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《第14話:明日、明後日、その先へ、今を繋げて》

Last-modified: 2018-11-06 (火) 23:31:51

金剛らが佐世保への直帰ではなく、福江島最南端の前線基地への寄港を選んだ理由は、至極単純であった。
佐世保まで曳航するには、ナスカ級の船体はダメージを受け過ぎていたのだ。
無茶苦茶な解体によって摘出されたナスカ級中央部は、もう自壊寸前だった。
至極単純で、当然の理由だ。そもそもが地球上で使うことを想定していない宇宙専用艦艇である。
それが地球の重力下に在るだけでも相当な負担だというのに、海に墜落して荒波に揉まれた挙げ句、バカスカ攻撃されて両弦スラスターブロックを喪って、それでもなんとか海上に浮いていたこと自体が奇跡だろう。もしナスカ級設計者が知ったら泣いて卒倒するに違いない。
ともあれ、無理に曳航し続ければどうなるかは想像するまでもなく、実際、曳航されている最中にも幾度となく沈みかけ、最終的には艦娘達に支えてもらってようやく航行可能という有様だった。早急にどうにか安全を確保しなければならない。
というわけで、少女達は揃って福江基地に入港することになった。
しかし、少女達の戦いはまだ終わらない。
ここは前線基地。
それも、目と鼻の先の海が敵領域であるのに、防備のまったく整っていない前線基地だ。思い出して頂きたいのは【金剛組】の当初の任務内容で、艦娘達はナスカ級クルーの葬儀を終えると直ぐさま、先に作業を進めていた【はやて丸】クルーに合流するカタチで復旧作業に取りかかった。
最大目標の一つであった有線通信用ケーブルの再接続に加えて、前もって搬入されていたモジュール構造式の工廠の組み立て、宿泊施設や物見櫓の修理等が急ピッチで進める。それは本来、数日かけて行う予定のものだったが、敵の執着するナスカ級を引き入れた以上は悠長なことを言っていられない。
今はどこまでもひたすらに、備えるのみ。

 

「――スカイグラスパー? あの、キラが取り逃がしちゃったっていうStrange Fighterのことデス?」
「うん。僕が知る限り、今この世界で偵察衛星を墜とせるのはアレだけだと思う。大気圏内用の機体だけど推進剤さえあれば」
<宇宙も飛べるだけのスペックがある、ということか。そりゃ確かに、普通の砲撃なんかじゃ衛星墜としなんぞ絶対不可能だが・・・・・・参ったな。こうまで私達の常識が通用しないとは>
「おい提督、感心してる場合じゃないだろが。しかしマズいぞ、デュエルは同化できないうえに飛べないんだろ? 次アイツが来たら難しいんじゃないか」
「ヴァルファウの件もありますよ。今の私達には敵航空戦力に対抗できる力が・・・・・・ありません。ただでさえ艦載機の消耗が激しいのに、なんとかしないと此方が一方的にやられてしまいます」

 

11月11日の20時14分。
そんな少女達に追い打ちをかけるようにして、とあるニュースが舞い込んできた。
繋がったばかりの有線通信によって実現した、佐世保の二階堂提督との緊急作戦会議でのことだ。基地敷地内の会議室に集った【金剛組】と【榛名組】の首脳陣――金剛、翔鶴、榛名、木曾、キラ――は、一台の古ぼけたコンピューターが出力する提督直々の報告を聴いて漸く、自分達があくせく戦っていた最中に新たな事件が発生していたことを知ったのだった。
ナスカ級発見と同等――否、世間的にはそれ以上の、一大事である。

 

『偵察衛星が撃墜された。方法は不明だが、稼働状態にあった全ての衛星との交信が途絶したらしい』

 

艦娘はおろか深海棲艦にも絶対に手出しできない領域、高度36,000km。一方的な空からの監視によりそれまでの戦況を一変させた、現人類の英知の結晶、人工衛星。
これに直接干渉できるモノは、同じ人類をおいて他にない・・・・・・筈だった。
だというのに、あっという間に、寝耳に水の如く。兆候を察することも対策を講じることも出来ないまま衛星は呆気なく墜ちた。そもそも完全に想定外であった。この世界の人間には、ソレが意図的な、何者かの悪意によって成されたものであるということしか解らなかった。消去法で深海棲艦の仕業と推測するしかなかった。
世界情勢を直接揺るがす大事件と混乱。
最近まで人類側の優勢に傾きつつあり、しかし佐世保の機能不全により均衡まで押し戻されてしまっていた戦況は、本日を以って遂に逆転されようとしていた。
キラ曰く、たった一機の戦闘機の仕業で。

 

「・・・・・・ごめん。僕があの時、ちゃんと・・・・・・討ててれば」
「それは・・・・・・、・・・・・・でも、御友人と似ていらしたのでしょう? なら仕方ないじゃないですか」
<なんにせよ厄介なことになった。軍令部もかなり混乱していてな、下手をすれば再び孤立してしまうかもしれん、我々は>

 

10月25日を境に始まった世界の変遷は、加速していく。
加速し、確実的確に人類のアキレス腱を切り崩していく。

 

