メリジーヌ【1】
「沐浴の時間は、私にとって至福の時ですわ」 温泉に入り恍惚と呟いたその娘には、ウロコで覆われた尾が生えていた。玉のように滑らかな肌には似つかわしくない硬い尾と禍々しい翼。それはその娘……メリジーヌが、人ならざる者である事の最たる証拠であった。 |
メリジーヌ【2】
「温かな湯が、私を世の煩わしさから解き放ってくれます」 大きく両手をあげると同時に、娘の背に竜の翼が広がった。人前では決して見せる事のない姿だ。メリジーヌがありのままの姿をさらけ出せる大自然だけ、そのはずだった。 |
メリジーヌ【3】
「キャッ!どなたですの? ……ああ、なんだ。坊やでしたのね」 温泉に何者かが入ってきた気配に、メリジーヌは胸よりも先に翼を隠した。侵入者が、同じく沐浴をしにきた幼い人間の子供である事にメリジーヌはほっと息を吐き、子供の無邪気さに目を細めた。 |
メリジーヌ【4】
「ああっ、引っ張らないで下さいまし! それは大切な……飾りでしてよ」 子供は、メリジーヌの隠し切れなかった尾を面白がって引っ張った。それが本物だと言えないまま、メリジーヌは痛みを堪える。自分の本当の姿を子供に知られて、怯えさせたくはなかったから。 |