「連合兵戦記(仮)」2章 3

Last-modified: 2014-08-22 (金) 20:40:13

3機のジンは指揮官機であるバルクの機体を後ろにその左右前方に部下の2機を配置する形で集合した。
それは、戦力を集中する行為で、正面戦力で劣る第22機甲兵中隊にとっては不利な状況であった。
「まずは、アウトレンジといくか・・・」ハンスは、再び信号弾を打ち上げた。

 

「信号弾?ナチュラルめ 何考えてやがる」

 

ウェルが怪訝な表情を浮かべた次の瞬間、頭上より砲弾が降り注いだ。

 

「なんで!?連合の大砲は、全部爆撃で叩き潰されたんじゃ・・・」

 

「砲台!?馬鹿な重砲は全て破壊したと報告があったはず!」

 

バルクは、予想外の攻撃に驚愕した。彼は作戦前、事前偵察に出動したディンのパイロットより、
重砲、車両の類は確認できずの報告を受けていた。
「畜生!アレクの役立たずが!」ウェルは、ディンのパイロットの同僚を罵った。
彼らがそういう間にも砲弾は周囲に着弾し、着弾の衝撃と爆発、舞い飛ぶ瓦礫が3機を揺さぶる。
この砲撃を行ったのは、市街の中心区、戦争前は市民の憩いの場であり、
現在は、ゴミ捨て場と野良犬や烏の餌場となっている公園に設置された榴弾砲によるものだった。

 
 

公園中央の丘・・・・燃料として樹や草花を根こそぎ抜き取られた土色の大地・・・・
ゴミと廃墟の中、怪物の様に榴弾砲は悠然と鎮座していた。

 

その周囲には、王の馬車を守る鉄の甲冑姿の騎士さながらに鈍色の装甲を煌めかせるパワードスーツが6体展開していた。

 

155mm榴弾砲、ロングノーズボブの愛称を持つこの大砲は、この時代としては珍しい液体炸薬式の大砲であった。

 
 

液体炸薬は、再構築戦争以前、由来となった人物の生年を起源とすることから俗にキリスト暦と呼ばれた西暦の頃、
当時主流であった固体炸薬の爆発力を利用した火砲に代わる方式として電磁加速によって砲弾を加速するリニアガンと共に考案されていた技術である。

 

液体炸薬式の原理は、固体の炸薬に代わり、タンクに充填された液体の炸薬を注入、点火することで砲弾を発射するというもので、
砲の構造が複雑化するという欠点と発射する砲弾ごとに薬莢が不要であるという利点があった。

 

再構築戦争期、液体炸薬式は、リニアガンと共に各国の火砲に導入された。
だが、機構が複雑であることとリニアガン程の威力の向上が望めないため、
リニアガンに敗れ、消えていくのも時間の問題であった・・・・だが、NJの影響によるエネルギー危機が状況を変えた。

 

原子力発電が使用不可になったことによる電力供給の問題は、リニアガンやビーム等の電気を馬鹿食いする兵器の運用する軍隊にも影響を与えた。

 

宇宙軍は、核分裂炉を搭載する艦艇がガラクタと化したが、
68年以降、大西洋連邦を中心に宇宙艦艇のレーザー核融合炉動力化を進めていたことと、
プトレマイオス基地を初めとする月面基地や宇宙要塞には太陽光発電システムやレーザー核融合炉によるエネルギー生産設備があった為影響は少なかった。

 

反対に海軍は、原子力空母と原子力潜水艦を初めとする原子力艦艇が使用不能となった。
その為旧式艦艇の再就役や旧式のヘリ空母とその艦載機にエアカバーを頼らざるを得なくなった。
これは、ボズゴロフ級潜水空母の跳梁を招く原因ともなった。

 

陸軍は、発電所から補給が期待できない為、電源車を多数引き連れねばならなくなった。
それは、かつて化石燃料が国家の血液であった頃に各国の機甲師団がタンクローリーを補給部隊に多数編入していた時代の再来であった。
またエネルギーを節約せざるを得ないためリニアガンの威力低下を招いた。

 

開戦初頭、リニアガンタンクの主砲がジンに有効打を与えることができなかったのには、このような事情もあった。

 

それに対して液体炸薬式のこの砲は、今では骨董品に片足を突っ込みつつある火薬式の火砲と同様にさほど電力供給に依存していない為、
電源車が存在しない状況でも十分に運用可能であった。

 

またハンスは、この砲を航空偵察対策にゴライアスと作業用パワードスーツを利用して丁寧に横倒しにさせた後、
比較的重量の軽い瓦礫を積んで擬装とする等の念入りにカムフラージュしていた。

