東鷲 わっしー布団だよ〜

Last-modified: 2017-11-26 (日) 17:45:29

鷲尾須美は憤っていた。
最近、勇者部内でわっしー布団なるものが流行っているらしい。
わっしーというのは自分のあだ名だ。鷲尾だから、わっしー。
少し安直な気もするけれどこれはこれで気に入っている、友人から貰った大切なあだ名だ。
けれどここで言うわっしーとは自分の事ではない。いや…正確には自分の事でもあるのだけれど…

今私達は神樹様の危機を救う為、神樹様の内包世界へと招かれている。
そこには2年後の私、東郷美森さんも招かれており、私はそこで未来の私と邂逅するという稀有な体験をした。
理由を尋ねても教えて貰うことは出来なかったけれど、どういう訳か鷲尾の家の養子となっていたはずの私は
東郷の家へ戻り生来の名前である東郷美森を名乗っている。
その未来の私、東郷さんが添い寝をすることをどうやらわっしー布団と呼ぶらしい…
それなら東郷布団か美森布団じゃないのかと名付け親たる園子さん…2年後のそのっちに質問した事があるけれど
わっしーはいつまで経ってもわっしーなのさ~という、
分かるような分からないような答えしか返ってこなかったので訂正は半ば諦めてしまった。

ともかく!未来の自分が自分のあずかり知らぬ所で誰彼構わず、
求められれば添い寝をしているという状況が須美には耐え難かった。
何かとても軽薄な気がして、看過する事が出来なかったのだ。

 

「そんなに怒ることかねぇ?、別にいいんでない?須美が添い寝させられる訳じゃないんだし」

「そうそう、それに変なことをしている訳じゃないんだし、東郷さんを許してあげて~っ」

「十二分に変な事です!!誰彼構わず…その…ねっ、寝るだなんて!!」

とにかく元凶を正さねばと東郷さんを縄でふん縛っていた所に、銀と友奈さんが止めるよう私に告げてくる。
それもそうだろう、この2人は件のわっしー布団のヘビーユーザーだ。
貴重な癒しグッズを失うまいと私への説得を試みてはいるが、そんなものでは私の決意は揺らがなかった。
東郷さんはというと、痛いわ須美ちゃんとしなを作ってよよよと泣き真似をしている。
自分の抗議にもまるで動じた様子はない…その態度が余計に須美の心に火を点けている事すら彼女には想定内なようで、
底の知れなさに本当に自分と同一人物なのかと疑いたくなってくる。

とにかくこんな事は終わりにしてもらう、須美が言葉の拳を振り下ろそうとした時。
間延びした声が私を制止し、提案を投げかけてきた。

「まぁまぁリトルわっしー、物は試しというじゃない?一度わっしー布団を体験してみればいいんだよ~。
そうすればきっと使用者達の声の意味が理解できるはずさ~」

「…私が?」

思いもしなかった提案に戸惑う私をよそに、どこからともなく布団を取り出して寝床を用意する園子さん。
突拍子の無さは成る程そのっちそのままだわ…と呆れてしまう。

「いえ、私は別に…ってなにしてるんですか東郷さん!?」

「なにって…添い寝の準備を」

いつの間にやら自力で縄を解いた東郷さんが、いそいそと布団に入り私に手招きしている。
あんなにきつく縛ったのに…私が悔しさを顔に滲ませていると、まだまだ修行が足りないわと不敵な笑みを返してくる東郷さん。
本当になんなのだこの人は…抗議する気力も失せて私が立ち尽くしていると、
今まで部室にいた人達がいつの間にか退出しており、それじゃあごゆっくり~という言葉だけが2人きりの部室に残された。

 

「それじゃあ須美ちゃん、改めて…どうぞ?」

両手を広げて来い来いとアピールしてくる東郷さん。なんでこんなことに…私の頭は疑問でいっぱいだったけれど。
暫く逡巡した後、私は大人しく従うことにした。
これ以上問答を続けても敵わない気がしたし、そのっち…園子さんの言う事なら試してみようかな…と、
そんな気分になったからだ。

ぎこちない動きで東郷さんの前に座り、正面から軽く抱きつく。
すると私の背にも東郷さんの腕が回り、ぎゅっと抱擁される体勢になった。
私の眼前に、東郷さんの胸がくるような形になる。自分も同世代の中ではかなり大きい方という自覚はあったけれど、"これ"はそれ以上の威容を放っていた。

そのまま、優しく抱きとめられて背中をポンポンと軽く叩かれる。まるで赤ん坊をあやすような仕草に、
私はまるで抵抗する事ができない。
東郷さんの胸の柔らかな感触と、吐息を感じるくらいの距離まで身を寄せ合う行為に、
私はすっかり溶かされてしまっていた。
それからは頭を撫でられたり、髪を梳かれたり、身体を撫でられたり。
東郷さんの手が与えてくる刺激にどんどん鼓動が早くなるのとは逆に、私の抗う心は影を潜めていってしまった。

そうして東郷さんのマッサージに暫く身を任せた後。
とろとろに惚けてしまった私の顔を見やり、満足そうな笑みを浮かべた東郷さんは私を軽く布団へ押し倒して、
更に己の魅力で籠絡せんと抱きしめる力を強くしてきた。

「やっ…ぁ」

私の口から甘い吐息のような、言葉にならない言葉が漏れる。その声の蕩け具合に、自分自身が驚いてしまう。

「大丈夫…ここには私と須美ちゃんしか居ないから。もっと力を抜いて…身を任せて…」

「あっ……………はぃ…」

それからの事は、あまり覚えていない。ただ、ふわふわとした感触と、頑張ってるね、偉いね、と
褒めてくれた東郷さんの優しい声だけがハッキリと頭の中に焼き付いていた。

 

再び私が意識を取り戻した頃にはすっかり辺りの日も落ちており、
ボンヤリとした思考で眠ってしまった事だけどうにか認識した私は
同じタイミングで起きたらしい東郷さんの方へ、おずおずと向き直った。

ひとつ伸びをして身体をほぐした後、どうだった?と尋ねてくる東郷さん。
告げるのは顔から火が出るくらい恥ずかしかったけれど、一度知ってしまったらもう戻る事など出来ない。

私の中で答えはもう決まっていた。

「いつかまた…お願いしてもいいですか…?」