「孤立、か。なぁ提督、横須賀の連中は・・・・・・ウェーク島前線基地はそんなにヤバいのか?」
<音信不通とまではいかないが、維持に影響が出るレベルで足並みが乱れている。ミッドウェー包囲網を突破されるのも時間の問題らしい。今時、昔ながらの長距離通信は使い物にならんし、やはり衛星のサポートあっての西太平洋戦線ということだ>
「通信の重要性は痛いほど身にしみているが・・・・・・アイツらがそこまで苦戦するか」
「となると呉が動くのも時間の問題、ということですね」

 

強力無比な深海棲艦が次々と湧き出る西太平洋海域を専任する、横須賀鎮守府が押されだしたのだ。
通称、西太平洋戦線。これを維持し、敵を抑えこんでいるからこそ他の戦線が維持できると言っても過言ではなく、その戦局は常に世界中から重要視されている程だ。日本国の主力 of 主力であり本丸である横須賀と、そのサポートを本懐とする呉こそが要衝ウェーク島前線基地を拠点に、今日までの日常を守護していた。
言うまでも無く、新型人工衛星の恩恵あっての戦果である。
なればこそ、この後の展開は容易に予想することができる。

 

「むぅ、今ビスマルク隊に抜けられるのはVery troubledデース・・・・・・」
「鹿屋の利根隊も、どうなるか。舞鶴と大湊も動けないでしょうし」
<計画全てが白紙に戻ったと見なすしかない。全鎮守府連合艦隊による台湾近海解放作戦もだ。少なくとも向こう一ヶ月は我々のみでヤツらと対峙せねばならないだろう>

 

現在、佐世保鎮守府本来の役割である大規模輸送船団護衛任務(スエズ運河航路確保)を肩代わりし、更にビスマルク隊(出向防衛組)というカタチで佐世保をサポートしてくれている呉も、西太平洋戦線の維持に全力を尽くさなければならなくなる。
ミッドウェーが突破されれば、ただでさえ衛星の消失に困窮している全世界の戦線が連鎖的に、完全に破綻してしまうのだ。鹿屋基地等のその他軍事拠点にも当然、何かしらアクションがあるだろう。

 
 

佐世保は再び孤立するかもしれない。

 
 

万全でないまま、ナスカ級という火種を抱えたまま。依然スカイグラスパーやヴァルファウ、【軽巡棲姫】や【Titan】といった超戦力を擁する深海棲艦群と睨み合ったまま。
次々に襲いかかる荒唐無稽な無理難題。
どうしようもなく五里霧中で窮途末路。
戦術どころか戦略レベルで後れをとってしまった。
本質的には防衛戦の頃となんら変わらない、息苦しく生苦しい閉塞感。少女らの受難は、まだまだ終わりそうにない。
受難が続くということは、道が続くことを意味している。

 

「防衛態勢を見直す必要がありますね。特に、対空と対ビームを最優先で考えないと」
「それなら僕と明石さんに考えがあります。――あの、提督、一つお願いがあるんですけど・・・・・・」
<なにかな?>

 

まだ終わらない。
まだ抗える。
ナスカ級を中央部のみとはいえ引き入れられたのは、僥倖だった。どんなに苦しくても、元より選んだこの道を貫くだけの力を手に入れられたのだから。C.E. の技術をいかに有効的に使うかが、これからの鍵を握るのだ。
皆で知恵を絞れば、まだ前に征ける筈だと信じている。
衛星撃墜がなんだ。再びの孤立の危機がなんだ。もうあの時とは、未知の技術に一方的にやられていた時とは違う。

 

「ストライクを、ここまで持ってきてくれませんか?」

 

反撃の術は、まだこの手の中にある。

 
 
 

《第14話:明日、明後日、その先へ、今を繋げて》

 
 
 

艦娘用の、対ビームシールドとアンチビーム爆雷。
対空用の、ビーム兵器と高精度射撃管制システム。
ストライクがあれば、不思議存在に変貌したキラとストライクを媒介にすれば、コレらをある程度量産できるのではないかと、キラと明石は踏んでいた。量産できれば艦隊の防御力は大きく向上する。戦力温存の為かここ最近姿を見せない【Titan】は勿論、スカイグラスパー相手にも優位に立ち回れるようになる筈。
材料は充分にある。
自壊寸前のナスカ級それ自体と、搭載されていた兵装や大破したモビルスーツを使えば、佐世保鎮守府所属艦娘全員の防御能力を底上げできる程だ。
実績も充分にある。
コンバートしたC.E.製パーツをふんだんに組み込んだ響の特装試作型改式艤装の性能は、彼女自身の実力を差し引いても誰もが認めるモノだった。
ならば、キラとストライクと明石が揃えば実現可能である。
そして勿論、こんな場当たり的な対症療法では終わらない。
ゆくゆくは反撃に転じるべく、攻撃用の兵器も開発してみせる。既存技術の延長である響の試製ライフル型13.5cm単装砲とは異なる、新体系の兵器群を。
問題は当のストライクを佐世保工廠に修理中のまま置いてきてしまったことだが、幸いフレームにはまだ手をつけていなかったので、コンテナ船で輸送可能な状態であった。修理の続きここ福江基地工廠にて、新兵器開発の後に行えばいい。

