◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・番外編_01

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:00:55
 

        SD Gundam G-Generation DS Appendix Session

 

         「ディー・トリエルの憂鬱、或いはコウ・ウラキの回想」

 

 <Opening>

 

 意識を回復してからもう3日になる。いまだに退院許可は出ない。何でも打撲がひどいらしく、もう少し様子を見ておきたいそうだ。時間が余って仕方がないので、プリベンターとの合同演習について個人的記録を作って
おくことにする。

 

 昔読んだ小説に、【怠け者の節句働き】ということわざが出てきた。自由奔放かつアナーキー極まりない文章で、落伍者の砂をかむような単調な日常ともがきを書いた作家の私小説だ。何でわざわざそんなものを冒頭に持って来たかというと、これが俺自身のことでもあるからだ。
 労働についての考え方、というわけでは無論ない。そんなことでは兵隊なんかそもそも志願しやしない。感情
のありかたについての問題だ。元来が感動しにくい性質で、特に周りが大騒ぎしている時ほど却って醒めている。
その逆に、周りが冷静なときに自分一人興奮しているということも、よくある。そのお蔭で全サイド3と月の裏側に(こっちから見れば表だが)酷い恥を晒した。そう考えていることが分かればトリエが傷つくだろうから考えを転換しようと思ってはいても、頭の中にある物は追い出そうとするほど居座る傾向がある。
 話が逸れた。だがこの性格のお蔭でデンドロビウムがぶっ壊されて、修理に時間がかかり、ロンド・ベルの事務方(特に経理)から睨まれることとなり、退職を決意する理由の一つともなった。
 とりあえず順を追って説明しよう。

 
 

 <Chapter 1>

 

 プリベンターとの合同演習の話が持ってこられたのは3度目のゲリラ討伐行の直後だった。そのころになるとマトモに活動している反体制勢力などなく、専ら放棄されたモビルスーツの回収ばかりやっていた。当然連邦としてもロンド・ベルの規模縮小を検討し始める。自分としてはどうなろうと構わなかったし、主だったパイロットの面々にも帰る所があった。が、世の中手を汚す人間だけで動いているのではない。スポンサーをやっていたヤシマ財団は、これが軍への影響力を弱めることにはしないかと勝手に深読みして勝手に心配していたし、さしあたって身を寄せるべき場所のない連中も若干だがいたらしい。それに、何だかんだいって古巣が冷遇されるのは辛いものだ。
これはロンド・ベルがまだエゥーゴと名乗っていた時期、同様に各地で反連邦勢力だの何だのとの戦闘を繰り返していた提携組織、プリベンターも同様であった。
 そんなわけで、自然発生的に最後の祭りが企画された。
 要するに実弾演習である。誰も居なさそうな空域で盛大にモビルスーツをぶっ壊しあい、スカッとしてから日常に戻るということだ。極力コックピットへの攻撃は避けるが、万が一ということはある。その辺は古強者の悪運に任せることになった。戦争の狂気の残り香か。ありとあらゆる系統のモビルスーツが出揃った以上、この演習を通じて得られた教訓を元に次世代のモビルスーツを選定すればいい、などという屁理屈を以って軍の上層に伺いを立て、要約すれば「勝手にしろ」という返事が来た。勝手にすることにした。
 向こうはどうだったか知らないが、当陣営では皆やる気に満ち溢れていた。ジュドー・アーシタ君はルー・ルカさんに平身低頭して木星行きを2ヶ月延長してもらい、ガロード・ラン君も処分したはずのガンダムXを引っ張り出してきた。地球で隠居したディアナ・ソレル陛下のお側仕えをしていたはずのロラン・セアック君も来た。こういうことは嫌いだと思ってたが、陛下に勝って来いと命令されたという。高貴なお方の考えることは分からない。こうなると本来やる気のない人物も義務感に駆られるらしく、演習開始の2日前に【ブラックロー運送】という小さな企業のマークをつけた大きな船が艦隊に横入りして来た。スワ敵襲かと皆焦った。誰もがその時、ブラックロー運送は以前ブッホ・コンツェルンの傘下だったということを忘れていたのだ。シャトルに乗ってやってきたのはシーブック・アノー氏にセシリー・フェアチャイルド嬢(今はその名で呼ぶべきだろう)、それにトビア・アロナクス君と、シグ・ウェドナー、セレイン・イクスペリ、ミアン・ファーレンの三角関係組だ。後者については、まだ決着が付いてないらしい。とりあえずブラックローで働いているそうだ。書き忘れる所だったが、ラクス・クライン嬢のエターナルも参陣した。その件については後だ。

