書き起こし/徘徊

Last-modified: 2016-06-19 (日) 02:16:01

妹紅ナレ「どこかにあって、どこにもない世界。幻想郷。人と、人ではない者が、不思議だったり、不思議じゃなかったりする日々を送っているヘンなところ」
阿求のお屋敷。阿求と対峙している妹紅。
阿求「妖怪は人間を襲う者たち。恐ろしき、彼ら妖怪の生態をまとめて、幻想郷にいる人たちの役に立てること。それが私達、御阿礼《みあれ》の子に与えられた役目なのです」
妹紅ナレ「こいつの名前は稗田阿求《ひえだのあきゅう》。見た目は幼い少女だが、その頭脳は見た目どおりじゃあない。求聞持《ぐもんじ》っていう、一度見たり聞いたりしたことを決して忘れない、おかしな力を持っている。生まれ変わりを繰り返すことで、様々な知識を人々に伝えているんだそうだ」
妹紅「それってさ、私がこのお屋敷に呼ばれた事となんか関係あんの?」
妹紅ナレ「私は、藤原妹紅《ふじわらのもこう》。私も阿求と同じく見た目と中身が同じじゃあない。なんせ私は決して死ぬことがない。幻想郷にいるどんな長生きのジーさんよりも、もっと、ずっと、ずっーと長生きをしている」
阿求「妹紅さんへの用件は、他でもありません。このたびは妹紅さんに私の護衛をお願いしたいのです」
妹紅「護衛を?私が?おまえの?」
阿求「(妹紅の質問に答えるにあたり、一人ごちるように)妖怪の知識をまとめた書『求聞史紀《ぐもんしき》』。それを書くにあたって、彼ら妖怪の生活を実際にこの目で見ておきたいんです。(切り替えて妹紅に)これまでは慧音に頼んでいたのですが、あの子はあの子でなにかと忙しいので・・・あんまり頼るのも気が引けちゃうんですよ」
妹紅「ううーん。ま、たしかに?私は慧音と違って暇人だけどさ」
阿求「あ、いえ、そういうことを言いたいんじゃないんですよ?妹紅さんならお強いですし、なにより慧音の推薦ですから」
妹紅「へえ、慧音が」
阿求「はい。案内みたいなことも慣れてるだろうって」
妹紅「それは、まあ、そうだな・・・いいよ、引き受けてやる」
阿求「(うれしそうに)わあ、ありがとうございます。心強いです」
妹紅「いいってことよ。断る理由も特にないし、慧音の推薦じゃあ無下にもできないしね」
阿求「ありがとうございます。では、さっそく出かけましょう」
妹紅「えっ?出かけましょうって。もしかして、いますぐ?」
阿求「もちろんです。時間の大切さは妹紅さんもよく知っているでしょう」
妹紅ナレ「こうして、阿求と幻想郷をうろつきまわることになっってしまった。ま、いいんだけどね。阿求の言う通り、時間は大切だ。永遠を生きる私にとって、暇つぶしは何より大切な事だから」

タイトルコール『もこもこうろうろ』

阿求「さて。幻想郷の妖怪は、昔から住み着いている者がいれば、最近住み着いた者もいます」
妹紅「私はだいぶん古参だな。妖怪じゃなくて人間だけどね」
阿求「(くすっと笑って)そうですね。(さて、それはそうと)いまから行くところには、幻想郷を代表する妖怪が住んでいます。まずは彼女達の日常を見てみることから始めましょう」

平屋の日本家屋で、8畳ほどの居間。居間に面した縁側をはさんで比較的大きな庭。食料場は大根が連吊にしてある。ほか、大小様々は樽がおいてある。樽の中身は野菜のぬか漬、キノコや動物の塩漬け、酒、醤油などである。食料場の片隅にちんまりとした調理場。その表に水を張った桶がおいてあり野菜や衣類を洗う時に使われる。桶から離れに水くみ井戸。食料場から間仕切りをはさんで風呂場。居間をはさんで反対側の位置に板敷きのトイレがある。至る所に無数の猫がいて、思い思いの佇まいである。食料場には魚が干してない。屋敷に住み着いてるたくさんの猫に攫われてしまうからである。

庭先の橙。大量の猫達とドッジボールを遊んでいる。
橙「あはははは!まてまてー!(間)ひゃー!」
その様子を見ている紫。呆れ気味に
紫「元気ねー・・・」
橙「あはははは!」
調理場で家事をしている藍。居間でぐだぐだしてる紫、やおら藍を呼びつける。
紫「らん。らあーん。ちょっとー」
藍「はあーい(水仕事を止めて小走りにやってくる藍)なんですか紫様」
紫「戸棚からおせんべとってきてー。おなか空いちゃった」
藍「橙が真似したらどうするんですか。もうおひるできますから、我慢してください」
紫「ちぇー」
ぱたぱたぱた、厨房に戻っていく藍、調理場につくと
藍「つまみ食いしちゃだめですからねー」
紫「はぁーい。分かってるわよぉ、もう」
遊んでいる橙。ねことにゃーにゃーと遊んでいる
橙「あはははは!いくよーおまえたちー!」
阿求「ここはとある猫屋敷。橙さんと、(橙の)仲間の猫達の住処なのですが・・・橙さんの主《あるじ》たちも住み着いちゃってるようですね」

