ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第14話_後編

Last-modified: 2008-05-25 (日) 11:20:17

『急襲、ファントム・ペイン』後編

 
 

 その頃、ジェリド達は待機命令のままJ・Pジョーンズに留まっていた。何故自分達が待機なのか分からないが、その代わりにあの生意気な小僧達が出撃したのが気に喰わない。
同じく専用のウインダムの前で待機しているネオに詰め寄った。

 

「何であのガキ共が出て俺達が待機命令なんだ! 本当にミネルバを落とす気があるのか!?」
「そういきり立つなよ、ジェリド。複数方向から仕掛けたって事は、相手もここか基地を探しているはずだ。あいつ等には注意を引き付ける役割を与えた」
「それは俺達に任せればいい! あんな欠陥品の強化人間などに頼らずとも、俺達の方が確実にこなせるだろ!」
「あの基地の司令官殿の命令だ。私は従わねばならん。それに、逆にあいつ等に任せていたら、もし発見された時に万が一の事態が起こったら困るだろ?」

 

 あの発作が万が一の事態なのだろうか。適当な会話でですら発症する発作が万が一で済むわけが無い。こんなのは、ネオのいい訳だ。ジェリドはそう思って更にネオを追及しようとした。

 

「だから俺達がここに残って、タイミングを見て基地の援護をする――そういうことか」

 

 と、その前に発したカクリコンの声にジェリドが顔を振り向かせる。気勢を挫かれた感じだ。

 

「だが、それじゃあ納得できないんだな。俺達は戦う為にここに来たんだ。留守番をするためじゃない」
「そうだ。留守番など、それこそあのガキ共にやらせておけばいい」

 

 カクリコンの意見にジェリドも同調する。これでは何の為に自分達が派遣されてきたのか分からないからだ。折角新たに戦いの場を与えられたのに、与えられた命令はJ・Pジョーンズでお留守番である。
これでは兵士としてのプライドはズタズタだ。

 

「まぁ、待てって。奴等は見つけるさ、絶対にな」
「ほぉ…その自信、何処から来るのか知りたいものですな」
「見つけるよ。ミネルバって艦は、この私を追撃してきた艦だからな。今度も、絶対にやってくれる」

 

 ネオが思い出したのは、アーモリー・ワン襲撃からユニウス・セブン落下までの事だ。カオス、ガイア、アビスの3体を強奪し、それを追って来たのは当時進水式を終えたばかりのミネルバだった。
新造艦だけあり、優秀なスタッフを揃えていたに違いないが、それでも自分の指揮するファントム・ペインの錬度とは比べ物にならないほど経験で劣っていただろう。
しかし、それでもしつこく喰らいついて来て、罠を仕掛けてもそれを掻い潜ってきた。更にユニウス・セブンの破砕作業の最中でも、偵察に出したMSの奪回をも目論んでいた。それは、ネオにとっては脅威だった。
それ故、ネオはミネルバを単なる新造艦としては見ておらず、ザフトの主力艦として警戒していた。更にそれに新たな戦力が加わったと聞けば、嫌でも慎重にならざるを得ない。

 

 ジェリドは、そんなネオの表情を横目で見ていた。この男は単に臆病なだけだ。守りの姿勢を取るという事は、相手を殲滅する自信が無い証拠だ。だが、兵士である以上、上官の命令は無視できない。
彼や基地の司令官がその気になるまでは大人しくしているのが賢いだろう。

 

「分かりましたよ。だが、20分経っても敵が来なかった場合、俺達は勝手に出させてもらいますぜ」

 

 ただし、このまま大人しくしているのも性に合わない。この位の条件なら、大して蟠(わだかま)りも残らないだろうと思った。

 

「あぁ、それでいい」

 

 ジェリドの言葉に、一言だけ返事をするネオ。確かにこれではミネルバを落とす事は出来ない。この慎重さは自分の弱さなのか、それは分からない。ただ、警戒感だけは持ち続けようと思った。
そうでなければ負けるような気がしたからだ。

 
 

 シンとアスランはカオスとガイアに遭遇していた。相手はザフトから強奪した3機の新型の内の2機だ。アスランの本心としては、この機会に1機でもいいから奪還しておきたい所だ。

 

「シン、ガイアに目標を絞るぞ」
『まとめて捕まえちゃえばいいじゃないですか? それなら、2機纏めて相手にした方が――』
「確実に捕えるのが最優先だ。さっきみたいな勝手な行動は慎むんだぞ」
『…了解』(何だ、偉そうに!)

