スマブラ個人小説/Shaillの小説/スマブラキャラの毎日 21

Last-modified: 2015-03-07 (土) 13:11:36

始めに

これはXより半年後の世界なので、知らないところでキャラクターたちが成長しています
なので、「あれ?いつの間に?」と思う部分がありますが、そこは半年間に何かしらあったということで詳しい説明はしません


→次回 今作の魔術について

第4章 空上の仮面

昨夜・・・俺はシャーレを部屋まで運んでやり、一日の疲れをとるべくふかふかのベッドに身をうずめた。もちろんシャーレを寝かした隣のベッドで
なのに・・・・・
「うにゃー・・・───」
「・・・・」
目を覚ましたときにはシャーレが俺の真横で寝息を立てていた
突然の闖入者に気付いたとき俺は文字通り飛び上がった。いてっ!慌てすぎて壁に頭ぶつけちまったよ
「・・・うにゃにゃにゃ・・・・」
・・・こいつの行動はまったく先が読めない。そこは確かに猫っぽいが・・・なんでここにいるんだ?
シャーレがふいに寝返りをうった。そのままベッドの上から墜落してくれれば良かったのだが、運の悪いことに逆方向。俺に身を預けるように反転してきた
「お、おい・・・っ」
胸板に顔を埋めて眠るシャーレから漂ってくるバニラの香りが鼻につく。なんでこいつはこの年で香水なんかつけてるんだよ
でもこうやって間近だと否が応でもドギマギしてしまう。こいつ無駄に美少女だからな。馬鹿ほど美しいってのは本当なんだろうか
そんな寝顔に少し見とれていると・・・・・・
寝ていたはずのシャーレが不意に目をぱちつかせた。ん・・・っ?
バッと身体を起こし、こちらに意味ありげに色目をよこすと
「あっくん驚きすぎ!ナイスリアクション!GJ!にゃはははっ!」
「なっ・・・!?」
親指を立てて笑うシャーレは、俺がビックリして飛び上がったことを知ってる素振りだ
まさか・・・起きてたのか!?そうだとすると・・・
寝起きの頭がフル稼働し「もしも」を展開していく。仮説───寝たふりをしていたシャーレに全てを悟られる。考えつく限り最悪の結末だな。それだけは避けたい。それだけは・・・
「それにしても・・・なんですか?ついにあっくんもロリに覚醒ですかぁー。あんなに見つめられるとはシャーレも予想外だよ!ねぇ・・・?」
自分にもよく分からないが、全てを悟ったシャーレの髪を引っ張ってやった。そうしなければ破滅しそうだった
「いだだだだ☆!い、いいじゃんか別にィ~!そんな怒んないでよぉ~。・・・・・・くふふ・・・・!バ、バウ・・・バウンドwww!あ、あたたたたた!!痛い痛い痛い!つ、抓るのナシ!捻るのもナシ!ナシだってばー!ぎゃわああああ!!」
一生の不覚だ。これからシャーレに散々いじくり回されるだろう。そして終点の連中に言いふらして・・・・・もう考えるだけでゾッとする
いや、それにしても悪知恵の働く奴だ。今のところシャーレの仕組んだ罠に全て嵌まっている気がするぞ。ちょっと警戒心を持たないとこの先どうなることやら・・・
「はうぅ・・・・・痛かった・・・・」
「終点の奴らに言いふらしたら今の倍はやるからな」
「そんなことしないってば!もう、あっくんったら疑いぶか」
「髪の毛───」
「はい、しませんっ」
「本当にか?」
「本当だよ?」
「・・・・・・」
───・・・シャーレにこんなこと聞いても無駄だった。真実という言葉すら嘘になるからな
これからは失態を晒さないように心掛け、あんまり振り回されないようにしよう

 

それからしばらく馬鹿やった俺たちは、朝食を摂ってからホテルを後にした
時刻は9時半過ぎ。時間は有り余っているが、これといってすることもない。せっかく海外に来たっていうのに残念な奴だな、俺は
「・・・・・帰るか」
「えぇー!?まだまだ遊び足りないよー!」
「そう言うと思ったぜ・・・」
決して遊びに来たわけではないが、今は目を瞑ってやろう。俺にも遊びたい気持ちぐらい分かる
「・・・どこか行きたい所あるか?」
「喫茶店行こう!前から行きたかったお店があるの!」
・・・それ言うの絶対狙ってただろ、即答したところをみるに
喫茶店か・・・・紅茶なら昨日嫌というほど飲んだんだがな。まぁ、他に行く所もないしそれでいいか
「すぐ近くだから歩いてこ」
とてて、と前に出て手招きしてきた。付いてこい、って意味だろう。さながら、招き猫って感じだな
でもなんだろうな・・・・・まるで子どもみたいに扱われている気分だ。俺のほうがどう見ても年上なのに
だがそんな子どもじみたこと言ったら、さらに子ども扱いされる。俺は何も言わずにシャーレの後ろに付いていった

 

歩きながら昨日の事を改めて振り返ってみるが、本当に何もなかった。まぁ、せいぜいそんなものだってことだ
飛行機が墜落する確率だって、専門家の話によると毎日乗っても438年に一回。大きな事故に遭うのは相当ついてない人間なんだ。帰りの飛行機だって大丈夫なはずだ
「・・・ん?」
先導するシャーレが歩きながら何かしている。歩きスマホかと思ったが、よく見てみるとスマートフォンじゃない、なにか小さな機械を眺めているみたいだ
「なんだ?その変な機械は」
俺が尋ねても、視線を変えることなく興味津々にその機械をいじりながら
「昨日集めたお金で売ってもらったんだー。簡単にホログラムを投影させられるんだよ?まずはここのスイッチを押すんだけど、その次はどうするでしょう?ニャフフッ」
「知らねえよ・・・」
こいつ・・・飛行機オタクの他にもまだ何かあったのか。えぇと、なんだ・・・・その、名付けるのも難しいようなやつ
つーか・・・ほろぐらむ?そんな物持ってどうするってんだ。科学者でもあるまいし
しばらく弄んで満足したのか、大事そうにポケットにしまい込んだ。まるで俺に見せつけて自慢したげだったな。誰が共感するかよ、そんなもん
それより昨日の金使ったのかよ、そんな訳の分からん機械に。勿体ない奴め
まさか全部使ったなんてことはないだろうが───
───いや待てよ・・・・・そんな物買う時間なんかあったのか?
シャーレは昨夜恥ずかしい姿を晒してからずっと寝ていた。それから考えられるとしたら、俺が寝てから起きるまでの時間帯
でも24時間営業でそんなヘンテコな機械を売っている所なんてあるものなのか
・・・・・まさか、な・・・・。相手がシャーレだとつい怪しいのを連想してしまう。これは確かめる必要がありそうだ
「───お前どこで買ったんだよ、そんなもの」
「うーんっとねぇ・・・・・」
「・・・」
どうせ聞いたところで真偽が判らない。こいつの言うことは疑うって決めたし。───でも、聞かずにはいられないだろ
「あっ!着いた!着いたよあっくん!」
「お、おい・・・!」
俺を無視して飛び出していったシャーレ。人の質問には答えろよ!
相変わらずの鈍足で俺から距離を離し、キョロキョロとあたりを見渡し始める
噴水を囲むようにずらりと建物か並んでいる。見たところどれもお店のようだ
アッ!と唸ったシャーレがその中のひとつに駆け寄った

 

『Closed』

 

