艦これ 二次創作小説 キス島撤退作戦 第6話 激闘 a fierce fight

Last-modified: 2015-03-02 (月) 22:25:06

14.1.9 円卓バーナー.JPG
total ?
today ?
yesterday ?
NOW.? 人(現在在籍数)



艦これ 二次創作小説 キス島撤退作戦 第6話 激闘 a fierce fight

0300時。幌筵泊地から、大鳳、千歳、千代田、古鷹、加古、卯月から成る空母機動部隊が出撃した。埠頭では帽振りをするT提督、鳳翔、矢矧、浜風、文月が彼女達を見送っていた。
洋上では夜間警備を行う暁、響、弥生だけでなく、「おおすみ」から出てきた初霜、若葉、三日月が手を振って彼女達を見送った。
「負けないでね!!」
「頑張って!!」
無線越しに駆逐艦娘の声援が送られ、大鳳達もありがとうの言葉を返した。すぐに大鳳達は闇夜の中に隠れて見えなくなった。
大鳳達は灯火管制で航行していたが、赤や緑の航行灯を点灯することで互いの位置を見失わないようにしていた。
「いよいよ始まったわね」
「まだ敵が攻めてくると確認したわけではないわ」
気合を入れる千代田を落ち着かせる為に、旗艦の千歳はそう応じた。「今回の出撃は、あくまで様子見。何も出てこなければ作戦は従来通りに行われるし、もしそうでなければ動きは変わる。それだけよ」
「私は来ると思うんだけどな―」
「私もそう思うけど…見たわけではないから分からないわ」
「キス島守備隊からも、まだ何の連絡も来ていないですしね」
大鳳が同意を示した。
「ねえ、敵が自分達の動きを守備隊にここへ送信されたいと思う?」
「つまり?」
千歳が先を促した。
「つまりこういうことよ。敵は守備隊がここへ情報を流さないように、妨害活動をやっているんじゃないかってこと」
「なるほど、確かにそうね」
千歳は右手の拳を顎に当てた。
「今頃敵さんもこっちに向かっているのかねえ」
加古がまるで他人事のように呟いた。
「かもしれないわね。でもどっちにしても、推測の域を出ないわ」
古鷹が言った。
「答えは日が昇った時に分かるでしょう」
千歳がそう締めくくった。
「それにしても、ふあぁあ、眠い眠い」
加古が欠伸した。「卯月ちゃんもそうだろ?」
「うーちゃん、加古と違って気合充分だピョン!近づく敵はうーちゃんが残らず成敗してみせるピョン!」
卯月は大げさに敬礼して見せた。
「お願いしますね」
大鳳が微笑みながら頷いてみせた。
「そう言われるとうーちゃん嬉しいピョン!益々やる気がグレードアップだピョン!」
「皆さん、眠気覚ましに紅茶でも如何ですか?」
古鷹が、右手に持った魔法瓶を掲げた。航行灯で反射して光っている。
「おう、砂糖とミルク入りで頼むぜ!」
「頂くピョン!」
「私にもお願い」
「勿論私にもね」
「はい、頂きます」
古鷹は紙コップに温かい紅茶をいれて配った。
「これは古鷹が自分で作ったものなのですか?」
紅茶の香りを嗅ぎながら大鳳が聞いた。
「はい。以前提督にいれかたを教えてもらったんです」
「良い香りですね」
大鳳達は紅茶を嗜んだ。美味しい紅茶で、身も心も温まった。
「ホッとするわね」
千歳が温まった空気をフ―ッと吐き出した。
「おぉ、目が冴えてきた。力がみなぎってきたよ!」
加古が嬉しそうに頷くが、古鷹はやや冷めた口調で言った。
「すぐに眠くなるでしょうけどね」
「ちょ、古鷹、マジで目が冴えてきたっつーの!!」
「今にわかるわ」
艦娘達はクスクスと笑った。