 
 

新たな計画が発動した。
あとは時間との勝負だ。

 
 

ストライクの移送は明日12日の昼頃に予定されており、そこから計画が軌道に乗るまで最短三日はかかる見込みで、その間に敵が襲撃してこない訳がない。敵が戦力の消耗を嫌っていると仮定しても、まさか放置してくれるとは思えず、むしろ航続距離に優れた航空戦力や長距離砲撃でちょっかいを出してくるものと思われた。もしかしたら、迎撃困難なスカイグラスパーを差し向けてくる可能性もある。
そういった意味では現状、デュエルは艦隊の進退に大きく関わる存在と言えた。なにせ、索敵と対ビームに最も優れているのは、この機体だけだから。たとえ黎明期の試作機だとしても。
諸々の準備が整うまで、ストライクとデュエルという二機のモビルスーツは、それぞれの役割でもって佐世保を守護する盾になる。
艦隊の強化が整うまで。
基地の防備が整うまで。
孤立してしまっても、この先ずっと戦っていけるようになるまで。老体に鞭打ってとはズバリこのことだ。
持てる全てを駆使しなければ、生き残れない。

 
 
 

 
 
 

そういった状況を聞いて落ち着いていられる程、シン・アスカは大人でなかった。
怒れる瞳と称された男が遂に、動く刻がきた。

 

「デスティニー、巡航ステータスでシステム起動。・・・・・・やっぱエラーだらけだな、出力が上がらない。戦闘は無理だよなぁ」
<当たり前でしょ。っていうか、やる気だったの? 何度も言うけどアナタの仕事はあたし達支援部隊の輸送で、それ以上でも以下でもないんだから>
「解ってるよ」
<あと、くれぐれも外の人には見つからないように。アナタ達ってば軍令部にも内緒の最高機密なんだから。そりゃいつまでも隠し通せるものじゃないけれど、提督の好意と努力を無駄にしたら怒るわよ?>
「だから解ってるって! ・・・・・・お前は俺のお母さんかナニかかっての」
<あら。少なくとも保護者ではいるつもりよ、あたしは>
「そうかよ。・・・・・・三分後に出撃するって、みんなに伝えてくれ」
<わかったわ>

 

久しぶりに身に纏う、真紅の専用パイロットスーツ。
久しぶりに乗り込んだ、ブリュンヒルデ‐システム連動型思念制御式全天周囲モニター装備の自由回転式球状コクピット。
彼が操るは、重厚な鎧武者のような装甲、鍛え抜かれたアスリートのような体躯、禍々しくも美しい魔王のような二対の翼を携えた究極の機動兵器。C.E.の技術の結晶たる【GRMF-EX13F ライオット・デスティニー】。
まさか自ら志願したとは言え、無理を押し通して説得したとは言え、こんなにも早くこの機体を飛翔させる日が来ようとは。
でも、仕方ない。
偵察衛星が撃墜されたと聞いて。
横須賀と呉の艦娘がピンチだと聞いて。
佐世保ではキラ達が圧倒的不利な状況を打破すべく動いていると聞いて。
ふつふつと、冷え切っていた筈の情動が煮えたぎってきた。久しく忘れていた激情が、行き場を求めて荒れ狂う。
そこまで聞いてしまえば、もう動くしかない。ここで動かなきゃ、何の為にここに存在しているのか。彼が求めた力は、こういう時にこそ振るわれるべきだ。
この世界の為に今できる全てを。
通信機越しに天津風と軽口をたたき合いながら、シンは整備不十分な機体を立ち上げるべく、コンソールと格闘する。

 

(問題はエネルギー配分だ。自衛用にライフルを5発、シールドを1回、沖に出るまでのミラージュコロイドを加味して、ヴォワチュール・リュミエールでの飛行に必要なエネルギーは・・・・・・、・・・・・・往路は問題無い。けど帰路で尽きる。できれば例のヤラファスクレーターまで足を伸ばしてみたかったけどな)

 

輸送船を小笠原諸島沖に待機しておいて貰おう。
ヴァルキュリア‐システムやSRCPS推進機構、積層式EVPS装甲といった最新鋭GRMFシリーズとしての特徴を最低限まで省き、総合力を【ZGMF-X56S インパルス】並にまで落としてでもこの体たらく。
相変わらずエンジンは絶不調で、どんなに頑張って整備士の真似事をしても改善しようがなかった。もっとも、素人集団でデュートリオン核融合炉をどうこうできるわけがないとハナから判っていたから、予備電源のバッテリーのみでどうにか飛べるようこれまで努力を重ねてきた。
今、機体に無理させれば整備は一からやり直しになる。再び飛べるようになるまで、また数週間かかることだろう。
でもきっとこの日の為に、これまでの日々があったのだ。
危機に瀕したウェーク島前線基地を救えるのは、間違いなくこのデスティニーしか存在しない。正確に言えば、表だって戦うのはデスティニーが抱えた改装補給コンテナに詰め込まれた、呉鎮守府所属の支援部隊なのだが。
コイツを迅速に輸送し、後退中の西太平洋戦線を支援する。上手く機能すれば、佐世保からビスマルク隊を招集せずに事が進む。巡り巡って、キラ達の助けになる筈。アイツがここで終わっていいわけがない。
次元の壁すら越えた究極のモビルスーツは今、たった一回限りの最強最速の宅配便になる。