タイトルコール『橙と藍様のきつねの嫁入り』

やがて、ぽたっ、橙の鼻先にあまつぶが落ちる
橙「うん?」
さあーっ、雨ふってくる
藍「おや?にわか雨かな」
雨だが楽しそうな橙
橙「わー!あめだあめだー!お前たち!お家《うち》に逃げろー!」
猫達と共に縁側になだれ込んでくる。にゃーにゃーにゃーにゃー!
藍「橙、お前はお布団を取り込んでおくれ」
橙「(不満そうに)ええー!?ぬれちゃうよー」
藍「そんなこといたって、猫達にやらせたんじゃ引きずっちゃうじゃないの、お布団」
橙「はあい。わかりましたー・・・」
物干しへ行って布団に手をかける
橙「うー!ぬれるぅ~!」
にゃーにゃーにゃー。縁側座って橙の様子を見ている猫たち。あざ笑うかのように鳴いている
橙「もー、自分たちは楽できるからってー・・・」
ばたばたばた。ぼすっ。ばたばたばた。ぼすっ。橙、物干しと縁側を行ったり来たり
橙「えっほえっほえっほ・・・ふー・・・らんさまー!お布団しまったよー!」
藍「ありがとう。(ひとりごちで)ううーん布団は今日中に乾きそうにもないなぁ」
橙「ええー。お布団なくちゃ眠れないよう」
藍「そうだなぁ・・・ま、なんとかするさ。安心なさい」
橙「はあい」
藍「さあ橙、今度は猫達とお風呂の薪も取り込んでおいで」
橙「はあい」
とととと。裏口に回って薪を拾う
橙「よいしょ。よいしょ・・・このくらいあればいいかなぁ」
雨足がつよくなってくる。にゃあにゃあざあー。薪を小脇に抱えたまま空を見上げる橙。
橙「ねえみてみて。お空が」
雨。ねこたちは橙にならって空をみるもの、小けんかをしているもの、雨を嫌がって渋面のもの、思い思い
橙「雨なのに晴れたまんまだよ。へんなのー」
さあー。しばらく雨音。景色に見入っている橙
藍「では紫さま。行ってまいります」
あくび混じりの紫
紫「はいはい。よろしくね。ふあああああ」
藍「少し手間がかかりそうですので、あのあたりの名主《なぬし》へ挨拶によってまいります」
紫「確認とらなくったっていいわよ、そんなの。その辺はもうあなたに任せるから」
藍「(嬉しそうに)承知しました」
それをみている橙
橙「(猫に)藍さまお出かけだね」
ねこたちにゃーにゃー。橙に同意しているように見える(聞こえる)
橙「らんさまお出かけー!?」
距離感とおい。走りよってくる橙
藍「ああ橙。夕食は冷蔵庫に入れたからね。夕方になったら支度して紫様と食べるんだよ」
橙「らんさまは?」
藍「今日は(夕食に)いないから、先にすませておいで」
橙「はあい」
藍「ラップに紙を貼っているからね。チンするやつ間違えないようにね」
橙「はあい」
藍「紫様の言いつけはよく守るんだよ」
橙「はあい」
らんさま、橙のいい返事を聞いて満足そうに笑うと
藍「うん。行って来ます」
橙「いってらっしゃーい!気をつけてねー!!」
手を振りあう二人。やがて背を向けて歩いてゆく藍
橙「いっちゃった・・・お仕事かな。(猫に)雨なのに大変だね」
橙の真横ににゅるんと紫、唐突に登場。空間の裂け目から上半身だけ出してしゃべる
紫「あれは大事なお仕事よー?」
橙「(びっくりして)うわー!!!!」
紫「やだもう、そんなに驚くことないじゃない。(自分をさして)紫さまよ紫さま」
橙「ゆかりさまそれやめてよー、びっくりするって言ってるじゃない」
不愉快そうな橙。あっけらかんと笑う紫
紫「あはははは」
橙「もう・・・。ねえ、らんさま行っちゃったよ?ゆかりさまはお仕事いいの?」
紫「晴耕雨読《せいこううどく》よ。今日はキツネの嫁入りだしねえ」
橙「えっ・・・?キツネの嫁入り・・・」
紫「そうよ。ほらお空が・・・」
橙「らんさまお嫁にいっちゃったの!?」
紫「え、ええっ?いや、そうじゃなくてね・・・」
橙「そうじゃなくて・・・?」
紫「ええっとねぇ(と、悪戯を考える)んふ・・・橙?お空をご覧なさい。お日様が出てるのに雨が降っているでしょう?」
橙「は、はい・・・私もさっきからおかしいなって・・・雨の時は暗くなるのが当たり前なのに」
紫「どうしてだと思う?」
橙「どうして、ですか?ええっとー・・・」
紫「それはね、藍が雨乞いの生贄になったからよ」
橙「いけにえ・・・ええー!!」
紫「お祈りが通じて雨が降ったからお天気なのに雨が降っているのよ。藍はそのお礼に神様のところにお嫁さんにいったの」
橙「やだー!!らんさまー!!」
飛び出して行ってしまう橙
紫「あっ!ちょっと橙ったら!・・・いっちゃった。やだ冗談なのに(ちょっと考えて)ま、おなかが空けば帰ってくるわね。さてと、いまのうちにおせんべいを・・・」
場転。何者かに手土産を渡して挨拶をしている藍
名主妖怪「やあこれは丁寧に・・・」
藍「ではこれで話はとおりましたね」
名主妖怪「結界のほころびを調べるねえ。なんだか知らんがご苦労なことだ」
藍「そうでもないさ。名誉あるお役目だと考えているよ」
名主妖怪「ま、調査でもなんでも好きにしてくれ」
藍「そうさせていただこう」
名主妖怪「逆に悪いな八雲の。手みやげまでもらってしまって」
藍「主《あるじ》はこのような事にとてもこだわる方でね。気に入ってもらえればいいのだが」
阿求「八雲藍さんはこの場所でなにかの作業をしたいようですね。このあたりを縄張りにしている妖怪にあらかじめ手みやげを渡すことで争いを回避しました。無駄ないざこざを避けるための手練手管《てれんてくだ》に関して、紫さんとその式神の藍さんは、幻想郷でもっとも優れた妖怪と言えるでしょう。参考になりますね」
遠くからつっぱしってくる橙
橙「おまえー!!!」
名主妖怪「ああん?」
藍「ん?」
橙「お前なんか藍様はあげないぞー!!はなれろー!!」
藍「えっ?橙?なんでお前がこんなところに」
橙「待っててらんさま!私がコイツなんかやっつけてやるから!やあああ!」
飛びかかり鋭い爪でひっかく橙
名主妖怪「いて!いててて!!なんだなんだあ!?」
藍「なにをしている!離れなさい橙!」
橙「えいえいえいえい!!」
名主妖怪「いて!いて!いて!いててて!!」
藍「こら橙!(橙をつかんでひきはがす)は、な、れ、な・・・さいっ!」
ぽこん。はがれる橙。
橙「はなして!はなしてよー!」
名主妖怪「ひえー・・・ひどい目にあった。(傷を吹く)ふーふー・・・」
興奮して猫のように威嚇する橙
橙「シャアアー!!」
名主妖怪「ひえええ~」
藍「す、すまない!この猫は私の式なんだ。いま言ってきかせるから」
橙「らんさまあ・・・うううう・・・(涙目になっている橙)」
藍「橙・・・なにがあった?なぜいきなりこんなことを」
橙「だって・・・らんさまが生け贄だって・・・」
藍「いけにえって私がかい?」
橙「お祈りが通じたから神様のお嫁さんに行ったんだってゆかりさまが・・・キツネの嫁入りだって・・・」
藍「なるほど、そういうことか・・・はあ、まったくあの方は・・・」
橙「藍様ぁ・・・お嫁にいちゃうの?」
藍「(ふっと笑うと優しく)私が橙になにも言わずにいなくなったりしたことがあるかい?」
橙「・・・ない」
藍「そうだろう?安心しなさい。お前を置いてどこかへ行ったりしないから」
橙「ほんと?」
藍「本当だとも。お前は私の式で、私はお前の主《あるじ》だ。そうだろう?」
橙「うん!」
阿求「結局このあと橙さんは、藍さんのお仕事が終わるまで一緒についていたそうです。これも一種の社会見学というやつでしょうか。こうしてこの日も八雲一家の一日は暮れていくのでした」
場転。猫屋敷。おなかがなる音
紫「おっそいわねー・・・ご飯チンしてくれないと食べられないじゃないの・・・らーん、ちぇーん。さっきのは冗談よー、はやく帰ってきてー」

阿求「紅魔館。霧の湖のほとりに建つ紅い悪魔が住む洋館です。比較的最近幻想入りしたこの館には謎が多く、館の主、吸血鬼のレミリア=スカーレットは、かつて幻想郷中が赤い霧につつまれた異変を起こした張本人ではないかと噂されています」
妹紅「あー、あれかぁ、わりと懐かしいな。あん時は昼も夜もなくなって大変だったけど、あれって吸血鬼の仕業だったのか」
阿求「正確な真相はいまだによくわかってないんですよ」
妹紅「ふーん?」
阿求「館には吸血鬼以外にも本物の魔女が住み着いています。この魔女が行う数々の奇行は、訳が解らない、何をしたいのかわからない、とにかく気味が悪いと、周囲からもっぱらの評判で・・・ほら、また、なにやらおかしな実験が始まったようですよ」

レミリア「美鈴。パチェが魔法の実験をしているわ。お前、ちょっと行って実験台になって来な」
美鈴「はーい!レミリアお嬢様!」

タイトルコール パチュリー『魔女のマジックポーション』

美鈴「(観客にかける)てなわけでこちらパチュリー様のお部屋です!(ノック)こーんちわー!」
パチュリー「美鈴?」
美鈴「はーい!私でーすパチュリー様ー!はいりますね~?、っと?」
戸を開けると中からカエルが飛び出してくる。
カエル「ケロケロっケロケロっ」
ぴょいん。ぴょいん。ケロケロ鳴きながらどこかへ消えてゆくカエル
美鈴「・・・かえるだ」
パチュリー「なにしてるの。さっさと入って」
美鈴「あっはーい」
戸が閉まる。ぱたり
パチュリー「話はレミィから聞いているわね。これよ」
美鈴の前に透明のフラスコびんを置く。ごとり
美鈴「フラスコびん・・・お薬、ですか?」
びんを掴んで中の液体ちゃぷちゃぷさせる
パチュリー「マジックポーションと言ってほしいわね。ただ薬ってんじゃ永遠亭と芸がかぶっちゃう」
美鈴「飲めばいいので?」
パチュリー「うん。くーっと」
美鈴「では・・・(思いとどまる美鈴)えっとその前に、お聞きしたいんですけど」
パチュリー「なによ」
美鈴「ちょっと嫌な予感がしまして。さっきのカエル、なんなんです?」
パチュリー「ああ、あれ?あれは小悪魔よ」
美鈴「こあちゃん(小悪魔の愛称。こあくまこあちゃん)」
パチュリー「うん」
けろけろ 間
パチュリー「もういい?じゃあ飲んで」
美鈴「あの。私、王子さまのキスじゃないと元に戻れないとかそういうの、ちょっと困るんですけど」
パチュリー「さっきの薬は成功。だから実験はおしまい。これは別の物」
美鈴「(安心して)そうですか・・・(思いとどまり)こあちゃんどうなっちゃうんですか?」
パチュリー「さあ?戻るか戻らないかするんじゃない?効果時間の検証は今回の実験に含まれないから、どうでもいいわ」
美鈴「次の実験台的にはどうでもよくないですパチュリー様」
パチュリー「(しかたがないなぁとため息)ふう・・・心配ご無用。あなたが飲むのはただの風邪薬よ」
美鈴「風邪薬」
パチュリー「うん」

