ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第30話後編

Last-modified: 2007-12-27 (木) 20:48:43

 『エマージェンシー・デストロイ』 後編

 
 
 

「よぉ、何でデストロイのパイロットがステラなんだ?」

 

 侵攻を続ける連合軍ファントム・ペインとその他の艦隊。アウルはモスクワでの戦闘を終え、陸戦艦の甲板にアビスを着陸させてライラに問いかけた。

 

『デストロイとの適合率が一番高かったからだろ? まぁ、何とかと天才は紙一重って言うからね。あの子はそういう子かもしれない』

 

 ドダイに乗ったMSが、アウルの後を追うように着艦してくる。黄緑色を基調としたその姿形は、月面でサラが使用していたパラス・アテネ。ライラに新たに支給されたMSは、シロッコからの贈り物だった。

 

「じゃあ、俺が不出来だってのかよ!」
『デカブツに拘るのは、少年の憧れかい? あんなもんに乗せられなくても、あたしと一緒に居れば戦果は挙げられる。それじゃあ不満だってのかい?』
「いや…そういうわけじゃ――」

 

 確かに、先程の戦いでもパラス・アテネの性能の高さは確認済みだ。同じ砲撃戦に特化したライラと組めれば、相当な戦果が期待できるだろう。ただ、ネオを葬ったザフトを、その手で粉微塵にしてやりたいという気持ちがアウルを逸らせていた。

 

「でも、ステラはネオにべったりだったんだぜ? そのネオが居なくなって、混乱しているんじゃねーのか?」
『或いは、だからかもしれないね。弔い精神って奴は、人間の限界を引っ張り出す。そういう感情が、デストロイのシステムとシンクロしたのかもしれない』
「じゃあ、もしあの時ライラを俺が殺していたら、デストロイのパイロットは俺になっていたかもしれねぇって事か?」
『その可能性もあったかもしれないって話さ。…さぁ、あんたはさっさとMSから降りて体を休めておきな。今回の戦闘は出ずっぱりだったじゃないか。次のベルリンではミネルバとアークエンジェルが出てくるって話もある。その時にへばってたんじゃ、話にならないからね』
「ライラ……」

 

 最近、ライラの態度が少しずつ軟化してきた様な気がする。前までは堪え性の無い自分を叱責してばかりだった彼女が、自分の体を気遣ってくれている。それは、ライラの中の自分に対する扱いが、子供から変わってきたからではないだろうか。
アウルは顔をにやけさせてライラに話しかける。

 

「それって、俺の事を――」
『あたしは坊やの調教中だって事を、忘れないことだ。あたしから見れば、あんたはまだまだ子供だよ』

 

 アウルの意図に気付いたのか、ライラは急に険しい顔つきになって言葉を被せてくる。いつもの様に厳しい視線が、モニターの中にあった。自分が変な気を起こさないように、釘を刺されたようだ。
 “そういう所があるんだよな”と一つ舌打ちし、アウルはアビスのコックピットからワイヤーを伝って降りていった。

 

 一方のジェリドとマウアーも、別の陸戦艦に着艦していた。スティングのカオスが、後に続いてくる。

 

『ライラ大尉とカクリコンのおっさんは新型を受領できたってのに、ジェリド達は相変わらずダガーのまんまだな。2人とも、忘れられてんじゃねーのか?』

 

 ちょっと小バカにした調子で言ってくるスティング。確かにライラにはパラス・アテネが支給され、カクリコンにはバイアランが与えられた。本来ならそれと同時にジェリド達にも新たにMSが支給されるはずだったが、少し予定が遅れているらしい。
結局、デストロイによる侵攻作戦には間に合わず、彼等は引き続きスローター・ダガーで戦闘をこなしていた。ジェリドは一つ鼻で笑って、言葉を返す。

 

「ガブスレイが2機だからな。俺とマウアーの――少し時間が掛かっているだけさ」
『それに、デストロイがあれば私達の出番もそう多くない。ダガーでも十分やれるわ。ステラの付き添いのスティングには、そうは思えないかもしれないけどね』

