植田徹の世界ラリー選手権に関する知識
世界ラリー選手権とは
世界ラリー選手権 (World Rally Championship, 通称:WRC) は、世界各国で行われるラリーの世界選手権である。 1973年、それまで世界各地で単独に開催されていたラリーを組織化し、世界選手権としてスタートした。
概要
市販車をベースに改造した競技用車両を用い、一般公道を閉鎖してつくられたコース、一般公道におけるリエゾン区間を走り、合計タイムを競う。
競技車両にはドライバー(運転者)とコ・ドライバー(ナビゲーター)の2名が乗車し、ドライバーはコ・ドライバーが読み上げるペースノート(道路のカーブ状況などを記載したノート)に従い運転操作を行う。
競技
競技は通常金曜日から日曜日までの3日間で行われ、初日をDAY 1、2日目をDAY 2、最終日をDAY 3と呼ぶ。2007年シーズンまでは「DAY」という表現を用いず「LEG」と表記していた。また、その週の水曜日からレッキと呼ばれる「下見走行」を行う。コースは実際に競技で使われるコースを走れるが、使用する車は競技車両ではなく、一般車両を使用する。このレッキでドライバーとコ・ドライバーはコース状況を把握し、ペースノートの製作を行う。水曜日の夕方から翌日木曜日にかけてはシェイクダウンと呼ばれる車両の最終チェックを行う。この時はシェイクダウン専用のコースを使い、実際に競技車両を使っての最終チェックを行う。その後車検を受け、規定外のパーツの装着がないか確認が取れると、競技車両はパルクフェルメと呼ばれる車両保管所に置かれる。パルクフェルメに保管された車両はドライバーを含め全ての関係者は競技開始まで触れることが出来ない。
1つのDAYをさらに細かく分けるとSS(スペシャルステージ)とTC(タイムコントロール)、そしてロードセクション(もしくはリエゾン)に分けられ、SS区間でのタイム合計が一番速かったドライバーが勝者となる。競技はアイテナリーと呼ばれるタイムスケジュール表に沿って進められ、スタート間隔は2分置きである。このためサーキットレースとは異なり、トラブルで減速・停車した場合を除きコース上での抜きつ抜かれつはほぼ生じない。
スタートした車両はまずロードセクションを通りTCへ向かう。ロードセクションは閉鎖されていない一般公道なので、現地の交通法規に則り一般車両に混じって走行する。ロードセクションを走行することも競技の一部であり、主催者から示されるコマ図に従って走行するという、ラリー競技当初の姿が現在も残っている。TCに入る時間は各々指定される。交通渋滞などで遅くなった、もしくは早く着いてしまったなどのロードセクションで生じた誤差を正すのが目的で、遅くても早くてもペナルティ(タイム加算)が発生する。
ちなみに、優勝を争うような選手でもコマ図を読み違え、道に迷いガス欠で棄権するということが起こる。スピード違反や一時停止義務違反で現地の警察に検挙されることもあり、免許停止などの処分を受けた場合はドライバーが車を運転できなくなってしまい、代わりにコ・ドライバーがハンドルを握ることもある[1]。また各国の法律(日本の場合は道路運送車両法)に定められた保安基準を満たしていない場合は公道走行を止められることがあり、特にSS区間でのトラブルで車が破損した場合などに問題となる。
SSのスタート地点はTC内に設置されている。一般公道を閉鎖して作られたタイムトライアル区間で、メディア中継が行われるのもこの区間であることが多い。この区間内は速ければ速いほどよく、各ドライバーは持てる力の全てを出し切って挑む。1つのSSの距離はSSによりばらつきがあるが(短いSSだと2km前後、長いと40kmを越えるSSも存在する)SS数は各イベントでおよそ20前後で、イベント毎のSS区間の合計距離は400km程度となる。ただしロードセクションなどの距離はこれ以上あるため、全ての競技の総走行距離はこの限りではない。
また、一般公道を閉鎖して使用するSSとは異なり、人工的に作られたサーキットコースのような特設会場で行われるスーパースペシャルステージ(スーパーSS、SSS)も存在する。通常のSSでは一般公道での競技ゆえに観客は競技車両が走り去る一瞬しか観戦することができないが、スーパーSSでは観客席を設けて同じコースを2台の競技車両が同時にスタートしタイムを争う様子を観戦することができる。2台が走るコースは間を仕切られているため交わることが無く、厳密には同じコースではないがタイム差はほとんど発生しない。
