「連合兵戦記(仮)」2章 11

Last-modified: 2016-01-12 (火) 20:54:46

「やったか?」
「・・・!」
ハンス以下周囲に展開する連合兵達は、憎むべき、宇宙より降り立った機械人形が落下した大穴を凝視した。

 

内部で高性能爆薬が炸裂したそこは、黒煙が立ち上り、まるで地獄へと通じる穴の様に見えていた。

 

漸く最後のジンを撃破したと連合兵の一人が思ったその時、
穴の縁に白煙を上げる機械の腕が現れた。

 

バルクのジンは地球連合側の二段構えの罠を受けてなお生き延びていた。
だが、無傷ではなく戦闘能力の過半を喪失していた。

 

中世の騎士のヘルメットの様な鶏冠状ブレードアンテナが付いた頭部は、
半分砕け、本来なら装甲によって保護されている紅玉の色をしたメインセンサーと破損した機械が剥き出しであった。
その姿は、墓場より這い出た幽鬼を思わせる不気味な姿であった。

 
 

「一人でも多く・・・」
バルクは、朦朧とする意識の中で、信号弾発射用のスイッチを探し求めた。
それはNJ環境下で救難用に使用されるものだった。

 

だが、彼は、自身が生還すること等もはや考えていなかった。
モニター上に不鮮明に映された敵部隊がそれを許さないこと等認識していたし、
何より自身の無能で部下を全て失った以上帰ることは出来なかった。

 

信号弾を発射したのも別の部隊に警戒を促す為である。

 

半壊したジンは上空に向けて信号弾を打ち上げると、這いずる様に目の前の敵へ接近しようとした。
大きく損壊した腕が振り回され、地面を構成するコンクリートが砕け散った。

 

「まだ生きていたのかよ!?」
ゴライアスを着用した連合兵の一人が恐怖と驚きの混ざった口調で叫んだ。
だが、ハンスは気にも留めず、指示を出した。

 
 

「止めだ!」次の瞬間、ジンのはるか前方の廃墟が爆発した。

 
 

空襲で崩壊したビルの基部に設置された大型対戦車ミサイルランチャーが火を噴いたのである。

 

元々拠点防衛用に開発されたこの装備は、有線による遠隔操作で操作されていた。
ハンスは市外のみならず、市内の廃墟にもモビルスーツ対策として
これらのランチャーを複数配置していた。

 

これは、これまでの戦闘で拠点内部に少数のモビルスーツが侵入した結果、
防衛線が内部から瓦解させられたケースがあったからである。

 

円筒内に充填された液体燃料の炎と白煙を引いてミサイルは、進路上にあるバルクのジンに突撃した。

 

万全な状態なら回避も撃墜も容易である。
だが、今のジンは、両腕を損壊し、全ての武装を喪失しており、
パイロット自身、負傷している状態で、そのどちらもが不可能な状態であった。

 

バルクの網膜に最後に映ったものは、オレンジ色の炎の輪を後ろに抱いた鈍色の槍だった。

 

「野蛮なナチュラルが・・」
頭から血を流しながら、バルクは自嘲気味に言った。
その鋭い槍の切っ先は彼のいるコックピットを守る破損した胸部装甲に突き刺さった。

 

直後信管が作動し、爆発と炎がジンの剥き出しの内部機関を襲った。
少し遅れて搭載されていた推進剤と弾薬が誘爆し、上半身が爆散した。

 

残った下半身が黒煙を吹き上げながら後方の廃墟に倒れ込んだ。

 
 

都市に侵入したザフト軍偵察小隊は、文字通り一人残らず全滅したのであった。

 
 

「やったぜ!」
パドリオ軍曹は、ガン・ビートルの車内で両手を挙げて叫んだ。

 

ゴライアス3機がハンスの着用するゴライアスに接近する。
「MS3機の割に早く片付きましたね」

 

「油断するな、機甲兵に被害はないが、歩兵には無視できない被害が出ている。
もし部下がちゃんと従っていたら、あの世送りになっていたのはこっちかもしれん」
ハンスは、未だに燻るジンの下半身のみの残骸を眺めていた。

 

「それに、これはまだ前哨戦に過ぎん、もうじきザフトの奴らが本気で来る。」

 

「・・・・!」
その時、通信が入った。

 

「第7小隊より連絡、侵入した無人偵察機1機を撃墜、ザフト側航空部隊のものと思われます!」
まるで示し合わせたかの如く市内外周に展開していた偵察の歩兵部隊より報告が入った。

 

彼らは、林立する建築物の間を飛ぶドローンを監視塔替わりに
使用していたホテルの屋上から銃撃を浴びせることで撃墜に成功していた。

 

「定期便共か・・・」
ハンスは呟いた。

 

定期便・・・それは、地上攻撃に現れるザフト軍飛行部隊の隠語であった。

 

ディン、攻撃ヘリコプター 下駄履きのジンで構成されるそれらは、
友軍戦闘機の傘のない彼らにとって死神にも等しい存在であった。

 
 

「郊外に展開している第1特別防空隊に連絡、回廊に敵が接近したらクラッカーの山で盛大に歓迎してやれと伝えろ!
市内の部隊は敵が散開行動をとった場合に備えて、防空陣形で待機!急げ」

 
 
 

廃墟の都市に潜む地球連合軍部隊が、罠を張る中へとザフト軍飛行部隊は接近しつつあった。

 
 

彼らは、先行したバルク小隊が壊滅したことをまだ知らない・・・・・

 
 

「連合兵戦記(仮)」2章 10  「連合兵戦記」3章 1 廃都炎上