レポート:インフルエンザ罹患後の異常行動と薬剤疫学

Last-modified: 2007-05-28 (月) 21:18:20

特別シンポジウム「インフルエンザ罹患後の異常行動と薬剤疫学」

日本薬剤疫学会主催・日本計量生物学会共催
日時: 2007 年5 月20 日(日) 13:00-17:00
場所: 東京大学医学部教育研究棟 鉄門記念講堂

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先日行われた「インフルエンザ罹患後の異常行動と薬剤疫学」シンポジウムに参加してきました。
座長は、津谷喜一郎先生と、大橋靖雄先生でした。


1. 佐藤俊哉先生(京都大学医学研究科社会健康医学系専攻医療統計学)
「薬剤疫学研究を理解するためのキーワード解説」


これは非常にわかりやすい解説でした。さすがしまりす先生だと感服。。
でも、こういう専門的な集まりに、基本的な概念の説明っているのかな?とも思います。
定義を統一しておくということだろうと思うのですが・・


2. 横田俊平(横浜市立大学医学部)
3. 藤田利治(統計数理研究所)
「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」(1)(2)


「横田班の研究」で有名な横田先生が実際に解説をしてくださいました。
いろいろ批判も浴びておられるので、こういう公の場で、かつ辛辣な方々も多いところで解説というのはすごいことだと思います。
横田先生は研究をはじめるようになったいきさつや、アンケートの回収率など細かい背景を。
藤田先生は実際に使われた質問票を提示して、異常行動の発症の時間をいかにとらえようとしたか、などを解説してくれました。


4. 浜六郎(NPO 法人医薬ビジランスセンター)
「タミフルは中枢抑制作用により異常行動死や突然死を起こす」


浜先生は「タミフルの薬害」の視点からの勝負でした。
まず解析についてつっこみ、データを詳細な独自の検討を展開。
そして、異常行動を顕著にしめした患者さんのケース報告を行い、データと症例の二つの視点から議論を展開されました。


でも僕が個人的に残念だったのは、データの解析方法の問題点の指摘や議論に浜先生が大量の時間を割かれたことでした。
もったいない!
さて、なぜもったいないのか??ですが、2点理由があります。


その1)
まずスタンスが違う。横田先生は「インフルエンザ脳症の研究をした」、浜先生は「タミフルは即刻やめよう!」・・実は違う話をしている。(という構図になってましたね)
横田先生がおっしゃっていたように、横田班調査は一ヶ月しか準備期間がもらえないような準備不足の研究であり、かつインフルエンザに罹患した患者さんの異常行動をさぐるという目的であったと。
「そもそもタミフルの薬害を調べるようなもんじゃないんです!それをタミフルがどうとか言われるのだったら退席します!」
・・もう解析がどうだこうだの話じゃない。確かに、シンポジウムの目的は横田班のデータについて検討するということだという横田先生、藤田先生のスタンスも一理あります。
浜先生は横田班のデータ解析に加え、飛び降りたり、車道に飛び出したり、異常行動をおこした人たちの症例報告を重ねていって「絶対におかしい、なにかある」という論法です。
データの解析の話をしているのに、症例の話や薬理学的な話も持ち出して、論点をすりかえるなど「一番やっちゃいけないことをしている」と批判されてましたね。
でもタミフルの薬害を訴えるには、ああいうやり方しかないのかもしれませんけど。