 
 

 <Chapter 2>

 

 で、ここでようやく冒頭のことわざの件に話が戻る。
 戦闘前のブレインストーミングで俺が発言しようとすると、皆必要以上に注視する。

 

 「ウラキのおっさんに任せときゃ、勝てるよな」
 「ガロード君、俺は君と10歳とちょっとしか違わないんだが」
 「黙って聞くべきです。何しろ、このお方は常勝を約束されているのですから」

 

 いつも思うのだが、サイド5領域の連中は皆どうしようもないアホだ。だからわざわざ遺伝子を改造してコーディネイターなんて人種を生み出したんだろうが、続けて頭が悪い。なので二十歳にもなってない歌手を、ただプラント議長の娘だという理由だけで指導者に祭り上げたりするんだ。この偏見ばかりは捨てる気になれない。第一ナチュラル(遺伝子操作をしていない普通の人間のことを向こうではこう呼ぶらしい)にもコーディネイターにも友達はいない。

 

 それもこれも、冒頭で言った俺の性格のせいだ。
 思い起こせばあのジェネシス外郭部、多数(後で数えたらなんと54体もあった)のセンチュリオ・シリーズに包囲された。
ネェル・アーガマのブリッジは混乱していた。当方はMS,MA、戦艦、合わせて24しかない。

 

 「敵は三方から我々を包囲しようとしている」
 「しかもあの数だ!一旦退却して、援軍を待ってからのほうが……」

 

 あれだけてこずったセンチュリオがどっさり出てきたからパニくるのも分かるが、といってこの程度の理屈で見上げられたくもない。俺は、周りの熱気に反比例する冷静さでこう言った。

 

 「まず3つのうちの1つから倒していけばいいんじゃないですか。それから別の一つ、もう一つと。そうすれば数の上ではこっちが上ですし」
 「机上の空論だ!」

 

 作戦参謀が咄嗟に口を挟んだ。今までは大体、堅陣を布いて敵を待ち構える戦術で勝てた。だがこの程度の術策、思い付いても良さそうなものなのに。

 

 「まあ聞いてください。何も敵の兵力を殲滅する必要はないんです。残存勢力にはどうでもいい兵力(きっと僕のデンドロがそうなるんでしょうが)を宛がって艦隊への接近を阻み、主力を別の勢力へと差し向ければ。順番は……そうですね、この地図の左下の奴がいいでしょう。近いですし。その合間に右下と上の主力も接近してくるでしょうが、進軍後、陣を組む前に逐次倒していけば何とかなるはずです」

 

 結果としては何とかなりはしたが、そんなことを理由に『常勝』の2つ名を崇め奉られても困る。第一、ブライト臨時司令の目が怖い。白眼ないし。
 それはともかく、試してみたいことはあった。

 

 「敵は数の上ではこちらをやや上回っています。正攻法であたっても勝てないことはないでしょうが…。一つハイリスク・ハイリターンなアイディアがあります。鮮やかに勝つか、負けはしないでも酷く苦しい戦いを強いられるかのどちらかですが」

 

 ガロード君のほうを見た。君が主役だ、といって肩に手をやる。戦場で主役というのは、できるだけ避けたい役回りではあるのだが。

 
 

 <Chapter 3>

 