 

 マウアーの言葉に、スティングは少し憮然とした表情になった。確かにエクステンデッドとして3人で一組という考えは分かるが、別にジェリド達に楽をさせる為に従っているわけではない。マウアーの考えは、ちょっと面白くなかった。

 

『デストロイは分かるけどよ、俺とアウルも一緒になって盾になる必要はねーんじゃねぇのか? 大尉とカクリコンは新型の慣らし中とはいえ、司令官のバカは俺に死んでこいって言ってるようなもんじゃねーか』
「そうは言うな。お前を死なせたりはしないさ。どんなに生意気な小僧でも、お前は俺達の仲間だからな」

 

 何気なく返されたジェリドの言葉に、スティングは一瞬固まってしまった。よもや、彼がその様なことを言うとは思わなかったからだ。

 

『お、おぉ……』
『ジェリド……』

 

 戸惑ったように歯切れの悪い返事をするスティング。こそばゆい感覚に慣れていないからだろうか、動揺が表れている。
 マウアーはそんなスティングの年相応の照れを微笑ましく思い、一方でジェリドの言葉に感心していた。きっと、彼がそう思えるようになったのは、グリプス戦役で自分を含めた多くの同胞を目の前で失ってきたからだろう。
だからこそ、スティングのような子供にもそう言える様になれた。

 

「とにかく、ベルリンが正念場だ。サイコ・ガンダムもどきがいくら強力とはいえ、奴らは並大抵ではない。今回のように単純には行かないはずだ」
『分かってるぜ、ジェリド。次の戦闘は組めるんだろ?』
「奴らが出てくるのなら、俺が出ないわけにも行かないだろうが?」
『ヘッ! そう来なくっちゃよ!』

 

 ジェリドは、いい方向に進めているとマウアーは思う。かつて、彼に世界を変える力を持つと感じた彼女の感性は、今になって現実味を帯びてきたような気がする。ジェリドの傍には、不思議と仲間が集まってくる。それは自分然り、ライラ然り、カクリコン然り――
当然、そこにはスティング達の事も含まれていた。そういった仲間が彼の下に集まるのは、つまりは彼にそれだけの天運があるという証拠なのだろう。自分の愛した男性は、やはり見込んだとおりの人物だった。
 マウアーはそんなジェリドを愛しく感じ、モニターの中の精悍な顔つきに目を細めた。

 
 
 
 
 
 

 デストロイを連れたファントム・ペイン一行は、更にベルリンに向かって吹雪く荒野を突き進む。デストロイ搭載艦・ボナパルトのブリッジに陣取ったブランは、雪で白くなっている視界の先を見つめていた。

 

「少佐、バイアランの性能は問題ありません。次のベルリンでは存分に使えます」
「ん、ご苦労」

 

 ブリッジの扉が開き、カクリコンが入ってきた。これで、彼のバイアランとライラのパラス・アテネ、そして自分のアッシマーと3機の核融合炉搭載型MSが揃ったことになる。

 

「ライラ大尉の方はどうか?」
「ハッ、順調のようです」
「よろしい」

 

 そして、視線をカクリコンから通信兵に移し、告げる。

 

「艦隊司令に次の作戦には俺も含めて3機全てを投入すると伝えろ。恐らくミネルバとアークエンジェルがでてくる。デストロイに纏わりつく敵MSは任せろとな」
「了解しました」

 

 座席から振り返った通信兵が向き直り、一言返事をするとすぐに旗艦に通信を繋げた。次は、ミネルバとアークエンジェルが出てくる可能性が非常に高い。ならば、あのセイバーという紅いMSも出てくるだろう。
前回の夜襲では見事に行く手を阻まれたが、今度はそうは行かん、と気を引き締めていた。

 

「中尉は何度か交戦経験があると言っていたな? どうなんだ、ミネルバは?」

 