その2)
そもそも横田班アンケートのデータが悪すぎます。解析がどうとか言えるようなデータじゃない。
統計やEBMの基本は、サンプルが良い物かどうかを吟味するところに重要なポイントがあるはずなのに!
そもアンケートの回収率が問題です。
愛知県は30%ぐらいの回収率があったのですが、あとは高いところで10%ぐらい。大多数が0.4%などの超超低回収率のアンケートでした。
愛知県が30%というのは、やはり飛び降りた患者さんが住んでおられたということで、意識が高いのかもしれません。なぜ愛知県が高率に回収なのか?ということも調べられたのかどうか、コメントはありませんでした。
もし「タミフルに対する意識が高まっている」というバイアスがかかっているなら、バイアスについて検討を加えていくことが必要だと思います。
それにアンケートは主に10歳までの患者さんから回収されており、タミフルの副作用が言われているティーンエージャー達のデータとはとても言えないものでした。
・・・・それなのに、タミフルの副作用の解析なんてしちゃうんですよね。
「ティーンエージャーのデータが無いのに、タミフルの副作用の解析しても意味無いだろ!」
って誰も言わない。


横田班は「タミフルの使用で異常行動の発生率に優位差がなかった」ということを記者会見したはずなんですよね。でもティーンエージャーのデータはとれてないし、アンケートも回収出来てないのに、そりゃ言い過ぎだったのでしょう。横田先生は「私はいっさいそんなことは言ってない!メディアにだまされたのだ!とおっしゃっていましたが、横田先生にそのことをインタビューした記者も来ていて「はっきり安全宣言ですっておっしゃいましたよ!録音もあります!」ってえらい怒っておられましたね。
まあ、あとから「やっぱり安全宣言はやりすぎたかな?」とか「解析間違ったかな」とか思ったりもするでしょう。
だったらそう言えばいいのに・・


てなかんじで、シンポジウムはケンケンゴウゴウのやり合いが5時間近く続いて面白かったのですが、結論なんて見えなくなってました。
タミフルの害について何かしなきゃいけないのに、シンポジウムでは横田先生をやり玉にあげて、それに対して横田先生が反論&キレるという図式に終始しただけです。


別府先生が、
「タミフルを沢山使われるようになった(日本で世界のタミフルの70を消費している)状況で、あきらかに今までにない飛び降りなどの異常な行動が起きていることについて、何かおかしいという意識は持たなくてはいけないし、タミフルが原因であるという可能性は極めて高いと言えるんじゃないか」
というような意味のことを仰ったと思いますが、こういう「あたりまえで、正しい」スタンスがみられないシンポジウムでした。


横田先生は、タミフルの害に関してあらたに研究を組み直すとおっしゃっておられましたが、もう倫理的な問題からもタミフルを処方するのは難しいでしょうし、患者さんも怖がって飲まないでしょう。もうタミフルの副作用について知ることは無理なのかもしれません。


僕が個人的に残念で心配なのは、このままではタミフルの副作用について風化していくだけで何もデータが残らないということです。
「異常行動」とは何か?実際の患者さんの行動をことこまかに記載して、異常行動という曖昧なアウトカムの内訳をしっかり整理しないと次の研究などありえないと思います。
質的研究をしっかりやるべきではないかと思います。
その上で、たとえばある病院でタミフルを処方した患者さん全員に電話でのアンケート、インタビューを行うことが必要でしょう。
対象の年齢を間違えない、異常行動という曖昧な言葉にとらわれない視点(だって熱でうわごと言っても異常行動ですからね)を共有したインタビュアーの訓練、タミフルや解熱剤の内服と症状に気づくまでの時間を記載する・・いろいろ大事なポイントはあると思います。


あとは後ろ向き研究で、いままでのタミフルに関する情報を蓄積することぐらいしか方法は無いんじゃないかと思うんですけどねぇ・・・


それと、タミフルって犯罪に使えるんじゃないの?という怖いことも思います。
だって食事に一日三回、高容量を混ぜられたら、大人でも中枢神経障害を起こす可能性が高いですよね?
もともと鬱の傾向のある人だったら都合良く飛び降りてくれるかもしれない・・・
怖い薬だと、思うんですけどねぇ・・・
吉田秋美さんのマンガにでてくる、狙った人間を自殺に導く暗殺用の薬「バナナフィッシュ」(マンガのタイトルです)にそっくりだと思うのは僕だけでしょうか???こ、こわい~