 

「つーか今更だけどよ、コンテナって。もっとマシな運搬手段はないのか?」
<これが意外と快適なのよ。ちゃんとリクライニングシートもベルトもあるから、こっちの事はそんな心配しなくていいわ>
「いやそういう意味じゃ・・・・・・いいけどさ。・・・・・・ブリュンヒルデ‐システム起動確認。安全運転は心掛けるけど、舌噛むなよな」

 

手動制御思考制御複合式MS操縦システムたるブリュンヒルデを最大限活用し、いつになく慎重にコンテナをガッチリ保持する。いつも大剣や大砲を装備させる厳つい両腕は、今や文字通りシンの身体の延長だ。なにせ乱暴に扱ったら後が怖い。
戦闘機動とはまたベクトルの異なる難度と緊張感に舌なめずりして、シンはスロットルを上げつつフットペダルを踏み込んだ。
VPS / MPS複合骨格が正確に駆動し、無機質ながら機能的に引き締まった二本足で18mの巨体が力強く前進。誘導灯を手にしたマエストラーレとリベッチオの指示に従い、工廠から十分離れたところまで歩いていく。
モニターには厚い雨曇に支配された真っ黒な空と、とても船など出せないまでに荒れた真っ黒な海、わずかに命の営みを灯す瀬戸内海の島々。他には何も存在しない。
進路クリアー。
すると、再び通信機から少女の声。

 

<・・・・・・でも、ありがとね、シン>
「あん? なんだよ藪から棒に」
<本当は佐世保に・・・・・・福江島の方に行きたかったんでしょ?>
「それは・・・・・・まぁ、な」

 

図星ではあった。
アイツがここで終わっていいわけがない。嫌いだけど、大っ嫌いだけど、それとこれとは話が別で、直接助けにいけるものなら行きたいと切に思っている。我ながら複雑だとシンは唸った。
しかし、何事にも優先順位というものがあるし、この機体で出来る事などたかが知れている。
だから、図星だからこそシンはあえて不敵な笑みを返してやった。いつまでも分からず屋のガキでいられない。

 

「でも俺は、俺が思う最良を、やりたいようにやってるだけだ。そういう風の吹き回しってことだ。礼だったら無事に帰ってきてからにしろよ」
<ええ。アナタが実現してくれたこの作戦、必ず完遂してみせるわ。みんなでちゃんと、ね。・・・・・・――大丈夫よ、いい風が吹いているもの>
「ああ。・・・・・・いくぞ!」

 

背部と両腰に備えた大型ウイングスラスターを展開、見る者全てを魅了する光の翼を発振。光圧による繊細な推進力が、機体をフワリと滑らかに離陸させる。
続けてミラージュコロイド展開、アクティブステルス。可視光線等の電磁波を偏向するガス状物質を球状に固定し、光の翼含めてデスティニーは何者にも感知できない透明存在になる。
出撃準備完了。
あとは心のままに。

 

「シン・アスカ。デスティニー、発進する!!」

 

久しぶりの常套句を口にして、まるで運命を切り拓くようにして。
【紅蓮の剣】が呉の空に飛び立った。

 
 
 

 
 
 

【軽巡棲姫】は後悔していた。
一つの戦いの顛末を見届け、十日余りの月が輝く台湾近海に帰還し、後悔していた。
結果論だが、やはり実験体【Titan】を参戦させるべきだったと。
というのも、出し惜しみには理由があった。
先の強行突破戦の折に、敵に機械人形の力を行使して【Titan】を屠る――あの一戦で4体も未帰還となったらしい――特異な存在(イレギュラー)が一人いたと、報告を受けていたのだ。撃墜できたとも聞くが目撃証言少なく、ソイツが生き残っているか否か調べる術はなかった。
台湾近海前衛部隊の指揮を任された【姫】はあくまでも、つい先日ここに集った身であり、あの戦いについては伝聞でしか知らないのだ。
兎も角、その真偽を確かめず発展途上の兵器を投入し、徒に消耗するわけにはいかなかった。仮に生き残っていたら全滅させられるかもしれないのだ。異界の船を巡る戦いなら、異界の力を操る敵が出てこない筈がない。リスクが高すぎる。
更に言えば、艦娘側も対【Titan】戦術を確立しつつあると聞く。強行突破戦以前のような一方的な展開にはならないだろうと考えた。
故に出し惜しみ、温存した。後の決戦のことを考え、巨人をより洗練し強化する道を選んだ。
故に争奪戦の増援には、精鋭だが喪っても痛手でなく、かつ機動力のある通常戦力を選んだ。
敵が通常艦隊ならゴリ押しで殲滅でき、例のイレギュラーがいれば即時火力集中か撤退できるように。