 夜襲は、ほんの小手調べのつもりだった。時間制限を設けていたし、損害を与えこそしても、被るつもりはなかった。それなのに必死な抵抗に遭い、ミネルバに接触できなかったばかりかライラが乗機を失うという予想外の結果が出てしまった。
それは、単なる自分の驕りではないと思う。窮鼠猫を噛むという諺があるが、ミネルバはネズミではないだろう。天運を味方につけた、不思議な力を有する艦だとブランは睨んでいた。

 

「間違いなくザフトの主力であると思われます。現に何度かチャンスを得ながらも、後一歩のところで届かないことが続きました。我々の最大の敵であると思われます」
「そうだろうな――」

 

 カクリコンを横目で見やり、口の端を吊り上げる。

 

「デストロイは確実だ。だが、確実すぎるゲームは面白みに欠ける。だからこそ、ミネルバは面白い存在なのだよ」
「逆に言えば、ミネルバさえ片付けられればザフトは烏合の衆と言えます」
「そのとおりだ、中尉」

 

 環境窓から見えるのは相変わらず吹雪で白く染まる白銀の世界。視界の悪さなら、この間の夜襲の時とそう変わらないだろう。寧ろ、視界が白く染まる分、厄介かもしれない。やがて、ベルリンの街が近づいてくる。
 その時、敵の出現を知らせる警報が鳴り響いた。予想通り、ザフトの待ち伏せだろう。策敵兵がインカムに手を当て、怒鳴る。

 

「敵艦隊発見! 先日のモスクワで交戦した部隊の残りと、それにベルリンの守備隊、更にジブラルタル方面からミネルバとアークエンジェルが接近中です!」
「よぉし、ミノフスキー粒子戦闘濃度散布! MS隊は出撃準備に取り掛かれ。ジブラルタルからの敵増援部隊が到着次第、出撃だ! それまではデストロイに任す!」

 
 

 ボナパルトのハッチが開き、そこから黒い山のようなシルエットがのっそりと姿を現した。上半身部に巨大なレドームのような円盤状のパックを被り、ホバー移動して白銀の大地に降り立つ。その姿は奇異で、黒塗りの機体色が決して雪の白に混ざることは無い。
さながら雪原に舞い降りた悪魔とでも形容するように、存在を隠すことも無くひけらかす。一種不敵とも取れるような威風堂々とした佇まいに、誰もが圧倒されることだろう。
 そのコックピット、ステラ=ルーシェは、目の前に広がる光景を睨みつける。ベルリン郊外、都市部まではまだ距離がある。しかし、その先に確実に居るであろう敵の存在は何となく察知する事ができた。

 

「あいつらが――!」

 

 他の陸戦艦からも、部隊が出撃する。雪原の向こうからは敵がやってくる。ステラの目は、その敵を確実に見据えていた。

 

『前方に敵機を確認。迎撃に出ます』
『ま、待て! ――デストロイが前に出るぞ!』

 

 ウインダム部隊が前に出ようとした時、デストロイが再びホバーで機体を浮き上がらせ、前進を開始した。

 

『デストロイ! まだ攻撃命令は出ていないぞ!』
「――知るもんか」

 

 繋げられた通信回線を一蹴すると、ステラはこちらの迎撃に出てきたザフト部隊を見据えた。最初に向かってきた敵部隊の規模は、おおよそだが2個中隊といったところだろう。まだ本格的な交戦距離ではない。
 しかし、次の瞬間、デストロイの円盤部に装備されている4門のアウフプラール・ドライツェーンが火を噴く。戦艦の主砲をも圧倒するその威力が、迎撃に出て来たばかりの2個中隊を一瞬にして薙ぎ払った。

 

『デストロイ――ッ!』
『これ程とは……!』

 

