杏ぐん四丁目だよ〜

Last-modified: 2017-08-17 (木) 16:49:07

「ただいま」
「……おかえりなさい」
仕事から帰ってくると、いつものように小さいお姫様が出迎えてくれた。
大分慣れたように見えるけど、まだちょっと照れがあるみたい。
とてとて歩いてきて、私のかばんを持ってくれる。
「お疲れ様、先生」
そう、私は小学校の先生で。
「ありがとね、千景さん」
彼女は私の教え子だ。

上着を脱ぎながらリビングに向かうと、何やらいい匂いが漂ってきた。まさか……
「もしかして、晩御飯作ってくれたの?」
「うん。前に教えてもらったものを、作ってみたの……うまく出来ているか、わからないけど……」
「わああ……!」
私は思わず俯いてはにかんでいる千景さんを抱き寄せる。
さらさらの黒髪が手に心地いい。ぎゅー。なでなで。
「すごいよ千景さん!ありがとう!でも、やけどとか怪我とかしなかった?」
胸に寄せていた千景さんを開放して向かい合う。
心なしか苦しそうだ。ちょっとぎゅーってしすぎたかな……
「だ、大丈夫……苦しかった……」
しすぎちゃったみたい。
「ご、ごめんね、あまりに嬉しくて……じゃあ、一緒に食べよっか!」
「……うん!」
その笑顔がとってもかわいくてまた抱きしめた。

「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした……」
二人で手を合わせて一礼する。満足。
「おいしかったよ千景さん!とても一人で初めてーとは思えないくらい!」
そう、とってもおいしかった。私が小学生のときってこんなに料理できたっけ?ってくらい。
とても料理と称してカップ麺を差し出した頃があったとは思えない。
……そう、あんな頃があったなんて……
「ありがとう、先生……うまく出来ていたみたいでよかったわ……」
恥ずかしそうに、でもちょっと誇らしげに笑う。
ああ、もう!かわいいなぁ!
「今日は一緒にお風呂入りましょう!」
「……えっ!?」
「晩御飯のお礼です!一杯洗ってあげるからね!」
得してるのは私だけとか言わない。

お風呂で目一杯洗いっこして、いい時間にもなったのでベッドに入る。
元々一人暮らしだったのでシングルサイズだけど、千景さんと私なら問題なく入ることが出来る。
ちょっと密着しないとだけどね。
「今日はどうだった?学校、楽しかった?」
「う、うん。あのね、高嶋さんが……」
少し饒舌になって今日あったことを報告してくれる。
高嶋さんとおしゃべりしたこと、若葉さんと早食い対決をして惨敗したこと、
結城さんと東郷さんが何やら怪しい話をしていたこと、等々……
「……すぅ」
沢山話して疲れたのか、かわいい寝息を立てて眠ってしまった。私のせいで寝つきが良くなっているのならうれしいな。
「……おやすみ、千景さん」
この寝顔を守るためなら何だってやれる気がする。……ううん、やれる。
「いよじま……先生……だい、す、き……」
……やれる!!!1!!11!