スマブラ個人小説/ラモソの小説/亜空の旅人/第1部第二章

Last-modified: 2012-04-15 (日) 10:22:25
 

 第1部

 第二章

ここまでのあらすじ

F-ZERO区域で先日行われたレースについて、審判であるジュゲムが記者会見を開いた。しかし、彼の口からは「不正は無かった」の一点張りしか聞くことができない。
そのことを怪しんだキャプテン・ファルコンは、友人であるマリオ・リンク・カービィを引きつれ、事件を解決するためスマブラ館を出る。しかし外出が厳しく制限されている中でのその行為は脱走とみなされ、4人は当局に追われる身となってしまった。
それでもジュゲム逮捕に燃えるファルコンたち。だが彼らが最初にしなければならないのは、地下深くにフォックスが保管していたアーウィンを駆り亜空間に突入、追手を振り切ることであった・・・。

 全てが白く光り輝く世界の中、キャプテン・ファルコンは意識を取り戻し、まぶしさに目を細めた。
 アーウィンは一定の低い作動音を奏で、自動航行している。到着予定時刻がタッチパネルに表示されていて、秒の項目だけが、緩慢な時間の経過をファルコンに教えた。
 あたり一面の白は、まだあと四十五分ほど続くらしい。
 ファルコンはキャノピーの外を見回すが、ほかの二機の機影は見当たらない。ファルコンは少し心細くなった。
 ・・・まさか、俺だけこんなところに来ちまったんじゃあ、ねえよな・・・。

 

 その少し下方で。
 リンクは、いつの間にか辺りに静けさが取り戻されたことに気付き、顔を覆っていた両腕をどけて目を開き、周囲を見回した。
「・・・カービィ?」リンクは相棒の名を呼ぶ。
 カービィはリンクの足元で、すやすやと気持ち良さそうに眠っていた。リンクは安心し、微笑む。
 そして、ようやく、自分たちが乗るアーウィンが飛んでいることを思い出し、血の気が引いた。
「・・・ああ・・・あ・・・わ、私は、私はなにもしていないぞ!? それなのに、どうしてこれは飛んでいるんだ?」
 リンクは機械音痴なのである。

 

 ファルコンたち二機から少し後方。
 マリオは、僚機たちが無事であることをレーダーで確認し、機器類をいじるのをやめて頬杖をついた。
「やれやれだぜ・・・フォックスのやつ、大丈夫なのかよ」マリオは呟く。一定にうなり続けるエンジン音がその声を掻き消した。
「で・・・目的地はどこだ?」
 マリオはタッチパネルに訊く。
『目的地:ピーチ城』とタッチパネルが表示した。
 まさか返事が来るとは思っていなかったマリオは少しおどろく。
「ふうん・・・お前、耳が付いたわけか」
 タッチパネルはぴかぴかと点滅する。
「・・・ま、何でもいいんだけどさ・・・お前に乗るのもずいぶん久しぶりな気がするよ」
『最終フライト:五年二ヶ月十日八時間前』
「そんなもんだったっけか?」
『誤差:プラスマイナス五分』
「十分正確だぜ、ピカチュウ」
『自動航行システム:作動中』
 ・・・つづく。

 正気を取り戻したトゲノコたちに曳き立てられ、フォックス・マクラウドは床に膝をついた。
 ここはスマブラ館、ドンキー・コング氏の執務室だ。
 フォックスはドンキーをにらむ。ドンキーは目を合わせる気すらないらしく、英字新聞を読んでいた。
「・・・俺に何の用だ」フォックスは言う。
 無言。
「おい、ユング! とっととこの縄を解け!」
「うるさいね」

 

 もううんざり、と言った表情でドンキーは片手を振り、それからトゲノコに合図して外に通じる扉を閉めさせた。フォックスが振り返ると、一瞬だけ、扉の間からガノンドロフやクッパの顔が見えた気がした。表情まで読み取れないまま扉が閉まる。
「フォックス・マクラウドを名乗る者よ。 きみはどうやらどこかで道を間違えたらしい」
 ドンキーの声にフォックスは正面を向き直る。
 言葉選びは穏やかながら、彼の目には明らかに怒りが込められていた。気の強いフォックスはおびえつつもにらみ返す。
「どこの話だ?」フォックスは訊いた。
「さあね・・・」ドンキーは言う。「自分に訊いたらどうだい?」
「自分に?」

 