太陽が水平線上に姿を現し、朝になった。ちょうど大鳳達はモーレイ海に入ったところだった。
「索敵機、発艦始め!」
千歳の命令で、大鳳、千歳、千代田、古鷹、加古は各々の艦載機を空中に放った。彩雲、天山、流星、零式水上偵察機の部隊は、扇型に広がっていった。
「大分上手くなったわね」
千歳が大鳳にそう言った。「その調子で頑張って」
「有難うございます」
頭を下げる大鳳。千代田も大鳳の着実な練度の向上に満足しているようだったが、敢えて懸念の言葉を口にする。
「でも空戦や対艦攻撃についてはまだまだ不安があるわ」
この事については千歳も否定しなかった。
「確かに。でも大鳳の艦載機も、ぜひとも活躍させたいわ」
「でもどうやって?」
「一応考えてはあるのだけれど…まあ実際にやってみないことには。何せ演習していないしね」
「対艦攻撃は昨日のような穏やかなものじゃないわよ大鳳」
「ええ、それについては私も、艦艇時代に記憶しています」
「今度はこっちが逆マリアナをやってやろうじゃないの!」
千代田がガッツポーズを取ってみせた。大鳳もそれに倣った。千歳は微笑みながら2人のやり取りを見守る。

15.3.02 ヲ.JPG

索敵機が敵艦隊を発見したのは、それから2時間20分後のことだった。発見したのは千代田の天山だった。
「3番機より入電、敵機動部隊を発見す、繰り返す、敵機動部隊を発見す!空母ヲ級2、重巡リ級1、軽巡ト級1、駆逐ニ級2の構成!」
千代田から位置の報告を受けると、千歳は深呼吸して告げた。
「第一次攻撃隊、発艦準備!」
艦隊は風上に針路を向け、全速で突っ走って合成風力を生み出し、艦載機の発艦に最適な環境を作った。「第一次攻撃隊、発艦!」
「さあ!艦爆隊、艦攻隊、出番よ!」
千代田が最初に攻撃隊を発艦させ始めた。空母娘達は、予め待機させていた艦載機を次々と放っていった。
艦載機は上空で実体化すると、空中で集合して編隊を整える。緊張のせいか、大鳳の攻撃隊は千歳と千代田より数分遅れて集合を完了した。
「落ち着いて大鳳。焦りは禁物よ」
千歳がそう言い聞かせた。
「はい」
と、その時、対空見張りをしていた卯月が上空を指差した。艦隊は1機の深海棲艦機の触接を受けていた。
「敵機を発見だピョン!偵察機だピョン!」
「撃ち落とす?」
千代田が尋ねたが、千歳はそれには答えず偵察機を双眼鏡で観察した。敵の偵察機は、安全距離を保ってこちらへの触接を行っている。戦闘機を差し向けても逃げられるだけだろう。
「いいえ、放っておきましょう。どのみち敵艦隊とやりあう予定だし、それよりも泊地に暗号電文を送信するわ」
千歳は古鷹を見た。古鷹も無線越しに千歳と千代田のやり取りを聞いており、ほぼ同じタイミングで千歳に視線を向けていた。
「我、敵機動部隊ト遭遇。コレヨリ交戦ニ入るル。我ガ艦隊モ敵機ノ触接ヲ受ケリ。敵襲ニ備エル」

「古鷹より暗号電文です」
提督執務室の通信機の前に座っていた鳳翔が、古鷹からの暗号電文を解読し、その内容を読み上げた。執務室にはT提督の他に、矢矧、浜風、文月もいた。3人はテーブルの上に敷かれた海図を囲んで立っている。
T提督は執務机の前に座り、机の上に両肘をついて両手を組み合わせている。
「…遂に来たか」
「提督の読み通りですね」
浜風はテーブルに両手をついて海図に目を通している。
鳳翔が敵機動部隊の位置を読み上げ、矢矧と浜風は艦娘と深海棲艦を表すコマを配置した。
「これはまだまだいそうですね」
矢矧が冷静に分析した。
「ああ。だがまだ発見できていないようだ。見逃したか、それともまだその先にいるのか」
T提督は、鳳翔に顔を向けた。鳳翔は半身を捻ってT提督の命令をじっと待っている。「救出艦隊に出撃命令を。それと、機動部隊に返信」