 
 

その選択よって導かれた間違いが二つ。

 
 

間違え其の壱。
窺知し得ない強大な敵に対する恐れが、戦力逐次投入に近しい愚策を招いた。脅威はイレギュラーだけでなく、あの二隻の駆逐艦のように敵艦隊の強さが、深海棲艦側の予測の遙か上をいっていた。
【軽巡棲姫】自身の途中離脱こそが一番の誤算だった。
間違え其の弐。
イレギュラーは最後の最後になって漸く現れた。推測だが、おそらく異界の船の内部から補充したのだろう。逆に言えば、異界の船へ侵入しなければ、敵は機械人形の力を行使できなかったのではないか。
これは【Titan】を投入していれば、多少苦戦しようとも勝てた可能性を意味する。
この二つの間違えが、あの無様な撤退を招いた。
何事も中途半端は良くない。たとえ予期せぬ遭遇戦だったとしても、やるなら徹底的に、動かせる戦力全てを動かすべきだった。

 
 

しかし収穫が無かったと言えば嘘になる。

 
 

結果的に、イレギュラーの存在を観測できた。
生態も精神も人類に近しい艦娘共が、あの短時間で機械人形を操れるようなるわけがない。兵器類に侵蝕できる深海棲艦ですらアレの操縦には熟練を要するのだ。
となれば、異界の船から飛び出した青と白の機械人形は、例のイレギュラーが操っていたのだろう。報告にあった、ビームの銃と剣を操る男。遠目に見た、敵通常艦船の甲板に乗っていた男。
様々な報告と事実と推測を鑑みて、現状、異界の力を操る敵はあの一人のみと断定できる。
沈んだ艦艇用大型スラスター確保の目処も立ち、なら次に考えるべきは、その一人をどう釣りだして確実に包囲撃破するかだ。
敵艦隊の盾になるであろうイレギュラーは、早期に潰さなければ。普通のやり方では駄目だ。己が戦力を見直し、より高次元の戦術で臨まねば。

 

「・・・・・・?」

 

そうこう考えていると、不意に特徴的なジェット音が【姫】の耳朶を打った。
超伝導電磁推進機関の駆動音。
見上げると星空に一機、T字型の真っ黒な戦闘機。今まで確認されてきた深海棲艦とは明確に異なる特徴を持った、深海棲艦側のイレギュラーが搭乗する異界の戦闘機が、その機首を隕石群に築いた滑走路に向けていた。
どうやら無事にミッションを遂行し、帰還するようだ。
初陣では即座に逃げ帰ったと聞いていたが、意外とあの者もやり手であるらしい。

 

「・・・・・・ユウダチ・・・・・・、・・・・・・ソシテ、ヒビキ。コンド、コソ・・・・・・」

 

状況はそう悪いものではない。
次はもっと上手くやってやる。
散々邪魔をしてくれたあの駆逐艦娘二隻も、蹂躙してやる。
その為には。
【軽巡棲姫】は次の戦いに備えて策を練り始めた。

 
 
 

 
 
 

「え、シンが?」
「Да。なんでも西太平洋戦線を支援する為に、呉の提督を説得したみたい」
「まるでドラマの一幕みたいだったって話よ。――俺がやんなきゃ誰がやるんだよッ!! ってな感じで執務室に乗り込んだらしくて。うぅん、オトコだねぇ」
「おかげでビスマルク達も利根達もこっちに残れそうだって、提督が言ってた」
「そう・・・・・・そうか、シンが・・・・・・。教えてくれてありがとう、響、瑞鳳さん」

 

緊急作戦会議を終えて暫く経った頃、福江基地中央広場。
一際大きい図体と索敵能力を活かして南方の海を睨みつける【GAT-X105 デュエル】、そのコクピットで機体調整に勤しんでいたキラに、シン・アスカ出撃の報を伝えたのは響と瑞鳳の二人だった。
とある事情から二人で陸上任務をこなしていた時に伝え聞いた、提督からの続報かつ速報かつ朗報。自分達を助けてくれる存在が他にもいると知った時、少女達はそれを一刻も早く教えてあげたいと思った。
名前しか知らないキラの同僚が、道を拓いてくれたと。
だって彼はナスカ級クルーの葬儀以前から、ずっと張り詰めて、思い詰めていたようだったから。理由も気持ちも良く解るけれど、仲間が暗い面持ちでいるのは良くないことだ。喜ばしてあげたいと素直に思った。
だから二人は走ってここまでやってきて、キラも応えて外に出て、三人で機体のつま先に腰を下ろして。
響が淡々と、瑞鳳が感情豊かに呉での顛末を語った。

 

「シンが動いてくれるなら、向こうは大丈夫だね」
「断言するね」
「僕なんかよりずっと優秀だから、彼は。彼なら上手くやってくれるよ」

 

するとキラは静かに微笑んで、東の方角、遙か遠いウェーク島を望むようにして綺麗な紫晶色の瞳を細めて。
良かったと、二人の少女は思った。
その顔が綻んでくれてどことなく嬉しくなった。それに、これなら遠慮なく二人で用意したものを披露できるというもので。