 フォックスが訊き返すと、ドンキーはにやりと笑い、向こうを指差した。
「そら、そこに君がいる」
「・・・!!」
 別の部屋に通じる小さい扉の前に、フォックス・マクラウドが所在無さげに立っていた。フォックスは目を疑う。
 そのフォックスは、まさしく本物のフォックスであった。色違いでも、ホログラムでもない。
「何か、言いたいことはないのかい?」
「・・・ふざけるな!!」

 

 ドンキーのからかいにフォックスは激怒した。もう一人のフォックスがその声におびえる。
「本物のフォックスは俺だ! こんなの、認めないぞ!!」
「フォックス、聞いたかい・・・」ドンキーが、もう一人のフォックスに優しく語りかける。「これが、バグというものだ。 堕ちたヒーローの末路とは、往々にして無様なのだ」

 

「・・・彼はどうなるのです?」もう一人のフォックスが訊いた。彼のフォックスを見下ろす目には、いくらかの同情と憐みがこもっている。
 ドンキーは、縄につながれているフォックスにも向けて言う。
「正義の名の下に、抹消されるのだ。 フォックス、彼に同情するな。 彼はもはやフォックス・マクラウドではない。 自信を持って良い。 本物のフォックスとは、君の事なのだ」
 ドンキーに励まされ、“本物の”フォックスは安堵の表情を見せた。
「では、彼は偽者なのですね? 僕の名前をかたった、偽者ですね?」
「そうだ」ドンキーが、力強く頷く。それがますます“本物の”フォックスの気を良くさせた。もはや、フォックスへの同情心は失われているようだった。

 

 フォックスは、なにかの劇でも見ているような気がしてならなかった。しかし、それと同時に、自らの身に何が起こるのか、だいたい予想も付いていた。
 抹消。
 それは大いなる苦しみ。業苦を伴う。ただ無心に戦い続けたものたちのフィールドアウトとは根本的に意味が異なるのだ。存在自体を完全に消されてしまうのだから。
 フォックスはトゲノコたちに曳き連れられ、執務室を辞した。
 ・・・つづく。

「・・・おかしいな。 さっきから残り時間が減っていない」マリオは呟いた。自動航行システムが反応する。
『予期しないエラー:発生』
「ふーん、エラーってのは予期できるものなのか。 ・・・じゃなくて、その原因とかは分かんないのか?」
『原因:不明』
「へえ・・・」
 マリオは肩をすくめようとしたが、シートベルトが突っ張っただけだった。マリオは腕を組む。
 ・・・どういうことだ? ほかの連中は大丈夫なのか? まさか俺だけこんなことになっているのか? フォックスは無事か?
「なあピカチュウ」マリオはタッチパネルに呼びかける。
 パネルが点滅した。
「他の奴らは一緒に飛んでいるのか?」
『僚機A:航行中 僚機B:航行中 いずれもエラー発生』
「そうか・・・で、これから俺たちはどうなるんだ?」
『現在エラーの修復中、目的地情報:回収不能』
「何だって?」
『ピーチ城ステージ:所在不明』
「ステージが・・・消えた?」
『原因:不明』
「う~ん・・・何だそれ? お前の見間違えとかじゃないか?」
『システム:正常に作動中』
「・・・リンクやファルコンと、連絡がとりたい」
『選択:僚機A、僚機B』
「・・・」
 マリオはとりあえず、タッチパネルの僚機Aの方を指で触れてみた。

 

 キャプテン・ファルコンはそのブザー音ともビープ音ともつかぬけたたましい音に居眠りを破られ、何事かと辺りを見回した。
 どうやらアーウィンはまだ飛行中である。高度が落ちている様子もないし、内部の気圧が低下している兆しもない。
 タッチパネルが点滅していた。そっと触れてみる。
『おい、生きてるか?』
「ん?」
 パネルにマリオの顔が表示され、そこから彼の声が飛び出してきた。ファルコンはとりあえず首を傾げてみる。
『あぁ・・・ファルコンか。 とりあえず死んでないようで良かった。 ・・・で、なんかそっちで変わった事はないか?』
「変わった事といえば・・・」ファルコンは言ってみた。「・・・タッチパネルにマリオが表示されていることくらいかな」
『冗談は後でにしてくれ。 なんか、外に妙なモンがあるとか・・・ないか?』
「ああ・・・なさそうだ」ファルコンはキャノピーの外を一瞥する。ただ均一に白い空間がどこまでも広がるばかりだ。まるで巨大な雲の中を飛んでいるように。
『・・・わかった。 とりあえず、そこでじっとしてろ』
 そう言い残して、画面からマリオが消えた。
 ファルコンは思う。
 ・・・じっとする以外に何か手立てがあるというのか?
 ・・・つづく。

