天使たちの高貴なる抵抗

Last-modified: 2011-12-26 (月) 01:49:01

太陽と道理の天使ショコラ V.C.60年

 戦争とは人間が選んだ外交の一手段であり、国家の意思。
 天使は人間の意思を尊重する。それがために人間社会に干渉することも、人間同士の戦争を制止することもできない。できるのであればどれほど両者にとって幸いであろうか。
 しかし天使達の持つ知識と力は人類にとっては圧倒的であり、干渉が認められるのならば天使が人間を支配してしまう。あるいは天使にそのつもりがなくても、人間が天使を崇拝し盲従してしまう。天使の存在意義は人間の健全なる進歩にあるのだから、その存在を知られてはならない。地上で肉体を持って活動する天使もわずかだ。
 天使は人間たちをいつか同格の存在になりうると信じ、彼らの前に姿を現せる日を夢見ている。

 そんな枷を自ら嵌め込んだ天使は、人間達の戦争や紛争、大量殺戮、差別や憎悪を食い止めるべく限られた手段で干渉している。……そしてほとんどの場合失敗し、このヴァレフォールから戦乱が絶えることはない。

 だから講和会議というのは、天使にとっては無条件で歓迎するべきものだ。
 ティレルワースの一都市ディージング。リルタニアとノルトという不倶戴天の民族が、ティレルワースの仲裁によって停戦と戦争の再発防止を論じる会議が開かれる都市。
「はやくはやく。会議に遅れるわ、アントン・ホワイトロウ」
 ゴシックロリータに身を包んだ少女が、親子ほど年齢の離れた男の手を引く。
 会議が開かれるホテルの廊下で繰り広げられるその光景は、少女の愛らしさも相まって、見る人々を和ませる。
 ディージング条約会議をとりまとめる役目を背負ったその男は苦笑しつつ、数週間前に出会った奇妙な少女に従う。
「大丈夫。会議の時間まではまだ十分に余裕があるよ。ショコラ」
「お願い。急いで。チョコレートあげるから。アントン・ホワイトロウ」
「参ったな。まあスタッフとの最終打ち合わせの時間を取るか……」
「お仕事、頑張ってね。貴方に太陽の加護を」
「ああ、ありがとう」