名将ポイント

Last-modified: 2023-09-17 (日) 11:38:37

「いかに得失点の割に勝敗を良くすることができるか」を評価する監督指標。
この値が大きければ大きいほど名将らしいが…。

名将ポイント=(失点数^2×勝利数)÷(得点数^2×敗戦数)

概要

2015年の阪神タイガースは得失点差が大幅マイナスながら優勝争いを繰り広げていたことから、「和田豊監督は戦力の割に効率よく勝ちを拾っており、名将なのではないか」という声が挙がるようになった。*1
そこで「得失点差の割にたくさん勝つこと」、すなわち「僅差の試合を多く拾うこと」を「名将」の定義としてその度合いを測る指標が考案されたのが始まりである。
またセイバーメトリクス系のコミュニティでも似たような話題が起こり、様々な角度から和田が分析されることになった。

実情

勝ちパターンリリーフと負けパターンリリーフ(いわゆるBチーム)に大きな実力差があったのが真相である*2
勝ちパターンの投手を勝っている時だけ起用するのは簡単そうだが、意外に実行できない監督や投手コーチも多い為、投手起用法に関しては間違いなく有能という声もある。
一方、Bチームの投手では炎上し取り返しが付かないまま敗戦するケースも多く、これが大差負けの主な要因である。「(結局その2015年は案の定シーズン終盤に失速して3位に終わったため)シーズンどころか在任中に一度も優勝できなくて何が名将だ」「僅差で勝利して、大量点差で負けるのが名将なのか」「和田が有能なら負けパターンでも失点をもっと減らせるはずだ」などと批判されることも多い。何よりも、この年に勝ちパターンとして計算できた投手が安藤優也福原忍呉昇桓と、全員ベテランか助っ人外国人選手であったため、野手陣同様に投手陣も世代交代のビジョンが全く見えなかったという醜態を晒す結果となった。

そもそも監督の仕事を僅差の試合で勝てるかどうかのみで名将愚将を判断するという行為自体が的外れであり、言うまでもなくチームの得点数を増やし失点数を減らすことも監督の仕事である。育成、補強等によってチームの戦力を整え、シーズン中には選手の好不調を見抜き、無論試合中の采配も含めて得点を増やし失点を減らす事に成功している監督は名将ポイントが低くなるというとんだ欠陥指標であった。
そのため半ばネタ指標という扱いで落ち着き、阪神が大量失点で敗北する度に「和田がまた名将ポイントを貯めてる」などと揶揄されることになった。


計算式

当初は、勝率=(勝利数÷(勝利数+敗戦数))の計算を得失点にも当てはめたものを勝率と比較するという趣旨で

(勝利数÷(勝利数+敗戦数))÷(得点数÷(得点数+失点数))
=勝率÷(得点数÷(得点数+失点数))

などの計算式が考案されたが、「通常の監督ならば得失点が勝敗に比例することを前提にしているがこれは事実に反する」という欠陥があった。

実際にはセイバーメトリクスでは、期待勝率 = 得点数^2 ÷ (得点数^2 + 失点数^2)とかける(いわゆる「ピタゴラス勝率」)という定説がある*3*4。つまり、勝敗と得失点とを比較する場合、得失点の方を2乗すると実態に合うというわけである。そこで、このピタゴラス勝率からどれだけ乖離したかを監督の評価とする計算式

(勝利数÷(勝利数+敗戦数))÷(得点数^2 ÷(得点数^2 + 失点数^2))

さらにこれを計算しやすくするために整理した

名将ポイント=(失点数×失点数×勝利数)÷(得点数×得点数×敗戦数)

が考案された。


余談

和田時代は後の金本知憲矢野燿大時代と比較して戦力が揃っていたことなどから微妙な得失点にもかかわらずAクラスを保ち*5、高い名将ポイントを残したが、中村勝広GMの急逝で後ろ盾を無くしこの年で実質解任された。どうやら名将ポイントは球団フロントの評価にはそこまで好印象を与えられなかった。また和田時代に焼け野原となってしまったこともその後の阪神が苦闘する要因になり2018年の地獄を招く一因にもなった。
一方、広島東洋カープ・緒方孝市政権初年度の2015年は若手選手も伸びて来てた上に得失点差+30以上もありながらBクラスに転落したため本当の意味で極めて低い名将ポイントとなった。このため緒方は世紀の愚将扱いされのちリーグ3連覇したにも関わらず(他にもいろいろあったため)監督在任中はさほど高い評価をされなかった。

同様の事態は2020年にも発生し、11月5日の3位中日と4位DeNAの直接対決を中日が制したことによって中日のAクラスとDeNAのBクラスが確定した結果、同日時点で中日は得失点差-60ながらAクラス入り*6、逆にDeNAは得失点差+42でBクラス落ちするという事態が発生。同年はろくな戦力補強もなかった上に采配面でもいろいろあった中日・与田剛監督の名将ポイントが極めて高くなった一方、今季限りでの退任が報じられていたDeNA・ラミレス監督の名将ポイントが大きく下がることになった。またパリーグもシーズン2位とCS進出*7を決めたロッテが得失点差-22、最終盤までロッテと競り合った3位西武は-52にも関わらず、4位の楽天は+33である*8
また、名将ポイントが登場する前も、指標が良い割にBクラスに落ちるとネタにされる事はあった。特に2011年阪神や2013年ソフトバンクはチーム打率や防御率、得失点差などあらゆる指標がリーグ上位でありながら、順位は4位だった。


関連項目


*1 なんJではなぜか「大差で勝って僅差で競り負けるのは弱いチームの典型」というような風潮があり、それも後押ししたのだと考えられる。
*2 もちろん打線の貧打ぶりも得失点差大幅マイナスの原因であるが、これについてはある意味平常運転のためか指摘されることは稀である。
*3 シーズン途中の勝率がこのピタゴラス勝率とかけ離れている場合、チームの実力に比して勝ちすぎ(または負けすぎ)ているため、今後の揺り戻しを見込む考え方である。例えば7月28日、阪神は勝率.511(貯金2)ながらヤクルトと同率首位に立っているが、この時点の得失点(289得点、369失点、得失点差-80)から算出されるピタゴラス勝率は.380となる。
*4 現在では厳密には2乗ではないとの研究結果もあるが、約2乗であることには変わりがない。
*5 とはいえ、結果論ではあるが広島戦での誤審による引き分けがなければBクラスで終わっていたため、本当の意味でAクラスを確保できたかすら怪しいところである。
*6 ただしこの年は広島相手に7月11日に15点差、10月30日に14点差死体蹴りされて負けた試合が2度あり、この2試合の得点差が得失点差のほぼ半分を占める事態となった。
*7 この年のパリーグCSは2位まで。セリーグはCS自体が取りやめとなった。
*8 +30を超えてBクラスになる場合、救援陣(特に勝ちパターン)が弱い場合に当てはまりやすい。これに当てはまる俺達最盛期の2009年西武が+37で4位となったことが好例。また死体蹴りが多い場合も当てはまりやすく、例として2021年ソフトバンクはリーグ2位の得点とリーグ最少失点を記録した結果、+71で4位である。