闇の中を、ライトの明かりを頼りに進んでいくと、開けた場所に出た。
木々の間から月光が差し込み、少しだけ明るい。
高さ約1メートル、幅およそ30センチの石壁が、森の道を遮るように
築かれており、月光を受け、青白く輝いている。
ア「ここですか?」
ぴ「うむ。この森の各所に防衛ポイントが設定されていてな、そこで魔物を迎撃、殲滅するのさ。」
志「もし防衛網を抜けた魔物がいたら・・・どうするんです?」
ぴ「街と森の境にも武装兵を配置してる。たとえ漏れたやつがいても、そこで倒せるさ。
それにそいつらの修練もかねて、毎回1~2匹は抜けさせてるのさ。」
ア(オレが倒してきたのは・・・そういった魔物だったのか。どうりで弱いはずだ・・・)
しばらくすると、森の奥から銃声や爆音が聞こえ始めた。
ぴろしが無線を持ち、受け答えをする。
ぴ「さっそく仕事だ。4匹がこちらに向かっている。ここで逃がさず、殲滅するぞ。」
ア&志「はい!」
ぴ「来たぞ!戦闘態勢に入れ!」
闇の奥から、疾駆する4つの影が飛び出してきた。
鹿のような角を持つ、熊のような魔物。青いゴツゴツした肌をした、
棍棒を持つ巨人。剣を持つ猫人間に、体中から黒い霧を噴出させて
いる大犬。
どれも、見たことも無いような魔物であった。
ぴ「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
担いでいた鉄骨を振り回し、4体を一気に横に凪ぐ。
しかし、黒犬は鉄骨をかわし、こちらへ向かってきた。
ア「!!」
咄嗟に、傍にあった矢を掴み、それに大気を纏わせる。それを、黒犬
目掛け、投擲した。
ア「ラァァァァ!!!」
音速の速さで飛ばされた矢が、摩擦により発光しながら飛び、黒犬の口から
体を貫く。
そのまま、黒犬は塵となって霧散した。
志「はぁ・・・びっくりした・・・」
ぴ「やるじゃないか若いの!・・・いや、アグアドだったか?」
ア「いえいえ…ぴろさんの方が」
そう言いかけた時。
森の奥が、赤く光った。
小さな明かりではない。山火事かと思えるほどの大きな光だった。
ぴ「2人とも!ここで待機していろ!」
そう言って、ぴろしはあっという間に奥へと入っていった。
ア「…なんだ?新手…か?」
志「わからない…でも、すごく嫌な予感が…つっ!」
突然の大爆発に、思わず目と耳を塞ぐ。あたりに熱風が吹き荒れ、アグアド
達に容赦なく吹き付ける。
ア(くそ…ぴろさん大丈夫なのか!?)
爆音が止み、熱風が収まると、アグアド達はそっと目を開けた。
周囲には飛んできたと思われる、炭化した枝などが散らかっていた。
ぴ「く…この俺が…油断した…」
志「ぴろさ…っ!」
ぴろしの姿を見て、思わず2人は息を呑む。
ぴろしの体は半分が炭化し崩れ落ち、もう半分も全身に火傷を負っていた。
ぴ「魔術師だ…早く…逃げ…ぐあぁぁ!」
爆音と共にぴろしの体が炎に包まれる。一瞬で火は消えたが、ぴろしは
跡形も残っていなかった。
ア「おい…嘘…だろ…?」
「フフフ…ようやく見つけたわ…」
甘美な女性の声が聞こえたかと思うと、石壁の向こうに謎の女性が立っていた。
黒いローブを着ており顔はよく見えないが、鋭くこちらを射抜く目はよく分かった。
ア「テメェ…何者だ…」
アインツェ「私はアインツェ。エリンの魔術師よ。始めまして。風使いさん。それとも…さようならかしら?」
ア(エリン…?魔術師?いや、それよりも、こいつ…!)
謎の単語も気になったが、アグアドは別のことに衝撃を受けていた。
それは、親しい人以外に、誰も知るはずの無い事を、この襲撃者が知っていた事だ。
ア(こいつ…なんで俺の力を知ってるんだ!?)
アイ「さて…私が用があるのはそこの少年だけなの…悪いけど、貴方は眠っていてくださらない?」
志「え…ぁ…」
ア「志菜!」
アインツェが何かを呟き、志菜を指差す。すると、志菜の瞳が力なく閉じ、
その場に倒れてしまった。
ア「テメェ…何をした!」
アイ「心配しないで…眠らせただけよ。私の狙いは…あ・な・た・だ・け」
ぞっとするような猫なで声を発し、舌なめずりをしながら近づいてくる強敵を前に、
アグアドは臨戦態勢をとる。あのぴろしを倒した程の実力者…自分に勝ちの目が
あるとは思えない。だが…
ア「上等だ…やってやる。」
だが、ここで逃げると…志菜が、仲間が、確実に殺されるだろう。それを
見過ごす事はできなかった。
ア「かかって来いよ…オバサン。」
アイ「挑発のつもりかしら…?ふふっ。
…心配しなくても、すぐにその舐めたクチ利けねぇようにしてやるわよ…」