 

 返事はしたが、シンは心の中で悪態をついていた。先程遭遇したウインダムの小隊も、先に仕掛けた自分が殆どやったのだ。その時出遅れたアスランは観戦していただけに等しかった。
 自分の実力は見せ付けたはずである。それなのに、どうしてこの男はこんなに偉そうに言えるのだろうか。シンはアスランの神経を疑っていた。

 

 一方のカオスとガイアのパイロット、スティングとステラは目の前に現れた2機のGタイプを確認し、気合が入る。先程、水中を潜行するアウルからミネルバに仕掛け始めたとの連絡が入った。
彼の声を聞く限り、展開は有利に働いているらしい。それなら、こちらも負けるわけには行かない。

 

「ステラは地上からビームを撃ってりゃいい。飛べないガイアで飛び掛ろうとするなよ?」
『分かった』
「よし、ネオに言われたとおり、派手に行くぜ!」

 

 スティングが気合を入れ、機動兵装ポッドからファイア・フライ誘導ミサイルをばら撒き、次いでビーム砲を連射する。そして地上からはMA形態のガイアが背部のビーム砲で2機を狙い撃つ。

 

「くぅっ! 弾数が多い!」

 

 シンは舌打ちする。彼等とは何度か剣を交えた事が会ったが、追撃戦であった前回までと違い、本格的に攻めてくるカオスの攻撃に手を焼いていた。

 

『落ち着くんだ、シン。あんな攻撃の仕方をしていて、いつまでも弾が持つはずが無い。弾切れになった時を狙えばいい』

 

 苛立つシンを意識したのか、アスランが通信回線でシンにアドバイスを送る。しかし、シンにとってアスランのアドバイスは屈辱だった。まだ、自分の方が上だと思っているからだ。

 

「じゃあ、隊長一人で待っていればいいでしょ! 俺は行きます!」
『ま、待てシン!』

 

 シンはアスランの制止も聞かずに突撃をかける。シールドを構え、ビームライフルを撃ちながら地上のガイアに向かって一目散に向かっていく。
当然ガイアもビームで応戦したが、たった2門のビームでは弾幕にもならずにあっさりとインパルスの接近を許してしまった。

 

「これでも喰らえ!」
「やらせない!」

 

 インパルスがビームライフルを納め、ビームサーベルを引き抜く。そして、それを大きく振りかぶってガイアに振り下ろした。
しかし、ガイアは即座に横へステップしてかわし、MSに変形して空中にジャンプしながらインパルスに向かってビームライフルを撃った。インパルスはそれをシールドで防ぐとガイアを追って空中へ躍り出る。

 

「こいつ!」
「負けるもんか!」

 

 再びビームサーベルでガイアに切りかかる。対するガイアは1Gの重力下では飛行能力を持たない。故に、空戦に特化したフォース・インパルスの前では置物に等しい。
必死にビームライフルで応戦するガイアの攻撃をいなしながら、シンは勝利を確信していた。
 しかし、その時にMAに変形したカオスからのカリドゥスがインパルスを襲った。シンはそれにギリギリで反応し、シールドで機体をカバーしたが、威力に負けて左腕ごと吹き飛ばされてしまった。

 

『へっ、油断しやがって! ステラ、今だ!』
「分かった!」

 

 スティングの作った好機。ステラはガイアを再びMAに変形させ、両翼にビーム刃を発生させてインパルスに必殺の突撃を敢行する。インパルスはカオスのカリドゥスで態勢を崩し、尚且つ左腕を失っている。
このタイミングなら、確実に獲れる。
 そう思ったのも束の間、今度はインパルスに飛び掛るガイアをプラズマ収束ビームの光が掠めた。それに慄いて、ステラは思わずガイアを後退させてしまう。