各DAYの最後のSSが終わったらまたTCに入り、ロードセクションを通り、サービスパークと呼ばれる本部に戻る。サービスパークでは競技中の整備や給油などが許されるが、作業の制限時間がある。制限時間をオーバーしたときや、SSを欠場してマシンの修復を行う場合(スーパーラリー制度の適用)もペナルティとしてタイムが加算される。その後車両は再びパルクフェルメに保管され、次のDAYの競技開始を待つ。またリモートサービスというサービスパーク以外での簡単な整備ができる場所を設けたイベントもある。ちなみに以前はサービスパークという制度は存在せず、競技中はほぼいつでもどこでも整備が可能であった。
競技が行われる環境
競技開催地ごとに使用される道路の環境は千差万別であり、ターマック(舗装路)・グラベル(未舗装路)・スノー(積雪路)・アイス(凍結路)など、ヨーロッパを中心としたあらゆる路面状況で競技が行われる。それぞれの環境や路面にあった仕様にマシンが改造される点も見所の1つである。例えばターマックでは地上高を低くし、ホイールも大径に、タイヤもスリックに近い状態になる(1995年まではスリックタイヤの使用は認められていた。)。対してグラベルでは、地上高を高くし、ホイールは小径、タイヤも厚く、ゴツゴツとしたラジアルタイヤ(少しのパンクに対応出来るよう2007年まではムースと呼ばれる発泡剤をタイヤの中にいれていた。)を装着するといった点が見受けられる。また、雪、アイスバーンではスタッドを使用したタイヤ(スパイクタイヤ)を使用している。また夜間に行われるラリーでは補助灯を装着する他、アフリカのケニアで行われていたサファリラリーでは過酷な環境下に適応できる特殊な装備を施した車両で競技を行っていた。また2008年からはムース仕様のタイヤは禁止されるなどルール改定での変化も多い。
選手権のポイントシステム
最終SS終了後には表彰式が行われ、順位に応じてポイント(2010年システムでは1位から10位まで順に25-18-15-12-10-8-6-4-2-1)が与えられる。シーズンを通じて最も多くのポイントを獲得した者がドライバーズチャンピオンとなる。 JWRC、PWRCでは、クラス毎にポイントが設けられクラス毎の年間チャンピオンを決定するが、トップクラスのドライバーは全クラスの総合順位からポイントが決定する。つまりトップクラスのカテゴリーで10位になっても、その上にJWRCやPWRCのドライバーが入ってきた場合ポイントは0となる。
マニュファクチャラー(製造者、ワークスとも呼ばれる)としてエントリーできるのは自動車メーカーごとに1チームとなっており、現在では各イベント毎に、マニュファクチャラーズ選手権対象として1チームから2台までのエントリーが認められている。マニュファクチャラーズタイトルは最も多くのポイントを獲得したメーカーに対して与えられる。
F1のコンストラクターズタイトルがシャシーの製造者に対して与えられるのに対し、WRCのマニュファクチャラーズタイトルはメーカー自身に対して与えられるため、タイトル獲得時の宣伝効果を期待して各メーカーとも力を入れている。
なお、各チームのコストダウンの一環として、2013年サポートカテゴリー再編と伴に、下記のルールが適用される:
WRC:ワークスチームとして参戦のチームは、全13戦で2台以上のエントリーしなくてはならない、ポイントは全戦有効。その以外のチームは、7戦以上(うちヨーロッパ以外1戦以上)に2台までの体制での参戦が義務づけられている。ポイントは上位7戦分のポイントが有効となる。
WRC-2/プロダクションカーカップ:7戦以上の参戦が義務づけられている。ポイントは、最初に参加した7戦(全13戦も選択可能)のうち、上位6戦分のポイントが有効となる。また、プロダクションカーカップは最も多くのポイントを獲得した、N4規定が適用される車両が参戦したチームに対して与えられる(2010年~2012年までのプロダクションカー世界ラリー選手権と相当)。
WRC-3:6戦以上の参戦が義務づけられている。ポイントは、最初に参加した6戦のうち、上位5戦分のポイントが有効となる。
JWRC:指定した6戦の合計ポイントで競います、ポイントは全戦有効。
また、2012年までのサポートカテゴリーと違い、WRC全13戦はWRC-2やWRC-3が併設される。
競技の主な特徴
競技車両の中身はほぼ別物となっているが、ワークスチームが使う競技車両は市販車をベースに作られている。したがって、車両はスポンサーの広告などで派手になってはいるが外観はベースモデルと大差はない。
また、多くの自動車競技が1人乗りなのに対し、WRCはドライバーとドライバーをサポートするコ・ドライバーの2人乗りを原則としている。コ・ドライバーが読み上げるペースノートの指示に従って走行するのがWRCの特徴だが、コ・ドライバーがペースノートの内容を誤って読み上げたことから、走行にミスが生じる事もある。