 

その為航空偵察でもスクラップと判断され、ザフト軍は警戒以前にその存在を想定すらしていなかったのである。

 

そしてそのつけは、現在、前線を戦っているザフトの兵士が贖うこととなった。

 

付近の歩兵と機甲兵による信号弾を用いた着弾観測の元、正確に砲弾を送り込んでいた。
これらの砲弾は全て榴弾であった。

 

その為、ジンの装甲を貫徹するのは困難だったがその衝撃は相当のものであった。
着弾の衝撃が3機のジンと操縦者を襲う。

 
 

だが、不意に砲撃がやむ・・・・

 
 

「弾切れか?」
バルクがそう判断したのと同時に、周辺に聳え立つ幾何学的な廃墟群の間からゴライアス6機が飛び出す。
さらにくすんだ灰色のコンクリートの廃墟の中に潜む歩兵部隊が対物ライフルや対戦車ミサイルで支援する。

 

ゴライアス部隊は、人工筋肉によって強化された筋力でグレネードを投擲すると一気に散開し、離脱する。
グレネードは、ジンの腰ほどの高さまで舞い上がると次々と炸裂し、黒煙を撒き散らした。

 

ジン3機の周囲は、タコが墨を吐き出したかのように黒煙に包まれた。
同時に砲撃が再開され、再び砲弾がジンの頭上に降りかかる。

 

この時、砲撃は、ジンの周囲のビルの屋上に展開していた迫撃砲部隊も行っていた。
彼らは迫撃砲を撃ち込むと即座に撤収した。

 

カートのジンが、右スラスターに被弾し、甲虫の羽の様な形状のスラスターが破損した。

 

「よくもやりやがったな」
「カート!待て!くっ!」
「ナチュラル共が!逃がすか!」上官の指示を無視してカートはジンを走らせた。

 

つい数分前の上官の命令も先程の砲撃の嵐が彼の頭から吹き飛ばしてしまっていたし、
このまま同じ場所に止まっていれば友軍が撃破された際誘爆に巻き込まれかねないというのと
がれきの下敷きになる危険を恐れていたのもあった。

 

彼が、市街地から離れた病院付近に到着すると同時に6機のゴライアスに変わって7機のゴライアス部隊が出迎えた。

 

7機のゴライアスの鋼鉄の腕には、20mmチェーンガンが握られている。
無人攻撃ヘリの武装を転用したこの火器は、当り所次第で装甲車をも撃破可能であった。

 

無論、20mmでは、戦車のリニアガンをも弾くジンの装甲を貫通することは不可能である。
だが、関節部やメインセンサーを攻撃することで有効打を与えることが可能であった。

 

「こいつ!」カートのジンが重突撃機銃をゴライアス部隊めがけて乱射した。

 

だが歩兵より少し大きい程度で、装甲車より少し遅い程度の速度で疾走する機甲兵を狙い撃つのは至難の業である。
次々とゴライアスの頭上を戦車砲並みの太さの火線が過ぎ去った。

 

「全機、指揮官機の肉薄を援護!」先頭を行くゴライアスの装着者 ハンスは、無線通信と肩部の赤色ランプを点滅させることによる光学信号で指示を下した。

 

電波が拡散するNJ下の戦場では、無線通信の信頼性は低下し、遥か産業革命以前の狼煙や光による連絡手段の存在も無視できなくなっていた。

 

「了解!」部下の機体も彼の指示を受け、周囲の廃墟を巧みに利用しながら、20mmチェーンガンで牽制する。
20mm弾の着弾の火花が甲冑の様なジンの装甲に輝く。同時に周辺の歩兵が左右のビルより、煙幕を展開した。
煙幕の白い煙は、幕の様にジンの足元を覆い隠した。

 

その隙にハンスのゴライアスは、ジンの真下に接近していた。

 
 

「当たれ!」ハンスは、真上に向けて20mmチェーンガンを連射した。
彼のゴライアスの20mmチェーンガンから炸裂弾が次々と発射される。

 

超高速で吐き出された炸裂弾は、射線上に存在したジンの右手に握られた重突撃機銃のバナナマガジンに突き刺さった。

 

1連射もしない内にハンスは、背部ブースターパックを全開にしてその場を離脱した。
その直後、バナナマガジンの弾倉が誘爆、戦車を破壊する破壊力を秘めた弾薬が一斉に炸裂し、
ジンの手首から先が吹き飛んだ。

 

ジンの正面モニターは、一面黒煙に覆い尽くされる。

 