「幌筵泊地より返信。了解シタ。必ズ生還セヨ、です」
第一次攻撃隊が敵機動部隊に向かって姿を消した頃、古鷹が泊地からの電文を読み上げた。
「何よ、もうちょっと内容付けられなかったわけ?」
千代田が不服そうに言った。
「手間を取らせない為だと思うわ」
「そうは言っても……天山より新たな入電。敵機動部隊が航空隊の発艦を開始したわ!」
「艦隊、輪形陣!」
大鳳、千歳を中心に、艦隊は輪形陣を組んで空襲に備えた。古鷹、加古、卯月はそれぞれの持つ対空電探で上空を警戒し、空母達は直衛戦闘機を発艦させた。
各艦娘の妖精達も双眼鏡を目に当てて空を睨んでいる。
今回、烈風を持っているのは大鳳だった。千歳と千代田は零戦52型の運用を選んだが、これは大鳳の方が烈風をより多く搭載できるのと、烈風を使った方が大鳳の艦載機の生存率も高まると判断したからだった。
ただし千歳と千代田は紫電改ニを持っていた。この戦闘機は戦闘能力が零戦を上回っているが航続距離が短めの為、局地戦向きだった。そこで千歳と千代田が防空用として持つことにしたのである。
千歳と千代田が零戦52型に加えて発艦させた直衛機は、まさにこの紫電改ニだった。大鳳は、格納庫に余った烈風を直衛に出している。
更に千歳は警戒範囲を拡大する為、対空電探の有効範囲外に天山や流星を、艦隊の周囲八方向に1機ずつ配置し、これで早期警戒を望めるようにした。
「それにしても機動部隊が1個だけ?他の機動部隊はどこかしら」
千歳が腕組みをして考えこむ。
「恐らく提督も同じ考えでしょうね」
そう言いながらも21号対空電探のスコープから目を離さない古鷹。
「あれの後方に複数の敵艦隊が控えている、ということではないでしょうか。だから索敵機がまだ発見できていないのでは」
大鳳が言った。
「私達の実力を試す為の実験台にするつもりね。その上で本隊が私達を攻撃。全くムカつくやり方ね」
千代田が右足で海面を蹴った。
「交戦しつつ反転しますか?」
「いいえ古鷹。まだ敵情が完全に把握できていないわ。それまでは引けない」

15.3.02 ヲ2.JPG
(絵 小池重雄さん)