入門は比較的簡単に取得できる競技ライセンス=国際C級レース除外を取得し、規定に合致した車両を用意し、抽選に通れば実際にプライベーターとして出場することもできる。もちろんこのときはワークスの車両と同じコースを走り、ワークスの車両とタイムを争う。時にはプライベーターがワークスドライバー達のひしめくランキングの上位に食い込む、ということもある。2004年に日本で初めて行われたラリージャパンには、全国から多数のプライベーターが参戦した。尚、コドライバーもドライバーと同等の競技ライセンスが必要である。
サーキットで行われる競技と違い設営された観客席が少ないWRCでは、観戦者はコースを間近で見る事ができ、熱心なファンは足繁く絶好の観戦ポイントに出向く。しかし、車両がコースオフし客席に飛び込む恐れもあるために観戦には危険も伴い、実際過去に死亡・負傷事故が起こっている。
観客たちが大きくコースオフした車両をコースに戻したりすることも多々あるが、本来ドライバー、コ・ドライバー以外の人間が競技車両に触れることはルール違反なため、ドライバーはペナルティを受けてしまうことが多い。例として2004年のメキシコ・ラリーにおいて第一レグの最終SS終了後、ロードセクションのゴール間際でスバルのペター・ソルベルグのインプレッサがエンストした際、周りにいたメディアや観客がペターと一緒に車を押してしまい、これを受けペターはペナルティを課せられた。
逆に観客が競技の妨害を行うこともあり、雪道のラリーでは観客がひいきのチーム以外の競技車両に雪を投げつける事もある。運営側が観客をコントロールできないと判断されるとSSそのものがキャンセルとなり、実際にラリー・ポルトガルがこの理由で一時WRCから外された。
広大なステージでは観客がプロに代わって「カメラマン」として活躍することがある。2005年のキプロス・ラリーでは、フランソワ・デュバルがコースオフ・車両炎上のシーンにおいて、観客が撮影した映像が国際映像として放映された。
他の競技同様チームオーダー的行為は禁止されているが、半ば黙認されている。近年では2008年シーズンのグラベルラリーにおけるフォードとシトロエンのスタート順をめぐる駆け引きがたびたび物議を醸すこととなった。
イベント概要
各国を転戦するWRCだが、各々の国で行われる競技をイベントと呼ぶ。1990年代中頃まで、年間の開催イベント数は8~10戦程度であったが、イベント数の増加を望むFIAの意向により、各ラリーの開催日数・走行距離の短縮やサービス(車両整備)回数の制限等、イベントの簡素化が進められ、それに対応するように開催イベント数が増やされてきた。
2004年シーズンからは全16戦となっているが、F1のオフシーズン(ストーブリーグ)が4~5ヶ月近く(例えば2006年最終戦は10月21日のブラジルグランプリで、2007年の開幕戦であるオーストラリアグランプリは3月18日と5ヶ月ある)あるのに対し、WRCは1ヶ月前後しかない(例えば2006年最終戦のグレートブリテンラリーが12月3日に最終日を迎えたのに対し、2007年開幕戦であるモンテカルロ・ラリーは1月19日と1ヶ月強程度しかオフシーズンがない)などから、ドライバーからは年間イベント数の縮小を求めるなど、不満の声が出ている。(ただシーズンオフが短い分、6月上旬から7月終わりか8月始めまで約2ヶ月間のインターバル(休息期間)を設けている。)
そのため2009年シーズンより、年間12戦のローテーション制を取る事となり、2009年、2010年の2年間で合計24のイベントが開催される事となった。これにより、2009年は伝統のモンテカルロからの開催とならず、またラリージャパンも2010年に回っている。
映画の題材となるなど、日本でよく知られているサファリラリー(ケニア)は、イベント自体の特殊性や開催地の遠さが敬遠され、2002年の開催を最後にWRCからは外されている。
クラス
WRCは、換算排気量とグループによってクラスに別れており、用意されている賞典は以下の5つ。
頂点に位置するWRC以外、JWRC、PWRCなどはWRCと併設されたイベントであるが、2012年まで、WRCのみしか行われないイベント、一部サポートカテゴリーを行われないイベント、全カテゴリーを同時開催するイベントが存在する。2013年から、コスト削減の一部として、サポートカテゴリーの再編も行われた。JWRCを除む、サポートカテゴリーは全てイベントの参加が可能になっている。
世界ラリー選手権 ( WRC )