美鈴「あのーパチュリー様?こういっちゃなんですが、私、人に自慢できるレベルの健康体ですよ」
パチュリー「うん。だからいいのよ」
美鈴「は、はあ・・・」
パチュリー「いいからいいから。はい、くーっと」
美鈴「はあーい・・・くーっ(っと飲む)ぺろり(と舌づつみ)甘いなこりゃ」
パチュリー「いちご味にしてみたの。どう?なにか変化はある?」
美鈴「いや風邪薬なんでしょ?そんな変化なんて・・・ん?まてよ、なんか体が重くなってきたような・・・」
パチュリー「ふむふむ、か・ら・だ・が・・・重い、と(メモをとる)」
美鈴「それに頭がくらくらしてきたような・・・あっ!(間違いない)くらくらしてます!副作用ですか?これ」
パチュリー「ちょっとおでこに触らせてね」
美鈴「は、はい」
パチュリー「どれどれ?・・・(おでこに触れて熱をみながら)うんうん熱があるわね。まあ成功かな」
美鈴「うう・・・頭が痛くなってきた・・・これ本当に風邪薬なんですか?」
パチュリー「大丈夫大丈夫。おでこに触ったら熱があるし、鏡をみてみなさい」
美鈴「顔面真っ青ですね。ゾンビみたいだ・・・」
パチュリー「これはね、風邪を治す薬じゃないの。飲んだ人を風邪にする薬」
美鈴「風邪・・・薬・・・ってそういう・・・」
パチュリー「そう、あなた、くらくらするって言ったわね」
美鈴「ええ、他には体が重くて、熱がありますね」
パチュリー「それは・・・風邪ね」
美鈴「てことは・・・実験大成功ですねー!ヤッター!(やけくそ)」
ばたーん。たおれる美鈴
阿求「それから数日後」
パチュリー「レミィ、次の実験台を貸して欲しいのだけれども」
レミリア「ううーん。いまちょっと在庫切れなのよね」
パチュリー「在庫がないなら、手持ちを貸してよ」
レミリア「いいけど・・・壊さないでよね。アレは私のお気に入りなんだから」
場転 ノック音
咲夜「パチュリー様、咲夜でございます」
パチュリー「うん。はいって」
咲夜「失礼いたします」
がちゃ。戸が開く。バックでカエルがないている。けろけろっけろけろっ
咲夜「カエルですわ」
パチュリー「それは小悪魔よ」
咲夜「まあ、変わったコスプレですこと」
パチュリー「前の前に実験した魔法の薬よ。変化の効果があるわ」
咲夜「効果てきめんですわ」
パチュリー「美鈴も飲んだら風邪になる薬で一週間寝込んでいるわ。それも私の薬の効果よ」
咲夜「美鈴はいつでもぐうたら寝てます(困ったものです)」
パチュリー「見ての通り、魔法の薬はいまのところ、百パーセント効果てきめんよ。あなたが言うとおりね」
咲夜「さすがはパチュリー様でございます」
パチュリー「うん。だから実験の意味はもうあまりないのだけれども・・・」
咲夜「あら、そうなのですか。ここにおいてあった液体が実験の薬だと思って飲んでしまいましたわ」
パチュリー「あっほんとだ。薬がない。飲んじゃったの?」
咲夜「はい。戸を開いてすぐに」
パチュリー「説明くらい聞けばいいのに」
咲夜「はい。あの薬はなんだったんですの?」
パチュリー「あなたが飲んだのは、いわゆる惚れ薬よ」
咲夜「あらすてき」
パチュリー「私と小悪魔以外の、次に誰かに会ったら、そいつに恋をするっていう寸法。わかった?」
咲夜「まあ、困りましたわ・・・」
パチュリー「困られても困るわね」
咲夜「わたくし、説明をするのがあまり上手じゃありませんから。効果が出たらうまく伝えられますかしら・・・」
パチュリー「ま、大丈夫よ。まず百パーセント成功してるだろうし、あなたの様子がおかしくなれば噂好きの妖精メイドが騒ぎ出すから」
咲夜「それもそうですわね」
パチュリー「じゃ、そういうわけだから。もういいわよ咲夜」
咲夜「はい。失礼いたします。パチュリー様」
ぱたん。閉まるドア
咲夜「さてと・・・おゆはんまでちょっと時間があるわね」
足音。どこかへと向かっている咲夜。やがてノック音。こんこん
咲夜「美鈴?具合はどう?」
美鈴「あっ、咲夜さんですか?ちょっと待ってください、いま・・・」
といいかけて、なにかが倒れる派手な音。部屋の中で美鈴がけつまづいてテーブルかなにかを倒したのだ。
美鈴「だあああ!!」
さらに人が倒れる音。ベッドから美鈴が落ちた
咲夜「ああもう(ガチャ、ドアの開く音)いいからジッとしてて」
美鈴「うう・・・まだちょっとだるくて・・・」
咲夜「(ぴしゃりと)だったら大人しく寝てなさい」
美鈴「(しぶしぶと)はあい」
咲夜「まったく・・・なにか食べたい物ある?」
美鈴「作ってくれるんですか?」
咲夜「まあね。リクエストあるなら言って」
美鈴「そうですねぇ・・・じゃあ・・・(すごんで)人間が食べたい・・・っていったらどうします」
効果音きぃん、ごごごご。咲夜の殺気を表現。ナイフを取り出す咲夜
咲夜「ほう?」
美鈴「なーんちゃってー、冗談ですよ冗談」
咲夜「(まだこわい)このタイミングでそういうことが言えるだなんて、冗談がうまくなったわね」
美鈴「や、やだなー機嫌直してくださいよー。私が何年も人間たべてないって知ってるでしょ?」
咲夜「・・・」
美鈴「ええっと、咲夜さーん?聞いてます?」
咲夜「もし・・・」
美鈴「えっ?」
咲夜「もし、本気なら本気って言ってよね。頭とか内臓はあげないけど・・・」
美鈴「あの、咲夜さん?」
咲夜「腕、くらいなら・・・あげてもいいから」

美鈴「いえ、そうじゃなくて・・・い、いりませんよ咲夜さんの・・・その・・・(体なんて)」
咲夜「(ふっと笑って、ナイフをしまう)でも・・・いまは風邪なんだから肉はだめよ、消化に悪いから。待ってて、おかゆ作ってあげる」
美鈴「あ・・・は、い・・・」
咲夜「あ、そうだ」
美鈴「は、はい?」
咲夜「私の爪を煎じておきましょうね?美鈴?」
美鈴「え、えっと・・・はい~・・・恐縮でーす・・・」
けろけろ、けろけろっ。カエルが鳴いている。ぶーんぶーん共鳴音。遠くから魔法で覗いいたレミリアとパチュリー
レミリア「なんだこりゃ。いつもと変わらないじゃんか」
パチュリー「覗き見させろだなんて、なんだかんだ言って咲夜の様子が気になるのね」
レミリア「当ったり前じゃない。面白いイベントになりそうだから貸してやったのよ」
パチュリー「悪趣味」
レミリア「で?失敗?咲夜は美鈴を見たんだから、あいつに恋するんじゃないの?」
パチュリー「経過からみて成功してる」
レミリア「はあ?どゆこと?いつもどおりじゃんっつってんでしょ」
パチュリー「魔法ができるのは言わば疑似状態。極めて風邪に似た状態、極めてカエルに似た姿、極めて・・・恋に似た状態を作り出すだけ。本物のカエルはもうカエルだから魔法をかけても変化はない。本当に風邪をひいてる者はもう風邪だから魔法をかけても変化はない。つまり?」
レミリア「はっ(鼻で笑う)なるほど・・・とんだ茶番だったってことね」
けろけろっ、けろけろっ

阿求「このように、館の魔女は、日夜あやしげな実験を繰り返しているのです」
妹紅「そのうち、っていうかもう被害とか出てるんだろうなぁ・・・」
阿求「えっと(思い出す)大丈夫みたいですね。強いて言えば、慢性的な実験台不足は問題みたいですけど」
妹紅「それって被害のうちにはいるの?」
阿求「なんといいますか・・・あの館、新しいお手伝いさんがはいっていくばかりで、出て行くお手伝いさんが一人もいないんですよ」
妹紅「ひどい話だ・・・」

阿求ナレ「ここは迷いの竹林の入り口です。噂によれば迷いの呪いがかけられていて、誤って足を踏み入れようなものなら、その名の通り抜け出すことはとても難しいので注意しましょう」
妹紅「ただし・・・案内人がついてりゃあ話は別だ(妹紅のこと)」
阿求「心強いです」
妹紅「このへんは私の根城だからな。迷い込んで来たやつを、外へ送り出してやったりしてる」
阿求「永遠亭への案内はされないんですか?」
妹紅「引き返すように勧めてるよ。あんなとこ行ったって、兎くらいしか見るもんないしな」
阿求ナレ「(おかしそうに)またこんなこと言ってる。(観客に)迷いの竹林のずっと奥には永遠亭と呼ばれる大きなお屋敷があります。そこに設けられている診療所は良質の治療が受けられ、代金は出せる額を言い値でオッケー。訪れることを望んでいる人は大勢いらっしゃるのですが、迷いの竹林には妖怪も沢山住んでいるうえに・・・」
妹紅「(苦々しげに)大体、輝夜《かぐや》の所に案内なんてごめんだね」
阿求「肝心の案内人がこれじゃあねえ」
妹紅「どうしてもってんなら連れてってやってもいいけど。流れ弾に当たって死んでも知らねえぞ」
阿求「流れ弾、ですか?」
妹紅「ああ、百パー輝夜《かぐや》と殺し合いになるからな」
阿求ナレ「(観客に)そんな訳で、ここは妖怪や動物、妖精などしかいない土地になっています」
妹紅「迷ったままここに住み着いちゃうやつとかもいるよ。あとは、見つけにくいことをいいことに、訳ありのやつが逃げ込んでくることも、たまにある」
阿求「逃げ込んでくる・・・って、逃亡者ってことですか?」
妹紅「ああ。この間だってこんなことがあってさ・・・」

場転。走っている正邪。
正邪「はあはあはあ!(躓き派手にころぶ)うわっ!(ざざっ素早く中腰に立ち上がりあたりを見回す)くっ!」
沈黙。やがて追っ手がいない事を確認して座り込む。正邪、安堵のため息をつき
正邪「はぁー・・・竹林に逃げ込んだはいいが、いま見つかったらひとたまりもない・・・」