それから40分余が経った。触接を続けていた敵偵察機は、燃料が足りなくなってきたらしく、途中で引き返していた。
やがて。
「2番機より入電。敵攻撃隊ヲ発見セリ!数100以上!」
千歳の流星だった。
「千代田!」
「OK!」
千歳の合図で、千代田の紫電改ニが向かった。
「いよいよですね」
大鳳が眦を決する。
「主砲、三式弾装填!」
「了解!」
古鷹と加古は、自慢の20.3サンチ連装主砲塔の砲身に、対空砲弾である三式弾を装填した。妖精達は、艤装の高角砲や対空機銃に取りついて砲身と銃身を敵が飛来する方向に向ける。
続けて対空電探も敵機群を捕捉した。
程無くして上空に複数の黒点が出現する。それと同時にハチの羽音のような耳障りな音が鳴り響き始めた。100機余りの敵攻撃隊が奏でる不協和音だ。
「千代田、配置についた?」
「いつでもいけるわ!」
「大鳳、頼むわよ」
「了解!烈風隊、前進!」
大鳳の烈風隊が、敵機の群れに向かって突撃を始めた。すると、敵の戦闘機が攻撃隊の前に出て烈風を食い止めようと壁を作る。
「かかったわね」
千代田がにやりとする。「それが運の尽きよ」
「迎撃始め!」
太陽の中に潜んでいた千代田の紫電改ニが、烈風に気を取られている攻撃隊の背後に急降下で襲いかかった。攻撃隊形を作ろうとしていた深海棲艦機は不意を突かれ、たちまち艦爆と艦攻合わせて7機を撃ち落とされた。
しかし護衛戦闘機のほとんどは、正面から尚も突っ込んでくる烈風を無視するわけにいかないので動くに動けず、僅かな数で迎撃するしかなかった。その為、各個撃破されて周囲を丸裸にされる結果となった。
この機を逃さず、今度は前方左右の斜め上から千歳の紫電改ニが雲の中から続々と姿を見せ、獲物を襲撃する猛禽類の如く敵攻撃隊に殺到した。そして烈風と敵戦闘機の交戦も始まった。
敵側の練度もそこまで高くないのか、大鳳の烈風は乱戦を繰り広げていた。そこへ千代田の紫電改ニも加わり、次々と敵機を撃ち落としていく。千歳の紫電改ニは引き続き艦爆と艦攻を撃ち落としていく。
「す、凄い…」
その様子を見て、大鳳は思わず嘆息すると、千歳は穏やかな表情で首を振った。
「いいえ、私よりもっと凄い空母の人達がいるわ」
「千歳さんや千代田さんより上手い空母の人が?あれ以上に…」
大鳳は呆然と空戦の様子に注意を戻した。
しばらくして、撃ち漏らした艦爆と艦攻が、再び編隊を整えながらこちらに向かってくるのが見えた。戦艦の主砲であれば既に射程圏内だが、重巡の主砲はまだ射程圏内では無かった。
だが、千歳は次の手を用意していた。
「艦載機の皆さん、やっちゃって下さい!」
千歳の紫電改ニが出てきた所と同じ雲の中から、今度は千歳と千代田の零戦52型が出現し、敵の左側から襲いかかった。
逃げ惑う敵機。追いすがる零戦。火を噴く敵機。撃ち落とす零戦。一方的だった。
しかしそれでも、次から次へと艦爆と艦攻が迎撃を突破しては大鳳達に迫る。そしてようやく、重巡主砲の射程圏内に入った。
「加古、いくわよ!」
「あいよ!」
「主砲三式弾、砲撃始め!」
「ぶっ飛ばす!」
古鷹と加古の20.3サンチ連装砲が唸り声を上げ、三式弾が撃ち上げられる。砲弾は再びまとまろうとしていた敵機群の眼前で炸裂、火炎と鉄片をまき散らした。3機がグラリと揺れると同時に炎上し、落下していった。
敵機は間隔を広げて三式弾の効果を軽減しようと試みる。実際この手は有効であった。
「ちっ、仕方ねえ」
加古が舌打ちする。
「高角砲、撃ち方始め!」
古鷹の号令で、今度は高角砲が射撃を開始する。
「撃ぅてぇ~、撃ぅ~てぇ~い!」
卯月がいつもの彼女からは想像できない迫力のある声で10サンチ連装高角砲を発砲する。通常であれば睦月型の主砲である12センチ単装砲が主砲として陣取っているはずだったが、
今回は対空戦重視の兵装となっていた。
やがて機銃の有効射程内にも入り、機銃が一斉に牙を向いた。激しい弾幕で、爆弾の投下軌道が逸らされ、艦娘達の周囲に虚しく水柱を立ち上げる。それでなくとも艦娘達は回避をこなしていく。
「右舷前方、雷撃確認!」
古鷹が叫んだ。
「左舷からも来るよ!」
加古も注意を促す。
「魚雷の数は少ないわ、落ち着いて回避して!」
舵を取りながら千歳が言う。魚雷の数は左右合わせてほんの3、4本だった。艦隊は安安とこれをやり過ごし、魚雷は遥か彼方へと走り去って行った。

