さらに詳しく

Last-modified: 2018-08-14 (火) 22:25:00

さて、もう少し詳しく、ショートトラックについて説明します!

文句がよく出る競技だけれども…

まずは、ショートトラックの「意義」について。

 

実はショートトラックって、残念ながら他人に紹介すると「この競技必要あるの?」って結構言われますw
「アクシデント多すぎだし、スピードを競う競技はスピードスケートだけで良いじゃん」とw

 

いやいや、たくさん存在意義がある競技ですから!
個人的には前章で述べた「駆け引き」「勝ち抜き戦」などの面白さが一番の価値だと思いますが
それ以外にもたくさん、意義を持った競技なのです!

大きなリンクが必要ないこと

普通のスピードスケートをするには広大なリンクが必要ですが、
そのような大きな経費を必要とする施設は、日本にも世界にもそこまで多くありません。
小さなリンクしかない地域でも、スピードスケートができる。普及のためにも大切なことだと思います。

観戦する時の臨場感

「ショートトラックは実際に会場に見に行くとハマる」とよく言われます。
スピードスケートのリンクは広いので、「遠くで選手が滑っているな~」という感覚だと聞きます。
(私は普通のスピードスケートは見に行ったことがないのでわかりませんし、実際行ったら面白いのでしょうが。)
しかし、ショートトラックを見に行けば、目の前で、迫力あるレースが体感できるのです!

小柄な選手でも通用すること

スポーツってたいてい、体が大きい方が有利ですよね。よって体格が劣るアジア人は不利なことが多いです…
しかしショートトラックは違います。頻繁にコーナーを曲がるので、重心の位置が低い分、コーナーにおいては
小柄な選手の方が有利。また小回りが効くので、選手間のわずかな隙間に入るなど器用な滑りができるように思います。
ただもちろん、大柄な選手の方が直線の滑りにおけるパワーはあるし、
体が邪魔となり後ろの選手が追い抜きにくいという利点もありますから一長一短です。

 

すなわち、体格による有利不利が少ない競技として魅力があると思います。
そんなこともあって、かつては日本が、最近は韓国や中国が、この競技の天下を握ってきた一方で
カナダやアメリカも負けていないし、ソチオリンピックではヨーロッパ勢も大きく力を伸ばしました。

コーナリング技術

ショートトラックのレースはとにかく急カーブの連続。選手の方はよく曲がれますよね…
この競技で磨かれたコーナリング技術は、普通のスピードスケートにも大いに活用できると注目されています。

 

実際、ショートトラックの選手だったシャニー・デービス(米)、イ・スンフン(韓)、
ヨリエン・テルモルス(蘭)といった選手は、ショートトラックでは五輪出場が叶わなかった、
または、出場したもののなかなかメダルに届かなかったのですが、
スピードスケートに挑戦した結果五輪で金メダルを取っています。
日本においてスピードスケートで有名な加藤条治選手も、元々はショートトラック出身ですね。
スピードスケートの選手がコーナリング技術を高めるため、ショートトラックの合宿に参加することもあります。

 
 

ね、文句言ってた人も、「ショートトラックも捨てたもんじゃない」って感じ、するよね!(?)

 

それから、「なんで滑るコースに線引いてないの!見にくい!」という文句もよくありますねw
確かに、カーブの部分にコースを仕切る石を置いているだけで、それ以外、コースを示す基準はありません。
これには理由があって、同じコースをずっと使っていると氷の損傷が進むので、
コースを頻繁に変える必要があるのです。よって石をずらすだけでコースを変えられるようになっています。

 

とはいえ、わかりやすくするために、テレビ中継ではバーチャルで線を書いたり色を付けたりした方が
初めての方に優しいんじゃないかな~という気もしますがどうなんでしょうかねw余談でした。

 
 

レースをより楽しむために

次に、ショートトラックのレースを観戦する上で参考になる知識を挙げていきましょう!