「あれ・・・・・?」
「───・・・・おい」
「今日休みだった!」
「馬鹿かッ!!」
店の営業日くらい前もって調べとけよ!
あーあ・・・まるで俺たちの来店を拒否するかのようにガッチリ閉まっちゃってるよ。いや、俺は別に行きたかったわけではないが。せっかく歩いてきたのにな
「う~ん・・・・・」
腕を組んで考え込むシャーレ。ここは早いうちに突っ込みを入れておかなければとんでもない所に連れて行かれそうだ
「他の店に行こうとか言うなよ」
「そうだね、帰ろっ」
「えっ・・・!?」
「え?なに?」
「いや、別に・・・」
シャーレは「?」って感じで首を傾げている。いや、俺のほうがそうしたいところだ
・・・初めて俺の意見に沿いやがったぞ。ほんの何気ないシチュエーションで
こいつのトリガーは理解出来ん。目当ての喫茶店に行けなかったから頭がおかしくなったなんてことは万に一つもないだろうしな
まぁ、考えても仕方ないか。なによりも馬鹿なのだから
そうやって手持ちの疑問をほっぽりだした俺は特にすることもないし、シャーレも行く所がなくなった。これはもう早めに帰ってマスターに結果を報告するしかないな
「よし、ならもう帰るぞ。異論はないんだな」
と俺が来た道を引き返そうと歩き始めたところで、
「ねぇ・・・やっぱり、昨日乗った飛行機なんだよね?」
気が変わったとか言い出すかと思いきや、急に飛行機の種類なんかを聞いてきた
いちいちそんなこだわりがあるのか、飛行機マニアには。そんなの帰れたらなんでもいいだろ
勿論そんな正直な答え方をしたら「よくない!」と反発されるのは目に見えている
「ちょっと待て、調べる」
不本意だが調べざるを得ないな。昨日からシャーレの願望をほいほい聞いてる気がするが、気のせいだろう。多分
シャーレに言われるがまま借り物のスマートフォンで今日の便をチェックすると・・・・・・・あれっ。予定より早すぎたな
今から空港に行けば、昨日の飛行機より前の便に乗れそうだ
「良かったな。早めに帰れるぞ」
まぁ、こんな時間なんだから当たり前だが
「ふーん・・・・」
横から真剣な顔で液晶を覗き込むシャーレに告げてやったが、興味なさそうに相槌を打ち、そのまま俺を無視して先を歩き出した
なんだよ───自分から聞いてきたくせに嫌な奴だな。目当ての飛行機に乗れなかったからって拗ねてるのか。昨日の飛行機に乗りたいそれなりの理由があるのだろうか・・・
何かと詮索してみると・・・・・・そうか、分かったぞ。調べてる途中でチラッと見たが、今から向かう飛行機より昨日乗ったやつのほうが最近に出来たものなんだ。だからそっちを優先して・・・
子どもってのは新しい物好きが多いからなー。そう思うとシャーレの背中が急に可愛く見えた
そして何も言わず後を追った
途端───

 

くっ、びりっ
「わわっ!」
シャーレがドレスの裾を踏んでバランスを崩し、前のめりに倒れ込んだ
しかもその先には・・・


ばしゃっ!


水泳で飛び込みをしたみたいに、噴水の水溜まりに頭から突っ込んだ
「わぷっ!ぷえ!ぶはぁ!」
水飛沫を上げながらばしゃばしゃと暴れる。50cm程度の水深なので底に尻ついてるはずだが、一瞬でパニクったシャーレは───なんと、溺れだした
「おい!落ち着けっ・・・」
藻掻くシャーレの手を引っ張って助けてやるが、水中から脱したときには目を回してしていた。水も大量に飲んでるみたいだ
連日気を失うなんてご愁傷様だな。まぁ、これは俺をからかった天罰ってことで。ざまあ
これで少しは思い知ったか。悪いことすると巡り巡って自分に帰ってくるんだよ
・・・・・でもこんなずぶ濡れのままじゃ帰れないな
「おーい、大丈夫か?」
シャーレは一度意識がなくなると絶対に起きないのは昨日学んだところだ。頬を揺するだけじゃあ目を覚ますはずもない。日頃の恨みとして殴り起こしてもいいんだが、場所が場所なだけにそんなことをするのはマズいだろう。なんつーか、これ、すごく厄介な状況だな
うーん・・・このまま放っておいてもいいんだが、逆に俺が帰れない可能性があるよな。でもこんな水浸しだと地下鉄にも乗れそうにない。俺が着替えさせるのも御免だしな・・・・
────仕方ない。心底仕方ないが・・・・次の飛行機は飛ばして、シャーレが目を覚ますのを待つか
運のいい奴め。結果的に自分の身体を犠牲にして目当ての飛行機に乗るみたいになってるぞ
・・・そういや最近待つということに抵抗を覚えなくなったな。こいつと一緒にいると面倒なことばっかりだ。まぁ、それも終点に着くまでの辛抱だ

 

噴水の縁に腰をかけ、その隣にシャーレを横たわらせた。・・・何をしていようか
指遊びとか到底する気になれないし、近くの店に行こうにもシャーレを置いていくわけにもいかない
この場から離れずに出来ることといったら・・・・
(おっ・・・そうだ、メリカにでも話し相手なってもらおう!最近連絡とってないしな・・・)
プレパラートはないが、マスターから借りたスマホでなんとか出来るだろ
メリカに関しては、あれから身体に異常はなく、元気いっぱいで活動しているらしい。元気すぎて、周辺の建造物を十単位で破壊してしまうとか、激化するシリア情勢もメリカが原因だとか、とりわけ悪名高い暴力集団を半日で潰したとか、活躍というより蹂躙の噂は後を絶えない
そんな無法者メリカを鎮められるのは俺ぐらいなもんだし、会話ついでに少し注意しておくか
幸い番号は覚えている。たまに連絡すると、ちょうど交戦中で出られなかったりしていたので、こうやって昼飯前にある休憩時間を狙って電話する必要があった
これでも充分面倒なのだが、さらに面倒なのは・・・
────この携帯電話で通信するのは初めてだから多分非通知行きだろう・・・・となると、メリカのあの手段が適用されるな・・・
本人曰わく、警戒心というものだそうだ。相手が気長に待ってくれるときほど重要な要件ということが判断出来ると言う。・・・・・そんな警戒心はすぐに捨て去ってほしい。重要なときにそんな待ってられないし、多分いたずら電話ぐらいにしか効果ないから
どういうことかと言うと、知らない奴の電話は取らない・・・自分が善しと判断するまで相手に待たせ続けるという、非常に面倒臭い方法を執っているのだ。俺の場合決して重要なことでもないけどな
コール音が耳元で鳴り始めてから十分くらい。ひたすら格闘してようやくピッと音がした。謎の達成感
『・・・・・・』
─────────────無言
これもメリカのポリシーの内の一つ、電話してきた側から喋らせる。まぁ分かるだろうが、話し掛けたほうから話題を振るのが当然、という考えなのだ。それになんか機嫌悪そうだ。まあ、いつものことだが・・・
「相変わらずそっけねぇな・・・。あー、俺だよ。あのアから始まる・・・」
『あぁ、バッシャールか?』
「違ぇよ」
誰だよ、アじゃねーし
『だから誰だよ。もう切っていいか?』
前半に関してはこっちが言いたいが。このまま切られたらあの十分が無駄になる
「ア、アイクだよ。実は訳あって───」
諦めて自分の名を出した、刹那
『!』
電話越しでも分かる、ばっ!と飛び起きる感じ。そんなにびっくりするかよ
『あ───アイク!?本当にアイクなのか!?』
「そうだけど・・・・なんか悪かったか?」
『あ、いや・・・、まさか今日来るとは思わなくて・・・。電話するのだって久々だしなっ・・・!』
喜々とした口調で、なんとか取り繕おうとしている。良かった、どうやらご機嫌は取れたようだな
場所は離れているが、テンション上がったメリカのウキウキ感がいやが上にも伝わってくる
『で、でも急にどうしたんだよ?俺もなかなか連絡取れないのは済まないんだが・・・』
「ああ、それな・・・うん。実は・・・」
『?』
返答に息を詰まらせ、一瞬だけチラッとシャーレを覗き見た。こいつの事を全て網羅すると長くなる。それに経験上、メリカは長話は苦手だろう。省いたほうがいいよな
「それが・・・・色々あって暇すぎてな。ちょうど時間帯がメリカの休憩時間だったし、終点も新しく出来上がったことも言っておきたかったしな」
『・・・』
「・・・・・メリカ?」
俺としてはうまく誤魔化したつもりだったが、今の言葉に引っ掛かる箇所があったのか。膨れっ面になるのが手に取るように視えた
『・・・俺と喋るの───暇潰し程度なのかよ』
声が一段と低くなった。・・・なんか癪に障ったみたいだな、よく分かんねぇんだが。暇だから電話した、のどこが悪いというんだ
これだから女ってのは面倒────口調は男みたいだけどな
「いや、別にそう言ってるわけじゃねーが・・・」
『・・・まぁ、そういう「らしい」ところ、嫌いじゃないけどさ。それにィ、こっちはもう食い終わってるし』
・・・・・?時計を見やると、時刻は午前11時を差していた
「こっちはまだ昼飯前だぜ?」
『・・・・。時差、だろ。チューガクで習ったろ』
「すまん。何一つ覚えてねえ」
『・・・・・』
静止の後、電話の奥からガチャンッ!と音がした

