巡洋戦艦

巡洋戦艦の発祥とそのコンセプト

巡洋戦艦発祥の元を辿れば日本海海戦に辿り着く。イギリスはその海戦で2つの戦訓を得た。１つが「長射程と射撃管制の統一化による斉射・誤差修正能力の有効性」であり、イギリスの歩く英国面フィッシャー提督がこれを元に建造したのがドレッドノートである。
もう１つの戦訓である「低速高火力の戦艦部隊と高機動の巡洋艦部隊の別編成」を元に建造されたのが世界初の巡洋戦艦がインヴィンシブルである。英巡洋戦艦の任務はシーレーン防衛や偵察任務になど多岐にわたるが、最大の特徴は戦艦レベルの火力と優速を活かした敵巡洋艦の殲滅である。巡洋艦部隊の主力となるべくして作られた巡洋戦艦は、敵の主力たる戦艦はおろか巡洋戦艦同士の戦闘さえ想定していない。つまり雑魚専である。
一方イギリスの巡洋戦艦にビビったドイツも巡洋戦艦の建造に着手(ドイツには巡洋戦艦という概念は存在しないので正しくは大型巡洋艦なのだが)、英巡洋戦艦とコンセプトが若干異なり、火力は戦艦よりワンランク下なものの英巡洋戦艦との直接戦闘を想定し、戦艦に次ぐ装甲を持っていた。

露呈する巡洋戦艦の弱点

時は第一次世界大戦。ドッガー・バンク海戦にて初の巡洋戦艦同士の戦闘が起きた。ブリテン島を砲撃すべく来襲した鈍足な装甲巡洋艦ブリュッヒャーを抱える独巡洋艦隊を英国艦隊が待ち伏せた。英国艦隊は艦隊速度の優位をもって追撃し、ブリュッヒャーは撃沈、敵旗艦である巡洋戦艦ザイドリッツも被弾し、砲塔貫通薬包引火により火災に包まれ大破。英国巡洋戦艦は巡洋艦駆逐兵器に恥じぬ戦果を挙げた。
しかしながらドッガー・バンク戦で露呈した巡洋戦艦の脆弱性はドイツ側にのみ認知される事になる。ドイツ軍は生還したザイドリッツの被害状況を徹底的に調べ上げ、水平防御の重要性を認識する。結果として現役、建造中問わず全ての戦艦と巡洋戦艦の装甲強化、特に火薬庫は重点的に行われ、主砲の最大仰角を上げ射程を向上させる改修を施された。

決定的となる英国巡洋戦艦の脆弱性

第一次世界大戦における最大の海戦、ユトランド沖海戦では独巡洋戦艦艦隊がイギリスの巡洋戦艦と最新の高速戦艦から構成される艦隊と戦闘を行った。独巡洋戦艦5隻に対し、英国艦隊は巡洋戦艦6隻に戦艦4隻、戦力差は明らかであったが設計思想の違いが命運を分けた。
ドッガー・バンク海戦の戦訓を活かした独巡洋戦艦は高い耐久力を発揮し、旗艦リュッツオウが脱落、終結間際に自沈したものの残り4隻は戦闘能力を失いつつも生還した。
これに対し英巡洋戦艦は僅か40分の砲戦で2隻が装甲貫通、火薬庫に誘爆し轟沈。旗艦ライオンは砲塔貫通するも弾薬庫に注水した事で辛くも難を逃れたが、3時間後には巡洋戦艦の代名詞たるインヴィンシブルも沈んだ。イギリス水兵は速射性を優先して防火扉を開いたまま火薬を運び、それを砲塔近くに置くという行為を習慣的に行なっており、それが被害をさらに拡大させることになった。このユトランド沖海戦でイギリス式設計の巡洋戦艦は防御力に重大な欠点があることが明らかとなってしまった。

沈みゆく巡洋戦艦インヴィンシブル。独巡洋戦艦デアフリンガーの主砲弾が砲塔を貫通・誘爆し船体が真っ二つに折れ轟沈した。

時代は巡洋戦艦から高速戦艦へ

大戦が終結しワシントン海軍軍縮条約が結ばれると、多くの建造中の巡洋戦艦は空母に改装、もしくは廃艦となる。巡洋戦艦（バトル・クルーザー）に分類される艦種は急激に数を減らしていき、第二次世界大戦時にはついに保有国はイギリスのみとなった。
ユトランド沖海戦の戦訓や技術向上により、多くの新造戦艦は巡洋戦艦に匹敵する速力を持つようになり、ここに巡洋戦艦の時代は終わりを迎え、一部の大型巡洋艦にのみその面影を残すのみとなった。

最終時の巡洋戦艦レナウンの勇姿。熾烈な世界大戦を生き残った巡洋戦艦は、武勲と武運に恵まれた本艦ただ一隻のみであった。

意外な転職先

ワシントン海軍軍縮条約以後、一部の巡洋戦艦は意外な転職先を見つけた。それは航空母艦への改装である。条約で空母への改装が認められていたのもあるが、巡洋戦艦の船体は空母にマッチしたものであった。巡洋戦艦として活躍する事は叶わなかったものの新時代の兵器として、世界大戦を戦ったのだ。