戦法は人それぞれ

選手それぞれの得意戦法は何なのかな?ということを意識して見ると面白いと思います。
序盤から積極的に先頭や2番手といったポジションを取り、粘りこみを図る選手もいれば
序盤は後ろで力を溜めて、少しずつ追い上げる、あるいは最後に一気に前を追い抜く選手もいます。

道中の駆け引き

とはいえ、解説者のお話など聞いていると、戦略の基本はできるだけ「前に出る」ことのようです。

 

ショートトラックのレースは序盤はペースが緩く、終盤になると前の選手がペースを上げていき
逃げ切りを図ることが多いです。よって、ペースが上がり切った終盤は、疲れてくることもあり、
格上の選手でなければなかなか前を抜くのは難しいです。
そこで、序中盤にできるだけ前目の良いポジションを確保したいというわけです。

 

とはいっても、強引に前に行って力を使いすぎれば、さすがに終盤バテて交わされてしまうでしょう。
また、早めに先頭に立ってスピードを上げれば、空気抵抗を受けて消耗しやすくなります。

 

出来るだけ力を使わず、良いポジションを取りたい。その思いが交錯し、駆け引きが生まれてくるのだと思います。
後ろの選手に交わされそうになった時に、スピードを上げたり体でブロックしたりして防ぐ動きも見物です。
逆に後ろの選手は、交わしにいきそうな気配を見せて実は行かない、などのテクニックも使います。

前の選手の追い抜き

ショートトラックでは序盤から終盤に至るまで、前の選手を追い抜く行為がたくさん見られます。
各選手の追い抜きの技術は、ショートトラックの大きな見どころの一つだと思います。
追い抜き方は大きく分けて2つあります。内側から抜くか、外側から抜くか、です。

 

接触の危険が少ないのは外側から抜く方でしょう。
しかし、ショートトラックは頻繁にカーブを曲がりますから、外から追い抜こうと思うと、
相当なスピードの差が必要となり、特に短距離においては厳しいものがあります。
そこで実際は、内側から抜くことも多いです。選手は急カーブを曲がった直後の直線は必ず外に膨れますから
そこで空いた内側に上手く入って抜くのです。しかし、次のカーブが始まる前に抜き切らないと接触が起こり
転倒したり、失格の対象となってしまうことも多々あり、賭けの一手でもあるのです。

フィニッシュ直前の攻防

ショートトラックのフィニッシュは、ブレードの先端がゴールラインを通過した瞬間です。
よってゴール前混戦の際は、各選手が思い切り片足を前に出すシーンが見られます。
最後の最後の直線で順位が入れ替わることもあり、目が離せません。

 

それぞれの種目の特徴は?

ショートトラックには色んな種目があります。
基本的に、「この距離専門!」みたいな選手は少なく、全ての距離をこなす選手がほとんどです。
しかしやはり、選手によって得意種目と苦手種目がありますし、レースの様子も変わってきます。

1500m

1500mはオリンピックで行われる中では最も長い距離です。
序盤はゆったりとしたペースでお互い牽制し合いながらレースが進んでいき、
徐々に徐々にペースが上がっていきます。また、4.5人で滑る他の距離と違い、6人以上による大人数のレースです。
大人数の選手たちによる、長きにわたるポジション争いがたまらない魅力ですね。
消耗戦になると終盤は大差が付くことも多く、強い選手が強い勝ち方をするのも見どころかもしれません。
韓国勢が特に強い種目でもあり、男子はトリノ、バンクーバーともに無敵の内容でした。

1000m

1000mは序盤からペースも速いので1500mのようにやや冗長になるようなこともなく
しかしながら、駆け引きをする時間も十分にあって、最もファンが多そうな種目です。
1500mに比べると、終盤になっても差が開きにくいですから、
序中盤のポジション取りの良さが結果に直結しやすいと思います。
よって、「駆け引き」というこの競技の魅力が最も押し出された種目かもしれませんね。
中間の距離なので、長距離が得意な選手と短距離が得意な選手がガチンコでぶつかり合うのも魅力です。

500m

500mはスピードとパワーの勝負!駆け引きの要素は最も少なく、
優れたパワーでスタートダッシュを決めてそのまま押し切ろうとする、欧米の選手が元気になる種目です。
長野五輪で金メダルを取った西谷岳文選手も、「浪速の弾丸」と言われるスタートダッシュがすごかったです。