 

「へぇ・・・・・・シン・アスカさんかぁ。いつかこっちに来てくれるって話だけど、俄然興味沸いてきたわねぇ」
「天津風から聞いたところによると、だいぶ難儀な性格らしいけど。・・・・・・ところでキラ、お腹すいてない? 私と瑞鳳で晩ご飯を用意したんだ」
「そっか、臨時主計課だものね。じゃあいただくよ。実は結構、限界近かったんだ」

 

響と瑞鳳はこの度、基地全員の衣食住をサポートする主計課の一員として活動することになっていた。
その主な任務は毎日三食の戦闘糧食(レーション)の提供や、衣類の洗濯等の家事全般。先の鎮守府再建時で多少経験したとはいえまだまだ慣れない陸上作業に追われる艦娘達は勿論、二隻の哨戒艦の乗組員と工作隊と業者さん、戦車隊の皆さんの後方支援が目的だ。
美味しく手軽でボリュームのある食事は、どんな兵器よりも即物的な力となる。
昔の人は言いました。
腹が減っては戦は出来ぬ。軍隊は胃袋で動く。世界は美味いご飯で廻っている。個人も組織も状況も古今東西も問わず、気力体力共に充実してなければ良い仕事なぞ到底不可能なのだ。
料理作りを趣味としている瑞鳳と雷にとってはある意味、厨房こそが真の戦場なのかもしれない。
その構成員は瑞鳳と響、暁と雷と電の計五人で、この人選の裏には「響はもっと色んな人と接するのが良いかもしれない」と考えるキラと瑞鳳が噛んでいたりする。例の協力体制の一環だ。
ともあれ今日の食事当番の二人で、これまで作ってきた食事をみんなに配り歩いていたのだ。速報を耳にしたのはその途中、最後の一人であるキラの下に向かっている時のことだった。
ご飯は楽しい気分で食べるに限る。
今ならきっとキラも美味しく食べてくれるではないかと、響と瑞鳳は考えた。

 

「私達もこれからだったから、一緒に食べていい?」
「もちろん。ってか、断る理由がないよ。・・・・・・待ってて、ちょっとセンサーの設定だけ弄ってくるから」
「どうするの?」
「僕の端末と連動させるんだ。この距離なら無線届くし」
「じゃあ工廠の中で準備してるね。流石に外じゃ寒いから」

 

考えたら自然と、一緒に食べようと提案していた。本来の予定であれば名残惜しいけれど、時期尚早だとして、ご飯を渡したら二人は解散しようと瑞鳳は考えていたのだが。提案しといて後の祭りだが、少し緊張してきた。

 

「・・・・・・キラ、携帯端末持ってたんだ」
「提督のお古じゃない? あの旧式の折畳み型、見覚えあるわ。ま、とりあえず準備しちゃいましょ」

 

悟られてはならない。
大丈夫。普通の日常会話ならこれまでのように、普通にできる。昨夜も上手くやれた。
再びコクピットに潜ったキラと一旦別れ、新設した工廠の隅っこに陣取った二人は手分けして食事の用意を進めていく。

 

「みんなに使わないって言われたけど、持ってきて良かったわね、紙皿」
「備えあればなんとやらだね」

 

本日のメインは、パリッと焼きあげた半身の鯖をカリふわフランスパンで挟んだサバサンドになります。
お昼に【はやて丸】にて摩耶が釣り上げていた新鮮なサバは旬なだけあって、味も大きさも一級品。これを塩胡椒とバター、レモン、オリーブオイルだけで味付けして各種野菜とサンドするだけというシンプルかつ豪快なファストフードだが、これがまた病みつき必至の美味しさなのだ。人によってはマヨネーズちょい足しもオススメで、もし機会があれば試して頂きたい。
これに加えて、瑞鳳謹製のカマスの唐揚げとロレーヌ風キッシュ、会議終了後に金剛と榛名に淹れてもらったダージリンティーがセットになって、艦隊の遅めの晩ご飯となる。
もちろん戦闘糧食なのでそれぞれ作業しながら手軽に食べられるよう工夫しているが、今回はゆっくり腰を落ち着けられそうなので、ちゃんと紙皿に盛り付ける。一応持ってきていたのが幸いだった。
今回は自信作だと、自画自賛する瑞鳳である。近年はなんとなく避けていたバケットサンドだがなんとなく、たまには良いかなと、昔は割と頻繁に作っていた定番メニューなだけあって彼にも気に入ってもらえると良いが。

 

「・・・・・・そういえば、さ」
「うん?」
「あ、いや・・・・・・、・・・・・・ちょっと思い出したんだけどね」

 

ものの十数秒の準備を終えて一息つくと、なにやら響が感慨深げな声音で呟いた。
呟いて、しまったとでも言うような顔になって、しばしの気まずい沈黙。
しかし瑞鳳がキョトンとしてその蒼銀色の大きな瞳を注視すると、観念したように口を開いた。
敵わないなという雰囲気で。少しばかり申し訳なさそうな雰囲気で。

