよ・・・。」
ダイスケと紅は顔を見合わせ、
お互いに微笑んだ。
「とまぁ・・・俺が倒れるとクリーチャーが消滅するわけで・・・クリーチャーが消滅したら、俺の能力は失って、俺自身も消滅するんだけどな・・・」
「「えっ」」
しかしこの言葉を聞いて二人が声を合わせて仰天してしまう。
「お父さんが・・・消滅・・・」
「ああ、既に消えかかってるしな・・・」
響を見ると確かに薄くなっていた。あと数分だと察した。
そして、ついにやってきた・・・響との別れ・・・
「すまなかったな本当に。最期は私の"愛娘"に救われるとは思わなかった・・・」
「私のあれは・・・ダイスケがいなかったらと思うと今頃こんなことにはなってないと思う・・・」
「でも、結局響さんの心が動いたのは同じ血が流れた親子だったからだと思うよ。」
「ありがとう、紅。そしてダイスケ君。もしも俺が生まれ変わったならまたどこかで会おう。うちの愛娘をどうかよろしくな。」
「「・・・」」
そして響はそんな冗談をのこし、微笑みながら消えていった・・・。
「終わったか・・・」
「えぇ・・・そうね。」
響が消えると、ダイスケはすぐに立ち上がった。
「音羽、早くあいつらの所に戻ろ・・・音羽?」
そして磐田達のところに戻ろうと音羽を呼んだが、返事がなかった。
「お、音羽!どうしたんだ!?」
「い・・・たぁ・・・足が痛い・・・」
と思うと足元でうずくまっていた。まだ向こう脛が痛むらしい。
「あんな無茶をするからだ・・・」
痛みを我慢してまで頑張らなくても良いのにとダイスケは思いつつも紅の足を丁寧に手当した。
「ふぅ・・・これで大丈夫。」
「あ、ありがとう・・・」
今度こそ皆の元へ戻ろうと紅がゆっくり立とうとした。
「・・・」
しかし、すぐにダイスケはなにか足元から違和感を覚えた。
「ダイスケ・・・?どうしたの・・・?」
紅がダイスケに聞こうとしたその瞬間、部屋が大きく揺れた。
「うわぁ!?」
「きゃっ・・・」
と思うと上からどんどん瓦礫が落ちてくる。
「い、いかん!天井が崩れてきてる。早く逃げよう!」
「早くって言われてもこの足じゃ・・・」
「ならお前は早く俺の背中に乗れ!」
「えっ・・・え!?」
突然の言葉に恥ずかしがる紅だったが
「じ、じゃあ遠慮なく・・・あ、ありがとう・・・」
結果お礼を言い、ダイスケの言葉に甘えて背中に乗った。そして二人はこの地下から脱出すべく元の来た道を急いで引き返した。
「しっかりつかまっとけよ!」

12話目:1NMさん DL

ダイスケは地下を脱出するため、音羽を抱えて全速力で走っていた。
天井はどんどん崩れてくる。
しかし仲間を守るためにダイスケは一瞬たりとも手を抜くことはしなかった。
ダイスケは仲間たちが倒れている階段へとたどり着いた。
「みんな!目を覚ましてくれ!」
ダイスケは叫んだ。すると、
「...っ」
磐田が目を覚ました。
「磐田先輩!大丈夫ですか!」
「ああ、何とか大丈夫だ」
「無事で何よりです!
それより大変です!
この地下の天井が崩れてきています!」
「な・・・なにぃぃ!?」
「なので他の人も起こしてすぐ逃げましょう!」
「わかった!」
二人がかりでみんなを起こし、すぐさま地下からの脱出を再開した。
七人で階段を駆け上がる。地下の崩壊は刻一刻と迫っている。
何とか駆け上がろうと頑張るが、遂に体力が切れたのか、白石が立ち止まってしまった。
「何してるんですか!」
「私もう無理...私のことは置いて先に行って...」
「そんなことできませんって!あとちょっとなんですから、頑張りましょう!」
「でも...」
「なら俺の背中に乗れ!」
叫んだのはヒロトだった。
「ごめん、ありがたく乗せてもらうね」
「おい、もうすぐそこまで崩れてきてるぞ!急ごう!」
「お、そうだな」
何とか階段を登り切った。
しかし、ここで重大なことに気付いた。
「くそっ、開かねえ!」
なんと部屋の出口の扉が開かないのだ。
入る時とは違い、パスワードを入力するところは見つからず、押しても引いても、その扉は開きそうになかった。
「俺たちもおしまいか...」
誰もがそう思った時、
「諦めるのはまだ早いわ」
誰かがそう口にした。
音羽だった。
「さっき父に会った時にここの開け方を教えてもらっていたの」
「なんだ、じゃあ早く開けてくれ」
しかし、中々開けようとしない。
「どうしたんだ?」
「それが...
どうやらカギが必要みたいなの。
でもそのカギは持ってないし、どこにあるのかも教えてくれなかったからどこにあるかわからないの。」
「まじかぁ...どうすればいいんだ...」
「あ、でもそれ私が持ってるかも」
紗香がそう言った。そしてポケットを軽く漁ると、
「ほら、これじゃない?」
確かにカギだ。
「あるじゃん!でもなんで紗香が持ってるんだ?」
「拘束される直前にクリムゾンが落としたのよ。念のため拾っておいてよかったわ」
「急ごう!時間がない!」
解錠して扉を開き、地下道を駆ける。
行く手を阻む者はいなかった。
そして...

「ハァ、ハァ、なんとか脱出できた」
七人は無事地下を脱出することに成功したのだ。
疲れてそこに倒れこむ七人。
「これでやっと...終わったんだな」
「ええ」
「ふぅ~っ」
皆が安堵する。
しかし、これで終わりはしない。
これから皆で力を合わせて学園を修復していかなくてはいけない。
これから、始まるのだ。
僕たちの、学園生活が。
            -THE END