 

各選手トップスピードを出すため、特に力が拮抗する上の方のラウンドでは、前の選手を追い抜くことはかなり難しく
とにかくスタートで前に出られるかが重要となります。そのため、スタート位置が内側の選手が有利です。
次ラウンドで内側のスタート位置を得るため、ただ勝つだけでなく良いタイムでゴールすることも非常に重要で
タイムにも注目して観戦すると面白さが倍増します。

 

ただし、500mは人間がずっと全速力で滑り切るには少し長すぎる距離で、一度どこかで休む必要があり
そこに、スタートで遅れた選手にも追い抜きのチャンスが生まれるそうです。

 

以下、特に個人的な意見。
500mはショートトラックの醍醐味である「駆け引き」の要素がややわかりにくく、スタートゲーにも見えるため、
最初はあまり好きではありませんでした。しかし、特に男子500mの疾走感は、ハマるととても興奮します。
それに、「もし組み合わせが逆だったら?」「もしスタート位置が逆だったら?」
ちょっとのことで結果が大きく変わるのが500m。極限のスピード勝負ゆえにアクシデントも多く
不確定要素が非常に多いため、一番ハラハラドキドキできるという意味で、最近はむしろ私はお気に入りですw

 

リレー

ショートトラックのリレーは4人1チームで、誰が何回滑っても何周滑ってもよし、どこで交代してもよしという
なかなかにフリーダムなルールです。ただし、アンカーは2周以上走らなければいけないという例外があります。
それ以外は、基本的には1周半ごとに交代するのが一番効率的と言われているらしく、それがスタンダードです。
交代は体にタッチすることで成立しますが、普通は触るだけでなく、腰を押して勢いをつけてあげます。

 

小さなリンク内に大量の選手が入り乱れて争うその迫力(カオスさ)が魅力の一つでしょうw
それゆえ、アクシデントで台無しになってしまうこともありますが、
実力伯仲のチーム同士の争いは、抜きつ抜かれつ、白熱します。
たとえば1,2走は速いが3,4走は遅い、みたいなチームがいると、順位変動も激しくなりますね。

 

失格?救済措置?細かいルール

審判の裁定

ショートトラックは接触が多い種目で、故意でなくとも他選手の進路を妨害してしまうことがあります。
そのような場合に失格や救済措置などの裁定が行われます。これだけ頻繁に失格者が出る競技は珍しいかも。
裁定を下すのは、リンク中央で、スーツを着ながらスケート靴を履いて滑っているチーフレフェリーさんです。

 

レースが終わって怪しい場面があれば、アシスタントレフェリーと話し、必要ならばビデオで確認した上で
最終的に裁定が下ります。ちなみにビデオ判定が導入されたのは、2002ソルトレークシティ五輪の
男子1000m準決勝で、日本の寺尾悟選手が疑わしい判定で失格を取られたことがきっかけの1つとも言われています。

 

失格

接触により他選手を転倒させたり、不利益を与えたりした場合に失格となる場合があります。
追い抜きの際に起こることがほとんどです。基本的に前にいる方の選手に優先権があるので
前にいる選手が自然に滑るコースに、後ろから来た選手が入ってしまい接触が起きると、
その接触の程度によって、後ろからの選手が失格になることが多いです。

 

具体的には、内側から抜こうとして、抜き切れないままコーナーに突入してしまい、
接触して2人ともバランスを崩したために、抜こうとした側が失格になるケースは非常によく見られます。

 

しかし逆に、前にいた選手が、自分を抜こうとする選手をブロックしようとするあまり、
既に横に入られた後、強引に進路を変えて(=不自然な動きで)ぶつかっていってしまい、
失格を取られるケースなども多いです。

 

ちなみに、あくまで妨害行為の大きさが問題であり、
妨害された方の被害の大きさはそこまで判定に関係ないと思います。
(でないとオーバーリアクションしたもん勝ちになってしまうので。)
よって、誰も転倒も減速もしていない場面でも失格が発生するケースは多々あります。

 