 ウインダムのパイロットの目に、前方で吹き上がる雪のカーテンが飛び込んできた。たった一発放たれたデストロイの主砲が、一瞬にして敵部隊を破壊の中へと飲み込んだ。まるで氷河が崩れ落ちたような雪煙を吹き上げ、デストロイはその名の通りの力を示した。
 そして、デストロイは尚も侵攻を続ける。流石に視界の悪い中で無闇に連発をしなかったが、何かに取り付かれているかのように不気味にゆっくりとベルリンの街に向かう。
 やがて、最初に放ったアウフプラール・ドライツェーンによる効果が見えてきた。ザフトの2個中隊はほぼ全滅。生き残った機体も機能停止寸前の様子で、機体をショートさせながらもがいているようだ。

 

『これなら、いくらコーディネイターとはいえ、物の数じゃないな?』
『デストロイがあれば、改造人間ったって唯の人さ』

 

 デストロイの威容は、まさに圧倒的だった。誰も近くへ寄せ付けないかのようなオーラを纏い、味方ですら接触を拒絶するかのような勝手さで前進を続ける。それを阻止せんと、更にベルリンの守備隊が出てきた。今度は先程の数の比ではない。
一個大隊規模の戦力を差し向けてきた。
 それでも、デストロイは進む。自重を浮かせるホバーは力不足なのか、速度は非常にゆったりとしている。全身に火器を装備していながらも、回避性能はほぼゼロだ。流石に今度はザフトもデストロイの性能を分かったようで、大きく散開して襲い掛かってきた。

 

「あんた達が――!」

 

 周囲を囲まれても、ステラは一切動揺を見せることは無い。以前までなら、こうして囲まれてしまえば不安から精神状態が不安定になっていただろう。しかし、今の彼女の瞳の奥には、憎しみの光が宿っている。その光が消えない限り、デストロイの足が止まることは無い。
 デストロイ上部に掲げられるようにして設置されている円盤部分の円周が、無数の煌きを灯す。そして、まるで傘を広げるように煌きから破滅的なまでのビームが広がった。
デストロイ自身も回転を始め、円盤部に20門設置されたネフェルテムが取り囲んだ敵部隊を弾き飛ばすように焼き払う。

 

 全てが一瞬で決まってしまう。デストロイの火力は、核融合炉からの膨大なエネルギー供給を受けて無尽蔵に攻撃を続ける。空中を飛行するバビも、雪原を滑るバクゥ・ハウンドも、長距離から狙っていたガズウートも、全て関係なかった。
デストロイに仕掛けたMSは、全て虫けらの様に屠られる。たったそれだけの、シンプルな構図だった。

 

「ネオを――あんた達が奪ったネオを返せぇッ! ステラに返せぇッ!」

 

 雪煙とMSの爆発の煙が混ざり合って視界を汚す中、デストロイの歩みは止まらない。唯我独尊を誇示するように、全てを撥ね退ける威圧感を放っていた。
 ステラの頭の中は、破壊で満たされている。ネオを失ったことにより、彼女の穏やかな気質は一変した。大事な心の支えを失い、元々幼い性格だった彼女の中の支柱がぽっきりと折れてしまったのだ。結果招いたのは自我の崩壊。
デストロイのシステムに馴染むようにネオの死を誘導的に破壊へと向けられたとはいえ、ステラにはその事実だけで全てを壊せる気質があった。気性を破壊へ向けられているから、涙すら流さない。

 

 その時、一発のビームがデストロイを直撃した。しかし、それはデストロイに装備されたリフレクターによって全く効果を示さなかった。ザムザザーやゲルズゲーに装備されていたものと同じ、陽電子リフレクターだ。
デストロイには、それが巨体をカバーする為に頭部と両腕、それと円盤部にそれぞれ装備されている。故に、遠距離からの狙撃に対してもほぼ無敵。

 

「ば、バカなッ! あれにどれだけのコストを投入しているんだ、連合は!?」

 

 デストロイを狙撃したのは、換装で長距離狙撃用ライフルを背負ったバクゥ・ハウンド。寸分も効果を得られなかったことに、パイロットは驚愕していた。そして、驚いている間にデストロイの姿勢が、そのバクゥ・ハウンドに向いた。
ゆっくりと下半身が回転し、デストロイの上部円盤部が持ち上がって背中にマウントされて行く。