 

『───そういや、なんでプレパラートじゃねーんだ・・・?この前まではプレパラートだったのによ。あっちのほうが遥かに性能上だろ』
武器の整備を余事・・・カチカチと金属の擦れる微音から察するに・・・そう尋ねてきた
突然別の携帯電話でしたんだから疑問に思うのは当然か
「あぁ・・・それも訳あってだな。もうすぐで戻るから我慢してくれ」
『そうか・・・』
仲間に盗まれたんだけどな。そんなこと言えるわけねーよ
『で、その訳ってのは───』
「あっ、そうだ!今どこに泊まってるんだ?」
半ば話題を逸らすため、思いつきぶりにふっかけた。するとメリカはわずかに喉の奥を引き釣らせ、
『っ・・・・ちょっと汚い家、だけど・・・・な、なんだよ!文句あるかッ!!あぁ!?』
「ありません」と言わせんばかりに怒鳴ってきた。照れてるのか、あいつ
「いや・・・・・。でも・・・良いことしたんだろ?」
『ん・・・・そんないいもんじゃねーよ。ちょっと追い払っただけだ』
メリカの活躍は暴走とか言ってるが、実はそのどれもこれも生活を脅かされてる人の救済に繋がってんだよな。本人はたまたまとか言い訳してるが、どうも半年前の俺の言い付けを守ってるっぽい
その救われた家族の家に寝泊まりを繰り返し、各地を転々と放浪している。それがメリカという無法者の実体である
まあ、行動荒れてるが活動はそう悪いものではないってことだ
・・・でもこんな凶暴な奴住まわせて大丈夫なのかと思う。食糧とか1日で消えるぞ、冷蔵庫ごと
『うんっ、メンテ完了っと』
そんな疑問をよそに満足げに頷くメリカ。作業を終えて工具を片付け始めてるみたいだ
「・・・整備とか欠かさないんだな。メリカはそういう細かな事、やらないと思ってた」
『性能の割に壊れやすいんだよ、KRMは。作った奴の腕が知れるぜ。特にネジが緩み具合ったらありゃしねえ。ったく、もっと丈夫に仕上げろや・・・』
「そ、そんなに粗悪な物なのか?あんなに強いのによ」
『ああ。このネジにしろ、とにかく製造者は力無さ過ぎなんだよ、物理的に。この前もγのカバーがバラバラになってよー!あの時はマジで殺されるかと思ったぜ・・・。まあ、知識と発想力だけは認めるけどな』
「・・・・」
電光熱剱γ、浮游双剣αβ、廻釼ブロスト、諸々・・・・今まで様々な科学武器の話をされたが、そこまで代償が支払われるものだったのか。ただひたすらに強いとだけ思っていたが、やっぱり欠点は生まれるものなのな
お、そうだ。武器といえば・・・・
「メリカって、二つ名貰ってんだよな?なんだっけ。『放浪する────」
『ああ、女傑な』
「は?」
『ん?だから女傑だっつーの、二つ名。ぴったりすぎて怖いぜ』
「・・・・・」
『ん?どうした?』
「いや・・・・」
───マスター・・・・・全然違うじゃねーか。今更だが大丈夫かよ、あいつなんかが重役で
確か女傑とは、男勝りな女、という意味だった。なるほど、反論の余地がない
『俺もそれ以上の名なんて見つからないだろうから、二つ返事で認可させても───鋳§√騒√√%√隗Щ───よ』
「え?何?」
いま一瞬ノイズが走ったぞ。
『・・・ん、ちょっと──‰¤ℓ㌢窟℃──n境が悪─・・・── ───』
プッ────
「? あれ?おいっ、メリカ!どうした!?」
通信が切断された・・・?
再度掛け直してみるが、ザーザーと砂嵐が流れるだけだ
向こうの電波が悪いのかな。そうとしか考えられないが・・・
「んっ・・・」
後ろ頭を掻いていると、目を擦りながらシャーレが目を覚ました
思ってたより復活早かったな。もう一時間くらいはこのままだと覚悟していたが
「おう、早く起きろ」
「わ!寝てた!?」
アイク「なんだ覚えてねえのか・・・。取り敢えず服もびしょびしょだし、いいから早く着替えてこい」
「え、えぇー・・・あっくんが着替えさせてよ?」
「─────っ」

 

「いったぁ!!」

 

俺は、あの飛行機に乗り過ごしたことを生涯、悔やむことになるだろう
──────────多分




なんとか空港まで着いたはいいものの・・・
一つ便を飛ばしたことで、かなりの時間が出来てしまったな。手続きも済ませたし、ちょっとだけお土産買うか
「お土産お土産ッ!お菓子買おうよ!お菓子!」
拳を上下にシェイクさせ、既に・・・・というか今更・・・というか、既にテンションMAXなシャーレ
「どれにしようかな~☆」
旅行帰りの子どもに混じってお菓子売り場の陳列棚に目を輝かせる。ギャンブルで馬鹿稼ぎして高い買い物した奴とはとても思えんな
「ネコのお前には、こういうのが良いんじゃないか?」
そう言って俺が差し出したのは、帽子を被ったネズミのストラップだ。どこの雑貨屋でも普通に売ってそうな代物なのだが
「───・・ッドハッター・・・・・」
突然口を尖らせ、俺に聞こえないような声で呟いた
何ハッター?
「ん?なに?」
「う、ううん・・・それよりトイレ行ってくる。お水飲みすぎたかも」
タタッ、と逃げるようにお手洗いへ駆け込んだ
・・・・? まぁ、あいつの行動は全て理解不能だからな。気にかけるだけ時間の無駄だろう
機内用に適当なお菓子を買い、ソファーに座って待つことにした。すぐに帰ってくるだろ

 
 
 
 
 

「・・・・・俺の予測はとことん外れるな」
女がトイレ長いのは知ってるが、ここまで長いものか。シャーレが用を足すのを今か今かと待ち続けてもう30分だ
確かに水は飲み過ぎただろうが、そこまで長いはずがあるか。混んでもいないし、どうせ個室に立て籠もってケータイゲームでもしてるに違いない
空港の従業員もここのトイレットを使うんだ へぇ~、などとなんの価値にもならない発見をしていて、段々と待っているのが馬鹿馬鹿しくなってきたぞ。別にここで単独行動しても難ないんじゃないか
そして、いったいどれくらいの人が出入りしたろうか、ようやくシャーレが濡れた両手をパタパタ振りながら姿を現した
「ふ~。出し過ぎてお腹萎んじゃうよぉ~」とか言ったときには、拳の一つや二つはくれてやろうかと憤慨の念を覚えた。女子トイレの隣で座り続ける男の気持ちを考えたことあるのかよ、お前
「何してたんだよ。こんなに俺を待たせやがって。ただトイレしてた、ってだけじゃねえだろ」
「ひっみつー。ニャフフ!」
口に手を添えていつもの猫笑い(俺が直々に命名)しているのを見るに、これっぽちも悪いことしている色がない
ったく、昨日からの待ち時間を累計すると何時間に達するんだよ・・・。人を待たせる天才でもあるな、こいつ。そんな迷惑な才能、一刻も早く捨て去ってほしいものだ