「おい、剣士?」マリオは画面に呼びかける。
 画面の中のリンクが泣きそうな顔でこちらにすがり付いてきた。
『ま、ま、ま、マリオ~!! どこいってたんだよぉおお! 一体ここはどこなんだよぉおおお! 助けてくれよ~!!』
「・・・ああ・・・とりあえず、落ち着け。 そこにカービィはいるか?」
『あ、ああ・・・いるけど?』
「代わってくれ」
『分かった・・・カービィ? なあ、起きてくれ』
 画面の中のリンクはかがんで、しばらくしてピンク色の球体を抱えて上体を起こした。
『ぽえぇ・・・ぺぽ?』カービィは目をこする。相当眠いようだ。マリオは、今の彼に話が通じるのかと少し心配する。
「カービィ、飛行機のことにはお前のほうが詳しい。 なんとかして、エラーを回避できないか?」
『ぽよよ・・・ぽえ?』
 マリオはため息をつく。
「だから・・・行き先の情報を書き換えるとか、なんとか・・・」
『ぺぽぉ・・・』眠いよぉ、と言わんばかりのカービィはリンクを振り返り、それから仕方なく、仕事に取り掛かることを身振りで宣言した。
「頼んだぞ。 ・・・リンク、彼のサポートを頼む」
『分かった。 他に何かすることはあるか?』
 先ほどとは打って変わって真面目な表情のリンクを見て、マリオは苦笑した。
「できればその、冷静な状態を保っていただければ、それで良いと思うぞ。 あんまり取り乱すと、この前みたいに・・・」『その話はよしてくれ』
 プツン、と音がして、無線が切れた。
 あとは待つだけだ、とマリオは腕を組んで目をつぶった。

 

 マリオは目を閉じたまま考えに耽る。
 ―――さて、どうしたものか。今回はどうやら以前とは勝手が違うようだ。まずユングの存在感が増したこと、それから・・・ジュゲムの疑惑のジャッジの件もそうだな。
 ユングについて。
 奴はもともとスマブラのキャラクターのなかで親分格として皆から慕われていた。しかし、この頃の奴を見ると・・・少し、以前とは違った雰囲気が見られる。
 なんだろうか、この違和感・・・同じキャラなのに、どこかが違う・・・。
 ジュゲムの件はどうだろうか。
 マリオカートの頃から奴のテキトウなジャッジは有名だったが、レース中止にまで及ぶ大失態はしていなかったはずだ。まして、腹の黒いことを考えるような男じゃない。こいつも、なにか奇妙な臭いがしやがる。どうも、なにか一連のつながりがありそうな気がする。
 ・・・まあ、警備がやたら厳しいのはいつものことだ。スターというものは、気軽に行動が起こせないという意味では一般人以下の存在なのかも知れんな。
 ・・・つづく。

 タッチパネルが点滅し、『無線発信者:僚機B』と表示した。マリオは目を開け、パネルに触れる。そのとき、外が少し暗くなり始めていることに気付いた。
「うまくいったか?」マリオは言った。画面のカービィは笑顔で手を振った。
『ぺぽぽ! ぺっぽう!!』カービィは言う。どうやら自動航行システムに行き先を変更させたらしい。
「で・・・俺達はどこへ向かっているんだ?」
『・・・ぽよよ・・・』
 カービィは急に困ったような表情をした。
「?」
『ぺ、ぺぽぅ・・・』分からない、とカービィは言うのである。
「分からないって・・・」マリオは苦笑した。「じゃあ、どうやって行き先を決めたんだよ」
『ぺぽ・・・』カービィはリンクの膝の上に立ち上がり、身振り手振りでそれを伝える。
 とりあえず、空中ステージで広そうな所で、突然アーウィンが現れてもおかしくないような場所、なのだそうだ。現地の映像だけは確認できたらしい。
「ふうん・・・」
 マリオは腕を組む。
「・・・そしたら、どこだ? コーネリアか? それともベノム?」
『ぺぽ・・・』カービィは首(というか体全体)を傾げ、それから画面向かって左の方を見た。
 マリオもつられて左を見る。
「・・・」
 そこに、堂々たる船体を誇る、高速宇宙艇プレアデスがあった。

 