タイトルコール 三月精『竹林の、天邪鬼』

正邪「道具どもの魔力が一斉に切れるなんて・・・くそっ、ドジった。このくらい想定しとくべきだった・・・だが・・・永遠亭。あそこには魔力を回復できる薬があると聞いた。それさえ手に入れれば・・・」
がさっ足音
正邪「やべっ(慌てて隠れようとする正邪。傷が痛んでたたらを踏んでしまう)くっ!?(痛み声)」
どさり。倒れる正邪。そこへ竹林の影から3つのちんちくりんがあらわれる。
サニー「ひいい!スターがでっかい兎いるっていうから来てみたら・・・なにこれ!」
ルナ「この人は妖怪ね」
スター「あらまあ」
怯えと威嚇の中間の雰囲気の正邪。値踏むように3匹を睨む
正邪「こいつらは・・・」
サニー「きったないかっこしてるわねぇ」
ルナ「この辺に住んでる人かな」
スター「でも初めて見る人よ」
正邪「妖精、か?」
サニー「そうよ。私はサニーミルク。こっちは・・・」
スター「スターサファイアって言います」
サニー「それとずっこけお化けのルナ」
ルナ「妖怪になっちゃったわ」
警戒を解かない正邪
正邪「・・・どうやら面《めん》は割れてないみたいだな」
ガサッ。素早く逃げ出そうとする
スター「あっ逃げた」
サニー「とっ捕まえるわよ!スター!ルナ!」
ルナ「えーい!」
飛びかかるルナ
正邪「馬鹿が!そんなタックルに捕まるとでも・・・なに!?」
消えるルナタックル
正邪「消えた!?馬鹿な確かにいま・・・」
スター「残念。本命は私よ」
突然現れたスターのタックルが正邪を捉える。タックルの衝撃よりも驚いて
正邪「うわああああ!!」
ドサっ!倒れて捕まる正邪
サニー「でかしたスター!よーし!てめえらやっちまえー」
ルナ「おー!」
正邪「舐めんなよ!妖精ごときにやられる私じゃ・・・いて!」
ぽこぽこぽこぽこぽこ!放たれる妖精パンチ
サニー「えいえいえいえい!」
正邪「ちょ・・・やめっ・・・!」
ルナ「これでもか、これでもかこれでもかー」
正邪「いて!いてててて!わ、わかった!わかったよ!よせ!やめろ!いてーっつーの!」
三月精「はーい」
正邪「くっ・・・袋叩きにしやって・・・いてててて・・・」
サニー「ふー・・・大勝利ね・・・」
スター「こう言っちゃなんだけど、私たちごときにやられるなんて」
ルナ「ずいぶん弱っちいわね」
サニー「ほんとほんと。妖怪のくせに」
正邪「うるせー。問答無用で襲ってきやがってよー」
サニー「問答無用で逃げ出すからよ」
正邪「そんなことよりよー、さっきのアレはなんだったんだ?」
サニー「あれって?」
正邪「黄色いチビが消えたと思ったら青いチビが・・・」
スター「青いチビとは失 礼ね、スターサファイアよ。黄色はルナ」
正邪「ああそうだった、ずっこけお化けの」
ルナ「誤情報ばかりが正しく伝わってゆく・・・」
正邪「とにかくよ、さっきのアレ、お前らがやったなんかなのか?」
サニー「ふっふっふー。いかにも。あれは私の能力よ」
スター「サニーは光を操るの」
正邪「光・・・そうか、光の屈折率を変えて、さもルナが私にタックルしてきたかのように見せ、そこにスターサファイアが本命タックルをくれたってことだな」
サニー「ほへー」
スター「すごいのねあなた。光を操るって言っただけでそこまでわかるなんて」
正邪「じゃあ本当のルナは」
ルナ「ずっこけてただけよ」
正邪「ほるほどな、光の妖精とずっこけお化けのコンビネーションってわけだ」
ルナ「否定したいのにすごくしにくい」
スター「ふふ、ずっこけお化けというのは冗談です。ルナは月光の妖精で音を消すことができるんです。で、私は降り注ぐ星の光の精。物の気配を知ることができるの」
正邪「ほう・・・お前ら妖精のくせにすごい能力もってんだな」
サニー「えっへん。ま、かくれんぼでは無敵ね」
ルナ「三人力を合わせればね」
スター「三人だけで遊んだら私の一人勝ちだけどね」
正邪「ふむ・・・かくれんぼ、かくれんぼねぇ・・・にや~(邪悪なわらい)おいお前らちょっと耳かせ」
ルナ「あとで返してね」
サニー「なになに?悪巧み?」
正邪「そうとも。妖怪が妖精に相談なんて他になにがあるね?さて、申し遅れたな。私は正邪《せいじゃ》。鬼人正邪《きじんせいじゃ》。鬼と人、邪《よこしま》を正《ただ》すと書いて鬼人正邪だ。幻想郷に存在する全ての弱者の味方さ」
ルナ「なんか営業はじまった」
正邪「仁義って言ってほしいね。お前ら、永遠亭は知ってるか?」
サニー「知ってるもなにも」
スター「地主さんが住んでるところですよ」
正邪「てことは、どこにあるかもわかるんだな?」
サニー「(偉そうに)もちろんね」
正邪「(小声で邪悪にほくそ笑む)くっくっく・・・いいぞいいぞ・・・(三人に向けて明るく)へへへ、思った通りお前ら優秀じゃないか」
サニー「そうかな」
ルナ「そうでもないと思うけど」
正邪「いやいや謙遜しなさんな。さて単刀直入に言うが私の目的はクーデターだ。弱き者達による幻想郷の転覆を狙っている」
サニー「それって・・・異変?」
正邪「もちろんだ。私の目的がかなったあかつきにはお前らでも八雲紫みてーな妖怪と張り合えるようになるって寸法だ」
スター「八雲紫さんになら」
ルナ「一度フルボッコにされたことがあるわ」
正邪「それが逆さまになるんだよ。八雲紫やクソ邪魔な巫女、それだけじゃない、天狗や鬼ども上からふんぞり返った連中すべてをいいように嬲《なぶ》って痛めつけてひーひー言わせてやるんだあ!どうだ!すばらしいだろう!」
ルナ「盛り上がってる」
サニー「ううーん・・・誰かに怨みがあるわけじゃないし・・・」
スター「霊夢さんは私たちの飼い主みたいなもんだしねぇ」
馴れ馴れしく方を組みながら正邪
正邪「まあまあ、難しく考えるこたあないさ。互角に遊べる相手が増えるってだけのことだよ。そういう異変をやってやろうってことさ。な?」
サニー「(うれしそうに食いつく)異変!?」
スター「それって具体的にはなにをするんですか?」
正邪「まずは永遠亭に忍び込んでとある物《ブツ》を盗み出す」
スター「とあるぶつ」
正邪「そういうことだ。お前らひとくち乗れよ。な?」
サニー「面白そう!」
ルナ「私もサニーがよければ」
スター「そうねぇ」
正邪「そうかそうか!よく言ったぞお前ら!(小声で)ケケっ、ちょろいねチビってのはどいつもこいつも・・・」
ルナ「ん?」
サニー「(楽しそうに)なんかいった?」
正邪「いやいや、そうと決まれば目指すは永遠亭、って言ったのさ」
ジングル。場転:永遠亭
サニー「てなわけで・・・」
スター「あれが永遠亭です」
正邪「なるほどなるほど・・・雰囲気あるじゃんか・・・いいかお前ら手はず通りにやるんだぞ」
サニー「私たちの姿を消して」
ルナ「私たちの物音を音を消して」
スター「人も兎もいないところを選んで潜入する」
正邪「そういうこと。それじゃあ永遠亭スニーキングミッション開始だ!」
BGM潜入
正邪「しかしまあ、どこもかしこも兎まみれだなぁ・・・」
ルナ「抜け毛の掃除が大変そう」
スター「目的地は八意《やごころ》先生の診療所でいいんですよね?」
正邪「というか、まあ、薬が保管してあるところならどこでもいいんだが・・・」
サニー「薬?」
正邪「ああ、永遠亭には魔力を回復させる薬があるって話なんだ。そいつをいただこうって寸法さ」
ルナ「それで異変をおせるの?」
正邪「ま、そういうことだな」
スター「ふう~ん?」
正邪「に、しても・・・すごいもんだなお前らの能力は。私らは会話、外には全然聞こえないんだな」
ルナ「ま~ね~」
正邪「こんな近くにいるのに、気がつく兎一匹いないとは・・・くっくっく、こりゃ本当にいい能力だぜ・・・」
サニー「ま~ね~」
ルナ「鈴仙さんがいたら見破られちゃうけどね」
正邪「そいつは今は留守なんだろ。だったら問題ない。そんなことより薬を探せ。それっぽい物は全部かっぱらえ」
スター「あっ、ありました魔力回復の薬」
正邪「よし!よくやった・・・って、ありましただぁ?」
サニー「どれどれ?あっ、本当だ」
正邪「本当だってお前・・・。なんで薬の見極めなんてできるんだよ」
サニー「だってほらここにラベルが」
ルナ「『魔力回復の薬。生き物、無機物問わず効果アリ』・・・って書いてある」
正邪「ほんとだ・・・こんなに薬の種類があるんじゃあ、覚えきれないってことか」
いつの間にか背後にいる永琳
永琳「それはウドンゲが書いたものよ。この程度の量なら普通は暗記できます」
正邪「なっ?いつの間に!?」
サニー「能力は切れてないよ!」
永琳「能力?なんのこと?」
ルナ「音だって消えてるわ。あなたどうして私たちの声がきこえるの?」
永琳「あらやだ姿は見えないし声も聞こえていないわよ。多分この辺で何かが、こんなことを言っているんじゃないかって気がしただけよ」
スター「気がしただけって・・・」
永琳「簡単に言えば、勘ってこと」
サニー「なんの物音もなくて誰もいない空間に向かって」
スター「勘だけで会話してるってこと?」
サニー「んなアホな」
永琳「あなた、噂の天邪鬼ね?私の薬に用があってきたのかしら?」
正邪「ちっ・・・おいお前ら、もういいぞ」
サニー「あっはい・・・」
すぅ~姿を現す4人
正邪「こうなったら逃げも隠れもしねえ。そうとも私の目的は魔力回復の薬だ・・・アンタが八意永琳だな」
永琳「あら、私ったらいつの間に有名人になったのかしら」
正邪「あ~・・・勘を五感の代わりにするなんて化物じみた真似できるとしたら、そりゃアンタかもう一人くらいしかいねえだろ」
永琳「そう?で?何錠お入用?」
正邪「は?」
永琳「薬よ。何錠お入用なのかしら」
正邪「おちょくってるのか?私の目的くらいアンタなら知ってるだろ」
永琳「患者さんのプライベートには立ち入らないのが医者のモットーよ。薬は何錠お入用?」
正邪「道具の魔力を補充したい。何錠必要だ」
永琳「そうねえ、その程度の道具なら一錠で十分よ」
正邪「私が飲めばいいのか?」
永琳「ええ、あなたが道具の主ならば」
薬を掴む、じゃらり、飲み込む正邪
正邪「ごくり・・・くっくっく・・・たしかに魔力が漲ってきたようだ!」
永琳「はい。それじゃあお代ですけれど・・・」
正邪「ケッ!バァカが!道具の魔力さえ元に戻ればてめえなんざ用はないのさ!八意永琳」
永琳「あらやだ。妖精さんは逃げたほうがいいかもしれないわよ」
サニー「物騒になりそうですか?」
永琳「さあ。それはこの子しだいね」
正邪「舐めやがって・・・亡霊の送り提灯《ぢょうちん》!こいつでてめえの息の根止めさせてもらうぜえ!」
永琳「それは霊界の道具ね。冥界トランスの擬似発生装置と言ったところかしら」
ギューン提灯をつかう正邪
正邪「一方的にやらせてもらうぜ八意永琳!」
ばしっ。正邪の足を掴む永琳
永琳「足元がお留守だけど?」
正邪「なっ!?トランスした私の足をつかんだだと!?」
永琳「冥界トランスすれば触れない。とでも思った?」
正邪「馬鹿な、こんなことは今まで一度も・・・」
永琳「あら本当?よっぽど手加減されてたのね、あなた」
正邪「手加減だと・・・離しやがれ!くそっ!」
ルナ「なにやってるんだろ。あの人たち」
スター「よくわかんないけど、私たちのお役目はここまでな雰囲気ねえ」
正邪「いいやまだだ!役に立ってもらうぜチビども!」
どろん!煙のような音
永琳「えっ!?」
サニー「あっ、あれ!?わああ!は、離してください!先生ー!」
ルナ「サニーがつるし上げられてる。なんで?」
永琳「いつの間に・・・」
正邪「身代わり地蔵の能力!てめえに掴まれたことをなかったことにした!」
永琳「お見事ねえ。だけど・・・」
しゅっさらにつかもうとする永琳
永琳「はい。また捕まえればいいだけのこと。今度は同じようにはいかなくてよ」
ルナ「先生。私、私」
永琳「えっ?あらやだ!ごめんなさい・・・」
おろす
ルナ「いいってことよ」
正邪「呪いのデコイ人形の能力。ターゲットをずっこけお化けと入れ替えた」
ルナ「ルナチャイルド」
永琳「本当に鮮やかねえ」
正邪「ケケッ。この場はこれで引いてやる。だがここは宝の山みてえだからなあ・・・またこさせてもらうぜ!覚えていやがれ八意永琳!この場から瞬間移動する!地に飢えた陰陽玉《おんみょうぎょく》の能力!」
ぼわん。消える正邪。間。
永琳「まさか私が一本取られるとはねえ・・・しかも魔力回復の薬もぜんぶくすねていっちゃって。あれが鬼人正邪・・・たしかに油断ならない妖怪のようね」
サニー「ちぇっ。また異変起こしそこなっちゃった」
ルナ「ま、地道にがんばりましょう」
スター「でもそれなりに楽しかったわ」
永琳「やれやれ・・・妖精はお気楽だこと」
場展
正邪「どいつもこいつも舐めやがって・・・ケケケケ、せいぜいいまの内にいい気になっているがいい・・・このままでは絶対に済まさんからな・・・」