「あっくん見て!凄いよ、これ!飛行機に部屋が出来てるよ!」
「・・・・・」
部屋に飛び込んだシャーレが、真っ先にベッドにダイブした
「ここ・・・高いんだろ」
「んー、まぁ、軽く一割は超えたね」
昨日(実質は一昨日だが)は三等席に座っていた俺たちなのだが、今日に限ってセレブ御用達の個室にいるのはなぜなんだろうな
まぁ、理由は簡単なんだが、シャーレが昨日稼いだ金の残りだ。なんでも、張り切って予約してしまったらしい。なるほど、この飛行機に乗りたがっていたのはそのためか。そうならそうと言ってくれればよかったのだが・・・・・・
・・・・確かに、凄いな。俺もスイートルームで過ごすのは初めてだ
テレビはもちろん、クローゼットやらベッドなんかが羅列している。豪華絢爛ではあるんだが、あんまり使わないだろ。こんなの
機種は昨日と同じボーイングなんたら。最新の技術を搭載した新型だ。あと便数の事情により、一旦アメリカのロサンゼルスで落ち着く必要がある。所謂、経由便というやつだ。おかげで飛行時間は前よりも長めで6時間くらい
まぁ、寝ていればそのうち着くだろう
「ねえねえ、あっくんもベッドでもふもふしようよ~」
・・・・寝させてくれればの話、だがな
シャーレが居る限り、この部屋で寝ることは不可能と見積もって間違いない
こういうのは、面倒臭いことに巻き込まれないよう早いうちに手を打っておくのだ。1日で身に付けた対シャーレスキルの賜物だな
「シャーレ、ちょっと機内を見て回る。ある程度、構造を把握しておいたほうがいいからな。お前は────」
ここにいろ、と言おうとしたが、裏を読まれたのか
「あ!シャーレも行くっ!下の部屋にバーがあるから行ってみたいの。イギリスの飲酒年齢制限は16歳だからね!」
・・・そう来たか
だがそれも想定済みだ。今回こそは、お前の行動パターンを知り尽くした本気の俺が勝たせてもらおう・・・!
「そうか、なら分かれてしよう。俺はいろいろ見回る。お前はバーで何かしてろ」
「え~・・・一緒に───」
「一緒に肉体労働するか?」
「───む”~~~ッ・・・・」
逆に言葉を遮られて押し黙った。いいぞ、このまま続けてやれ
「でも一人でとか嫌だしィー」
「他の人とやれよ。お前のコミュニケーション能力なら誰とでも付き合えるだろ。生憎だが俺は忙しいんだ」
「そんなことないって!」
「本当だ。今から階段とかの位置を確認しに行くんだ。万一に備えてな。正直言うと、お前は来ても邪魔になるだけだ」
「嫌だッ!」
「駄目だ」
「む”ー・・・・!!!」
「・・・・・」
喉を唸らせて睨んでくるシャーレ。段々キツくなってきたかな
だが引かないぞ。絶対に
「シャーレはあっくんとがいいの!」
「俺は一人でやる。シャーレはいらない」
「・・・・ッ!」
そう切り捨てると、シャーレは少しショックを受けたように目を見開いて、次第に眼を潤ませた。これは・・・
「えっ?な、泣くなよ?」
「なんで、そんなに・・・意地悪するの?せっかくこの部屋を予約したのに・・・!」
「待て!早まるな・・・!」
あ、泣くわ
「─────!」
「うゎああぁぁぁーーーん!もう、嫌いっ、あっくんなんか、ハイジャックに遭って死んだらいいッ!!」
───なんて酷いこと言うんだ
この叫び声を聞くのは何回目だろうか。俺のフォローにもならないフォローも虚しく、シャーレは甲斐性もなくボロボロと涙を零してしまった
ぐっ・・・・やっぱり困った時は、もう理論とかを完全無視して号泣するんだな。流石に泣きつかれるのは胸が痛くなる
「だ、だから泣くなって・・・!」
耳を覆い、これは嘘泣きだ、と念仏のように復唱して己に言い聞かせ、わんわん喚くシャーレを視界に離して退出した
ふぅ・・・・・・やはり厳しかったか。だがあいつには強引に事を進める以外、従わせる方法は今のところ無い。中途半端な返答をしたら、そこを突いてくるのだ。頭が痛くなる
まるで我が子を躾るみたいだな。まったく、子育ての大変さが身にしみる
通路の壁に背を衝いて一息吐き、一連の流れを思い改めると・・・・
初めてシャーレを負かしてやったな。ハハッ
────超、気持ちいい。俺のシャーレ耐性もよく磨かれたものだ、たった1日で
空港までの道中、イメージトレーニングしていたのが効果覿面だったかな。俺とシャーレの第十次くらいのは世界大戦はアイク国の初勝利に終わった
込み上げる感情を抑えつつ、未だ泣き声の通る扉から身体を起こす
さて、一仕事するかな。一応視察しておかないと後で文句言われるし
なんてことを考えながら、長い通路へと歩を進めようとした刹那
「ん・・・?だれかいるのか?」
三叉路の角から長い髪の先端がチラッと顔を覗かせた。死角になって見づらいが、俺が気付くと逃げるように行ってしまった。どうやらさっきまで居て、盗み聞きしていたっぽい
「待てッ」
盗み聞きとは悪趣味な奴だ。まぁ、うちにも相当な悪癖を持ったのがいるから説得力はないかもしれないけど。そこは棚に上げておこう
それに・・・・逃げるような素振りをみせたな。どこぞの外国人かは知らんが、怪しまれて声を掛けられたら立ち止まるのが共通な反応だ。それをしなかった。つまり、何か不審なことをしていた可能性は大いにあるということだ
俺が後を追って突き当たりを曲がると、
「───いない・・・だと?」
先刻のあの髪の持ち主の姿はなく、長い廊下がただずっと奥に続いていた
足音すらしなかったというのに・・・。ストーキング能力のある奴なのか?それにしては速すぎる
身を隠すにはこの長い長い廊下を突き抜ける必要があるのだ。そして、それにはあの寸時では不可能に近い
「消えたのか・・・・?」
床にも証拠となりそうな物は落ちていなかった。何者なんだ、あいつ。金色の長髪ということしかまだ分からないが・・・・ここでは少し気を付けて動いたほうが良さそうだな

 