 

「好きにさせるか!」

 

 インパルスを援護したのはアスランのセイバー。シンの突撃で出遅れてしまったが、彼もただ傍観しているわけではない。

 

「んなろぉ! もう少しで白いのをやれたってのに…紅い新型が!」

 

 スティングはインパルスを仕留められなかった事に苛立ちを募らせた。インパルスは何度か交戦した経験があり、その度に何かしらの痛手を負わされていた。だからこそ、インパルスを仕留め切れなかったのが悔しくて仕方ない。
 対するアスランにはそんなスティングの憤激など知る由も無く、続けざまに小脇に抱え込んだ砲身からフォルティスビームを連射してガイアに牽制をかけ、インパルスから引き離した。

 

「無事か、シン!」
『た、隊長――!』

 

 地面で尻餅をついて倒れているインパルスに駆け寄り、アスランはシンに呼びかける。それを受けるシンは屈辱だと思っていた。ここは強がりを見せて助けてもらった事を無かった事にしたい。

 

『べ、別に助けてもらわなくたってあのくらい――』
「何とかできると思ったのか、お前は? だが――」

 

 アスランは即座にMA形態のカオスが、こちらに向かってカリドゥスの照準を合わせているのに気付いた。インパルスの腕を引っ張り、飛び上がるセイバー。そしてビームライフルを連射してカオスの機動兵装ポッドに穴を空けた。

 

「こ、この野郎!」

 

 スティングのカオスが煙を噴いてMSに変形する。そして、そのまま地上に不時着した。それを確認し、セイバーの頭部カメラがインパルスに振り向く。

 

『貴重な戦力であるお前をここで死なせるわけには行かない。敵が連携で来るのなら、こちらも連携を取らなくてはならないだろう?』
(っていうか、あんた一人で十分なんじゃないのか?)

 

 通信回線越しに爽やかに言ってくるアスランの声を聞いて、シンは心の中でそう突っ込んだ。

 
 

 エマとカツは、敵軍の出現方向から秘密基地の位置を探っていた。途中の敵を撃破しつつ、内陸部の奥へと向かう。

 

『敵の秘密基地って、何処なんだ…?』

 

 通信回線からカツの不安げな声が聞こえてきた。もうかなり進んだはずである。とすれば、そろそろ当りがあってもいい頃だが、未だに発見できないのは、タリアの判断が間違っていた可能性も考えなければならない。
 エマもそう思い、カツの不安に思う気持ちを理解していた。ミネルバを孤立させてしまっている現状では、タリアの判断をミスと仮定すれば、ミネルバにとって致命傷になりかねない。だからこそ、逆にタリアの判断は信じなければならない。
敵の母艦か秘密基地を見つけ、根城を叩いておかなければ敵の策略に嵌められてしまった事になるのだから。そうでなければ、この戦いは負けである。

 

「焦らないで、カツ。まだ敵が出てきているって事は、この方向に何かがあるって証拠よ」
『ですが、こうも見つからないと――』
「来たわよ、カツ!」

 

 その時、2機のMSの反応をレーダーが捉えた。まだレーダー有効範囲のギリギリの位置にいるが、相手もこちらの存在に気付いただろう。

 

「行くわよ!」
『了解です!』

 

 2機のMA形態のムラサメが敵機に向かって加速を始めた。

 

 スローター・ダガーのコックピットの中、ジェリドとカクリコンはJ・Pジョーンズを後にして意気を上げていた。J・Pジョーンズで命令に従って待機し続け、やっと掛った獲物である。これで仕事が出来るというものだ。
先に出て行ってしまったネオを恨みつつも、ジェリドは歓喜に舌なめずりをする。

 

『久々の実戦だ。抜かるなよ、ジェリド!』
「ふん、誰にモノを言っているんだ。MK-Ⅱを盗まれた貴様じゃないんだ、遅れを取るかよ!」
『そのMK-Ⅱを本部ビルに落としていた貴様がよく言う』

 