「・・・な、なんだよあれ!!」マリオは叫ぶ。思わず立ち上がりそうになったが、シートベルトが制止した。
 あたりは静かな大宇宙。白いもやはいつの間にか消えていた。
『・・・あれは、なんだ?』リンクが言う。つとめて冷静なのが少しおかしい。
『ぺぽぽ、ぺっぽうぽぽっぽ、ぷぺぽぽぷ!!』カービィが船名を告げた。
『「高速宇宙艇、プレアデス・・・」』リンクとマリオが、同時にそれを復唱する。するとタッチパネルが点滅し、ファルコンから無線が来ていることを知らせた。
 マリオがタッチパネルを押す前に画面が縦に分割され、左半分でキャプテン・ファルコンががなりたてた。
『うぉい、剣士、ヒゲ! 見えてるか!! あれ! あの船!!』
『見えてる』リンクがむっとした表情で腕を組む。『今頃なんの用だ?』
『だから、あの艦隊!!』ファルコンはキャノピーの外を指差す。
『だから、分かってるって!』
『だから、あれ!! そっちじゃなくて、あれ!!』
 ファルコンは必死に前方を前方を指差していた。
 マリオは視線をタッチパネルから上に移動させる。
 前方には、なにやら臨戦態勢の巨大艦隊があった。
 ・・・つづく。

「・・・」マリオは絶句する。その巨大艦隊は明らかに、こちらへ武器の狙いを定めている。マリオたちのアーウィンは、そこに真っ向から立ち向かおうとしているのだ。高速宇宙艇プレアデスと共に。
 コックピット内にブザーが鳴り響く。タッチパネルには『自動航行システム:オートパイロットを解除、ナビモードに切り換え』と表示され、計器類の合間からは洗練されたデザインの操縦桿が現れた。これを握れ、ということだろう。
 つまり、このアーウィンは今からマリオの操縦で航行するのだ。

 

「・・・冗談がきついぜ、ピカチュウ」マリオがいうが、タッチパネルは何も反応しなかった。
 ・・・冗談じゃない!マリオは思った。
 現役で飛ばしてた時でも、あんな大群を相手にしたことはなかったぞ。それを、久々に乗る今・・・。
『どどどどど、どうすればいいんあくぁwせdrftgyふじこlp』リンクが無線越しに断末魔をマリオに浴びせる。ファルコンも、『俺はレーサー専門だぞ!!』と抗議した。
「知るか! とにかく、脱出だ! 脱出!」マリオが言うと、リンクがシートベルトをはずしてキャノピーの外へ出ようとした。カービィが慌てて止める。
「そうじゃなくて・・・とりあえず、ブレイクだ!」
 マリオは叫び、操縦桿を引く。Gがかかってシートに押し付けられ、アーウィンは機首を上げた。
『ブレイク!?』リンクが叫ぶ。
『ブレイク!?』ファルコンも叫んだ。
「操縦桿を引け!!」
『こ、こうか?』ファルコンが言う。
 マリオのアーウィンがインメルマンターンを決めようとしているコースに、ファルコンの機はもろに横から入ってきた。とっさにマリオが避け、なんとかぶつからずに済む。
「ばっかやろ! 気ぃ付けろ!!」
『お、おう!!』
「まったく、冗談きついぜ・・・」マリオは、タッチパネルに表示されているファルコンをにらみつけ、毒づいた。
 ・・・つづく。

 突然の転送と具体化に、休憩に仮眠をとっていたファルコ・ランバルディはおどろいて目を覚まし、身構えた。
 前方の強い光に目が眩む。いったい何事だ?
 よろめいたとたん何かに触れた。おどろいて飛びのくと、それは「ぽえぇ」と気の抜けるような声を出してうろたえた。
 カービィだ。
 彼も目をやられたらしい。ふらついていたが、さきに視力が回復したファルコが膝をついてそれを支えてやる。それからあたりを見渡し、彼はため息をついた。
 どうやらここは海岸沿いの崖っぷちで、水面はたそがれ時のような甘い色をしている。前方のかなり遠くには強烈な光を放つ何かがあった。
 太陽ではないらしい。もっと人工的な、なにかが爆発したような光だが・・・それにしては光が強い。X字型のフレアが出ているのだ。
 一通り眺めたあと、カービィは、よく分からない、といった表情でファルコを見上げた。
「・・・さあな。 俺にもわからんねぇ」
 ファルコは言い、立ち上がって顔に手をかざし、その光の方を見据えた。

 

「バカヤロォ!! 撃たれるぞ!」
『ひぃぃ!』
 ・・・どうやらステージがオートスクロールになっているらしい。マリオたちの三機のアーウィンは結局プレアデス号の方へ戻ってきた。
 そこへ、スターウルフの猛攻撃である。
 空中戦に強いカービィが操っているおかげで、リンクたちの機はうまく逃げられているようだが、マリオは敵機に追われ、キャプテン・ファルコンは操縦桿のデリケートさに振り回されていた。
 そして、マリオの必死のカバーも空しく、ファルコンの機は火を噴き始めてしまった。隕石にぶつかりすぎたのだ。
 目も当てられない。マリオは見切りをつけ、自分の身の安全を確保することに集中した。
 ―――時々、なにやら話し声のようなノイズが無線に入る。敵の通信だろうか。デジタルなら混信などありえないはずなのに、なぜ―――。