阿求「それは噂の天邪鬼でしょうねえ。本気の弾幕で捕らえてよいって御達しの」
妹紅「強かったぜ。私もまんまと一杯食わされちまった」
阿求「へえ、妹紅さんも戦ったんですか」
妹紅「ああ、負けた」
阿求「えっ!?・・・えっと、妹紅さん、本気、だったんですよね?」
妹紅「ああ・・・くそっ、そうだよ。油断はしたがな」
阿求「そ、そんな馬鹿な・・・本気の妹紅さんを相手に生き残るほどの妖怪だったんですか・・・?」
妹紅「腕力も妖力も貧弱で、まともにやったんじゃ妖精にだって勝てない程度のやつだろうが・・・あいつの強さはそういうところにあるものじゃない。いままでにないタイプの強さを秘めた妖怪だと感じたよ」
阿求「妹紅さん・・・」
妹紅「ちぇっ、嫌な思い出だぜ」
阿求「(興奮気味に)ぜひ天邪鬼との戦闘について取材をさせてください!」
妹紅「・・・お前、ノリが天狗っぽくなっちゃないかい?」

鳥の声。波の音
妹紅「霧の湖。いまさらここの紹介は、するまでもないよな。幻想郷で一番でかい水たまりだ」
阿求「先ほど訪れた紅魔館は、ここ霧の湖のほとりに建っています。数多くの妖精や、冬の妖怪が住み着いていることでもよく知られていますね」
妹紅「こないだ、ここで、でかい魚をみたぜ。あれって妖怪なんじゃないかって思ってんだけど」
阿求「きっとそうでしょうね。あまり知られていない数々の水生《すいせい》妖怪も定期的にみつかっています。外でいうところのUMA《ユーエムエー》ってやつですね」
妹紅「へえー」
阿求「どんな姿だったか覚えていますか?」
妹紅「えっと・・・魚のひれがついてたけど・・・頭は人間だった」
阿求「ますますUMA《ユーエムエー》ですね」
妹紅「(思い出しながら)緑色の体をしてて腕がついてて・・・んん?ちょっと待てよ?あれはもしかしたら魚体じゃなくて、緑色の着物を着てたんじゃないか・・・?」
阿求「服を着た魚、ですか」
妹紅「ああ、それと狼だ。でかい魚と狼が湖のほとりでなにやら話をしていたんだ」

影狼ナレ「偉い偉い、わかさぎのお姫様。
ずっと長生きしているうちに妖怪変化になって知恵をもった。
尻尾があんまり美味しそうなので、喰おうとしたら返り討ちにあってしまった。
それからまあ、いろいろ、なんやかんやあった末、私とわかさぎ姫は友達になった」