トイレだと断りを入れてCAを撒いてから、飛行機の一階をぐるりと凱旋てして位置をある程度記憶した
このボーイングなんたらは上階と下階に分かれており、上は俺たちのいる乗客用となっている。先頭から後ろにかけて三等席、二等席、個室へと豪華になっていく
そして下階はシャーレの言っていたバーが主な設備だ。それ以外はあまり関係のないものらしい
座席を見回るついでにあの怪しげな人物も捜してみたが、金髪はまだしもフィジー並の長髪など、どこにも見当たらないのだ。またどこかを盗み聞きしているのか・・・・
「おぉ、アイク!また逢ったな」
捜索を終えた三等席で考え込んでいると、思わぬ人物に出くわした
「フォックス・・・行きも帰りも同じなのかよ」
ちょうど手前の席に座っていたフォックスがこちらに振り向いた
なんだ、いたのか。捜すのに集中してて気付かなかったぜ
「そうだ。さっきサムスとも逢ったぜ。今回のフライトはこの三人みたいだ。席はバラバラなのはどうにもしがたいけど」
「・・・」
そりゃ個室なんだから一緒になるわけねーよな。まぁ、そんなこと言ったら四人部屋になりそうだから隠しておくが
それより───俺はもう一度周囲を確かめた
・・・・狐がいても誰も驚かないのは触れてはいけない部分らしいな
「そうか。で、首尾はどうだったんだ?」
「あの程度の任務でしくじる俺じゃないぜ」
余裕綽々といったように両手を広げた
そうだな・・・彼のROSSAはかなり上位だった。確かサムスもフォックスと負けず劣らずだったと思う。それが任務達成出来ないとあったら逆に驚きだ
対して、ラグネルを失ってパワーダウンした俺は自分でも引くくらい下位となった
これが本格的に進行すると意外と危険で、メリカにしごかれる可能性が出てくるのだ。あいつ強い奴が好みみたいだし
「それよりもな、アイク。マスターはこんな依頼を続けてちびちび信頼を得ていくとか言っていたが・・・・・・それじゃあ駄目なんだよ」
「どういう意味だ」
「・・・たとえばな、今回の全員の報酬を合わせてみると、デカい仕事一個分以上だとする」
「そりゃねーわ」
「たとえだよバカヤロー。で、それがそのデカい仕事以上に注目を浴びるか、っていうと、ならないんだよな。これが」
「・・・要は、量より質っていいたいんだろ」
「そうだ。さすがアイク、話が早い」
そうは言うものの、大抵の重要な依頼はその国が請けるものだ。俺たちに流れてくることなど、今はほとんどないと言っても過言じゃない
そうなれば、どこの国も手出し出来ないようなシチュエーションに遭遇して、さらに解決にまで持っていければいいのだが・・・・
そんなの災害に出くわすだけでも宝くじで一等を当てるくらいの確率だ。まず起こらないし、起きても鎮められるかどうか
「最低の極致は、このまま貧乏生活を続ける、だな」
笑い気味に言ってきたが、貧民の生活を想像した俺は気が重くなるのだった

 

そして偶然にもサムス(基本ゼロスーツ)とも合流し、その三人で駄弁っていると結構時間を費やしてしまった
立ち話が過ぎたのかキャビンアテンダントにも指摘を受け、行き場のなくした俺は自室の前へと戻ってきた
物音はしない、が・・・これは居ないと思わせる罠かもしれない。俺の中の対シャーレスキルがそう警告してくる
シャーレのやつ、大丈夫かな。ちゃんとバーに行ってくれればいいんだが。あいつと一緒にいると無駄に精神をすり減らすから、あまり会いたくないのだ
(よし・・・行こうか)
深呼吸を済ませ、そーっとドアの隙間から様子を窺った。無論、いきなりマウントを取られても受け流せるように体勢は万全にして
「・・・・・ん?」
・・・・あれ?誰もいないじゃん
飛び出してくる物もなく、目に留まるものといえば、独占を主張するかのように私物が散乱しているベッドだけだ
念の為クローゼットの中とかも捜してみたが、なんとシャーレは不在だった
まさかマジでバーに行ってるのか・・・・
珍しいな。待ち伏せしてるんじゃないかと警戒していたんだが。なんか、拍子抜けっていうか・・・
まさか俺の言うとおり、本当に赤の他人と飲んでるのかもな、ハハッ
「・・・・・他の奴と・・・・・」
うーん・・・・自分から言っときながらだが、それはそれで不安が残るぞ。もしシャーレの身に何かあったら、あのヘボ権力者に迫られかねない
ちょっと様子見にいこうか。あいつ暴力だけには弱いからな
シャーレと云えど、さすがに心配になってドアノブに再び手を掛けた
「───いや・・・・早まるな」
が、その手は扉を開けるまでには至らない。落ち着け、俺
───シャーレが不在。これは・・・・俺の望んでいた一人の時間じゃないか
今日日散々振り回されていたが、これほど落ち着いて過ごせる時間はもう無いだろう。それをむざむざ捨て去ろうなど、お人好しにも程があるんじゃないのか
うむ、どうしようか
天使と悪魔の入り混じった頭を悩みに悩ませ・・・・遂に意を決した
「寝よーっと」
俺は睡魔という悪魔に敗北した
ベッドは塞がれているからソファーにダイブ。そういや前にもあったな、こんなシチュエーション




眠りから目覚めると、搭乗してから既に四時間も潰れていた
時計───かなり長く眠ってたみたいだな。やはりシャーレ国との戦争で疲れてたのかもしれない
で────あいつはどうなんだ?
寝起きの頭でも身構える心積もりをしていたのだが・・・また外れか
シャーレは未だ帰ってきていなかった
四時間もよく持ちこたえられるな。いや、なんとなくシャーレはアルコールに弱い気がする。となると・・・それなりに飲んで、爆睡してるんだろうな。もうそれしかないと思うぞ
どれ・・・もう満足したし、シャーレのもとへ行ってやろうか。今更って気もするが
再度ドアノブに手を掛けて退出しかけたら、唐突にポーンと何かのサイン音が鳴った
ドアの真上に表示されているディスプレイを見やると、部屋から出るな、のランプが点滅していた
なんだ部屋から出たらいけないのか・・・・・・まぁ、いいや。あいつなら放っておいてもなんとかやってくれるだろう。出れないんならしょーがないやッ
そんな根拠のない信頼感を隅に、俺は呑気に窓際から外の様子を覗いてみる
分厚い雲を切り抜け、四時間振りの地平線が窺えた。時刻は六時くらい・・・ちょうど空全体が夕陽に染められる時間帯だ
・・・さすが一等級の部屋なだけある景色だな。高層ビル郡との対比、すごく───奇麗だ
だがその風光も束の間で、夕日が地平線に沈んでいくに従い、空も闇に塗り替えられてゆく。もう、夜の運行になるのか・・・
徐々に下降していった飛行機は、ようやくアメリカのロサンゼルスに着陸した。ここに直接用は無いが経由便だから仕方ない
そのまま外の風景を眺めていると、乗り継ぎの客がぞろぞろと搭乗してきた。おそらく終点に用があるのは俺たち四人だけだ。なんか孤独を感じるぞ
それから暫く待機していると、また機体が動きを始めた。これからやっと終点を目指すんだ。大体二時間のルートかな
さて、2日でどれくらいの発展を遂げたんだろうか。あの形だけの経済成長っぷりは尋常ではないからな。人さえ揃えれば交通網も完成してそうだ
飛行を開始して数十分
・・・・・よしっ、ランプも消えたことだし、バーにでも行ってやるか。さっさとシャーレを連れ戻そう。俺としては邪魔者でしかないが
つーか・・・・もうアメリカ大陸なんだから、18でも飲酒可能っていうイギリスの法律は適用されないはずだが・・・一体どうなっているんだろう
と、ベッドから立ち上がった、その刹那──────


ドガンッッッッッッッ!!!!!!!!