 ここまで書いたところで退院の許可がでた。準備でなんやかやと記録に手をつけられなかったが、個人的なものなので別に締め切りなどない。
 昨日は一日遅れのバレンタインで、トリエに作ってもらったチョコレートケーキを二人で食べた。ややビターな、俺の好みに合った味だ。こんな特技があるとは知らなかったよ、といったら、ティファ・アディール嬢と一緒に作ったとパッド(福祉関係の仕事をしている人でもない限り知らないだろうが、発話障害者用が筆談するためのキーボードとモニターがくっついたノート型の通信機だ、近親者も同様のものを持っているのが通例)で返信された。彼女はパッドを所持していないはずだが、どう協力したのか非常に気になる。ニュータイプ的な電波でも使ったのか?
 なんで俺の好みを知っていたのかと聞いたら、見舞いにサイド3来ていたキースに聞いたという。いつもこの季節になると「甘いものは嫌いだ」といっていた、と答えたそうだ。あんな奴もう友人ではない。ティファさんも同じことをガロード君の同僚に聞いて、同様の返事を得たという。お互い、知り合いに恵まれてはいないようだ。ところで、ガトーの姿が見えないがどうしたんだろう。
 まあいい、記録の続きを書く。

 

 マリュー・ラミアス艦長は融通が利かない。
 なんとなくそんなことを考えていたので、この策を思いついた。悪い人間ではない。胸も大きいし(別に大きいのが好きな訳ではない。いやでも小さいのがいいってことでもないぞ!赤いのと一緒にするな。とりあえずこの件については深く考えるべきではない。事と次第によってはまた人参のフルコースになりかねない。そもそもあの野菜にあるまじき妙な甘さが……いや甘いのがイヤだというのでは決してない。去年までは実際そういってたけど)。
 ともかく、プリベンターの戦闘記録を見ると戦略レベルでの戦いに硬直性、もっといえば融通の利かなさが目立つ。孫子の兵法(士官学校で習った)でいう所の軍争、位置の取り方の問題だ。技巧的であるし、結局数の優位を押し切ることが完全にできるような便利なものではない。が、戦いにやりなおしはない。その一回だけ、勝てればいい。負けたら終わりだ。
 敵軍が情報が不徹底だったり士気が低くて非合理的な挙動を示した場合、プリベンター艦隊の動きは途端に精彩を欠く。
一番多かったのがとりあえず直進、というパターンだ。敵軍が横隊を形成せず後方に遊兵が見受けられたときなど、直進した結果、大きく迂回したその遊兵に母艦を直接攻撃されるというかなりお粗末なことが何度かあった。やる気がなくてサボっていたモビルスーツにわざわざチャンスをくれてやったことになる。
 プリベンターにはロンド・ベルのような完全な上位下達型のシステムが形成されていない。というのも創立の立役者であるトレーズ・クシュリナーダ氏が母艦からの指揮を嫌い、最前線でモビルスーツに乗って戦ってばかりいるからだ。次席にあたるラクス嬢は途中からエゥーゴに合流し、その当時もロンド・ベルにいた。そういう訳で旗艦アークエンジェルのラミアス艦長と参謀スタッフの合議によって意思決定がなされる形になっていた。だが彼女自身からして、連合の体質と戦争目的に嫌気が差して艦ごと脱走した。つまり指揮官としては統率力をあまり期待できないのだ。トレーズ氏の口癖は「私は敗者になりたい」だそうだが、一般兵としてはたまったものではない。

 

 向こうとしても教訓を認識してはいるだろうから、逆手をとることにした。ブライト臨時司令には無謀すぎるといわれ、自分でも強く勧める気がなかった。じゃあなんで俺の作戦が受け入れられたかというと、そういう空気だったからとしかいいようがない。
いっそ負ければそういうのからも開放されると思ったが、とりあえず勝った。結果として、いつの間にやら常勝だのなんだのという評価は雲散霧消してしまったが。

 

 とりあえず今日はここまでだ。
 思い出したが、体力回復のため街中を軽く走っていると途中スラム街で変なものを見かけた。金髪で水色のスーツを着た女がこの辺りで評判の最近開業した無免許医(白人だか東洋系だか分からないが、顔面に黒人から皮膚移植を受けているらしい)をチョコレート見たいな包みをいくつも抱えて追い掛け回していた。受け取ってやればいいのに、医者は異常なまでに必死に逃げていた。
 俺も、アムロ大尉ならば『邪気』とでも表現するであろう嫌な予感がしたので後をつけたりはしなかったが。

 
 

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