広義の意味でのWRCの頂点に位置するクラス。使用車両であるWRカーはベース車両からの大幅な変更が認められている。エンジンにはグループB時代のハイパワー競争とそれに伴う悲劇(後述)を教訓とし、吸入口径制限(リストリクターを装着)により最大出力は抑えられて(公称300PS)いるが、最大トルクでは技術の進歩によりグループB時代を超えてしまっている。(60~70kgf・mといわれる) また、先にF1に採用されたパドルシフトも現在のWRカーでは標準的な装備となっており、その結果市販の一般車にも採用される車種が増えている。
2010年まで、グループA・クラス8規定が適用されたが、2011年から新規定が適用される。スーパー2000規定を基に、エンジン排気量を1,600ccとし、ターボチャージャーを取り付ける。また車幅も2009年規定の1,800mmから1,820mmに拡大される。しかし、この変更点はスーパー2000にも適用される為、差別化の為に改造範囲が拡大される事になっている。外観ではフロントバンパー等のエアロパーツの変更が可能になっている。 2011年の参戦を正式に表明しているメーカーはシトロエンとフォードの2社のみだが、BMWとかつてスバルのWRカーを開発していたプロドライブが組み、ミニ・カントリーマンによる2011年のスポット参戦と2012年からのワークス参戦を発表した。
スーパー2000世界ラリー選手権 (SWRC)
2010年シーズンより設立されたSWRCは自然吸気2.0リッターNAエンジンを搭載したスーパー2000がメインとなる。初年度は11名のドライバーが出場しJWRC経験者のマルティン・プロコップ、ミカル・コシューツコ、パトリック・サンデル、パー・ガンナー・アンダーソンやPWRC経験者のナサール・アルアティヤ、エイビンド・ブリニルドセン、ベルナルド・スーザ、ヤリ・ケトマー、そしてWRCワークス経験者のヤンネ・トゥオヒノ、チェビー・ポンスといった豪華な面々が出場し初年度はチェビー・ポンスが初代チャンピオンに輝いた。
2013年シーズンから、SWRC規定を基に、2012年までの規定が適用された4輪駆動車両(スーパー2000、グループR規定のR4・R5、グループN規定のN4)で戦う、また、N4規定車種のみで対象された「プロダクションカーカップ」が設立された。
プロダクションカー世界ラリー選手権 (PWRC)
市販車をベースとしているという点では上記2クラスと同様であるが、より改造範囲の狭いグループNという規定車両で戦う。ベース車両となる市販車の性能そのものの高さが要求され、現在はスバル・インプレッサと三菱・ランサーエボリューションの2台を使用するドライバーがほとんどであり、互角の戦いを展開している。なお、日本人ドライバーである新井敏弘、奴田原文雄、鎌田卓麻はこのクラスに参戦している。2005年頃までは「PCWRC」と表記されていたが、現在は「PWRC」と表記するのが通例である。
2013年シーズンから、R4、R5クラス以外のグループR(全て2輪駆動)という規定車両で戦う。
世界ジュニアラリー選手権 (JWRC)/WRC アカデミー
グループA・クラス6、スーパー1600と呼ばれる1,600cc自然吸気エンジンのFF車をベースに車幅拡大などが施されている、いわば「WRCの下位クラス」。このクラスには出場制限として年齢の上限が存在し、28歳以上のドライバーは出場できない。そのためドライバーの平均年齢は低く「WRCへの登竜門」的な存在となっている。なお、2007年はヨーロッパ圏内のみでの開催となり「W」が取れて「JRC」となったが、2008年はメキシコでの開催が確定しており1年ぶりに「世界選手権」に戻った。若いドライバーが多いためイベント毎の完走率は低いが、セバスチャン・ローブやフランソワ・デュバル、ダニエル・ソルド、パー・ガンナー・アンダーソン、セバスチャン・オジェなど、ここから上位クラスであるWRCに進出し活躍したドライバーも少なくない(とは言えWRカーの出場台数が絶対的に少ないため非常に狭き門ではある。そのため近年ではPWRCに進出するドライバーもいる)。
2011年シーズンよりルールが大幅な変更を行った。Mスポーツがプリペアするフォード・フィエスタ R2のワンメイクシリーズでの開催となる。なお、2011~2012年間に「WRC アカデミー」という名前だったが、2013年シーズンはサポートカテゴリー再編と伴に2年ぶりに「JWRC」に戻った。
ゼッケンナンバーは31番~60番までで、うち59・60番は地元枠として、地元のASN(日本ならJAF)が選出したドライバーが走る事が出来る。 2009年の第2~5戦は、同じ番号で走るプロダクションカー世界ラリー選手権と併催の為、ゼッケン・ナンバーが+100になる事がある。