タイトルコール わかさぎ姫『魚の姫と海の夢』

場転、霧の湖のほとり。上半身だけを湖面から出して、空をぼーっとみあげているわかさぎ姫
わかさぎ「ほー・・・・・・・」

わかさぎ「あの雲は・・・猫みたいなかたち。いまにも尻尾をかじられそう。あっちの雲は鳥かしら?」
影狼「普段はこんなだ。虫も殺さないような顔してるけど・・・本気だすと私が苦戦する程度には強いんだ」
影狼がやってきたことに気がついてぱっと明るくなるわかさぎ姫
わかさぎ「あっ影狼。今日も来てくれたのね」
てくてくてく。歩み寄るが口をきかない影狼、人ではなくて狼の形。
影狼が黙っているので不安になってしまうわかさぎ姫
わかさぎ「影狼?どうして黙っているの?」
影狼「んーんんんーんー(ちょっと待っていま出すからと言っている)」
わかさぎ「えっえっえっ?」
影狼「あー」
ざらざらざらざら。口の中に宝石をしまっていた影狼。わかさぎ姫の前で吐き出す
影狼「ごらんよ姫。綺麗な石がこんなに取れた」
わかさぎ「まあ!」
影狼「どれも透き通っているやつだよ。透き通ってるやつ、好きだろう?」
わかさぎ「綺麗ねぇ・・・」
影狼「これはね、妖怪の山の沢でとってきたんだよ。お山のことは知ってるかい?」
わかさぎ「聞いたことはあるわ。かっぱが住んでいるのよね」
影狼「上に行くとね、天狗が居るらしいよ。もっと上がると神様がいるって」
わかさぎ「へえ~・・・。影狼はお山のどこまでいったことがあるの?」
影狼「行かない行かない、あんなおっかないところ。ま、いいとこ一合目よ」
わかさぎ「おっかないところなのね」
影狼「沢から入るとお人好しのかっぱがさ、案内してくれんのよ。この石の場所だってあいつらが教えてくれたんだ。赤いやつと緑のやつは魔女が欲しがるから値打ちもんだって」
わかさぎ「魔女は嫌いよ。私を泡にするだなんて言うんだもの」
影狼「泡に?魚を?なんだいそりゃ」
わかさぎ「(ぷいっとして)知らないわそんなの」
機嫌を悪くしたわかさぎに可笑しさを感じつつも話題を変える
影狼「ふふ。お山はさ、外と繋がってるらしいよ」
わかさぎ「外、って・・・外の世界?」
影狼「そうそう。お山の沢は外からのいろんなものが流れてくんの。海に繋がってるんじゃないかって言ってたよ」
わかさぎ「うみ?」
影狼「きっと冗談よ」
わかさぎ「うみってなあに?」
影狼「えっとね。私もよく知らないんだけど、外にはでっかい水たまりがあるんだよ。一番おっきいのを海って呼ぶらしいや」
わかさぎ「ふうーん・・・」
影狼「潜っても潜っても底につかないほど深くってぇ・・・」
わかさぎ「底につかない!・・・私が潜っても?」
影狼「もちろんさ。海ってのはね、山を逆さまにしたより深いんだ」
わかさぎ「まあぁ・・・」
影狼「それにね、数え切れないほどいろんな生き物が住んでるって」
わかさぎ「数え切れないほどの・・・」
影狼「そう、それも、どこでだって見たこともないような魚さ」
わかさぎ「ふうーん・・・」
湖の見渡す姫。波の音。獣の鳴き声
わかさぎ「(なにかに気がついて嬉しそうに)ねえここは?霧の湖は海じゃないの?」
影狼「違うよ。湖は湖だ。湖は海とは違うよ」
わかさぎ「(抗議するように)でも大きなみずたまりだわ」
影狼「そうだねここもでかい水たまりだね。でも違うんだよ。海と湖とは別モンだ」
わかさぎ「(がっかり)そう・・・湖は海じゃないのね・・・あっ、ねえあそこにある水たまりは?あれは海じゃないの?」
影狼「海は世界で一番おっきいの水たまりだよ?あれじゃ姫の手のひらくらいしかはいりやしないじゃない」
わかさぎ「じゃあ、あれにはみたこともない生き物は・・・」
影狼「いないよ。虫の子一匹だっていやしない。せいぜいアメンボが羽を休めにくるくらいだ」
わかさぎ「そう・・・じゃあ、あれは?あれは海かもしれないわ」
影狼「どうしたの姫?そんなに海が気になる?」
わかさぎ「・・・大きくて、深くて、見た事のある生き物がずっとたくさん住んでる水たまり・・・気にならないほうがどうかしてるわ。影狼は気にならないの?」
影狼「ううーん、わたしゃ別に・・・姫?」
気がついたらほとほとと涙を流しているわかさぎ姫
わかさぎ「・・・」
影狼「姫ったら」
わかさぎ「(涙声で)あっ・・・ごめんね。なんか、その・・・」
影狼「大丈夫?かなしいの、姫?」
わかさぎ「ううん!そうじゃないの!・・・そういうのじゃなくて・・・なんだろうこの気持ち・・・」
影狼「姫・・・」
わかさぎ「・・・」
なにかを思いつく影狼
影狼「あっ!ねえ姫、この間拾ったすっごい大きい壺、あれどうしたっけ?」
わかさぎ「壺?」
影狼「うん。人ひとりくらい簡単に入るねって話したじゃない」
わかさぎ「ああ、あれ?あれがどうかしたの?(駆けて行ってしまう影狼。呼び止めるわかさぎ)影狼!?」
影狼「たしかこの辺に・・・あったあった!」
わかさぎ「なにしてるの影狼?」
壺をもって水を汲み行く影狼。行ったり来たり
影狼「えっほ、えっほ・・・えっほ、えっほ」
わかさぎ「ねえ影狼ったら」
水のたっぷり入った壺(カメ)をわかさぎ姫の目の前にどんっと置く影狼
影狼「よっと!さあおまたせ!」
わかさぎ「えっと・・・これは?」
影狼「これ入れば姫も出歩けるよ」
ちゃぷちゃぷ
わかさぎ「え、ええ・・・そりゃそうだろうけれども・・・影狼?」
影狼「さあさ私が背負ってやるから、入った入った。そしたら出かけるよ」
わかさぎ「出かけるよって、どこに?」
影狼「決まってるだろ、海を探しに行くんだ」
景気のいいBGM。影狼とわかさぎ姫は海を探す旅に出る

わかさぎ「(楽しそうに)ねえ影狼、海は青いかしら」
影狼「さあねえ、赤くはないだろうねえ」
わかさぎ「そうね、きっと赤くはないわね」

わかさぎ「(楽しそうに)ねえ影狼、海は甘いかしら」
影狼「しょっぱいらしいよ。海は塩水なんだ」
わかさぎ「まあ、塩水!」

わかさぎ「(楽しそうに)ねえ影狼、ほんとうに海が見られるかしら」
影狼「幻想郷はこれだけ広いんだ。どこかに海くらいあるさあ」
わかさぎ「楽しみねえ」

わかさぎ「ねえあれは?あれは海じゃないかしら?」
影狼「あれはお山の沢だよ」
わかさぎ「まあ、じゃあここが妖怪の山」
影狼「ほらご覧よ姫、かっぱが手を振ってる。振り返しておあげ」
わかさぎ「こんにちはぁー」

わかさぎ「みて影狼、水たまりよ。あれが海じゃないかしら」
影狼「おやずいぶんりっぱな温泉だね」
わかさぎ「おんせん?」
影狼「地面からお湯が出てるんだ」
わかさぎ「まぁ、お湯が?」
影狼「ご覧、鹿だの猿だのがつかっているよ。私たちもつかってゆくかい?」
わかさぎ「いやよ。お湯になんかつかったら煮魚になっちゃうわ」

方々を旅してきた影狼とわかさぎ姫。それでも海はみつからない。
フェードアウトするBGM。間。
ひぐらしの鳴き声。カラスの鳴き声。夕日を見つめているわかさぎ姫
わかさぎ「影狼、今日もまた日が暮れるわ・・・」
影狼「そうだね姫・・・ご覧よ、からすたちも仲間の元へ帰ってゆくよ」
わかさぎ「ええ・・・ねえ影狼、朝になったら湖に行きましょう」
影狼「湖?いいよ。朝になったらこの辺で一番近い湖はどこか聞きに行こう」
わかさぎ「ううん。そうじゃなくて・・・霧の湖に戻りましょう」
影狼「ええ?だってまだ海をみつけていないよ?」
わかさぎ「そうね・・・海はないわね」
影狼「どうしたの?もう旅するのが嫌になっちゃったのかい?」
わかさぎ「ううん。楽しわ。影狼とあちこち旅してまわるのはとても楽しい。ずっとこうしていたいくらい」
影狼「じゃあどうして?」
わかさぎ「湖の魚たちが、わたしを待っている気がしたわ」

影狼「海に行けばみたこともないような沢山の仲間たちが姫を待っているかもしれないよ?」
わかさぎ「そうね。とっても素敵だわ。でもいいの。みたこともないような沢山の仲間たちには会えなくても・・・よく知っている友達がすぐ近くにいるんだもの」
影狼「・・・そう?ほんとうに?」
わかさぎ「うん。気が付いたのはさっきだけど」
影狼「ふうーん?・・・あっ!ご覧よ姫」
わかさぎ「どうしたの影狼?」
影狼「きれいな石が落ちてるよ。あれはきっと姫が好きなやつだ」

影狼ナレ「偉い偉い、わかさぎのお姫様。
ずっと長生きしているうちに妖怪変化になって知恵をもった。
戻ったらうんと綺麗な石を探しに出かけよう。今度も二人で出かけよう。
もしかしたら、そのうち、海だってみつかるかもしれない」

わかさぎ「影狼」
影狼「なに」
わかさぎ「(嬉しそうに)なんでもないわ」

影狼ナレ「ま、いっか。私が見つけたいのは海じゃないんだからね」

阿求「それはきっと人魚ですね」
妹紅「人魚。あれが?」
阿求「ええ。涙は宝石になり、肉を食べれば不老不死になるそうですよ」
妹紅「宝石はどうかしらんが、不老不死はまゆつばだな」
阿求「あら、(不老不死の)妹紅さんがそれをおっしゃるのですか?」
妹紅「まーね。蓬莱の薬以外に本物の不老不死なんて聞いたことがないし、月に人魚がいるなんて話を聞いたことがないからな」
阿求「えっと・・・それはどういう意味でしょう?」
妹紅「人魚なんか食ったって、毒にも薬にもなりゃしないってことさ」