「─────っ?!!」
機体が大きく揺れ、衝撃が脳髄にまで響き渡る
なんだ・・・・何が起こったんだ!?
いまのは爆発音─────!その威力からして相当な火薬量とみた
傾いた壁に寄りかかりつつ、窓の外を覗くと・・・・・・・なんと、左翼のエンジンが二つとも破壊され、黒煙を噴いていた
予め爆弾でも仕掛けられていたのか・・・ となると、これはまさか────「ハイジャック」ってやつか!
突然の爆破にざわつく乗客。客室乗務員らが慌てて対処しようとしているが、そう簡単には収まりそうにない
ここは空の上なんだ。逃げ道はない。パイロットがロサンゼルス国際空港に通信をとってUターンするのが精一杯な状況なんだ
「───冗談じゃねえぞ・・・!なんで初めて乗った飛行機でテロリストなんかに遭遇するんだよ!」
とにかく早めにシャーレと合流しなければ。あいつは戦闘に特化したような奴じゃない、こういうときの知識のない人間だからだ。フォックスらと落ち合うのはそれからだ
一度廊下に出て、暗記したばかりの図を頼りに下階へ駆け下りる
すると大きく開けた空間に出た。構造上、縦長になっている部屋だ
あたり一面が淡い赤色に染められ、カウンターの奥には液体の入った瓶がいくつも並べられていた
だがバーに来たものの・・・・・シャーレどころか人一人いねえぞ
無駄足だったな。くそっ、どこに行ったんだ・・・もしも人波に揉まれたら余計に見つけ出しにくくなるぞ
ここに居ないとすれば・・・・・


─────いや・・・・・いったん落ち着こう。焦らずにまずは状況整理からだ
ボーイングなんたら便は太平洋上空で爆破された。エンジンを二機も破壊されたが、今はなんとか飛行を続けている
テロリストたちはまず乗客を人質に、コックピットを狙ってくるはずだ。というかそうしなければならない。身代金なり相応の目的を突きつける必要がパイロットにあるからだ
そこで飛行のプロが何も抵抗せずにしてくれれば、俺が介入する場面など微塵もないのだが。そこは置いといて・・・
「ん?待てよ・・・・」
落ち着いてみると、ある疑問が見えてきた。それも一つじゃない・・・・
───改めて耳を立ててみると、乗客のピーピー言う悲鳴は未だに絶えていない。正直、うるさいくらいだ
なるほど────そうだな・・・・・やっぱりシャーレは後回しだ。彼女には悪いが、テロリストに狙われる可能性なんかないからな
まずはコックピット。ここは合流の意味も含めて向かうべきだろう

 

「やっぱり来ていたんだな」
「あぁ・・・。そして、早く来ていなかったらお前も死んでいただろうな」
こちらを振り向こうともせず・・・・いや、振り向くべきではない。彼女は手前にある操作盤に意識を向けている
「遅かったじゃねえか、アイク。何してた?」
「一件ほど余事があってな。それより・・・」
フォックスの背中から部屋の隅っこに視線を移すと・・・・二人のアメリカ人男性が横倒しになっていた。この人は間違いなく飛行士だが、これはミスなのか───?
「俺達が来たときには機長と副機長はやられた後だったぜ。コックピット内に仕掛けられてたにこいつに、な!」
と、フォックスが懐から出すやいなや投げつけてきたのは、中身の抜けた空き缶。鼻を近づけてみると、そこにはまだ睡眠薬の香りが残っていた
この二人は睡眠ガスによって眠らされているのか
「────なんで睡眠なんだ?」
何故ハイジャックに眠りなどと曖昧なものを使う。そんなテロリストがいたものか
「確かにおかしな点ではある。ハイジャックというものは大抵、ある目標があって、それを機長へ要求するのが目的だ。それすらせずに────これだ。その目的とやらは何なんだろうな」
「さっぱり分からん」
「・・・・・・・」
このハイジャックは色々とおかしい点がある。不備というか過ちが多いのだ
まず、爆破をしてそれだけ、というのが大きく変わっている。普通なら銃器なんかを持って乗客を黙らせ、コックピットを襲撃しにくるものだが・・・・犯人らしい姿はまだ目撃されていない
それに、フォックスやサムスがいたから良かったものの、航空機のノウハウのある人間がいなかったら犯人もろとも墜落することになる。それくらい分かるだろう
墜落させる目的ならそれで完了なのだが、それ以外だとパイロットは絶対に殺したりしてはいけない対象となる
加えて、姿を現さないのも気になるのだ。爆弾と睡眠ガスを撒いて放置するのなら、要求がないということになる。要求がないならハイジャックする意味がない。そもそも姿を現さないならジャックが成立しないだろう
ただの模倣犯と説明するなら、爆弾を仕掛けるほど事前に準備を済ませていたんだからそんな筈はない
人狙いならまだ説明もつかないことはないが、それなら飛行機一つ爆破する必要性が無さすぎる。飛行機のトラブルなんてのは国家レベルの問題だからな。それに自分もろとも墜落すれば意味が無い
これらのことを踏まえて言えば、この事件は正直「意味不明」だ
「それ故、見ての通りだが今は私とフォックスが操縦している。宇宙船を動かすのの練習に覚えていたのが幸いだった」
とりあえず墜落は免れる。チキン野郎の犯人が次に何をしでかすか分かったもんじゃないが、最悪の事態だけは避けなくてはな
「どうあれ、機長さんらが起きるような時間は無さそうだ。これからはこのペアで操縦を続ける。自由に動けるのはお前しか残っていない」
「どういうことだ?」
サムスとフォックスは機長さんたちが起きるまで滞空しておけばいいだけだ。ちょっと前まで空港にいたんだから、たくさん給油していただろう。まだまだ飛べるはずなのだが
「・・・それがな。問題なのは・・・・この機体、燃料漏れを起こしているんだ。保って一時間というところだ。機長さんの目が覚める前に飛行機は墜落する。早く着陸しないといけない」
そういうことか・・・・これで制限時間がぐっと縮まったわけだ
一時間以内に着陸させる。出来るのであれば、隠れている犯人を捕らえる
これらを達成させれば俺たちの勝ちだ
「これからロサンゼルス国際空港に連絡を取る。臨時着陸のために滑走路の使用許可を求める。アイク、お前は兇徒を探してくれ。どうも銃を片手に突っ込むような集団ではないようだ。まだどこかで雲隠れ中か、裏工作でも施しているのか・・・・見てきてくれ」
「間抜けな犯人ではあるが、裏を返せば先が読めないということだ。セオリー通りにいかない変則的な手口であることもに考慮しておけ」
「───請け負った」
刀剣類は持っていない。対決になれば頼りになるのは自分の肉体だけだ
非常に心許ない。相手は相応の装備はしているだろうに
それでも四の五の言ってられない。自分は少なくとも動ける人間の中で一番強いのだから
「・・・・お互い、無事で帰れたらいいな」
「そこまでは至るまい。これ以上酷くなりはしない」
「そうか。だといいんだが・・・・」
俺はそう言い残し、扉を閉めた。と同時に、スピーカーからサムスの機内放送が流れた

 

『───乗客の皆様。当機は七時二十分、ハイジャックされました』




簡単な任務だも思っていたのに、まさかこんな大惨事に巻き込まれるとはな・・・今日は厄日かもしれない
───始めるか、クロ捜し。これからの任務は依頼ではないが、命懸けになる。カジノ警備などとは比較にならないだろう
客も顔つきは不安そうなもののだいぶ落ち着いてきたし、乗務員を使って荷物の中から爆発物でも探させられる。そこは乗務員と連携させよう
俺は手掛かりもない手前、捜しまくるしかなさそうだ。最善の手段かは解らないが、隠れる場所などたかがしれている
乗客のことはチーフパーサーに任せ、俺はバーを調べにいった。隠れられるとしたらここぐらいなもんだ
端から見ればただの出しゃばった客だが、機長の倒れた状況下で、代理パイロットとも関係持ちということで見逃してもらってる感じだな。有り難い
不穏な空気の流れる客室を通り過ぎ、一階への階段を下りると───
ん・・・・?誰かいる
すぐに先客がいたのを察した。カウンター前の座席に悠長に座っている
そいつは・・・・素顔を仮面で隠し、キャビンアテンダントの正装で変装を施した────長い金髪だった
「あんた・・・・まさか、あのときの・・・?」
現段階で断定は不可能だが、推測すれば当の人物だろうな。長すぎる髪がその証拠だ
「・・・こんな所で何してるんだ」
「・・・・・」
盗み聞きしていたこともあって、普段よりも警戒してゆっくりと接近していく。無論、これが犯人だと考慮しながら
相手は決して強そうな雰囲気ではない
ではないんだが─────なんだろう。なさすぎて、まるで・・・・そこに存在してすらいないような、おかしな雰囲気がするのだ。気配がないと形容するべきか
「───機長の指示が見えていなかったのか。立ち歩くのは違反だぞ。それと、その服とお面だ。何のためにそんなことしているんだ?顔が割れると不都合でもあるのか」
ここはとにかく何か話し掛ける。正体不明な奴にはなんでもいいから話し続けて、情報を引き出させるのだ
「・・・。反論しないのか?黙っていても何もならないぜ。あんた一人か?取り敢えず自分の座席に戻りな。何番の席だ。まぁ、それも用意していればの話────」
しかし口を開いた奴の第一声は、俺の考えを大きく外していた
「……Attention please?」
仮面の奥から聞こえた、気を付けてください、の声
その言葉に眉を顰めたが、その真意を読み取ると、反射的に後方へ飛び乗った
刹那、あらかじめ床に設置されていた小さな物体がぴーっとブザーを鳴らした
「─────!」