 お互いがお互いの恥ずかしい過去を知っている。それはかつてティターンズであった頃のグリーン・ノア・コロニーでの事だ。
ジェリドは訓練飛行中のガンダムMK-Ⅱを本部ビルに墜落させ、カクリコンはカミーユにガンダムMK-Ⅱを奪われた。
カクリコンとしては急なエゥーゴの襲撃に何も出来なかったし、ジェリドに至っては無理な低空飛行が原因だった。
 ジェリドは思う。あの頃は若かった。

 

「だが、もうあんな無様な真似はしないさ。俺達のコンビでコーディネイターとかいう人造人間をのしてやるぜ!」
『向こうもこっちに向かってきている。接触まであと30!』

 

 カクリコンに言われて気付いたが、こんな遠くからでも相手の位置を察知できるというのは驚きである。彼等が戦っていた頃は、ミノフスキー粒子の影響でレーダーや通信の類は殆ど役に立たなかったのだ。
それが、Nジャマーによる多少の影響があるとはいえ、こうしてレーダーを便利に使えているということは、彼等にとっては有利だった。

 

「ミノフスキー粒子が無いってだけでこんなに戦いやすくなるとはな!」
『俺達にしてみれば、敵が丸腰で向かってくるようなものだ。こりゃ楽勝だな』
「あぁ、行くぞ!」

 

 モニターを映すカメラにも敵の姿が映し出された。相手は2機の戦闘機。まだ有効射程外だが、レーダーに映っていれば彼等には問題なかった。射程外から攻撃を仕掛け、敵の出鼻を挫く、そう考えていた。

 

「何!?」

 

 しかし、相手の戦闘機の方がこちらよりも先に仕掛けてきた。同じ事を考えていたという事だろうか、ミサイルが白い尾を伸ばしながら向かって来る。

 

『敵もそれ程馬鹿ではなさそうだ。少しは楽しめそうだな、ジェリド?』

 

 ロックオンはされてないはずだから、その攻撃は簡単に的を外す事が出来た。易々と敵の先制攻撃をかわし、カクリコンが笑っている。ジェリドも同じ気分だった。

 

「そうでなくちゃ面白くないさ!」

 

 しかし、敵に先制を取られたのは面白くない。ジェリドとカクリコンはレバーグリップを握りなおし、スローター・ダガーに加速を掛けた。

 
 

 ジェリド達に対するのはエマとカツのムラサメ。先制攻撃を放ったのは、2人もジェリド達と同じくミノフスキー粒子下の戦闘経験があったからだ。
こうしてレーダーで相手の位置が丸見えならば、先手を取ったほうが有利である。

 

『当らなかった――中尉!』
「敵もこちらが見えているはずだわ。掛るわよ、カツ!」

 

 ヘルメットのバイザーを下ろし、敵機の上空を取る為にムラサメを上昇させる。カツもそれに倣い、エマの後に続いた。
 敵機との距離が近付き、相手のMSのフォルムが鮮明になってきた。今までのウインダムとは違う、ダガーのシルエット。しかし、その塗装は黒に彩られている。一目でその2機が普通の相手とは違う特別機だと分かった。

 

「黒いダガー、まるでティターンズね…カツは私から離れないようになさい! 相手は只者じゃないわ」
『分かりました!』

 

 ビーム攻撃の中を2機でフォーメーションを組んで、当初の目的どおりスローター・ダガーの上空に位置をとる。そこで変形を解き、上からビームライフルのビームを2機に浴びせた。

 

『ジェリド、散開だ!』
「言われなくたって!」

 

 スローター・ダガーは一旦お互いの位置を離し、ムラサメのビーム攻撃を逃れた所で再び合流した。

 

『外れた!?』
「もう一度よ、ついて来なさい!」

 

 再びMA形態に変形し、スローター・ダガーの上を取ろうと上昇させる。

 

「二度もやらせるか!」

 

 しかし、エマの目論見を察知したジェリドはスローター・ダガーにビームサーベルを引き抜かせ、上を取ろうとするムラサメに向かって加速を掛けていく。カクリコンのスローター・ダガーはビームライフル装備のまま、ムラサメに牽制を掛ける。