その頃、味方の攻撃隊も敵機動部隊上空に達していた。敵の艦戦が迎撃に向かってくる。
(トツレ、トツレ…)
攻撃隊の総指揮を務めている千歳の彗星一ニ型甲から、「突撃準備隊形作れ」の意味である信号が送られた。艦爆隊は急降下爆撃の為に上昇、艦攻隊は雷撃の為に降下した。
準備が整うと、次は「全軍突撃せよ」を意味するト連送が流れた。
(トトトトトト…)
攻撃隊の狙いは勿論、2隻の空母ヲ級だ。こちらの攻撃を食い止めようと迫ってくる敵戦闘機に対して零戦部隊が立ちはだかり、激しい空中戦が繰り広げられる。
攻撃の様子は、戦果確認用の艦攻の視点を通して空母娘達の脳の中で浮かび上がっているが、本人達は対空戦闘で忙しく、つぶさに観察する暇は無かった。
突入を図る艦爆隊と艦攻隊に浴びせかけられる敵の熾烈な対空砲火。しかし怯まずに突進を続ける。敵の輪形陣に近づくにつれ、弾幕はいよいよ激しくなり、被弾する機体が出現する。
遂に弾幕を突破した5機の彗星部隊が、輪形陣の中心で前後に並んでいる2隻のヲ級のうち、後ろの方を狙って爆弾を次々と投下した。4発は至近弾となったが、1発が直撃した。しかし致命傷では無い。
次に4機の流星が左側から魚雷を放った。その直後、1機が高角砲の砲弾をまともに浴びて爆散したが、3機は離脱に成功した。だが魚雷は4本とも回避された。
と、その時、敵艦隊の後方から、雲を破って艦爆の別働隊が姿を現した。大鳳の彗星部隊だ。千歳と千代田の攻撃隊が敵の注意を引き付けている間に回り込んだのだ。
輪形陣の後方にいた軽巡ト級が気付いて目標を変更したが、時既に遅し、彗星部隊は千歳と千代田の攻撃隊が狙ったヲ級に爆弾を次々と投下した。何機から撃墜されながらも離脱していく大鳳の彗星部隊。
爆弾はヲ級に雨のように降り注いだ。練度は十分でないので命中率こそ低いが、数で圧倒する形だ。3発が命中し、うち1発が貫通して格納庫内で爆発し、たちまち中破に追い込まれた。
しかしヲ級はダメージコントロールによって火災の延焼を防ぐことに成功し、ひとまずこの攻撃を乗り切るために対空戦闘を続行した。
大鳳攻撃隊の奇襲は、深海棲艦側の対空射撃を分散させていた。これを待っていたかのように、千歳と千代田の攻撃隊も本格的に襲いかかった。目標は手負いのヲ級。護衛には目もくれない。
制空権争いも、大鳳の烈風隊が加わったことで拮抗状態から優勢状態になり、最終的に艦娘側が制圧した。
手負いのヲ級に対する攻撃は、千代田の流星隊が投下した航空魚雷によって終わりを告げた。4本の魚雷をまともに浴びた手負いのヲ級は大炎上し、浸水に対処し切れずに轟沈した。
もう1隻のヲ級は小破に留まり、魚雷は重巡リ級が盾となって命中しなかった。ヲ級を庇ったリ級の姿は、水柱が収まった時には既に無かった。
よって戦果は、ヲ級1隻、重巡リ級1隻撃沈、ヲ級1隻小破という結果となった。