ドゥッッッ!!


それに一瞬遅れて爆薬が炸裂し、あたりに熱風を撒き散らした
カウンターが吹っ飛び、衝撃波でワイングラスや酒瓶も巻き込まれ粉々になったが、咄嗟のバックステップでなんとか爆発には呑まれずに済んだみたいだ
・・・サイズ以上の威力だな、この爆弾は
あと一歩遅れていたら、あのグラスみたいに身体がグシャグシャになっていただろう
それに・・・・やつはスイッチを押すような素振りはなかっし、時限爆弾にしてはタイミングが良すぎるから・・・・別の仲間が張っているのかもしれない
なにより────
今の惨状を見れば誰だって示しがつく
「────あんたが仕掛け人だな!爆弾魔!」
目の前の仮面を睨みつけ、そう言い放った
「・・・・・・」
それでも怖じ気づいた様子もなく、ただ俺を見据えている。あんな爆破の仕方なんだからバレることなど承知の上だろう
その自信を裏付ける策でも隠している可能性も考えて・・・
「・・・Whats your purpose?」
穏やかに、まずは解明不能な目的を尋ねる。
すると、俺の何が可笑しかったのか、くすっと笑ってから
「────なんでしょう?」
「・・・・っ」
こいつ────
俺をおちょくっているのか
言葉の意味くらい分かるくせに、しらばっくれやがって・・・
「お前の目的は何なんだ!答えろ!」
「・・・・・」
そいつはまるで聞こえてすらいないかのように、じっと俺の顔を見つめたまま一切を語らない。俺もそれに対抗するように睨み返す
「目的が言えないなら名前は?仲間は?動機は?」
「・・・・・」
「・・・・・どうしても答えたくないってのか」
どうやら聞き出すのは無理そうだな。口で埒が明かないなら、あとは実行に移すだけだ
見た目は大して強そうでもない、全体的にほっそりしている
一瞬で距離を詰めれば苦戦することはない────ッ!
そう確信して、俺はやつに肉薄した
爆発によって空けられたら大穴を飛び越え、その距離僅か1mにも及ばない
それでも爆弾魔は、まるで失明でもしているのかと思わせるぐらい、静かだった
(なんで何もしてこないんだ・・・・?)
その一瞬間のうちにふと疑問が脳裏を過ぎる
爆弾が仕掛けられているのを期待していたのだが、あまりにも無抵抗なのに違和感を隠せない
だがそんなことを深く考える猶予はなく・・・やつを床に拘束するため、細い手首を掴み取ろうとした

 

しかし──そっこう手を伸ばしたものの腕を掴んだ感触はなく、ただ空を切っただけだった
「今のは・・・」
あの至近距離で外すものか・・・あいつは避けたんじゃない
「───消えたのか」
このバーにその姿が跡形もなくなったのがその証拠だ
───なるほどな。道理でやすやすと距離を詰められた訳だぜ。そう簡単にはいかないってことか、いいだろう
ゼルダ姫やフィジーを毎日毎日見ていれば、瞬間移動など最早珍しいものではない
やりにくい相手ではあるが、今まで何回か手を合わせたことがある分マシになればいいが・・・・それは一定のステージで相手をした場合である。こんな一般人を乗せた、それも狭い飛行機の中だ。経験が実を結んでくれるかどうか・・・・・
ともあれ、先が知れない相手に変わりなく、何をけしかけるのか分かったものではない
ここにいても始まらない。対策はないが先ずは捜さなければな
そう思い至り、バーを後にしようと振り返った、矢先
「You are violent───」
耳元に囁く声がした
「・・・・!」
振り向きざまにラリアットをかましたが、それも威力を発揮することはなかった
瞬時にテレポートした爆弾魔は、階段の手前で姿を現した
「・・・・優しいじゃねぇか。そんなに捕まりたいのかよ」
わざと挑発させることを浴びせかける。まぁ、何も言わないのは目に見えているが・・・
「その技────どこで身に付けた。お前魔術師か?にしては杖が見当たらないな。フィジー寄りの使い手ってわけでもなさそうだし・・・」
「Fiziy・・・・?」
その名を口にして不思議そうに首を傾げた。・・・ちょっと意外なリアクションだな
「まぁなんだっていい。お前と話すのは無意味だとよく分かった。だったら・・・・・」
手段は一つだけ────頭ごなしに覊束する。それだけだ
俺の手の内の分析・・・・爆弾による範囲攻撃、瞬間移動による逃避のみ。対する俺は・・・・・
────いける。誰だって分かることだが、爆弾なんていう設置型武器は白兵戦には不向きだ。見たところ下準備はしていなさそうだし・・・
こっちの肉弾が命中さえすれば・・・・・拉ぐだけの威力はある
あとはあの厄介なテレポートをどう対処するかだ
そう頭の中で対策を描きながら対峙していると、唐突に向こうが口を開いた
「Hum.......人払いは済んでないの?それとも・・・・・・・そう、アナタの仲間かしら」
アイク「なんだと・・・?」
溜め息混じりにそう言う奴の視線を追うと、その先には─────
「あっくん?なんだ、ここにいたんだ。さっきすっごい音したよね。って、そのひと誰?」
「なっ、シャーレッ!?」
階段の上からちょこっと顔を出したのは、なんとしばらくぶりのシャーレだった。あまりにも想定外だったので思わず振り返ってしまい・・・・・
「馬鹿野郎!何してる、とっとと引っ込め!!」
「え?な─────うわっ!!?」
シャーレが最後まで聞き届ける間もなく、目の前に出現した仮面に押し倒された
駄目だ・・・・・あいつは受け身すら取れてなかった。相手が細身だからといって、シャーレには虫ほどの抵抗力じゃ何も出来ない!
「いやああぁ─────!!!!」
「シャーレ!!!くそっ・・・!」
なにが起きたのかは死角となって見えなかった。だがシャーレの負傷は免れないだろう。それどころか・・・・殺される
全力で階段を駆け上がると、そこには・・・・・
金髪の姿はなく、代わりに赤に染まった銀髪が、仰向けに倒れていた。傍には血のこびりついた刃物が棄てられている
なんてことだ・・・・・額を切られてやがる・・・・
「────!!!」
「しっかりしろ!意識を保てよ・・・」
出血量が安心出来るものではない。まずは血を止めなければ・・・・
包帯のような都合のいい物は持ち合わせていないので、手近なマントを力任せに引き裂いてシャーレのおでこに巻き付けてやる
「────あっくん・・・・ごめん、邪魔したね・・・・」
苦痛に顔を歪めながらも謝罪するシャーレ
「そんなことより自分の心配をしろ」
「うん・・・・」

