スマブラ個人小説/Hooの小説/短編集

Last-modified: 2009-05-29 (金) 21:02:01

こちらでは、長編小説の番外編みたいな作品を主に書いていこうと思います。
創作コーナーのキャラ中心の小説となってしまうかもしれませんが、ご了承ください。

始まり

アーカードとタブーが初めて会った時のお話です。“もう一つの世界”が舞台となっています。

―イギリス―
王立国教騎士団。大英帝国を反キリストの化け物から百年以上守り続けている機関で、その長をヘルシング家の当主が務めていることから、「ヘルシング機関」とも呼ばれている。その本部はロンドンの郊外にあるが、そこの地下室にて、背もたれが高い椅子に座って眠っている男が一人いた。男の名はアーカード。
アーカードは吸血鬼で、反キリストの化け物に含まれるのだが、百年前にエイブラハム・ヴァン・ヘルシングに倒された後、ヘルシング家に使役されており、今では王立国教騎士団には欠かせない化け物退治のエキスパートである。


アーカード「……そこにいるのは誰だ?隠れていないで出て来い」
突然目を覚ましたかと思うと、アーカードはそう言い放った。すると、目の前の何もない場所からぼんやりと青い光を放つ球体が現れた。なんとも不可解な現象ではあったが、そういったものにアーカードは驚きもしなかった(元々、アーカード自身が常識を外れた存在だからというのもあるのだろう)。
「お前が……No life king(不死の王)、アーカードだな?」
青い球体はそう尋ねてきた。
アーカード「その通りだ。そういう貴様は何者だ?」
青い球体はその質問に答える。
「私の名はタブー。かつてこことは別の世界を支配しようとし、そこの強者たちと戦って敗れた者だ」
タブーが言った内容にアーカードは興味を持った。別の世界などと突拍子のないことを言ってはいるが、ただの狂言ではないように思えた。
アーカード「ほう…具体的に話してみろ」
タブーはそう言われると、ゆっくりと話し始めた……。


一年前、タブーがこことは異なる世界を支配しようとしたこと。そのためにマスターハンドを操っていたこと。それらに気付いた戦士たちを一度は返り討ちにしたものの、諦めなかった戦士たちの団結力の前に敗れ去ったこと。


話の一部始終を聞いて、アーカードは“こことは異なる世界”に興味を持ち始めていた。
その反応をうかがい、タブーはこう頼みこんできた。
タブー「どうだ?行ってみたくはないか?私が別世界に行くための案内をしよう。ただ、一つ頼みがある。私が復活する手助けをして欲しい。実はお前以外にもこの世界やこことは異なる世界にいる奴らに、手を組まないかと持ちかけているのだ。そいつらの所まで私を連れて行って欲しい。今はほんの少ししか力が残っておらず、あちこちに分散してしまった私のエネルギーを自力では集めることができない。私が復活するには誰かの体に宿り、エネルギーを一か所に集める必要があるのだ。…もちろん、タダでとは言わない。私がお前の体に宿ることで、能力の一部をお前に分け与えてやれるだろう」
アーカードはしばし、考える。
タブーは更に話し続ける。
タブー「それに、お前自身、強敵と戦いたいという望みがあるのだろう?実は昨日、お前と白いスーツを着た吸血鬼が戦っているところを陰から見ていたのだよ」
そう言われて、アーカードは昨日のことを思い出す。

確か、吸血鬼の兄弟がここを襲撃してきたのだったな……。兄弟は二手に分かれて、一人は我が主であるヘルシング卿を倒しに、そしてもう一人は自分の力を試すとか言って私を倒しに来たのだった。……ルーク・バレンタインと名乗っていたか。奴は確かに高い戦闘能力を持っていたが、私が少し本気を出すと、あっという間にやられてしまった。つまらないことだ。もう片方の吸血鬼も撃退され、今はヘルシング家の執事がそいつらの身元を調べているところだ。そいつが死に際に遺した「ミレニアム」という言葉が手掛かりのようだが、思ったよりも難航しているようで、おそらく数日は進展がないだろう。

そう思い返している間に、タブーが再び話しかけてきた。
タブー「私が戦った奴らは、あんな奴よりもずっと面白い。所詮マスターハンドの狗でしかなく、恐ろしく未熟で不完全だが、そう油断していたゆえに私は負けたのだ。だからこそ、私はあいつらのことを宿敵に値する存在だと今は考えている」
アーカードは再び考える。