 

「こちらの変形MSを相手に、向こうから仕掛けてきた…カツは私から離れて! もう一機の方の頭を取るのよ!」

 

 エマの指示に従い、カツのムラサメがカクリコンのスローター・ダガーの上空へと向かう。向かって来るジェリドのスローター・ダガーは、どうやらエマ機に狙いを定めたようだ。
 エマは止む無くムラサメをMS形態に戻し、頭部のバルカン砲で牽制を掛ける。しかし、ジェリドのスローター・ダガーはロックオンを無理やり外す大きな旋回を掛けて、横からエマ機に襲い掛かった。

 

「くっ――!」

 

 コックピットの中を衝撃が襲う。ジェリドの斬撃は何とかシールドで受け止める事が出来た。しかし、攻撃を仕掛けてきたのが左側からで良かったと思う。もし右側から攻められていたら、シールドでの防御が間に合わなかっただろう。

 

「このっ――!」

 

 近付いたジェリド機に向けてビームライフルを取り回す。しかし、そこに既にジェリド機の姿は無く、今度は反対方向からのアラームが響いた。エマは慌ててムラサメをMAに変形させてその場から緊急離脱をする。

 

「ちっ、逃がしたか。…だが、何時までも逃げ切れると思うなよ、人造人間!」

 

 ジェリドは完全に取ったと思って仕掛けた攻撃が外れたことに、それ程落胆していなかった。待機していた時間が長かっただけに、この程度の攻撃であっさり片がついてしまってはつまらないと思っていたからだ。
 対するエマは深呼吸をする。一瞬ヒヤッとしたが、直ぐに冷静さを取り戻さねばまた危ない目に遭ってしまうだろう。

 

「やはり…この敵、普通の相手とは違う!」

 

 黒のカラーリングは伊達では無いと言う事だろう。片割れに向かわせたカツも苦戦しているようだ。向こうは中距離戦をお互いに仕掛けているようだが、追いかけられているのはカツの方だ。

 

「何とか合流しないと…」

 

 個々で戦っていたのではこの2機相手では分が悪い。相手も合流して手強くなるかもしれないが、確実に不利だと分かっていながら個別に戦うよりは、少しでも互いを補い合うために敢えて集団戦に持ち込んだほうが勝機もあるだろう。
 エマがカツを気にしていると、ジェリドが再びビームサーベルで襲ってきた。今度は丁寧にバルカンでこちらの飛び道具を牽制してきている。

 

「余所見とは舐められたもんだ! …が、貴様の命運もこれまでだな!」
「当るものですか!」

 

 しかし、ジェリドの意図は正直すぎた。いくら先程エマが致命傷を受けそうになったとはいえ、接近戦を仕掛ける気が見え見えの突撃では、流石に当てられない。バルカンをシールドで防ぎ、エマはムラサメを横へ流す。

 

「掛ったな!」

 

 しかし、ジェリドのスローター・ダガーはシールドで隠すようにビームライフルを所持し、エマからは見えないように右肩を突き出して半身で迫ってきていた。
エマがビームサーベルを避けるのと同時に左腕を突き出し、ムラサメに向かってビームライフルを構える。

 

「少しはいい腕をしているようだが、これで終わりだ!」
「やられる――!」

 

 咄嗟にエマは危険を察知した。ジェリド機の狙いは完全に自機を捉えている。今からでは方向を変えようにも、敵のビームが自分の機体を貫くほうが先だろう。何とかならないかとレバーを必死に動かした。

 

「堕ちろ!」

 

 ジェリドのスローター・ダガーのマニピュレーターがビームライフルのトリガーを引く。それと同時に銃口からビームの筋が伸びた。直撃コース。
 しかし、そのビームは一瞬だけ動いたエマのムラサメのビームライフルを吹き飛ばしただけに終わった。何とかエマはムラサメを捩(よ)じらせて、致命傷を避けた。
取りあえずビームライフルを失うという失敗を犯してしまったが、何とか機体が無事だっただけでも良かったとしよう。

 

「これを避けただと? 何だってんだ、こいつは――何!?」

 