失格になると、そのレースのタイム・順位は無効で結果表には"PEN"(または"DQ"や"DSQ")と表示されます。
もちろん何位でゴールしていようと次ラウンドには進めませんが、その種目の総合順位はつきます。
(ただし種目自体からも失格扱いとなり、総合順位もつかない大会も過去にはありました。例:トリノ五輪)

 

それから、同じ選手が同じレースでフライングを2回した場合も失格になります。
また、そのレース全体で合計3回目のフライングをした選手は、たとえ個人的には1回目でも失格になります。

救済措置

他選手の妨害を受けたり、転倒に巻き込まれたりした影響で次ラウンドに進出できない順位になった場合
救済措置(アドバンス)という裁定を受ける場合があります。
その場合、結果表にはA(またはAdv)と表示され、次ラウンドに進出します。
(ちなみに、正規の形で次ラウンドに進出した場合はQと表示されます。)

 

例えば、4人中上位2人が次に進出するレースで、先頭からAさん、Bさん、Cさん、Dさんの順でラスト1周。
最後にCさんががBさんを抜こうとするも、抜ききれずに進路妨害をしてしまい、Bさんを転倒させてしまったとします。
結局、Aさん、Cさん、Dさんの順でフィニッシュし、転倒から起き上がったBさんも大きく遅れてフィニッシュ。

 

この場合、Aさんが1位通過、Cさんは失格、Dさんは繰り上がりで、タナボタですが2位通過となります。
そして、Bさんには救済措置が適用されて、Bさんも加えた3人が次のラウンドへ進出することになります。

 

ただし、妨害を受けたら必ず救済されるわけではありません。
基本的には、「妨害を受けていなかったら次に進出していたのか?」が基準です。
といっても、そんなことは誰にもわかりませんから、実際は
妨害された時点で次ラウンド進出圏内にいたかどうかが重要な基準になっているように思います。

 

それから、決勝に救済措置はありません。いくら金メダル目前で押されて倒されようと何もありません。
まあ、決勝レースが4人なら、押した人が失格だから、転倒しても銅メダルは辛うじてもらえますけどね。
こればっかりは仕方のないところです。そもそも昔は一切救済措置がなかったですから。

再スタート

スタートから最初のコーナー中央までに、接触による転倒が起こった場合、
審判が再スタートを行うことがあります。スタート直後のポジション取りが激しい500mおよびリレーで時々起ります。
ちなみに、スタートした直後につまづいてコケる選手もたまにいますが、接触がなければ続行となりますw

 

最後に:ぶっちゃけた話

この競技はどうもネットでの評判が芳しくないですね。
いや、「面白い」って言っている人もたくさんいますし
特に毎回オリンピックの後半になってくると、そう言う人が増えるんですけどね。

 

この競技は、これまでさんざん述べてきたように「魅力」に溢れていますが
一方で、運で決着することもあるなど「ツッコミどころ」にも溢れていることは否定できないと思います。
なのでまあ、「面白い」という先入観で見ればそう見えるし、「つまらない」という先入観で見ればそう見える。
そんな競技なんですよ、おそらく。もちろん合う・合わないもあるでしょうけどね。

 

それでね。この競技、韓国や中国が強い(特にかつては韓国がチートレベルだった)のですが
ネット上ではこういった国を嫌っている方が一定数いますよね。
その繋がりで、この競技も最初から悪い先入観で見てしまっている人がいるように思えて仕方がないですね。

 

特に、特定の国が強いことに対して「セコいから・図々しい性格だから」こんな競技に向いているんだ
とか言う人が驚くほどいるのですが、正直言ってこれは、
「日本が負けるのは性格が良いからだ」と負けることを正当化する感じで
同じ日本人として見ても、非常にみっともないのでやめてほしいです。
(というか、昔は日本のお家芸と言われた競技なんですけどねw今でも世界全体の中では強いほうだし。)

 

ちなみに私は別に、個々人の国の好き嫌いについては、口を出す気は一切ありません。
ショートトラックの強豪国の中に、特に好きな国があるわけでもありません。
そういった話とは切り離して、この競技に関しては
まずは「面白い」という期待を思って見てほしいなと。それだけは切に願うのです。