一方、艦娘側には目立った被害はなかった。艦戦による迎撃が功を奏し、敵の攻撃がまばらだったからである。
「敵機、引き返していきます」
双眼鏡で撤退する敵攻撃隊を追いながら古鷹が報告した。千代田は大鳳に駆け寄ってハイタッチを交わした。
「逆マリアナ大成功ー!」
「でも油断は禁物です」
大鳳が窘めた。
「そうよ千代田。大鳳の言う通りよ」
「分かってるってお姉!」
「どうだか」
「何よもうひどいなー」
「みんな、怪我はない!?」
千歳はそれ以上千代田に取り合わず、大声で呼びかける。
「うーちゃん、全然平気だピョン!」
「問題無ーし!」
「古鷹、損害ありません!」
「私も大丈夫よ、千歳お姉こそどうなの?」
「至近弾で艤装が少し傷ついたけど大丈夫。大鳳は?」
「同じく至近弾で艤装が傷ついていますが、損害は極めて軽微です。問題ありません」
大鳳はクルリと一回転して艤装の状態を見せた。千歳の艤装と同じく、至近弾によって発生した破片で艤装に傷がついているが、戦闘には全く支障が無かった。
「良かった」
千歳はホッとした表情になったが、すぐに引き締める。「弾薬を使い果たした機体と損傷した機体を収容するわよ」
「分かりました」
「了解です!」
しかしその5分後、古鷹がハッとして振り返った。
「対空電探に感!新たな機影多数!10時方向より接近!」
大鳳が息を呑む。
「別の機動部隊ね」
千歳が10時方向の空を睨んだ直後、加古が「あん!?」と素っ頓狂な声を出した。
「加古、どうしたの!?」
すぐに古鷹が声を掛けた。
「11時方向より敵!!3つ目の機動部隊だ!」
「は!千歳お姉、2時方向からも来るわ!」
警戒機から送られてきた電文を読む千代田の顔には、さすがに動揺の色が滲み出ている。計3つもの敵攻撃隊が迫ってくるとなると、艦戦だけでは防ぎ切れないし、艦娘の誰かが損傷するのは必至だ。

「提督、大変です。艦隊が3個機動部隊分の攻撃隊と遭遇した模様です。間もなく会敵するとのことです」
淡々と報告する鳳翔だが、心配そうである。「どうしますか」
T提督は4人の艦娘の視線を無表情で受け止めた。だがT提督は既に決めていた。
「艦隊反転、直ちに泊地まで撤退。基地航空隊の全機には待機命令を」
「了解しました」

15.3.02 ヲ3.JPG
(絵 きゃら さん)

「大鳳さん達、大丈夫でしょうか」
艦長から直接戦況を聞いて、初霜が口を開いた。現在6人の駆逐艦娘は、『おおすみ』の周囲を囲んで輪形陣を敷いていた。
「きっと、大丈夫…きっと…」
右舷を護衛する弥生の声はいつにも増して硬い。
「機動部隊3つ分の攻撃隊となると…400は下らない」
響の言葉はその場の空気を重くした。
「無事でいてくれ…」
若葉が祈るように目を瞑って天を仰いだ。
「みんな、ここからでは大鳳さん達を助けられないわ。確かに心配だけど、今の私達に出来ることは、キス島の人命を救うこと。今はそれに集中しましょう」
『おおすみ』の正面を守る三日月が穏やかに言った。
「うん、そうよね。レディーは立派にお仕事をやり遂げるんだから!」
暁が自身を鼓舞するように両拳を握りしめる。
三日月が続ける。
「それに、こんな光景を見たら、大鳳さん達はがっかりすると思うわ」
「うむ。私もそう思う」
若葉が頭を縦に振る。
「そうね。私達もしっかりしないと」
初霜が言った。
「弥生、全力で頑張ります」
「ウラー!」
響が気合を入れる。
「じゃあ、私の合図で『ウラー!』って叫びましょう」
三日月は大きく息を吸い込んだ。「負けないわよ!」
「「「「「「ウラー!!!!!!」」」」」」

続く

comment