そいつらならば、私の渇きを満たしてくれるだろうか。タブーは『マスターハンドの狗』と称してはいるが、ひょっとしたら私を満足させるに足る『人間』がいるかもしれない。
それに、今は暇を持て余しているところだ。数日間だけこいつの言うことに付き合ってやるのも悪くはあるまい……。

考えをまとめたアーカードは、こう口にする。
アーカード「いいだろう。こことは異なる世界に行きたくなってみた。そのためにお前を復活させると約束しよう」
そう言いながらタブーと名乗った青い球体を掌の中に握る。すると、青い球体は溶けるように掌の中に入り込み、消えていった。そしてタブーの声が頭の中に響いてくる。
タブー「では、まずは私の障害となるであろうマスターハンドを始末してくれ。今頃、私がこうして仲間を集めていることに気付いているだろうからな」
アーカード「了解した……」


――その日、アーカードは「面白そうなことを見つけた。数日で戻る」という書き置きを残し、ヘルシング本部から姿を消した。

後書き

大変申し訳ありません。いや何が申し訳ないのかというと、ヘルシング本編とリンクさせた話にしてみようとしたら、原作を知らない人には訳が分からない場面が出てきてしまった、ということです。
……ああもうこうなったら原作を知っていることを前提として時間軸の設定の説明をしちゃいましょうか(開き直り)。
原作を知らない人はスルーしてもOKです(←何)
この小説はヘルシング本部がバレンタイン兄弟の襲撃を受け、その一週間後にヘルシング卿とミレニアムの情報を握る13課のマクスウェルが会うまでの間に起こった話という設定となっています。
……もうお気付きだとは思いますが、アーカードとタブーが出会ったのはヘルシング本部が襲撃された翌日で、さらにアーカードは“この世界”に一日以上はいるため(第7話の時点で)、あと数日以内にこの小説で書かれる戦いが決着しないといけません。


……こんなことを書いておきながらこう言うのもなんですが、これはあくまで裏設定みたいなものなので、この小説の時間の流れとかはあまり気にしないでお楽しみください(滝汗)。

始まり~Devil’s sister

フランドールとタブーが初めて出会った時のお話。時系列は本編開始直前、上の作品とほぼ同時期です。幻想郷(つまり“もう一つの世界”)が舞台となっています。

~幻想郷~
幻想郷とは、色々と非常識な場所が多いものである。
一度入ったらすぐに迷ってしまうと言われる竹林や、瘴気に溢れた森、妖怪や神様が住んでいる山と、普通の人間には危ない場所も多かったりする。
とはいえ、どんな場所であろうと住む奴はいるものである。……そいつらが普通の人間かは別として。

“霧の湖”と呼ばれる大きな湖の近くには、真っ赤な洋館がある。名前は紅魔館。
この洋館は吸血鬼であるレミリア・スカーレットが当主を務めており、その部下としてメイドや門番もそこに住んでいる。
そして紅魔館の地下室には当主の妹であるフランドール・スカーレットがいた。


フランドール「う~ん……暇~」
彼女は自分の部屋となっている地下室にて、床に寝そべって文字通りゴロゴロしていた。
なんとも子供っぽい動作で、とても数百年以上も生きてきた吸血鬼には見えないのだが、外見は幼い少女なので、『らしい』と言えば『らしい』とも言える。
フランドール「あ~もう、暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ~~」
やがて手足をバタバタと動かして、暇であることを全身を使ってアピールする。
もっとも、その姿を見る者は誰もいないが。
彼女は退屈が嫌いだった。最近、博麗霊夢という巫女や霧雨魔理沙という魔法使いと『遊んだ』のをきっかけに幽閉から解放されて(紅魔館の中だけという当主が言い出した条件付きではあったが)自由に動けるようになって以来、誰かと『遊ぶ』ことを至福の時間と認識し、それ以外の日常は退屈な物と化していた。


ふと、フランドールの右手にコツンと何かが当たる感触があった。
そこに目を向けてみると、ビー玉ぐらいの大きさの青い球体があった。
何やら青白い光を放っていて、どことなく惹きつけられるものがある。
こんなのあったっけ、と思いつつそれを手に取ってみると、
「やっと気付いてくれたか……」
青い球体から声がした。
フランドール「わっ、すご~い!」
それを面白がるフランドールは、新しい玩具を与えられた子供のように弄っている。
「ちょっと弄るのはやめてくれ。話したいことがあるんだ」
青い球体がそんな声を出し、フランドールの手から解放される。
そして青い球体――タブーはかつて自分が支配しようとしていた世界について話し始めた。