 

「・・・・・あっくんは、やっぱり優しいね」
「・・・・。あまり喋るな。余計に酷くなる」
「───うん」
くそっ・・・・なんだってこんなときに恥ずかしくなるようなこと言うんだよ。このままだと失血死するかもしれないというのに
シャーレの額からは治まるどころか、止めどなく血が流れてくる。駄目だ・・・・・・こんなマントじゃ付け焼き刃にもならない
「傷は浅いが場所が悪いか・・・・。乗務員なら救急キットぐれー持ってるだろ。それで我慢してくれ。おんぶしてやる。乗れるか?」
「うん・・・」
後ろを向いて背中を差し出すと、シャーレは精一杯の力で体を預けてきた。もうしがみつく力すら残っていないのか、俺が支えてやらないとすぐに落ちてしまいそうだ
「死ぬなよ・・・・こんな所で死んだら笑い話にもならないぜ」
返事はなかった。ただ断続的に、か細い吐息を漏らしている
乗務員休憩室にたどり着くまでは走って一分も掛からなかった。前もって地図を把握しておいて大正解だったな
「負傷者が出た!救急セットを寄越せ!」
体当たりで扉を開けて、乗務員に半ば押し付けるように依頼し、シャーレを簡易ベッドに横たわらせる。そしてぐるぐる巻きにしたマントの切れ端を解く。血でびしゃびしゃの布は・・・見てて気持ちいい物じゃないな
「一時間の辛抱だ・・・・着いたらすぐ病院に送ってやるからな」
タオルで滲んだ血を拭き取ってから止血テープを貼ってやる。俺に出来るのはこれに包帯を巻くことくらいなもんだ
(これでなんとか・・・・)
「へへぇ・・・・・そんなのじゃ、全然足りないよ・・・・・」
しかし────それでもシャーレの額から血が止まることはなかった
想像以上の重傷だった。側頭動脈が切れているか、そのあたりか。救急セットが意味を為さないとは・・・・医療の知識の欠片もない俺の手には余る・・・
「悪い・・・・・俺にはこの程度のことしかしてやれないんだ────乗客の中に医者でもいなけりゃ・・・!」
ちくしょう・・・・ここからどうすればいいんだ・・・!瀕死の人間を目の前にして何も出来ないなんて
このままだと─────シャーレは一時間もせずに多量出血で・・・・・確実に、死ぬ
「くそッ・・・・何か手立てはないのか・・・・」
こんな奴でも、それでも仲間は失うわけにはいかない────!
シーツを硬く握り締めた、そのとき
「───そんなヤケにならなくても大丈夫・・・・・シャーレだけでなんとかする。だから、あっくんはあいつを追って・・・・ね?」
シャーレが、俺を拒むように、右手で俺の身体をそっと押してきた。ほぼ手を当てているだけというくらいの力だが
「だけでもって、お前・・・・・看護士ですらないのに、治せるわけないだろ」
「ううん、心配しないで・・・・シャーレに任せて。早く行かないと逃げられちゃうよ?」
「でも・・・・・」
「あいつ、多分バーの方へ逃げてったから・・・・」
シャーレは肩で息をしながらも、切実に顔で俺を見上げる。構うな、ってことかよ・・・
「───・・・・分かった。なんとか出来るんなら、してみやがれ」
虚勢を張っているだけかもしれない。だがここはシャーレを信用するしかなさそうだ。ずっとシャーレに手を掛けている暇もない
「何を企んでるのか知らないが────死んだら承知しないからな」
「やっぱり優しいなぁ~・・・・・惚れ直しちゃったよ」
・・・・・冗談を言えるくらいなら大丈夫だな

 

窓の外は一面、闇に覆われていた。まるで墨汁をぶちまけたような、夕方と同じ空とは思えないほど、どす黒い景色だった
動いているのか、止まっているのかすらおぼつかない、そんな不気味な感覚が纏わりつく
(しっかりしろ、シャーレが怪我を負わされたぐらいで熱くなったら負けだ)
頬を叩いて邪念を振り払うと、廊下を渡って階段を降りる
「────同じ場所を行ったり来たり・・・・・何がしたいんだ、お前」
俺が登場するのを待っていたのか、爆弾魔はバーの片隅の壁に背をつけて佇んでいた
「・・・・・犯人捜しに手掛かりは必要だけど・・・・手掛かりが多すぎるのもまた混乱を招くのよね。ありもしないものに隠されて、本質が見えなくなってしまうんだもの・・・・・・あなたはその区別がつく人?」
仮面の奥からのくぐもった声。俺の動揺を誘うつもりか、関係のない話を浴びせてくる。それを真正面に受け止めながら俺は一歩一歩、目の前の爆弾魔に近づいていく
しかし・・・・その距離2メートルといったところで、俺はぴたりとその足を止めた
いくつものプラスチック爆弾が、奴を中心に円形に貼り付けられていたのだ
「お前・・・・・・まさか逃げるつもりじゃねぇだろうな」
「Aha....計画通りいきそう・・・・・・」
俺にはまったく聞く耳を持たず、自分の話を進める爆弾魔。いや、それでいい。とにかく奴の情報がほしいのだ
それに、早速いまの発言で引っかかる事を漏らしていた
「計画、通り・・・・・?」
こんな結末が、この爆弾魔の望んだものだとでもいうのか?こいつが得たのもなど何もないはずだが
もしもそうだとすると─────手の込んだ模倣犯、という結論に行き着いてしまう。ただの虚言かもしれないが、顔が読めない相手に対して探りを入れられる術はない
「それじゃあ・・・・・」
奴は言葉を繋いでいく
「後のことは任せた。ここの人間を生かすも殺すも、あなた方の発想次第ですから・・・・・・See you soon.」
「おい!待────!」
有無を言わせる暇も与えずに、目の前の女はプラスチック爆弾を起爆させた
「────!」
間近の爆音は耳を劈いた
大きく空いた穴の先には黒々とした世界が開けており、俺たちをあの世へ誘うかのように突風を吹き荒らせた。室内にある物を全てを吸い出さんと、そう意志を持っているかのように
タオルケット、ワイングラスや酒ビン、椅子まで─────大きさ問わず、あらゆる物体が舞い、空中に投げ出されていった
俺は気流に引きずり出されないようカウンターにしがみつくのに精一杯で、爆弾魔を止めることなど出来る筈もなく・・・・・・・奴は抵抗する素振りをまったく見せずに
「・・・・・・期待を裏切らないでくれよ」
そう言い残すと、風に身を任せ、投身自殺と同じ形で、吸い込まれるように機体から落下していった
と、ほぼ同時に天井から消火剤とシリコンのシートがばらまかれた。ペタペタと大穴に貼り付いていくそれは、みるみるうちに穴を塞いでいく
俺は急いで小窓を覗き込んで逃亡した姿を目で追いかけた
しかし────爆弾魔は夜の闇に溶け込んでしまい、跡を捉えることはもはや不可能となっていた
「おかしい・・・・・・・」
逃亡劇でも見せたかったのだろうか。わざわざご丁寧に、テレポートも使わず堂々と壁を壊して・・・・・
いったい何が狙いだったんだろうか。奴を追えば追うほど謎は増え、深まるいっぽうだ
(先ずは報告─────話はそれからだ)
半壊したバーから踵を返し、コックピットへと向かった

 

コメント

  • 第4章の「そして偶然にもサムス~」から「あまり会いたくないのだ」のところまでの文章が2回繰りかえされてますよ -- トチ狂った人? 2014-07-18 (金) 20:58:25
  • 意図的なものならすみません -- トチ狂った人? 2014-07-18 (金) 20:58:49
  • すみません、僕の間違いです。指摘ありがとうございます -- Shaill? 2014-07-18 (金) 21:27:07