 

『警告:被ロックオン』

 

 ・・・つづく。

「うわぁああああああ!!!」キャプテン・ファルコンは混乱のあまり叫んだ。
 ロックオンされているのはマリオの機である。ファルコンが叫んでいるのは、もとから思うとおりに操縦できていなかった舵が完全に利かなくなったせいだった。
 目の前の隕石が、拡大、回転しながら近づいていって―――。
 衝撃と共に視界がホワイトアウトした。
 すうっ、と身体の感覚が消えてゆく。ファルコンは、自分は死んだのだ、と感じた。きっとそうだ。
 それならここは黄泉の国・・・?

 

 あたりは静まり返り、自分自身の存在すら確かめることが出来ない。視界は真っ白―――何も見えていない。
 悪態をつこうとしたが、何も出来なかった。
 リンクやマリオたちを呼ぼうとしても、声も出なかった。
 ファルコンは自分の無力さを噛みしめ、考えるのをやめた。

 

 一方、宇宙空間で。
 さっきから、カービィの様子が変だとリンクは思った。
 機械のことはさっぱりなので、操縦は全てカービィに任せている。というか、そうじゃないとむしろ危ない。
 そのカービィが、だんだん操縦をうっちゃってタッチパネルをいじり始めたのだ。
「かかかカービィ? ヒコーキの舵取りはどうするんだい?」リンクはビビリながら訊く。視界の端をぶっといレーザー光線が通過していった。
「ぺぽ!」アンタがやって、といった具合でカービィは振り向き、言った。そして再び正面に向き直る。
「え、えええ・・・?」
 リンクはうろたえ、振り向く。
 ウルフェンがこちらにレーザー砲を向けていた。

 

「ああああああああああああああああああああああああッ!!」リンクは叫び、操縦桿を思い切り右に傾ける。機体は回転し、急降下を始めた。アーウィン、操縦不能。やがて挙動はきりもみ状態のものに近づいてゆく。
 そして、そのコースの延長線上には、堂々たる船体を誇る高速宇宙艇プレアデスがあった。
「ぶつかるうぅーぅぅ・・・」

 

 リンクの叫び声は、しかし、尻すぼみに終わってしまった。
 どうやらアーウィンもろとも、リンクたちが抽象化されてしまったらしい。
 身体の感覚が消え、意識だけの状態となったリンクは、何だかひどく目をパチクリさせたい気分になった。
 ・・・つづく。

『警告:ミサイル接近中』
 ピカチュウ・・・ナビモードに入った自動航行システムがマリオに知らせる。
 しかしマリオは無視した。いや、完全に無視したわけではない。避ける気が無いだけだ。代わりに背後を視認し、タイミングを計っていた―――短い英語のセンテンスをつぶやきながら。
 満を持して、ミサイルがマリオの視界に飛び込んできた。小型で、たいした破壊力はなさそうだ。
「来た!」マリオは言い、左手でレバーを引く。
 すると機体は高速回転し、翼がミサイルをはじき返した。爆発し、少しゆれるが、回転が止まると収まり、マリオは再び通常の操縦に戻った。
 だが、前方不注意だったのは致命傷だ。
 プレアデスとは別のクルーザーが目前に迫っていて、マリオは慌てて機首を持ち上げた。
 手遅れである。マリオのアーウィンは船底を派手にクルーザーにぶつけ、火を噴き出した。
 マリオは必死で操縦桿を立て直すが、機体は不安定に揺らぎ、あらぬ方向へ飛んで行く。
 なんとか隕石をよけながらふらふらと飛んで行くアーウィンは、まるで引き寄せられるようにプレアデス号に接近していった。今や背面飛行となっているアーウィンをぶつけないよう、マリオは操縦桿を懸命に倒し、機首を下げようとした。
 高速ですれ違うアーウィンとプレアデス。しかし、それぞれに乗る者たちは互いの姿をはっきりと認めた。
 アーウィンに乗っているのも、プレアデスの甲板に立っているのも、マリオなのであった。
 束の間の戦慄の後、アーウィンに乗るマリオはまたも前方不注意をやらかした。今度は免れられず、アーウィンは隕石に激突する。さらにその残骸を、クルーザーから放たれた一筋の対艦レーザー砲撃が貫いた。
 そして抽象化。マリオは身体を失った・・・。
 ・・・つづく。