一通り言ったところで、タブーは「お前もそこへ行ってみたくはないか?」と持ちかけてきた。
フランドール「えっ、本当!?行ってみた……」
行ってみたい、と言おうとしたフランドールの口は止まり、少し寂しそうな顔をする。
フランドール「ごめん、やっぱいいや。わたしには紅魔館から出ちゃいけないっていうお姉様との約束があるから……」
彼女にとって、紅魔館当主であり姉でもあるレミリアとの約束は絶対のものだった。だが、
タブー「約束を守るとは健気なことだな。だが本当にそれで良いのか?」
フランドール「……どういうこと?」
タブーの質問の意図がつかめず、聞き返す。
タブー「お前は危険な能力を持っていたから495年も地下に幽閉されていたようだが、実際に何か害を与えるようなことはしたのか?していないだろう?それなのに他人の都合で自由を奪われてもいいというのか?」
フランドールの持つ危険な能力とは、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』のことである。
文字通り危険なもので、万が一この能力が乱用されることを恐れて、彼女は幽閉されていたのだった。
これによって彼女は高い戦闘能力を持ちながらそれを発揮することができず、ストレスを抱え込むようになってしまったのだが、最近になって自分と正面から立ち向かって倒せるだけの実力を持った霊夢と魔理沙に出会ったことにより、適度にストレスも発散できて能力の乱用の危険性は低くなったと認識され、幽閉からも解放されたのだ。
フランドールは自分が幽閉されていた理由は分かっていたし、それについては仕方のなかったことだとも思っている。
何より幽閉されていたことは、結局のところ自分自身が持つ能力に溺れないようにするための処置でもあったのだ。
彼女は情緒が不安定だと言われるが、理性が無いわけではない。
よって普段の状態ならば、タブーの話すことに耳を傾けはしなかっただろう。……普段ならば。
フランドール「他人の都合で……確かにそんなの納得いかない。わたしの心も魂も命もわたしだけのもの。冗談じゃない。真っ平御免よ。わたしのものはわたしのもの。毛筋一本血液一滴……わたしはわたし。わたしはわたし。わたしはわたし……」
そのように語るフランドールの目は、どこか焦点が定まっていないように見える。
実は、彼女がタブーを手に取った時点で洗脳は始まっていた。
すぐに洗脳は効くものではないのだが、ゆっくりと、確実にフランドールの思考を蝕んでいっていた。
タブー「そうだろう?私はお前に満足のいくことをさせてやることができる。私がお前を別の世界へ導き、遊び相手も用意してやろう。だが、この地下室から出るのはお前の意思だ。さあどうする。悪魔の妹、フランドール・スカーレット!!」
フランドールの選択を促すような言い方だったが、実際の所、タブーはすでに洗脳されている彼女に「いいえ」という選択は無いと確信していた。
フランドール「わかった。わたしと『遊べる』ような奴らがいるところまで連れてって」
その確信を裏付けるように、彼女はタブーを右手の中に握る。
タブーはその中に溶け込み、フランドールと一体化した。
タブー「それではまず、この館から出ることだ。案内はそれからだ」
フランドール「……分かった」



フランドールは地下室の扉を開け、階段を上って一階に上がっていく。
「フラン、どこへ行こうというのかしら?」
そこで待っていたのは、姉のレミリアだった。
フランドール「……外へ出るのよ」
レミリア「それを私が黙って見過ごすとでも?」
フランドール「何で……?」
この時、レミリアは言葉では表せない違和感を感じていた。
フランドールは姉である自分に絶対の信頼を置いていて、自分の言うことならば大人しく聞くと思っていた。
そのはずなのにここまで食い下がるとは。何かあったのではないか?
そして目の前で話を続ける妹の語気が荒くなってくる。
フランドール「何で?私が何かした?何も悪いことはしてないじゃない。それなのに私を長い間勝手に部屋に閉じ込めて、やっと解放されたと思ったら『館から出ちゃいけない』?ふざけないでよ!!わたしはタブーと出会ったんだけど、そいつはわたしをここから出して別の世界に連れて行ってくれるって言った!!だからそうさせてもらうのよ!!
その言葉に一瞬怯むが、レミリアはフランの態度が異常な理由に合点が行った。
レミリア「(どうやらタブーとやらに原因があるみたいね。とりあえず今は大人しくさせて後で話を……?)」
だが動き出そうとした瞬間、レミリアの背中に鈍い衝撃が走る。