 

「瑞鳳とこんなに長く一緒にいるのって、なんか久しぶりだなって・・・・・・」
「あー・・・・・・そうね。言われてみれば、そうかもね」
「昔はあんなに一緒だったのに私・・・・・・全然、今の瑞鳳達と話してないなって・・・・・・」
「・・・・・・」

 

これは、なんとも。

 
 

なんとも思いがけずに、懐かしい話題が出たものだ。

 
 

感傷。
そうだ。まだ佐世保が今のメンツでなかったあの頃、榛名達や木曾達が異動してくるよりずっと前、響が一時的に横須賀所属になる前までは。
佐世保の暁型駆逐艦娘と祥鳳型空母艦娘はセットで行動していて、六人一緒でいるのが当たり前だった。
まるで姉妹のように過ごした日々があった。そんな日々で唯一人、響の「記憶」の話を知ってしまったのが、瑞鳳という少女だった。その時から何かと気に掛けるようになったのをよく憶えている。
懐かしい話だ。
まさかこのタイミングで、その当時を思い返すことになるとは思わなかった。

 

「最近、さ」

 

キラの為に用意した、紙皿にポツンと乗っかった大ぶりなバケットサンドとキッシュを眺めて響の独白は続く。まるで堰を切ったようだった。
そういえば、予備戦力として共に出撃した時の、海上でいただく戦闘糧食の定番はバケットサンドと卵焼き。まだ最前線で戦うには力不足であったあの頃のあの味は、瑞鳳が料理を始めた頃の味、色々な思い出が詰まった味だったなと、少女は遅まきながら意識する。
しまった。なんとなくで選んでいいメニューではなかった。
アレを最後に一緒に食べたのは、三年以上も前だったか。
その翌日に、響はとある戦場で出会い憧れた夕立の背を求め、単身で横須賀へと異動した。

 

「最近はなんか、いろんなモノが見えてきてるような・・・・・・そんな気がするんだ。自分のことだけしか見えてなかったって、わかったような気がして。瑞鳳ともちゃんと話ができてないって、気付いて・・・・・・我ながら薄情だと思うよ。あんなに私のことを気に掛けて、助けてくれてたのに」
「・・・・・・!」
「気付いたら、いてもたってもいられなくなってさ・・・・・・今になってやっとだよ? ・・・・・・なんで私、今まで気にしてなかったんだろうね。昨日だってそうだよ。本当に、どうしてこんな」

 

一年と半年の歳月を経て、響は白露型駆逐艦娘達と共に佐世保に帰ってきた。それから今日に至るまで、同艦隊として行動していても個人間の交流はすっかり無くなってしまっていた。
あんなに一緒だったのに、かつての絆は喪われた。
端的に言えば疎遠になった。先程、瑞鳳は咄嗟に「言われてみればそうかも」と口走ったが、とんでもない。彼女はずっと疎遠になったことを気に病んでいた。
しかし夕立の弟子として、誰もが一目置く強者として佐世保に戻ってきた響に、姉貴分と自負していた彼女は遂に言葉を掛けてやることが出来なかったのだ。
憚られた。
何故なら、彼女は小さな少女の『圧』に屈したのだ。
あの弱々しい少女が。ずっと何かに怯えてて、ずっと一人で、なにをするにしてもすぐ謝って主張しない少女が。飄々としたペルソナを被って強さだけを追い求めて、けれど誰にも溶かせない氷塊を抱いた修羅と化してしまった事実に。
昔のようにただ仲良くしたいだけなのに、どうしてかまともに接することができなくなった。
第一線で戦う佐世保第二艦隊の同僚としてお互いを扱う日々が、始まった。どこか他人行儀な、よそよそしい二年間。気遣うだけのありふれた優しさが、更に二人の心を遠ざけた。
瑞鳳にとっては、普通の日常会話を、強いて普通に返すのがやっとの二年間だ。
そんな負い目があったからこそ少女は昨夜、キラに協力体制を迫ったのである。

 

「そんなの・・・・・・、・・・・・・いいのよ。私だって響のこと、ちょっとわかんなくなっちゃったって、思っちゃって・・・・・・お互い様だもん」
「わからない? 私が?」

 

まさか響から言い出してくるとは、夢にも思ってなくて。
気付けば瑞鳳も感極まって、俯いた響を抱きしめていた。

 

「・・・・・・うん。強がってるの、辛いんだろうなってわかってるのに、見てられないぐらいなのに・・・・・・でも私、何もできなくて。私達を今度こそ護ってみせるって気負うあなたに、どう接したらいいかわかんなくなっちゃって。怖じ気づいて、心配することしかできなくなっちゃったんだもん・・・・・・」
「・・・・・・ごめん。やっぱり私は薄情者だ・・・・・・」
「違うよ。ただ沢山、沢山・・・・・・・頑張りすぎちゃってただけなのよ」

 