 

「ま、まさか――!」

 

 バクゥ・ハウンドのパイロットは、デストロイの変体に目を奪われていた。MAと思われたその機体は、単純ながらも、信じられないことに変形を始めたのだ。そして、ゆっくりと変形を終えると、そこから表れたシルエットは――

 

「ひ、人の形をしているのか、あんなものが――」

 

 そのパイロットの目に一瞬だけ焼きついたその姿は、所謂“G”と呼ばれ、人間の形に最も近いと思われているMSの姿だった。その頭部の、丁度人間で言えば口の部分から発せられたビーム“ツォーン”が、バクゥ・ハウンドを目掛けて襲い掛かってきた。
 その光景は、まさしく空想上の中に出てくる化け物の為せる所業。パイロットには、さぞかし恐怖に感じただろう。しかし、彼はもうそんなことに怯える必要は無かった。一瞬だけ焼きついたその光景は、そんな恐怖に引き攣る彼を一瞬にして消滅させてしまったのだから。

 

 蹂躙。まさに、そう呼ぶに相応しい圧倒的な力が、デストロイから放たれている。遠距離からの攻撃は全て陽電子リフレクターが防ぎ、近づく敵には無数のビームが襲い掛かる。まるでシューティング・ゲームの様に、いとも容易くザフトのMSは蹂躙されて行った。

 

 ステラの瞳は敵を探す。そして、その時、これまでに無い強力なビームがデストロイを直撃した。流石にその一撃は堪えた様で、陽電子リフレクターで機体にダメージこそ無かったものの、大きくバランスを揺さぶられた。
視線を射線の方向に向けると、そこには果たしてミネルバとアークエンジェルが向かってきているのが目に入ってきた。

 

「ミネルバ…アークエンジェル……!」

 

 ミネルバが、後方のアークエンジェルに道を譲るように進路を変える。そして、続けて前に出てきたアークエンジェルが、2門の陽電子砲を構えていた。ステラはデストロイをアークエンジェルに正対させ、胸部に横に3門並んでいるスキュラにエネルギーを送る。

 

 一方のアークエンジェル。ラミアスは初めて見るデストロイの巨大な威容に慄いていた。しかし、そうやって怯えていていいのは、艦長席に座っていない時だけ。艦のリーダーである自分の戦意が落ちれば、即ち艦全体の士気に関わる。
あれだけのものが出てきた以上、このままのさばらせて置く訳には行かないのだ。

 

「ミネルバのタンホイザーの効果は?」
「機体を揺さぶっただけですね……ダメージは無いものと思われます」
「こちらのローエングリンでも、効果は望めないかも……でも!」

 

 ミネルバとの連携で陽電子砲を続けざまに放つ波状攻撃。普通ならば、それだけで戦いの趨勢が決まってしまうほどの攻撃も、それに対して防御手段を持つデストロイには意味が無いかもしれない。
しかし、デストロイの目をベルリンから引き付けるには、最も効果を発揮する手段だ。

 

「デストロイにエネルギー反応! こちらを狙っています!」
「回避運動!」

 

 チャンドラが叫ぶ。それに応えて、ノイマンがラミアスの指示よりも数瞬早く反応し、船体を傾けさせる。

 

「ローエングリン、臨界!」
「発射!」

 

 船体のバランスを崩しながらも発射されるローエングリン。ノイマンの絶妙な制御バランスと、チャンドラの正確な狙いがデストロイを捉える。ローエングリンがデストロイに直撃し、しかし少し傾いたデストロイはお構いなしとばかりにスキュラを放つ。
本筋の赤をなぞる様に輝く白の輝き。複相ビームの奔流は、照準を狂わせられながらもアークエンジェルを掠め、船体を大きく揺さぶった。

 

