爆散するマスドライバー、そして炎に包まれるオーブ。その散り様に花をそえるかの様に三体のMSが戦っていた。
「テメエがトロトロしてっから逃がしただろうがぁっ!」
「僕は知らないよ。お前が当てないからだろ、バーカ」
「…うざーい…」
三体は無軌道な動きで、まるで子供の喧嘩のように戦っている。その動きは、洗練されてない荒削りなものだが、それ故に動きの予測が立てられずに決定打を与えることが出来ない。
「ああ、もう全然だめだめですね。帰ってきたらお仕置きをしてやらないと」
ムルタ・アズラエルはお道化た仕草で内心が煮えたぎってるのを隠しつつ、傍らの司令官に話しかける。
「それより、これから如何しますか?このままオーブを押さえたとしてもあの有り様…。追い詰め過ぎた様ですな、理事」
「あれは想定外ですよ。全くオーブも何を考えているのやら。子供みたいな嫌がらせ…あの馬鹿共と同じだよ。」
ムルタは溜め息を吐きつつ自分の肩を叩く。オーブにはろくな物が残ってないだろう。これだからコーディネーターは救いようがない…と内心でぼやいた。
…また振動がし、ハウンゼンは揺さぶられた。。
「パーサー、状況を知らせい!」
ケネスは寝入りばなを邪魔され、不機嫌そうに軍隊口調でキャビンの前方をを振り向き叫び、立ち上がる。
上下左右に揺れる船内をゆっくりとコックピットに向かって進む。
ケネスは乱暴にコックピットに通じるドアを開き、パイロットに怒鳴りつける。
コックピット内は尋常でない空気が漂っていた。コ・パイなどは半狂乱している。
「前方で…MSが戦闘しています!」
「所属不明の機体が此方に向かっています」
オペレーターの声が静かにブリッジに響く。
「どうなされますか、理事」
「あー、オーブの残党で無いならほっといて良いです。そんな事より早く陸に上がってゆっくりと休みたいですからね」
「救難信号を発信しているようですが?」
「…適当に誘導してやってください。ああ、あの三体はキチンと回収しといて下さいよ?まだ費やした金の分働いて貰ってないからね」
ムルタはそう指示を出し、少し休む為にブリッジを後にした。
司令官は、駄目で元々、責任は自分に無いと自分に言い聞かせつつ、三体の生体CPUに帰還命令を出す。
しかし、まだまだ戦闘は終わりそうもない。エネルギー切れまでの暫くの時間、放っておくしかないのだった。
ハウンゼンのキャビンは喧騒に包まれていた。もう振動は収まったが、乗客に航路をロストしたのが知れ渡ったのだ。
閣僚達はクルーの失策をあげつらい、罵倒する。
ハサウェイはその姿を見てげんなりとする。
(政治家のくせに他人のミスを赦す度量も無いのか…。やはり腐った蜜柑は駄目なんだ。回りを腐らせ、腐臭を漂わせる…)
ハサウェイは歯嚼みをしつつパソコンのターミナルを開こうとする。
「ねえ、この先どうなると思う?」
ハサウェイは急に声をかけられ、顔を上げる。声の主は、ハイティーンのブロンドの少女だった。男好きの雰囲気を漂わせる笑みを浮かべながら、ハサウェイの顔を覗き込む様に見つめる。
「さあ?取り合えず近場の空港に降りるんじゃないか?」
ハサウェイは、パソコンのターミナルを見られない様に閉じつつ、相手に告げる。
「貴方って案外つまらないのね、ハサウェイ?」
「あまり面白いって言われたくないけど?ええっと、君は…?」
「ギギ。ギギ・アンダルシアですわ
ギギはハサウェイにこっそりと耳打ちする。
「私たち、別の世界に来てしまった…みたい。」
「何故そんなことが言える?」
ハサウェイは顔をしかめて相手を見る。冗談にしては笑えない、三流以下のものだ。
「私、外を見ていたんだけど、なかったのよ」
「何が無かったと言うんだ?」
ニンマリと悪戯っぽい笑みを浮かべながらギギはそっと告げる。
「クレーターよ。シドニークレーターが、無かったのよ」
続く