◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・序_04

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:17:23
 

 /14th scene

 

 窃盗罪と飲酒運転か。普通なら一ヶ月ほどブチ込まれても仕方がないが、警察もそれどころではあるまい。
 盗んだバイクで走り出したコウはそう考えた。バスも電車も止まっている上、歩いて帰るとなると2時間はかかる。その前にサイド3が全滅する可能性だってあるのだ。
 甘かった。さっきの放送でパニックになっていてバイクになんぞ気がつかないだろうと思ったが、走り出して15秒後、後ろの方でだれぞ騒ぐ声が聞こえ、遠ざかっている筈なのに声は大きくなっていく。集団で騒ぎ出したのだ。

 

「あの連邦の野郎だ!」
「ガトーの旦那に取り入りやがって!スパイに違いねえ!逃げる気だぞ!」

 

 話が通じる雰囲気ではない。右手をジャケットの裏に差し込み、レーザー銃の感触を確かめる。
 幹線道路が近い。トリエの待つアパートまでは一本道だ。右折するためにスピードを落とす。後から聞こえるモーター音が気になってミラーに視線を落とす。バイクが近づいてきた。複数台。先頭で運転しているのは血色の悪い若い男だ。その2台ほど後には、この前ウラキを殴った痩せた中年男がいる。道路に入る。若い男のコーナーリングに負けた。差を詰められつつある。右手を懐に入れる。相手はそれに気付かないほど逆上している。近づけさせる。後輪が今にも接触しそうになる。まず前方を広く見て、前に余裕があることを確認する。素人には真似できない電光のような素早さでレーザー銃を抜いた。出力は最弱に調節してある。若い男の乗るバイクのモーターに狙いを定め、「死ぬなよ」と小さく呟き、発砲した。途端に転倒し、後続車両が巻き込まれる物凄い音が後方から追ってくる。コロニー内では排気ガスをだすエンジンの使用は許可されていないので、皆蓄電池で動くエレ・バイクを使用している。炎上する事はないから死にはすまい。そう願った。
 アパートが近づく。ウラキの部屋は4階だ。トリエの携帯にかける。20秒ほど待たされた。

 

「今すぐベランダに出ろ!」

 

 ミノフスキー・クラフトを作動させ、前進しつつ少しずつ高度を上げていく。天馬ペガサスに跨った気分を楽しもうにも、電池の消耗が激しいから時間をかけていられない。自室のベランダが近づく。

 

「トリエ、おいで!」

 

 右手を差し伸べた。トリエはというと、下は黒い膝までのスパッツで、なぜか上にコウのワイシャツを羽織っている。目も口も驚いたように開かれ、握った左手が口に当てられている。なぜか口元が嬉しそうに歪んでいる。そういえば、2着しかないパジャマ、間違えて両方とも洗濯して干していたような気がするな。トリエの服装についてまで深く考えられる状況ではない。
 トリエの体を柵越しに抱きかかえてバックシートに載せると、両腕を自分の腰に回し、後ろから抱き締めるような格好を取らせた。

 

「しっかり捕まってて」

 

 そういうと、電池を節約するために、落下するのと大差ない速度で下降した。

 

「大丈夫?」
「……ン……」

 

 苦しいほど腕が腰を強く抱き締めている。驚いたのか、背中に押し付けられた顔が彼女には珍しく赤くなっているらしいのが脇から見えた。

 
 

 /15th scene

 

 町外れ、工場の多い地区にあるコウのアパートから、更に郊外へ。ジオニック社所有の広大な空き地を目指す。
さっきの衝突を切り抜けた連中が追ってきた。300メートル離れていても、怒り心頭に発しているのが分かる。
目的地までギリギリの電気しか残っていない。だというのにコウは不思議なほど落ち着き払っている。
 広々とした区画に出た。最高速度で走ってきたのでもう電池残量はない。幸いにも目的地は近い。トリエを降ろすと、彼女の足では心もとないので抱きかかえて走った。まだその程度の体力はある。トリエは強い力でしがみついているから軽い。
 大きく広がっている小高い丘の手前、段を形作っている小さな平面に登る。怒り狂った集団が近づいているのに、コウは狂ったのではないかと思えるほど冷静だった。流石のトリエも心配そうに彼の左胸にしがみついている。左腕を彼女の肩に回したまま、コウはどことも知れない番号に電話をかけた。携帯を口元にもやらず、丘を振り返っていう。

 
 

「おい、そろそろ起きてくれないか」

 
 

 ―その途端、丘が震えた。
 地面が二人を掲げるように持ち上がる。雑草の生い茂った丘が割れ、茶色い土の中から黄金の輝きが開放される―

 

「そういえば、君と初めて会ったときもこいつだったね。設計にかなり手が加えられているし、アーマーもついてるけど」

 

 黄金のモビルスーツ!?暴徒の中から驚愕が発せられた。オーバーだな、百式はこの辺では珍しいのか? コウは思った。
 ハッチを開ける。シートは前後に二つ並んでいるが、設計に余裕がないらしく両方とも窮屈だ。バイクの時とは逆に、前にトリエを座らせ、コウは後に座る。

 

「こいつは不安定だから、宇宙空間に出るまでは機体管制は任せた。気をつけて、こいつはクワトロ大尉ですら一人では操縦し切れなかったんだ」

 

 トリエがうなずくのが見える。
 FA-100S『フルアーマー百式改』。操作性に難があり一台きりで生産が中止されたが、際立った性能を惜しんだシャアが、処分される前に密かにサイド3に隠しておいたのだ。それが、この前の訪問でコウに託された。

 

「すごいエネルギーゲインだな……5倍なんてものじゃないぞ。こうなるともうバスター砲とでも呼ぶべきだな」

 

 付属する大型ライフルの性能を確かめつつ口走る。

 

「行ける?」
「……ン……」

 

 トリエはモビルスーツであればなんでも操縦できるよう、ナノ・マシンによる操作を受けている。マシーンの本質を理解する回路が脳に組み込まれているのだ。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 足元で騒いでいる連中には目もくれず、百式改を離陸させ、二人は再び飛び出していった。
 戦場へと。

 
 

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