「クッ――被害状況は!?」
「機関出力低下! 高度を維持できません!」
「そんな――たった一発の攻撃が掠めただけで!?」

 

 不時着の影響で、船体が再び大きく揺れた。一室に監禁されたままのネオは、振動でベッドから転げ落ちてしまった。不自由な四肢をもがき動かし、何とかベッドに腕を乗せてしがみつく。

 

「――ったく! 戦艦でデストロイとやり合っても勝てる見込みなんか無いってのに!」

 

 先程の一撃は、恐らくアークエンジェルに多大なるダメージを負わせたことだろう。今の衝撃が不時着した揺れならば、そう考えられる。そして、そのネオの推測を決定付けるかのように、出入り口のドアの隙間から煙が入り込んできた。

 

「じょ、冗談じゃないぞ!」

 

 ギョッとした。ネオは四肢を拘束させられていて、満足に体を動かすことすらできない。そんな状態で監禁させられていれば、この煙で窒息死もあり得るだろう。煙に目を沁みさせながら、徐々に体内の酸素を奪われてもがき苦しみながら死んで行く。
それを想像するだけでネオの頭の中は追い詰められて行った。

 

「だ、誰か! 誰か居ないのか!?」

 

 呼んでも応えるわけが無い。今は戦闘中で、ネオにかまけていられるクルーなど一人も居ないだろう。そうしている間にも、煙は徐々にその量を増やし、ネオの部屋に侵入してくる。

 

「バ、バカな……! こんな所で、死んでたまるか!」

 

 こうなれば、頼れるのは自分しかない。ネオはベッドを這いずる様に立ち上がり、ドアに向かって突き進む。そして、そのまま勢いに任せて体当たりをかました。

 

「うおぁッ!?」

 

 すると、どうしたことか、施錠されているはずのドアがいとも容易くぶち破れてしまった。ネオは破られたドアと一緒に通路に倒れこむ。どうやら、先程のデストロイの一撃は自分の部屋の近くにダメージを与えたらしく、セキュリティやロックが故障していたようだ。

 

「く…うぅ――! これしき……!」

 

 ドアの上に倒れこんだネオは、再び何とか立ち上がって周囲を見渡した。通路は煙に巻かれていて、視界が悪い。しかし、良く見ると煙の流れが一定の方向に向かって流れているのが分かった。恐らく、どこかの外壁に穴が開いているのだろう。
煙の流れを辿って行ければ、いずれ外に出られるかもしれない。ネオは、先程までの焦りの表情から一変させ、笑みを湛えた。

 

「フッ…フフフ……! ツキが回ってきたぞ、私にも!」

 

 こんな巡り合わせがあるものだろうか。運が良いとかそんな単純に決め付けていい事ではないと感じた。恐らく、デストロイが戦うことが無ければ、こんなチャンスは巡って来なかっただろう。
 それならば、デストロイを止めるのは自分の役目なのかもしれない。こうしてデストロイが3人の内の誰かを取り込んで自分に逃げる機会を与えたのなら、それは自分が助け出す為の布石。ザフトに頼らなくてもいいという安堵感が、ネオの頭の中の悩みを一掃した。

 

 それでも、ネオはまだ四肢を拘束されている状態。いくらアークエンジェルが緊急事態とはいえ、不時着して戦線から退かざるを得なくなった状態であれば直ぐに自分の脱走に気付かれるかもしれない。
ネオは、見つかるまでに何とかしてアークエンジェルから脱出しなければ。今度は、そういった焦りが出てきた。
 しかし、それも大して心配することではないかもしれない。こうして煙が充満していれば、捜索する人間が居てもそうそう見つかることは無いだろう。

 

 ネオは煙の流れる方向を見極め、その方向にあるであろう外壁の穴に向かって歩みを進める。制限させられた四肢を、転ばないように細心の注意を払いながら、チョコチョコと歩く。
 こんな所で、捕まるわけが無い。ネオは何故か確信に似た思い込みをして、こめかみから伝う汗を拭った。