そして遅れてやってくる痛み。
どうして?フランは一歩も動いていないのに、と思って後ろを振り返ると、フランドールがもう一人いた。
そういえばフランは分身の技を使うことができたんだっけ。
でもそれを使った様子は全く無かった……どうやって……
フランドールから受けた一撃は想像以上に重く、レミリアの意識はそこで途絶えた。

フランドール「あはは……すごい。これがあんたの能力なんだ」
あんた、とは自らの体内に入っているタブーのことだ。彼女は『分身を作り出す能力』を手に入れていた。
元々フランドールは自らの体を四つに分身させる技を持っていたが、この能力を併用すれば、更に強力な物となるだろう。
その後、わざわざ正面玄関から出て行くのも面倒だと思ったフランドールは自らの拳で壁を壊し、紅魔館から出て行った。
フランドール「じゃあね。お姉様……」
出て行く間際に気絶しているレミリアを一瞥し、その言葉を残して。



「……様!お嬢様!しっかりしてください!!」
レミリアの耳に自分のことを心配する声が届く。
ゆっくりと目を開けてみると、こちらを心配の目で見るメイドがいた。
このメイドは……そう、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜だ。
レミリア「五月蠅いわよ咲夜、貴方の声は相変わらず良く響く。まるで割れ響く歌のようね。私は無事ッ……」
体中に激痛が走る。とても無事だとは言えなかった。
咲夜「お嬢様ッ!!」
悲鳴に近い声を上げる咲夜だったが、レミリアは右手を彼女の眼前に広げて静かにしろと伝える。
レミリア「……面倒なことが起こったわ。どういう訳か知らないけどフランがタブーとやらの口車に乗って別の世界へ行こうとしてた。このままじゃ大変なことになるわ。咲夜、貴方は別世界への干渉すら可能な妖怪、八雲紫に連絡を。あと、異変を解決する役目を持った巫女にも協力してもらわないとね……」
咲夜「……畏まりました」
ついさっきまで狼狽していたメイドは、主の命令を聞くとすぐに落ち着きを取り戻し、その命を実行するために外に出て行った。流石、「完全で瀟洒な従者」と呼ばれるだけはある。
本当は自分も行きたいところなのだが、先程受けた攻撃のせいですぐには動けそうにない。
レミリア「まったく……。身内のトラブルの尻拭いを他人に押し付けるなんてね……」
自嘲気味に笑うが、これが今できる最善の方法なのだ。
あとは八雲紫と博麗霊夢の二人――いや、異変の解決となるとあの魔法使いも動き出すだろうから、実質三人か――に任せるしかないのだ。今のところは……。

後書き

○月×日
この話の下書きを書き始める。
フランドールを長編小説に出すための下準備とはいえ、本編に登場していないキャラを主人公に書いていくのは前代未聞かもしれない。
まあ、そこは大目に見てほしい。
そして、日記形式にしているにもかかわらずどうして読者に呼びかけるような文があるんだ、と思った方は、その突っ込みを心の中だけでして欲しい。それだけが私の願いです。


○月△日
ひとまず下書きは順調に進んでいる。
あ、フランドールが地下に閉じ込められていた理由については、ウィキペディアやニコニコ大百科で調べる限りでは結構曖昧な感じになっているようなので、ここで書かれているものは二次設定ということになる。
そこは注意されたし。


○月○日
下書きを書き始めて三日しか経っていないように見えるだろうが、既にそれ以上経っている。
日記形式にしているにもかかわらずどうして間が開いているんだ、と思った方は、その突っ込みを心の中だけでして欲しい。それだけが私の(ry
というか東方をやりたい。実を言うと、原作は体験版でしか遊んだことが無いのだ。
しかし、近くに同人ショップは無いし、個人的な事情で通販も使えない。
まあ、体験版ですらまともにクリアできない腕前ではどうしようもないかもしれないのだが。