阿求「地底。現在は博麗神社の裏にある温泉、そして妖怪の山で八坂様が研究している発電所と繋がっています」
妹紅「ふうーん」
阿求「地底の情報はとても貴重です。入った人間は何人かいるみたいですが、戻ってきた人間がいるという話はいまのところ記録されていないからです」
妹紅「霊夢と魔理沙がいるだろう。怨霊が噴き出した例の異変を止めたのって、あいつらなんだろ?」
阿求「彼女達が定期的に行う、例の活動(異変解決のこと)は公《おおやけ》に記録しませんからね。そういうことです」
妹紅「私達のことは記録するのかい?思いっきり地底に来てるけど」
阿求「それもないですね。私が記録に残すのは妖怪についてのことだけです」
妹紅「霊夢と魔理沙のことは?求聞史紀にのってたぜ?」
阿求「彼女達は変わってますからね。特例ですよ」
妹紅「私のことものっていたが」
阿求「あら、そうでしたかしら」

青娥ナレ「その人形《ひとかた》に血は通わず、肉は腐り初めていた。人であった時の記憶をわずかに残し、私《わたくし》無しには、記憶も肉も、ほどなく留めておれくなって、崩れて、腐って落ちる」
芳香「せーがの話、難しい。よくわからない」
青娥「(芳香の妄想の声)芳香。芳香ちゃん。おきなさい?朝よ?」
芳香「ン・・・せーが・・・」
青娥「(芳香の妄想の声)おはよう芳香。早起きできていい子ねえ」
芳香「うう?・・・腹減ったぞ、せーが・・・お腹が気持ち悪い・・・」
青娥「(芳香の妄想の声)大丈夫?芳香。良い子ね芳香。芳香。わたくしの芳香。(じょじょにフェードアウト)」
ごとごとごとごと。死体の乗った猫車をがらがらと押しているお燐。変な歌を歌っている。
お燐「にゃーんにゃーん♪にゃーんにゃーん♪にゃんにゃかにゃんにゃんにゃーん♪」
猫車につまれている芳香。もぞもぞ動くがお燐気がついていない
芳香「う・・・せーが?」
お燐「たっだいまもどりましたー♪」
お空「おりーん!」
お燐「あれお空?さとり様はいないの?」
お空「うん。お出かけ」
お燐「そっか。ほれ見てみなお空、今日も新鮮な死体が大量だよ」
芳香「う・・・ううう・・・ここ、どこ?・・・せーがー・・・」

タイトルコール 芳香『チテイ・オブ・ザ・デッド』

お空「(嬉しそうに)わああ・・・これ、ちょっと食べちゃだめ?」
お燐「だめだめ、これは燃料なんだから。おやつなら死体じゃないやつがあるでしょ」
お空「うん・・・わかった・・・」
お燐「よしよし、偉いぞお空」
お空「えへへへ」
お燐「さ、地下まで一緒にいこうよ」
お空「うん!・・・(死体が動いていることに気がつくお空)あれ?」
お燐「ん?どした?」
お空「ねえお燐、死体が動いてるよ」
お燐「あのにゃあ、お空、死体は動かないから死体なんだにゃ・・・」
お空「でもでも・・・!本当に動いたんだもん!」
むくりと起き上がりうなる芳香
芳香「ヴヴヴヴ・・・腹減った・・・」
お燐「にゃにゃっ!?」
芳香「ヴヴ・・・にくー・・・」
お空「ね!動いてるでしょ?」
お燐「はー・・・こりゃまた生きの良い死体だね・・・」
芳香「ヴー・・・がふ!!(お燐の腕に噛み付く)」
お燐「あにゃー!?」
芳香「(噛み付いたままうなる)ヴー!!うー!!」
お燐「にゃあー!噛んだ!かんだー!!」
お空「お燐!!おりーん!!このお・・・(芳香の頭を掴み)お燐を食べるなー!(引き離そうとする)」
芳香「がああ!!」
ぶちぶちぶち。首が取れて飛ぶ。数回地面にバウンドした後、ころころと転がる
お空「あっ!首がとれちゃった!!」
お燐「(噛まれたところをふーふー吹く)ふー!ふー!いててて・・・なんて死体だいまったく」
芳香「おお、彼方《かなた》に我がボディ」
走って芳香の頭のところへきたお空
お空「ごめんねごめんね!取っちゃうつもりはなかったの!痛かった?」
ぐりんとお空の方を向いて喋り出す芳香の生首
芳香「むしろ腹が減ったぞ」
お空「お腹空いたの?いたくないの?」
芳香「痛みな。芳香には難しい問題よ」
お空「よしか?あなたのお名前?」
芳香「ボディが取れると軽量性は上がるが機動性が大幅に損なわれる。結果だけ言えば機動力ゼロ。それがいまの私だ」
お空「うにゅー?」
芳香「だが転れば動く。慣性の続く限りどこまでもな」
お空「私はうつほ、みんなはお空《くう》って呼ぶよ」
芳香「おくーか、美味《うま》そうな名前だな」
お空「こっちは猫のお燐」
芳香「おりんか、美味《うま》そうな名前だな」
お燐「さっき食べたでしょ」
お空「ねえねえ、あなたのお名前は?」
芳香「名前?名前な。言いたいことはわかるぞ」
お空「うん。呼び方わからないと大変でしょ?」
芳香「芳香は芳香だぞ」
お空「よしか」
芳香「呼んだか、せーが」
お空「せーが?うつほはせーがじゃないよ。せーがは芳香なの?」
芳香「馬鹿かせーが。せーがはせーがだ」
お空「うにゅ?あなたのお名前は芳香じゃないの?せーがなの?」
芳香「うむ。実に奥ゆかしい問題だな」
お空「うにゅー?」
芳香「脳みそ齧《かじ》りたい」
お燐「聞いてるだけでくるくるぱーになりそうだにゃ」
芳香のお腹がなる
芳香「ヴー・・・ハラ減った・・・せーが、なんかくれ」
お空「うにゅ?お腹空いたの?」
芳香「せーが、肉が欲しい」
お空「せーがはあなたのお母さん?」
もぞもぞ動くが芳香。動くたびに死体がぐちょぐちょ
芳香「肉だ・・・肉・・・いだだぎまーす」
お燐「あっ!これ!この死体はあたいのだよ!」
芳香「あ?(食いつきそうな姿勢のまま止まる)落ちてたやつだぞ?」
お燐「落ちてたやつだってだめだよ」
芳香「だめな肉。この肉はだめ・・・ヴヴヴ」
お空「えっ、かわいそうだよ。あげようよ」
お燐「あのにゃあ・・・こんな、どこの物とも知れない死体に大事な死体をあげるわけにはいかないでしょ」
びくんびくんと痙攣を起こす芳香
芳香「あっあっあっあっ・・・」
お空「かわいそう!ちょっとだけならよくない?」
お燐「だめだめ」
お空「一回だけだからー」
お燐「一回やったら次もまたやるよ」
痙攣が激しくなる
芳香「げぐぐぐぐ・・・ごぼぼぼー!」
お空「あっ芳香」
芳香「おくー・・・」
お空「えっ?」
芳香「あっ、あばばばばば・・・」
お空「聞いたお燐!いま芳香がうつほのことお空って・・・」
芳香「おくー・・・肉クレー肉ー・・・」
お燐「ほんとだ。名前覚えられちゃったねえ」
お空「ねえお燐、うつほのおやつ代わりにお燐が食べてもいいから・・・」
お燐「むぅー・・・やい芳香とやら」
芳香「おおおおおり、ん(お燐)」
お燐「んにゃ!?あたいの名前も・・・そんなに死体を食いたいか?」
芳香「くくくくいたい。脳みそかじりたい」
お燐「・・・少しだけなら食っていいぞ」
芳香「ぼああああ!!」
ぐっちょぐっちょ。死体にかじりつく芳香
お燐「あ、こら!少しって・・・にゃったく、お空に感謝するんだにゃ」
芳香「がんふがんふ!」
お空「ほらほらこぼしてるよ」
ぼとぼとぼと。こぼれおちる肉
お燐「そりゃ食道から先がないからにゃ・・・」
芳香「がんふがんふ!」
お空「ふふふ、芳香、嬉しそう」
芳香「うむ。満足だぞ」
お燐「胃袋ないのに満足なのかい?」
芳香「馬鹿めお燐。食ったら満足になる。それは世界の法なのである」
お燐「よくわかんないけどよかったよ。燃料も芳香が噛み砕いて くれたおかげですっかり細くなったしにゃ」
芳香「かなり湿っぽいがな」
お燐「にゃはは、これじゃあ死体っていうか血だまりだにゃ」
お空「芳香、真っ赤だ。拭いてあげよう」
芳香「んおお?」
頭を優しく抱えてマントで拭いてあげる
お空「よしよし」
芳香「んふふふ。くすぐったいぞ、おくー」
お燐「死体でもくすぐったがるんだねえ」
お空「ふふふ。ねえお燐、この子連れて帰ってペットにしよう」
お燐「はあっ!?おまーは何言ってるんだにゃ」
お空「だってこんなに可愛いんだもん。ね?いいでしょ」
お燐「だめ」
お空「えー!?なんで!?」
お燐「なんでって・・・血塗れの生首なんてもっていったら、さとり様、卒倒するにゃ」
お空「ちゃんと吹いたよ。体も持って帰ればいつかくっつくよ」
芳香「接着剤はどこだ」
お燐「だめったらだめだよ。第一、芳香だって家族がいるかもしれないだろ?」
お空「芳香の、家族・・・」
芳香「ホッチキスはどこだ」
お燐「わかるだろ?さ、拾った場所に戻してくるから、返しな」
お空「う・・・でも・・・でもやなのー!!」
芳香の首を抱えたまま飛んで行ってしまうお空
お燐「あ!こら!お空!!(間)生首抱えて飛んでっちゃうとは・・・やれやれ、しかたのないやっちゃのー・・・」
場転、地底をあてもなく飛んでいるお空
お空「お燐のばかばか。どうして分かってくれないの・・・」
芳香「ああー、脊髄《せきずい》がぶらぶらするー」
お空「あっ、ごめんね。地面に降りるね」
ゆっくり着地するお空
お空「・・・どこのくらい飛んでたのかな(間)ここ、どこだろ」
芳香「しらん」
芳香の生首を胸に抱えたまま、とぼとぼ歩くお空
お空「お燐、怒ってるだろうな」
芳香「私にはお燐は困っているように見えたが」
お空「うん・・・お腹空いたな・・・」
芳香「戻らんのか?」
お空「・・・」
芳香「お空、聞くが良い。私はお空が好きだ。優しいからだ。そして同様にお燐も好きだ。やつはおいしくもある」
お空「芳香・・・」
芳香「戻れお空。戻ってお燐に謝るのだ。お前達は仲良くあれ」
お空「芳香・・・でも・・・」
遠くから飛んでくるお燐。青娥を連れている
お燐「お空ー!!」
お空「お燐!?えっなんで?」
お空の目の前に着地するお燐
お燐「聞かん坊なんだから。ほれ、芳香の体と・・・」
どさり。芳香の体を地面に放り投げるお燐
青娥「へえー、こうなっているのねえ地底って・・・」
芳香「(びっくりして)せーが!」
青娥「もう、芳香ちゃんったら。さがしちゃったわよぅ」
芳香「(嬉しそうに)せーが!せーが!」
お空「せーが・・・じゃあこの人が芳香のお母さん・・・」
お燐「地上でこの人を探して来たよ」
青娥「芳香を探してたら、(お燐が)私の名前を大声で呼んで飛び回ってるんだもの。びっくりしちゃったわ」
芳香「せーが。くびとれた」
青娥「あらあら。すぐにつけてあげますからねえ・・・」
共鳴音。首と体がくっつく芳香
芳香「あははは」
ぴょんこぴょんこ。飛び跳ねる芳香
お空「くっついちゃった・・・すっごい・・・」
青娥「あなたがうつほちゃん?」
お空「あ、うん・・・」
青娥「わたくしは霍青娥《かくせいが》。真実と愛を伝える正義の仙人よ」
お空「正義のせんにん?」
青娥「ええ」
お空「芳香のお母さん?」
青娥「ええ」
お空「芳香を・・・迎えに来たの?」
お燐「(諌めるように)お空」
青娥「そうねえ・・・うつほちゃんはどうしたいのかな?」
お空「うつほ?」
青娥「うん」
お空「うつほは・・・」
ちらりと芳香をみやるうつほ
芳香「う?う?」
お空「うつほは・・・青娥と芳香が一緒にいるのがいいと思う」
お燐「お空・・・」
お空「だって芳香がいなくなったら青娥が可哀想だもん」
青娥「(あら)わたくしが?」
お空「本当は芳香を連れて帰りたいよ?でも・・・」
過去芳香「私はお空が好きだ。そして同様にお燐も好きだ。お前達は仲良くあれ」
お空「でも青娥といないと、芳香が可哀想だもん」
青娥「そう」