「うわぁ」カートは一瞬何が起きたのか理解できなかった。
彼が事態を理解したと同時に左右の廃墟から2機のゴライアスが飛び出す。

 

左の機体は、グレネードランチャーと、20mmチェーンガンを、右の機体は、
小型の対戦車地雷を握っていた。

 

「ブラウン少佐!止めは任せてください!」右のゴライアスの装着者 ディエゴ・マルティネス曹長は、
部下の掩護の元、火器を失ったジンに吶喊した。

 
 

「食らえ!」右のゴライアスが右手に握ったグレネードランチャーを発砲、煙幕弾を詰めたグレネード弾が砲口から高速で射出された。
炸薬と共に内部に充填された煙幕用の薬剤がジンの頭部の間近で炸裂した。

 

鏃型の物体が砕け散り、小麦粉を撒き散らしたかのように白い煙がジンの頭部を包み込む。
センサーが盲目状態になったジンに後ろに回り込んだディエゴ曹長の着用するゴライアスが小型の対戦車地雷を投擲する。

 

その動作は、大理石でその筋骨隆々たる姿を残した古代ギリシャの円盤投げ選手さながらである。
フリスビーの様な形状をした対戦車地雷は、ジンの脚部関節部に直撃した。
人間の向う脛に当る箇所に激突したその物体は内蔵された爆薬を炸裂させた。

 

プラントの工業技術の粋を集めて作られたモビルスーツ ジンの80t近い重量と18mの巨体を支える脚の関節部は、
その攻撃で無残にも破壊された。

 

2本の脚の片方をガラクタに変えられたジンは、大きく体勢を崩した。
警報がコックピット内に鳴り響く。

 

「デカ物が倒れるぞ!巻き込まれるなよ!」ディエゴと部下のゴライアスも次々と退避する。

 

「うわぁー」左足を破壊されたジンは左腕で隣のビルを掴む・・・重量に耐えかねたビルが崩落を初め、
鋼鉄の左腕が窓ガラスやコンクリートを引き裂き、負荷に耐えかねた巨大な鈍色の指がちぎれ飛んだ。

 

たて続けに両腕を使用不能に追い込まれたジンは、漸く地面にその身を横たえた。

 
 

それは、傍目から見れば非常に滑稽で、もしこれを子供が見れば、大笑いしたであろう光景だった。
だが、当事者である鋼鉄製の魔神の乗り手にとっては、笑いごとなどではなかった。

 
 

衝撃で撹拌された胴体コックピットに座っていたカートは軽い脳震盪を引き起こしていた。
もし彼がシートベルトを装着していなかったら、コーディネイターと言えども重傷を負っていたであろう。

 

「くそ!歩行不可だと!」
自機が無敵の鉄巨人から巨大なブリキの木偶の坊に変換されたことを理解させられた彼は、
即座にコックピット内のサバイバルキットと自動小銃を取り出した。

 

彼がそれを使用することは、ザフト軍の訓練学校での射撃訓練以来であったが、
彼はそのことを恐れていなかった。

 

「どうせ、相手はナチュラルだ。」
自らの持つ最大の戦力であるモビルスーツを無力化されたにも関わらず、
彼は、その慢心を捨てきれていなかった。

 

意を決してカートは、コックピットを開いた。
「地獄に堕ちな!」だが同時に接近していた連合兵が、半開きのコックピットに手榴弾を投げ入れた。
カートは、コックピット内に投げ込まれたそれが何かわからなかった。

 

そして彼にとって不幸なことにそれを理解する時間すら彼は与えられなかった。
数秒後、それは信管を作動させ、内部に充填された爆薬を炸裂させた。

 

破片と爆風が、カートとその周辺に配置された操縦レバーやコンピュータ、モニターといった操縦機器を引き裂いた。
宇宙空間の真空と高温と絶対零度、放射線からパイロットを保護するパイロットスーツは、
原始的な衝撃と炎の重奏に対して何の役にも立たなかった。

 

ジンの胸部の半開きのコックピットハッチは、爆風で吹き飛ばされ、林立する廃墟の部屋の一つに突っ込んだ。
そして肉の頭脳を粉砕された機械仕掛けの魔神は、迫る死に震える末期の病人の如く
巨大な手足を痙攣させた後、動きを止めた。

 
 

それは、現在地球最強の兵器であるモビルスーツが撃破された瞬間だった。

 
 

※作者注
種世界ではレーザー核融合炉は無いという記述の資料がいくつかありますが、本作は
軍事施設、艦艇用の大型のものは存在するという設定としております。

 

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