○   ▼
それにしても はやく本編にフラ ンドール を だしたく なっ てき ました


はや くこれを かきおえた いで す



かゆい うま(←うん、これがやりたくて日記形式にしたんだ。スマナイ)

始まり~Bayonet

アンデルセン神父とタブーの出会いを書いたお話。
例によって“もう一つの世界”が舞台となっています。

~ローマ近郊、カトリック系孤児院フェルディナントルークス院~
「こらぁ、やめなさ~い!何度も言いますけど暴力を友達に振るうなんていけません」
一人の男が、二人の少年に優しく注意をしていた。
どうやら、ここの孤児院に住んでいるこの二人が喧嘩をしているのを男が仲裁に入ったようだ。
「神父さま、ごめんなさい……」
少年たちが謝るのを見て、神父さまと呼ばれた男は微笑みを浮かべながら、
「いいですかぁ?暴力を振るっていい相手は化け物どもと異教徒どもだけです」
と言うのだった。
「さっ、お前たちは早く部屋に戻りなさい。そろそろ日が暮れますよ」
そして優しく二人の背中を押してやって、孤児院の中へ入るよう促す。
「はーい」
「うん、行こっ!」
何事も無かったかのように二人は中へ入って行った。既に仲直りはできたらしい。
「……さて、俺も戻るとするか」
神父の名はアレクサンド・アンデルセン。ここの孤児院に努めている神父――表向きではないが、法皇庁第13課に所属しており、化け物専門の戦闘屋もやっている――である。



乱雑に衣類やゴミが散らばっている自室に入ったアンデルセンは、片隅にあるベッドに腰を下ろす。
そして溜息を一つ。
彼は以前、北アイルランドにて吸血鬼を退治しに行った時のことを思い出していた。
そこで、同じく吸血鬼を退治しようとしていたヘルシング機関の切り札、アーカードと対峙したのだ。
これだけだと同じ目的を持つ同士に聞こえるかもしれないが、実際は逆で、信仰する宗教の違いからヘルシング機関と第13課は対立しているのだった。
そんな噛み合わない者同士が鉢合わせした時に起こることは一つ。闘争である。
アンデルセン「あのような骨のある奴に出会ったのは久しぶりだった……」
思わず独り言が出てしまう。
あの時の戦いでは、最初はアンデルセンが優位に進めていたが、途中でヘルシング局長、インテグラル・ウィンゲーツ・ファルブルケ・ヘルシングの介入、そしてアーカードが簡単には倒せない化け物だということを知り、今の装備では不利と判断して、戦略的撤退をしたのだった。
それ以来、アンデルセンはある欲求を持つようになった。アーカードと再び戦いたい、と。
第13課の切り札とまで言われるアンデルセンが倒し損ねるような化け物などそうはいないと思われる。
もしそんな奴がいるとすれば、伝説として名を残す化け物ぐらいだろう。
アーカードが正しくそれだった。だが、次に会ったら一切合切一撃で何もかも決着させる。
そこまで考えていたところで、部屋の片隅から不自然な青い光が放たれているのに気付いた。
立ち上がってその場所を見てみると、そこには球体があった。
「貴様がアレクサンド・アンデルセンか……。お前の噂は聞いているよ。聖堂騎士、銃剣、首斬判事、再生者といった大層な二つ名をいくつも持っているそうじゃないか」
青い球体から声が発せられる。それには表情など無いが、声の調子から嬉しそうなのだと分かる。
アンデルセン「ほう……そういう貴様は何者だ?」
彼は鋭い目つきでそれを睨みつけながら尋ねる。
「私の名はタブー……。お前にちょっと頼みたいことがあってな」
アンデルセン「……言ってみろ」
タブー「お前に始末してもらいたい異教徒がいるのだ」
その瞬間、アンデルセンは自らの武器である銃剣(バイヨネット)を懐から取り出し、タブーに突き付ける。
アンデルセン「なめるなよ化け物(フリークス)。我々神罰の地上代行イスカリオテの第13課が貴様らの言うことを聞くとでも思うか」
静かに、だが迫力のある声で言い放つ。しかし、タブーは未だに余裕を保っているように見える。
タブー「その異教徒が貴様の宿敵を倒そうとしている、と聞いても同じことが言えるか?」
アンデルセン「何……!?」
タブー「貴様の宿敵、アーカードはこことは異なる世界……おっと、そんな怖い顔で睨むな。本当のことなのだからな……に行って、そこにいる強者たちと戦おうとしている。それは奴がそいつらに倒される可能性があるということだ。お前はそれでも良いというのか?」
それではいけない。カトリックは、法皇庁は、そして「我々」は二千年近く化け物と戦っているのだ。
あの吸血鬼を倒して良いのは我々だけだ。どこぞの馬の骨とも分からぬ奴らにあいつの首をくれてやるわけにはいかない。
アンデルセン「タブー、と言ったな。連れて行け。その異教徒どもの所へ」
タブー「フフフ、理解が早くて助かる……。ならばこの私を掌に握るがいい。そうすることで私の能力の一部をお前に分け与えてやれるだろう」
タブーはアンデルセンの掌の中に握られることで、一体化した。
アンデルセン「勘違いするなよ化け物。貴様を一時的にとはいえ取り込むなど反吐が出るが、この俺があいつを倒すためにわざわざこうしてやっているんだ。お前の能力など微塵も借りるつもりは無い。そして、目的を達成したらお前を殺す。覚えておけ」
タブー「それはそれは恐ろしいことだな。気を付けておこう」
これは洗脳するまでも無いな、とタブーは感じていた。
カトリックの狂信者とも言えるアンデルセンが、人外の存在であるタブーの要求を受け入れるなど本来は有り得ない。下手をすれば斬り殺されていただろう。
しかし、アーカードの名前を出した途端、顔色が変わった。
自らが嫌う存在である化け物と手を組むことを了承するあたり、余程彼に固執しているのだろう。
アーカードと戦った経験のある人物ならば、戦力としても申し分無いし、異教徒――タブーが支配せんとする世界に住む戦士たち(あいつらが何の宗教を信仰しているのかなど知らないが、マスターハンドが創造神であることを考えれば、あながち嘘ではない)を倒した後も、アーカードに会いに行こうとするだろう。そうなれば結果的に分散してしまった自らのエネルギー体が集まることになる。
結果的に、この契約はタブーにとって都合がいいものなのだ。
無理に相手を洗脳させる必要が無いくらいに。