青娥「そうよ。わたくしは芳香を迎えに来たの」
お空「うん・・・」
芳香「せーが!せーが!」
青娥「うふふふ・・・じゃ、行くわよ芳香ちゃん?」
芳香「おう!」
ふわりと浮く。青娥と芳香
お空「あ・・・」
芳香「さらばだおくーよ!楽しかったぞ!」
ふっと消える二人
お燐「あっ!消えちゃったにゃ・・・」
お空「・・・うっ」
お燐「よく言ったねお空。偉かったぞ」
お空「うあーん!うわあああああん!」

阿求「っていうお話がありました、とさ」
妹紅「なんだか可哀想だな、お空ってやつが」
阿求「それがですね、この後いろいろあって、芳香さんとお空さんはちょくちょく会っているようですよ」

芳香「元気かお空」
お空「(嬉しいお空)芳香ー」
お燐「まさか地底の壁と命蓮寺の墓地を穴でつなげちゃうとはにゃあ・・・」
芳香「うむ。お燐の仕事も楽になったであろう」
お燐「張り合いがなくなっちゃったにゃ」
お空「私は芳香に会えて嬉しいよ」
芳香「うむ。私もだぞ・・・わたしも、わ、ワタ、ワタタタタ・・・」
お空「うにゅ?」
お燐「またはじまった・・・」
芳香「脳味噌食わぜろー!!お前ののうミゾをよごぜー!!」
お空「うにゅーー!!?」

夕暮れ。人里。眠ってしまった阿求。阿求を担いで歩く妹紅。カラスの鳴き声。
妹紅「放浪終わって日が暮れて。ようやっと里に帰って来たってのに・・・」
阿求「(寝息)すー・・・すー・・・」
妹紅「稗田のおひいさまはオネムの時間だねっと(おんぶを抱えなおす息)」
阿求「ん・・・ううん・・・」
妹紅「こいつもまあ・・・やれやれ、困っしゃくれたガキだが」
阿求「(寝言)むにゃむにゃ・・・」
妹紅「はは、寝顔は可愛いもんだ。ま、あれだけうろつき回ってりゃ疲れるってもんか」
いつの間にか現れていた菫子。寝ている間だけ幻想郷に来れる菫子は唐突に出現する。
菫子「あれぇ?阿求ちゃん寝ちゃってるの?取材はどうなっちゃうのよぅ取材はー」
妹紅「ん?(菫子に気がつく。呆れ気味に)あれ?お前また幻想郷に入って来ちゃったのか?」
菫子「こんばんは、妹紅《もこー》さんっ。今日は土曜日で学校お休みなの。遅いお昼寝ってやつよ」
妹紅「お前、阿求と知り合いだったっけ?」
菫子「いや~はははは。取材たのまれちゃってさー。外の人間も超能力者も珍しいんだって。直接顔見るのは始めてだけど、気分いいじゃん?そういうのって。妖怪の友達増えるかもしれないしね!」
妹紅「友達って・・・お前な、やばい連中に目ぇ付けられてるんだぞ?少しは自覚しろよ」
菫子「だいじょぶだいじょぶ!いくら幻想郷の妖怪でも夢の中まで手は出せないでしょ?」
妹紅「いいや、夢を操るやつくらいいる」
菫子「えっ、うそっ?ひええ~!もう妖怪に追っかけ回されるのは勘弁よ」
妹紅「とっ捕まっておしりペンペンされても知らねーぞ」
菫子「いやよそんなの!妹紅さんが守ってくださいよ!」
妹紅「甘ったれるな馬鹿」
菫子「でも・・・守ってくれるんでしょ?私、知ってます」
妹紅「・・・さあな」
菫子「ふふっ」
妹紅「(バツが悪そうに)ふん」
(間)
菫子「さ、て、と~、阿求ちゃんが寝ちゃったんじゃしょうがない。今日のところは~・・・」
妹紅「大人しく、目を覚まして宿題でもやるんだな」
菫子「嫌ですよー」
妹紅「あ、あのなぁ、お前、私の話を聞いていなかったのか?」
菫子「聞いてましたよ?だからこれから妹紅さんは私の護衛をするの」
妹紅「はあ?私は阿求の護衛から帰ってきたばっかりなんだよ。また護衛って・・・」
菫子「まずは阿求ちゃんをおうちに帰してあげないとね」
妹紅「・・・はあ、わかったよ。だけどその前に・・・おい、起きろ阿求、家に着いたぞ」
阿求「う・・・ううーん・・・あれ?私、寝ちゃってたんですか?」
妹紅「うん。もう人里だよ」
阿求「す、すみません。なんかみっともないところ見せちゃって・・・」
菫子「おはよー、あなたが阿求ちゃんね?」
阿求「えっと・・・どなたでしたっけ?」
菫子「私は、菫子。宇佐見菫子よ。稗田のお姫様」
阿求「えっ、そ、それじゃああなたが先日の異変の首謀者の!」
妹紅「そういうこった。次はこいつと出かけなきゃいけなくなった。お前は屋敷に帰って・・・」
阿求「やですよ!わ、私もいきますから!」
妹紅「は?」
阿求「いいですよね菫子さん!」
菫子「阿求ちゃんが疲れてないならね」
阿求「はい!疲れなんてぶっとんじゃいました!」
菫子「よし!ふふふ・・・」
阿求「えへへへ・・・」
妹紅「お前ら勝手に決めるんじゃない。夜の幻想郷の恐ろしさは知ってるだろう?」
阿求「大丈夫ですよ!」
菫子「そうそう、だって・・・」
阿求・菫子「妹紅さんがいますから」
妹紅「ったく・・・お前らは・・・」
菫子「いいから行きましょ!秘封倶楽部の夜ははじまったばっかりなんだから!」