 ジェリドが驚愕していると、今度はすかさずエマ機がビームサーベルを片手に迫ってきた。
 エマとしては、ビームライフルを失った時点で効果的な射撃武器が残されていない。MA形態で戦おうにも、ジェリドが相手では当てるのが難しいだろう。何より、MA形態では立ち止まって戦う事が出来ない。
それではカツを孤立させる事になってしまう。合流して迎え撃つのが得策であるこの状況では、MA形態での射撃は選択できない。それ故、エマはビームサーベルで接近戦を挑むしかなかった。
 受けて立つジェリドとしては、好都合だろう。彼の機体にはまだビームライフルが残されている。相手が接近するしかないのならば、ビームライフルの使えるこちらの方が圧倒的に有利だ。

 

「まぐれで何度もかわされて堪るか!」

 

 ジェリドはそれでも敢えてビームサーベルで相手の土俵に合わせた。どんなパイロットが乗っているのか確かめたかったからだ。
ファントム・ペインに配属になる前に何度か模擬線やらシミュレーターでの訓練はしていたが、カクリコンや他の元ティターンズのメンバー以外でこれ程苦戦する相手はいなかった。
 ビームサーベルを振りかぶり、お互いの刃が交錯する。ムラサメのビームサーベルがジェリドのスローター・ダガーの胸部装甲を掠った。

 

「こいつ!」

 

 すかさず返す刃でムラサメの胴体を狙いに行く。もうこの際誰が相手だろうが構わない。ムラサメのパイロットの力量がこちらの想像以上であるならば、手加減をすればやられるのは自分だ。
 だが、エマも同じ事を考えていたのか、ムラサメのビームサーベルもジェリドを狙っていた。そんな気持ちの交錯が、お互いを互角たらしめ、二人の振るったビームサーベルは共に相手のシールドに防がれてしまった。

 

『どけって!』
「この声!」

 

 ジェリドの声が接触回線でエマの耳に届いた。その声に、エマはハッとする。対するジェリドにもエマの声が届いたらしく、同様に驚いているようだ。

 

『その声…まさか!』
「ジェリド!」
『エマか!』

 

 かつては志を共にしたティターンズの同志である。エマがエゥーゴに移籍した後も、何度か戦場で交戦した経験もある間柄だ。一声で相手が誰であるか分かった。
 そして、同時にエマが最も危惧していた事態が起こった事も証明していた。かつて予想したとおり、自分たちだけでなく、ティターンズの面々もこの世界に飛ばされていたのだ。
カミーユが来た時点で何となくそんな予感はしたが、こうして現実になって見ないとどうも実感が沸かなかった。しかし、今それが現実になってしまった。
 ムラサメとスローター・ダガーは互いに動揺したのか、シールドで相手のビームサーベルを弾きあって距離を開ける。

 

(ということは、カツが相手にしているのもティターンズの誰か――?)

 

(エマがいるという事は、もう片方にはカミーユが――?)

 

 少し間を置いて、先に動いたのはジェリドだった。もし自分の予測が正しいのだとすれば、カクリコンが今相手にしている相手は自分の手で落とさなくてはならない。
 そういえば、エマのMSの戦闘機形態のフォルムは、何処となくΖガンダムのウェイブライダー形態に似ている。その脳裏に焼きついた記憶と、単純な思い込みから、ジェリドはカミーユの存在を勝手に確信する。

 

「待っていろ、カミーユ! 貴様は、この俺が引導を渡してやる!」

 

 思い出したようにエマを放ってカクリコンと交戦するムラサメに向かう。

 

「待ちなさい、ジェリド!」

 

 それを追ってエマもムラサメをMAに変形させて後を追う。

 

 最悪の事態になったと感じた。この調子で次々と異端者が明らかになれば、シロッコが出てくるような気がしたのだ。事の真相はジェリドにでも聞かなければ分からないが、聞いたら聞いたで後悔しそうな気がした。
シロッコがいればこの戦乱は益々混乱の様相を呈し、泥沼に嵌っていくだろう。そう思うと、真実を知るのが怖かった。