ずっと一緒にいたのに、こうまで近づけたのは、こうまで素直に心情を吐露したのは、それこそ三年ぶりのことで。
嗚呼。
やはり変わってきている。張り詰めた心がほぐれてきている。
これまで離れていた心の距離が一気に縮まったような実感がある。こんな簡単なことを、すごくすごく遠回りしてしまって。
こんな唐突なのに、こんなの予期してなかったのに、なんとなくで作った、たった一つの料理をキッカケにして。

 

「これから沢山さ、話をしようよ」
「いいのかな?」
「よくないわけ、ないじゃない」

 

いや、違う。
自分達にとって本当に大切で必要だったものは、一緒にいるとか料理とかそういうのじゃなくて、この状況そのものだったのかもしれない。

 

「昔みたいに?」
「そう、昔みたいに」

 

ありがとうと、瑞鳳は内心でキラとシンという二人の男に感謝した。
こうしてゆったり語れる機会は、実に少なく貴重だ。仕方のないことだが、状況はそんな余裕を少女達に与えてはくれないから。あの二人がいるからこそ、この福江基地でこんなにも穏やかな時を過ごすことができている。
心に余裕が無ければ、己を顧みることなんて出来やしない。
自分達に余裕を与えてくれた二人に、ただただ感謝する。そして、無意識的とはいえみんなで食べようと提案して良かったと、つくづく思う。
二人が数年越しの抱擁を交わしてから、キラがようやくと工廠に現れたのは数分後のことだった。

 

「ごめん、遅れちゃったね」

 

急に気恥ずかしくなって、ばっと素早く離れる二人の少女。
それで二人してちょっと傷ついた顔をするものだから、二人して笑うしかなかった。
やっぱり出てくるタイミング早かったかなと思った男も、つられて微笑んでしまう。
不思議なもので、もうこれからは絶対大丈夫だと根拠なく信じられた。

 

「もう、キラさんってば。遅いわよぅ、お料理乾いちゃうじゃない」
「いやぁ・・・・・・ちょっとタイミング掴めなくて。でも、お詫びと言っちゃなんだけど、昨日貰ったカステラ持ってきたからさ」
「それ、祥鳳がくれた・・・・・・持ってきてたんだね。Хорошо」
「一人で食べるには勿体ないって思ってさ。なんか良いことあったんでしょ? じゃあ甘い物が一番だよね」

 

二重の意味でお膳立ては整った。
いただきますと合唱して、食事を始める。
久々に食べた思い出の味は、思い出のものよりずっと、昨夜の食事会の豪華絢爛な料理よりもずっと美味しく感じられた。
ご飯は楽しい気分で食べるに限る。美味しく手軽でボリュームのある食事は、どんな兵器よりも即物的な力となる。すると会話が弾んで、幸せスパイラルが形成される。
キラが日本語学に難儀していることといった取り留めない世間話に、ちょっとした思い出話をはじめとして。キラがシンとちょっと打ち解けたキッカケ、響が夕立に憧れたキッカケ、瑞鳳が料理を始めたキッカケ。楽しかったこと苦しかったこと。互いを知っていくこと。
これまで何気なく心に留めていたものを、何気なく楽しい話題にして。
それは明日、明後日、その先へ、今を繋げていった世界を生きる糧となる。

 
 

一人の人間として、こういう時間を大切にして、もっと増やしていきたいと切に願う。

 
 

間違いなく、ここ最近で一番楽しい食事と会話だった。
二体のモビルスーツに守護された前線基地で、響と瑞鳳はかつての絆を取り戻しつつあった。
ただ、やはりというか何というか。
世知辛いが状況が状況なだけに、話題はこれからの戦闘のことにシフトしていった。そもそも今を戦わなければ、望む未来へは行けないのだ。

 

「アンケート?」
「今思いついたんだけどね。艦隊の指針として、これから君達の艤装を強化していくことになったんだけど・・・・・・その指標っていうのかな。モビルスーツのパーツを使って君達がどういう力を手に入れたいのか知りたいんだ」
「Понимаю。私の場合はコンセプトが分りやすかったけど、他の艦娘・・・・・・特に戦艦級と空母級はそうもいかないか」
「例えばビーム兵器の特徴は直進性にあるけど、それじゃあ水平線越しの攻撃は出来ないから、長射程の戦艦とは相性が悪い。空母なんかもどう強化すればいいのか、いまいち判らないってのが正直なとこだし、だったらいっそ」
「強化案を募ろうってわけね」

 

ごちそうさまと合唱して、相談が始まった。

 

「シンのおかげで想定よりずっと時間が取れるから、みんなの意見を反映できると思うんだ。詳細については明日、明石さんと詰めていこうかなって。多分、昼頃には訊けるようになるのかなって踏んでる」
「良いんじゃないかな。みんな自分が成したい事、ちゃんとイメージしてると思う」
「私も賛成よ。・・・・・・あ、でも・・・・・・う-ん、艦載機って強化できるものなのかな・・・・・・?」

 

三人の夜はこうして更けていく。
せっかく勝ち取ったこの一時の平穏を無駄にしないように、これからの平穏を勝ち取る為に。
艦娘として人間として、人類と自分達の為に。これまで以上に、絶対に負けられないと感じ入る三人だった。

 
 

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