~“この世界”、戦場の砦にて~
アンデルセン「……ここに異教徒どもが来るのか?」
タブー「正確にはこれから来る、と言った方が正しいな。中で待っていると良いだろう」

そして、砦の最上階の一室にてじっとしていたアンデルセンだったが、下の階から何やらやかましい音が聞こえてくる。
アンデルセン「……来たか」
部屋を出て、目の前の階段をゆっくりと降りていく。

最後の段を降りると、彼の視界に入ったのは五人の男たち。
彼はこう切り出す。
アンデルセン「良い月だな、異教徒ども」

後書き

え~と、今回は普通に書きます、ハイ。
この短編集にて最早恒例となった「タブーと○○が出会うお話シリーズ」(←勝手に命名)
も今回で最後です。……いやぁ、本編でこれから盛り上がるぞっていう時に話の腰を折るようにこのシリーズを書いていってしまい申し訳ありません。ただ、これらの話は本編に上手く組み込める自身が無くて、キャラクターの登場に合わせて外伝みたく書いていこうかなと、この小説を書き始めていた頃から考えていたことなので、どうかご容赦を。
それでは、この話の内容について。はっきりと本文にも書かれていますが、アンデルセンは洗脳はされていません。まあ、彼は既にカトリックの狂信者となっているので、ある意味操られようが無いかな、と思ったからです。というわけで、アンデルセンは自分の意思で“この世界”に来たということになります。
ただ、形だけとはいえタブーと手を組むことは彼の本来の理念(化け物は全て打ち倒す)に反するだろうと思ったので、アーカードを戦士たちに横取りされるわけにはいかない、自分が倒すためにも“この世界”に来るためにやむを得ずタブーと手を組んだ、ということにしてあります。
……ううむ、もっと上手い理由付けができたら良いのだと思うのですが、私にはこれが限界ですorz
ちなみに、神父さまの目的はあくまで『アーカードを倒すこと』ではあるのですが、洗脳されていなかろうと、少なくとも本編で初登場した時点では戦士たちと戦う気満々です。
どんな形であれ目的を達成する際の障害になりかねないことに変わりは無いので。
……おっと、長々と書いてしまいましたね。それではこれにて失礼いたします。
そしてこれからも引き続き、禁忌の継承者をお楽しみください……。